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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数239

全239件 81~100 5/12ページ

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No.159:
(6pt)

孤島の来訪者の感想

途中で何を読んでいるのか分からなくなって混乱しました。良い意味でも悪い意味でも。
予備知識がない方が良さそうな面もあれば、無いならないで混乱しそうな要素があり、あらすじにある通り、『予測不能』な孤島本格ミステリとなっていました。

シリーズ2弾とありますが、前作とは関わりありませんので、本書単体で楽しめます。

最初に書きましたが個人的に中盤は混乱してしまい、内容が把握できなくなってしまいました。で、少ししてそういう本か!と理解し、読者への挑戦を迎えて解答編を読み終えました。
読み終わってみれば特殊な状況もののミステリとして久しぶりな刺激で面白かったです。2度目をサラッと読み直してよくできているなと改めて感じました。※2度読みな仕掛けがある本という意味ではなくて、自分が理解し辛かっただけです。
なので率直な感想として分り辛い本でした。場面や視点や状況が変わり過ぎてますし、登場人物の役柄も似ていて区別が付き辛かったです。
ミステリとしての物語の構築、繋がり方なんかはとても面白い。ただ前作でも感じたのですが、話しが説明的というか盛り上がりの演出が弱いというか、物語を眺めているような気分で気持ちが入り辛く、初読では理解し辛いというのが個人的な印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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孤島の来訪者 (創元推理文庫)
方丈貴恵孤島の来訪者 についてのレビュー
No.158:
(5pt)

名探偵のはらわたの感想

著者の作風を変えた一冊。
著者の作品と言えば鬼畜系のグロ系。世の中そんな印象になっていましたが、本書はその要素を無くして本格ミステリの仕掛けや謎解きに重き置いた一冊となっていました。著者のイメージを変える勝負作品とも感じます。

物語は昭和の殺人鬼vs名探偵もの。
タイトルは映画『死霊のはらわた』のオマージュ。若者達が悪霊を甦らせてしまうという映画同様、本書は実在した昭和の殺人鬼の魂が現代に甦り、人に乗り移り事件を犯すというもの。津山事件や阿部定事件といった小説お馴染みの有名所を題材に、それに模した事件と悪霊が乗り移った犯人を暴き倒すという物語。

過去の事件をオリジナルな解釈と仕掛けを施したミステリとなっているのが面白い。
江戸や戦国時代などの大昔にせず、昭和の事件を取り扱っている点についても、雰囲気も然ることながらミステリとして巧く活用していたのが見事でした。持ち味であると設定付けされているグロや鬼畜がなくても本格ミステリとして面白い作品が描けると感じました。昭和の事件を模した見立て殺人の部類ですが、描き方、物語の設定が現代的で良かったです。

作品単体は良かったのですが個人的な好みの点数は少し低めで。読書前の著者本の期待値とも違い、横溝時代の古い昭和の作品を読んでいる気分にもなり、読書中は古く重めであまり楽しめなかったのが正直な所でした。

▼以下、ネタバレ感想
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名探偵のはらわた (新潮文庫)
白井智之名探偵のはらわた についてのレビュー
No.157: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

教会堂の殺人 ~Game Theory~の感想

堂シリーズ5作目。シリーズ全7作のうち後半へ向けての転換と整理作品。
本書はミステリというより、登場人物達の物語が主要で、まとめに入りました。
その為、登場人物達の設定や扱いが良い意味でも悪い意味でも整理されていると感じます。

堂に関するトリックが魅力的なシリーズ作品ですが、今回は設定の説明不足と既視感あるもので残念な結果でした。
あまり世の中の感想で見かけないのですが、この仕掛けと設定や舞台は某漫画で行われたものそのままですね。
漫画と小説の読者層の違い、両方の知名度からか、あまり気づかれなかったのかな。時期も同じ2000年代。集英社ヤングジャンプの騙し合いギャンブラー系の某漫画です。オマージュではなく劣化コピーに感じるのが残念。

という事もあり、本書は色々と残念に感じました。
残り2冊で物語がどう変わるのか期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社文庫)
周木律教会堂の殺人 ~Game Theory~ についてのレビュー
No.156: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険の感想

ロボット掃除機への転生もの。
設定は面白い。あらすじは事故にあった警察官が目を覚ましたらロボット掃除機になっていたという始まり。SF転生ものであるが、対象がロボット掃除機という現代のアイテムが活用されている点が新しいです。IOTとなる掃除機に組み込まれたwifi通信でネットからの情報を送受信したり、ロボットアームを用いるなど現代要素が満載になっていました。そして目を覚ましたすぐ隣の部屋に死体があったというミステリの流れが興味をそそられました。

