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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 101~120 6/31ページ

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No.517: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

最後の最後で面白くなった(非ミステリー)

大ベストセラー「ケインとアベル」の姉妹編。戦後(第二次対戦後)のアメリカで起業家として成功し、政治の世界でも大統領候補の一番手と目されるまでの活躍を見せる女性の一代記である。
無一文でポーランドから辿り着き、一代でホテル王国を築いたアベル・ロスノフスキの一人娘・フロレンティナは才気煥発の美しい女性に育っていた。当然、父の事業を継ぐものと思われていたのだが、父の宿敵・ケインの息子・リチャードと出会い、駆け落ちしたことから勘当同然となる。しかし、父譲りの経営感覚で起業に成功し、やがては父の事業を継ぎ、さらに大きく発展させた。それでもどこか物足りなさを感じるフロレンティナは請われて政治の世界に入り、下院議員から上院、さらには大統領が視野に入るまでに上り詰めて行く…。
アメリカ初の女性大統領が誕生するか否かがクライマックスで、下巻の後半部分はスリリングだが、それまでは印象深いエピソードもあるものの全体がノンフィクション的なテイストで、小説としてはやや物足りない。しかし、1982年にこういうアメリカの政治状況を想定していた筆者の洞察力、構想力は素晴らしい。脱帽である。
姉妹編とはいえ「ケインとアベル」を読んでなくても問題なく楽しめる。人間ドラマ、大河ドラマ好きの方にオススメする。
ロスノフスキ家の娘 上 (ハーパーBOOKS)
No.516: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

家族って、結局は藪の中ってことか

高級住宅地で父親が母親に殺害される、家庭内殺人事件が発生。絵に描いたような幸せなエリート一家に何が起きたのか? 隣り合って、互いに意識しながら暮らす三家族の視点から事件の真相が徐々に明らかになるストーリーだが、謎解きミステリーではない。同じ場面でも登場人物が変わり、視点が変わるたびに変化していき、なおかつ最後まで真相は藪の中という、どこにでもある家族の闇の物語である。同じ屋根の下で暮らしていても互いの心のうちは分からない、そこが究極のミステリーということか。
イヤミス好きの方なら楽しめるだろう。
夜行観覧車
湊かなえ夜行観覧車 についてのレビュー
No.515:
(7pt)

謎解き重視だと期待外れだろう

2008年度MWAの最優秀長編賞受賞作。5年ぶりに故郷に帰ってきた男が幼馴染みが殺害された事件に遭遇、さらに家族が巻き込まれる事件が続き、その真相を追究することで愛する家族の隠されてきた実像に直面する人間ドラマ、家族物語である。
5年前、殺人の濡れ衣を着せられ、無罪になったものの父親に勘当されて故郷を捨てたアダムが、二度と戻らないと決めた町に戻ったのは、幼馴染のダニーが「人生を立て直すのに力を貸してほしい。一対一で話したい」と電話してきたからだった。最初は断ったのだが気になって仕方なく、帰ってきたのだった。5年ぶりの故郷の景色は変わっていないものの、家族や元恋人との関係は微妙に変化し、それ以上に町の雰囲気は大きく変わっていた。その背景となっているのが、アダムの父が所有する広大な農場を含む土地の原発建設計画で、莫大な開発資金を巡って開発派と反対派の対立が先鋭化していたのだった。家族や元恋人とぎこちない再会を果たしたアダムはダニーを探すのだが、ある事情からダニーは逃亡中で行方が知れないという。そうこうするうちにアダムはダニーが殺されているのを発見したばかりか、重要参考人にされてしまう。再び濡れ衣を着せられたアダムはしゃにむに謎を解こうと突っ走る…。
親友の死、家族が巻き込まれた事件の謎を解くミステリーであるとともに、アメリカ南部の大農場一家の崩壊と再生の物語でもある。正直、ミステリー部分だけでは大した作品ではない。むしろ、男の友情、恋人との愛情、親子・兄弟など家族の絆の物語としての完成度の方が高い。
ミステリー風味の人間ドラマ、家族ドラマが好きな方にオススメする。
川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・ハート川は静かに流れ についてのレビュー
No.514:
(7pt)

