■スポンサードリンク


egut さんのレビュー一覧

egutさんのページへ

レビュー数239

全239件 61~80 4/12ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.179: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリックの感想

ミステリ愛に溢れた作品でした。
まず世界の設定が発明もので良かった。
それは『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界。どんなに怪しい犯人でもアリバイがあれば無罪になるのと同様に、密室の謎が解けなければその人には犯行が不可能であるとし無罪となる世界線。この設定が発明ものです。この設定のおかげで密室を作る理由を考えなくてよく、密室殺人が多発する理由にもなります。

ミステリ小説において密室ネタは出し尽くされ古臭いものと扱われますが、あえてそこに脚光を浴びせた意欲作だと感じます。
舞台は雪の山荘、クローズドサークル内での連続殺人。現場にはトランプや見立てやらで古き良きミステリの雰囲気を味わえます。登場人物達の雰囲気は個人的に好きなゲーム『かまいたちの夜』の印象でして、怪しい面々と砕けた会話は良い意味でライト。陰鬱さはなく連続殺人でもサクサク進行します。

そんな好みの雰囲気であるコテコテのミステリだったのですが、好みにそぐわなかった点として、あえての悪い言い方で恐縮ですが、トリックの問題集になってしまっている事。それぞれの事件に関連性もなくバラバラな印象だった点もよりそう感じてしまった次第。
他本と比較するのもアレですが、トリックを連撃しながらも問題集にならず名を残しているミステリは、それ+αの要素があります。ホラーやエログロなどで感情への刺激を加算するものや、キャラクター性を強めるもの、社会派と組み合わせて考えさせたりなどなど。本書は密室トリックを主体としながらそれだけで勝負しているのは好感でもあるのですが、最後の最後まで出し惜しみした仕掛けのインパクトが非常に弱いものだったので(演出力なのかもしれませんが)、肩透かしを食らってしまった気分でした。なので物語になっているような印象はなくトリックの問題集に感じた次第でした。

終盤より途中のドミノに囲まれた密室は面白かったです。トリックがというよりその状況のシチュエーションが新鮮でした。ミステリ読者程その他で使われた内容を考察する作品は読み慣れてしまっているので、こういう内容の方が面白く映るのではないかな。

というわけで、密室トリックというミステリ要素についてはあまり印象的ではなかったのですが、ミステリに対する著者の想いやミステリ好きだと感じさせる要素要素の数々は好きなので、デビュー作後の2作目でどうなるか期待です。

あとタイトルと表紙がとてもミステリ好きに刺さるので、これは編集者がナイスだなと思いました。特徴的なので書店も売りやすそう。商品として巧いと思った。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
【2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」文庫グランプリ受賞作】密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.178: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

早朝始発の殺風景の感想

高校生の日常におけるちょっとした一コマの出来事をミステリ仕立てにした短編集です。

表題『早朝始発の殺風景』は、始発の電車で遭遇した普段あまり話さない同級生との一コマ。
『メロンソーダ・ファクトリー』はファミリーレストランでクラスメイトと学園祭準備の打合せでの一コマ。
『夢の国には観覧車がない』は部員達と遊園地に遊びに来たときの一コマ。
という具合で高校生活の日常の1場面を切り抜いてそこで起こる日常の謎を扱います。

これといった印象強い派手な要素はないのですが、高校生活における空気感や友人達の微妙な距離感が見事に描かれており雰囲気を楽しむ事ができました。テーマが揃った短編が集まっている為、短編集として整った作品であると感じます。

個人的には『夢の国には観覧車がない』が好み。
人物配置、場所、状況、何故そうしたか、全てに無駄なく高校生活の日常としても合っていて良かったです。

エピローグも巧く作品全体をまとめており、各人達のその後が見えてなんだか嬉しいサービスに感じました。
早朝始発の殺風景 (集英社文庫)
青崎有吾早朝始発の殺風景 についてのレビュー
No.177: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

美亜へ贈る真珠の感想

SFにおける時間要素と恋愛小説を掛け合わせた短編集。
新版では8作品収録されています。短編集タイトルになっている『美亜へ贈る真珠』に至っては1970年代の作品。

80年代、90年代、そして現代に至るまで、時を扱った作品は小説や映画や漫画やアニメなど数多くあります。それらの時間要素と恋愛作品を絡めた作品の歴史において、本書は外せない1作という情報を得て手に取りました。

