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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数239

全239件 21~40 2/12ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.219: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

十戒の感想

昨年の話題作『方舟』に続く旧約聖書の言葉をタイトルとした『十戒』。
本書単体でも楽しめますが読書する場合は『方舟』を先に読んでからを推奨します。

孤島を舞台としたクローズド・サークルもの。
携帯も自由に使える現代的な状況ですが、犯人の指示する十の戒律を破った場合は島ごと爆弾で爆破させるという縛りが一品。助けを読んだり勝手に脱出できないなど、行動が規制される状況を生み出しているのが巧いです。状況設定やミステリの要素は面白かったのでそこを評価する人には良い作品です。

一方個人的に点数がそぐわない理由について。
文章や表現が分り辛いというか煮詰まっていなくて内容の把握が困難でした。
人物については誰がどんな人なのか分り辛かったです。人数が少ないクローズド・サークルものなのに誰が話して何をしているのかイメージが沸きませんでした。この人は男なのか女なのか分り辛い人もいて名前が認識し辛い記号的でした。
内容については十の戒律に従うキャラ達の動きが何だか不自然で滑稽でした。そんなに簡単に従うの?もうちょっと抗おうよとか、投票で犯人に考えが正しいか確認するところにおいては、そこで何か抵抗して捕まえたりできないの?などなど状況のリアルさが感じられず皆不自然な動きです。要素や設定だけ並べているような文章でして、もう少し読者が納得し得る状況が伝われば良いなと思う次第。『方舟』で感じた文章の妙は弱く、この状況において緊迫感や恐怖というものが感じられないのが残念です。会話文も練られていないのではないでしょうか。色々と不自然でした。

『方舟』が売れたので1年後に向けて急遽2作目の本書を出版したかのような煮詰まっていない文章を感じました。
ミステリ要素は面白いので、文庫化の時は加筆調整してもっと魅力的な作品になればよいなと思う気持ちでした。

終盤のとある理由から3作目も期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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十戒
夕木春央十戒 についてのレビュー
No.218: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

でぃすぺるの感想

ちょっと個人的に読み方を間違えた感がある為、点数については恐縮な所ですが合わなかった作品でした。
真相についても好みが大分別れそうな気持です。

ミステリーとしてどうかというと本書はルールが不明確な苦手なタイプ。謎を楽しませる場合は前提条件がなんなのか読者に感じさせてほしい次第。この作品内のルールが巧く伝わらなかった為、何でもありに感じてしまい楽しめなかったのが正直な気持ち。

ミステリー抜きにした物語としてはどうかと言うと、少年探偵団模様で友達と協力して事件を調査する様子は面白かったです。ただ小学生にしては行動力や発言や思考回路が大人びている為、高校生ぐらいな印象を感じます。調べる事件の内容も小学生向けではないのでちょっとチグハグ感がありました。
七不思議を扱いレトロな雰囲気を描いているかと思いきや、現代的なSNSが突如活用したりとなんだか巧く噛み合っておらず、場の情景が浮かばない説明を読んでいるような読書した。例えば読後に七不思議はそれぞれどんな話だった?と振り返っても思い出せないぐらい設定が盛り込んであって一言で言い表せない。そういうのってリアルなオカルトとしても伝承し辛い為、七不思議として違和感があるのです。その為、私的には七不思議の各話は統一されたオカルトというより異なる短編を平行しながら読書をしなければならず混乱の読書だった次第です。低点数で失礼。

▼以下、ネタバレ感想
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でぃすぺる
今村昌弘でぃすぺる についてのレビュー
No.217: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

夏へのトンネル、さよならの出口の感想

表紙のイラストとタイトルに惹かれて手に取りました。
SFの『夏への扉』に合わせたタイトルを感じる通りタイムトラベルを扱う作品です。

序盤は主人公男子の生活が悲観的で、家庭や学校の問題が憂鬱な気持ちにさせるどんよりとした物語のスタート。章のタイトル"モノクロームの晴天"がなかなか良いセンスだと感じます。そんな日々のある時に都市伝説となるトンネルの発見と変わった女子の転校生により物語が変わっていくという流れ。
転校生の花城あんずのスタンスが面白く、学校や主人公へ変化をもたらしていく序盤はかなり面白く読めました。トンネルの発見と協力して謎を解き明かしていこうという展開も面白い。