セリフは面白いがストーリーは中途半端(非ミステリー)

2021年にオンライン・メディアに連載された長編小説。素人の主婦が書いた小説と編集者の感性が奇妙に重なり合っていく、奇想的物語である。
作中ところどころにインパクトのあるセリフが登場し、ストーリー展開のアクセントになっているのだが、物語全体の印象度が薄くミステリーとしては物足りない。
ロング・アフタヌーン (単行本)
葉真中顕ロング・アフタヌーン についてのレビュー
No.513:
(7pt)

文句なく面白い、でも長編には敵わない

2000〜2003年に雑誌掲載された8作品を収めた連作短編集。終身検視官の異名を持つ捜査一課調査官・倉石が鋭い観察眼と現場で鍛えた知識で自殺か他殺かを見極めていく警察ミステリーである。
それぞれの話のキーとなるトリックや犯行様態はヴァラエティに富み、謎解きミステリーとして飽きさせない。さらに、事件の背景となる人間模様が丁寧に描かれ、ヒューマンドラマとしても味がある。短編としての完成度は納得できるのだが、欲を言えばこれだけの物語を短編だけで終わらせるのは勿体無い気がした。
横山秀夫ファン、日本の警察小説ファンに自信を持ってオススメする。
臨場 (光文社文庫)
横山秀夫臨場 についてのレビュー
No.512: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前半は詐欺師の成長物語、後半はハリウッド的ハッピーエンド

傑作と言われながら未訳のままだったのが、半世紀を経て邦訳された1970年の作品。元諜報員が、不正と暴力に汚染された南部の小都市の乗っ取り計画に参画し、曲者たちと騙し合いを繰り広げるコンゲーム&クライム・サスペンスである。
属する諜報組織に裏切られ、東南アジアの小国で留置されていた秘密諜報員のダイはサンフランシスコに送り返され、上司から手切金と引き換えに口を噤むよう強制された。そんな失意のダイに近付いてきたのが都市計画コンサルタントを自称するオーカットで、巨額の報酬で「街をひとつ腐らせてもらいたい」という無謀な話。しかも、オーカットにダイを推薦したのが、ダイと浅からぬ因縁がある元同僚という、なんとも筋の悪い話だった。しかし、心に虚無を抱えていたダイは依頼を承諾し、オーカットの仲間の元悪徳警官、元娼婦たちとチームを組み、田舎町へ乗り込んだ…。
街の政治家や警察を策略と暴力で総取り替えして権力や裏の利権を争うという設定が日本人にはピンとこないが、悪人同士が知恵を絞って争うという、いつものロス・トーマス世界。暴力と騙しの狂想曲が繰り広げられ、最後はちょっと忙しい展開になるが、ニヤリとさせて大団円を迎える。
「冷戦交換ゲーム」からウー&デュラント・シリーズへ変化する途中の傑作として、ロス・トーマス・ファンには必読の作品。アメリカの謀略もの、コンゲーム、軽めのハードボイルドのファンにもオススメする。
愚者の街(上)
ロス・トーマス愚者の街 についてのレビュー
No.511: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

読者の思い込みをうまく利用した、技巧的作品

勘違いや思い込みから生まれる悲劇を巧妙に物語に仕上げた、傑作ミステリー。登場人物や事件の背景などを考えるより、単純に自分の思い込みが覆されるどんでん返しを楽しむ小説である。
どんでん返し系ミステリーのファンにオススメする。
ラットマン (光文社文庫)
道尾秀介ラットマン についてのレビュー
No.510:
(7pt)

社会人なら誰もが経験する職業倫理と私情のせめぎ合い

2001年から3年にかけて文芸誌に掲載された6作品を収めた短編集。どれもミステリーと呼ぶには謎が無さすぎる話なのだが、社会人なら当然に従うべきとされている職業倫理と、それに相反する私情がぶつかるときに生まれる登場人物の心の揺れがミステリー要素を含んでおり、その緊張感で読ませる。
6作品の中では表題作「看守眼」と「口癖」が面白かった。
看守眼 (新潮文庫)
横山秀夫看守眼 についてのレビュー
No.509: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

