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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数529件
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単行本を改定した文庫版に、さらに書き下ろし短編を加えた増補版(2019年)。東京湾を挟む品川ふ頭とお台場で働く若い男女の不器用な愛の物語である。
品川ふ頭で肉体労働に従事する亮介が25歳の誕生日に羽田空港で待ち合わせたのは、出会い系で見つけた涼子というOLだった。浜松町駅のキオスクで働いているという涼子に亮介は、また会いたいというのだが、涼子からは連絡が来なくなった。会社の同僚の彼女の紹介で真理と付合うようになった亮介だったが、ふと送ったメールをきっかけに再び涼子と会い、お互いに不安をいだきながら関係を深めていく。やがて、涼子が隠していた本名や職業などが判明し、亮介の過去の出来事も明らかになり、二人の関係は脆く、しかも激しくなっていく・・・。 揺れ動き、戸惑い、それでも止められない恋愛が見事な筆力で描かれており、ずしんと来る読み応えである。 吉田修一ファンはもちろん、現代的な恋愛小説のファン、若者が主役のエンターテイメント作品のファンにオススメする。 |
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科学捜査の天才・リンカーン・ライムシリーズの第14作。ホームグラウンドであるニューヨークを舞台に、悪魔的な犯行計画の解明に取り組む、警察ミステリーの王道を行く作品である。
ニューヨークの宝飾店街で、店主であるダイヤモンド加工職人と婚約指輪を受け取りにきた男女が殺された。店内は荒らされ、極めて高価なダイヤモンドが行方不明になっていた。さらに、店主は凄惨な拷問を加えられており、犯人が何かを聞き出そうとしたのではないかと思われた。ライムのチームが捜査を担当することになったのだが、事件現場で犯人に遭遇した目撃者は警察に通報したものの、名乗り出ることはなく、自ら身を隠しているようだった。さらに、事件の直前に店を訪れていた人物が殺害され、婚約中の男女が襲撃される事件も連続した。事件に追われるライムたちをあざ笑うかのように、ダイヤモンドへの執着を表明した犯行声明が送り付けられた。次の犯行を防ぐために、ライムたちは隠れている目撃者を捕まえようとするのだが、犯人も目撃者を追いかけているのだった・・・。 ダイヤモンド強盗と思われた事件が、地中熱発電事業を巡る争いと関連し、さらに大規模な陰謀とつながっていく。相変わらずスケールが大きく、派手な物語である。しかし、従来のようなジェットコースター的急展開が影を潜め、綱渡り的緊張感のあるストーリー展開の作品となっている。その分、謎解きの面白さが際立ち、警察ミステリーとしてのレベルが高まっている。 リンカーン・ライムシリーズのファンはもちろん、アメリカ警察小説ファンにオススメする。 (なお、作品の評価とは関係ないのだが、単行本第一刷では漢字変換ミス、校正ミスが散見された。文藝春秋社ともあろうものが、と残念な思い) |
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イギリスの新人作家のデビュー作。本国ではすでに第三作まで刊行されているという、マンチェスターの刑事をヒーローにした新しい警察小説シリーズの登場である。
マンチェスターの麻薬売買を牛耳る組織に潜入し、ボスのカーヴァーが操っている警官を捜し出せという難しい秘密任務を命じられたのは、押収品の麻薬をくすねて停職処分を受けている巡査・ウェイツだった。堕落した警官なら麻薬組織も受け入れるだろうという計算である。しかも、この困難な潜入捜査に加えて、家出して麻薬組織に入り浸ってしまっている司法大臣の娘・イザベルの救出も任務とされた。毎週末にカーヴァーの豪邸で開かれるハウス・パーティーに潜り込み、カーヴァーの知遇を得たウェイツは組織の実態をつかみ、任務の目的に近づいたと思っていたのだが、イザベルが死体となって発見される事件に関与したことから思わぬ事態に巻き込まれることになった。 これまでの英国警察小説の主流であるダルグリッシュ警視、リーバス警部、ダイヤモンド警視など頑固で大人の警部たちとは異なり、まるでアメリカのはぐれ警官のような若くて破滅型の巡査が主人公という設定がとても新鮮。物語も麻薬密売組織と警察の不透明な関係、政治家一家のスキャンダル、大都会にはびこるドラッグの病魔など、現代的な要素をたっぷりと盛り込んだアクション小説である。文庫で600ページという長さから、途中にちょっと中だるみがあるものの読み応えがある作品で、次作以降の邦訳が待ち遠しい。 英国警察小説の王道作品のファンより、アメリカの刑事物のファンにオススメする。 |
