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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数83件
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新聞連載を加筆訂正した、文庫で上下2冊1000ページ弱の超大作。97年の日本推理作家協会賞、山本周五郎賞を受賞した、一級品のエンターテイメント作品である。
ヤクザの街金の借金を返すために奇想天外なアイデアで銀行の両替機を騙した道郎と雅人のコンビだったが、最後の最後でヤクザに追いつめられ、道郎は金を持って逃げたものの、雅人は警察に捕まり5年の実刑判決を受けた。それから4年半、ヤクザへの復讐の念に燃える道郎は、名前を変えて印刷会社に潜伏し、密かに偽札作り計画を進めていたのだが、とある事情から復讐のターゲットを銀行に変え、銀行員が触っても判別できない「本物の偽札」作りをめざすようになる。 本筋は究極の偽札作りという「贋作もの」とヤクザや銀行員を欺く「コンゲームもの」で、そこに型破りな若者たちが社会の基盤である通貨制度に挑むという冒険アクション小説が加えられている。主人公二人を始めとする主要人物のキャラクター設定が上手く、ストーリー展開はスピーディーで、途中途中のエピソードや会話に含まれるユーモアも軽快。しかも、偽札作りの細部の描写が徹底的で、そのリアルさに圧倒される。 あれやこれやの先入観無しに「ひたすら面白い小説を読みたい」という方にオススメする。 |
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平成の30年間に起きた日本の社会現象、事件をヒントに、日本社会が失ってきたもの、抱えてしまった問題を鋭く追及する社会派ミステリー。まさに時代を象徴する力強い作品である。
平成という時代が始まった日に生まれ、終わった日に死んだ一人の男。彼は無戸籍で、青と名付けれたことから通称・ブルーと呼ばれていた。ブルーは14歳にして殺人事件に関係し、その後は行方をくらませていた。ブルーが関係したのは、一家4人が惨殺され、しかも殺害犯と目された一家の次女は現場で死亡しているのが見つかった事件で、共犯者としてブルーの存在が浮かび上がったものの警察上層部を巡る政治的な判断から「被疑者死亡(次女の単独犯行)」として決着させられたものだった。それから15年後、平成最後の年の4月、多摩ニュータウンの団地の空き部屋で身元不明の男女2人が殺害されているのが発見された。被害者の身元調査からスタートした警察がわずかな手がかりを追って行くと、15年前の事件との関連が見つかった。 二つの事件の背景に流れるのは、平成の日本を彩った様々な風俗や社会現象で、それだけでも記憶の深部が強烈に刺激される。さらに、この時代の変化がもたらした社会病理とも言うべき社会的弱者への攻撃、格差の拡大などのビビッドな問題がリアルに描かれており、物語の本筋とは関係なくサスペンスフルである。 「ロスト・ケア」、「絶叫」など社会病理を鋭く、しかも面白く描いてきた著者らしい傑作で、ミステリーファンに限らず、幅広く社会派エンターテイメントのファンにオススメしたい。 |
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映画化もされたヒット作「横道世之介」の続編。モラトリアムをやり過ごしているだけのフワフワした若者が引き起こす「善意の波紋」を描いた、さわやかなエンターテイメント作品である。
就職活動に出遅れ、パチンコとバイトで明け暮れる世之介は、親友のコモロンと遊んでいたとき、男の子と暮らすシングルマザー・桜子と出会い、何となく付合い始めたのだが息子・亮太にも懐かれ、やがては桜子の実家でアルバイトするようになる。いつもフワフワと頼りない世之介だが、周りの人たちはみな優しく、「これからも、こうやって生きて行けたら幸せだなぁ」と思う日々だった。それから27年後、オリンピックを迎えた東京の街で世之介に関わった人々は世之介が繋いだ絆に出会い、それぞれの道を振り返り、世之介のことを思い出すのだった。 最近、読んでいてこれほど爽快だった小説は珍しい。主人公・世之介のキャラはもちろん、周辺人物も癖やあくどさが無く、物語の世界に素直に没入できる。さらに、ストーリーが明快でユーモア溢れる文章も軽快で、あっという間に読み終えた感じである。 前作のファンはもちろん、青春小説、元気が出る小説を読みたい方には絶対のオススメである。 |