特殊設定ミステリの期待が高まりましたが、実際の所本書はミステリというより冒険小説。転生先から30km離れた姪の元へ向う事がメインストーリー。走行速度は時速1.8km。充電どうなる?その道中での出会いとプチ事件が絡んでいく流れです。

読書中の正直な感想として、「早川」主催の「アガサ・クリスティー賞」というワードに期待し過ぎてしまったかもです。本格的、大人向けというより、ライトミステリの部類。個人的にはティーンエイジャー向けのレーベル出版ならもっと評価が上がると思った次第。というのは扱うミステリ要素は軽めですし、社会問題も扱われますがテーマに深みはなくTVで見知れる内容なので、早川の濃い内容(勝手な早川イメージ)を求めて読んでしまうと、物足りなくなってしまった次第。

あえて冒険小説として見たとすると札幌小樽の30kmの景色があまり感じられませんでした。ロボット掃除機の苦労は微笑ましいのですがせっかく地名を出すなら空気感や情景も感じたかった。主人公と姪の料理などのエピソードも微笑ましく読めますが、本筋とはあまり結び付かず。デビュー作なので色々書きたい事を書いたという印象を受けた作品でした。

他思う所は登場する人やエピソードの温かさや優しさの表現が印象に残りました。悪意な内容だとしても優しい雰囲気を醸し出しています。著者の持ち味なのかなと。それゆえ殺伐さを求めないティーンエイジャー向けな作品で読んでみたいと思った次第。アイディアと雰囲気はよいので次の作品はどうなるのだろうと気になる所です。
地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険
No.155:
(6pt)

悪夢のエレベーターの感想

エレベーターの室内だけで起きるドラマなので演劇や小規模撮影の映像化向きな作品。
著者デビュー作であり、その後の著者の特徴となる群像劇作品の初々しさを感じる内容でした。冗長に感じたのは、第一章で進められた物語が第二章にて別の視点で描かれる様子。ほとんど同じ内容であり、会話内容も繰り返す為、違った視点の面白さより退屈が勝りました。好みは別として、最後まで意外な展開を用意して読者を楽しませようとする脚本作りを感じた作品でした。
悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫)
木下半太悪夢のエレベーター についてのレビュー
No.154:
(6pt)

あなたは嘘を見抜けないの感想

物語は2つのパートが章ごとに交互に描かれます。
1つ目は、無人島での廃墟探索ツアーで死んだ彼女を想う男性パート。島の外視点。
2つ目は、無人島での廃墟探索ツアーの様子。島の中での視点。
廃墟探索ツアーの面々はSNSで知り合った者達。お互いをハンドルネームで呼び合う。その島で事件が起きます。
さて、ピンと来る方、大いにいると思います。個人的に『十角館』を思い浮かびました。同じ講談社ですしね。そういった本格ミステリの設定を感じながらの読書は楽しかったです。

ただ、なんというか薄味さを感じました。コテコテではなく、ライトミステリです。
また、菅原和也作品はアングラや微グロ、刺激的な表現が多かった印象ですが、本書の講談社タイガからの作品は大分マイルドになっていますね。持ち味の良さがあまりなく特徴が見え辛い平凡な作品になっている印象でした。
表紙・タイトル・あらすじが、中身の雰囲気と合っていないのも残念。

▼以下、ネタバレ感想
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あなたは嘘を見抜けない (講談社タイガ)
菅原和也あなたは嘘を見抜けない についてのレビュー
No.153:
(6pt)

極限トランクの感想

B級サスペンスですが、分かりやすい展開と読みやすい文章でサクッと楽しめた作品でした。

あらすじは、40代男性、仕事は順調だが家庭に悩みを抱える主人公。気分転換に少しハメを外そうと六本木のクラブへ足を運びナンパしようにも上手くいかず、、、そこに人生のコーディネーターと称する男が現れ、事件に巻き込まれる。という流れ。

読者ターゲットはサラリーマン男性。分かりやすい設定と問題。読者層の非日常が巧く並べられていると思いました。どんな展開になるかは読んでからのお楽しみですが、深く考えないでシンプルにサスペンスを楽しめた作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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極限トランク (PHP文芸文庫)
木下半太極限トランク についてのレビュー
No.152: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~の感想