ただ4章でガラッと何かあまり求めていない設定やら情報を読まされるような流れになってしまったのが残念な気持ち。ただ5章の緊迫感は時間もののSFをとても感じて良かったです。

序盤が良かっただけに何かが足りないようなスッキリしない読後感でした。
夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)
八目迷夏へのトンネル、さよならの出口 についてのレビュー
No.216:
(6pt)

死神と天使の円舞曲の感想

知念実希人の死神シリーズ3作目。シリーズは順番に読んだ方がよいです。
タイトルが『円舞曲(ワルツ(3拍子))』とある事から3を用いた作品作りを意識されていると感じました。

猫のクロ視点での物語と犬のレオ視点の物語。久々のシリーズ本である事もあってか前作までのキャラが続投です。
久々の読書でしたがクロもレオも変わらず良いキャラで楽しい読書でした。犬と猫が共闘して事件を解決する様は良いと思います。

一方このシリーズで毎度思う事なのですが、本シリーズはハートフルで動物キャラは優しい雰囲気なのですが事件内容が結構シビアなのですよね。作品内としてはギャップを描いているのかもしれないですが、表紙の雰囲気含むハートフルな物語を期待する人に薦め辛い内容なのが個人的に思う所です。
ちょっと軽めで癒し系のようなライトミステリを読みたい方には事件が合わないと思うし、ミステリを期待する人にもちょっと違う気がするという印象です。私自身も死神キャラは好きなのですが人間側のキャラや事件内容が合わなかった為、面白かったとは言いづらい感想でした。

▼以下、ネタバレ感想
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死神と天使の円舞曲 (光文社文庫 ち 5-6)
知念実希人死神と天使の円舞曲 についてのレビュー
No.215:
(6pt)

私雨邸の殺人に関する各人の視点の感想

クローズド・サークルの館を舞台としたミステリで雰囲気はとても好みでした。

不思議な雰囲気模様な作品でして、登場人物達が「これがミステリだったらこうなるよね。」というメタ的な思考を持って動いていると感じるのが面白かったです。ある程度本格ミステリを読み慣れた方が、事件現場はこうだよね、演出や犯人はこうなるというお約束で期待する展開を作中内のキャラは理解しており、読者が期待する動きを自覚して行動していると感じます。

タイトルにある『殺人に関する各人の視点』と表現している通り、ミステリという事件模様を読者がどう感じるかを登場人物達が代弁しているような雰囲気を持つ作品です。ただ残念な点は各人の視点とあるのですが実際の所登場人物達の半分の視点しかなく、さらには各人の視点で得られる情報がミステリの仕掛けになることもなく、驚きの真相を得られるというものでもない事。ワクワク期待する要素が豊富なのですが、期待すればするほど終盤はあっさりに感じる為に読者の期待と結果が合いづらくて好みが分れそうな作品だと感じました。

表紙やタイトルや作中の雰囲気はとても好み。ただ肝心の事件や真相のミステリ部分はとくに印象に残らない為、消化不良なのが正直な気持ちです。この感情は作中の二ノ宮と読者をあえて合わせている企みなのかもしれませんね。なんか読後感がスッキリしないのが残念でした。
私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優私雨邸の殺人に関する各人の視点 についてのレビュー
No.214: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

蒼天の鳥の感想

2023年度の江戸川乱歩賞受賞作。

表紙やあらすじの雰囲気から歴史もので難しそうな印象を受けますが、中身は大正時代の少年探偵もので堅苦しくなく楽しめました。

著者の出身地である鳥取県を舞台にしており、実在する鳥取県の作家田中古代子と田中千鳥(子供)を主人公とした物語です。江戸川乱歩の少年探偵に出てくる怪盗21面相の参考になったとされる、実在する作品『兇賊ジゴマ』も用いており、乱歩の少年探偵の雰囲気をとても感じた読書でした。著者は名探偵コナンの脚本家でもあるという売り出しをされていますが、読んでみるとなるほどと思いました。よくよく考えてみたらコナンも乱歩の少年探偵をモチーフにしていますので、著者の鳥取愛と乱歩作品の想いが十分に盛り込まれて生み出した作品であるととても強く感じます。