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2010年に68歳で作家デビューしたという、アメリカの新人作家のデビュー作。すでに6作目まで続いている退職刑事デイヴ・ガーニーシリーズの第一作で、アメリカの刑事が主人公ながら古典的な謎解きに重点を置いた犯人探しミステリーである。
ニューヨーク市警の花形刑事と評価されながら早期引退し、キャッツキル山地の農場で暮らしているガーニーのもとに、大学時代の友人でスチリチュアル施設を運営しているメレリーが訪ねてきた。メレリーは「1から1000のうちから1つの数字を思い浮かべろ」という手紙を受け取り、658という数字を重い浮かべたのだが、同封されていた小さな封筒を開くとそこには「おまえが選ぶ数字はわかっていた。658だ」と書かれていた。さらに「なぜ分かったか知りたければ金を送れ」と書かれており、小切手を送金したメレリーの元に次々に犯行を予告するような脅迫状が届いたため、メレリーはガーニーに助けを求めたのだった。ガーニーが調査に乗り出したのだが、脅迫犯から第二の数字当てトリックを仕掛けられ、その謎を解けないでいるうちに、メレリーが残虐な殺され方をしてしまった。しかも、事件はそれだけにとどまらず、同じような手口の事件が報告されるのだった・・・。 数字当てのトリック、殺害現場の謎解き、犯行動機の不明さなど、不可解なことだらけの事件を、退職刑事ガーニーが丁寧に謎解きしていくのが、本作の読みどころ。アメリカの警察にしては珍しく行動より思索を重視する、やや複雑な性格のガーニーのキャラクター設定が秀逸。さらに事件が次々に発生し、その度に謎が深くなるというストーリー展開も素晴らしい。 警察ミステリーの枠を超え、本格派、古典派の謎解きミステリーのファンも十分に満足できる傑作である。 |
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幼児虐待事件の裁判を通して、家族とは何か、人を理解するとは何かを追及した長編小説。犯罪行為自体も犯人もはっきりしているのだが、事件の真相を探るという意味で、心理ミステリーと言える作品である。
もうすぐ三歳になる一人娘を育てる専業主婦・里沙子は、8ヶ月になる子どもを溺死させた母親の裁判で補充裁判員に選ばれた。いやいやながら裁判に参加した里沙子は最初は被告を軽蔑していたのだったが、様々な証言を聞くうちに何が真実か分からなくなってきた。さらに、裁判に通うために娘を夫の実家に預けに行き、帰りには義理の母親から息子の好物の料理を持たされ、子どもは言うことを聞かず、夫は自分を理解してくれていないような気がして来るという、肉体的、心理的な疲れに押しつぶされそうになる。公判が進むに連れ、被告とよく似た自分の過去が思い出され、被告人は自分であってもおかしくなかったと思い始めるのだった。孤独な子育てに疲れ、周囲の善意をすべて逆の意味に捉えてしまった被告は救いようがない悪人なのか? 日常の何気ない一言も、解釈次第で善意にも悪意にも取ることができ、そのズレがやがては致命的な影響を及ぼして来る怖さ。まさに裏表紙の「感情移入度100%」の心理劇が展開される。性別や年齢、既婚・未婚を問わず、多くに人が自分が隠してきた心の奥底を見せられるようなサスペンスを覚えるだろう。 ミステリーのジャンルを超えて、多くの人の共感を呼ぶ傑作エンターテイメント作品としてオススメしたい。 |
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2018年のMWAとアンソニー賞の最優秀長編賞、CWAのスティール・ダガー賞という、ミステリー三冠を獲得した話題作。テキサス州東部の田舎町を舞台に人種差別犯罪に立ち向かう黒人テキサス・レンジャーの苦闘を描いた、臨場感あふれる傑作ミステリーである。
