(短編集)

盤上の夜



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盤上の夜 (創元日本SF叢書)

2012年03月30日 盤上の夜 (創元日本SF叢書)

相田と由宇は、出会わないほうがいい二人だったのではないか。彼女は四肢を失い、囲碁盤を感覚器とするようになった―若き女流棋士の栄光をつづり、第一回創元SF短編賞で山田正紀賞を贈られた表題作にはじまる全六編。同じジャーナリストを語り手にして紡がれる、盤上遊戯、卓上遊戯をめぐる数々の奇蹟の物語。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋…対局の果てに、人知を超えたものが現出する。二〇一〇年代を牽引する新しい波。 (「BOOK」データベースより)




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盤上の夜の総合評価:7.29/10点レビュー 52件。Eランク


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全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(7pt)

究極的に道を究めた者たちはやがて天空の極致に辿り着く

デビュー作にして直木賞候補となった藤原伊織以来の鮮烈なデビューを飾った宮内悠介氏。惜しくも直木賞は逃したものの日本SF大賞を受賞した。

それはどんな作品かと問われれば、盤上遊戯、卓上遊戯、つまりは古来より伝わり、今なお嗜まれている囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋といったゲームをテーマにした短編集。

まずは第1回創元短編賞で山田正紀賞を受賞した表題作はある女流棋士の数奇な物語だ。
なんという物語だろうか。卒業旅行先の中国で狡猾な罠に嵌って両手両足を喪い、そのまま賭碁師の人買いに買われ、今までしたことのない囲碁を覚え、瞬く間にその才能を開花させ、棋界の上位への階段を昇っていく灰原由宇という女性棋士の奇妙な半生。
物語にはサプライズがあるわけでもなく、この女性が棋士になるまでと短い棋士人生、そして行方不明となったその後がエピソードの積み重ねで語られていく。そのエピソード1つ1つが濃厚でしかも深い。
四肢を喪うことで碁盤と同化し、いつしか囲碁の石が自分の手足となった灰原由宇が極限まで囲碁の世界を上り詰めていくその精神世界が語られる。囲碁という盤上にある天空の世界を彼女は氷壁を昇るかのように上を目指し、やがて言語がその精神世界を表現するのには足らなくなり、彼女の頭の中で飽和し爆発してしまい、とうとう彼女は棋界を去る。
この至高の域に到達しようとする氷壁登攀は実に孤独で冷たく、寂しい。しかし彼女は登るのを止めようとしなかった。
読後、あまりに濃密な2人の精神世界にため息が出て茫然としてしまった。
これを応募作で書くのか。いやはや言葉にならない。

続く「人間の王」ではチェッカーなるチェスの前身とも云うべき盤上遊戯で40年間無敗を誇ったチャンピオン、マリオン・ティンズリーと彼を打ち負かすことが出来たプログラム、シヌークを生み出したシェーファーというチェッカーに命を捧げた孤高の2人の物語。
物語は作者と思しき人物が40年間も無敗を誇ったティンズリーと彼のライバルとなったシヌークを生み出し、2007年にチェッカーの完全解を出したシェーファーという2人の人物の肖像とエピソードを探るノンフィクションの体裁を成している。
このマリオン・ティンズリーとシェーファーという2人は実在し、ここで語られる彼らの対局もまた実際の物である。従って本作はほとんどノンフィクションである。
ただ語り手がインタビューする相手が最後になって明かされる。
チェッカーという今は忘れられつつあるゲームを極限まで突き詰め、そして完全解を出すに至った2人の人間が到達している精神世界の深淵さを語る言葉が見つからない。
シェーファーは棋界が人を超えることを目指し、ティンズリーは神というプログラムを背負って対決に臨む。純粋に勝負をすることを求め、強者と出逢うことで生きる意味を見出し、勝つことで神の座に近づいていくことを実感する。誰もが到達しえない境地に辿り着こうとする天才、いや天才という二文字を超えた至高の存在。
彼らは何を見たのか。それを見ることは我々凡人には適わない世界なのだろう。

