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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数212

全212件 61~80 4/11ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.152: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

復讐執行人の感想

タイトルから感じる印象と読後は違うものでしたが、犯罪小説の1つとして巧く整ったと感じる作品で楽しめました。

物語は平凡な家庭が凶悪犯罪に巻き込まれる内容で、生き残った男性被害者の視点と犯罪を行なった加害者の視点が交互に描かれます。著者作品は凶悪犯罪者の視点で暴力やエロの描写が持ち味ですが、本書はさらに被害者の視点を取り入れて復讐という憎悪の立ち上がりを加えました。
ジャンルはホラーやサイコもの。謎解きやミステリを求める人には不向き。ただ毒を食らうと言いますか、犯罪者視点の少し刺激が強いものが読みたくなる時は著者の作品を手に取る次第。

犯罪に巻き込まれる理不尽さ。犯罪を行なう異常心理。世の中どういう繋がりで巻き込まれるか分かりません。些細な1つの切っ掛けが描かれた本作。現実的に起こり得そうなバランスと結末の虚無感は見事でした。

▼以下、ネタバレ感想
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復讐執行人 (角川ホラー文庫)
大石圭復讐執行人 についてのレビュー
No.151: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ようこそ来世喫茶店へ~永遠の恋とメモリーブレンド~の感想

あの世の喫茶店が舞台のライトミステリ。
死んだ魂が生まれ変わる前に訪れる来世喫茶店。大事な思い出、最後に会いたい人、生まれ変わる前のちょっとした相談、イケメン店主のマスターがいれる珈琲を飲みながら当時を振り返るという流れ。お客様の話を聞いていると、ふとした疑問や勘違いが発覚し、実はこういう事だったんじゃないかと謎が解き明かされる構成。バー/喫茶店もののミステリです。

大きな驚きや仕掛けは無いですが、出版レーベルのターゲットを考えると適した雰囲気や内容ですし、話も読みやすいので楽しめました。最後の章に至ってはそれまでのエピソードの繋がりを感じ、丁寧に役割や小道具を考えられている作りだったと感じます。女子小中高生でライトミステリをお探しの方にはオススメ。

一応の気になる読後感として、結末はハッピーエンド模様で終わってますが、主人公と家族の今後を考えると素直に喜べないのが本音でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ようこそ来世喫茶店へ~永遠の恋とメモリーブレンド~ (スターツ出版文庫)
No.150: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

虹を待つ彼女の感想

人工知能による死者の再現を軸に、何故彼女は自殺したのか?という謎を追いかける物語。

横溝正史ミステリ大賞受賞を受賞した本書。作品雰囲気は"横溝正史"から連想する古くアナログ的なミステリとは違い、人工知能を始めとしたプログラム要素となる機械学習や音声合成のワードもでる近未来風な作品。過去の受賞作品群と比べても少し毛色が違う為、受賞作品の審査時では新しく感じたのではないかと思う内容でした。

本書の主人公はかなりクセがあり読者に嫌悪感を与えやすい為、その感覚が本書の物語自体の評価に繋がりそうな危険を孕んでいると感じました。冒頭から主人公の特性付けとして紹介される内容は、勉強もスポーツも恋愛も何でも予想通りで人生が退屈であり自分の真の性格を表に出さないように仮面を被って生きている。みたいな流れでとても痛々しい。ただその痛々しさも最後まで貫いていけば一本筋で通る気がしますが、死者の水科晴に酔狂していく辺りから心境の変化と前向きに感じる良さもあれば、弱弱しくぶれていくと感じる面もある為に魅力を感じずでした。1番がっかりした所は頭の良い人工知能のエンジニアという設定で尖がっていたのに、写真のExif情報を知らないエピソードが出た時。をい!と思わずツッコミたくなってしまいました。一般人も知られてますし、エンジニアでは基礎知識であり人工知能学習ならそもそもExifも学習パラメータで使うでしょ。という感じでして所々設定が浅く感じてしまうのが残念に思いました。

主人公の癖が強いだけで物語の展開は面白く読めました。
水科晴の自殺の謎、それを調査していく流れ、人工知能開発の現場、調査していく内に不穏な流れとなる緊迫感、、、etc.
物語の起伏要素が多く飽きずに最後まで読めました。文章も読みやすかったです。