黒人ながらテキサス・レンジャーとして働いていたダレンは、知人の黒人がヘイト犯罪に巻き込まれるのを止めようとしたことが原因で停職処分を受けていたのだが、友人であるFBI捜査官グレッグに事件調査を頼まれた。事件は、人口わずか178人の田舎町のバイユーで6日の間に、シカゴから来た35歳の黒人の男性弁護士と地元の若い白人女性の死体が相次いで発見されたというものだった。人種差別が色濃く残っている町で、当然のことながらダレンは保安官をはじめとする白人たちから歓迎されないばかりか、地元の黒人たちからもよそ者として扱われ、たった一人で難しい捜査に挑むことになった。 人々の尊敬を集めるテキサス・レンジャーでありながら、黒人ということで直面せざるを得なくなる困難、偏狭な田舎町の濃密な人間関係が作り出すさまざまな軋轢、アメリカの恥部とも言うべき人種差別犯罪の卑劣な実態など、事件を取り巻く背景が実にリアルに丁寧に描かれている。さらに、事件自体の構造も単純にヘイトクライムとだけは言えない複雑さを含んでおり、非常に読み応えがある。 警察ミステリーファンだけでなく、幅広くミステリーファンにオススメしたい傑作だ。 |
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ニューヨーク市警のヒーロー警官を主人公にした長編警察小説。警察にとって、行政にとって、司法にとって正義とは何かを問いかける熱い物語である。
ニューヨーク市警で絶対的な評価を得ている特捜部「ダ・フォース」のリーダー・マローン部長刑事。麻薬や銃による犯罪捜査で次々に成果を上げ、市民からの信頼が厚く、ヒーローと崇められていたマローンが、汚れた刑事として拘置所に入れられたのはなぜか。街の現場を歩く警官が何を考え、何に傷付き、何を誇りとしているのかを丁寧に追いかけ、清濁併せ吞む壮大な物語に仕上げたヒューマンストーリーであり、スティーヴン・キングの「ゴッドファーザーの警察阪」という評価がぴったりだ。 文庫本1000ページ近い超大作だが、最初から最後までゆるみが無く、どんどん引き込まれていく。警察小説、犯罪捜査物語、ノワール小説などというジャンル分けを超えた傑作として、すべての現代ミステリーのファンにオススメだ。 |
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2017年に発表された、ルヘインの最新作。邦題が示すように、一人の女性の視点から語られるアイデンティティ追及の物語であり、優れたサスペンスミステリーでもある。
「ある五月の火曜日、三十五歳のレイチェルは夫を撃ち殺した」というプロローグから始まった物語は、レイチェルが見知らぬ父親を探す第一部、ジャーナリストとして成功し、結婚したレイチェルがすべてを失ってしまう第二部、隠されていた危険な真実に近づき、そこからサバイバルするために奮闘する第三部で構成されている。第一部と二部、三部はまるで別の作品のようにテイストが異なっているのだが、主人公であるレイチェルの人物像がしっかりしているので全く違和感はない。 ネタバレ無しで解説するのが難しい作品で、とにかく「読者の予断を許さない展開で度肝を抜く」ことは間違いない。予備知識なしで読むことをオススメしたい、超一級のエンターテイメント作品である。 |
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横浜市で起きた、大型トレーラーのタイヤ脱輪による親子死傷事故を題材にした、社会派経済小説。読ませる、泣かせる、感動させる、一級のエンターテイメント作品である。
実際に起きた事件を下敷きにしているので、ほぼ予想通りのストーリー展開なのだが、登場人物、セリフ、エピソードが生き生きとしていて、一瞬たりと退屈することはない。 半沢直樹シリーズファンと言わず、ミステリーファンと言わず、多くの人が納得する面白さの作品だ。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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2017年のアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長編賞受賞作。あまり評判にはなっていないようだが、年間ベスト級の傑作ミステリーである。
