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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数572件
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88歳にして現役作家として活躍するジョン・ル・カレの25作目の長編小説。得意分野であるスパイの世界が題材だが、単純な諜報戦に終わらせず、個人の忠誠心と組織の論理、祖国への愛憎、自律と信頼関係など、人間が誇り高く生きるとはどういうことかを追及した、味わい深いスパイ・ミステリーである。
ロシア対策で実績を残して来たイギリス秘密情報部員・ナットは、そろそろ引退を考えていたのだが、帰国したロンドンでロシア対策を担当する弱小部署の再建を依頼される。赴任してみるとそこは、使えないスパイを集めた吹き溜まりのような部署だった。それでもナットは自分で仕事の意義を見つけ出し、ロシアの新興財閥がらみの怪しい資金移動を調べ始めるのだった。プライベートでは趣味のバドミントンを続けており、所属クラブのチャンピオンとして、ある若者・エドの挑戦を受け、定期的にプレーする仲になる。そんなとき、あるロシア人亡命者から「ロシアの大物スパイがロンドンで活動を始めそうだ」という情報がもたらされ、秘密情報部全体で取り組む大きな案件として動き始めた・・・。 ロンドンを舞台にしたロシアとイギリスの諜報戦、と見せかけて、最後にはあっと言わせる構成が見事。読者は決して騙される訳ではなく、論理的に説得されて、どんでん返しを楽しめる。全体的に、昔の作品に比べてストーリー展開が分かりやすく、エピソードやキャラクターを十分に楽しむことが出来る。いつまでも殻を破り続けるル・カレの凄さに感嘆する傑作である。 古くからのル・カレのファンにはもちろん、若い読者にも自信を持ってオススメする。 |
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スウェーデンでは絶大な人気を誇りながら、何故か日本では1作しか翻訳されていなかった大物作家による新シリーズの第一作。猪突猛進型の警察官が奇怪な連続少女誘拐事件の謎を解く、サイコ・サスペンスであり、第一級の謎解きミステリーある。
15歳の少女が誘拐され、犯人側から何の接触も無く三週間が過ぎたとき、匿名の目撃情報が寄せられた。少女の姿を見たという廃屋に急行したベリエル警部たちが突入すると中は無人で、なおかつ仕掛けられたブービートラップで警官が負傷する被害を受けたのだが、地下室には明らかに誰かが監禁されていたあとが残されていた。この一年半ほどの間に15歳の少女が誘拐された、同じような事件が二件あることを突き止めたベリエルは連続少女誘拐事件として捜査しようとするのだが上司に否定され、無断で捜査を進めることにした。その三件の現場写真に同じ女性が写っているのに気づいたベリエルは、女性の身元を突き止め、取り調べることになったのだが・・・。 少女誘拐事件の犯人探しがメインなのだが、捜査を担当するベリエルと容疑者と目された謎の女性の間にある関係性が判明し、驚愕の展開を見せるようになる。その事件というか背景は陰惨きわまりなく、さらに凄惨なサイコ・シーンが続くのだが、物語の構成がしっかりしているので、ジェフリー・ディーヴァーに負けないジェットコースター気分を楽しめる。伏線の回収も納得できる展開で、最後まで飽きさせない。 北欧の警察ミステリーとしてはやや異色の作品だが、従来からの北欧ミステリーのファンにも十分に満足できる高レベルなエンターテイメント作品としてオススメする。 |
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本国スウェーデンを始め北欧では大人気の「エリカ&パトリック事件簿」シリーズの第10作(表4解説)。30年前と同じ状況で発生した幼女殺害事件を巡る警察ミステリーであり、異端の者、弱者に対する暴力、恐怖を嫌悪に変換せずにはいられない人間の醜さと悲しさを描いた社会派ミステリーでもある。
