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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数566

全566件 1~20 1/29ページ

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No.566: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

とんでもない話なのに、妙にリアルで面白い!

2019〜20年に雑誌連載された長編小説。猟奇殺人犯と同姓同名だっただけで社会的に不遇な目に遭わされた者同士で被害者の会を設立し、謂れのない汚名を雪ぐべく活動する、今風の社会派ミステリーである。
幼い少女を滅多刺しにした殺人犯は16歳だったため少年法に護られて名前も顔写真も隠されていた。ところが週刊誌が実名「大山正紀」を報道したことで、それまで平穏に暮らしていた大山政紀たちは様々な騒動に巻き込まれることになった。罵詈雑言、謂れのない誹謗中傷を浴びせられ、就職や進学にも悪影響が及んだ。たまりかねた一人がネットに「大山正紀被害者の会」を立ち上げ、オフ会を開催した。集まったのは様々な属性だが、殺人犯と同姓同名というだけで辛い思いをしてきた人ばかり。話が盛り上がり、現実の大山正紀を探し出そうという結論に達した…。
素人探偵たちがネットを中心に人物を探し出すという展開は、最近よく目にするが、本作は同姓同名をキーワードにネット社会の脆弱さや悪意、不気味さ、無責任を赤裸々らに描いていて、そこが今の時代ならではのサスペンスを感じさせる。正直、嫌悪感を抱くとともに怖いと思わされた。ストーリーは単純だが登場人物が全員・大山正紀なので、混乱するかと思ったがうまく書き分けられている。起承転結、伏線も上手い。
ネットの特性を上手く使ったエンタメ作品であり、どなたにもオススメできる。
同姓同名 (幻冬舎文庫)
下村敦史同姓同名 についてのレビュー
No.565:
(8pt)

冤罪追及に家族、父子の思いを絡めた構成で成功

デビュー2年後、2016年の書き下ろし長編。実の父が21年前に起きた殺人事件で死刑判決を受けていることを知った大学生が、冤罪の可能性を信じて警察・司法に挑む謎解きミステリーである。
大学生の石黒洋平は母の遺品の写真から、「現職検察官が死刑判決を受けた殺人事件」の犯人・赤嶺信勝が実の父親であることを知り驚愕する。自分の血が汚れていることに苦悩する洋平は一縷の望みを賭け、冤罪を追求する雑誌編集者の夏木涼子を訪ね協力して真相を探り始めた。しかし、赤嶺は頑なに冤罪を否定し続けた。さらに、離婚して別居中の育ての父も余計なことはするなと忠告する…。
日本の警察・司法がいかに冤罪を生み出しやすいかを、著者はこれでもかと指摘する。そして、洋平は真実に近付くほど実の父と育ての父、大切なのは血か絆かで揺れ動く。冤罪をテーマに単純に警察・司法を非難するだけでない、人情と倫理のドラマにしたことで本作は読み応えがある。
我々の思い込みに警鐘を鳴らすミステリーでありながら理屈っぽくないエンタメ作品として、どなたにもオススメしたい。
真実の檻 (角川文庫)
下村敦史真実の檻 についてのレビュー
No.564: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

常識の盲点を突く展開で読ませる、大逆転法廷ミステリー

2024〜25年に小説誌に連載された長編ミステリー。全盲女性が被告となった裁判を巡る逆転ドラマである。
中途障害者の社会復帰をサポートする施設で真夜中に施設長・荒瀬が刺殺された現場にいたのは、ナイフを手にした全盲女性・美波だった。美波の供述によると、荒瀬から夜中12時に一人で視聴覚室に来るように言われ、室に入った途端に襲われて思わず突き飛ばしたところ荒瀬が動かなくなったという。しかし、美波の衣類は血塗れでポケットにはナイフが入っていた。荒瀬には職員や入所者にセクハラをしているという噂があり、夜中に呼び出された美波が護身用に携帯したナイフで反逆したという事件の構図を、警察も関係者も描いていた。しかし美波は、絶対にやっていないと訴える。圧倒的に不利な状況の美波を信じた弁護士・竜ヶ崎は事件の構図を逆転すべく四苦八苦するのだが…。
大逆転の仕掛けは、これまで何度も目にしたもので「超絶どんでん返し」という帯の文句は煽り過ぎだが、そこまでの展開がスリリングで面白い。特に、全盲の被告、聴力を失った証言者、失語症の少女が立つ法廷という設定がユニークで効果的。読んで損はなし。
法廷ミステリーのファンならどなたでも楽しめる傑作としてオススメする。
暗闇法廷
下村敦史暗闇法廷 についてのレビュー
No.563:
(8pt)