2015年8月23日、日曜日の夜、高級リゾートの島からニューヨークへ帰る途中のプライベートジェット機が墜落した。乗客乗員11名のうち、47歳の貧乏画家スコットが生き残り、同じく夜の海に投げ出されていた4歳の男の子JJを助け、ロングアイランドの海岸まで泳ぎ着く。一躍、ヒーローとして注目を集めるスコットだったが、墜落の原因究明に当たる政府機関からは墜落への関与を疑われる。さらに、乗客がアメリカの右派ニュース専門局の代表夫妻やマネーロンダリング疑惑をもたれていた富豪夫妻だったことから、さまざまな陰謀論が巻き起こった。とりわけ、ニュース専門局の代表を狙ったテロだと主張する同局の看板司会者ビル・カニンガムは、執拗にスコットを追求し、過激な主張を繰り返すのだった。墜落は、事故だったのか、事件だったのか? 乗り合わせた11人の墜落前の足跡をたどることから、事態の真相が徐々に明らかにされる。 墜落したプライベートジェットに乗ったばかりに、運命が大転換してしまったスコットの人生と、墜落原因の解明を2本のメインストーリーに、乗り合わせた11名の人となりのドラマ、ニュース専門局を中心にした報道メディアの闇の暴露をサブストーリーにして、現代アメリカの脆さを描いた壮大な人間ドラマが展開される。その中心にあるのが、人を信じて素朴に生きようとするスコットと陰謀論に凝り固まって人を陥れようとするビル・カニンガムの対比である。こうした構成の場合、ヒーローか敵役のキャラクターが際立つほど面白いのだが、本作では敵役のビル・カニンガムが上手く造形されていて(現実のアメリカのアンカーマンや大統領候補をなぞっただけかもしれないが。日本で言えば、ナベツネと橋下徹とミヤネヤを足したような下衆といえば当たっているか?)、効果を上げている。 謎解き作品としても、社会派作品としても高く評価できる傑作サスペンスとして、多くの方にオススメしたい。 |
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言うまでもない人気シリーズの第6作。作者の遺作にしてシリーズ最終作は、フロストの魅力が満開の、期待に違わぬ傑作である。
マレット署長のごますりで人手不足に陥っているデントン署に、次から次へと降り掛かる難事件、怪事件の数々。運悪く捜査をまかされたフロスト警部は、外れてばかりの直感を頼りに寝る間も削って奮闘するのだが、事件は一向に解決せず、さらに新たな事件が起きるばかりだった。しかも、マレット署長と組んでフロストをデントン署から追放するために赴任してきたスキナー主任警部が何かと口を出し、フロストは疲労困憊するばかりだった。デントン署からの異動の日が近づく中、フロストはいつもの妙手・法律無視で未解決事件の始末をつけようとする・・・・。 最初から最後まで、フロスト節満開のストーリー展開、いつも通りのボケ具合で楽しませてくれる登場人物、これでもかってほど繰り返されるおバカなエピソード、まさに安定した面白さである。作者の死により、これが最後かと思うと、まことに残念でならない。 シリーズ作品とは言え、各作品は独立性が高いので、本作から読み始めてもフロストの魅力は十分に堪能できるだろう。 シリーズ愛読者にはもちろん、ユーモア系ミステリーファンには絶対のオススメである。 |
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デビュー作「ロスト・ケア」で鮮烈な印象を与えた葉真中顕の長編第二作は、デビュー作以上に衝撃的で面白い社会派ミステリーである。
国分寺市の単身者向けマンションで、死後数ヶ月を経過した女性と十数匹の猫の死体が発見された。同じ室内に閉じ込められた十数匹の猫に喰われて骨になっていたのは、この部屋の住人・鈴木陽子40歳で、いわゆる孤独死だと思われた。身元確認と遺族への連絡のために国分寺署の刑事・奥貫綾乃が調査を始めてみると、その戸籍は極めて複雑怪奇だった・・・。 調査を進めるとともに次々に表われてくる、連続保険金殺人の疑い。それと並行して語られる、鈴木陽子の生い立ちと変貌の物語。そしてもう一つ、悪徳NPO法人代表の殺害事件の関係者の証言。この三つが織り成すストーリー構成は緻密でスリリング、ページを追うごとにぐいぐい引き込まれていく。 孤独死、貧困ビジネス、保険金殺人、サラ金、売春など、現在の社会不安を見事なミステリーに仕立て上げた傑作である。平凡な家庭に、平凡な才能と容姿を持った子供として生まれた女性が、平凡に生きようとして叶わなかったとき、どのような選択肢が残されているのか? 社会性のあるミステリーが好きな方には、絶対のおススメ作である。 |