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2005年に発売された書き下ろしの長編小説。大学新入生を主人公に、モラトリアムの喜びと悲しみを描いた、やや感傷的な青春小説である。
仙台の国立大学の新入生・北村は、金持ちの息子・鳥井、超能力少女・南、徹底的にクールな美人・東堂、暑苦しいほどの熱血漢・西嶋という4人の学生とつるんで学園生活を送ることになった。何事にも一歩引いて関わるため鳥瞰型と言われる北村だが、個性的な友人たちによって否応なく様々な問題に巻き込まれ、自由で無責任なモラトリアム時代ならではの青春を謳歌しながら卒業することになる。 作者にしては常識的というか、大人しい構成だが、それでもいくつもの山場となるエピソードがあり、物語を追いかけていく楽しさを満喫できる。さらに、ストーリー展開のテンポの良さ、会話のリズムの心地よさ、折々に出現する印象的なフレーズなど、いつも通りの伊坂幸太郎ワールドは不変である。 伊坂幸太郎ファンのみならず、安心して読める青春小説がお好きな方にオススメする。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第6作。難しい事件捜査で警察組織の闇に迷いながらも信念を貫こうとするボッシュの苦しい戦いを描いた、骨太の警察ミステリーである。
長年、ロス市警と対立してきた人権派の黒人弁護士が射殺された。マスコミを始め多くが警察官による犯行ではないかと疑っている難事件の捜査が、本来管轄外であるボッシュのチームに回ってきた。信頼する二人の部下とともに捜査を進めたボッシュは、事件の背景に数年前の少女誘拐殺人事件が関わっているのではないかとの疑念を抱くようになった。だがしかし、世間はロス市警と黒人社会との対立に焦点を当て、ロサンゼルスは人種間暴動の勃発寸前にまで緊張感が高まっていた。焦る市警上層部は、事件の真相解明より暴動の回避を優先し、ボッシュは厳しい立場に追い込まれるのだった。 ロドニー・キング事件の後遺症に囚われたロス市警、ロサンゼルス市の底流に流れる人種間対立を背景にした殺人事件捜査がメインで、それにボッシュの結婚生活という個人的事情が重なった、全体に非常に重苦しい雰囲気の作品である。そんな中で警官としての正義を貫くボッシュの姿は、現代の警察小説の典型例として輝いている。 ボッシュ・シリーズのファンはもちろん、重量感のある警察小説を読みたいというファンに、自信を持ってオススメする。 |
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本屋大賞を始め各種のミステリーランキングに入り、映画化もされた話題の作品。読み始めは「これがミステリー?」と疑問符だらけだが、最後にはきちんと伏線が回収されて納得できるユニークなミステリーである。
大学入学でアパートに引っ越してきた椎名は、最初に出会った隣人・河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。その目的は、1冊の広辞苑を奪い、隣室の外国人にプレゼントするためだという。優柔不断の塊りのような椎名は結局、河崎とともに書店を襲い、一冊の「広辞林」を奪うことになる。その2年前、同じ街のペットショップに勤める琴美は、同棲中のブータン人・ドルジと一緒に行方不明の黒柴犬を探しているうちに動物虐待犯たちのグループと遭遇し、トラブルに巻き込まれた・・・。 二つの物語が、どうつながっていくのか? その構成の奇抜さは、まさに伊坂幸太郎ワールド。訳の分からないエピソードたちが、1つのミステリーにきちんと収束していくところが恐ろしい。推理を重ねて謎を解くというのではなく、作者の手によって常識的な思考を振り回されるところに快感がある。ある種の不条理な世界である。 本格ミステリーではなく、アップテンポな風俗小説を読みたいという方にオススメする。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第19作。私立探偵として、パートタイムの警官として、経験と体力にものを言わせて難事件を解決するボッシュの活躍を描いた傑作ハードボイルドである。