堂シリーズ4作目。シリーズ全7作の内、中間にあたる本書は予め著者が構想していた転換となる作品というだけあって、驚かされる一面がありました。この先どうなっていくのだろうと、主要メンバーが固まってきた本シリーズの今後が楽しみです。

孤島を舞台に30m四方の立方体の堂で事件が発生。
堂の構造から密室ものミステリを予想していたのですが、本書は瞬間移動ものでした。一時行方不明となった人物が巨大空間の中に被害者として現れる。どうやって移動されたのか?が謎となります。館ものの大トリックとしては島田荘司っぽい壮大さで好みです。ただ、物語やその事件の背景の魅力が弱すぎて、残念な印象でした。トリックは素晴らしいです。シリーズとしての仕掛けも相まって、名作に成りそびれた勿体なさが残りました。

▼以下、ネタバレ感想
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伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~ (講談社文庫)
周木律伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~ についてのレビュー
No.151:
(5pt)

プロジェクト・インソムニアの感想

共有された夢の中での殺人という特殊ミステリ。
表紙が古臭いですが2020年の作品。

極秘人体実験プロジェクト・インソムニア。夢を共有するチップを頭に埋め込まれた被験者達の生活実験。今の状況は夢なのか現実なのか。夢の中で死体となった人物が、現実世界でも死んだらしい。何が起きているのか。という流れ。

読んでみると、岡嶋二人『クラインの壺』と川原礫『ソードアート・オンライン』が思い浮かぶ内容でした。おそらくこの2つが好きで著者なりにアレンジした作品かと思うほどでした。映画『パプリカ』もそうかな。虚構と現実の曖昧さ、仮想現実世界での死は現実の死となる。というニュアンスや仕掛けがそのままで、個人的にとても既視感があった内容でした。
その感性で読んでしまうと、仮想現実ではなく「夢」という設定に対しての意味に期待をしていましたが、特に意味づけを感じられなかった為、二番煎じ感が否めない作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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プロジェクト・インソムニア (新潮文庫 ゆ 16-2)
結城真一郎プロジェクト・インソムニア についてのレビュー
No.150: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

オレだけが名探偵を知っているの感想

これは好みが分れそう。

あらすじは、連絡が取れない叔父の状況を確認する為、勤め先に訪れると極秘プロジェクトの任務中だった事がわかり、詳しく調べていくとこの会社は日常では触れる事がない非現実的な闇会社であった。ここで何が起きているのか?という流れ。

ミステリの傾向として、閉鎖的な村、宗教もの系統の限定的空間で条件を付与する特殊設定ミステリです。
推理の過程やサスペンスを楽しむものではなく、明かされる真相をどう感じるかが好みの別れ所。前半の会社の異常な体制、会長の存在と社員の意識、これらは丁寧に描かれておりとても惹き込まれました。舞台の状況作りはとても面白く描かれています。一方、事件が起こり状況を把握する流れは退屈でした。麻雀の話然り、何か繋がりがあったとしても、脇道に逸れる内容が多く感じてしまい無駄を感じました。

終盤の真相は確かに面白いのですが、この作品の系統は既視感を感じてしまい、驚きを得られませんでした。仕掛けは面白いけど読み物としては好みに合わず。

▼以下、ネタバレ感想
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オレだけが名探偵を知っている
林泰広オレだけが名探偵を知っている についてのレビュー
No.149:
(6pt)

黒猫の小夜曲(セレナーデ)の感想

猫に憑依した死神が、現世に未練を残し地縛霊となった魂の悩みを救う話。シリーズ2作目。本書の場合は1作目から読んだ方がよいです。短編集の体裁で話を進めていくと繋がりが見えてくるのは前作同様面白い。ただ個人的な好みとしていまいちの2作目でした。事件や謎については読者置いてけぼりの展開。手がかりを推理して導くのではなく、当事者達で思い出したり、重要人物が突然解答を語りだしたりするので謎解きは皆無。人情ものとして見たとしても感情移入できるキャラがいない為に感動が薄れてしまいます。
1作目の犬のレオは信念の筋を感じましたが、本作の猫のクロはおちゃらけていて真面目なシーンもなんか気が抜けてしまい軽い印象でした。そこが猫っぽいと言われればそうなのですが好みに合わず。
事件の真相や仕掛けは複雑なものですが分り辛くて楽しみ辛い。ハートフル作品として売り出していますが、中身はミステリを強めようとしてちぐはぐになってしまった印象を受けました。

