■スポンサードリンク
iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「戦場のアリス」がヒットしたクインの第二次大戦ミステリーの第2弾。ポーランドにいた冷酷な女殺人者を追うナチス・ハンター物語。主要な登場人物は「ザ・ハントレス」と呼ばれた女、彼女に弟を殺害されたジャーナリスト、戦場カメラマンを夢見る女子学生、戦時中は爆撃機に乗っていたロシア人女性の4人で、時代はロシア革命後の1920年代から50年代まで、舞台はシベリアからヨーロッパ、さらにボストンにまで広がっていく壮大な歴史ミステリーである。
戦後のウィーンでナチ・ハンターとして活動している英国人の元ジャーナリスト・イアンには、是が非でも捕まえたい女がいた。ポーランドでイアンの弟をはじめ幼い難民の子供たちを殺した「ザ・ハントレス」と呼ばれる女で、その所在を知る手がかりはまったくなかったが、ハントレスの魔手を逃れたロシア人女性ニーナにも協力を仰ぎ執拗に追い詰めようとしていた。同じころ、ボストンの女子学生・ジョーダンは父の再婚相手・アンネリーゼに不信感を抱いていた。 登場人物の背景を知ると分かる通りアンネリーゼがハントレスなのだが、それが判明するまでのプロセスが緻密で、クライマックスへのストーリー展開も緊迫感がある。しかし、何といっても魅力的なのがロシア人女性・ニーナである。バイカル湖畔で飲んだくれの暴力おやじのもとでサバイバル技術を身に着け、ロシア空軍の爆撃部隊に所属し、ポーランド戦線で脱出し独力で生き延びたという野生児で、粗野な言動と強烈なキャラクターは一読、忘れ難い。ニーナの造形に成功しただけで、本作は傑作と呼べる。 前作同様に第二次大戦にテーマを取った歴史ミステリーだが、前作以上の傑作で、現代史ミステリーのファンには自信をもってオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
映画化されて話題になった「眺めのいい部屋売ります」の作家によるミステリー風味のロマンス小説。
少女が幼い弟を焼殺したという衝撃的な事件の陪審員となった50代の女性カメラマンが同じ陪審員仲間の40代の医師に惹かれ、情事におぼれていくというのがメインストーリーで、サブとして裁判で事件の真相解明が進んで行く。少女が真犯人か否かという興味はあるものの、事件の解明は中途半端。しかし、ヒロインの女性の情事に流されていく心理描写は綿密でリアリティがある。 秘めた情事が明かされていくプロセスがミステリーと言えば言えなくもないが、ミステリーだけを期待して読むと肩透かしである。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
アメリカ・ミステリー界の巨匠の長編第7作。ベトナム戦争時の南部の町を舞台にした社会派であり、家族小説でもあるサスペンス・ミステリーである。
1972年のノース・カロライナ州シャーロットの街に、ジェイソン・フレンチが帰ってきた。ベトナムに従軍し不名誉除隊になったあと、麻薬で服役していたのが出所したのだった。出来の悪い息子の帰還は、警官である父・ビル、母・ガブリエル、弟・ギビーの一家に不吉な影を及ぼした。さらに、若い女性の凄惨な殺害事件が起き、ジェイソンが容疑者と目されたことから一家崩壊の危機にさらされる。警官の立場と父親の立場で板挟みになるビル、兄の無実を信じるギビー、二人はそれぞれの信念で事件の真相を追い求めるのだが、事件の裏には想像を絶する悪の存在があった…。 物語の通奏低音にはジェイソンがベトナム戦争で壊れてしまった理由があり、父、兄、弟の三者三様にそこに絡めとられているのが悲劇的。当時のアメリカの泥沼化したベトナム戦争による閉そく感と絶望がひしひしと伝わってくる。しかし、何といっても本作で最も強いインパクトを与えるのは刑務所に収容されている大量殺人犯・Xである。冷酷非情、頭脳明晰、肉体強健のみならず大富豪でもあり、地下二階の特別室から刑務所を支配しているという、いわばレクター博士とメキシコ麻薬カルテルのボスを合わせた悪役と言える。このXとジェイソンの関わりが物語のキーポイントになるのだが、その部分の理由付けが弱いのが全体の評価を下げる要因になっているのが惜しい。 家族小説的ミステリー、社会派サスペンス・ドラマのファンにおススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
