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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1137

全1137件 1101~1120 56/57ページ

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No.37: 15人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ミステリーではないが、読み応えあり

通常のミステリーや戦争物を想起して読み始めると違和感があると思うが、途中からきっとそんなことは忘れて、物語の世界に引き込まれるだろう。
終戦から60年目の夏、司法試験に失敗してニート状態にある26歳の男が、ゼロ戦パイロットとして特攻作戦で戦死した祖父の軌跡を、当時の戦友達へのインタビューでたずねるというのがメインストーリー。写真の一枚すら残されていない祖父の実像を探ろうとする旅は、いきなり「奴は海軍航空隊一の憶病者だった」という衝撃的な証言からスタートすることになる。ひたすら「生きて帰る」ことを願っていた憶病者が、なぜ最後は「十死零生」の特攻機に乗り込んだのか。読み進むほどに祖父の人間性が明らかになり、同時に、戦争や軍隊の非人間性があぶり出されてくる。
フィクションとノンフィクションを入り交じらせながら、現在の視点から戦争の病理や戦時を生き抜く人々の葛藤を描き出した筆者の物語構成力は“素晴らしい!”の一言だ。とてもデビュー作とは思えない。
あの戦争を引き起こし、最後は日本を破滅に追い込んだ軍部、官僚、政治家の愚かさ、頑迷、思い上がりには絶望的になる。だがしかし、それはあの戦争とともに終ったことではない。今回の原発事故をみるとき、我々日本人はあの失敗から何も学んでこなかったのかと、暗澹たる気持ちにさせられる。
新しい日本への歩みを始めるためにも、多くの人に本書を読んでいただきたい。
永遠の0 (講談社文庫)
百田尚樹永遠の0 についてのレビュー
No.36: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

加賀恭一郎に続く、ニューヒーロー誕生か?

予告された連続殺人事件を防ぐのため、次の現場と目されるシティホテルに刑事がホテルマンに化けて潜入する・・・。果たして、犯人は予告通りの事件を起こすのか? はたまた、警察・ホテルは通常の営業を続けるホテルの中で、無事に犯罪を防止することが出来るのか?
はっきり言って、ミステリーとしては犯行の動機、手段などに?マークのところがいくつかあって、さほどの傑作とは思わない。しかし、「新参者」、「麒麟の翼」の流れの作品として読むと、なかなか良くできている。人と人が出会い、かかわり合って、別れて行く「ホテル」を舞台に選んだことが、人情ドラマとしての成功のカギになったといえるだろう。
本筋の犯人、動機の追求と、ホテルを利用する人が作り出すドラマとが並行して進行し、ときには「これは、ミステリーじゃないよな〜」と思うこともあったが、最後にはちゃんと見せ場が用意されているので、ミステリーファンにもオススメできる。
作品紹介には、新ヒーロー誕生と書いてあるが、どうだろう? あまりにも加賀恭一郎と重なるところが多いので(実際、主人公が加賀であってもまったく問題ない)、シリーズ化することがよいことかどうか、難しいところだと思う。
マスカレード・ホテル
東野圭吾マスカレード・ホテル についてのレビュー
No.35: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

リンカーン弁護士、復活

薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。
しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。
真鍮の評決 リンカーン弁護士 (上) (講談社文庫)
No.34: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

幕の内弁当のお得感!?

ひと言では言い表わせない、複雑な味わいの作品だ。
まず、獄中の連続殺人鬼の軌跡を追いながら事件が発生して行くという「羊たちの沈黙」を思い出させる、サイコスリラー系のミステリーとして読める。さらに、主人公の売れない中年作家の心情をユーモラスに描いた都会派の人情小説でもある。さらにさらに、ミステリーを始めとするエンターテイメント小説論でもある。しかも、途中途中に挟まれている、主人公が書いたSFポルノやヴァンパイア小説まで楽しめる。
なによりも、これだけ盛りだくさんでありながら構成が破綻しておらず、構成要素のすべてがかなりの水準であるところがすばらしい。また、登場人物のキャラクターが生きているので、読みながら人物の顔や服装がありありと浮んできた。まさに、様々な味わいで最後まで楽しませる「幕の内弁当」とでも言えばよいのだろうか。かなりの技巧派である。
これがデビュー作というので、今後が大いに期待できる新星が誕生したといえるだろう。