ジョーとネイトにまた「最大の危機」

もう説明の要もないジョー・ピケット・シリーズの第19作。帯には「ジョーとネイトにシリーズ最大の危機迫る!」とあり、何度目の最大の危機かと思うが(笑)、アクションもサスペンスも期待を裏切らない傑作である。
隣の管区の猟区管理官・ケイトリンから「ドローンで鹿の群れを追いかけて死に至らしめている奴がいる」と連絡を受けたジョーが調査し、ドローンの主を突き止めたのだが、何故かFBIが登場し、調査を止めるよう圧力を掛けられた。同じ頃、ネイトはアリゾナナンバーの車で街にやってきた不審なヒスパニック4人組を目にし、不穏な予感を感じ取った…。
職務への忠誠と倫理に生きる男・ジョーがFBIを相手に一歩も引かず、さらに冷酷非情な暗殺者チームと正面からぶつかるというハードな展開。そこへ三女・ルーシーの高校卒業、ボーイフレンドとの関係、ネイトの結婚とパートナーの妊娠も絡んできてハラハラドキドキ、最後まで飽きさせない。
シリーズの大きな転換点になりそうな幕切れが待っており、ジョー一家のファンは必読! とオススメする。
群狼 (創元推理文庫)
C・J・ボックス群狼 についてのレビュー
No.562: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最後のひと捻りまで面白い!

グリーンランドの氷の下にミサイル基地を建設しようとしたアメリカの秘密計画に想を取った、謎解きミステリー。極限の地の氷の下の事件を精神科医が解明していくというユニークな設定だが、物語の基本構成はわかりやすく、専門用語も少なくて読みやすい。
1967年末、米陸軍グリーンランドの秘密基地からの撤退作業が始まったのだが、猛烈な嵐で3人が取り残された。救助が来ないうちに極夜、極寒の基地内で火災が発生、二人が焼死し一人が全身大火傷を負って入院した。N.Y.の精神科医ジャックはCIAの依頼で、入院中の兵士コナーから火災の経緯、二人の死亡状況の聞き取り調査を始めたのだが、コナーはほとんどの質問に覚えていないと繰り返すばかりだった。コナーが何かを隠していると感じたジャックは関係者を訪ね歩き、徹底的に調査しようとした。すると、何者かがジャックの身辺を嗅ぎ回り、調査を妨害し始めた…。
舞台が秘密基地とあってスパイ疑惑やCIAが絡んでくるし、密室での出来事を生存者の言葉と推理だけで解明しようという厄介な事態だが、粘り強く、抜群の行動力で調査を進めるジャックの活躍が圧倒的。さらに、スピーディーに二転三転するストーリー展開、魅力的な個性の脇役たちがどんどんページを進めて行く。そして、最後のひと捻りはミステリー好きならある程度は想像が付くのだが、それでも効果的。
犯人探しの本格謎解きではないが、多くのミステリーファンを満足させる傑作である。
極夜の灰 (創元推理文庫)
サイモン・モックラー極夜の灰 についてのレビュー
No.561: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一言で要約できない面白さ!