ミステリとしての乱歩賞を期待すると個人的にちょっと違う感覚だったのですが、乱歩を感じさせる著者の物語として楽しめた作品でした。
また終盤はとてもコナンを感じました。7歳の千鳥の小さな名探偵模様や、ピンチの時や犯人との対峙シーンなど、頭に浮かぶ画が正にコナン模様でニヤリとしました。良い意味で安心の演出。

読後は田中千鳥の詩をWEBサイトで拝見。実際に子供の時の詩の作品が残っているのかと驚いた次第でした。
蒼天の鳥
三上幸四郎蒼天の鳥 についてのレビュー
No.213:
(4pt)

偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理の感想

交番のおまわりさんが探偵役となる、犯人視点の倒叙ミステリの連作短編集。
泥棒やら詐欺やらの犯罪をどのような言動から見抜くのかという物語。
日本推理作家協会賞受賞作の短編『偽りの春』を含む作品集である事から手に取りました。

正直な感想としては好みの相性が違った作品でした。
読み易い作品でしたが雰囲気が暗くて馴染めませんでした。個人的な読書の心構えの問題だったと思いますが、交番のおまわりさんが探偵役での街中の犯罪ものにしては登場人物達が総じて陰気な雰囲気を醸し出しており、物語やセリフなど読んでいて気が重い読書でした。また犯人の言動から推理するというより、犯人側が取り調べに狼狽えて余計な事を喋ってしまったようなミスが手がかりに感じられた為、推理ものとしても好みと違うものでした。
偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理 (角川文庫)
No.212:
(6pt)

幽世の薬剤師の感想

怪異が存在する異世界が舞台の医療ミステリー。
医療もののミステリーとなりますが、物語のメインは異世界を舞台にしたファンタジーです。
シリーズものの1巻目の為、人物や舞台説明などが主体に感じました。
序盤は真面目な固い雰囲気のファンタジーでしたが、登場人物達が「お互い敬語は無しで」みたいな雰囲気になってからは会話が軽くなり文章含めて著者らしいライトノベル模様でした。

異世界での怪異を現代医療で解決するとはいえ、読者が同じ目線で推理する類ではなく、医者目線の医療知識をもって解決する傾向です。
世の中の他のレビューにもありますが、同じ新潮文庫nexから出版されている知念実希人の天久鷹央シリーズを現代版とするなら、今作がファンタジー版という印象をとても感じました。同じ担当編集なのかな。同じ客層をターゲットにしていると感じます。
怪異の認知設定も城平京の虚構推理シリーズ模様であり、パロディとも違うので、本書の特色が見え辛いのが正直な気持ちでした。表紙や雰囲気は好みです。シリーズ1巻目でまだまだ続巻もでているシリーズなので、今後どのように展開されているのかなと思う次第です。
幽世の薬剤師 (新潮文庫)
紺野天龍幽世の薬剤師 についてのレビュー
No.211:
(5pt)

ホテル・ピーベリーの感想

新装版の雰囲気に惹かれて手に取りました。
読後の気持ちとして、帯にあるようなミステリーを期待すると肩透かしを受けると感じました。

本書はミステリーとしてではなく、旅先で体験した非日常の出来事ぐらいの感覚で楽しむお話です。
舞台はハワイにある一見さんのみ宿泊可能なホテルのお話。ハワイの雰囲気がとてもよく描かれていて旅行気分を味わった作品でした。
旅先で出会う人たち、その場の縁、ある意味ドライな関係性はリアルに感じました。旅先で出会う人にそんなに深入りはしない為、どんな事情があっても他人事な感覚になります。あえて悪い印象で表現すると、どうでもいいかなと言うような気持ちのエピソードになる為、その気持ちが本書の物語への惹かれ具合となった次第。
ハワイの晴れやかな雰囲気とは対象的に後ろめたさやじめじめしたエピソードな為、あまり好みの物語ではなかったのが正直な気持ちです。
ホテル・ピーベリー<新装版> (双葉文庫)
近藤史恵ホテル・ピーベリー についてのレビュー
No.210: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