結末や真相についてはあまり納得できるものでなく、なんとなく当事者達で収束してしまった感が強くて好みに合わなかったです。横溝正史ミステリ大賞作品というのも違う気がしますが1つの作品としては面白く読めたので、あまりミステリを気にせず"人工知能で死者を再現する者達の物語"として捉えると、とてもよいドラマかと思いました。
虹を待つ彼女 (角川文庫)
逸木裕虹を待つ彼女 についてのレビュー
No.149: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

殺人鬼にまつわる備忘録(記憶破断者)の感想

著者作品はSF寄りの記憶をテーマにした作品がいくつかありますが本書はその1つ。

・前向性健忘により記憶が保てない主人公
・触れた相手の記憶を操作できる殺人鬼
この2人の衝突の物語。

まず殺人鬼の行動や言動が胸糞過ぎて気分が悪くなりました。暴力から殺し、洗脳、日常の人々に対しての強烈な悪です。白昼堂々犯罪を行っても周りにいる目撃者の記憶を改ざんし自由に活動する倫理破壊。気分が悪くなりますが、ホラー文学として気持ち悪くなる文章や物語が巧いなという感想も得ました。苦手な人は苦手な話が多いです。

対して、記憶が保てない主人公。目覚めた所から物語は始まり、枕元に置かれたノートには自分の記憶障害と、"殺人鬼と戦っている"というメモが残されている。状況の混乱や疑心暗鬼、一方、慎重な言動や推測など頭を働かせる様が面白く読めました。

殺人鬼にどう挑むのか。悪との遭遇のサスペンスとして、不安な気持ちを抱えたまま最後まで一気に読めた面白い作品でした。
同じ主人公・田村二吉が登場する未読の別作品がある為、いつか追って読もうと思いました。
殺人鬼にまつわる備忘録 (幻冬舎文庫)
No.148:
(7pt)

なるほどフォカッチャ ハリネズミと謎解きたがりなパン屋さんの感想

ほんわか日常の謎のライトミステリ。
小学生から読んでも大丈夫な内容で、ゆるふわ系。殺伐さ皆無。

物語は、パン屋の女性に一目ぼれした大学生の主人公が、彼女と話す切っ掛け作りの為にパン屋に通い、身近に起きた謎についてお話するという流れです。

日常の謎を扱いますが、謎の程度はとても小さな事。本書の主体は男女の物語+ほんわか雰囲気。そこにちょっとだけ謎が加わったような話。男子学生の良い意味でのバカ騒ぎな雰囲気、漫才の様にボケとツッコミがあるユーモアな雰囲気、初々しい学生の恋愛模様を微笑ましく感じる読書でした。
ハリネズミは二人の様子を眺めるキューピットのような存在で、雰囲気を和ませる良い味出してます。

表紙にて雰囲気が出ている通り、小中学生から読ませられるミステリとしてよい作品だと思いました。
なるほどフォカッチャ ハリネズミと謎解きたがりなパン屋さん (メディアワークス文庫)
No.147: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

透明人間は密室に潜むの感想

表題作を含む4つの短編集。
・透明人間の倒叙ものである『透明人間は密室に潜む』
・アイドルオタク達の裁判員制度『六人の熱狂する日本人』
・聴覚が優れた特殊能力を用いた犯人当て『盗聴された殺人』
・船上の脱出ゲーム『第13号客室からの脱出』

特に2話目はアイドルオタクならではの気づきを用いた推理劇が新鮮でした。
3話目の探偵コンビとなる上司と部下の関係も良くてシリーズで読みたい程。

作品の雰囲気については、過去に『紅蓮館の殺人』を読んでいますが、その印象とは違いキャラクター達が元気で勢いがあるように感じました。言い換えると筆が乗っているというか読んでいて面白い。本書も手に取るまで表紙の雰囲気から重そうだなと感じていたのですが、読んでみたらサクサクと楽しい読書でした。著者からミステリが好きなんだなという気持ちがとても感じる作品で楽しかったです。
透明人間は密室に潜む (光文社文庫)
阿津川辰海透明人間は密室に潜む についてのレビュー
No.146: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あなたの罪を数えましょうの感想