1975年刊行、1978年邦訳出版という古さだし、聞いたことない作家だったので期待しないで読み始めたら、想像を裏切る面白さだった。
品行方正、謹厳実直のイギリス人男性・ブラックネルが移住したアメリカで、妻のパットには秘密に書き続けていたメモを偶然見つけたパットは、その内容に驚愕する。さまざまなストレスに押しつぶされそうになったブラックネルは「殺人によって人格が変えられる」という考えを理論的に確立し、実行し、記録していたのだった。とても本当にあったこととは思えず、夫が空想した物語だと思い込みたいパットはメモを読みながら、当時のあれこれを回想し、「こんな恐ろしいことは絵空事だ」と証明しようとするのだが…。
夫の秘密のメモとそれを読んだ妻の反応という二つの視点からの物語はよくある設定だが、書かれていることが本当かどうかが分からないところにサスペンスがあり、クライマックスに向けてじわじわ恐怖が高まって行く。さらに結末も人間性の複雑さを感じさせて興味深い。
心理サスペンスがお好きな方には絶対のオススメ作である。
ブラックネルの殺人理論 (1978年) (海外ベストセラー・シリーズ)
No.560: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

中年男の心のひだに分け入るヒューマン・ノワールと言うべきか

「ダブリン警察署殺人捜査課」シリーズで知られるアイルランド人作家の長編第8作で、アメリカ人の元警官を主人公にしたシリーズ外作品。アイルランドのゆったりした自然に囲まれながら、閉鎖的な村に存在する闇と戦わざるを得なくなる巻き込まれ型ミステリーである。
40代半ばにも関わらず行き詰まった人生をやり直すためにシカゴ警察を辞め、アイルランドの片田舎に廃屋を買って移住したカルは家の修繕と田舎暮らしを楽しんでいた。ある日、誰かに監視されていることに気付いたカルが見つけた監視者は10代前半の地元の子供だった。監視するのではなく一緒にやろうと改修作業に誘い、打ち解けるとその子・トレイは失踪した19歳の兄ブレンダンの行方を探してくれと頼み込んできた。田舎暮らしに愛想をつかして都会に出たのだろうと思い、カルはトレイの依頼を断るのだが、執拗に依頼され、さらにトレイの悲惨な環境を知り、何も期待するなと釘を刺してからブレンダンの行方を探る始める。ブレンダンの関係者に話を聞いて回ると、誰もが家出したのだろうと言う。しかし、カルがブレンダンの行方を探していることが村人に知れると、陰に陽に警告を受けるようになった…。
物語の主軸はアイルランドの片田舎に強固に存在する排他的で変化を恐れる闇の掟であり、そこに中年の危機に陥ったアメリカ人男の心の挫折と地元の子供とのぎこちない交流の変化が重ねられ、なかなか奥行きが深いヒューマン・ドラマである。単なる子供の成長物語ではないところが魅力と言える。
ノン・シリーズ作品なので、本作だけで十分の楽しめる。人間を見つめるミステリーがお好きな方にオススメする。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
タナ・フレンチ捜索者 についてのレビュー
No.559: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さすが、稀代のストーリーテラー。期待を裏切らない!

ロンドン警視庁ウォーウィック刑事(現在は警視)シリーズの第6作。1996年のロンドンを舞台にウォーウィック警視が大英帝国王冠を巡って宿敵・マイルズとギリギリの戦いを繰り広げる警察ミステリーである。
ウォーウィックの証言によって服役させられたことを恨んでいる詐欺師・マイルズの元に、ウォーウィックはもちろん同僚のロス、上司のホークの三人をまとめて辞職に追い込む作戦があるという電話があった。それは国会の開催を宣言する際に女王が戴冠する大英帝国王冠を奪うという大胆不敵なもの。通常は警備堅固なロンドン塔に保管されている王冠が、その日は宮殿に移送され、ウォーウィックたち王室警護本部が警備を担当する。もし王冠が奪われれば、ロンドン警視庁王室警護本部の関係者の首がとぶのは間違いないと確信したマイルズは周到な計画を立て、実行する…。
当然のことながら最後には警察が勝利するのだが悪党たちの計画立案、実行のプロセスも、受け身に立たされた警察の必至の捜査も迫力満点。サイド・ストーリーである名画のすり替え作戦も面白く、お約束の物語展開でも十分に楽しめる。アーチャー83歳時の作品だが、そのストーリー・テラーの才能はいささかも衰えていない。
シリーズ愛読者以外でも文句なしに楽しめる傑作としてオススメする。
消えた王冠は誰の手に ロンドン警視庁王室警護本部 (ハーパーBOOKS, H238)
No.558:
(8pt)