私立探偵免許を取り直して個人的な仕事をする一方、ロス市警時代の友人に誘われてロス近郊の小都市・サンフェルナンドで無給のパートタイマー刑事として働いていたボッシュのもとに、大富豪の老人・ヴァンスからの依頼が届けられた。極秘で依頼されたのは「学生時代に付き合い妊娠させたのに、親に仲を引き裂かれたメキシコ人の恋人か、その子供を捜して欲しい」というものだった。生涯独身を通したヴァンスには子孫がなく、死亡したときには莫大な遺産を巡って混乱する恐れがあるため、別れた恋人か子供が見つかれば全財産を遺贈したいという。ヴァンスのわずかな記憶を手がかりに調査を進めたボッシュは、別れた恋人には男の子がいたことを発見する。同じ頃、サンフェルナンド警察では連続女性暴行事件が発生しており、ボッシュは同僚の女性刑事・ベラとともに捜査をすすめていたのだが、同じ犯人によると思われる暴行未遂事件がおき、捜査が急展開する。二つの事案の板挟みになったボッシュは、気力を振り絞って奮闘するのだった。 私立探偵としての人探し、警官としての犯人探し、どちらにも手を抜かないのがボッシュで、文字通り寝る間も惜しんで走り回る。さらに、アクションシーンにも果敢に立ち向かい、正義を貫き通す。ボッシュ・シリーズの醍醐味を凝縮したようなエンターテイメント作品である。 リンカーン弁護士・ハラーが重要ポイントで協力するところも嬉しい限りで、コナリー・ファンには自信を持ってオススメする。 |
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2015年に書き下ろしで刊行された、著者の初長編。同年のミステリーランキングで上位に入り、各種の賞の候補作ともなった、意欲的なミステリー風の青春小説である。
アメリカ陸軍空挺師団に所属するティムは、生まれながらの食いしん坊で祖母の料理が大好きな少年だったが、周りの友人たちの空気に流されて17歳で陸軍に志願したものの、あまり兵士には向いていないと自覚し、特技兵(コック)になる。ティムたちの初陣はノルマンディー上陸作戦で、それから終戦まで、ヨーロッパ戦線で様々な体験をすることになる。兵隊仲間からは軽く見られるコックだが、いざ戦闘が始まれば武器を取って戦うため、常に死と隣り合わせの過酷な日々だった。そんな中、コック仲間をはじめ、同年代の兵士たちとの交流、敵との遭遇、戦場となった街や村の人々との出会いを通して、ティムは人生の意味を深く考えるようになった。 物語は主に5章に分けられ、それぞれの章でミステリーというか「謎解き」のエピソードがあるのだが、物語の本筋は人間性への信頼、人間同士の憎悪、絶望からの再生にある。あまり知的とは言えない19歳の少年が極限状況を経験することで、どのように変化していくのか。本書のメインテーマは、そこに置かれている。 日本人の女性がヨーロッパ戦線の物語をここまでリアリティを持って書けたことに驚愕した。ミステリーとしてはやや完成度が低いかもしれないが、少年の成長物語、戦争とは何かを追求した作品として一級品である。 ジャンル分けにはこだわらず、多くの人にオススメしたい傑作と言える。 |
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1998年〜99年の雑誌連載を加筆、訂正した長編小説。ロサンゼルスの日系保険会社に勤務する日本人PIが、残酷な日本人の殺人鬼を、その父親からの依頼で探し出す私立探偵小説である。
日本の保険会社のサービスとして、主に日本人が関わったトラブル処理にたずさわっているサム永岡が指示されたのは、隠し撮りされた写真に写った日本人青年を探し出すことだった。上司は簡単な仕事だと言ったのだが、いざ探し始めると青年は犯罪に手を染めており自ら姿を隠しているようだった。写真だけを手がかりに苦労して居場所を突き止め、接触しようとすると、その青年・安田信吾はいきなりサムを銃撃してきた。驚いたサムは上司に、安田信吾を探しているのは誰か、なぜ探すのかを教えてくれるように依頼するのだが、会社の上層部から詳細な説明を拒否された。不信感を募らせていたサムのところに、ある日、中年の日本人男性が現われ、自分は安田信吾の父親で、自分で信吾を探し出したいという。