イタリアの87分署シリーズと評価が高い「P分署シリーズ」の第2作。富豪一族の少年がされた誘拐事件を巡って、ろくでなし集団が奮闘する警察小説である。
高級マンションに住む夫妻から空き巣が入ったと通報があり、ロヤコーノとアレックスが出動したのだが現場の様子が明らかにおかしく、事件は自作自演ではないかと疑われた。同じ頃、美術館見学に訪れていた10歳の少年・ドドが行方不明になったと電話があり、ロマーノとアラゴーナが駆けつけた。一緒にいた同級生から「ドドは金髪の女性に手招きされて付いていった」との証言を得る。さらに、ドドがナポリでも有数の富豪の孫である事が判明し、捜査班は身代金目当ての誘拐ではないかと緊張する。空き巣と誘拐、二つの難事件を抱えた捜査班は「ろくでなし刑事たち」という外部の評価とは裏腹に使命感に燃え、すべてを投げうって捜査を進めていった。そして最後、犯人を突き止めた捜査班が見たものは…。 前作以上に、登場人物たちのキャラが立ち上がり、事件捜査も警察ものの王道を行く緻密な展開でミステリー度を高めている。イタリアではテレビドラマ化される人気だというのも納得の傑作エンターテイメントである。 前作が気に入った読者はもちろん、警察ミステリー・ファンには安心してオススメできる作品と言える。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2020年に発表された北海道警・シリーズの最新作。大通警察署のおなじみの面々が、雪まつり前夜の札幌市内で外国人実習生を食い物にする犯人を追跡する警察ミステリーである。
雪まつりを翌日に控えたあわただしい札幌の街中で2台の車がカーチェイスを繰り広げ、拳銃が発射された。その数時間前、ドライバーがコンビニに寄った隙に車を盗まれるという盗難事件が発生していた。拳銃を発射した方の車が盗難にあったものだったことから二つの事案はつながり、背景に外国人支援団体の姿が見え隠れした。人道的支援団体がなぜ狙われたのか? その糸を操っているのは外国人実習生制度を悪用する暴力団だった…。 おなじみのメンバーが日本の警察らしく法規にのっとって犯人を割り出していく、王道の警察ミステリー。驚くようなことは起きないが、その分、安心して読むことができる。 シリーズ読者はもちろん、日本の警察ミステリーのファンには絶対満足できる作品である。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
スウェーデンを代表する人気作家の3冊目の邦訳、ベックストレーム警部シリーズの第2作。折り紙付きの無能警部がなぜか難事件を解決してしまう、ユーモア警察ミステリーである。
アル中で一人暮らしの年金生活者の男が殺された。ほかに手すきの警部がいなかったため捜査を担当することになったベックストレームたちは極めてありふれた事件だと思ったのだが、被害者の友人や同じアパートの住人は曲者ぞろいで捜査は思惑通りには進まなかった。さらに、事件の第一発見者である配達員が死体で見つかり、話は複雑怪奇になっていく…。 前作同様、クソみたいな人格欠陥者で怠け者のベックストレームがいつの間にか事件を解決し、国民的英雄になるという法螺話的な物語なのだが、前作に比べると謎解き部分がしっかりしており、ミステリーとして楽しめる部分が多く、これならシリーズとして継続していけるだろう。 ユーモア・ミステリーのファンにおススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2019年から21年にかけて文芸誌に連載された長編小説。ブラジル移民の間で繰り広げられた「勝ち負け抗争」をテーマにした現代史サスペンスである。
1934年、親族とともにブラジルに移民した12歳の比嘉勇は移住した殖民地で同い年の南雲トキオと出会い、意気投合し、無二の友として切磋琢磨しながら青年期を迎える。だが、日本の戦争の影響がブラジルまで及んできて、二人は別々の道を歩むことを余儀なくされた。さらに、ブラジルの日本人社会では日本が戦争に勝ったのか負けたのかを巡る「勝ち負け抗争」が起き、二人は決定的に対立することになった…。 今の時点で振り返れば考えるだに馬鹿馬鹿しい「日本は勝った」という風説が優勢だったという状況は、いかにして生まれたのか。日本の勝利を信じるしか自尊心を保つ道がなかった移民たちの悲しみがじわじわと伝わってくる。いつの時代でも「人は自分が信じたいものだけを見る」という愚かしさは、現在のネット言論の異常さを見れば明らかで、情報量の多寡とは無関係であることがよく分かる。読み取るべき教訓が極めて多い作品である。 歴史に埋もれてきた興味深いエピソードを、現代的テーマに沿って読みやすく仕上げた傑作エンターテイメントとして、多くの方にオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