▼以下、ネタバレ感想
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黒猫の小夜曲 (光文社文庫)
知念実希人黒猫の小夜曲(セレナーデ) についてのレビュー
No.148:
(6pt)

キネマ探偵カレイドミステリーの感想

読みやすくそこそこ楽しめた作品でした。
タイトルにある通り映画を題材としたライトミステリ。

映画好きの引きこもりの探偵役。事件の概要を相談すると、映画の前例と絡めて解決へと導かれる。映画の題材は有名所なので未鑑賞でも聞いたことあるものばかりで馴染みやすい。鑑賞済みなら小ネタが楽しめ、未鑑賞でも見てみようかなと思えたのが良かったです。映画オタクの嗄井戸を通して、著者の映画好きな気持ちと各作品の紹介が得られたのがとても楽しめました。

作品の雰囲気について。日常・学園物から重い内容まで混ざっています。良い表現をするとバラエティ豊かですが、悪い表現をすると方向性がブレています。自分の感想としては後者でして、 2章・3章ぐらいの学園物の雰囲気であればレーベルに沿い、映画×ミステリの特徴でティーンエイジャーにも薦めやすい内容だと思いました。4章のようなシリアスで重い内容が出ると読者の好みが分かれそうだと感じました。ただ、映画を絡めた事件の真相としては4章が一番面白かったです。

シリーズ化されているので2作目がどういう雰囲気の方向へ向かったのか気になります。
読みやすい本なのと映画ネタが面白かったので続けて読んでみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)
No.147:
(6pt)

記憶屋の感想

映画の予告を見て興味を持ち、原作を手に取りました。
『日本ホラー小説大賞の読者賞』を受賞している作品。ホラー系の応募作品となりますが、現代ではホラーというより青春ライトミステリの部類です。"都市伝説"要素が一昔前のホラージャンルの扱いになった感覚です。怖さやおどろしさはありません。内容はむしろ男女の恋愛物語が扱われるので、ホラーのレッテルを外して、ティーンエイジャー向けの青春小説として紹介したい作品だと思いました。※版元が同じ角川グループならMW文庫で世に出した方が人気が出そうと感じます。

記憶を扱う作品として、どんな記憶を無くすかで物語の広がりを期待する所ですが、本書は複数のパターンがあれど根底は男女間の恋愛物語。想い人が自分の事を忘れてしまったら。または記憶屋に頼む程、忘れたい記憶とはなんなのか。記憶についての若者の葛藤を描いた作品でした。良い印象としては先に述べた通りティーンエイジャーに好まれそうな物語。悪い印象としては、悩みに共感が得られない。若い人はそういう悩みを抱えてそれで記憶を消す考えに至ってしまうのかと選択肢の少なさを感じた次第。

設定は面白いしミステリ的な仕掛けもありますが、もっと凄い事ができそうなもどかしさを感じます。応募がホラーの賞なので仕掛けを望むのは筋違いなのですが、そう感じてしまう。
結局の所、結論が定まらず曖昧に終わる味になっており、ホラー、ミステリ、恋愛物、どの視点で見ても心に強く残る味がなく浅く終わってしまった読後感でした。文章は読みやすく設定も面白い。映画化含め今後の作品がどのようになっているかは興味があります。

▼以下、ネタバレ感想
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記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや記憶屋 についてのレビュー
No.146:
(5pt)

潮首岬に郭公の鳴くの感想

北海道函館市を舞台とした本格ミステリ。潮首岬も実在する場所。
ただしトラベルミステリの様な観光紹介ではなく、この場所の環境や生活する人々の地域柄を強く感じる作品。

率直な感想として終盤までの9割ぐらいは地味で辛い読書でした。
登場人物が多くて把握し辛い。一族の親子やら兄弟姉妹やらで苗字が同じ。苗字が違う人でも職業が医者で同じ傾向。個々に奇抜な特徴がない為、初読で人物の把握が困難でした。
松尾芭蕉の俳句の見立て殺人や雪の足跡問題など本格ミステリ要素は好みですが演出なく地味。作品雰囲気としては物語終盤まで地道な聞き込み捜査が続きます。人物の把握が辛かった為、徐々に手がかりが得られていそうなんだけど、さっぱり繋がりが分らず物語に入り込めませんでした。ここまでの気分は☆3ぐらい。