確かに読んでみると数多くの作品を思い浮かびます。このネタはあれだ。あの映画もこのネタなのか。などなど。SFとしての時間要素は昔からあれど、そこに恋愛要素を加えて淡く叙情的なドラマを感じさせているのは中々見事で楽しめました。

ただ一方、既存作品に慣れているから仕方がないですが、原点的な本書を読んでも新鮮な読書にはなりませんでした。文章が少し古いというか固く難しいので面白かったかどうかと聞かれればSF作品×恋愛の歴史としてこういう作品があったのかと知識として体験した感想。
ミステリで例えると、2000年代のミステリから入った若い人へモルグ街や海外古典を読んで大絶賛するか……という話で、ちょっと違う気がするような感覚。なのでそのジャンルの歴史を体験したという感想でした。

個人的に好みだったのは
『詩帆が去る夏』と『梨湖という虚像』での恋人の再現。
『玲子の箱宇宙』『"ヒト"はかつて尼那を……』という、多次元や宇宙を扱った物語。
ここらが読み易く印象に残りました。
美亜へ贈る真珠 〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
梶尾真治美亜へ贈る真珠 についてのレビュー
No.176: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

廃遊園地の殺人の感想

廃墟となった遊園地が舞台のクローズドサークルもの。
廃墟コレクターの資産家よって集められた男女10名。当初のイベントは廃墟を舞台にした宝探し。だがそううまくいかず殺人事件が発生する。廃墟になる原因となった観覧車からの銃乱射事件との関りは……?という流れ。

舞台である遊園地の雰囲気はとても良かったです。
CCの環境で起きる本格ミステリはとても面白い。仕掛けもよいですし、物語の真相となる何故事件が起きたのか?という背景の作り込みがとてもよくて好感でした。
主人公の探偵能力がコンビニのアルバイト経験で表現されるのが面白くてツボ。この主人公キャラを活かして今後も『廃墟シリーズ』として続編が出る事を願います。

さて、物語や雰囲気と事件模様はとてもよいのですが、評価としては芳しくない気持ちでした。
それは校閲漏れがいくつか見られる事。事件現場の情景のイメージ付かなかった事。この2点。例えばP28の序盤で登場人物達の初めましてで名前を名乗っていないのに、相手の名前が描かれている。知り合いなのか?と変な違和感を得るけど、少し読むとこれはミスだと気づく。そのような文章が他にもあるが、そっちは実は伏線で活用されたりする。おそらく小説作りの後半で文章を並び替えたりしてのミスだとおもうのですが、ミスなのか伏線なのか混乱してしまい、後半の真相でこれは伏線でしたと言われても、あの表現はミスだと思ってた……と感じる事がありました。情景がイメージし辛い所もあり、混乱する読者が多いと思いました。

登場人物の名前についてはちょと癖が強くて読みづらい。登場人物一覧を見ながら読書でした。※人物一覧があるのは良かった。
渉外担当だから渉島。売店担当だから売野。編集長だから編河。と分かりやすいようにしている気がするのですが、読書中はイメージし辛い。資産家の十嶋庵(としまいおり)は、"としまあん"⇒豊島園(としまえん)遊園地のもじりかな?とか気づく所は面白いのですが。。

といった具合で読み辛さで残念に感じる所が多かったです。是非とも文庫化の時は加筆修正してもらいたいです。ミステリとして面白いし、見取り図が遊園地のパンフレットになっているなど拘りが楽しい反面、地の文がおかしいと残念な気持ちになります。

廃墟を舞台にしたミステリ。主人公のキャラクター性。遊園地やリゾート開発の背景を含めた村との物語。ここら辺は抜群によくできていて面白かったので、『廃墟シリーズ』として続編を希望です。
廃遊園地の殺人 (実業之日本社文庫)
斜線堂有紀廃遊園地の殺人 についてのレビュー
No.175: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

老虎残夢の感想

序盤苦労しましたが、読書した結果は面白い物語でした。

江戸川乱歩賞受賞の本作。乱歩賞は社会派の作品が多いので勝手なイメージから最初はコテコテ中国の歴史ものかと思いきや、読み終わってみれば若い世代を狙ったライトな能力もの作品と感じました。
江戸川乱歩賞というより同じ版元の講談社ならメフィスト賞のような印象。ここ数年ミステリ界隈では『特殊設定ミステリ』がもの珍しさから流行っている為、江戸川乱歩賞としても新たな読者を得るべく、その設定を取り入れた本書を採用したのかなという思いを感じました。その為のダブル受賞というのを感じます。