フィエルバッカ郊外の農場で、その家の4歳の少女・ネーアが行方不明になり、警察、地元住民の捜索により死体で発見されたのだが、そこは30年前に同じ農場の4歳の娘・ステラが惨殺死体で発見された場所だった。ステラ事件では、ステラのベビーシッターを頼まれていた当時13歳の少女二人が取り調べられ、当初は犯行を自白したのだが後に否認、未成年だったこともあり逮捕されることはなかった。二人の少女のうちマリーはハリウッド女優として成功し、新たな映画撮影のためにフィエルバッカに戻って来たばかりだった。もう一人の少女・ヘレンは父親の友人だった年上の軍人と結婚し、地元で園芸店を営んでいた。ネーアとステラ、二つの事件の類似性に悩まされながらパトリックたちは30年前の事件も掘り起こして捜査を進めたのだが真相解明は遅々として進まなかった。そんな中、シリア難民の犯行だと断言するものたちが現われ、難民収容所が放火される事件が発生し、捜査はさらに混迷した。 幼女殺害事件の犯人探しが本筋だが、現在の事件だけでなく、30年前の事件の解明まで必要になりストーリーはどんどん複雑になる。それに加えて、外国人排斥、親子の断絶、学校でのいじめ、17世紀の魔女狩りも重要なテーマになっており、上下巻1000ページを超える大作なのだが、登場人物のキャラクターが立っていることと「人物関係図」が添付されていることで、さほど苦労することなくストーリーを追うことが出来る。 格差や差別化が激しくなり分断が広がる一方の社会に対する著者の怒りの熱量がひしひしと伝わる熱い物語だが、ミステリーとして、エンターテイメントとしての完成度が高く、読書の楽しみが損なわれることはない。 シリーズファンはもちろん、北欧ミステリーに限らない幅広いジャンルの現代ミステリーファンにオススメしたい。 |
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2004〜5年に雑誌連載された11作品を収めた短編集。平成の時代を漂う若い男たちが個性的な女たちと出会い、別れる、ちょっとおかしくて悲しげなラブストーリーたちである。
文庫200ページ余りに11作品が収録されており、1作品は20ページ弱。しかも、登場人物たちがキャラ立ちしていて話の展開が分かりやすいのでスイスイ読める。だが、作品に込められた女性たちの強さが印象的でリアリティがある。 ジャンルを問わず、面白さを求める読者にオススメしたい。 |
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2004年文芸誌に掲載された恋愛小説。ものを思うことが生きる力になることを、若い女性の恋心で表現した文芸ロマンである。
小さな港町でOL生活を送る小百合は、自分の町をリスボンだと夢想することで、非日常の世界を楽しんでいた。地味で目立たず、無理をしない、臆病な小百合を支えているのは弟が、女子なら誰もが憧れる超イケメンであることだった。それが、高校の同窓会に無理やり誘われて参加したことから、現実世界でも過去と現在が入り交じる非日常な展開に巻き込まれることになった。さらには、弟が恋した相手が、自分以上に地味で臆病そうな女だったことにも動揺し、アイデンティティの危機に陥った。そんなさなか、恋の予感を感じさせる出会いがあったのだが・・・。 全体構成が抜群に上手い。田舎の港町をリスボンだとして生きる地味なOLという設定が物語が上滑りするのを防いでいて、しみじみと面白さが沸いて来る佳作である。 性別、年齢を問わず、人生の迷い道に差し掛かっている人にオススメしたい。 |
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ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズの第9作(巻末解説による)。女性が主役となる暴力事件を描き続けているカリン・スローターが本領を発揮した、全編凄まじい暴力のアクションサスペンスである。