サムの手助けを断り、ひとりでメキシコとの国境に近い場所に行こうとする父親を危惧したサムは、一刻も早く安田信吾を見つけるために、荒れ果てた国境の街をめざして車を走らせるのだった・・・。 舞台はロサンゼルスやメキシコ国境の町とはいえ、主要な登場人物が日本人であり、普通ならいかにも日本の私立探偵ものらしいウェットな犯罪と解決方法になるのだろうが、犯罪と悪人を極端にドライにすることで、レベルが高いハードボイルドに仕上がっている。特に、子供のような無邪気な笑顔で接する人を魅了しながら握手をするように気軽に人を殺してしまう悪人・安田信吾の設定が効いている。さらに、アメリカに置ける人種差別、なぜ犯罪者が生まれるのか、親と子の関係のあり方はなど、背景となるテーマにもしっかり目が行き届いており、社会派エンターテイメントとしても評価できる。 真保裕一らしさが詰まったハードボイルドとして、真保裕一ファンにはもちろん、すべてのハードボイルドファンにオススメしたい。 |
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2006年に新聞連載され、2010年に単行本化、2013年に文庫化された長編小説。高校生の息子と四人の父親が作り出す不思議な家族の冒険を描いたファミリーミステリーである。
地方高校の2年生・由紀夫は6人家族。しかし、その中身は、四股を掛けた末に同時に4人と結婚した母親と4人の父親たちという面倒くさいものだった。ギャンブルが生き甲斐の「鷹」、大学教授で頭脳明晰な「悟」、元ホストで女性の扱い方の天才「葵」、バスケットボールと格闘技マニアの中学教師「勲」という個性的過ぎる父親たちに育てられた由紀夫は、学業成績がよく、スポーツ万能で女性に人気があり、しかもゲームや博打にも強い理想的な男子だった。ところが、不登校になった同級生が気になり自宅を訪ねたことから、思いもよらぬ事件に巻き込まれることになった。 とにかく最初の主人公の背景設定からして常識はずれ、しかも続々と登場する周辺人物も極めて個性的なキャラクターで、彼らの会話だけでも面白い。さらに、由紀夫が直面したトラブルを解決する父親たちの活躍をメインストーリーに、同級生たちとの高校生生活、県知事選挙を巡る陰謀など様々なサブストーリーが重なって、あれもこれもの賑やかなお話のパレード状態。まさに伊坂幸太郎ワールドである。 ミステリーとしてだけで成立している作品ではないので、犯人探しや謎解きを期待すると肩透かしを食う。奇想天外なお話の明るさ、個性的なキャラクターの奔放さを愛する人にオススメする。 |
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第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した、伊坂幸太郎のデビュー作。シュールな設定のファンタジーであり、殺人事件の謎を解くサスペンスであり、軽快でスピーディーな会話が楽しい、完成度の高いエンターテイメント作品である。
衝動的にコンビニ強盗を働いて逮捕されたのだが、連行するパトカーが事故を起こしたために逃走した伊藤は、気が付くと全く知らない部屋にいた。訪ねてきた男・日比野が言うには、ここは仙台の沖にあるのだが、江戸時代から外界から遮断されている島だという。島の住人は奇妙な人物ばかりで、さらに、人語を解し未来が見えるというカカシは優午という名前を持ち、島の人々から信頼と尊敬を得ていた。伊藤が島に来た翌日、カカシの優午がバラバラにされているのが発見される。誰が、何のために優午を殺害したのか? 伊藤と日比野たちは事件の謎を解くために、島の人々に話を聞き回るのが、人に会えば会うほど謎は深まるばかりだった・・・。 舞台の設定、登場人物の設定がとにかく型破り。現実離れしたお話が展開されるのだが、ストーリー展開には妙なリアリティがあり、読者は現実世界のことを想起しながらストーリーを追うことになる。しかも、犯人探しミステリーとしても破綻しておらず、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したのも納得できる。 その後の伊坂幸太郎ワールドの原点として、伊坂ファンには絶対のオススメだ。 |
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2003年に発表された長編第三作で、陽気なギャング・シリーズの第1作。アップテンポで楽しい、銀行強盗小説である。