序盤の感想として、武侠小説に馴染みがなかった為か開始30ページで挫折でした。最初の1ページから読み辛い漢字の羅列。非現実的で意味不明の環境や会話。正直読むの迷いました。江戸川乱歩賞受賞だから再度読む事に決め、そもそも武侠小説とはどういう物なのか調べてから本書を読み直す事にした次第です。

同じ思いの人がいましたらコツとしてお知らせですが、わかりやすく説明すると本書は能力ものです。
武侠小説×ミステリとすると難しく感じますが、能力もので、超能力・ファンタジーを扱っていると考えたら理解しやすい作品でした。

私のように武侠小説に慣れていない人の為のお伝えメモとして、出てくる能力の説明を。
・外功(がいこう)という能力は、力・筋肉の物理能力。
・向功(ないこう)という能力は、防御・治療の回復系能力。
・軽功(けいこう)という能力は、体重を軽くする能力。達人になる程、高く飛べたり水面も歩ける。
ちなみにこれらの言葉はwikiにも存在しており中国武術の一般知識でした。

そりゃこういう能力が成り立ったらファンタジーになっちゃうから"ノックスの十戒"も中国人を禁止したくなるわと思い出しました。一方、こういうものだと設定として認識できてしまいえば本書はとても読み易く楽しめます。
能力ものと認識できればアニメやラノベをイメージしてスラスラと描かれているシーンが浮かびました。軽功の優れた能力者は湖の横断は船ではなく歩いて渡ったり、『踏雪無痕』という能力になると足跡を付けずに雪の上を歩ける。向功の達人には毒が効かない。ふむふむ、だんだんとミステリの設定条件になってきた。そんな具合で理解です。

これらは序盤で一応説明されますが、文章ゆえか理解し辛いのが本音。登場人物も見慣れない名前でイメージし辛い。
是非文庫化する時は、簡単な能力表、登場人物表、周辺地図や現場の図を添えると評判がより良くなると思います。手に取って最初の数十ページの印象が難解過ぎます。50ページぐらい読むと雰囲気と会話文主体で読み易くなりました。文章の雰囲気が違うので加筆して調整したのかな。

中盤以降は、限られた個性的な人物達のやりとりがキャラものとして読ませますし、謎の提示やそれぞれの立場からの議論は面白く読めました。ただミステリとして残念なのがファンタジーの能力ものの条件が曖昧な事。何ができて何ができないのか、現実とは異なる能力が存在する世界なので、条件が定まっていないと、実はこんな事ができます・起きていましたと言われても後出しに感じるのです。

"江戸川乱歩賞"として見ると違和感があるのですが、ミステリを気にせず1つの物語としては本書は面白かったです。
『老虎残夢』というタイトルはカッコよく内容に合ってるのが好感です。表紙のイラストもよくて、今までの乱歩賞のイメージを変える作品に位置付けられているんだなと感じました。宣伝方法から新しい読者を得たい気持ちを感じますが、最初の数ページが難解で、試し読みで敬遠されてしまいそうなのが気がかりにも感じました。

1つの物語として完結していますが、紫苑を主人公とした異なる物語をもっと読んでみたいなと思いました。旅物語ならシリーズ化できるぐらい良い設定と魅力ある舞台です。次作があるなら楽しみです。
老虎残夢 (講談社文庫)
桃野雑派老虎残夢 についてのレビュー
No.174:
(4pt)

Ghost ぼくの初恋が消えるまでの感想

表紙のイラストとタイトルに惹かれて購入。

連続殺人事件の被害者となった幼馴染のお姉ちゃん。10歳の主人公の元に幽霊となって現れ、被害者がこれ以上増えないように殺人犯逮捕に向けて行動するという始まり。著者の作品に触れるのは久々です。

幽霊を用いた青春物語。事件やミステリ要素はありますが謎解きを楽しむものではなく、主人公の少年の成長と当時の姿のままのお姉ちゃんの幽霊との淡い物語がメイン。設定からしてどう展開しても万全のハッピーエンドになり辛い状況なので、読んでいて心苦しい。登場人物の雰囲気や物語の起伏についても明るさはなく、良い意味では落ち着いてますが、主人公の理人もまわりの友達も負の感情の雰囲気が立ち込めていて重苦しい読書な為、個人的に苦手でした。