シリーズ2作目ですが、本書単体で楽しめる作品。
前作では物足りなかった著者成分を十分に感じられた作品でした。

前作同様に物語は2つのパートが交互に描かれます。
1つ目は、廃屋で監禁された男女6名の惨殺シーン含む事件模様。
2つ目は、事件後に訪れた探偵パートの調査。

著者の持ち味である惨殺、微グロ、狂人の描写が活かされている内容。それ系が苦手な方には好まれない内容です。
B級スプラッター映画の中に探偵やミステリ要素を混ぜ込んだ内容であり、それが過激的な要素なだけでなく、真相がこの世界だから納得できる内容になっているのが見事。個人的にプラス点でした。

一方、純粋なミステリを好む方、グロが苦手な方には非常に評判が悪くなる作品です。良い意味でのB級・インディーズに属する少し尖がった所に魅力を感じる方向けの作品。個人的にこの著者の持ち味と本格ミステリっぽさを混ぜ込んだ作風は好みで、今後の作品も楽しみにする次第。

ちなみに帯の推薦が綾辻行人ですが、館ではなく『殺人鬼』の綾辻行人が推薦、と言えば内容がなんとなく伝わる事でしょうw

▼以下、ネタバレ感想
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あなたの罪を数えましょう (講談社タイガ)
菅原和也あなたの罪を数えましょう についてのレビュー
No.145:
(7pt)

悪夢の身代金の感想

気軽に楽しめた群像劇でした。
同著者の『悪夢の観覧車』も群像劇でしたが、このシリーズはそういう系統でしょうか?好みなので他の作品も読んでみたくなりました。

あらすじは、女子高生が交通事故に遭遇し、轢かれて瀕死のサンタクロースから身代金を託される所から始まる。
誘拐犯からの指示、意図しないアクシデント、主人公と読者は同じ目線であり、何が起きているか翻弄される物語は先が気になる面白さでした。章を変える毎に視点が変わり徐々に全貌が分る構成も面白い。コンパクトな群像劇ながらミステリ仕掛けの真相もあり気軽に楽しむのに良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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悪夢の身代金 (幻冬舎文庫)
木下半太悪夢の身代金 についてのレビュー
No.144:
(7pt)

ダンガンロンパ霧切 6の感想

シリーズ6作目。最終巻が出たためシリーズ読書再開。3~5作目にて物語が一段落した為、本書は最終章へ向けて新たな気持ちで読書。
個人的にはダンガンロンパおよび本書のシリーズ作品として楽しめた内容でした。

ただ本書の評判は悪いですね。その理由が明らかなポイントが2つあります。1つは単体作品ではボツネタになりそうな小ネタトリック集なミステリである事。2つ目は期待させておいて何もないというガッカリさせる要素がある事。
この2つは読書した人はわかります。で、この点が好みの別れ所でしょう。
ただこの2点は『ダンガンロンパだしなぁ。』で納得しました。ダンガンロンパのゲームやアニメの絶望に比べれば、それ系ですね。

本書をただのミステリとして作っても意味がない。シリーズ作品のダンガンロンパとして何ができるか。みたいな事を考えるとアリな気がしてくるわけです。
事前にトリックのヒントが明かされる『黒の挑戦』という存在自体を逆手にとっての探偵同士の攻防。トリプルゼロクラスの凄さ。形式島の2話目は期待させておいてアレな絶望的な落胆(苦笑)。残酷性。狙撃戦としてテーマをしっかり貫いた構成。良い点をみれば3~5作目の落胆とは違って楽しめた作品でした。最終巻まで続けて読みます。

▼以下、ネタバレ感想
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ダンガンロンパ霧切 6 (星海社FICTIONS)
北山猛邦ダンガンロンパ霧切 6 についてのレビュー
No.143: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

メインテーマは殺人の感想

なんというか、お手本のような綺麗なミステリ。
アガサクリスティのような雰囲気・サスペンスの展開。コナンドイルのワトソン&シャーロックホームズのコンビ模様。ミステリの古典作品を現代の世界観で楽しめた感覚でした。残酷な描写、心理的不快感もありません。万人向けです。

物語は自分の葬儀の手配をした当日に殺された資産家の事件から始まります。非公式で警察から依頼を受けている元刑事のホーソンと、そのホーソンから事件の模様を小説にしてほしいと依頼を受けた作家アンソニーを主人公として進みます。