次の「清められた卓」も実に奇妙な読後感を残す。
恐らく作者は無類の麻雀好きであろう。この作品における作者の筆致の躍動感は自身の麻雀愛が溢れ出ている証左に過ぎないからだ。
常識破りの打ち方でプロ雀士のみならず天才麻雀少年や歴戦のアマチュア雀士を翻弄する「シャーマン」と呼ばれる真田優澄のキャラクターに尽きる。この4人が対峙する対局を手に汗握る攻防戦として再現する作者の筆致の熱にまた思わず読む方も力が入ってしまった。そして明かされる真田優澄の強さの秘密は実に途方もないものであった。
いやはや誰がこんな真相を見破れるだろうか。いやさらに云えば、よくもこれほど人智を超えた真相を作者は思いついたものである。
全てが想像を凌駕しており、ただひたすらに脱帽だ。

古代インドで生まれたチャトランガは将棋やチェスの起源とされているらしい。「象を飛ばした少年」はそのチャトランガがある人物によって生み出されようとした物語。
その人物とは仏教の祖であるブッダことゴータマ・シッダールタの息子、日蝕や月蝕を意味する<蝕(ラーフ)>と名付けられたゴータマ・ラーフラ。聡明でありながら数学や盤上に思索を重ねるその男は王者の相がないと云われていた。そしてその証拠に彼はインド山麓の小国カピラバストゥの最後の王となる。
元々王になるのではなく、学問に親しむラーフラは状況の犠牲者だ。彼は10歳の時に初めて出席した軍議である遊戯を着想する。その遊戯に思いを馳せるが王であるがゆえにそれを誰かと嗜むことが出来なかった。更には象という駒を2つ飛ばすことが誰しも理解されなかった。これは今なお親しまれ、広く遊ばれている将棋やチェスの原型を生み出した悲運の天才の、王の哀しい物語だ。
史実にこの事実はない。これは恐らく作者の創作であろう。しかしブッダの影にこのような悲運の王がいたことは史実であろう。偉大な父が出家したために王にならざるを得なかった男ゴータマ・ラーフラという男とチャトランガなる遊戯を組み合わせ織り成された物語は途轍もなく切なかった。

次の「千年の虚空」は王道の将棋がテーマだ。予想通り、ある天才棋士の物語なのだが、その生い立ちが実に破天荒なのだ。
未来の、まだ見ぬ天才将棋棋士の物語だが実に想像力に富んでいる。まず思わず眉を潜めてしまう葦原兄弟と織部綾のとんでもない幼少時代の日々が鮮烈な印象を残す。
他とは違う性格ゆえに本能のまま動く3人。やがて自我に目覚めた兄一郎のみがその依存状態から抜けるが、実は彼こそが綾に向いてほしいと願っていた。そして弟恭二は綾が持ってきた麻薬によって覚醒し、類稀なる将棋の才能を開花させるとともに統合失調症を患い、生涯綾の世話なしでは生きられなくなる。
そんな精神状態の中、彼は誰もが到達していない将棋の世界の彼岸を、神を再発明する領域に達しようとする。人は極限に到達するためには人間らしさを、異常性を持たなければならない。常人にとっては悲しいほどの悲劇に見えても彼ら彼女らにとっては望むがままに生きた末の結末だったから、幸せだったのだろう。
とにもかくにも凄絶な物語である。

最後の「原爆の局」では再び灰原由宇と相田が登場する。
壮絶なる棋士であった灰原由宇が再登場する。海外へ渡った2人を追ってライターの私はプロ棋士の井上と渡米する。


まさに鮮烈のデビューであろう。そして創元SF大賞は第1回の短編賞受賞者にこの素晴らしい才能を見出したことで権威が備わったことだろう。そう思わされるほど、この宮内悠介なる若き先鋭のデビュー短編はレベルが高い。

とにかく表題作に驚かされた。四肢を喪った女性棋士灰原由宇の半生が描かれるこの物語はミステリでもなく、また宇宙大戦やモンスターが出てくるわけもない。ただ彼女の棋士のエピソードが語られるのみだ。
しかしそこには道を究める者が到達する精神世界の高み、本作の表現を借りるならば天空の世界が開けているのである。この天空の世界はまさにSFである。精神の世界のみでSFを表現した稀有な作品なのだ。