レモンと殺人鬼の感想

SNSや書店で話題になっていたので手に取りました。
表紙の絵柄とコロナ禍も相まって口元を隠す帯の作りは巧いな思います。ブックデザインが印象的。
帯やポップなどで、どんでん返しものとしてPRされているのですが、読後の感覚ではそれを期待するものではないと思いました。過剰な宣伝により読者が期待するものと違った読後感になり、不当な評価に繋がってしまいそうです。

本書はイヤミス系統。通り魔により家族を失い不幸になった者の視点で描かれる異常者の物語です。
ミステリーというより文学的な要素の組み合わせが面白い作品でした。タイトル『レモンと殺人鬼』からして何故にレモン?と興味を引く要素のセンスが巧いです。
家族経営の洋食屋。レモン。父と娘のエピソード。その他もろもろ、個々のエピソードが良く考えられており面白い。ただそれを仕掛けあるミステリーにするべく捏ね繰り回した後半は過剰な展開に思えた次第です。

あとがきにて著者が本書で描いたのは「ヤバい人」とあったので納得。ヤバい人の物語を期待して読むとその通りな作品。ただ異常犯罪ものだとしても個人的には何か突き抜けたものが無くてあまり印象に残らなかったのが正直な気持ちです。最後のシーンは好みでした。

▼以下、ネタバレ感想
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レモンと殺人鬼 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
くわがきあゆレモンと殺人鬼 についてのレビュー
No.209:
(6pt)

ゴリラ裁判の日の感想

とても個性的な作品でした。
メフィスト賞受賞作である本書。ミステリーとしてではなく個性的な物語としての受賞であると感じます。

あらすじにある通り、アメリカで実在したハランベ事件をモチーフにした物語です。タイトル『ゴリラ裁判』が示す通り、読書前の印象は裁判ものだと思っていたのですが、読み終わった現在では違う印象を持ちました。

裁判ものというより、SF作品の宇宙人と地球人との違いみたいな人種問題を扱った作品の印象です。「人間とは何か?」を問いかける物語を宇宙人でなく親しみやすいゴリラを用いて行われています。
読書中の気分はハヤカワの海外SFを読んでいるようでした。文章が海外翻訳の本を読んでいるような感覚であり、登場人物もゴリラ含めてカタカナ名かつ舞台も海外なのでより強く感じた次第です。良し悪しや好みの意味ではなく、単純に文章が海外作品っぽいと思っただけです。物語はイメージしやすく読み易かったので好感。

本書のテーマとなっている所は社会派模様なのと後半の裁判の説得の仕方があまり共感できなくて好みと合わなかったのが正直な気持ち。ただ序盤のカメルーンでのゴリラの生活物語はワクワクして楽しみました。個性的な物語を描くのでデビュー後の作品にも期待。
ゴリラ裁判の日 (講談社文庫)
須藤古都離ゴリラ裁判の日 についてのレビュー
No.208: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

最後の鑑定人の感想

科学捜査もの。推協賞にノミネートされていたので手に取りました。
元科学捜査研究所にいた風変わりな鑑定人が探偵役。確かな技術力をもって弁護士や判事から依頼を受けて事件の真相を暴くというもの。作風はリアルで硬派なので扱う事件も重苦しい部類です。ただ読み辛いという事はないです。
でてくる単語が専門用語寄りなので、理系や科学捜査ものが好きな方向けの作品です。

1話目『遺された痕』
読者を掴む1話目で扱う事件は性犯罪です。最初にこの事件を配置しているあたりで本書は軽いミステリではなくて硬派な作品なのだなと気を引き締めた次第。本書は楽しく読む作品ではなく事件を真摯に科学を通して見つめる作品だと雰囲気を感じ取りました。
2話目『愚者の炎』
ベトナム人技能実習生による放火事件。これは社会派ミステリ模様でした。1話目2話目と読み進めるとフィクションの小説というより現実の事件の捜査模様を体験するような感覚を得た次第。
3話目『死人に訊け』
少し気を抜いたエピソードがあり緊張感が解れるラストが面白い。鑑定人土門誠の技術ではなく人としてどういう人なのかちょっとだけ感じられた内容。
4話目『風化した夜』
それまで匂わせていた過去のエピソードが繋がる物語となっています。