正直な所、事件に奇抜さや惹き込まれるような特徴的な要素はありません。殺人事件が発生して、何が起きたのか?誰が犯人か?を捜査していく流れを作家の視点から綴られていく展開です。事件模様は地味なのですが、この作家視点は面白かったです。ホーソン主体で進む捜査に関わる心境。困惑する作者の頭の中。世の中や仕事の話。色々な思考が楽しめます。そもそも著者自身がTVや映画脚本などそれなりに実績がある方なので、自身の史実を踏まえた経験がリアルで面白いのです。

徐々に手がかりが得られるサスペンス感と作家の思考で、後半までは惹き込まれた読書でした。が、残り100ページの20章ぐらいからは駆け足で事件が収束してしまった印象でした。手がかりや真相も一気に溢れて解決してしまい、真相もあまり驚きがないものでした。なので、それまでどうなるのだろう?と気持ちがワクワクして期待値が上がっていただけに、なんだかスッキリしない読後感でした。

視点を変えれば、映像脚本として質が高いです。
手がかりを小出しにして視聴者を繋ぎ止めたり、作家主人公に同調できたり、映像に不快感がでない事件など。奇抜さはないが敵を作らない万人向け。その方向性だと感じました。翻訳もよく文章も読みやすかったです。
メインテーマは殺人 (創元推理文庫)
No.142: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

むかしむかしあるところに、死体がありました。の感想

日本昔話を題材としたミステリ。
日本昔話の内容について新解釈を述べるようなものではなく、設定・小道具を用いた作り。
例えば、最初の物語は『一寸法師』が扱われます。小さな侍や、人を大きくしたり小さくする『打出の小づち』がある世界で殺人があったら?という作りです。
SFやファンタジーの特殊設定ミステリは世の中に沢山ありますが、本書の巧い所は特殊な設定を読者に説明する事無く認識させられる事。『一寸法師』『花咲か爺』『鶴の恩返し』『浦島太郎』『桃太郎』、どんな物語か説明せずとも読者はある程度の予備知識がある為です。さらに内容を伝えやすいので商業的にも宣伝し易いですね。中々巧いです。

さて、予備知識もあり物語を認識している中で、ミステリとしてどうだったかと言うと正直な気持ちは大きな刺激が得られなかった印象。ベースの昔話は認識出来ているのですが、そこから変化させた本書の物語が分り辛く感じました。『花咲か爺』『鶴の恩返し』に至っては昔話要素が雰囲気だけ活用されていて必然性はなく感じます。短編集として作品を揃えたような印象。ミステリとして考えなければ『鶴の恩返し』の構造は面白かったです。
『浦島太郎』についてはこの世界を活用したミステリとして見事でした。必然性もあり、これが一番良かったと思いました。
『桃太郎』については、鬼ヶ島での連続殺人CCもので、誰が犯人かのドキドキ感と真相の面白さは中々でした。難点は鬼の名前が把握し辛くて誰が誰だか分り辛い。鬼太(赤鬼)、鬼菊(桃色鬼)とかイメージし辛い。いっそ、赤鬼、青鬼と言った色だけで良かったのでは。

表紙とタイトルがいいですね。売りやすそうです。
むかしむかしあるところに、死体がありました。
No.141:
(7pt)

掟上今日子の推薦文の感想

忘却探偵シリーズ2作目。1作目を読まずとも本書から楽しめます。
本書は3つの連作短編集であり、各話で扱うテーマは美術です。もう少し正しくいうと、美術の専門的な話ではなく、西尾維新のキャラクター属性が美術スキルを持つ者のお話。というのが正しいです。
話の構築も然ることながら、やはり西尾維新作品はキャラクターと言い回しの文章が魅力的でした。著者のデビュー作の『クビキリサイクル』にてすでに『絵画の天才』というキャラが出てきてしまっているものの、その分野での天才感を感じさせるエピソードを面白く感じました。
謎や事件はあるものの、その推理や結末の驚きに趣があるのではなく、忘却探偵や、関わる事件に登場する人物達の魅力が楽しい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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掟上今日子の推薦文 (講談社文庫)
西尾維新掟上今日子の推薦文 についてのレビュー
No.140:
(7pt)