嘘を見抜く名人・成瀬、天才スリ・久遠、演説の達人・響野、正確な体内時計を持つ女・雪子という特異な4人組は、狙った銀行の金は必ず頂戴するスマートな銀行強盗団だった。ところが、横浜の銀行を襲い見事に4000万円を奪った帰り道、現金輸送車強奪犯たちと遭遇し、奪った金を強奪されてしまう。このまま泣き寝入りするはずもなく4人は金を奪い返す作戦に取りかかったのだが、強奪犯のメンバーのひとりの部屋を探ろうとして、その男が殺されているのを発見する。さらに、雪子の息子がいじめに巻き込まれるというトラブルが発生。しかも、強奪犯たちに素性を知られてしまった。そんな苦境の中、成瀬を中心に奇想天外なプランを立てた4人は、さらなる銀行強盗を実行するのだった。 どこをどうやれば「こんな面白い話を作り上げられるのか」と感嘆するほど奇想天外な話である。だが、物語の構成としてはきちんとしているし、伏線の回収も見事でまさに完成された犯罪小説である。さらに主要登場人物だけでなく周辺人物のキャラクターも鮮明で、会話やエピソードもいちいちおしゃれで、第一級のエンターテイメント作品と言える。 伊坂幸太郎ファンには絶対のオススメ、テンポが良くて楽しい物語が好きな方にもオススメする。 |
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2013年に発表された「ウィル・トレント」シリーズの邦訳第7弾。ジョージア州の学園都市・メイコンを舞台に麻薬密売人と警察の対決を描いた警察小説である。
メイコン警察の刑事・レナが白バイ警官である夫・ジャレドと住む家に男たちが押し入り、ジャレドが射たれて重体になり、レナは強盗のひとりを殺害し、もうひとりに重傷を負わせた。犯人たちが家に押し入るとすぐに夫婦二人に発砲していたことから、強盗目的ではなく二人の命を狙っていたのではないかと思われた。ところがそのとき、事件現場には別の事件で潜入捜査中だったジョージア州捜査局の特別捜査官ウィル・トレントがいたのだった。事件の解明のためにジョージア州捜査局が乗り出したのだが、自分の縄張りを侵されたメイコン警察は激しく反発した。ウィルが潜入捜査に苦心する一方、レナの同僚刑事たちが襲撃される事件が発生し、麻薬犯罪組織と警察との対決が深まってくる。さらに、捜査のためには規則を無視して突っ走るレナ刑事とウィルの過去の関係も絡み合い、ストーリーは二転三転するのだった・・・。 ウィル・トレント特別捜査官が主役のされるシリーズだが、本作では刑事・レナとウィルの恋人のサラがフィーチャーされており、正統派の警察小説であるとともにサバイブする女性たちの物語にもなっている。麻薬組織のボスを洗い出す捜査小説としてだけでも十分に面白いのだが、さらに女性の強さを描いたドラマとしても楽しめる。 暴力シーンがかなり激しいので衝撃を受ける読者もいるかと思うが、ヒロインが際立つミステリーが好きな方にはオススメしたい。 |
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殺し屋シリーズの第3弾。雑誌掲載の3作に書き下ろし2作を合わせた連作短編集のような構成だが、長編として読めるエンターテイメント作品である。
本作の主人公は凄腕の殺し屋「兜」。仲介人である「医師」の指示で仕事をしてきたのだが、愛する子供と妻のために引退したいと思い、その意思を伝えるものの受け入れてもらえず、渋々仕事を続けていた。そんなある日、兜は自分が狙われていることに気が付いた・・・。 家族を愛しながら家族に内緒で殺し屋を続けているという設定自体が笑いを誘うのだが、さらに兜が徹底した恐妻家だというのが面白い。息子に呆れられるほど妻の機嫌をうかがい、妻を怒らせないための傾向と対策のメモを作成し、日々、妻の機嫌を悪くさせないためだけに生きている様子が、とてもリアルに描かれている。世の恐妻家たちはほとんどが大きくうなずくであろう。 ミステリーというよりエンターテイメント作品であり、本シリーズのファンはもちろん、伊坂幸太郎作品のファンには安心してオススメできる。 |
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2004年に発表された「殺し屋シリーズ」の第1作。3人の殺し屋と「妻を殺した男への復讐を横取りされた」男の群像劇である。
