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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数572件
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政治ハードボイルドが得意なロス・トーマスの80年代の傑作。
個性が強いというかクセがあり過ぎる主人公たちが、何が何だか分からないうちにどんどん話を広げていく。登場人物の人間関係、事件の背景が複雑で読みにくいが慣れれば面白くなる。オススメだ。 |
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新競馬シリーズの第11作(邦訳は3作目)。競馬界を侵す不正を阻止するためにシッド・ハレーが危険を顧みず奮闘する、血湧き肉躍る競馬ミステリーである。
ハレーが同時期に騎手として競っていた調教師から「八百長を強要されている。助けてくれ」と電話があった。競馬協会の監視機関も見抜けない巧妙な手口で騎手や調教師を巻き込み、不正の罠を広げているという。競馬の公平さを何より大事にするシッドは見過ごすことができず、火中の栗を拾うことになる。同じ頃、ギクシャクし始めていた妻・マリーナはオランダに住む父の容態が悪いことを口実にオランダに帰り、しばらく距離を置きたいという。仕事でも家庭でも苦境に陥ったシッドだったが、それでも正義のために歯をくいしばって戦うのだった・・。 「大穴」で初登場したのが1965年。もう半世紀以上、60年ほどになるがシッド・ハレーの魅力は全く変わらない。とにかく読者を熱くさせる永遠不屈のヒーローである。 新競馬シリーズにまた一冊、名作が加わったことは間違いない。オススメだ。 |
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1949年から1931年にタイムスリップし、日本が破滅への道を歩むのを阻止しようという壮大なスケールの歴史改変ミステリーである。
敗戦4年後の夏、労働争議で逮捕された元諜報員の直樹は釈放してくれた守屋教授から和久田教授に引き合わされ、「時間を遡ることができる洞穴がある。そこを通って昭和初期に行き、日本の壊滅に繋がる事態を引き起こした者たちを排除してくれ」という荒唐無稽な提案をされる。一旦は断ったのだが、GHQに追われるトラブルに遭遇した直樹は追及の手を逃れるためにタイムスリップを決意する。同行するのは元同僚の与志と満州からの引揚者の千秋だけ。綿密な計画は立てられず、きちんとした支援組織があるはずもなく、それでも3人は洞穴に入って行った・・・。 満州事変を引き起こそうとする関東軍の参謀たちを、たった3人で排除するというアクション・サスペンス。歴史的事実と奔放な想像力が絡み合うストーリーは魅力たっぷり。佐々木譲ならではの「壮大なほら話」が楽しい。オススメだ。 |
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グラスゴー市警の刑事「ハリー・マッコイ」シリーズの第3作。はみ出し刑事のハリーが少女誘拐、ロックスターの不審死、さらに家出少女の捜索など複数の事件に孤軍奮闘するモジュラー型警察ノワール・ミステリーである。
ウマが合わない上司の嫌がらせで、暑の全員が駆り出された少女誘拐事件から外されたハリーはロックスターが不審死した事件を担当させられた。麻薬過剰摂取に見えた事件は検視により殺人の疑いが出てきた。さらに敬愛するマレー警部から家出した姪を秘密裏に探し出して欲しいと依頼される。どれも一人では手に余る事件だったがハリーは独自の人脈を頼りに捜査を進め、やがて事件の背後に絡み合うものがあることに気が付いた…。 一つの事件捜査だけでも難航しているのに、そこに警察内部の人間関係、街の犯罪組織、さらにはIRAまで出てきてストーリーは波乱万丈、行き着く先が容易に見えない。また、ハリーの元妻・アンジェラをはじめとする強烈な個性の女性たちが登場し、幼馴染のギャング・クーパーとの友情物語も華を添える。不審死したロックスターのエピソードも見逃せない。これでもか、これでもかという盛りだくさんの読みどころに圧倒され、最後はお腹いっぱいになる。 エドガー賞最優秀ペイパーバック賞にふさわしい傑作エンターテイメントであり、ミステリーファン、ノワールファンに強力にオススメしたい。 |