詳しくはネタバレで書きますが、学園青春ミステリとしての負のテーマである"いじめ"を取り入れていますが、その解法の扱いが自己成長というより環境によるものなので、何か得たり感動する点がなかったのが残念でした。
最終章の最後の一文も中途半端。はっきりすればいいのにと思いました。ネタバレで後述。という事で☆6-2(好みに合わない点が多い)気持ちの点数でした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
Ghost ぼくの初恋が消えるまで (星海社FICTIONS)
天祢涼Ghost ぼくの初恋が消えるまで についてのレビュー
No.173: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

法廷遊戯の感想

作品テーマや物語の構造はとても素晴らしかったです。ただ好みでいうと何とも言えない気持ちになる作品でした。

2020年度のメフィスト賞受賞作。最近のメフィスト賞からイメージする緩さはなく硬派な社会派作品でした。
タイトルから感じる通り法廷ミステリの部類。そして特徴的なのは、事件を主軸に争う法廷ミステリというより、法律自体がメインとなっている作品。法律の紹介、その法律に従い動く者たちの姿が強く印象に残りました。

読書中の正直な気持ちとしては好みではなく楽しめませんでした。
なんというか、事件の報告書を読んでいる気分。登場人物達が曲者で好きになれない為、誰にも感情移入できません。なので俯瞰して物語を眺めますが、事件模様の描き方がエンタメという起伏ある魅せ方というより、淡々と何が起きたのか描かれているような感覚。それでいてミステリとする為に出来事を小出しにしている為、全体像が掴めず物語が良く分からなくて退屈という気持ちでした。

終盤はそれまでに散らばった各エピソードが意味を持って繋がり全体像に驚きます。ただその全体像が見えた時はなんとも言いようのないイヤミスのような嫌な印象でした。本書の紹介帯では『感動、衝撃の傑作ミステリ』とありまして、確かに言葉の意味通り感情が動かされた"感動"となりますが、印象は悪い意味でどんよりさせられました。ミステリとしては巧いです。
これは人により好みが分れるかと思います。

読者に身近な事件を扱い、それによる負の連鎖、冤罪や贖罪を体感する作品としては傑作なので社会派好きにはオススメ……かも。ただ個人的にはちょっと合わない作品でした。
法廷遊戯
五十嵐律人法廷遊戯 についてのレビュー
No.172: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

呪殺島の殺人の感想

設定は面白いのですが、雰囲気作りや言動がそぐわなかったのが残念に感じました。

内容は呪われた孤島を舞台にしたクローズドサークル・館もの。屋敷を舞台に密室殺人から始まる連続殺人が発生。タイトルからしてミステリ読者がターゲットなので、ミステリ好きが好む要素を盛り込んだ作りは好感でした。冒頭にて主人公が目を覚ますと遺体と一緒の密室内にいるシチュエーション。さらに記憶喪失で状況不明。主人公と読者の情報量を合わせ、何が起きているのかという所から始まる物語です。

さて、これらの設定や要素はとても興味が沸きました。ただ残念なのが雰囲気作りと各人の言動です。悪い意味でライトな扱いになっていました。タイトル『呪殺島』にある通り一族が不幸な死を遂げる呪いを扱いますが、おどろおどろしさがなく、そもそも"呪い"を何で扱ってしまったのかと疑問に感じるほど意味がない。ただ単に人が多く死ぬ理由付けでしょうか。
登場する人物達の会話も緊張感がなくライトというよりボケや冗談を聞かされているように感じます。笑い話な感覚での会話であり、真面目さが感じられない。それでいて大事な所は急に固い口調で説明される。
例えるなら映画やドラマで役者のセリフが棒読み過ぎるとシラケますがその感覚に近いです。無理して悲鳴を上げたり推理しているのですかと感じる。特に主人公が大根役者で、言動が軽すぎて作品にまったく没入できませんでした。

所々に好みはあるのですが、残念に感じた読書でした。
呪殺島の殺人 (新潮文庫nex)
萩原麻里呪殺島の殺人 についてのレビュー
No.171: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