愛妻を寺尾の長男に轢き殺された「鈴木」は復讐のため寺尾が経営する怪しげな会社に入社し、長男殺害の機会をうかがっていたのだが、長男は交差点で道路に出て車にはねられた。これは事故ではなく、殺し屋の「押し屋」が仕掛けた殺人であると判断した会社は、鈴木に押し屋の尾行を命じる。仕事中に偶然この事件を目撃した殺し屋「鯨」は、かつて押し屋に苦杯をなめさせられたことがあり、押し屋を追跡することになった。もうひとりの殺し屋「蝉」は、鯨に殺人を依頼した政治家から鯨を殺すことを依頼されたのだが、仕事を完了する前に、寺尾の会社が押し屋を探していることを知り、自分が押し屋を抑えれば有名になれると考えて、押し屋の追跡劇に参入した。かくして、3人の殺し屋の三つ巴の戦いと平凡な若者である鈴木の身の程知らずの復讐が絡み合い、物語は予測不能のドラマを展開することになる・・・。 誰が主役なのか? 最初は鈴木のように見えるのだが、次第になかなか正体を現さない押し屋のようになり、最後には3人の殺し屋と鈴木を操る神のような存在、運命論が主役かと思わされる。こうした予想を裏切るような、しかもスピード感のある展開とキレがよくユーモラスでありながら意味深い会話が相まって、最初から最後まで楽しめる物語である。 伊坂幸太郎ファンはもちろん、軽快なエンターテイメント作品を読みたい人には自信を持ってオススメしたい。 |
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フランスを代表する人気作家になったグランジェの長編第4作。ジャン・レノが主演した映画「エンパイア・オブ・ザ・ウルフ」の原作である。
フランスの高級官僚の妻・アンナは、夫の顔が突然見知らぬ人に見えたり、周囲の人の顔が溶けてしまったりする記憶障害に悩まされていた。夫とその友人である脳神経科医は脳の生検をすすめるが、何か納得できないアンナは検査を先延ばしにして逃れようとする。その頃、パリの貧民街で暮らす不法滞在のトルコ人女性が殺害される事件が、3ヶ月ほどの間に3件発生し、しかもどの被害者も顔に徹底的な暴力を加えられていた。連続殺人を担当することになった警部・ポールは、トルコ人社会に精通していた退職警部・シフェールに協力を求めたのだが、シフェールは現役時代からとかくの噂がある危険な男だった。アンナは夫の説明に疑惑を抱き、記憶障害の真相を解明しようする。ポールは自分勝手なシフェールに手を焼きながら事件の真相を探っていく。そして、二人の道は奇妙なところで交錯し、やがてトルコの麻薬密売組織が絡む国際的な陰謀が明らかになる・・・。 アンナを主人公と考えれば、夫を信頼できず、ひとりで謎の解明に立ち向かうヒロインの物語であり、ポールを主人公と考えれば、猟奇殺人事件捜査の物語である。つまり、それぞれ独立した作品として成立するような二つの物語が上手く組み合わされ、思いがけない展開が続出するスリリングなサスペンス作品になっている。 サイコファン、ノワールファン、サスペンスファンなど、幅広いジャンルのファンにオススメできる作品である。 |
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家庭裁判所調査官の武藤と陣内を主人公にした短編集「チルドレン」に続く、シリーズ第2作。今回は、無免許運転で死亡事故を起こした19歳の少年の事件をベースに、罪と罰と更生について問いかける長編小説である。
異動先でまたまた陣内と同じ班に配属された武藤が担当することになった少年は、両親と小学校時代に親友が交通事故で死亡するという二度の悲劇に見舞われていた。車に対する警戒心が強いはずの少年が、なぜ無免許運転していたのか? 全く心を開かない少年に手を焼きながら、なんとか背景を探りだそうとする武藤は関係者と接触するうちに、少年が何かを隠していることに気が付いた。真相を解明したいと望みながら、その結果が怖くもある武藤に対し、何ものにも動じない陣内は、まるでバックドアから侵入するがごとく少年の心を揺さぶり、正解の無い答えを強引に提示してみせるのだった。 少年事件では罰することより更生させることを目的とする。この大原則を守るために地道な努力を続ける家裁の調査官たちの苦悩を描いた物語だが、そこは熟練の技を持つ伊坂幸太郎のこと、読者をさまざまに考えさせながらユーモラスなストーリーですいすいと読ませていく。ただただ厳罰化だけを要求するような現在の社会風潮に対し、立ち止まり再考することを訴えている。 シリーズ作品だが、本作だけを読んでも問題ない。社会派エンターテイメントがお好きな方にオススメする。 |