アトランタのショッピングモールで疾病予防管理センターに勤務する女性疫学者が拉致・誘拐されてから一ヶ月後、市の中心部で大規模な爆発事件が発生した。被害者救助のため現場に駆けつけたウィルとサラは、車の衝突事故に遭遇し、けが人を助けようとしたのだが、被害者のはずの車に乗っていて負傷した男たちから銃を突きつけられ、ウィルは負傷、サラは誘拐されてしまった。車に乗っていたのは逃走中の爆破犯たちで、しかも一緒にいたのは拉致されている疫学者だった。爆破犯である白人至上主義者のキャンプに監禁されたサラを救うために、ウィルと相棒のフェイス、上司のアマンダはFBIとの確執もありながらも連携し、犯人たちの目的、組織、キャンプを解明しようと必死に駆け回るのだった・・・。 全編700ページ弱、いたるところに凄まじい暴力が横溢し、読み続けるのにかなりの精神力が要求されるハードな作品である。当たり前のように身の周りに銃があり、当たり前のように市中で銃撃戦が発生する病んだアメリカ社会は、絶望的といわざるを得ない。そして、アメリカのみならず世界が同じような崩壊への道を歩んでいるとしたら、法や秩序はどこに存在するのだろうか? シリーズ最新作だが、これまでシリーズ未読でも十分に楽しめる。サイコ・サスペンス、現代社会に材をとったサスペンスのファンにオススメする。 |
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イギリスの女性作家のデビュー作。ひき逃げ殺人事件の捜査から始まった警察小説が、いつのまにかサイコ・サスペンスに変化している、不思議な構成のミステリーである。
ブリストル市の住宅街の雨の夕刻、5歳の息子を学校に迎えに行った母親が自宅を目前にしてちょっと手を離したすきに子供が駆け出し、猛スピードで走ってきた車にはねられた。道路に倒れた息子に駆け寄り半狂乱で助けを求める母親を無視して、車はその場で方向転換し、街路樹に車体をこすりながら猛スピードで逃げて行った。事件を捜査することになったブリストル警察犯罪捜査課のスティーブンス警部補たちは、犯行の悪質さに怒りを募らせ必死んで捜査を進めたが、一向に手がかりをつかむことが出来なかった。それから半年後、警察上層部は捜査を打ち切るようにスティーブンスたちに命じたのだが、納得がいかない若手女性刑事・ケイトはこっそり捜査を継続し、スティーブンスもそれを黙認した。 一方、忌まわしい事故の記憶から逃れるためにウェールズの鄙びた寒村に来た、謎の女性・ジェナは親切な地元民に助けられ、徐々に海辺の村での生活を築き上げていたのだが、常に何かに怯えながら暮らしていた。 物語の前半は捜査の進行とジェナの動向が交互に語られ、事件の全体像が見えてきたと思われたのだが、スティーブンスたちとジェナが交差したとき、物語は急展開し、さらに複雑に、ミステリアスになって行く。 ひき逃げ犯を追いかける警察小説に、捜査陣内部の人間ドラマを加味したものだと思っていると、途中から一気にサイコ・サスペンスの恐怖に引きずり込まれている。新人のデビュー作とは思えない、なかなかに歯ごたえがあるミステリーである。 警察ミステリー、サイコもののファンにオススメする。 |
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大阪府警シリーズの第3作。ベテラン刑事部長・総田と平刑事・文田の新コンビが主役の警察ミステリーである。
名神高速道路を走行中の乗用車がダイナマイトで爆破されるという派手な事件が起き、乗っていた男女二人が死亡した。捜査を担当することになった府警捜査一課の深町班では、ベテランの総長こと総田とブンこと文田のコンビは、年下の上司である東大卒のキャリア・萩原警部補と一緒に行動することになった。何かにつけ東京を持ち出して大阪を見下すような萩原に対し反感を覚えるブンだったが、総長は案外寛容な態度で接していた。死亡した二人の身元が分からず苦戦していた捜査陣だったが、ほどなくしてマンションで爆発があり死体が発見されたことから、二つの事件の関連性を見つけ、被害者の身元を特定することが出来た。さらに、高速上で死亡した女性の背景を調べるために出身地の高知に赴いたブンと総長は、事件の背景に保険金目当ての偽装海難事故があるのではないかと疑った。足を棒にして聞き込みを続ける二人を尻目に、時々行方をくらませていた萩原だったが、ある日、周囲をビックリさせる捜査見立てを持ち出した・・・。 本筋は偽装海難事故の真相解明の警察ミステリーだが、サブストーリーとしてブンと総長の新コンビの掛け合い、大阪人と東京人の文化摩擦がちりばめられている。作者本人もあとがきに「東京と大阪の文化の比較を試みた」と書いている通り、すれ違いの面白みが加わっているところが、本シリーズでの中では特色的である。もちろん、大阪の刑事ならでは緩いユーモアは健在で、謎解きミステリーとしてもきちんと納得できる起承転結である。 黒川博行ファン、大阪府警シリーズのファンには安心してオススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの邦訳第12弾(シリーズとしては13作目)。今回から版元が代わったが訳者は同じなので安心して楽しめる、冒険サスペンス・アクションの傑作である。