フランス・ミステリー界の鬼才が本領を発揮したノン・シリーズ長編。12歳の少年が犯した殺人を題材に、犯罪と償いの微妙な関係を描いた心理サスペンスである。
フランスの片田舎で母親と二人で暮らす12歳の少年・アントワーヌはふとしたはずみで隣家の6歳の少年レミを殺してしまい、動転して死体を森の中の穴に隠してしまう。当然のことながら村は大騒ぎとなり、警察やマスコミも駆けつけて捜索と事情聴取、取材が始まった。いつも身に着けていた腕時計を現場に残してきたのではないかと気が気でないアントワーヌだったが、死体を隠した森の捜査が行われようとした前日、村が大嵐に襲われ事態は急変した。 事態が発覚することの恐怖と犯した罪の大きさに生きた心地がしない12歳の少年は、その後の人生をどう生きていくのか? 思いがけない偶然や些細な誤解から状況が変化していくプロセスは、まさにサスペンスそのもの。全編、緊張感がみなぎっている。罪の意識におびえる少年の心理だけで最後まで読者を離さないクオリティの高さは、さすがにルメートルである。 心理サスペンスのファンには絶対のオススメ作である。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「ブルース」の続編となる連作短編集。ブルースの主人公・影山博人の義理の娘・莉菜が義父の亡き後を継いで釧路の街を制御しながらも、最後には街を出てゆく、ダークヒロインの半生記を描いたハードボイルドである。
自分のミスで義父を殺害されたという贖罪意識を抱えたまま莉菜は、父に代わって釧路の裏側に君臨し、ひたすら父の子である松浦武博を一流の政治家に育てることを目指す。目的のためには冷酷非情に振る舞い、信念を貫き通した莉菜は、武博が一人前に育ったのを目撃すると自ら釧路の街から姿を消した。 「ブルース」で強烈な印象を残した6本指の男・影山博人の後継者にふさわしい莉菜のキャラクターが、前半部分の読みどころ。後半は、アウトローの道を歩んできた女が自分で自分に決着をつける孤独とプライドが泣かせるハードボイルドである。 前作「ブルース」を踏まえた物語なので、先に「ブルース」を読むことをオススメするが、本作だけでも問題なく楽しめる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
現在フランスで最も売れているミステリー作家というミュッソの長編ミステリー。25年前にコートダジュールの名門高校で起きた魅惑的な美少女失踪事件に起因する愛憎劇を描いた、サスペンスたっぷりのヒューマンドラマである。
作家として成功しているトマは昔からの親友であるマキシムに呼ばれて、母校の50周年式典のためにコートダジュールに帰ってきた。それというのも、トマとマキシムは25年前にある秘密を共有しており、それが暴露されれば間違いなく二人は破滅することになるからだった。25年前、魅惑的な少女・ヴィンカが忽然と姿を消すという出来事があり、周囲は同時期に行方が分からなくなった教師・アレクシスと駆け落ちしたみなしたのだが、実はトマとマキシムが深く関係しており、しかも二人は証拠の死体を建設中の体育館の壁に隠していたのだった。だが、体育館が解体されることになり、トマとマキシムは絶体絶命の窮地に追い込まれる。さらに、二人の元に何者かが「復讐」と書かれた脅迫状を送り付けてきた。 完全に隠したはずの過去に裏切られるというのはよくある物語だが、ミュッソはそこにもう一ひねりを加え、あっと驚く結末を見せてくれる。誰が善人で誰が悪人かという単純な話ではなく、登場人物すべてに複数の顔があることから生まれるミステリーとサスペンスは、さすがのベストセラー作家の力技である。 人間くささが濃厚なミステリーのファンに自信をもってオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