大聖堂の殺人 ~The Books~の感想

堂シリーズ完結。
メフィスト賞を受賞してデビューした『眼球堂の殺人』は理系の本格ミステリとしてシリーズを期待させるものでした。2,3作目と少しパワーダウンしましたが、4作目『伽藍堂の殺人』からは物語を様変わりし最後に向けて出来る中での物語を作り上げて、ちゃんと完結させたという所は評価です。
毎回の読後感は謎の勿体なさを感じる気持ちで不満が多いのですが、読みたくなる魅力は備わっていました。数学的な話や本格ミステリ、キャラクター達は気になる方々。今回最終回ということで主要な人物達を出してまとめているのは改めて最後なんだなと寂しさを受けました。

ミステリの仕掛けについて思う所として、4作目ごろから本作品は理系の本格ミステリ傾向の中、題材やトリックは数学的な机上の空論であり、実際にそれができるのかという物理的制約が無視されているのが気になりました。面白くて派手ならいいでしょという感覚が見え透いております。物語は数学なのにミステリの解決は論理的ではなく、トリックは物理的なのに現実では実現できない。このちぐはぐが残念な印象を受けました。

本作ではシリーズに出てくる大ボスの数学天皇の藤衛が登場しました。最終回という事で風呂敷を閉じる意味で出てきたのもありますが、なんというかしょぼい幕切れかなと。
このシリーズをリセットさせたいのか、読者に好まれるキャラクターがいなくなってしまっているのが残念。個人的に好むキャラは善知鳥神ぐらいでした。十和田も1-2作目の頃は好きですが、それ以降はちょっとね。

途中で辞めず最後まで読みたくなったシリーズとしての魅力。物語が完結したという所の評価で☆6。
大聖堂の殺人 ~The Books~ (講談社文庫)
周木律大聖堂の殺人 ~The Books~ についてのレビュー
No.170: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~の感想

堂シリーズ6作目。残り1冊で完結の最終巻前。
単体のミステリを楽しむ作品という感覚ではなく、シリーズとしての物語を楽しむ作品でした。
本書はシリーズを順番に読んでいる人向けの作品となります。

本作は過去編。
シリーズ内の重要人物として挙がる沼四郎や藤衛などが会し2名の被害者が出たとされた過去の事件。
鏡で覆われた堂での事件となります。最終回に向けて風呂敷を畳んでいくような印象でした。

ミステリ単体で見ると事件内容は大味なのですが、シリーズ作品として見れば、本シリーズ特有の館ものとしてのお約束や、理系要素を用いた仕掛けが楽しめました。
トリックも物理的や現実的にどうかとか、このシリーズに関してはもう気にしなくなりました。なんか凄い事をしているという雰囲気で押し通しちゃう感じですね。ここまでくればこれはこれでアリかな。

次回最終回。残りの登場人物達がどう動くのか楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~ (講談社文庫)
周木律鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~ についてのレビュー
No.169: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

予言の島の感想

『初読はミステリ、二度目はホラー』のキャッチフレーズの本書。
2度読みを謳う作品は警戒しつつも手に取ってしまう性分であります。

さて、結果としては宣伝に偽りなく2度読みしたくなる要素を兼ね備えた作品でした。とある意味でミステリからホラーへ変容するのはとても面白い。終盤は見事です。

ただ正直な所、読書中は面白くありませんでした。
率直な理由として非常に読みづらい。文章から情景が浮かばず読んでいて混乱でした。
著者のデビュー作『ぼぎわんが、来る』は読書済み。ホラーとミステリの融合の面白さ、そして雰囲気も然ることながら読み易さが印象的でした。が、本書は同じ作者なのかと疑う程に文章が分らない。今この場に誰がいて何処で何をしているのか混乱が多い読書でした。その為、物語を楽しむ事ができませんでした。
霊能者や番組の参考として宜保愛子や上岡龍太郎など、芸能人の名前を挙げますが知らない人は余計な登場人物名ですし、ファミコンのゲームソフトの「くにおくん」など挙げる必要があるのかわからないノイズが多かったのも気になりました。横溝、京極、三津田…と、作家の名前を挙げて現実感を出す表現も違和感でした。

本書の評価は最後のネタをどう楽しむかに集中するのではないでしょうか。
初読はミステリと言えど、途中の被害者などの事件模様の印象は残らなかったです。
とはいえ最後のネタは面白かったですし、2度読みしたくなるのは間違いないので好みの問題でこの点数で。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
予言の島 (角川ホラー文庫)
澤村伊智予言の島 についてのレビュー
No.168: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