ただ終盤は目が覚めるように面白かったです。
事件の真相が明らかになった所で、トリックの面白さや人間関係の絡みの構築、設定の妙を楽しみました。
90年代前後のような古い雰囲気だったのが、古き良きミステリを現代風にアレンジした良さを感じました。

なので、もう少し読書中もワクワクして先が気になるような演出や刺激となるエンタメ要素があれば良かったと思う次第。
現場の図解も真相解説時にあるなら、なんで事件発見時に提示しないのだろう。見立て現場や、足跡の場とか、図で先に提示すればアクセントとなるし読者も把握しやすかったのに。という具合でして、真相が良かっただけに、それまでの辛い読書が残念に思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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潮首岬に郭公の鳴く (光文社文庫)
平石貴樹潮首岬に郭公の鳴く についてのレビュー
No.145:
(4pt)

終わった恋、はじめましたの感想

著者の本は一通り読んでます。
過去作の傾向では、読みやすい文章と気持ちよい読後感、そして最後のちょっとした仕掛けがあり、とても好みです。

が。本書に限っては点数低いです。これは著者や作品に対してというより、出版社の宣伝による影響で、期待したものとちがうがっかり感を得てしまった為です。
本書は純粋な初恋に近しいピュアな恋愛小説です。
それを過去の作品傾向から、『シュレディンガーの猫』とか『青春恋愛ミステリ』で宣伝してますが本書にはそのような要素は感じられなかったです。あくまで個人の感想ですが、講談社タイガのレーベルには何度も過剰な宣伝と中身が違う事にがっかりさせられましたが本書もその1つだと思いました。売れる事は正義だったりしますので、その視点では宣伝は大成功なのですが信頼を失うでしょう。作品自体はよいのに変な宣伝と釣り方するから、反感を得てしまう。

という具合で、作品とは違う感想を得てしまった次第。
期待と違うものなので、中身はよくある恋愛小説という感想で落ち着いてしまい、何か刺激を受ける事はありませんでした。本書にだけあるような個性が見当たらないです。
話は綺麗にまとまってます。表紙も素敵です。それだけに残念な気持ちでした。
終わった恋、はじめました (講談社タイガ)
小川晴央終わった恋、はじめました についてのレビュー
No.144:
(4pt)

イヴリン嬢は七回殺されるの感想

タイムループ×人格転移のミステリ。
設定や緻密な構造、真相の仕掛けはとても面白い。
が、読んでいて楽しかったのかというと辛かったのが本音です。

小説としては複雑な構成で新鮮なのかもしれないですが、これはアドベンチャーゲームですね。
プレイヤーが異なるキャラクターを操作して、それぞれの場面を見ながら真相に迫っていく。イヴリン嬢が殺されたらゲームオーバーでやり直し。もしくは誰かに自分が殺されるかもしれない。そういうアドベンチャーゲームを小説にした印象でした。
ゲームの『やりなおし×別キャラクター操作』を『タイムループ×人格転移』という売りにしてPRしている作品です。

本書の評価は割れそうです。
要素要素はとても面白いのです。ただそれを小説にした本書は複雑というより状況の表現が分り辛く、楽しむのではなく理解する事を強いられる為に読書が辛い。悪い意味で2度読み必須な内容でした。設定の構造で評価する人。読み物で評価する人。どこに注目するかで感想が分れそうです。好きなテーマだっただけに期待し過ぎたのかもしれません。ちょっと合わなかったです。
イヴリン嬢は七回殺される
No.143:
(6pt)

雪が白いとき、かつそのときに限りの感想

日本の90年代の本格ミステリを彷彿させる作品。学園&青春ミステリ。
事件は雪の降る校舎での足跡なき殺人です。
華文ミステリと言えど雰囲気は日本の学園ミステリを読んでいる感覚でした。

足跡問題や雪密室など日本のミステリでは近年見なくなりましたが、中国から新本格のリニューアルな感覚で刊行される世の流れは面白いです。本書はハヤカワポケットミステリでの出版ですが、いつものポケミスの表紙と雰囲気が違います。日本の青春もの・ライト層の出版物な印象。雪を扱うミステリは古いかなと思われる所、この表紙のおかげで美しい雪の情景をイメージさせるプラスの効果を感じました。

本書の難点を述べると登場人物の名前です。人物名:馮露葵、 顧千千、 姚漱寒……。
海外ミステリのカタカナ名以上に見慣れない漢字名なので読めません。
おそらく版元もこの難点は感じており細かな対策が見られます。本書付属のしおりには登場人物一覧を記載。章ごとに人物名が現れる時はルビを再掲載させる。という具合。
ただそれでも読書中に都度名前を確認するのは集中力が途切れますし、もうこの人は男なのか女なのかもわからず、何となく全員女性キャラとして読んでいました。女の子同士がキャッキャする百合な雰囲気も感じるのでそれで問題ないかなと。