作品の雰囲気は重苦しく真面目な内容。全体を通して感じる事は、真実は人間のアナログ的な感情で左右される事無く科学的な証拠に基づいてきちんと導きだす事。そして隠さず暴く事という正義を感じました。数年前のミステリで真実を暴く事で不幸になる場合があるという探偵の悩み問題がありましたが、それに対する真摯の想いを感じた作品でした。
最後の鑑定人
岩井圭也最後の鑑定人 についてのレビュー
No.207:
(6pt)

ミリは猫の瞳のなかに住んでいるの感想

要素盛り沢山な所が面白くもあり、複雑に感じる所でもありというのが率直な感想でした。
情報量が多いというか詰め込み過ぎというか、読書が夢中になり辛かった為かもしれません。とはいえ面白い作品でした。

作品傾向は青春SFミステリー。
主人公は過去視。ヒロインは未来視。猫の瞳を通じてその二人が出会い、主人公が遭遇した銃殺事件を調査していくという流れ。事件はミステリパート。
2人の恋愛模様はパソコン画面でのリモート会話のような過去と未来で猫の瞳を通して接続される設定であり、今風の遠距離恋愛の物語を感じました。時間軸と猫の組み合わせなどSFの小ネタを感じる所が豊富。ミステリの小ネタも盛り沢山です。キャラクターの良さを描いた演劇部の活動内容も面白く読めました。

ただもどかしいのはどれも話のメインになるような設定のエピソードを300P台の本書に詰め込んでいる為か把握し辛い。密度が凄いとポジティブに捉える事もできますが読書のリズムと情報量が合わないと感じました。話が急展開になったり、感情移入する前に結果がでてきてしまったりと、凄い面白い事をしているのに味わい辛かったです。これは著者が好きな設定や展開をとにかく盛り込んだようにも感じて必然性が感じられなかったのも要因です。特に第四幕からは大事な魅せ所なのに驚きや感動を味わう間もなく次々と進めているような駆け足を感じます。間や演出があればもっと読者の心を掴めそうなのにと勿体なさを感じました。

一方、序盤の学園エピソードは惹きこまれます。キャラの濃い阿望先輩登場や演劇のエチュードは惹きこまれました。序盤は丁寧に描かれている為か学園箇所面白かったです。
表紙やヒロインも可愛くて絵柄や意味深なタイトルも好み。あと文章中で登場人物にすべてルビがふってあるのは読み易くて良かったです。この人なんて読むんだっけ?という煩わしさがありません。最初の登場シーンだけルビを振るのではなく、全ページで人物名のルビがあるので物凄く読み易い作りは好感です。最近の電撃文庫はこういうフォーマットにしたのかな。

と、良い所もそうではない所もいっぱい感じた作品でした。

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ミリは猫の瞳のなかに住んでいる (電撃文庫)
No.206: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クローズドサスペンスヘブンの感想

良い意味で個性的な作品でした。
あまり味わった事がない雰囲気で楽しかったです。表紙の雰囲気も新鮮。

まず特徴的な要素は全員既に死んでいる事。
何らかの事件に巻き込まれた者達が記憶を失った状態で天国屋敷に集ったシチュエーションです。
自分は誰なのか。何故殺されたのか。集まった人々の中に犯人はいるのか。というミステリーなのですが、本書は事件の殺伐さを描くのではなく、集まった者同士の交流をコミカルに描かれているのが印象的でした。既に死んでしまっているからか死の恐怖はありません。一緒に捜査して悩んだり、食事したり、息抜きに遊んだり、という和やかな雰囲気なので気軽に楽しめる読書でした。

新潮ミステリー大賞の候補作品ですが、この賞の候補作品が出版される事は珍しいです。そのまま埋もれさせてしまうのは勿体ないという気持ちを感じた次第でした。
ミステリーではありますが謎解きに期待するものではなく、ミステリー要素を用いた1つの映画やドラマ作品を体験するぐらいの気持ちで手に取ると楽しめると思います。読後感も良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫クローズドサスペンスヘブン についてのレビュー
No.205:
(6pt)