その日彼は死なずにすむか?の感想

タイムリープ。人生やり直しもの。
17歳の男子高校生の主人公が爆発事件に巻き込まれてしまう。死の直前の世界で、7年前に戻りそれから7年間で全ての"奇跡の欠片"を集める事が出来たら生き残れるというゲームが提示される流れ。

記憶を保ったまま10歳の小学生からやり直す作品ではありますが、俺つえぇ系の知識をひけらかす内容ではなく、子供心として、あの時ああしていれば良かった、勇気が足りなかった、という後悔を改善して行動に移す姿を表現した作品に感じました。

読後に感じた事なのですが、この本は著者の後悔や願望なのでは?と思いました。
外国からきた金髪の女の子、趣味が通じる女の子、近所の年上のお姉さん、その時々に正しい選択をした事で仲良くなっていくのですが、何となく心境というか結果の盛り上がりの雰囲気から著者の昔の後悔や願望を感じた次第です。タイムループや死の回避の話の影は薄く、女の子との日常の楽しさの方がよく描かれており、恋愛ものゲームのフラグ回収のような感覚も受けた次第です。著者あとがきにソフィアのモデルがいましたとあったので、子供の頃の気になった人を投影したのかなと感じます。

悪い印象などの不快感はないのでサラッと読めますが、物語よりも著者の願望を強く感じた印象で、好みとしてはこの点数で。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)
小木君人その日彼は死なずにすむか? についてのレビュー
No.167: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

探偵はもう、死んでいる。の感想

タイトルから感じるミステリ系の探偵ものではなく、個人的にイメージするザ・ラノベを感じる作品でした。
既に死んでしまっている探偵、能力者たち、モンスターのような化け物とのバトル、といった具合に、ラノベ・アニメ系のテイストを混ぜ込んだ作品であり、根底となる本筋は、探偵の女の子と過去に関わりがあると思われる主人公の男の子の青春もの。多ジャンルを混ぜ込んだ作品です。

作品自体は良く出来ており、読み辛さもなかったのですが、個人的な好みの問題でこの点数で。

序盤は惹き込まれましたが、その後はあまり好みではありませんでした。主人公とヒロインとの関係についても、死んでしまっているシエスタに思い続ける主人公の様子に共感が得られずです。ヒロインと感じる夏凪渚がサブに追いやられて可哀そうな感想でした。ちゃんと夏凪渚とシエスタとの意思を描いているので、夏凪渚本人は可哀そうではないのは分かっているのですが、ただのイタコのようにも感じてしまい、ここの所が好みに合わないきっかけになったかもしれません。

多ジャンルを混ぜた作品として整っていますが、他にはないこの作品ならではの尖った要素が1つあればもっと良かったと思いました。
探偵はもう、死んでいる。 (MF文庫J)
二語十探偵はもう、死んでいる。 についてのレビュー
No.166: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

スパイ教室01 《花園》のリリィの感想

スパイ小説×ライトノベル。キャッチフレーズとなったキーワードは『騙し合い』。
『このライトノベルがすごい2021』の上位に掲載されており、内容が気になったので手に取りました。

読書前に期待していた『騙し』の要素はきちんとあり、ミステリを読みなれていない層には巧くいくと思われる……。歯切れが悪いのは、それをする為に物語を楽しむ要素が犠牲になっている点が多いと感じられた事です。詳しくはネタバレ側で。

ライトノベルとしてのキャラクター性はどうかというと、本書の表紙のリリィと先生の2キャラぐらいしか魅力がないと思いました。2巻、3巻と巻数を重ねる毎に一人一人にスポットが当てられていく構成だと思われます。なので本書単体で見ると各人の能力も未知数のままですし、主人公の能力が何かキーになるかというとそうでもない為、特定のキャラに魅力を持つという事が難しい状況でした。印象に残ったのは、最強な先生との駆け引きと、ドタバタのスパイ教室ぐらいな次第。

スパイ小説とはいえ、ライトノベルの雰囲気の明るさ・軽さで読みやすいのは好感。
ただ本格的なスパイ小説を読む方には非常に物足りなく感じるので、仕掛けにしても濃い一発が何か欲しいと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
スパイ教室01 《花園》のリリィ (ファンタジア文庫)
竹町スパイ教室01 《花園》のリリィ についてのレビュー
No.165: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