ジョーの知人である地元の建設業者・ブッチが所有する住宅建設予定地で、武装した政府の環境保護局の職員2人が射殺されているのが発見された。2人はブッチに住宅建設を禁止する環境保護局からの通達を渡す目的で派遣されており、ブッチは姿を消していた。ブッチを逮捕するために、環境保護局は特別捜査官チームを送り込み、地元保安官事務所を押しのけて強引に捜査を進めようとする。パトロール中に偶然、逃亡中のブッチと会っていたジョーは、新任の上司の命令で捜査班を案内することになる。ブッチの人柄を知るジョーは事件のストーリーに納得がいかず、メアリーベスの助けを借りて背景を探ってみると、過去の因縁を引きずった暗い陰謀が見えてきた・・・。 殺人の動機の解明と、険しい大自然の中で繰り広げられる逃亡と追跡のアクションが主題のサスペンス作品である。ジョーが自分の生活圏とするワイオミング州の山の中でのアクションは、まさに本シリーズの真骨頂、いつもながら読み応えがある。さらに、事件の真相解明のプロセスもミステリーとして合格点で、家族の愛情を素直に歌い上げるところと合わせ、ジョー・ピケット・シリーズの真価を発揮した作品と言える。 シリーズ愛読者には必読。シリーズ未読のアクション小説、ミステリー小説のファンにも自信を持ってオススメする。 |
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イタリアではすでに8作が刊行され、テレビドラマとしてもシリーズ化されているという大人気の警察小説シリーズの第一作。「イタリア発 21世紀の87分署シリーズ」という帯の惹句通り、シリーズとしての邦訳を期待したい傑作警察ミステリーである。
ナポリでもとりわけ治安が悪い地域を担当するピッツォファルコーネ分署は、捜査班の4人の刑事が押収したコカインを横領したことで逮捕され、分署は存続の危機を迎えていた。そこに送り込まれてきたのが、切れ者ながら上司との折り合いが悪くて放出されたロヤコーノ警部、捜査中に暴力事件を起こしたロマーノ巡査長、署内で発砲したアレックス巡査長補、アメリカ刑事ドラマかぶれのスピード狂のアラゴーナ巡査という、いずれも癖があり過ぎて、前任署で持て余しものになっていた刑事たちだった。それを統括するのは人格者で新任のパルマ署長、さらに従来から分署にいた二人のベテランを加え、7人の捜査班が結成された。彼らが着任そうそうに直面したのが、スノードーム収集が唯一の趣味という資産家の中年女性の殺害事件だった。ロヤコーノたちが事件を伝えるために被害者の夫の事務所に行くと夫は不在で、連絡が取れなかった。後で夫に会うと、最初に伝えた出張という不在の理由は嘘で、愛人と泊っていたことを告白する。にわかに重要参考人となった夫だったのだが、犯行を裏付ける証拠は何も見つからなかった・・・。 本書冒頭の「謝辞」で筆頭にエド・マクベインの名を挙げていることからも明らかなように、87分署シリーズを意識して書かれた作品である。87分署をリスペクトするシリーズは世界中で書かれているが、本作はその中でも傑作に挙げられる完成度を達成している。本筋の事件解明プロセス、事件の背景となる社会状況、警察内部の事情など、警察ミステリーに必要な要素はきちんと押さえられている。さらに、7人の捜査班メンバーの個性、それぞれの生活、個人的な悩みなどが彩り豊かに描かれ、現代イタリアのヒューマン・ドラマとしても楽しめる。 すべての警察ミステリーファンに今後の展開が楽しみなシリーズが登場したと、自信を持ってオススメする。 |
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「虎狼の血」シリーズ三部作の完結編。ヤクザ以上にヤクザな暴対刑事を描いた前二作とはやや異なり、自分の腕力一つでのし上がって行く野良犬を主人公にしたノワール色の濃い警察サスペンスである。