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日本ではほとんど知られていなかった英国本格ミステリーの本邦初訳。1930年代のイギリスらしさにあふれた犯人探し、謎解きミステリーである。
風光明媚で落ち着いた海岸沿いの町・イーストレップスで、静かに暮らしていた老婦人が友人を訪ねた帰り道で殺害された。凶悪事件など起こったことがない田舎町の住民は動揺したのだが、何も手掛かりがないうちに同様の手口による第二、第三の殺人事件が発生し、謎の連続殺人鬼「イーストレップスの悪魔」が恐怖を呼び起こした。警察はスコットランド・ヤードの協力を仰ぎ、有力な容疑者を逮捕したのだが、さらに第四の殺人が起きた…。 全体の三分の一ほどで最初の容疑者が逮捕されるのだが、そこからの展開が素晴らしい。巧妙な伏線があり、読者をミスリードする仕掛けがあり、裁判劇があり、最後の犯人判明まで緩みなく謎解きサスペンスが続く。時代は30年代だが、謎解きミステリーとしては現代でも十分に通用するレベルの高さである。 英国本格ミステリー、謎解きミステリーのファンに自信を持ってオススメする。 |
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軽妙洒脱な警察小説として人気の「御茶ノ水警察署」シリーズ第4弾。新メンバーを迎えた保安二係の騒動をコミカルに描いた短編4作品である。
箸にも棒にもかからない斉木、梢田コンビと爪を隠した鷹である五本松のチームに配属されて来たのはイケメン・キャリアの立花警部補。見た目はおぼっちゃまで頼りなさそうなのだが実は・・・。 いつも通りに街中でありふれた軽犯罪を、何だかんだ言いながら処理してしまうのはお約束。それぞれのテーマに変わりゆく街の雰囲気が反映され、しかも展開に一捻りがあるのでどれも新鮮。日頃のストレス解消の読書に最適だ。 ユーモラスで楽しい小説を読みたい時にオススメ。 |
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2019〜20年に雑誌連載された長編小説。猟奇殺人犯と同姓同名だっただけで社会的に不遇な目に遭わされた者同士で被害者の会を設立し、謂れのない汚名を雪ぐべく活動する、今風の社会派ミステリーである。
幼い少女を滅多刺しにした殺人犯は16歳だったため少年法に護られて名前も顔写真も隠されていた。ところが週刊誌が実名「大山正紀」を報道したことで、それまで平穏に暮らしていた大山政紀たちは様々な騒動に巻き込まれることになった。罵詈雑言、謂れのない誹謗中傷を浴びせられ、就職や進学にも悪影響が及んだ。たまりかねた一人がネットに「大山正紀被害者の会」を立ち上げ、オフ会を開催した。集まったのは様々な属性だが、殺人犯と同姓同名というだけで辛い思いをしてきた人ばかり。話が盛り上がり、現実の大山正紀を探し出そうという結論に達した…。 素人探偵たちがネットを中心に人物を探し出すという展開は、最近よく目にするが、本作は同姓同名をキーワードにネット社会の脆弱さや悪意、不気味さ、無責任を赤裸々らに描いていて、そこが今の時代ならではのサスペンスを感じさせる。正直、嫌悪感を抱くとともに怖いと思わされた。ストーリーは単純だが登場人物が全員・大山正紀なので、混乱するかと思ったがうまく書き分けられている。起承転結、伏線も上手い。 ネットの特性を上手く使ったエンタメ作品であり、どなたにもオススメできる。 |
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デビュー2年後、2016年の書き下ろし長編。実の父が21年前に起きた殺人事件で死刑判決を受けていることを知った大学生が、冤罪の可能性を信じて警察・司法に挑む謎解きミステリーである。