他の著者との比較で恐縮ですが、同じ華文ミステリで好きな作家の陳浩基の作品の登場人物は混乱しないのです。何でだろうと思って見直すと、名前をカタカナにしたり場面に登場するキャラが少ない為、把握しやすくなっていました。
もし今後も作品が出版される場合、人物がもっと把握しやすくなれば良いなと思います。本格ミステリと登場人物達や場の雰囲気はとても好みなので。ただこれは個人の問題であり中国名に慣れればよいか。。。そんな事を思いました。
雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ)
No.142:
(5pt)

凍てつく太陽の感想

作品自体はとても圧倒的。超骨太の濃い作品でした。
終戦間際の戦争小説において、舞台が北海道であるあまり経験した事がない作品。
この本のおかげで、北海道でのアイヌや朝鮮との関係、民族問題や差別、特高警察といった知識を得る事ができました。ミステリを読んで新たな知識を得られるのはとても嬉しいです。

一方、点数について。
好みの問題なのですが、本書は社会・歴史の教科書を読んでいる気分でした。
密度も濃い作品な為、1文1文がとても大事。なので物語を楽しむ前に、内容を把握する事に集中しなければいけない読書でした。人物や場所や状況、時代背景など頭の中で構築していかないと物語に置いてけぼりになる為、読むのが辛かったです。なのでこの点数で。

それにしても著者の作品のクオリティはどれも高い。
好みはあれど、どの作品も緻密な情報と作品への昇華に圧倒されます。改めて思いました。
凍てつく太陽
葉真中顕凍てつく太陽 についてのレビュー
No.141: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

紅蓮館の殺人の感想

館ものの本格ミステリ。
落雷により山火事が発生し、館へ火の手が迫るタイムリミット模様。さらにカラクリ仕掛けの館、殺人鬼の存在、名探偵の対決、山火事に囲まれるクローズドサークルetc...と、ミステリのガジェット豊富でワクワクな設定でした。
ただ、本書のテーマは犯人当てやトリックというミステリではなくて、「名探偵の存在意義」に趣が置かれていると感じました。もちろん推理模様もありミステリを十分に楽しめますが、変わった展開で話が進行します。
山火事による時間の制約がある中、生存と真実どちらを優先させて行動するか。なかなか面白いテーマでした。

ちょっと思う所として名探偵の葛城とワトソン役の田所君。エラリークイーンみたいに悩みや葛藤を描きたいのか、作品内で成長する青春模様な結果からなのか、完璧そうで弱く、弱そうで強くなるなど、キャラがぶれぶれなのが気になりました。圧倒的な名探偵なら気持ちが良いのですが、凄い所と弱い所で相殺された普通の高校生でモブ化の印象。敗北や負け惜しみにも見える弱さ。それを狙っているのかもしれませんが、名探偵をテーマと感じる本書において、終盤この二人の魅力が減衰していく感じは後味が悪かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海紅蓮館の殺人 についてのレビュー
No.140: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー: 探偵AI2の感想

探偵AIシリーズ2作目。1作目はとても好みだったのですが今回は相性が悪かったです。

1作目は短編集でAIネタとミステリを短編でサクッと楽しめ、かつ初登場のAI相以ちゃんの誕生と成長が楽しめる作品でした。
本作は前作を把握している前提での長編作品となります。その為、前作と読書間隔が空いていると登場人物達の相関図が把握し辛かったです。(これは個人の問題。)ただ相性が悪かったのはそれだけでなく、本作はシリーズ作品というより、いつもの著者の作品にAI要素というか調べたITネタを足した感覚が強い為であると感じます。過去に著者作品で相性が悪かった『RPGスクール』と同じ感覚でして、作品の中だけで盛り上がっていて、状況や情景がよく分からず、読んでいて楽しめませんでした。後半はAIネタが活用されますが、そこ至るまでは舞台設定やキャラクターの説明が多く、たまにITネタを挟む。という流れでシリーズでの必要性がわかりませんでした。AIの相以や以相の話が読みたいのに、登場人物の警察官僚達や右龍家の物語をずっと読まされた印象が強く、求めている物が違った作品でした。
犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー: 探偵AI2