組織暴力がそれなりの態勢を整えた昭和後期の広島で、無類の喧嘩度胸で愚連隊「呉寅会」を引っ張る沖虎彦。ヤクザをも恐れぬ無鉄砲さと人を引きつけずに置かないカリスマ性で仲間を集め、ついには地元の暴力団と全面対決するハメになった。沖の破壊力を、ヤクザの排除に利用したいと考えていた大上刑事は、愚連隊がヤクザと全面対決して勝てる訳がないと判断し、呉寅会が行動を起こす直前に沖たちを逮捕する。その18年後、服役を終えた沖は広島に戻り、昔の仲間を集めて「広島で天下を取る」ために再び行動を起こそうとする。しかし、時代は変わり、暴対法でがんじがらめにされているヤクザの行動様式は沖の想像とは異なっており、沖は満たされない思いに苛まれながら、自分が信じる唯一の手段「暴力」で野望を遂げようとする・・・。 警察小説シリーズの形式は踏襲しているものの、本作は時代に乗り、時代に取り残された男の悲哀を描いたノワール小説である。暴対デカ・大上刑事の破天荒な捜査、大上の薫陶を受けた日岡刑事の剛直さなど、前二作の面白さを継承した部分以上に、沖という男の無頼な生き方が強い訴求力を持っている。暴力が主役のエンターテイメントとして一級品である。 シリーズ読者は必読。警察小説ファン、ノワール小説ファンにも自信を持ってオススメする。 |
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新たに誕生したリーガルミステリーの傑作「トム・マクマートリー」シリーズの第2弾。KKK誕生の地・テネシー州ブラスキを舞台に、人種差別犯罪に立ち向かうトム、リック、ボーの戦いを描いた熱血法廷ミステリーである。
前作でトムに協力した黒人弁護士・ボーが逮捕された。45年前、5歳のときにKKKによって自分の面前で父親をリンチ殺人されたボーが、父の命日に当時のKKKのリーダーで主犯と思われた地元の有力者・ウォルトンを殺害したという。遺体はボーの父と同じように木に吊るされ、火をつけられており、復讐犯罪なのは明白だとして死刑を前提にした裁判にかけられたボーは、恩師であるトムに弁護を依頼する。トムと相棒のリックは地元を離れ、ブラスキまで駆けつけて弁護を始めるのだが、今なお露骨な人種差別がはびこる町で、しかも相手は就任以来負け知らずの女性検事長・ヘレン、さらに目撃証言や物的証拠も不利なものばかりという逆境で、いかにして活路を見出すのか。トムとリック、ボーはわずかな可能性にかけ、不屈の粘りで戦うのだった・・・。 本作も、人間のつながり、不屈の精神、貫き通す正義など、感情を揺さぶる要素が満載のヒューマンドラマである。がしかし、前作に比べるとミステリーの側面が強くなっている。反面、主役以外の人物、特に悪役がやや類型化されている印象である。 前作の主要登場人物が揃って登場し、前作のエピソードに関連するストーリー展開もあるので、絶対に前作「ザ・プロフェッサー」から読むことをオススメする。 |
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大阪府警シリーズの第8作。新登場のコンビが、若い女性の連続猟奇殺害事件を追うサスペンス・ミステリーである。
殺害された若い女性はセーラー服に着替えさせられ、なおかつ全身に剃毛が施されていた。大阪府警捜査一課のベテラン刑事・谷井と若手の矢代のコンビは制服マニアか、コスプレマニアの犯行を疑って捜査に取りかかったのだが、今度は女子大生の格好をさせられた若い女性の遺体が発見され、連続殺人事件の様相を呈してきた。さらに、ほどなくしてOLの格好をした女性の遺体が発見された。女性を着せ替え人形のように扱う犯人はサイコパスだと推測されたが、被害者はなぜ選ばれたのか、谷井と矢代は被害者に共通する背景を必死に追及し、女性の恋愛感情を利用して高額な宝石や呉服を売りつける恋人商法が関係しているのではないかと結論付けた。同じ頃、府立高校の教員・足立由実は知り合って間もないファッション・メーカーの社員・大迫との仲を徐々に深めつつあった・・・。 今回主役の刑事コンビは、このシリーズには珍しく仕事ひとすじである。それでも、大阪府警らしいとぼけた味わいは忘れておらず、要所要所でクスりとさせる。さらに、メインとなる事件がサイコ・ミステリーとしてしっかり構成されていて、真犯人解明までのプロセスも破綻が無い。また、被害者予備軍の女性教諭の視点からのサスペンスも読み応えがある。 大阪府警シリーズではやや異色の作品だが、シリーズファンには必読。さらに、サイコ・サスペンスや警察ミステリーのファンにもオススメする。 |