デビュー作ながら様々なミステリー賞にノミネートされたという、英国ミステリーの大型新人のデビュー作。リタイア族が暮らす施設の趣味のクラブメンバーが現実の殺人事件の謎に挑戦する、ユーモラスだが王道をゆく謎解きミステリーである。
暇に飽かせて元警察官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルを基に未解決事件を解き明かそうという「木曜殺人クラブ」。元看護師、元労働運動家、元精神科医、経歴不詳の切れ者女性など、メンバーは全員癖のある老人ばかりが集まって楽しんでいたのだが、施設運営者の一人が撲殺されるという事件が発生し、自分たちで犯人を捜そうと張り切りだした。推理には自信があるものの情報に乏しいため、現役の巡査を丸め込み捜査情報を手に入れようとする。機動力や科学的捜査力はないものの人生経験と人間観察力に優れた彼らの調査は、警察には想像できなかったルートで真相に迫っていく…。 老人(高齢者)が主役のミステリーは今や立派に一ジャンルとして確立されているが、本作はそれに新たな華を添えるインパクトがある作品である。犯人捜し、動機の解明というミステリー要素はきちんと押さえられ、さらに高齢者ならではのユーモアと悲哀が効果的にちりばめられており、味わい深いエンターテイメント作品となっている。 王道の英国ミステリーのファン、ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ドイツでは大人気の警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」の第2作。殺人事件被害者と過去の事件が複雑に絡み合う警察ミステリーである。
クロイトナー上級巡査は偶然、殺人の現場に居合わせた。被害者は顔見知りの男で、2年前に失踪した恋人にDVを加えていた乱暴者だっただけに、容疑者の数に不足はなかった。しかし、殺される直前に「ある弁護士が、失踪した恋人の行方を知っている」と告げられていたクロイトナーは、自分が事件を解決すると張り切って独自の捜査を進めようとする。一方、ヴァルナー首席警部は被害者の身辺調査から容疑者を絞り込もうとして、2年前の出来事が複雑に関係していることに興味を持った。事件の背景には弁護士の詐欺まがいの金銭トラブルが絡んでいたのだが、警察はその真相を知らず、捜査は混迷するばかりだった…。 デビュー作「咆哮」同様に本筋は犯人捜し、動機の解明という王道の警察ミステリーだが、肝心の警察の捜査力に難点があり、ミステリーとしてはやや物足りない。代わりに、被害者を中心にした人間ドラマの側面は複雑で面白い。また、シリーズ作品らしく登場人物の関係性が変化を見せていくのも読みどころ。特に、堅物・ヴァルナー首席警部が恋に陥るエピソードは今後の展開に興味を持たせるものである。 派手ではないが読みごたえがあり、北欧ミステリーのファンにはおススメできる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
4年ぶりに邦訳が出たV.I.ウォーショースキー・シリーズの第19作。身近な人々が巻き込まれたトラブルを解決するためにヴィクが体を張って駆け巡る、アクション・サスペンスである。
敬愛するロティの甥の大学生が殺人犯の容疑をかけられたとして、ヴィクに助けを求めてきた。頑迷な保安官を相手に四苦八苦しているところに、さらに元夫の姪が「シカゴにいる姉が行方不明になったので探すのを助けてほしい」と頼み込んできた。どちらも金にならない事件だが、正義を求めるヴィクは困っている人を放っておけず調査を進めることにした。気乗りしない調査だったが事件の中身を知るほどに巨悪の姿が見え隠れし、さらにヴィク自身の身体の危険も迫り、全身全霊をかけて真相に迫ることになった…。 もうとっくに50歳を過ぎたヴィクだが激しい気性と行動力は変わらないというか、ますます激しさを増し、次から次へと命を賭けたアクションが展開される。しかも、そのアクションの背骨になっているのが社会的不公正に対する激しい怒りなので、正義が貫かれる最後はすっきりと気持ちがいい。 シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイルドファン、社会性のあるアクション・サスペンスのファンにもオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