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奥田英朗の長編第2作。どこにでもいそうな人物が、ちょっとしたきっかけで犯罪者に転化してしまう恐さとおかしさを描いた傑作犯罪小説である。
1990年代後半、不況の影に覆いつくされていた川崎市。 自分を含めて従業員3人の零細鉄工所を経営する47歳の川谷は、得意先からの無理難題に耐え、向かいに建ったマンション住人からの騒音苦情に悩まされながら、金策のために汗水たらして走り回っていた。 川崎にある大手銀行の支店に勤める22歳の藤崎みどりは、高校を中退して遊び歩く妹と母親のトラブルに悩み、やりがいのない仕事に悶々とする憂鬱な日々を過ごしていたが、銀行恒例の行事に参加して上司からセクハラ被害を受けた。 パチンコとケチなカツアゲで食いつないでいた20歳の和也は、川崎のパチンコ屋で知り合ったチンピラと組んでトルエン窃盗をやったことから、ヤクザに締め上げられ、600万の金をもってくるように強要された。 縁もゆかりもない3人だったが、それぞれのちょっとずつ狂って来た日常の歯車が、みどりが勤める銀行で奇妙に食い込みあい、激しい音を立てながら破滅への道を暴走することになった・・・。 3人の主人公のキャラクター設定、言動や心理の描写が素晴らしく、読者は彼らに共感したり反発したりしているうちに、どっぷりと物語の世界に浸っている自分を発見することになる。文庫で600ページを超える長編だが、緩むことがないストーリー展開のスピードが心地よい。 ホラー的ではない犯罪小説、社会派ミステリーのファンを始め、多くのミステリーファンにオススメだ。 |
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2013年に刊行された長編小説。中学生のいじめをテーマに、未熟な子どもたちと身勝手な大人たちが繰り広げる悲劇を描き、強烈なインパクトを残す、ミステリー仕立ての社会派エンターテイメントである。
中学2年生のテニス部の男子生徒が部室の屋上から転落して死んでいるのが見つかった。屋根からそばにある銀杏の木に飛び移ろうとして転落したように見えたが、屋上には5人の靴あとが残されていた。さらに、死んだ生徒はイジメを受けていたという。自殺か,事故か,犯罪か。死んだ生徒の遺族、イジメの加害者とされる生徒とその家族,担任教諭や校長などの学校当局,地元警察と検察,新聞記者たちが、事件の真相解明のために、それぞれの思惑や感情をぶつけ合い,波紋を起こしあいながら大きな熱を秘めたドラマが展開される。その真相は? 子供のイジメをテーマにしながら単なる勧善懲悪では終わらない,実にダイナミックで読み応えがある長編ドラマである。いじめっ子たちは何故いじめたのか? いじめられっ子は何故いじめを回避できなかったのか? 被害者、加害者になった生徒の家族は,何を考え、何を求めるのか? それぞれの視点に立つたびに,物語の姿が変わってくる。さらに、第三者として冷静で理知的な判断が求められるはずの学校,警察,新聞も、様々なしがらみや思惑で動かされ,混乱が深まっていく様相は、日本の社会の未熟さを象徴していると言える。 中学生のいじめをテーマにした小説では,「ソロモンの偽証」と並ぶ傑作として、ミステリーファンの枠を超える多くの人にオススメする。 |
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オーストラリアの人気ミステリー作家がアメリカを舞台にして描いた、逃走と追跡と陰謀のスーパーサスペンス作品。2015年の英国推理作家協会の最優秀長編賞を受賞したというのも納得の大傑作である。
現金輸送車を襲撃して700万ドルを奪い逃走したが、保安官に銃撃されて瀕死の重傷を負い、10年の刑に服していたオーディ・パーマーが、刑期満了の前日に脱獄した! 事件は四人組で実行され、二人は死亡、一人は逃走、パーマーは逮捕だったのだが、奪われた現金は行方不明。周りからはパーマーが隠したと疑われ、服役中も金の在処を吐くように散々脅かされ、命の危険にさらされてきたパーマーだったが、ずっと沈黙を守っていた。あと一日で、自由になり、金も手に入れられるはずだったのに、なぜ脱獄の危険を冒したのか? 10年も服役しておきながら、出所前日に脱獄するという設定が秀逸。