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
デイヴィッド・ゴードン二流小説家 についてのレビュー
No.33: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

タランティーノ好きにはオススメ

カンヌ映画祭で監督賞を受賞した映画の公開に合わせて復刊されたという、クライムノベル。恵まれない環境で育った少年がロサンゼルスに出てきて、ドライヴ(運転)の才能を頼りに映画のスタント・ドライバーになり、その腕を見込まれて強盗たちの逃走車両の運転手を努めるようになる。で、当然のように仲間の裏切りで窮地に追い込まれ、復讐のために孤独な戦いに立ち上がる・・・。
約200ページというコンパクトな作品で、しかも派手なアクションシーンやカーチェイス、容赦ない殺人シーンがテンポ良く展開されるので、バイオレンス映画ファンには大いに受けるだろう。さらに、主人公のドライバー(最後まで本名を明かさず、この名前で通してしまう)は運転や復讐にはきわめてクールで機械的ながら、数少ない心を許し合う友人や恋人とは細やかな情を見せるところもある、なかなか魅力的なキャラクターに描かれているので、単なるバイオレンス映画としてだけではなく、一種の青春ロードムービー的な人気を得るのではないだろうか。
小説としても、読後感がすっきりした傑作だと言える。
ドライブ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジェイムズ・サリスドライブ についてのレビュー
No.32:
(7pt)

松本清張のロマン派作品

およそ半世紀も前の作品だけに評価がむずかしいが、松本清張のロマンチックな一面がよく現れたロマンチックミステリーの傑作といえる。
ストーリーの中心は、第二次世界大戦末期に欧州の病院で死亡したとされる外交官が生きているのではないか、日本に帰ってきているのではないかという謎を、当の外交官の娘の恋人である新聞記者が追求して行く話。そこに、真相判明を阻止しようとする謎の人物や組織が現れて、殺人や発砲事件にまで発展して行く・・・。この謎解きミステリーだけでも十分に面白いのだが、話のテーマとしてはむしろ、親子、家族の情愛の方に力点が置かれているように思われた。作品全体を通して、しみじみとした風景描写、日常生活への優しい視点が印象的で、ごりごりの社会派という松本清張のイメージを変えさせるような読後感を持った。
テーマ、ストーリーについては、現在の日本のミステリーのレベルから見るとやや物足りなさを感じるが、これはフェアな評価とは言えない。発表当時(1960〜61年)には、かなりのインパクトを与えただろう思われる。
球形の荒野 上 改版 (文春文庫 ま 1-127 長篇ミステリー傑作選)
松本清張球形の荒野 についてのレビュー
No.31: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

セクハラを指摘される007(笑)

ジェームズ・ボンドといえばショーン・コネリーを思い浮かべるオールドファンにとって、セクハラ発言を咎められたり、政治的に正しい言葉遣いに気を配る007というのは、妙におかしみがあった。殺しのライセンスを持つ凄腕スパイといえども、21世紀にあっては社会的に正しくないとつまはじきにされるということだろうか(笑)
それはともかく、あの007がジェフリー・ディーヴァーで復活するとは想像もしなかっただけに、どういう仕上がりか、非常に興味深く読んだ。結論から言えば、やはり多少の違和感が拭いきれず、絶対的なオススメ作品ではなかったという評価になった。
なにしろ、論理と科学の権化のようなリンカーン・ライムから荒唐無稽の頂点みたいなジェームズ・ボンドへの飛躍なので、読む側(小生)が付いて行けなかったということでもある。なんの先入観もなく読めば、まずまず面白い現代スパイアクションであるのは間違いない。
スマートフォンとGPSが主役になったとはいえ、相変わらずのスパイガジェットのアイデアは秀逸。さらに、ジェフリー・ディーヴァーの本領を発揮したどんでん返しの連続など、読者を飽きさせないエンターテイメントと言える。
007 白紙委任状
No.30:
(7pt)