マンチェスター市警エイダン・ウェイツシリーズの第3作。エイダンが警備中に病院で殺害された殺人犯を巡る謎に、エイダン自身の過去が絡んできて先が見えないサスペンスが続く警察小説であり、権力と暴力の醜悪な関係を映したノワールである。
12年前の一家惨殺事件で服役していた男が末期がんと分かり、病院に収容された。エイダンと相棒のサティは厳重な警備を命じられていたのだが、男が火炎瓶で襲撃されて死亡し、サティも重体に陥った。しかも、男は死ぬ間際にエイダンに「俺じゃない」という一言を残していた。エイダンは新たに相棒となったナオミ・ブラック刑事とともに事件を解明しようとするのだが、それは男を殺害した犯人捜しであると同時に、12年前の事件の謎を解くことでもあり、両方の事件に関係する人物たちの秘密を暴いていく困難な作業だった。さらに、捜査の途中からエイダンは何者かに監視され、命を狙われていることに気が付いた…。 過去の事件の関係者が殺されて再度捜査が進められるという警察捜査小説の王道の謎解きに、エイダンの過去と現在にまつわる因縁の人間関係から生まれるハードボイルドな展開が加えられた、非常に重厚で複雑なサスペンス・ミステリーである。前2作の登場人物やエピソードが重要な役割を果たすこともあり、ぜひとも第1作から読むことをオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「ワニ町」シリーズの第4作。おなじみの湿地チームの3人がドタバタと難問を解決する、安定のユーモア・ミステリーである。
シンフルに潜伏し始めて三週間がたち、嫌な出会い方をしたイケメン保安官助手・カーターとも仲良くなり、初デートに臨むことになったフォーチュン。アイダ・ベル、ガーティに大騒ぎの末にデート衣装を整えられ、いざ雰囲気の良いレストランへとなったところでカーターに連絡が入り、フォーチュンの唯一の同世代仲間であるアリーの家が火事になったという。急遽、デートは中止。アリーは無事だったのだが火事の原因が放火と分かり、フォーチュンは燃え上がる。カフェの店員で人柄がよく、だれからも恨まれるはずがないアリーがなぜ狙われたのか? シンフルの平和を守る老嬢コンビのアイダ・ベル、ガーティとともに、フォーチュンは事件の解明に乗り出した。猪突猛進が信条の三人組は、カーターの警告を無視し、激しいアクションを繰り広げることになる…。 移り住んでから三週間で4つ目の事件とあって、テーマも展開もまさにマンネリそのもの。変化と言えばフォーチュンとカーターの恋物語ぐらいだが、それでも十分に楽しめる、安定のエンターテイメント作品である。アメリカではすでに20作まで刊行されたというのが、シリーズの魅力を物語っている。 どんでん返しやクリフハンガーの連続に疲れた方にオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2018年から19年に雑誌掲載された4作品を集めた短編集。家族、友人、職場、地域社会など逃げ切れないことが分かっているものから衝動的に逃げ出す人々を描いた人間ドラマである。
4作品とも極悪人は出てこず、ただちょっとしたすれ違い、魔が差した瞬間にとらわれた人の愚かさと弱さがドラマを生む。じっくり読めば、人間に対する著者のまなざしの温かさが心に響いてくる良作である。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「朽ちないサクラ」に続く、米崎県警・森口泉シリーズの第2弾。念願かなって警察官になった森口泉が仲間と力を合わせて警察組織と上層部の闇に挑む、熱血警察サスペンスである。
事件現場で収集した情報を分析しプロファイリングを行って刑事捜査を支援する機動分析係を志願した森口だったが、実技テストに失敗した。しかし、係長の黒瀬警部の引きで合格とされ、個性が強すぎる班のメンバーの最下位に加わった。するといきなり県警本部会計課の金庫から1億円近い現金が紛失するという事件が発生。警察内部の犯行という疑いが濃く、極秘の捜査が進められてたのだが、確たる証拠が見つからない内に重要参考人と考えていた元会計課長が死体で発見された。さらに、捜査の責任者だった黒瀬警部が不明瞭なタレコミをもとに謹慎処分をくらい、捜査から外されるという非常事態となった。黒瀬と行動を共にし、ある疑惑を追っていた森口は、事件の裏にとんでもない闇が潜んでいるのを知り、捜査を進めると命までかけなければいけないのではないかと危惧する。