仕掛島の感想

タイトルと表紙の雰囲気に釣られて手に取りました。
『仕掛け』『島』というミステリ好きが好む直球タイトルです。既刊本に『館島』がありますが関連性は特にないので本書から楽しめます。

奇妙な館。孤島。プロローグで描かれる非現実な不思議な現象。新本格時代の要素がたっぷりのミステリは好感でした。
そこに著者の持ち味となるユーモアが加えられた作品です。ただこのユーモアについては好みに合いませんでした。

好みのお話ですが、ミステリはある程度のドキドキ・ハラハラや恐怖というか不安な雰囲気があってこそ解決時において開放感が得られ、読後スッキリとした味付けになると思うのです。本書の場合は雰囲気を和ませるボケやギャグが多く事件の緊張感がないので、なんというか場を眺めているような読書感覚でした。タイトルに掲げる通り仕掛けある物語ですが、その仕掛けが明かされた時も驚きではなくそうなんだ程度の感触しか得られなかった次第。完全に好みのお話で恐縮です。
いや、ちゃんと補足すると仕掛けは壮大かつ奇想なもので良かったのです。ギャグやユーモアも単体で見るとキャラが笑えて面白いのです。ただこの2つを組み合わせた本書のユーモアとミステリにおいてはそれぞれの良さが打ち消してしまい、ごちゃごちゃになってしまっているような印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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仕掛島
東川篤哉仕掛島 についてのレビュー
No.204:
(4pt)

はるかの感想

前作の『ルビンの壺が割れた』が面白く、帯にはそれに続く『大どんでん返し』というPRに釣られて手に取りました。

過度な期待が出てしまったのもありますが、本書の後半で感じた印象は「どんでん返し」ではなく「打ち切り」の表現が正しい部類です。著者が飽きてしまったのか版元とトラブルがあったのかわかりませんが、膨らませていた内容を突然切り上げて話を終わらせてしまったと感じる結末でした。

内容はあらすじにある通り、恋愛小説+人工知能を用いた作品です。
ディープラーニングや学習モデルなど、近年の人工知能の事がよく描かれており、人工知能HAL-CAがどのように生まれるのか物語中のスタッフと同様に期待を膨らませた読書でした。
海岸のエピソード、AI開発にかける想い、序盤の少女の出会いから人工知能の開発までの物語は本当に面白かったです。
それだけに、こんな締め方で終わらせてしまうのかと残念な気持ちでいっぱいでした。

▼以下、ネタバレ感想
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はるか (新潮文庫)
宿野かほるはるか についてのレビュー
No.203: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

星くずの殺人の感想

民間宇宙旅行が実現した近未来。
宇宙ホテルにて発見された無重力での首吊り状態の死体。
あらすじのキャッチが魅力的なので手に取りました。

まず正直な感想として、SFミステリーとして期待して手に取りましたがミステリーとしてはあまり面白くありませんでした。謎の説明不足や順序立てされた解説ではない為、おそらく突然の科学知識の紹介を読んだような気分になるのではないでしょうか。扱われている科学知識についてはそんなに難しいものではない所が選ばれているのは良いのですが、伏線なく突然出てくるような印象な為、「そうだったのか!」という驚きではなく「そうなんだ。」という感想。
登場人物表や舞台の見取り図も欲しかったです。状況がイメージし辛い読書でして、ミステリーとしては楽しめなかった次第。
ただ人情ものといいますか、登場人物の過去のエピソードを語り合う所は良かったですし、何故こんな事件を起こしたのかという思想的な話は納得できました。最後のセリフも〇。

なんとなく前作の『老虎残夢』の時も感じたのですが、謎や仕掛けのミステリより、キャラクター達の会話や物語の全体像が面白いなと感じました。
星くずの殺人
桃野雑派星くずの殺人 についてのレビュー
No.202:
(4pt)

昭和少女探偵團の感想

昭和初期を舞台とした女学校の学園ミステリ。
連作短編集のようなスタイルで各話の物語ごとに謎解きがある構成です。
レトロなお嬢様学校の雰囲気が良く殺伐さがないのが好感。挨拶も「おはよう」ではなく「ごきげんよう」というやりとりが時代を良い意味で感じさせてくれます。