暴力シーンを始め、全てに力が入ったデビュー作。

先行して邦訳された3作品がいずれも好評を博し、日本でも日の目を見ることになったコスビーの長編ビュー作。前3作同様、ヴァージニア州を舞台に黒人青年が町の腐敗を暴く「サザン・ノワール」である。
自らの粗暴な行動が原因で保安官事務所を追われ、葬儀社に勤めるネイサンを二人の老婦人が訪ねてきた。彼女たちが属する教会の牧師が自宅で死体で発見され、銃による自殺とされたのだが納得できないので調査してくれという。過去の因縁から気が進まないネイサンだったが、調べを進めると多くの信者を集め隆盛を誇っていた教会には隠された裏の顔があることがわかってきた。その闇は深く大きく、黒人が口を出すことを嫌う保安官事務所や白人社会からの妨害を受けながら、ネイサンは孤独な戦いを貫こうとする…。
これまでの3作の同じく、南部の田舎町の人種差別を通奏低音にキリスト教の頑迷さとも徹底的に戦うストーリーは緊迫感がみなぎっている。さらに容赦ない暴力シーンが重ねられ、全編を通して作者の若さと意気込みが表れている。ところどころに挿入されるジョークやワイズクラックにも硬さが感じられるのはご愛嬌。
コスビー・ファンは必読、現代ノワールのファンにもオススメしたい傑作エンターテイメントである。
闇より暗き我が祈り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
S・A・コスビー闇より暗き我が祈り についてのレビュー
No.557: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ラストシーンまで、ハードボイルドに徹底した傑作。

1985年、著者初期の力作。日本にハードボイルドを定着させた傑作エンターテイメント作である。
ただひたすら友のために体を張って突っ走る、主人公の命懸けの言動がダイナミックでインパクトがある。ヤクザ映画や西部劇に源流を持つ、日本のハードボイルドの姿がくっきり見て取れる。
何も考えずに読書を楽しむことをオススメする。
友よ、静かに瞑れ (角川文庫 (6000))
北方謙三友よ、静かに瞑れ についてのレビュー
No.556:
(8pt)

とんでもなく読みづらいが、読む価値あり!

1984から85年まで、一年に渡って継続されたイギリスの炭鉱ストライキを真正面から取り上げたノワール・フィクション。独特の文体で読みづらいことこの上ないが、読み通せばサッチャリズムと新自由主義の残酷さが身体感覚で分かる力強い作品である。
サッチャー政権の炭鉱閉鎖政策に反対し、全国炭鉱労働者組合が始めたストライキは全国的な支持を集めたのだが、警察ばかりか軍隊まで動員した暴力的弾圧、卑劣な労働者分断作戦により徐々に弱体化し、炭鉱労働者側の敗北に終わった。その一部始終を労組、政権の主要人物を中心に時系列で解いていくストーリーはさながらシェイクスピア劇のごとくドラマチックである。特に政権の裏仕事を担う「ユダヤ人」の暗躍、ストに参加した末端労働者の苦悩は鬼気迫るものがある。
サッチャーを崇拝する高市政権がいかに危険か、これを読めば納得できるだろう。オススメだ。
GB84 上
デイヴィッド・ピースGB84 についてのレビュー
No.555:
(8pt)