徹底しきれなかったサスペンス

強姦・強盗目的の17歳の少年に妻と娘を殺された男と、警察官である夫のDVから逃れるために息子を連れて家出した女が、妻に逃げられた工務店のオヤジと出会い、それそれが抱える問題に悩み、葛藤しながらそれぞれの過去を清算し、生き方を変えて行こうとする話。
少年犯罪の被害者と加害者、DV、生き甲斐がすれ違ってしまった中年夫婦の悲哀など、今の社会状況を反映した奥の深い問題を背景にした3つのストーリーが重複しながら展開される構造となっている。これらの問題は、ひとつずつが何度も小説の主題に取り上げられているものばかりで、問題が三重に絡まった本作はきわめて社会性の濃い内容となっている。作者は、これを良質なエンターテイメント(サスペンス小説)にして見せてくれる。
加害者が犯行時に18歳未満の少年だったことから7年で仮出獄になったことを知った被害者が、報復のために加害者を殺害しようとするストーリーは、殺されかけた加害者が逆に被害者に報復しようとするところから、がぜん面白くなる。また、執拗に妻の行方を追いかけるDV警官の夫が徐々に狂人となって行くところもサスペンスがあって面白い。
しかし、最後の最後、関係者が集合して一気に問題解決になだれ込むクライマックスシーンが、残念ながらちょっと弱い。社会正義を貫くにはこの方法が一番妥当だろうなという方法で話が終わるし、かなりご都合主義的な話の持って行き方が、そこまで続いてきたサスペンス性を弱めてしまった気がしてちょっと物足りなかった。作者は、こういうシーンがあまり得意ではないのかも知れない。
ユニット (文春文庫)
佐々木譲ユニット についてのレビュー
No.29:
(8pt)

“落ち”が強烈

米倉涼子主演のドラマが人気を呼んだので、あらすじはよく知られていると思うが、頭と度胸で銀座の夜をのし上がってゆく女の浮き沈みを描いた、一級のサスペンス作品。30年以上前の作品のため、時代背景には古さは否めないものの、そんなことは気にならないほど面白かった。
平凡な(平凡以下の扱いしか受けていなかった)女子銀行員のヒロインが、堂々と銀行の金を横領して銀座に店をオープンする幕開けからスリル満点。店の運転資金や、より大きな店を手に入れるために、脱税している医者や予備校経営者を陥れて行く手順も、良質なコンゲームとして抜群に面白い。
しかも、ラストに待ちかまえる衝撃の展開に向けて、要所要所で周到な伏線が張られているところも見事としか言いようが無い。最後の最後、“落ち”まで強烈なインパクトを残し、さすがに松本清張と感嘆した。
黒革の手帖〈上〉 (新潮文庫)
松本清張黒革の手帖 についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

正義はどこにある?

北海道東部、人口6000人ほどの農村の駐在所に移動してきた川久保巡査部長が出会う、5つの事件を描いた連作集。駐在所の警官にとって本当に果たすべき任務とは何か? 警察と閉鎖的な地域社会とのもたれ合いやあつれきの中で苦悩する制服警官の厳しさが丁寧に描かれていて、読み応えのある短編集だ。
浅学非才につき、本書を読むまで知らなかったのだが、駐在所の制服警官には捜査権は与えられていない。そのため、所轄署から出張ってきた捜査官が見当違いの捜査をしていると感じても、川久保巡査部長はそれをただすことが出来ない。そこで、悪く解釈すれば、一種、意趣返しとも言えるような屈折した方法で正義を貫こうとする(特に、第一話「逸脱」ではほとんど犯罪といえるような手段がとられる)。これは、駐在さんに対して、さまざまにプレッシャーを掛けてくる地域社会に対しても同様で、従来の警察小説とは異なる問題解決手法になっている(「制服捜査」という書名の由縁)。このあたりを、どう考えるかで、本作に対する評価が異なってくるだろうが、個人的には(小説としては)面白いと思った。
「笑う警官」や「警官の血」とは異なるが、佐々木譲の警察小説の傑作であることは間違いない。

制服捜査 (新潮文庫)
佐々木譲制服捜査 についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

50代、ストリート・ファイターですが、何か?