自然も人間関係も閉ざされた地の重い物語

英国推理作家協会賞最優秀長編賞の受賞作で、「シェトランド四重奏」の第一弾。住民同士が全て知り合いという閉鎖社会に起きた少女殺害事件の謎解きと、背景となる人間関係の重苦しさを描いた重厚なミステリーである。
イギリスの最北端、シェトランド島で16歳の女子高生が殺害された。通報を受けた地元警察の警部・ペレスが捜査を始めたのだが、住民の間ではすでに「犯人はマグナスだ」という噂が広がっていた。というのも8年前、11歳の少女がマグナスの家を訪ねてから行方不明になっていたからだった。だが、知的障害がある老人・マグナスの犯行説に違和感を持ったペレスは粘り強く地元の濃密過ぎる人間関係を解きほぐし、閉鎖社会ならではの悲劇を目にすることになった。
現在の事件と8年前の事件が絡まり合い、誰もが知り合いで、誰もが秘密を抱えている最果ての地で暮らす人々の複雑な関係と心理が描かれていく。そのストーリー展開は、殺人の謎解き以上にスリリングでミステリアス。さらに舞台となるシェトランド島の荒涼たる風土も相まって、物語全体は暗く重いヴェールに覆われており、決して簡単に読み進められる物語ではない。
犯人探しと同時に複雑な人間ドラマを楽しみたい方にオススメする。

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス大鴉の啼く冬 についてのレビュー
No.508: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

エッシャーの騙し絵のような作家と作品の関係

日本では「ブルックリンの少女」でブレイクしたミュッソの2020年の作品。物語の主人公が作家で、その作家を動かしている小説家(物語の作者)が主人公と関わってくるという、実験的な構成のミステリーである。
ニューヨークに住む売れっ子作家・フローラの娘が自宅から姿を消した。誘拐されたのかと思われたが身代金の要求もなく半年が過ぎた頃、フローラのエージェントであるファンティーヌが執筆再開を提案し、そのきっかけにと言ってプレゼントを置いていった。そこからフローラは、パリ在住の作家・オゾルスキが事件に関与していると推察し、オゾルスキと対決して娘を取り戻そうとする…。
母親が密室から姿を消した娘を取り戻す密室ミステリー・サスペンスと思わせておいて、物語は作家と登場人物の関係、現実と虚構の関係が入り乱れる迷宮にはまり込む。まるでエッシャーの騙し絵のような不安に満ちた世界へと読者を誘っていく。謎解きといえば謎解きなのだが、トリックや伏線の回収で大団円ではなく、現実と虚構の境界線を手探りして辿り着いたのが夢の世界だったようなおぼつかなさがある。
事件の謎を解いてカタルシスを覚える作品ではなく、読者を選ぶ作品である。

人生は小説 (集英社文庫)
ギヨーム・ミュッソ人生は小説 についてのレビュー
No.507: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

偉大なるマンネリズム!

「ワニ町」シリーズの第6作。いつもの3人がいつも通りに事件に巻き込まれて(突入して)大騒ぎする、ユーモアミステリーである。
独立記念日のシンフルの町のバイユーで爆発事故が発生。密造酒製造中の事故かと思われたのだが、覚醒剤の密造中だったようらしいと判明。3人は地元マフィアに依頼されたこともあり、真相解明に乗り出して、あれやこれやの大騒動の末に悪党一味を捕まえる…。
まあ、予定調和のストーリーで新鮮味はないが、よくぞここまで馬鹿馬鹿しいシーンを思いつけるものだと感心するほどコミカルなエピソード満載で飽きさせない。すでにアメリカでは25作!まで出ているようで、作者の筆力に感嘆するばかりである。
マンネリの良さを味わいたい、コージー・ミステリーのファンにオススメする。
幸運には逆らうな (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン幸運には逆らうな についてのレビュー
No.506: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