パーマーが脱獄してまでやりたかったことは何か、というのがメインストーリーで、パーマーの刑務所仲間だったモスが秘密裏に刑務所外に出されてパーマーの行方を追跡させられるというサブストーリーと、現金強奪事件を追っていたFBI捜査官デジレーが事件の裏に陰謀があるのではと疑って再捜査に乗り出すというサブストーリーの3つの話が絡まりあって、緊張感あふれるストーリーが展開される。3つのストーリーが絡まると言っても、焦点は1つだけなので、ストーリーを追うのに苦労することはない。 主要登場人物の三人のキャラクターが鮮やかで、ところどころに出てくるハードボイルドなセリフも洒落ていて、最後までワクワクドキドキさせる上出来のエンターテイメント作品である。 サスペンス、ハードボイルド、ミステリーファンにはもちろん、男女や家族の愛の物語がお好きな方にもオススメだ。 |
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「悲しみのイレーヌ」、「その女アレックス」と続いたカミーユ警部三部作の完結編。第一作からの流れが見事に集約された、最後を飾るにふさわしい傑作だ。
物語は、カミーユが「自分を生き返らせてくれた」と思うほど愛している恋人アンヌが、武装強盗に巻き込まれて瀕死の重傷を負うという衝撃的な事件からスタートする。事件を知ったカミーユは復讐の念にかられ、アンヌとの関係を隠して、無理矢理捜査を担当することにした。必死で犯人を追うカミーユの焦りをあざ笑うかのように、犯人は執拗にアンヌの命を狙ってきた・・・。 事件発生から終結まで、わずか三日間というスピーディーなストーリー展開。しかし、事件の背景には前妻イレーヌの事件も絡んでいて、話の密度がきわめて濃くて重量感がある。「愛する人を二度と失いたくない」と苦悩するカミーユの心理描写、一人称で語られる犯人の不気味さ、そして真相が判明した時の驚きなど、まさにミステリーの醍醐味が味わえる。 「その女アレックス」に続いて英国でインターナショナル・ダガー賞を受賞したというのも納得の傑作。オススメです。 |
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「その女 アレックス」が大ブレークしたおかげで文庫で再刊された、ルメートルの傑作ミステリー。シリーズ外作品なので、他の作品を読んでいなくても何の不都合も無く楽しめる。
ベビーシッターとして働いていた家の子供を殺し、逃亡中に身分を詐称するために同年代の女性を殺害した連続殺人犯として追われるソフィー。一年前の彼女は、エリートサラリーマンの夫と暮らし、自らもオークション会社の広報部に勤める聡明で幸福な女性と見られていた。それが、なぜ、いつから逃亡者にまで転落してしまったのか? これから先は、絶対に話してはいけない。とにかく、意表をつく構成と展開でたっぷりと楽しませてくれる超一級のサイコミステリーであることは間違いない。遊園地の絶叫マシーンに例えると、ジェフィリー・ディーヴァーがジェットコースターなら、本作はフリーフォールと言うべきか。道路の角を曲がったとたんに道が消えて垂直に落下するようなスリルとサスペンスが味わえる。 文句無しのオススメだ。 |
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2013年の「ガラスの鍵」賞の受賞作。ノルウェーでは絶大な人気を誇る「ヴィスティング警部」シリーズの第8作で、日本では本作が初めての紹介になるという。
オスロ郊外の警察に勤務するベテラン刑事ヴィスティングはある日、17年前に捜査責任者として関わった女性誘拐殺人事件での最重要証拠が「警察によるねつ造だった」と新聞にスクープ記事を書かれ、停職処分を受けることになった。スクープ記事を掲載した新聞の記者でヴィスティングの娘であるリーネは、父親の記事を一面から外すような大きな記事を書こうとして、ある殺人事件の取材に全力を傾けるが、父の記事を外すことは出来なかった。 証拠ねつ造の記事が虚偽ではなかったことを知ったヴィスティングは、身の潔白を証明するために、組織には頼らずひとりで真相究明に立ち上がる。一方、取材を進めたリーネは、殺人事件の被害者と17年前の事件の容疑者の軌跡が交差していることを発見した。父と娘は協力し、過去と現在の事件のつながりを暴き、2つの事件の真相を解明する。 50代で思慮深く人間味にあふれる父と20代で行動派の娘が、それぞれの持ち味を生かした思考と行動で謎を解明して行くストーリーは展開が早く、しかも論旨が明快で非常に読みやすく、ひとつひとつのシーンが目に浮かんでくる。かといって薄っぺらな訳ではなく、主人公の二人を始め味のあるキャラクター揃いで読み応えがある。 これまでの北欧警察小説に比べて読みやすく、理解しやすい作品で、北欧ミステリーの重さが苦手な人にもオススメだ。 |