特に孤高であった棋士が最後に放つ言葉が実に心地よい。こんな幸せな答えが他にあるだろうか。この台詞は今後も私の中に残り続けるだろう。

そして実在の機械と人との勝負を扱った「人間の王」はいわば伝記である。しかし実在したチェッカーというゲームの天才とコンピューターの闘いは本作以外の作者の創造した天才たちの精神性を裏付けるいい証左になっている。神を頭に宿し、全ての局面を記憶した天才が実在した。だからこそ彼はゲームの極北を見たいと思った。恐らく完全解を知りつつ、それを眼前に再現したいがために敢えて機械と戦った男。そんな人物が実在したからこそ、他の作品で登場する灰原由宇や真田優澄、葦原恭二たちの存在が生きてくる。

また麻雀を扱った「清められた卓」での息詰まる攻防戦の凄みはどうだろうか?
プロ雀士は面子を掛け、予想外の奇手を打つ謎めいたアマチュア雀士真田優澄と戦いを挑む。他のアマチュア雀士も今まで培ってきたキャリアを賭けて挑む。極北の闘い、宗教と科学の闘いと称された対局はそれぞれを今まで体験したことのないゾーンへと導く。
この筆致の熱さは一体何なのだろう。ただでさえ麻雀バトルとしても面白いのに―ちなみに私は麻雀をしないし、ルールも解らないのだが、それでもそう感じた!―、最後に明かされる真田優澄の秘密と彼女が成したことを知らされるに至っては何か我々の想像を遥かに超越した世界を見せられた気がした。

後世に残る、天才たちを生み出すゲームを創作したにも関わらず誰もが相手にしないがために埋没した1人の王を描いた「象を飛ばした少年」が抱いた虚しさはなんとも云えない余韻を残すし、狂乱の人生を生き尽くした2人の兄弟と1人の女性の数奇な人生を語った「千年の虚空」では人智を超えた神の領域に到達するには常人であってはならないと痛烈に主張しているようだ。
ここに登場する葦原兄弟と織部綾の人生の凄絶さは到底常人には理解しえないものだ。それがゆえに己の本能に純粋であり、人間らしさをかなぐり捨てて常に答えを追い求めることが出来た。

これら物語には盤面という小宇宙に広がる極限を求め続けた人々の、我々常人が想像しえる範囲をはるかに超えた精神の深淵が語られる。それぞれ究極を求めたジャンルは違えど、一つのことを探求する人々の精神はなんとも気高きことか。

ここに出てくるのは見えざるものが見える人々だ。その道を究めんとする者たちが望むその分野の極北を、究極を見ることを許された人々たちだ。
しかしそんな彼らは超越した才能の代償に喪ったものも大きい。四肢をもがれて不具となった女性、強くなりすぎた故に滅びゆくゲームの行く末を見据えるしかない男、「都市のシャーマン」となり、治癒に身を捧げる女性、統合失調症になったがために才能が開花した男。
物事を探求し、見えざるものを見えるまで追い求めていく人々の純粋さはなんとも痛々しいことか。本書にはそんな不遇な天才たちの、普通ではいられなかった人々の物語が詰まっている。

なぜこれがSFなのか。
それは上にも書いたように人々の精神の高みはやがて宇宙以上の広大な広がりに達するからだ。また四角い盤上や卓上は常に対戦者には未知なる宇宙が広がる。その宇宙は限られた人々たちが到達する空間である。
本書はそんな異能の天才たちが辿り着いた宇宙の果てを見せてくれる短編集なのだ。


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Tetchy
WHOKS60S
No.2:
(2pt)

盤上の夜の感想

表題作ですが人物の境遇が特殊すぎて物語に入り込めませんでした

みいさん
5A7D993B
No.1:
(2pt)

よくわかりませんでした

面白くありませんでした。

わたろう
0BCEGGR4
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No.49:
(5pt)