表題作は読み応えがあった

自分が好きなジャンルではないため初めて読んだ、御年91歳の老大家の1986年の作品。展開のスピードが早く、しかも騙しとどんでん返しの技巧が巧みで中身が濃い中編ミステリー集である。
収録3作品の中では、表題作が一番読み応えがあった。事件の動機や真相はやや時代遅れな感があるものの次のページへと引っ張っていくパワーは素晴らしく、一気に読み終えた。
古典的名作として読んでおいて損はないとオススメしたい。
村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)
辻真先村でいちばんの首吊りの木 についてのレビュー
No.505: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

妬みから始まる噂が敵意に変わる、閉鎖コミュニティのおぞましさ

シェトランド諸島を舞台にした「ジミー・ペレス警部」シリーズの最終巻となる第8作。イギリス本土から移住してきた家族の納屋で相次いで発見された首吊り死体にまつわる、複雑な人間関係を解きほぐして行く警察ミステリーである。
一家で移住してきたフレミング家の納屋で、前の持ち主が首吊り自殺しているのが見つかった。さらに家の中に奇妙な絵を描いた紙片が置かれることが続き、不安を覚えた一家の母親・ヘレナはペレス警部に相談したのだが、その翌日、今度は島の旧家の子守りをしている若い女性・エマの首吊り死体が見つかった。ペレスは上司であり恋人でもあるリーヴス主任警部の指揮のもと、部下のサンディ刑事とのチームで捜査に乗り出した。誰もがみんな知り合いという閉鎖的なコミュニティだけに、噂は飛び交うものの秘密は隠され続け、真相には容易に近づけないでいた。さらに、ペレスとリーヴスの関係に大きな変化がもたらされ、チームワークがギクシャクする事態にもおちいった…。
殺人事件の捜査とペレスを中心にした人間関係のドラマが同時並行で進み、なかなか謎解きには至らない。そのスローペースを退屈させないのがシェトランド諸島の自然と地域の人間性で、ゆったりとした物語世界を作り出している。中でも誰もが知り合いという閉鎖的社会の息苦しさはおぞましくあり、読み応えもある。その分、謎解きミステリーとしては動機、犯人像に鋭さがない。
シリーズ最終巻だが、これまでの作品を読んでなくても十分に楽しめることは保証する。
炎の爪痕 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス炎の爪痕 についてのレビュー
No.504: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

誰もが犯人だと自覚しているところがミソ。

刑事加賀シリーズの一作。最後に加賀が「犯人はあなたです」と断言するのだが読者には明示されず、袋綴じ解説「推理の手引き」を読んで分かったような気にさせられる、犯人探しゲームである。
教会のヴァージンロードで新郎・穂高が倒れ、そのまま息を引き取った。死因は、穂高の常備薬であるカプセルの中身が毒薬に変えられていたことだった。主な容疑者は三人、落ち目の作家である穂高の事務所を取り仕切る立場だが、恋人を穂高に奪われた駿河、穂高の担当編集者で元恋人の雪笹、新婦・美和子の兄でありながら美和子への執着心を隠し持つ神林。三人とも強い殺意を持っていてもおかしくなく、しかも穂高にカプセルを渡せる機会があった。さらに、毒入りカプセルを作ったのは、駿河から穂高に心変わりし、最後に裏切られ、挙式前日に穂高家の庭で自殺した女性・浪岡だった。
容疑者が三人とも「自分が殺した」と自覚しており、さらに裏切られて自殺した浪岡にも動機や犯行機会があり、容疑者視点の章が変わるたびに犯人探しは二転三転する。最後は加賀刑事の粘っこい捜査が結実し、昔の推理小説の典型パターン、容疑者を集めて名指しするのだが、なんだかすっきりしない読後感が残るのは、登場人物が全員、共感を覚えないキャラだからだろうか。
犯人当てゲーム、作者との知恵比べがお好きな方にオススメする。
私が彼を殺した 新装版 (講談社文庫)
東野圭吾私が彼を殺した についてのレビュー
No.503: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