さらにさらに過激になるから面白い。ミロ・シリーズの頂点か。

「村野ミロ」シリーズの第5作。40歳を目前に、これまでのしがらみばかりか自分の命までも断ち切ろうとするミロの激しい生き方が爆発するノワール・サスペンスである。
本気で愛し、それでも裏切りを許せず刑務所送りにした成瀬は10年の刑に服していた。成瀬の心に自分はどう刻まれているのか、それを知るためにひたすら出所を待っていたのだが、成瀬は獄中で自殺していた。さらに義父・村野善三が、それを知りながらミロには黙っていたことが判明した。この裏切りに激怒したミロは探偵を辞め、新宿を引き払い、善三を殺すために小樽へと向かう…。
40歳になっても一向に大人になれないミロの熱さが凄まじい。義父・善三の死を招いたことで善三の内妻や旧友のヤクザに追われ、行き場を失ったミロは韓国に逃亡し、そこでもヤクザに追われる身になる。八方塞がりをどう突破するか、型破りな戦術が激しい摩擦を引き起こし、ミロはさらに過激に、さらに遠くへ行こうとする。そして最後、ミロの人生に大きなターニングポイントが訪れる。ひょっとするとシリーズの頂点になりそうな力作だ。
シリーズ愛読者には絶賛してオススメする。
ダーク (上) (講談社文庫)
桐野夏生ダーク についてのレビュー
No.554: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

第二部から俄然、面白くなる!

2022年にN.Y.Timesのベストセラーリスト1位に輝き、すでに映画化されているという話題作。十年間の刑務所生活から仮釈放で出てきたミリーがやっと見つけたハウスメイドの仕事だったが、豪邸に暮らすその家族はどこかおかしかった。そしてミリーが一家の秘密を知ったとき…という不気味なミステリー・サスペンスである。
雇い主のニーナは情緒不安定なサイコパス? 一人娘のセシリアは手に負えないわがまま娘、そんな二人に挟まれながら主人のアンドリューは家族思いで穏やか、理想的な夫・父親だった。アンドリューがなぜ、こんな家庭に暮らせるのか? ミリーは徐々に一家の秘密に触れ、思いもよらぬ家族関係に驚愕する…。
第一部はミリー視点での一家の暮らしぶりが描かれ、ニーナやセシリアの滅茶苦茶な振る舞いに苦笑、嘆息するばかりでやや退屈。しかし、ニーナ視点で語られる第二部になると全てが逆転する、とんでもない関係が明らかになり、一気にサスペンスが盛り上がる。この構成の妙は素晴らしい。
舞台は一家の周辺に限られているし、主要登場人物は五人だけなのでどんでん返しにも読み筋を見失うことがない。翻訳ミステリーが苦手という方にもオススメしたい傑作エンタメである
ハウスメイド (ハヤカワ・ミステリ文庫)
フリーダ・マクファデンハウスメイド についてのレビュー
No.553: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

いろいろ詰め込み過ぎだが、物語の構成は上手い

弁護士出身の米国若手作家の本邦初訳(おそらく)。焦げた料理、血まみれの靴を残して実家から姿を消した母を探すうちに母にも、父にも隠された一面があることを知った娘が真相を探り出す親娘の物語である。
大学生のクレオが母に呼び出されて実家に帰ると、そこに母の姿はなく、レンジでは鍋が焦げつき、血まみれの靴の片方、割れたグラスの破片が残されていた。潔癖で几帳面な母には考えられない事態にクレオは事件を疑い、母の勤務する弁護士事務所を訪ねて事情を探ろうとする。映画制作者の父とは円満で仕事面でも敏腕弁護士として活躍していた母だったが、調べるうちに母が語っていなかったことや嘘が判明し、父と母の関係も離婚寸前であることが分かってきた。一方、クレオも干渉が過ぎる母に対する反発から母には言えない秘密を抱えていたのだった…。
オープニングは典型的なワイダニット、フーダニットだが、親娘それぞれの秘密や嘘が徐々に露わになり吸ったもんだの挙句、最後は親娘の和解へと流れて行く。薬害訴訟、SNSの弊害、壊れやすい夫婦関係など途中に挟まれるエピソードが多過ぎて、物語の本筋に集中しきれないところはあるものの、エンディングまで上手に繋げているので読後感は悪くない。
謎解きというより現代の親子関係のねじれを垣間見るファミリー・ストーリーとして読むことをオススメする。
母の嘘、娘の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.552: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

還暦を迎えたミロに会えるとは!