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現役の女性弁護士でもある作者の本邦初訳で、MWA最優秀長編賞にノミネートされた作品。型破りではあるが憎めない、生きのいい女性弁護士が奮闘する社会派リーガル・ミステリーである。
ユタ州ソルトレイクシティで刑事弁護士を開業しているダニエルに持ち込まれたのは、知的障害者の黒人少年・テディが麻薬密売を行ったとして逮捕された案件だった。本人に会ってみれば「幼児レベル」の知性しか無く、しかも未成年であるため、容易に不起訴に持ち込めると思ったのだが、なぜか検察も判事も成年犯罪として扱うことにこだわっていた。テディは当日の行動を理路整然と説明することが出来ず、しかもテディに同行したという3人の白人少年たちの証言まであった。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、弱者が人権を踏みにじられるのが許せないダニエルは、テディを守るために自分が持てる力のすべてを発揮して権力への戦いを挑むのだった・・・。 ヒロインのキャラクター設定が最高に面白い。自分が浮気したことが原因で別れた元夫に(夫と一緒に暮らしている息子にも)執着し、元夫の再婚話が進むと酒浸りになり(毎回のように二日酔いで法廷に出て、判事や検察に嫌がられている)、ほとんどストーカー行為を繰り返すという、性格破綻者レベルのダメ人間なのだが、一旦、理不尽なことに直面すると何ものをも恐れぬ火の玉となる激しい女性でもある。さらに、ダニエルを支えてくれる調査員、友人などのキャラクターも秀逸で、シリーズ化を期待したい。また、悪人側になる判事や検察もキャラ立ちしていて、波乱万丈なストーリー展開が無理なく頭に入って来る。 作者はアフガニスタン出身の人権派弁護士ということもあって、アメリカ社会の様々な差別に対する強烈な批判がビシビシ伝わって来る。がしかし、ヒロインの魅力を十分に引き出したユーモアのあるエンターテイメント作品でもある。 社会派のリーガル作品ではあるが、予備知識なしで十分に楽しめるエンタメ作品として多くの人にオススメしたい。 |
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ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズの第8作(訳者あとがき)。これまでウィルの人間性に大きな影響を与えながら影の存在だったアンジーが主役として登場する、サスペンス・ミステリーの傑作である。
プロバスケットのスター選手リッピーが所有するビル建設現場で元警官の惨殺死体が発見された。実はリッピーは数ヶ月前に強姦で訴えられ、ウィルが捜査したのだが強力な弁護団によって不起訴に持ち込まれていた。被害者は悪徳警官として知られ、退職後はリッピーのマネージャーに雇われ汚い仕事をしていたことから、リッピーの尻尾をつかめるのではないかと期待したウィルだったが、現場に残された銃が別居中のウィルの妻アンジーのものだったことで激しく動揺する。しかも、現場を血の海にした多量の出血は被害者ではなく、現場から逃げた女性のものだと判明。さらに、その血液型はアンジーと同じで、数時間以内に死に至る可能性があるという。アンジーが殺害犯なのか、どこに隠れているのか、正常な判断力を失ったような状態で必死に走り回るウィルに対し、恋人であるサラ、相棒のフェイス、上司のアマンダたちは複雑な感情を抱くのだった。 凄惨な殺人と複雑な犯行態様、底知れぬ闇をかかえた事件の背景など、サスペンス・ミステリーを盛り上げる要素が満載で一級品のミステリーである。さらに、今回主役のアンジーが複雑怪奇かつ直情的な、極めて存在感が強いキャラクターでヒューマン・ドラマとしても読み応えがある。アンジーは聖女なのか、悪女なのか、あるいはそうした判断を許さない超越的な存在なのか? シリーズでも屈指の傑作として、シリーズ愛読者はもちろん、本作が初めての方にも自信を持ってオススメする。 |
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2004年〜05年に雑誌掲載された連作短編集。連作とは言っても、温泉を舞台にした男女の物語という共通点があるだけの独立した5つの話である。