刀と傘 (明治京洛推理帖)の感想

普段読まない時代劇もの。
本格ミステリ大賞2019年度受賞や最近のランキングに取り上げられていたので手に取りました。

幕末~明治初頭を舞台とした連作短編小説。実在する江藤新平と本書架空の鹿野師光のコンビによる推理帖です。
最初の1編は『佐賀から来た男』。この2人の出会いの物語。
60ページほどの物語の中、半分までは慣れない時代・歴史もの小説に苦戦の読書。読んでいて失敗したかなと思ったのが正直な感想でした。人物や時代背景が頭に入らない。が、ミステリとして滅多切りの遺体についての謎や真相が明かされるやこの時代にマッチした物語で素直に驚き納得しました。あれ、この本面白いぞと認識を改めた一幕でした。
先に伝えると読後の結果としては歴史・時代小説に詳しくなくても楽しめる一冊でした。登場人物色々いますが、江藤新平と鹿野師光の物語。この2人だけ抑えて置けば問題ないです。時代背景を知っているならより情景が浮かび楽しめるのかも。知らない自分でも楽しめたので苦手意識なくても大丈夫かと思います。

物語は『弾正台切腹事件』、ミステリーズ!新人賞を受賞した『監獄舎の殺人』、『桜』『そして、佐賀の乱』と続きます。
どれもミステリとして仕掛け云々というより、動機が凄い。そういう心情のもとのこの事件か。。。と時代ものと合わせた背景が見事でした。
また、江藤新平と鹿野師光の二人の視点による事件の見え方が様変わりするのにも驚きます。文章として描かれていないのですが、読者はそう感じる事でしょう。このバランスが凄いです。後味・余韻が沁みる物語の数々でした。普段読まないジャンルなだけに新鮮でした。
刀と傘 (創元推理文庫)
伊吹亜門刀と傘 (明治京洛推理帖) についてのレビュー
No.139:
(7pt)

彼女は死んでも治らないの感想

著者初読み。
最初の見開き2ページで惹き込まれました。文章はめっちゃ好み。舞城王太郎を感じさせる文章の圧力がとてもいい。
女子高生の主人公が喋り続ける文圧が魅力のライトミステリ……ん。これミステリ?いや、ミステリっぽい展開で駆け抜ける良い意味で不特定ジャンルになる作品という感じ。

主人公が大大大好きな沙紀ちゃんは冒頭で首無し逆さ吊りで発見される。しかも密室。ミステリ好きな展開。首無しと言えば入れ替わり含めて被害者が誰だかわからない。そんな事を思わせた所で、いやいや~首がないからって大好きな友達間違えないっしょ。とバッサリな主人公。
ボケとツッコミで例えると、ボケがミステリ的な要素。ツッコミが現実的な考え。設定だけ書くと東野圭吾の『名探偵の掟』を思い出します。ただ、学園もので女子高生の百合っぽく明るい雰囲気かつ文圧感じる喋りで展開されるととっても新鮮で面白い。ひとまず、彼女を救う為に推理開始!ん。死んでるのに救う?

ぶっ飛んだ展開と設定云々も然ることながら、ミステリを用いた女子高生の駆け抜ける喋りの文章が魅力的。
小説として楽しめた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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彼女は死んでも治らない (光文社文庫)
大澤めぐみ彼女は死んでも治らない についてのレビュー
No.138: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人選挙の感想

深水黎一郎作品は1作ごとに個性的なテーマを感じます。本作は『読者が犯人を決める』というもの。

事前にネット上で問題編を公開し、誰を犯人にしたいか投票を行った企画作品です。
誰が犯人かを読者が考えるのではなく、投票された人物を犯人にする為に作者はどのような物語を作るのか?という趣旨。
誰でも犯人にできるという事から本書は7つの解決編が収録されています。
一昔前なら多重解決ものと呼ばれる作品ですね。そこを読者参加型にする事で新しさを生み出しています。SNSが一般的になった今の世だからできた作品であり、その着眼が見事です。

講談社は昔から読者を巻き込む企画が多く、金田一少年の犯人当てや最近のメフィスト賞なら木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』でもWEB投票をしています。読者に犯人を決めてもらうという応募企画と作品の実現は版元と著者が見事にマッチした結果だと感じました。

一方この企画に参加していない人。本書単体で楽しむ人にとっては、誰でも犯人になる事からミステリにおける推理や驚きを楽しみ辛い作品となります。一番のネックは、各解決編はご都合主義が多く、ルールに沿った上で何でもアリだと感じてしまう所。指定の人物を犯人する物語を書けばよいので追加設定が多いのが敬遠されそうです。またバカミスのように笑って誤魔化せるような軽い雰囲気で描かれるので好みが分れる事でしょう。