大学生の石黒洋平は母の遺品の写真から、「現職検察官が死刑判決を受けた殺人事件」の犯人・赤嶺信勝が実の父親であることを知り驚愕する。自分の血が汚れていることに苦悩する洋平は一縷の望みを賭け、冤罪を追求する雑誌編集者の夏木涼子を訪ね協力して真相を探り始めた。しかし、赤嶺は頑なに冤罪を否定し続けた。さらに、離婚して別居中の育ての父も余計なことはするなと忠告する…。 日本の警察・司法がいかに冤罪を生み出しやすいかを、著者はこれでもかと指摘する。そして、洋平は真実に近付くほど実の父と育ての父、大切なのは血か絆かで揺れ動く。冤罪をテーマに単純に警察・司法を非難するだけでない、人情と倫理のドラマにしたことで本作は読み応えがある。 我々の思い込みに警鐘を鳴らすミステリーでありながら理屈っぽくないエンタメ作品として、どなたにもオススメしたい。 |
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2024〜25年に小説誌に連載された長編ミステリー。全盲女性が被告となった裁判を巡る逆転ドラマである。
中途障害者の社会復帰をサポートする施設で真夜中に施設長・荒瀬が刺殺された現場にいたのは、ナイフを手にした全盲女性・美波だった。美波の供述によると、荒瀬から夜中12時に一人で視聴覚室に来るように言われ、室に入った途端に襲われて思わず突き飛ばしたところ荒瀬が動かなくなったという。しかし、美波の衣類は血塗れでポケットにはナイフが入っていた。荒瀬には職員や入所者にセクハラをしているという噂があり、夜中に呼び出された美波が護身用に携帯したナイフで反逆したという事件の構図を、警察も関係者も描いていた。しかし美波は、絶対にやっていないと訴える。圧倒的に不利な状況の美波を信じた弁護士・竜ヶ崎は事件の構図を逆転すべく四苦八苦するのだが…。 大逆転の仕掛けは、これまで何度も目にしたもので「超絶どんでん返し」という帯の文句は煽り過ぎだが、そこまでの展開がスリリングで面白い。特に、全盲の被告、聴力を失った証言者、失語症の少女が立つ法廷という設定がユニークで効果的。読んで損はなし。 法廷ミステリーのファンならどなたでも楽しめる傑作としてオススメする。 |
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もう説明の要もないジョー・ピケット・シリーズの第19作。帯には「ジョーとネイトにシリーズ最大の危機迫る!」とあり、何度目の最大の危機かと思うが(笑)、アクションもサスペンスも期待を裏切らない傑作である。
隣の管区の猟区管理官・ケイトリンから「ドローンで鹿の群れを追いかけて死に至らしめている奴がいる」と連絡を受けたジョーが調査し、ドローンの主を突き止めたのだが、何故かFBIが登場し、調査を止めるよう圧力を掛けられた。同じ頃、ネイトはアリゾナナンバーの車で街にやってきた不審なヒスパニック4人組を目にし、不穏な予感を感じ取った…。 職務への忠誠と倫理に生きる男・ジョーがFBIを相手に一歩も引かず、さらに冷酷非情な暗殺者チームと正面からぶつかるというハードな展開。そこへ三女・ルーシーの高校卒業、ボーイフレンドとの関係、ネイトの結婚とパートナーの妊娠も絡んできてハラハラドキドキ、最後まで飽きさせない。 シリーズの大きな転換点になりそうな幕切れが待っており、ジョー一家のファンは必読! とオススメする。 |
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グリーンランドの氷の下にミサイル基地を建設しようとしたアメリカの秘密計画に想を取った、謎解きミステリー。極限の地の氷の下の事件を精神科医が解明していくというユニークな設定だが、物語の基本構成はわかりやすく、専門用語も少なくて読みやすい。