行き詰まった捜査が意外なところから開けていく

マルティン・ベック・シリーズの第3作、新邦訳版では4冊目の作品。夏のストックホルムで起きた連続少女殺害事件に取り組むベックたちの地道で諦めない捜査活動を描いた、警察集団ミステリーである。
開放的な気分に包まれた夏のストックホルム市街の公園で幼い少女の無惨な遺体が発見された。さらにその数日後、別の公園でも少女が殺害され、市民は恐怖に襲われた。二つの現場に残された物証は乏しく、どちらも人の出入りが自由な場所だったが目撃証言も確かなものは得られず、頼みの綱になりそうな証言は会話がたどたどしい3歳の男児と現場をうろついていた強盗犯のものしかなかった。次の犯行がいつ起きるか、緊張する捜査陣だったが手がかりが得られず、焦りが募るばかりだった。だが、ベックの記憶に残っていた出来事をきっかけに、事態は一気に動き出すのだった…。
犯人像が固まるまでに時間がかかり、緊迫感に満ちた物語展開も、きっかけをつかむとあっという間に解決になだれ込んでいく。そのあたりの展開はやや調子が良過ぎる気もするが、それも地道な捜査の積み重ねがあってこそということで、警察小説としてのリアリティーは従来通り違和感がない。個性的なメンバーの中でもひときわ目立つラーソンが登場し、チームの形が完成したという点で、シリーズ読者には必読作品である。
シリーズ愛読者にはもちろん、警察集団ミステリーのファンに自信を持ってオススメする。
バルコニーの男 刑事マルティン・ベック (角川文庫)
No.502: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ディープサウスしかも山間の僻地なら、これもありかも

63歳で長編3作目という遅咲きのアメリカ人作家の本邦初訳。ケンタッキー州東部、アパラチア山脈の片田舎で、短期帰郷した米陸軍犯罪捜査官が殺人事件を捜査する犯人探しミステリーである。
妻・ペギーが妊娠したことを知り海外任地から戻ってきた米陸軍犯罪捜査官のミックは、郡保安官である妹のリンダから「町はずれの森林で発見された女性殺人事件の捜査を手伝って欲しい」と依頼される。女性であるがゆえに町の有力者たちから軽んじられているリンダは捜査から外されそうになっており、兄に助力を求めたのだった。妻の妊娠を機に帰郷したもののペギーとの仲がしっくり行かず鬱屈を抱えていたミックは、自分のためにもと捜査に関わったのだが、濃密な血縁関係と変わらない因習に凝り固まった町の住人はミックに対しても容易には心を開かず、事件の全体像も見えないうちに事件に誘発された殺人が起きてしまう…。
まるで大正・昭和前期の日本の片田舎のような重苦しい町の雰囲気がいやで陸軍に入ったミックの故郷に対する複雑な心理が重要なテーマとなり、犯罪捜査は二の次とまでは言わないが、本作の主要テーマではない。従って、純粋なミステリーとしてはやや力不足であるが、アメリカの複雑さ、捉えどころのなさを理解するには有益である。アメリカではすでに第3作まで書かれているようで、次作を見てから再度評価してみたい作家である。
アメリカ・ディープサウスの泥臭さを好む読者にオススメしたい。
キリング・ヒル
クリス・オフットキリング・ヒル についてのレビュー
No.501: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