V.I.ウォーショースキー・シリーズの最新作は、期待にたがわぬ快作だ。
毎回、米国が抱える病巣を鋭く描いている本シリーズだが、今回はイラン戦争の帰還兵をテーマに兵士と銃後の社会、戦争産業の問題を取り上げている。「沈黙の時代に書くということ」というエッセイ集を出している筆者らしく、9.11以降のアメリカ社会の閉塞感に対する異議申立てが強く感じられた。
しかし、50代に突入したヒロイン・ヴィクの元気さには驚嘆するしかない。自分の体力に対する愚痴をこぼしながらも(事実、アクションシーンでは若い仲間の手を借りなければ、致命的な窮地に陥るところだった)、仕事も恋も現役バリバリ、前作からレギュラー入りした20代の従妹のペトラに負けていないのである。さらに、社会的不公平、マイノリティーへの差別に対する怒りはますます沸騰し、徹底的に突っ張り切っていくところが、格好いい! シカゴのダウンタウンで鍛えられたストリート・ファイターは衰え知らずなのである。
閉塞の時代に窒息気味の日本の中高年には、特にオススメかもしれない。
表紙も、前作「ミッドナイト・ララバイ」に比べれば(まあ、前作がひど過ぎるのだが)ぐっとリアリティがあり、数段出来が良い。
ウィンター・ビート (ハヤカワ・ミステリ文庫)))
サラ・パレツキーウィンター・ビート についてのレビュー
No.26: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

毒が薄められて・・・

桐野作品にしては軽めの仕上がりというか、読みやすいんだけど、その分だけ物足りないというか。もっと毒々しい展開を期待していました。
仕事には熱意が無く、ファッションと嫉妬に執着している開業医がレイプ犯で、その被害者達がネットを通じて集まり、協力して復讐するというお話。ストーリーも登場人物も、今の時代を反映していて、ちょっとご都合主義なところもあるが、まあ良くできていると思う。
犯人も被害者も、周囲の人々もみんな一癖も二癖もあるところは桐野夏生の得意分野で、まずまず面白いのだが、もう一段階深く追求していればなあという欲求不満が残った。
緑の毒
桐野夏生緑の毒 についてのレビュー
No.25:
(8pt)

不屈の男・レオ、本領発揮

ソビエト国家保安省捜査官・レオのシリーズ三部作完結編。
捜査官を辞め、今は工場長として平凡に(やや屈折し、覇気は失ってはいるが)、しかし、愛妻ライーサと二人の養女と一緒に幸せに暮らしていたレオに、思いがけない、身を引きちぎられるような不幸が襲いかかる。果たして、レオはこの不幸から立ち直れるのだろうか?
前半は、レオとライーサの出会いを中心にした恋物語からスタートし、思いがけない悲劇の勃発まで、冷戦時代の情報戦のお話が続き、比較的静かな展開で進む。それが後半になると、一気に“怒りのアフガン”ではないが、アフガニスタンでの冒険に変化し、不屈の男・レオの本領発揮となる。トム・ロブ・スミスという作家は、前二作と同様、本作でも徹頭徹尾レオを厳しい状況に追い込んでゆく。そんな苦境をいかにして脱出するのか・・・驚嘆すべきレオの知恵と体力と精神力が発揮される。
思想と人間性、国家と個人、夢と妥協など、さまざまに考えさせられる小説だが、アクション小説としても一級品なので、一気に読み通すことが出来る。
ラストシーンは、かなり悲しい。
エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)
トム・ロブ・スミスエージェント6 についてのレビュー
No.24:
(8pt)