1967年末、米陸軍グリーンランドの秘密基地からの撤退作業が始まったのだが、猛烈な嵐で3人が取り残された。救助が来ないうちに極夜、極寒の基地内で火災が発生、二人が焼死し一人が全身大火傷を負って入院した。N.Y.の精神科医ジャックはCIAの依頼で、入院中の兵士コナーから火災の経緯、二人の死亡状況の聞き取り調査を始めたのだが、コナーはほとんどの質問に覚えていないと繰り返すばかりだった。コナーが何かを隠していると感じたジャックは関係者を訪ね歩き、徹底的に調査しようとした。すると、何者かがジャックの身辺を嗅ぎ回り、調査を妨害し始めた…。 舞台が秘密基地とあってスパイ疑惑やCIAが絡んでくるし、密室での出来事を生存者の言葉と推理だけで解明しようという厄介な事態だが、粘り強く、抜群の行動力で調査を進めるジャックの活躍が圧倒的。さらに、スピーディーに二転三転するストーリー展開、魅力的な個性の脇役たちがどんどんページを進めて行く。そして、最後のひと捻りはミステリー好きならある程度は想像が付くのだが、それでも効果的。 犯人探しの本格謎解きではないが、多くのミステリーファンを満足させる傑作である。 |
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1975年刊行、1978年邦訳出版という古さだし、聞いたことない作家だったので期待しないで読み始めたら、想像を裏切る面白さだった。
品行方正、謹厳実直のイギリス人男性・ブラックネルが移住したアメリカで、妻のパットには秘密に書き続けていたメモを偶然見つけたパットは、その内容に驚愕する。さまざまなストレスに押しつぶされそうになったブラックネルは「殺人によって人格が変えられる」という考えを理論的に確立し、実行し、記録していたのだった。とても本当にあったこととは思えず、夫が空想した物語だと思い込みたいパットはメモを読みながら、当時のあれこれを回想し、「こんな恐ろしいことは絵空事だ」と証明しようとするのだが…。 夫の秘密のメモとそれを読んだ妻の反応という二つの視点からの物語はよくある設定だが、書かれていることが本当かどうかが分からないところにサスペンスがあり、クライマックスに向けてじわじわ恐怖が高まって行く。さらに結末も人間性の複雑さを感じさせて興味深い。 心理サスペンスがお好きな方には絶対のオススメ作である。 |
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「ダブリン警察署殺人捜査課」シリーズで知られるアイルランド人作家の長編第8作で、アメリカ人の元警官を主人公にしたシリーズ外作品。アイルランドのゆったりした自然に囲まれながら、閉鎖的な村に存在する闇と戦わざるを得なくなる巻き込まれ型ミステリーである。
40代半ばにも関わらず行き詰まった人生をやり直すためにシカゴ警察を辞め、アイルランドの片田舎に廃屋を買って移住したカルは家の修繕と田舎暮らしを楽しんでいた。ある日、誰かに監視されていることに気付いたカルが見つけた監視者は10代前半の地元の子供だった。監視するのではなく一緒にやろうと改修作業に誘い、打ち解けるとその子・トレイは失踪した19歳の兄ブレンダンの行方を探してくれと頼み込んできた。田舎暮らしに愛想をつかして都会に出たのだろうと思い、カルはトレイの依頼を断るのだが、執拗に依頼され、さらにトレイの悲惨な環境を知り、何も期待するなと釘を刺してからブレンダンの行方を探る始める。ブレンダンの関係者に話を聞いて回ると、誰もが家出したのだろうと言う。しかし、カルがブレンダンの行方を探していることが村人に知れると、陰に陽に警告を受けるようになった…。 物語の主軸はアイルランドの片田舎に強固に存在する排他的で変化を恐れる闇の掟であり、そこに中年の危機に陥ったアメリカ人男の心の挫折と地元の子供とのぎこちない交流の変化が重ねられ、なかなか奥行きが深いヒューマン・ドラマである。単なる子供の成長物語ではないところが魅力と言える。 ノン・シリーズ作品なので、本作だけで十分の楽しめる。人間を見つめるミステリーがお好きな方にオススメする。 |
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ロンドン警視庁ウォーウィック刑事(現在は警視)シリーズの第6作。1996年のロンドンを舞台にウォーウィック警視が大英帝国王冠を巡って宿敵・マイルズとギリギリの戦いを繰り広げる警察ミステリーである。