スロウハイツの神様の感想

多くの方のレビューにある通り、上巻で辞めずに下巻まで読んでの意味が分かりました。
上巻は正直な気持ちとしては退屈でした。
最近『かがみの孤城』を読んで惹き込まれたので、著者のボリュームがあって敬遠していた過去作の本書を手に取った次第ですが、この頃の作品の構成は合いませんでした。

前半は登場人物の紹介と創作に関わる作家の卵達の物語。
何か刺激的な事が起きるわけでもなく日常ベースの展開。刺激的な要素として一応冒頭にて作品の影響による大事件が起きた事が描かれますが、この内容後に400ページ近く緩やかな物語を読むほど求心力を受けなかったのが正直な気持ちです。登場人物達の描き方も視点を変えて読む為、誰かに感情移入して深く読むこともありませんでした。一人気持ちがわかると思ったのは編集者の黒木でした。作家の卵達とは違い編集という版元に近い位置にいる彼。発言やドライな感覚がその立場としてよく伝わりました。
上巻はまったく合わずでしたが下巻の後半は確かに面白い流れでした。
波が立っていないスロウハイツに波紋が広がっていく展開は、やっときたかと思いながら楽しみました。終盤と読後感は良いものですが、それに至るまでが好みに合わず。

誰かに感情移入できなかったり展開が遅かったりという不満は『かがみの孤城』では全くない為、著者の成長前を感じる作品という印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)
辻村深月スロウハイツの神様 についてのレビュー
No.164: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

ネメシスⅠの感想

ドラマと連動した企画もの作品。ネメシスシリーズとして担当話ごとに作家が変わるという試みの作品。
1作目は『屍人荘の殺人』の今村昌弘。最初にこの著者を持ってくるあたりは流石の采配だと思う。私自身、ドラマは見ていないのですが著者の作品という事で手に取った次第。

作品雰囲気はユーモア傾向。殺伐さはなし。
探偵事務所に所属する探偵と、その探偵以上に推理力がある女性のコンビによる事件簿。
ミステリとしての事件や謎解きの面白さはありますが、本格志向ではなく、あっさり小ネタ集の印象でした。

"ドラマ化と連動している"という前知識に引っ張られた感想かもしれませんが、正にドラマの脚本を意識した中身であると感じます。事件や推理の展開を描写するというより、パーティー会場や遊園地といった事件現場の施設の情景が印象に残りました。登場人物については特徴があまり感じられず、"探偵っぽい男性"や"実は天才の少女"みたいな設定で、現代作品では特徴がないというか華がないと感じました。

もし作者名を隠して読んでいたら今村昌弘作品とは気づかないと思います。ただ、本書の目的がドラマ化の為に映像や主演者に華を持たせる為の脚本物語として書かれたと捉えると、オーダー通りのものを作り上げたという印象になります。そして連作企画で複数作家によるリレー小説である事を考えると、著者の個性を主張しない塩梅で描いたとも思う為、そういう点では著者の技量が優れていると前向きにも感じました。文章もすんなりサクッと気軽に読める作品です。ただ、物語の内容評価としてはあまり印象に残らないのが正直な気持ちでした。
ネメシス1 (講談社タイガ)
今村昌弘ネメシスⅠ についてのレビュー
No.163: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

鈴木ごっこの感想

多額の借金が原因で集められた男女四人。借金をチャラにする条件として提示された責務は見知らぬ男女4名で鈴木として家族ごっこを行う事だった。

目的や展開が不明の物語。
正直な所、読書中の気持ちは面白くなかった。男女4名が混乱する展開ではありますが、会話の内容がコメディタッチであり、下品な内容も含まれた、くだらない内容に辟易でした。
2-3点ぐらいの気持ちで終盤まで読むと、実はこうだったという話のオチが明かされますが、この内容はなかなか良かったので少し加点。特に何か残るという作品ではなかった気持ちでした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
鈴木ごっこ (幻冬舎文庫)
木下半太鈴木ごっこ についてのレビュー
No.162:
(6pt)