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バンクーバーの底辺の街で、狼の血を引く野良犬だった雌犬ウィスパーと暮らす調査員ノラ・ワッツを主人公にするシリーズ三部作の第一作。作者のデビュー作だけにやや荒削りだが骨太の女性ハードボイルドである。
冬の早朝5時、ノラに「15歳の少女が行方不明になったので探して欲しい」という電話がかかってきた。依頼人に会ったノラは「失踪したボニーは、あなたが15年前に養子に出した子供だ」と告げられる。ノラには確かに、15年前にレイプされて妊娠し、生まれた子供を腕に抱くことも無く養子に出した過去があった。母親としての自覚は全く無かったノラだったが、警察が本気では捜査していないこともあり、少女を捜すことを決心する。単なるティーンエイジャーの家出かと思われた事態だったが、調べを進めるうちにノラの過去にも関わってくる邪悪な陰謀の影が濃くなってきた・・・。 本作の魅力の第一は、ヒロインのキャラが異色なこと。先住民の血を引く姉妹の姉で、幼い頃に両親と別れ、連れて行かれた里親や施設になじめずに家出し、ホームレスや軍隊を経験し、現在は私立探偵とジャーナリストの共同事務所で調査員として働きながら無断で事務所のビルの地下室で暮らしているという複雑さ。しかもアルコール中毒の過去があり、恩を仇で返すような倫理観が欠如した部分もある、いわば壊れた女である。それでも、周辺人物たちからは助けの手を差し出され、一途に正義を貫こうとする強さも併せ持っている。誰かの書評に「ミレニアムのリスベットみたい」という表現があったが、その通り。ストーリーがどうこうよりも、ヒロインの言動に共感できるか否かが、本作の評価を決めるだろう。 ハードボイルド・ファン、ノワール・ファン、女性が主人公のサスペンスがお好きな方にオススメしたい。 |
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1998年から2000年にかけて週刊誌に連載された長編冒険小説。組織を追われたヤクザが逃亡先のベトナムで知り合った若者たちの日本への密航に命を賭けて挑む、派手なアクション小説である。
恩義のある親分の謀略で海外逃亡を余儀なくされたヤクザ者の坂口修司は、組織から指示された潜伏先のバンコクで命を狙われ、ひとりでベトナムに逃げ込んだ。何の後ろ盾も無く異国で生き延びようとする修司が出会ったのは、サイゴンの最下層で暮らすシクロ乗りの青年たちだった。ベトナムに移っても正体不明の刺客の存在や地元警察の腐敗警官の脅迫に危険を感じた修司は、青年たちの助けを借りて潜伏するとともに、彼らの「黄金の島・日本」への密航という憧れを手助けするようになる。そして、ベトナムの社会に追いつめられた若者たちと日本のヤクザに追いつめられた男は、決死の覚悟でベトナムの海岸から船出したのだった・・・。 一方にはバブルの恩恵で肥え太ったヤクザたち、それに寄生する女たち。一方には祖国統一の恩恵には恵まれず、血眼になって生きる道を開いていくベトナムの若者たち。その狭間で揺れる良心的ヤクザ。それぞれの立ち位置で身に付けた思考と行動がリアルに絡まって、思いがけないドラマに広がっていく様が非常に説得力がある。登場人物たちが善人・悪人という軸だけでは判断できない複雑さを抱えているのもいい。ベトナムという異境の雰囲気も非常に迫真的で、ぐいぐいと読者を引っ張っていく。さらに、最後の密航シーンのスリルとサスペンスは、真保裕一ならではの迫力がある。 ヤクザもの小説ファン、冒険小説ファンはもちろん、「熱量がある小説を読みたい」という人にオススメだ。 |
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作者のデビュー作と第2作を想起させる短編集。実際の事件に想を得て、人間の愚かさ、不可解さ、悲しさを巧みに描いた、短編の名手シーラッハの面目躍如の作品集である。
わずか213ページに12作品が収められた文字通りの短編ばかりだが、単なる真相解明や裏話ではなく、人間の実相とそのおかしさ、悲しみが巧みなストーリーで語られており、それぞれに味わい深い。犯罪者ばかりが出て来るのだが、読み終わったあと、それまでより人間に優しくなっているような気がするヒューマンな読後感がいい。シーラッハは長編も力強いが、やっぱり短編の方が独自性があって素晴らしい。 シーラッハファンはもちろん、ツイストの効いた短編集のファンにオススメだ。 |
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