プラス面でみれば、各解決方法は人物の性格が様変わりしミステリの趣旨も変化するのが凄まじい。よく考えられており、かつ作り上げる技巧の凄さが味わえます。先程、追加設定が多いのが気になると書きましたが個人的にはアリです。
過去作の多重解決もの『ミステリー・アリーナ』の作者側の視点に読者を立たせた作品であるとも感じます。著者は過去作でもクラシックのオペラにおける解釈の多様性を述べていることから、1つの物語の中にいろんな可能性を生み出す事に一貫していると思います。これはとても好みです。

という感じで、本書はミステリを読み慣れた人向き。さらに著者の過去作品に触れている程楽しめる作品です。
初めて触れる方でも、どの結末が自分の好みであるかで好きな作品傾向が分る性格判断テストになっているのが面白いと思います。自分は開陽界の意外な流れや玉衡界の〇〇ものになる流れが好きでした。今回選択肢がなかったですが個人的には建物が犯人みたいなトンデモ話が好きなので、自分が想像していない所から答えがくる刺激がやはりミステリの面白さだと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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マルチエンディング・ミステリー (講談社文庫)
No.137: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

五覚堂の殺人 〜The Burning Ship〜の感想

館もの+数学のミステリ。堂シリーズ3作目。
五感を表現したという五角形の五覚堂。そこで起きた密室殺人。

冒頭で示される館の機構は、「館は動き」そして「回転する」という事。講談社から出版される館もの作品の傾向として、3作目は動く事が多いのでそれに沿ったテーマだと感じます。この奇妙な館と壮大な仕掛けが本作の面白さです。そしてそこに数学を絡めたミステリとしてとてもワクワクします。前作までの評判で苦手とされていた数学話も今作ではエッシャーやフラクタルと言った専門科目ではなく高校・大学辺りで触れるものなので大変読みやすくなっています。個人的にはどちらも好きな話だったので本作は苦なく楽しめました。

惜しい点としては、トリックや犯人特定の消去法について、とても凝った仕掛けを行っているのですが、伏線がないというか唐突に明かされる為に衝撃度が弱く、読者の記憶に残る名作になりそうでなり辛い勿体なさを感じます。仕掛けだけみたら島田荘司の御手洗潔シリーズみたいな大仕掛けで同じ傾向なのに名作にならない。本書の十和田も御手洗潔も変人なのに魅力度が違う。この感覚は何だろうと思う次第。キャラの心の問題だろうか。十和田は数学でドライな感じで近づきがたいからかな。そんな事を思いました。

とはいえ、減点的な考えでは色々気になる事が多い本シリーズですが、加点的に考えればミステリの面白さや魅力が豊富に盛り込まれていて大変好物。続きも読んでいきます。

▼以下、ネタバレ感想
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五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)
周木律五覚堂の殺人 〜The Burning Ship〜 についてのレビュー
No.136:
(7pt)

パラレルワールドの感想

元々は東日本大震災を対象としたチャリティアンソロジーの為のショートショート。その話を元に長編化された作品。
その為、震災の被害の辛さ、大事な人を亡くした悲しみ、家族の絆と言ったテーマを根底に感じました。その点は非常に惹き込まれます。

本書パラレルワールドの面白い特徴は、異なる世界を同時に観測し行動できる人物がいる点です。世界にずれがあれば、ずれを同時に見聞きできてしまう。一人の人物が二人重なって見える状態です。
震災により父を亡くした世界。母を亡くした世界。その両方の世界に存在する息子。息子を介して父は別の世界の母と会話できる状態です。この設定は震災で突然亡くした大事な人へ伝えられなかった後悔や、亡くした人は別のどこかで幸せになって欲しいという希望や救済を感じられる内容だと感じました。

本書は二部構成。
第一部が上記震災と家族の話。第二部からは様変わりします。
長編化にあたり、小説として起承転結を構成する為に作られたと思われる第二部の事件については、著者の持ち味の時間SFを活かした内容でした。異なる世界と言わず、亡くした人との会話なら幽霊小説でも良いわけです。そうではなくパラレルワールドが意味のある内容となっているのは面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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パラレルワールド (ハルキ文庫)
小林泰三パラレルワールド についてのレビュー
No.135: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