「村野ミロ」シリーズの第6作。前作「ダーク」から20年以上の時を経て還暦を迎えたミロが最後に愛した男や仇敵たちと、断ち切れないしがらみに終焉をもたらそうとするノワール・サスペンスである。
愛する男・ジンホが服役したことに加え、命に代えても守りたい一人息子を育てるために沖縄に移住したミロ。過去の全ての縁を切り、ひたすら子どもの安全を守って生きてきたのだが、還暦を迎える頃、刑期を終えたジンホが出所することになり、一緒に暮らすことを夢見て、その準備に勤しんでいた。健康な青年に成長したハルオは医学生でほぼ自立して生きられるだろうと安心していたのだが、突然、ハルオが刑務所のジンホに面会したことから、かつての仇敵たちに身元がバレ、親子二人の身辺に危険が迫ってきた…。
20年以上が過ぎ、ミロも還暦だというのに、やっぱりミロはミロ。生き抜くためにはどんな戦いにも怯まない。その壮絶な生き様を何の躊躇もなく描いていく桐野節も絶好調。読み始めるとあっという間にミロの世界に引き込まれて行く。女性が主人公のハードボイルドは、やはり桐野夏生が第一人者だと再認識した。
シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイル・ファンにも必読とオススメする。
ダークネス
桐野夏生ダークネス についてのレビュー
No.551: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

発端のグロテスクさとエンディングの新しい朝の対比が見事!

米国では一定の評価を受けているが、日本ではパッとしないマイクル・コリータ(A.ジョリー主演の「モンタナの目撃者」の原作者)の久しぶりの邦訳。カナダ国境に接する寂れた小さな島で起きた大量殺人とその背景にある社会不安を描いたハードボイルド・サスペンスである。
小型ボートに乗っていたイズレルが漂流する大型クルーザーに乗り込むと、船内は血まみれで7人の男が惨殺されていた。第一発見者になったイズレルは15年前に父親を殺害し、15年の刑を終えたばかりという過去があったため犯人視される。同じ頃、隣の島では父親から虐待されている12歳のライマンが密かに隠れ家にしていた廃屋で、大きな傷を負った若い女性を見つけた。女性は手斧を持ち、ライマンに気を許そうとしなかったが、ライマンは食べ物や薬を届けて心を開かせようとする。そんなライマンの行動を怪しんだ父親が、ある日、息子の嘘に気が付いた。イズレル、ライマン、傷付いた女性の3人それぞれが陥った苦境が明らかになるにつれ、犯行の裏にある醜悪な構造が暴かれて行く…。
落ち着いた語り口で凄惨な物語が繰り広げられる、緊張感のあるサスペンス。三人三様のハードボイルドな生き方が感動を誘う。ストーリーが進むごとに新たな衝撃が登場するので、何も前知識なしで読むことをオススメする。
穢れなき者へ
マイクル・コリータ穢れなき者へ についてのレビュー
No.550: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

おどろおどろしくない猟奇ミステリー。

イギリスの売れっ子脚本家の小説デビュー作。都会に疲れた女性刑事が自分を立て直すために田舎に帰り、地元警察の一員として事件捜査に活躍する警察ミステリーである。
英国南西部の牧歌的な村で、裸で椅子に縛り付けられ、頭に鹿の角を付けられた死体が発見された。被害者は愛想が良くて人気者のジムという村のパブの店主。被害者と死体の異様さに誰もが驚いたこの難事件を捜査するのはリバプールから家族ぐるみで戻ってきた女性刑事のニコラで、転職時に聞かされていたのとは大違いのオフィス、人員、予算不足に悩みながら我武者羅に真相究明に突き進んで行く。それを助けるのがあまり期待されてなかった部下と、思いがけない証言者という、いわばお約束の物語構成だが、話の展開が早く、人物のキャラが明確なので最後まで飽きることがない。死体の猟奇的な姿とは裏腹に物語全体が柔らかい雰囲気なのは、代々住み続ける村人の気質や風光明媚な村が舞台だからだろう。また、ニコラを中心とした家族の愛情と葛藤というヒューマン・ドラマの側面も面白い。殺人の動機や謎解きに多少甘さがあるが、欠点と呼ぶほどではない。
読みやすく楽しめる警察ミステリーとして、どなたにもオススメできる。
ホワイトハートの殺人 (ハーパーBOOKS)
クリス・チブナルホワイトハートの殺人 についてのレビュー
No.549: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