昨夜は殺れたかもの感想

コメディタッチの夫婦の殺しあいサスペンス。本書は企画もの。2人の著者によるリレー小説。
夫側は藤石波矢が担当し、妻側は辻堂ゆめが担当。片側が仕掛ける殺しの罠に対してもう一人の著者が巧く回避し今度は逆に罠を仕掛けるという応酬を行う。殺し合いという内容ですが、殺伐さはなくコメディ色の雰囲気作品です。

内容から個人的に好きな映画の『Mr.&Mrs. スミス』を思い浮かべました。作中にもこのタイトルが出てきたので、遠からずな設定です。企画ものとしての内容は面白く、本文も2人の著者が描いたとは思えないぐらい両者の文章が馴染んでおり、雰囲気ともども良い読書でした。
ただ、個人的に好みに合わなかったのは、夫婦の些細なきっかけで殺し合いになってしまう所。それを言ったら本書の企画で元も子もないかもですが、今まで良き夫婦の二人が急に殺意を抱く展開は違和感でした。映画の例ですとお互い元殺し屋という設定がある為、互いの仕事の殺し合いが活きてきて面白さに繋がりますが、本書は普通の夫婦でそれまでは険悪な仲でもありませんので、そんな二人が急に殺意を抱く思考が腑に落ちませんでした。

2人の著者による殺しと回避の応酬を描いたものとして、作品を作っている最中、もしくはこれがリアルタイムでの連載ならより楽しい気がします。ただ、この趣旨を知らなかったり、本書単体を読んだ感想としては、繰り返される小ネタのような殺し&回避の流れは退屈にも感じました。驚きとかなく相手の著者は巧くかわしたなという感想なので、それが物語として面白いかは別だと思った為です。最後は綺麗にまとまり良かったです。
昨夜は殺れたかも (講談社タイガ)
藤石波矢昨夜は殺れたかも についてのレビュー
No.161:
(6pt)

スクールカースト殺人教室の感想

あらすじとイラストの雰囲気からライトミステリを予想していたのですが、中身は堅実に捜査を進める警察小説のような作品でした。あらすじには、"バトルロワイヤル"、"復讐ゲーム"、と言った若者向けなワードがありますがそういう作品ではありません。コツコツと捜査を進め、クラス内で何が起きているのか全貌が見えてくるタイプの作品です。中身に沿わない宣伝は好きではありませんが、作品自体は面白く読めました。

担任の先生が殺害された1年D組。表向きの担任の姿は人気の先生らしいが、警察がクラスの生徒達から事情聴取を進めていくと、違った素顔が見えてきます。そして、クラス内の権力図、学級崩壊、いじめ、といった問題が浮かび上がってくる流れ。

学校内の悪い所が描かれ、暗く気分が悪くなるような話で読書の雰囲気は重め。ただ文章は読みやすく、警察の捜査と共に全貌が明かされていく展開は惹き込まれました。
本書の難点というか改善してほしいと感じた点は、登場人物の名前。苗字で呼んだり、下の名前で呼んだり、人物の把握が分り辛くなる所を感じました。フォローの為に帯裏に名前と関係図が載せてありましたが、本編に掲載しても良いのではと思いました。

中学・高校生向けの学園ミステリとしては良いバランス。気分が悪くなる所も含めて良い塩梅かなと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
スクールカースト殺人教室
堀内公太郎スクールカースト殺人教室 についてのレビュー
No.160: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

天国までの49日間の感想

書店で多く平積みされていたので手に取りました。
小中学生向けのいじめをテーマとした物語。ミステリ要素はほぼなく若い世代向けの社会派小説です。
自殺をした少女が成仏するまでの49日間、幽霊として家族や加害者や学校のその後を見つめる話。

話の流れだけ拾ってしまうと良くある物語ではありましたが、
小中学生を読者ターゲットとして、いじめ問題を読みやすく触れさせる事を考えると中々良く出来た作品に感じました。
毒々しさも控えめで、優しすぎる展開については大人心では軽過ぎますが、死者から見る被害者・加害者・関わった人の心の例を物語として触れる分にはアリかと。良い意味で文章はサクサク読めるので、嫌な気持ちになり過ぎずに読めるのが良かったです。

国語や道徳の教科書では真面目で固くなりそうな内容を、本書の少しファンタジーな物語としてなら読みやすい。
小中学生の読書感想文の題材としてもアリかもしれない。そんな事も思いました。
天国までの49日間 (スターツ出版文庫)
櫻井千姫天国までの49日間 についてのレビュー