ウォーウィックの証言によって服役させられたことを恨んでいる詐欺師・マイルズの元に、ウォーウィックはもちろん同僚のロス、上司のホークの三人をまとめて辞職に追い込む作戦があるという電話があった。それは国会の開催を宣言する際に女王が戴冠する大英帝国王冠を奪うという大胆不敵なもの。通常は警備堅固なロンドン塔に保管されている王冠が、その日は宮殿に移送され、ウォーウィックたち王室警護本部が警備を担当する。もし王冠が奪われれば、ロンドン警視庁王室警護本部の関係者の首がとぶのは間違いないと確信したマイルズは周到な計画を立て、実行する…。 当然のことながら最後には警察が勝利するのだが悪党たちの計画立案、実行のプロセスも、受け身に立たされた警察の必至の捜査も迫力満点。サイド・ストーリーである名画のすり替え作戦も面白く、お約束の物語展開でも十分に楽しめる。アーチャー83歳時の作品だが、そのストーリー・テラーの才能はいささかも衰えていない。 シリーズ愛読者以外でも文句なしに楽しめる傑作としてオススメする。 |
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先行して邦訳された3作品がいずれも好評を博し、日本でも日の目を見ることになったコスビーの長編ビュー作。前3作同様、ヴァージニア州を舞台に黒人青年が町の腐敗を暴く「サザン・ノワール」である。
自らの粗暴な行動が原因で保安官事務所を追われ、葬儀社に勤めるネイサンを二人の老婦人が訪ねてきた。彼女たちが属する教会の牧師が自宅で死体で発見され、銃による自殺とされたのだが納得できないので調査してくれという。過去の因縁から気が進まないネイサンだったが、調べを進めると多くの信者を集め隆盛を誇っていた教会には隠された裏の顔があることがわかってきた。その闇は深く大きく、黒人が口を出すことを嫌う保安官事務所や白人社会からの妨害を受けながら、ネイサンは孤独な戦いを貫こうとする…。 これまでの3作の同じく、南部の田舎町の人種差別を通奏低音にキリスト教の頑迷さとも徹底的に戦うストーリーは緊迫感がみなぎっている。さらに容赦ない暴力シーンが重ねられ、全編を通して作者の若さと意気込みが表れている。ところどころに挿入されるジョークやワイズクラックにも硬さが感じられるのはご愛嬌。 コスビー・ファンは必読、現代ノワールのファンにもオススメしたい傑作エンターテイメントである。 |
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1985年、著者初期の力作。日本にハードボイルドを定着させた傑作エンターテイメント作である。
ただひたすら友のために体を張って突っ走る、主人公の命懸けの言動がダイナミックでインパクトがある。ヤクザ映画や西部劇に源流を持つ、日本のハードボイルドの姿がくっきり見て取れる。 何も考えずに読書を楽しむことをオススメする。 |
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1984から85年まで、一年に渡って継続されたイギリスの炭鉱ストライキを真正面から取り上げたノワール・フィクション。独特の文体で読みづらいことこの上ないが、読み通せばサッチャリズムと新自由主義の残酷さが身体感覚で分かる力強い作品である。
サッチャー政権の炭鉱閉鎖政策に反対し、全国炭鉱労働者組合が始めたストライキは全国的な支持を集めたのだが、警察ばかりか軍隊まで動員した暴力的弾圧、卑劣な労働者分断作戦により徐々に弱体化し、炭鉱労働者側の敗北に終わった。その一部始終を労組、政権の主要人物を中心に時系列で解いていくストーリーはさながらシェイクスピア劇のごとくドラマチックである。特に政権の裏仕事を担う「ユダヤ人」の暗躍、ストに参加した末端労働者の苦悩は鬼気迫るものがある。 サッチャーを崇拝する高市政権がいかに危険か、これを読めば納得できるだろう。オススメだ。 |