スパイアクションであり、サスペンスでもあり

他の方の評価はあまり高くないようだが、個人的には面白く読めた。
東西冷戦時のベルリン、ハイテクメーカー横浜製作所のダミー会社の社員・神崎は、ココム違反の証拠隠滅を図る親会社によって命を狙われ、上司殺人犯の汚名を着せられたまま東ベルリンへの逃亡を余儀なくされた。それから五年、関係者の元へ神崎からの手紙が届き、神崎を追い続けている警視庁公安部員を含めた全員が小樽に集まって真相究明のときを迎えることになる・・・。
前半はベルリンでのスパイアクション、後半は小樽での真相究明サスペンスで、それぞれに楽しめる。ことに、警察が包囲網を敷く中で、神崎は果たして日本に帰ってこられるのか、どうやって小樽の地を踏むのかという部分は、非常にサスペンスがあった。謎解きの部分(絶対に先に結末やネタばれ感想を読まないことをおすすめする)では、きっと賛否両論があるだろうが、これはこれで、小説としては良くできていると思った。
神崎、神崎の母、殺された上司の娘などのいわば追われる側と、親会社社員、公安、フリーライターなどの追う側との人格の対比がかなり露骨で、作者の立ち位置がよく見えてきたのが面白かった。
夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫JA)
佐々木譲夜にその名を呼べば についてのレビュー
No.23: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

結末が分かっていても面白い!

真珠湾攻撃をめぐる米国スパイの活躍を描いたスパイアクション小説。当然のことながら読者はみんな、真珠湾攻撃の奇襲が成功したことを知っている訳だが、それでも読ませる傑作だ。
第二次世界大戦のスパイアクションといえば、先ず第一が「針の眼」だが、本作は和製「針の眼」といっても過言ではない。
エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
佐々木譲エトロフ発緊急電 についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

密売人は、何を売ったのか?

北海道警察、大通警察署のはみだし?警官、佐伯、新宮、小島、津久井など、いつもの面々が警察の正義のために奮闘する、おなじみのシリーズの最新作。本作でも、犯罪捜査の過程で警察内部が絡む疑惑が判明し・・・・。
発端は、釧路、函館、小樽での死体発見。何の関係もないように見えた3つの事件が、ある一家の失踪とともにリンクされて、警察のS(エス、スパイ)が鍵の連続殺人という疑惑が発生し、佐伯たちの捜査の中で、ある密売人の存在が浮き上がってくる。ストーリーとしては、かなり面白いものだと思うが、エピソードの積み重ね、悪役のキャラクター設定の深さなどの点で、やや物足りない。いつもの佐々木譲の“コク”がない、あっさりし過ぎという印象だった。
その点で、シリーズものとして読めば7点、単独作品として読めば6点、と評価した。
密売人 (ハルキ文庫 さ 9-6)
佐々木譲密売人 についてのレビュー
No.21: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ますます快調!

デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第二作。カール・マーク警部補とアシスタント・アサドのコンビに女性アシスタント・ローセが加わって、特捜部Qがさらにパワーアップした大活躍を繰り広げる。
このローセの、「警察学校を最優秀で修業しながら運転免許試験に落ちて警察官になれなかったため、秘書として警察に入った」という設定が笑える。そのキャラクターも、アサドに負けず劣らずユニークで、シリーズとしての面白さに一味も二味も新味が加わったといえる。
今回の主題は、二十年前の殺人事件、それも犯人が服役中の事件の再捜査である。犯人がひとりではなく、共犯者として同じ寄宿制学校の複数の同級生、しかも、いずれも社会的な成功をおさめている人物がいることを確信した特捜部のメンバーが、警察上層部をはじめとする様々な圧力を受けながらも真相にたどり着いて行く。事件の背景は、社会的エリートの秘められた暴力性という、まあ、ありがちな設定だが、メンバーのひとりが女性で、しかもわざと路上生活者として生きているというのがユニークで、ストーリーに変化をもたらしてくれる。
ところどころで、犯人達の精神構造を表現する重要な道具として「時計じかけのオレンジ」が使われているのが、あの映画をリアルタイムで観た世代として非常に興味深かった。
次回以降の作品への期待は高い。
特捜部Q ―キジ殺し― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

No.20:

涙 上巻   新潮文庫 の 9-15

乃南アサ

No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

追いかけて、追いかけて、2年間

結婚式の一ヵ月半前に突然、「ごめん。もう、会えない」と電話して姿を消した婚約者・刑事を捜して日本中を駆け巡るヒロインの純愛(?)物語。最後の最後に婚約者が失踪した理由が明かされるのだが、その真実がやや説得力が弱いため、ミステリーとしては満点を付けられなかった。しかし、読みごたえのある作品であることは間違いない。
山の手のお嬢様であるヒロインが、婚約者を捜してドヤ街や私娼窟を訪ね歩いたり、捜査関係者との触れ合いで徐々に人間性、社会性を深めて行くところは好感がもてた。また、娘を殺害された老刑事・韮山の怒り、苦悩、再生の物語は、これだけでも一作品になるのではないかと思うほど読みごたえがあった。「涙」ということでは、ヒロインが流す涙より、韮山が流す涙の方が共感する部分が多かった。
時代設定が、東京オリンピックに沸く1964年からの2年間で、しかも時代の出来事や風俗が重要な要素として頻繁に登場するので、もろに同時代を生きた者としては、そのときどきの自分を思い出すことが多く、懐かしさを感じる楽しいタイムトリップだった。
涙 上巻   新潮文庫 の 9-15
乃南アサ についてのレビュー
No.19: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

組織人の再出発物語

事件捜査が主役ではない警察小説を確立した横山秀夫の連作短編集。今回は、県庁所在地から遠く離れ、警察署と官舎、寮が同じ敷地に建つという三ツ鐘署を舞台に、交通課、鑑識係、少年係、会計課などの7人の職員の物語が収録されている。
元来が徹底した階級社会、ムラ社会の警察組織、しかも職場と住居が一体化されているとあって、三ツ鐘署の職員の人間関係はきわめて微妙なバランスの上に成り立っており、いつ、どこで破たんするか知れない危険性をはらんで展開されることになる。そんな中で生きる職員たちの組織人としての建前と個人としての本音の葛藤が、これでもかというほど繰り返され、かなり息苦しいエピソードが続くことになり。
しかし、一度落ち込んだり壊れたりした人間性、人間関係を立て直そうという姿勢がうかがえるエンディングが多いこともあり、読後感は「真相」などに比べて明るいものが多い。
7作品の中では、警官と泥棒、それぞれの老いと技術の継承を通して人間の業を描いた「引き継ぎ」が一番面白く、印象に残った。
深追い (新潮文庫)
横山秀夫深追い についてのレビュー

No.18:

鎖〈上〉 (新潮文庫)

乃南アサ

No.18: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

カッコよすぎるんじゃない、ペンギン滝沢?

女刑事・音道貴子シリーズの長編第2作は、デビュー作以上に読み応えがある作品だった。
音道が大量殺人犯グループに拉致・監禁されるという、とんでもないお話だが、監禁物ミステリーとしても、警察の捜査小説としても、はたまた音道の成長物語としても、一級品の読み物に仕上がっている。デビュー作の「凍える牙」は、犬を重要登場人物に据えたこともあって(個人的には)非常にファンタジー色が強い作品と評価したが、本作は、犯行動機や犯行手段、犯人の背景などの面で社会派ミステリーとしての完成度が高く、個人的にはこちらの方が高く評価できる。
デビュー作でコンビを組み、さんざん音道を悩ませた皇帝ペンギン・滝沢刑事が、こんどは警察の救出チームのメンバーとして登場し、大活躍を見せるのが面白い。相変わらず、女性刑事と組むことには難色を示しながらも、音道が刑事として優れた資質を持ち仲間として信頼できることを断言し、そんな仲間の救出のために全身全霊をかけて奮闘する。その言動の端々には、父親の娘に対するような愛情が見え隠れし、なかなかにハードボイルドでカッコいい! いやいや、カッコよ過ぎる。
シリーズとしてはもちろん、単発作品としても十分に楽しめる警察ミステリーだと思う。
鎖〈上〉 (新潮文庫)
乃南アサ についてのレビュー