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北アイルランド在住の作家のデビュー作。今年の各種ミステリーベストテンに入るのは間違いないと断言したい、傑作だ。
ワーカホリックで家庭を崩壊させ、アルコール依存症の治療を受けながらどん底をさまよっていたニューヨークの刑事弁護士フリンは、ある朝、ロシアン・マフィアに「娘を誘拐した。指示通りにしなければ娘を殺す」と脅迫される。その指示とは、マフィアのボスの弁護を引き受け、ボスの有罪の決め手になる重要証人を法廷で爆殺しろ」という、実行不可能な難題だった。ロシアン・マフィアが立てた計画に沿って法廷内に爆薬を持ち込んだフリンは、娘を救うため、さらには自分を救うために、父親から教えられた詐欺とスリのテクニック、弁護士としての知識を総動員して絶望的な戦いに挑む。 マフィアに脅されるときからクライマックスまで、わずか一日半に凝縮されたストーリー展開の速さが脅威的。しかも、単純な法廷ものに納まらず、ギャングの対立あり、検察やFBIとの駆け引きあり、アクションあり、主人公の波乱に富んだ人生ありで、エピソードも盛り沢山。いたるところにツイストが効いていて、全く中だるみがない。 家庭崩壊の酔いどれ弁護士というのはよくある設定だが、その生い立ちや酒に溺れるきっかけなどがユニークで、主人公フリンのキャラクターが魅力的である。 本作はシリーズ化され、2016年には第二作が発表される予定だと言う。 今年を代表するエンターテイメントとして、自信を持ってオススメしたい。 |
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現代の英国を代表する女性ミステリー作家ミネット・ウォルターズが2005年に発表した、長編第11作。国際政治の歪みに咲いた邪悪なあだ花のような犯罪者と戦う女性ジャーナリストの絶望と再生を描いた、大傑作サスペンスである。
2002年、内線で疲弊したシエラレオネで5人の女性が惨殺され、犯人として3人の少年兵が逮捕されたが、ロイター通信の女性記者コニーは、ダイヤモンドの闇商人のボディーガードを努める在留英国人ハーウッドの犯行を疑っていた。2年後の2004年、イラクを取材していたコニーはバグダッドで、戦争請負企業に雇われていたハーウッドに遭遇し、取材を始め、彼が偽名を使っており、本名はマッケンジーであることまでは突き止めた。しかし、戦争請負企業の壁に阻まれて取材は難航し、さまざな脅迫を受けるようになったコニーが両親が住むイギリスに渡ろうとした時、マッケンジーに拉致監禁されてしまう。3日後に解放されたコニーは記者会見も拒否し、マスコミを避けてイギリスの田舎に引っ込んでしまった。監禁中のことは警察にも曖昧にしか話さないコニーは、一体何を隠しているのだろうか? という、ここまででも十分に面白い話なのだが、こらは全体の1/10ほどのプロローグに過ぎず、田舎で心身の回復に努めるコニーの心の変化と、執念深く追い掛けて来たマッケンジーとの対決が物語の主軸である。監禁のトラウマからマッケンジーの影におびえるコニーは、いかにしてマッケンジーの病的な暴力に対抗するのか? コニーとマッケンジーの直接対決の事件はある種の闇の中、「羅生門」状態で、ことの真相はコニーが語る言葉でしか知ることが出来ない。彼女の強さに周囲は驚くが、とりわけ警察はそれが理解できず、事件の全容を求めて彼女と厳しい言葉の攻防を繰り広げることになる。アクションではなくディベートでサスペンスが盛り上がるというのは、さすがに「英国ミステリーの女王」と呼ばれるウォルターズならでは。参りました。 サブストーリーである風光明媚な英国の田舎の閉鎖社会の軋みの物語も、ウォルターズお得意のテーマで、十分に読み応えがあった。 謎解き、心理描写、スリル、社会性など多彩な魅力に満ちた作品として、多くのミステリーファンにオススメしたい。 |
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