それでも、正義感に突き動かされる森口は信頼する仲間とともに、ひたすら事件を解明しようとする…。 現場の一捜査員が警察組織の悪を暴くという、よくあるパターンで物語の構成に新鮮さはない。さらに、場面展開や刑事の心理描写で同じような小技の表現が繰り返し登場することもあり、ストーリー全体がやや冗長。しかも、ヒロインをはじめとする正義の側が2時間ドラマみたいな薄っぺらさでリアリティがない。ただただ正義を追及するヒロインの熱量の高さが、物語を動かしているところが読みどころである。 柚月裕子の警察小説ではあるが、「虎狼の血」を期待してはいけない。検事・佐方シリーズのファンにならオススメできる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
本作品が長編3作目というアメリカの新進作家の本邦デビュー作。ひょんなことから友人になった老嬢二人が孫娘も巻き込んで、マフィアの金を横取りして逃げるバディもののハードボイルドである。
マフィア幹部の未亡人・リナは言い寄ってきた隣人の男をガラスの灰皿で殴りつけ、男の車を奪って娘の家に逃げ込もうとしたのだが、もともと折り合いが悪かった娘・エイドリアンはリナを追い返そうとする。そこに娘の隣家に住む引退したポルノ女優・ウルフスタインが声をかけ、隣家に入れてくれ、ほっと一息つく。だが、エイドリアンの愛人のリッチーがマフィアの金を強奪して逃げたため、リッチーを殺そうとするマフィアの殺し屋が襲ってきて、エイドリアン、リッチーと15歳の孫娘・ルシアが逃げ込んできた。さらに、ウルフスタインが金をだまし取った男も登場し、カオス状態になった現場からリナとルシア、ウルフスタインの3人は問題の金を奪い、車も奪って逃げ出した。深夜のハイウェイを必死で逃げる三人組とそれを追いかける男たちのサスペンス・アクションは予想を覆すドラマを生み出した…。 まず第一に、登場人物が魅力的。主役の三人はもちろん周辺人物もキャラが際立ち、生き生きと動き回っている。物語のメインは逃亡する女たちと追いかける男たちの追っかけっこなのだが、話の展開がスピーディでぐんぐん引き込まれて行く。さらに舞台に選ばれたニューヨークの街や映画を中心にしたポップカルチャーにも味わいがある。 熟女が主役のハードボイルドであり、バディものであり、しかもアクション・サスペンス。ハリウッドのコメディタッチのアクション映画が好きなら、絶対のオススメだ。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
雑誌掲載された作品の文庫版。緊縛師が死体で発見された事件を題材にしたミステリーの体裁をとった観念小説である。
緊縛師の死体が発見されたアパートに残されていた品物は、刑事・富樫が心をとらえられている女性・桐田麻衣子につながるものだった。麻衣子を救いたい一心で富樫は現場を偽装するという暴挙に出る。さらに、偽の指紋まで提出して捜査の方向を麻衣子から逸らそうとしたのだが、同僚刑事・葉山に疑問を持たれ、富樫は追い詰められていく。そして、事件の裏側を探り続けた葉山がたどり着いた驚愕の真相は…。 ミステリーとしては犯人捜しの捜査もので、刑事による偽装というスパイスが効いているものの、作品におけるミステリーの重要度は高くない。作品の要点は緊縛やSMの世界で、常識を超越した個人の性癖、生き方の激しさと深さの追及にあり、官能小説、観念小説の側面が強い。 観念的ポルノグラフィのファンになら満足してもらえるだろうが、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
アメリカ占領期の混乱した東京の闇に分け入る「東京三部作」の完結編。戦後最大の謎と言われる下山事件を題材ににした戦後史ノワールである。
「小平事件」、「帝銀事件」、「下山事件」という、いまだに人々を引き付けてやまない事件をエンターテイメント性の高い犯罪小説シリーズに仕上げた作者の着想や力量は素晴らしいが、きわめて読みづらい文体なのが惜しい。その文体こそが作者の文学的技法であるだろうし、翻訳は実に懇切丁寧なのだが、それでも減点せざるを得ない。だが、事件の真相解明ができたか否かは別にしてノワール・ミステリーとしての完成度は高く、読んで損はない。 忍耐力のある読書家にオススメする。 |
||||
|
||||
|