設定や雰囲気はとても好感だったのですが、点数が良くないのは内容の把握のし辛さ。文章の相性が悪かった為か、事件や謎解きや学園風景や友達とのやり取りなどなど、よくわからない読書でした。物語が頭に入ってこなかった為、雰囲気は良さそうなんだけどどんな話だったのか把握できなかったのが正直な気持ち。
最終話の『満月を撃ち落とした男』については「だからこの時代でこの設定にしたんだろうな」と感じられたのは良かったです。この物語がアイディアの始まりなんだろうなと思いました。雰囲気やキャラクターは良いのでシリーズ化すると楽しそうです。ただ自分にはもう少し把握しやすい文章になるか漫画化して画が見えないと楽しめないなという感想を得た次第でした。
昭和少女探偵團 (新潮文庫)
彩藤アザミ昭和少女探偵團 についてのレビュー
No.201:
(6pt)

十二月、君は青いパズルだったの感想

記憶喪失ものの恋愛小説。
この手の組み合わせは昔から多くありますが、好みなのでついつい手に取ってしまう次第。

本書の特徴は“パズル病”という病。勉強や趣味で好きな事がジグソーパズルのピースのように剥がれ落ちて記憶を失っていく症状。

あらすじや帯にある通りキャッチフレーズとなる「私、先輩のことが世界で一番……嫌いです!」という妙な導入が面白い。好きなものを忘れる奇病。だから嫌いな先輩を頼るという可笑しさ。ライトノベル作品としての掴みはバッチリでした。

今風の作品として面白く、会話の砕け方やボケなどクスッとさせられましたし、イラストもオタク臭くなく丁度良くいい感じです。ラノベ好きな読者層には好感に映る要素が豊富でした。ミステリ好きの読者としては何がどういう風な結末を迎えるか予想できてしまう構成かと。気軽にサクッと読めるという意味では良かったです。

欲をいうと終盤はもっと丁寧に描いて欲しかったです。中盤以降は話が駆け足なのが気になりました。全てが良い方向でどんどん繋がるので、話が繋がるというより、描きたいシーンだけ並べましたというブツ切り感をとても感じてしまった次第。
話や真相は面白かったので、もう少し丁寧かつ話に惹きこまれる展開や演出があればもっと感動しただろうなと思います。最終章の4章は特にそうで、大事な話や展開が30ページだけで描くのは急過ぎです。商品として300ページ以内に収めたと思われますが、これにより味わい感動する間がなく終わってしまったのが勿体なく感じました。綺麗に終わる物語としては良かったです。
十二月、君は青いパズルだった (講談社ラノベ文庫)
神鍵裕貴十二月、君は青いパズルだった についてのレビュー
No.200:
(6pt)

邪宗館の惨劇の感想

大雨の中、バス事故で避難した先の廃墟にて発生する怪死事件。
スプラッターホラー映画のように惨殺されていく乗客たち。何が起きているのか理解不能のまま恋人を助けたいと渇望する主人公の身に起きたのはバス事故前を基点としたループ現象だった。

本書は怪異が存在するという事が前提状況にあるホラーミステリーのシリーズ4作目。
今作は怪異+SFお馴染みのループ現象という事で冒頭からのワクワク感が良かったです。バッドエンドを繰り返す序盤のテンポも〇。ループ現象での絶望の先でシリーズお馴染みの那々木悠志郎が登場と、気持ちがあがる展開が良かったです。
中盤は怪異説明の伏線なのか仏像の蘊蓄が多く語られるのですが、それも楽しく読ました。仏像話はとても参考になります。

さて、中盤までは凄く楽しかったのですが後半はちょっと低迷。
怪異や物語の真相はよく考えられており、読み終わってみればシリーズの中では一番凝った造りだと思われました。

ただ、個人的な気持ちとしてもどかしいのは伏線から論理的に探偵役が真相を導くのではなくて、なんというか突然の解説のように全部説明されてしまう事。ミステリで萎える展開の一つに犯人が全部解説するというのがありますがそんな感覚。色々と面白くなるはずの終盤が残念だった印象でした。勿体ない気持ちで終わりました。

▼以下、ネタバレ感想
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邪宗館の惨劇 (角川ホラー文庫)
阿泉来堂邪宗館の惨劇 についてのレビュー