登場する5組の男女の関係は中年に差しかかった夫婦から高校生まで様々だが、どの作品でも二人は上手く行ってるようで上手く行ってないような、どこかですれ違いがある関係で、そのズレがドラマになっている。主人公たちはみんな善人というか、悪人ではなく普通の人。普通の人が普通に恋をして、普通に生きて行こうとするのだが絵に描いたようには生きられない。そんなささやかな悩みや苦しみを温かく描いてあって、読後感は爽やかである。 ハートウォーミングな人間ドラマを読みたいという方にオススメする。 |
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ノルウェーで大人気の「ヴィスティング警部」シリーズの第12作、邦訳では2冊目となる作品である。本作も、邦訳第一弾「猟犬」と同様に過去の事件を巡って、ヴィスティングを中心とする警察チームが緻密な捜査で真相を暴いて行く北欧ミステリーらしい作品である。
24年前の10月10日に行方不明になったカタリーナ・ハウゲンの事件は、いつまでもヴィスティングの心をとらえており、毎年、10月10日にはカタリーナの夫・マッティンを訪れ、様々に語り合うのが恒例になっていた。ところが今年、マッティンは留守で、しかも職場を休み、所在が確認できない状態だった。その翌日、ヴィスティングの勤務する警察署に来訪した国家犯罪捜査局の捜査官・スティレルが、カタリーナの一件の2年前に起き、ノルウェー社会を揺るがせた少女誘拐事件にマッティンが関与している疑いがあるという衝撃のニュースをもたらせた。さらに、スティレルはマッティンと親しいヴィスティングに、マッティンと交流することで証拠をつかむように依頼した。本来の目的を隠し、ヴィスティングはマッティンにさらに接近し、一緒に山小屋に行くことに成功する・・・。 二つの古い未解決事件が思いもよらない理由でつながり、一挙に解決するというのはありがちなパターンだが、本作はそれぞれの事件の解明プロセスがしっかりしているので、無理なく納得できる。さらに、ヴィスティングとマッティンの関係、ヴィスティングとスティレルの関係が極めて丁寧に描かれており、人間観察力に優れた作品となっている。また、前作同様、娘・リーネがジャーナリストとして関わり、重要な役割りを果たしているのも、物語を深みがあるものにしている。派手さは無いが、どんでん返しというか思いもよらぬ展開もあり、サスペンス・ミステリーとしての完成度も高い。 邦訳第一冊「猟犬」は早川、本作は小学館と分かれたため翻訳者も変わっているが、シリーズとしての違和感は感じない。ひとつ気になったのが表紙イラスト。どこかで見たと思ったら「犯罪心理捜査官セバスチャン」と同じイラストレーターだった。同じジャンルの別作家と同じイラストを使うのって、どうなんだろう? シリーズ物だが「猟犬」が第8作、本作が第12作であり、あえて順番に読まなくても十分に楽しめる。北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメする。 |
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2017年に刊行された書き下ろし長編。様々な自由が知らず知らずに制限され、やがては奪われてしまう恐ろしさを、読み応えのあるサスペンス・ミステリーに仕上げた力強い社会派エンターテイメント作品である。
興信所を営む鑓水と修司のもとに、かつて因縁のあった政治家から奇妙な依頼がもたらされた。白昼、渋谷のスクランブル交差点で天上を指差しながら死んだ老人の意図を探って欲しいというのだ。雲をつかむような話だが、一千万という報酬を無視できず、鑓水と修司は死んだ老人・正光の過去を調査し始める。一方、相馬刑事は極秘裏に、こつ然と姿を消した公安刑事・山波の行方を探すように命じられる。捜査を進めると、山波が失踪したのは老人が死んだ同じ日で、しかも山波と老人に接点があったことが判明する。やがて二つの事件は密接につながり、三人は失踪した山波を追って瀬戸内海の小島にたどり着く。のどかな日常が繰り返されているだけのひなびた村で見つけたのは、戦争の苦難をくぐり抜けてきた老人たちが抱え続けている消せない傷だった。一方、正光の死と山波を繋ぐ出来事の裏には、社会を揺るがすような陰謀が隠されているのだった。それに気が付いた三人は、存在のすべてをかけて巨悪に挑戦する。 