もう年はとれないの感想

敬老の日を切っ掛けに老人が主人公の話を読書。
表紙の第一印象から、重く華がなさそうな硬派な話かと思いましたが、読んでみたらユーモアあふれるテンポの良い話でした。

まず話のストーリーがわかりやすいのが良かったです。
87歳の爺さんが戦友の見舞いに行った所、臨終の言葉として宿敵の相手が生きている事。そして財宝を持っている事が伝えられます。目的がハッキリしていて宿敵と宝探しです。この目的の話の中に不可解な殺人事件が発生する流れ。

本書の面白い所は主人公のバック・シャッツの爺様。皮肉や老人ネタをふんだんに盛り込んだセリフ回しが痛快。老人設定うんぬんではなく、文章が面白いので小説として意味のある所が魅力でした。キャラクターや主人公の人生物語を十分に堪能できましたね。

ミステリ的な点。特に殺人事件については心残り。理詰めでこちらから解決を見出すというより、事件に巻き込まれて、うまく乗り越えて解決してしまう。犯人は誰なんだろう?という分らなさは良かったのですが、犯人は何でそんなに目立つ事しているの?という行動が現実的にしっくりこなかったです。もうちょっと犯行の説明や犯人を割り出す面白さが欲しかった所です。
とはいえ、総じて面白かったです。

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もう年はとれない (創元推理文庫)
No.134:
(7pt)

ケーキ王子の名推理の感想

タイトルに名推理とありますがミステリ成分はほんのわずか。少女漫画のような青春恋愛小説です。

世界一のパティシエを目指すイケメン王子。学校では女性に冷たい態度。そんな彼にたまたまケーキ屋で出会った女子高生の未羽。彼女はケーキ大好きっ子。ケーキの事なら良い所も悪い所も熱く語れる。そんな二人の出会いとストーリー。

ちょっとした謎や疑問でも、王子が解いて語ればキラキラと鮮やかで頭良く見えます。乙女からは名探偵に見えるわけですね。タイトルの印象はその感覚でした。特段ロジカルな推理というわけでもないのでミステリを求める方には物足りないです。
一方、青春ものとしてはとても面白い。あらすじや設定はベタに感じますが、読書中の雰囲気がとても気持ちよい。デザート話で甘い。王子と未羽の青春模様も甘い。甘々な話ですけど悪くなく楽しい。話の起伏でピンチな状況もある。例えば学校一のイケメン王子と仲良くすればファンの女子からは嫉妬を買い陰湿なイジメになりかねない。そんな状況を読者の嫌になりすぎない絶妙な分量と感覚で描かれ解決する。これは悪い状況の描き方が巧い。読者は甘いだけでなくピンチや解決も体験してより良い気分になるというわけ。読後感も良かったです。
王子と未羽、二人ともキャラクターが良くて読んでいて楽しい。そのうちドラマ化しそうだと思いました。
ケーキ王子の名推理 (新潮文庫nex)
七月隆文ケーキ王子の名推理 についてのレビュー
No.133:
(7pt)

双孔堂の殺人 ~Double Torus~の感想

1作目読書後、文庫化待ちしたまま手に取る機会を失っていました。今年シリーズが完結したとの事で読書。
改めて本格の雰囲気はいいですね。奇人変人、探偵、奇妙な館が舞台、そしてその中で起きる事件。好物です。

本書の難点としては衒学的に数学の話が多く語られている事です。
個人的には数学好きなのでそこも楽しめて美味しい限りですがやはり分量が多い。これは文庫あとがきの著者コメントで自身も気にしている事が書かれています。文庫化にあたって削ろうか迷ったが、本書は数学者の物語である為に残したそうです。確かにまったく無くなってしまっては読みやすそうだけど個性がなくなりそうです。さらにコメントでは多少数学の話は読み飛ばしても物語の大勢に影響はないと書いてあるので、数学の長話の点で敬遠していたら気にせずミステリ部分を楽しみましょう。

ミステリとしては新しい大仕掛け……みたいなのはなく、どこかで見たような話なので物足りなく感じるのが前作と同じ心境。ミステリの雰囲気や舞台の感覚は好きなので今後のシリーズの展開でどうなるのか期待。
双孔堂の殺人 ~Double Torus~ (講談社文庫)
周木律双孔堂の殺人 ~Double Torus~ についてのレビュー