ボードゲームのもたらす異次元

現存する棋士とか囲碁棋士ってのは、いったい何なんだと思ったことはないだろうか。将棋を指して一生を終えるのだ。なにそれ?将棋を指していて収入があるのだ。プロスポーツよりさらに難解な奇妙な世界ではないだろうか。私にはどうもピンと来ないのだ。
 人はなぜボードゲームなどに熱中するのだろうか。ボードゲームの盤上には、別な次元が展開されているのだ。観る者もまたそれを感じ、共有するのだ。それはいつしか哲学的になり、宗教性を帯びさえする。
 原爆が落ちた後、碁石を並べ直し手続きを打つなどということは、狂気の沙汰とは思えない。しかし、それは実際に行われたことなのだ。

 作品としては、やはり「盤上の夜」が頭一つ抜き出ているように感じられた。
盤上の夜 (創元日本SF叢書)Amazon書評・レビュー:盤上の夜 (創元日本SF叢書)より
4488018157
No.48:
(5pt)

盤上の狂気

「盤上の夜」というよりは「盤上の狂気」ですね。

頭脳だけで勝負できる、囲碁、将棋、麻雀はやはり特殊な世界で、その頭脳が狂気に向かうのはむしろ必然的のような気がします。

この分野では、「狭き門に対する狂おしさ」を題材にしたものが多い気がしますが、狂気を前面にした小説も面白いですね。それも、それぞれのゲームごとに種類の違う狂気が描かれていて、圧倒されます
盤上の夜 (創元日本SF叢書)Amazon書評・レビュー:盤上の夜 (創元日本SF叢書)より
4488018157
No.47:
(3pt)

偏差値高め!

私にはまだ難しかったです。。
盤上の夜 (創元日本SF叢書)Amazon書評・レビュー:盤上の夜 (創元日本SF叢書)より
4488018157
No.46:
(5pt)

嫉妬するレベル

たまたまボードゲームを題材にして物語が編まれているが、それはあくまでフレームに過ぎない。
いや、無論そのフレームこそが問題で、我々の人生とか歴史といった局所的なものと相似形であり、再帰的に呼応し、ハウリングを繰り返して太極へと昇華する。
戦争という殺し合いでなく、恋愛という性行為でもなく、人と人が濃密に、限定された盤上で、それこそ宇宙レベルに達する様を描いている。
この作者の、これがスタート地点かと思うと末恐ろしい。
盤上の夜 (創元日本SF叢書)Amazon書評・レビュー:盤上の夜 (創元日本SF叢書)より
4488018157
No.45:
(4pt)

四肢を切断された少女が囲碁棋士となり……

囲碁、将棋、麻雀、チェッカー、チャトランガ…盤上遊戯を題材にした短編連作集。

第1回創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞(表題作)とあるが、SF的な要素は極めて薄い。ガジェットが物語のキーになるわけでもなれば、宇宙にも行かないし、宇宙から帰ってきたあとでもない、異星人も出てこなければ、超能力が駆使されるわけでもないし、世界はロボットに支配されているわけでも、荒廃しているわけでもない。人と人の情念を盤上に描きつつも、それでもなおこの作品はSF的であるとことが面白い。

四肢を切断された少女が囲碁棋士となり、碁盤を介して新たな感覚の世界を構築しようとする表題作『盤上の夜』とその続編『原爆の局』、すべての牌を読み切ってしまう女性シャーマン、雀プロ、確率と統計の異能 小学生、恋に狂った凡人 医師の男の4人による、奇妙でありながら、勝負の駆け引き、綾が秀逸な麻雀を描いた『清められた卓』、ゲームの完全解が見出され、もはや絶対に勝つことのできないコンピュータと対戦することになる『人間の王』と『千年の虚空』、将棋やチェスの起源とも言われるチャトランガを夢想したブッダの息子ラーフラを描いた『象を飛ばした王子』の全6編。

量子コンピューターによって、ゲームの完全解が発見されている世界。それでもなお、盤上に蠢く人と人。彼らの苦悩と情念と色情が紡ぎだし、垣間見えるのは、量子コンピュータを超えた神の領域、もしくはただの狂気か。
盤上の夜 (創元日本SF叢書)Amazon書評・レビュー:盤上の夜 (創元日本SF叢書)より
4488018157



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