始まりは派手だけど、意外に地味なストーリー

警察小説の金字塔「マルティン・ベック」シリーズの新訳版、第5作。突然、爆発炎上したアパートから発見された死者の隠された謎を解いていく、警察捜査ミステリーである。
ピストル自殺した男のベッド脇に残された紙にはマルティン・ベックの名前が書かれていたのだが、ベックは自殺した男の名前さえ聞いた記憶がなかった。同じ日、ラーソン警部補が監視していたアパートが爆発炎上し、ラーソンは住人を救い出すべく奮闘したのだが数人が焼死体で発見され、その中に監視対象の男・マルムが含まれていた。ベックたちが捜査を進めると、奇妙なことにマルムは自分の部屋で自殺を図ろうとしていた形跡が見つかった。さらに、通報を受けて出動したはずの消防車が現場に到着しなかった事態も発覚し、事件の謎は深まる一方だった…。
出動したのに到着しなかった消防車、さらにルン警部補が息子に買い与えたのだがいつの間にか姿を消したおもちゃの消防車、という二つの謎が物語全体の通奏低音となり、ゆったりと静かに、しかし着実に進んでいく捜査が意外なきっかけから解決に辿り着き、おまけとして派手なクライマックスを迎えることになる。現在の感覚からするとスローすぎる展開だが、そこに味わいが生まれていることは確かである。お馴染みの登場人物たちの日々の悩みや喜びが丁寧に描写されるのも、一つの楽しみである。
せっかく5作目まで来た新訳版シリーズだが、まだ5作も残して、これで打ち切りになると言うのは残念。いつか再開してもらいたいものである。
マルティン・ベック信奉者、警察ミステリー愛好家にオススメする。
刑事マルティン・ベック 消えた消防車 (角川文庫)
No.500:
(7pt)

どこか既視感がある、普通の人々の人情物語(非ミステリー)

「家裁調査官・庵原かのん」シリーズの第2弾、雑誌掲載の7本を集めた短編集である。
川崎の家裁に転勤になった庵原かのんが出会った事件は離婚、親権、相続など、どれも普通の人々が巻き込まれる家族のトラブルばかり。それだけに、扱われる題材、テーマが身近で、話を自分に引き取って読んでしまう。根底に世の中悪い人ばかりじゃないという善人視があるので、読後感は悪くない。
人情物語が好きな方にオススメする。
雫の街: 家裁調査官・庵原かのん
乃南アサ雫の街 家裁調査官・庵原かのん についてのレビュー
No.499:
(7pt)

自分はこんなに賢い小学生ではなかったなぁ(非ミステリー)

第33回柴田錬三郎賞を受賞した短編集。6作品とも、子供なら当たり前に抱えている生きづらさ、不全感を逆転させる小学高学年の児童たちと大人の物語である。
子供だってそれぞれに自分らしさとは何かに悩み、周りからの決めつけに傷つき、反発し、それでも周りに優しくあり、スロウペースではあるが成長していく。そんな当たり前のお話を読み応えのあるエンターテイメントに仕上げたのは、さすが伊坂幸太郎である。
読後感の良い作品ばかりで、ミステリーファンにもオススメしたい。
逆ソクラテス
伊坂幸太郎逆ソクラテス についてのレビュー
No.498: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

未来世界に古色蒼然たる人間たち

シリーズ第54作目と言う驚異的な長寿ミステリー・シリーズが版元を変え、訳者を代えて登場。2060年代のN.Y.、美人警部と超富豪の夫という「イヴ&ローク」コンビが難事件を解決するお約束パターンは何も変わっていない。
再開発が続くN.Y.の工事現場でホームレス女性の惨殺死体が発見され、現場に駆けつけたイヴたちは、別の一画で解体中の壁から白骨死体が見つかったと知らされる。白骨死体の方は女性と胎児らしい。2つの事件は現在と35年から40年前という時間の差はあれ、ホームレスと妊婦という弱者が被害者という共通点があり、イヴの正義感に火が付いた…。
現在と過去の事件が意外な繋がりを見せるという、よくあるパターンだが、事件の動機、背景、捜査プロセスなどがしっかりしているので、謎解きミステリーとしては合格点。時代は変わっても人間は変わらないという作者の思いが十分に読み取れる。ただ、ロマンス作家として著名な作者だけに全編にロマンス色が濃厚なのが鼻につく。
読者を選ぶ作品であり、ミステリー一辺倒ではなくロマンスが欲しいという読者にはオススメする。
名もなき花の挽歌 イヴ&ローク54 (mirabooks)