分かりやすく読みやすい、エンタメの理想だな

今、フランスで一番売れているというミュッソの2022年の作品。コロナ禍の混乱に乗じて謀られた殺人を、被害者の17歳の娘と元警視の珍コンビが調査・解明するバディ・ミステリーである。
持病の心臓発作で緊急搬送され入院中の元パリ警視庁警視・マティアスの病室に現れた17歳の医学部生・ルイーズ。患者の慰問のためにボランティアで演奏活動をしていると言いながら、マティアスに「元ダンサーだった母・ステラの死を調査してもらいたい」と依頼してきた。気乗りしないマティアスだったが、ルイーズから渡された資料を読むうちに、事故か自殺で処理されたステラの死に不可解な点があることに気付き、生来の刑事魂を刺激された…。
17歳の女子医学生と持病を抱える退職刑事の異色コンビが衝突しながら協力して事件の謎を解くバディもので、利発な少女と頑固な刑事という定型的パターンで物語は進むのだが、途中で犯人視点のエピソードが加わり、そこからは一気読みの展開になる。ミュッソ作品にしては構成がシンプルで主要人物のキャラも立っているため読みやすい。文庫で300ページを切る短さも良い。
あまり深く考えずにミステリーを楽しみたい方にオススメする。
アンジェリック (集英社文庫)
ギヨーム・ミュッソアンジェリック についてのレビュー
No.548: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

嘘と正義の狭間に、人生はある。

著者の江戸川乱歩賞受賞後の第一作。通訳捜査官という珍しい警察官を主人公に正義のための嘘は許されるのかを問う、警察ミステリーである。
新宿署で唯一の中国語通訳捜査官の七崎は、歌舞伎町で起きた中国人殺害現場から逃走した少年が着ていたジャンパーと酷似し、血が付いているものを息子の部屋で発見し、戦慄する。さらに、息子がネットで知り合った仲間と中国人狩りを繰り返していた証拠も見つけてしまった。犯人は息子なのか、動揺した七崎は誰にも相談できず、ひとりで真相を探ろうとする。しかも、通訳として取り調べに立ち会った際、捜査の目が息子たちに向かないように中国人証人の証言を曲げて通訳してしまったため、さらに窮地に陥った。自縄自縛状態で孤独な捜査を進めた七崎は事件の背後に外国人研修生制度の闇があることを突き止めたのだが、凶暴な闇組織に一人で立ち向かうことになる…。
通訳捜査官という存在を初めて知ったが、この職業自体が正義と捜査の間で苦しむ定めだということがよく分かる。さらに、家族を守るために咄嗟に吐いた嘘に縛られ、正義を求めながら嘘を重ねてゆく主人公の苦悩が重いリアリティを持って迫ってくる。警察捜査ミステリーとしての構成も素晴らしい。
単純な善悪で終わらせない、読み応えある社会派ミステリーとして多くの方にオススメする。
叛徒 (講談社文庫)
下村敦史叛徒 についてのレビュー
No.547: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

レナードの初めてミステリー。本邦初訳。

ウェスタンものでデビューしたレナードが1969年に初めて書いた現代物ミステリー。本邦初訳でようやく読める喜びを感じさせる「レナード・タッチ」のクライム・ノベルである。
元野球選手で流れ者の農園労働者のジャック、農園主に囲われているハイティーンのナンシー、リゾートヴィレッジの経営者で町の判事でもあるマジェスティックの三人が出会い、行き当たりばったりに小さな悪事や騙し合いを重ねて行くストーリーは、多少のテンポの悪さはあるもののレナード・タッチの萌芽を感じさせる。大きな犯罪物語ではなく、いかにも小悪人がやらかしそうなエピソードの連打で最後まで飽きさせない。
記念碑的作品としてレナードファンは必読。現代ノワールのファンにも期待に違わぬ面白さでオススメできる。
ビッグ・バウンス
エルモア・レナードビッグ・バウンス についてのレビュー