本作の最大のテーマは「社会は、なぜ自由を維持できなくなるのか」という点で、報道の自由が奪われるプロセスを詳細に検討し、自由を制限しようとする権力の暴挙がまだ小火のうちに消さなければ、結果としてだれも抵抗できなくなるという警鐘を鳴らしている。政権に批判的なジャーナリストが次々に登場機会を奪われ、政権におもねるタレントばかりが登場する現状の日本を見るとき、本作の訴えは絶対に無視してはいけない。 極めて社会性、現代性のある硬質なテーマだが、サスペンス、ミステリーとしても一級品で、決して退屈することは無い。 現在を生きる人、すべてに読んでもらいたいオススメ作品である。 |
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「犯罪者」でデビューした著者の第2作。冤罪事件をテーマにした書き下ろし社会派ミステリーの力作である。
修司を仲間にして興信所を運営する鑓水が依頼されたのは、23年前に行方不明になった、当時小学6年生の水沢尚を探してくれという奇妙な依頼だった。しかも、依頼者である尚の母親は関連資料を渡したあと、鑓水たちの前から姿を消してしまった。調査費を受け取った以上、仕事するしかないと諦めた鑓水と修司は、失踪当時の尚に関する聞き込みから調査を始めることにした。一方、交通課に左遷された相馬は、元高級検察官僚の孫娘が誘拐された事件の末端で足を棒にして不審車両の目撃情報を集めていたのだが、事件現場に立ち寄ったとき、ある模様が残されているのを見つけ、激しい衝撃を受けた。それは、23年前に当時友だちだった尚が姿を消した場所で目にしたものと同じだったのだ・・・。 23年前に起きた事件と、その8年前の事件、それに現在進行形の事件が重なり合って描き出されるのは、「罪を犯したものが正しく裁かれている」という司法制度への信頼は本当なのか?という、スケールの大きな問いかけである。加害者、被害者の心理、信念などではなく、事実を争うはずの裁判が本来の機能を発揮できているのかという問いかけは、司法にたずさわるものだけではなくすべての国民に向けられている。 社会派ミステリーのファンには絶対のオススメ。なお、物語としては独立しているのだが、主人公たちのキャラクターを理解した方が楽しめるため、前作「犯罪者」を読んでから手に取ることをオススメする。 |
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2016年から19年にかけての雑誌連載に加筆・修正し改題されたノンシリーズの長編作品。大阪府警捜査二係の刑事コンビが無尽で集めた金を持ち逃げした犯人を追って沖縄、奄美に渡り、沖縄近海に沈んだ交易船から宝物を引き揚げるというトレジャーハンティングの出資話にたどり着き、詐欺事件として立件するという警察小説である。
大阪泉尾署で詐欺や横領など経済事案を担当する新垣と上坂のコンビに新たに割り当てられたのは、沖縄出身者たちの無尽である模合で金を持ち逃げした解体業者・比嘉を探し出し逮捕することだった。事務所を皮切りに足取りを追うと、比嘉は出身地である沖縄、石垣島に逃げたようだった。冬が近づく大阪から南国へ、リゾート気分で追いかけた新垣と上坂だったが常に比嘉に一歩先を行かれ捕まえることが出来なかったのだが、そうするうちに、比嘉が怪しい沈船ビジネス詐欺の常習犯と一緒に行動していることを発見。詐欺事件をして立件することを視野に入れ、深く追求して行くと、背後に暴力団も絡む大掛かりな犯罪が見えてきた・・・。 大阪府警が舞台だが従来の大阪府警シリーズには分類されず、単独作として扱われている。ただし、主役の上坂は「落英」でも主役となっており、二度目の登場である。ストーリーの基本は仲間の金を持ち逃げした詐欺・横領事件と大掛かりな沈船詐欺の捜査だが、暴力団が絡むことでいつも通りの黒川博行ワールドのエンターテイメント作品になっている。二人の刑事を始めとする警察、詐欺グループ、暴力団のキャラクターがきちんと描かれているため、ストーリーが分かりやすく、話の展開もスピーディで一気読みの面白さだ。途中に何度も挿入される映画マニア・上坂の映画トリビアも読みどころ。 黒川博行ファン、警察ミステリーファン、軽めの犯罪ミステリーファンにオススメする。 |
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