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「村野ミロ」シリーズの第5作。40歳を目前に、これまでのしがらみばかりか自分の命までも断ち切ろうとするミロの激しい生き方が爆発するノワール・サスペンスである。
本気で愛し、それでも裏切りを許せず刑務所送りにした成瀬は10年の刑に服していた。成瀬の心に自分はどう刻まれているのか、それを知るためにひたすら出所を待っていたのだが、成瀬は獄中で自殺していた。さらに義父・村野善三が、それを知りながらミロには黙っていたことが判明した。この裏切りに激怒したミロは探偵を辞め、新宿を引き払い、善三を殺すために小樽へと向かう…。 40歳になっても一向に大人になれないミロの熱さが凄まじい。義父・善三の死を招いたことで善三の内妻や旧友のヤクザに追われ、行き場を失ったミロは韓国に逃亡し、そこでもヤクザに追われる身になる。八方塞がりをどう突破するか、型破りな戦術が激しい摩擦を引き起こし、ミロはさらに過激に、さらに遠くへ行こうとする。そして最後、ミロの人生に大きなターニングポイントが訪れる。ひょっとするとシリーズの頂点になりそうな力作だ。 シリーズ愛読者には絶賛してオススメする。 |
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2022年にN.Y.Timesのベストセラーリスト1位に輝き、すでに映画化されているという話題作。十年間の刑務所生活から仮釈放で出てきたミリーがやっと見つけたハウスメイドの仕事だったが、豪邸に暮らすその家族はどこかおかしかった。そしてミリーが一家の秘密を知ったとき…という不気味なミステリー・サスペンスである。
雇い主のニーナは情緒不安定なサイコパス? 一人娘のセシリアは手に負えないわがまま娘、そんな二人に挟まれながら主人のアンドリューは家族思いで穏やか、理想的な夫・父親だった。アンドリューがなぜ、こんな家庭に暮らせるのか? ミリーは徐々に一家の秘密に触れ、思いもよらぬ家族関係に驚愕する…。 第一部はミリー視点での一家の暮らしぶりが描かれ、ニーナやセシリアの滅茶苦茶な振る舞いに苦笑、嘆息するばかりでやや退屈。しかし、ニーナ視点で語られる第二部になると全てが逆転する、とんでもない関係が明らかになり、一気にサスペンスが盛り上がる。この構成の妙は素晴らしい。 舞台は一家の周辺に限られているし、主要登場人物は五人だけなのでどんでん返しにも読み筋を見失うことがない。翻訳ミステリーが苦手という方にもオススメしたい傑作エンタメである |
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弁護士出身の米国若手作家の本邦初訳(おそらく)。焦げた料理、血まみれの靴を残して実家から姿を消した母を探すうちに母にも、父にも隠された一面があることを知った娘が真相を探り出す親娘の物語である。
大学生のクレオが母に呼び出されて実家に帰ると、そこに母の姿はなく、レンジでは鍋が焦げつき、血まみれの靴の片方、割れたグラスの破片が残されていた。潔癖で几帳面な母には考えられない事態にクレオは事件を疑い、母の勤務する弁護士事務所を訪ねて事情を探ろうとする。映画制作者の父とは円満で仕事面でも敏腕弁護士として活躍していた母だったが、調べるうちに母が語っていなかったことや嘘が判明し、父と母の関係も離婚寸前であることが分かってきた。一方、クレオも干渉が過ぎる母に対する反発から母には言えない秘密を抱えていたのだった…。 オープニングは典型的なワイダニット、フーダニットだが、親娘それぞれの秘密や嘘が徐々に露わになり吸ったもんだの挙句、最後は親娘の和解へと流れて行く。薬害訴訟、SNSの弊害、壊れやすい夫婦関係など途中に挟まれるエピソードが多過ぎて、物語の本筋に集中しきれないところはあるものの、エンディングまで上手に繋げているので読後感は悪くない。 謎解きというより現代の親子関係のねじれを垣間見るファミリー・ストーリーとして読むことをオススメする。 |
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