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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数620

全620件 501~520 26/31ページ

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No.120:
(7pt)

M.I.クラスのド派手アクション

ハリウッドで映画化すれば絶対受けそうな、ド派手なアクションのエンタメ作品。物語の始まりから終わりまでが24時間ほどに凝縮されており、息つく暇も無いほどのスピード感が味わえる。
ニューヨーク市の地方検事ジャックがある朝、目覚めると、胸には銃創を乱暴に縫った痕があり、左腕には見たことも無い文字らしき刺青があるのを発見する。何も思い出すことが出来ず戸惑うジャックだが、さらに朝刊に自分と愛する妻が昨夜、事故で死亡したという記事を見つけて驚愕する。自分は生きているのに、どういうことだろう? やがておぼろげながらよみがえってきた記憶を辿ってみると・・・。
失われた記憶を再生しながら、行方が分からなくなった妻を捜してニューヨークを走り回るジャックのノンストップアクションが面白い。非情に徹した凄腕の悪役、自分の身を投げうって助けてくれる相棒、敵にも味方にも見える上司や権力者などなど、脇役も充実していて全く飽きさせない。事件の背景や真相がどうのこうのより、奇想天外でスピーディーなアクションの連続にハラハラしているうちにクライマックスを迎えて、「あー、面白かった」とページを閉じるのが正しい楽しみ方だろう。
夜明け前の死 (新潮文庫)
リチャード・ドイッチ夜明け前の死 についてのレビュー
No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シリーズ物を途中から読むのはつらい

ノルウェーでは大人気の女性作家アンネ・ホルトの代表作「ハンネ・ヴィルヘルムセン」シリーズの第7作。「何で、7作目から?」と思ったら、これまで90年代後半に1〜3作が翻訳・出版されており(残念ながら未読)、今回、15年ぶりに邦訳されたとのこと。つまり、シリーズ物でありながら、最初の作品紹介からはかなりの時間が経過し、しかも4〜6作目は翻訳されていないのだ。このあたりの事情もあって、登場人物のキャラクターに入り込むことが出来ず、どうにも中途半端な読後感だった。
クリスマスを控えたオスロの高級住宅街で資産家の夫婦とその長男、出版コンサルタントの4人が射殺された。資産家の一家には財産分与を巡る諍いがあり、家族間のもめ事ではないかという捜査方針で捜査が進められた。しかし、出版コンサルタントの存在が気にかかるハンネは全く違う方向から事件を解明しようとし、他の捜査陣とぶつかることになる・・・。
ストーリーは殺人事件捜査を中心に展開されるのだが、物語の重点の半分はハンネの生き方に置かれており、これまでのバックグラウンドが分かっていないので、面白さが半減してしまった印象だったのが残念。これから読まれる方には、ぜひ1〜3作を読んでおくことをオススメする。
凍える街 (創元推理文庫)
アンネ・ホルト凍える街 についてのレビュー
No.118: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

評価が二分されるのも納得

今や日本でも人気作家となったシーラッハの「コリーニ事件」に続く長編第二作。2013年に発表されたとき、ドイツでは評価が二分されたという。
没落した名家の御曹司ゼバスティアンは写真芸術家として成功し、活躍していたが、若い女性を誘拐したとして逮捕され、起訴された。弁護を頼まれた辣腕弁護士ビーグラーは、ゼバスティアンの自供は取調官の脅迫によるものだとして自供の有効性を争うことにした。果たして、ゼバスティアンは有罪か、無罪か。
ゼバスティアンの複雑な生い立ち、不可解な犯行の様態に、冷静沈着な弁護士ビーグラーも苦心惨憺。それでも、じわじわと事件の真相に迫り、最後は無罪を勝ち取るのだが、最後の最後までゼバスティアンの動機には不明な部分が残されていた。
ミステリーとしては致命的な欠陥があると感じるのだが、「真実とは何か」を問う物語としては非常に味わい深く面白かった。確かに、評価が難しい作品である。
禁忌
No.117:
(7pt)

90年代ストリート・キッズのホラ話(非ミステリー)

石田衣良の代表作である「IWPG」シリーズの第一作品集。1997年に発表された、石田衣良のデビュー作でもある「池袋ウエストゲートパーク」を始めとする4本の連作短編を収録している。
高校を卒業して一年ほどの地元の青年・真島誠が、池袋の街を根城にするストリート・キッズたちの「平和と安全」のために様々な問題を解決して行く、ある種のハードボイルド小説なのだが、相当に荒唐無稽なところがあり、正統派のハードボイルドとして読むと不満が残るだろう。ミステリーやハードボイルドではなく、90年代後半の池袋のストリートを生き生きと描いたギャングコミックとして読めば、ストーリーもエピソードも、登場人物のキャラクターも切れ味が良く、非常に面白い。
池袋ウエストゲートパーク (文春文庫)
石田衣良池袋ウエストゲートパーク についてのレビュー
No.116: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サラリーマン漫画好きの方に

かつてのサラリーマン向けの漫画週刊誌に連載されていそうな金融経済ミステリー。投資ファンドによる企業買収の苛烈さや日本の企業の宿痾などを描いたストーリーの本筋はリアリティもあって読み応え十分だが、主人公が漫画みたいに格好良すぎるのが欠点。また、主人公を巡る女性のキャラクター設定が類型的過ぎるのも、やや興を削ぐようで残念。
ハゲタカ2(上) (講談社文庫)
真山仁バイアウト ハゲタカ2 についてのレビュー
No.115:
(7pt)

銀行員にはなりたくないな〜(笑)

2004年に発表された、池井戸潤の比較的初期の作品。お得意の銀行業界を舞台にした社会派ミステリー小説である。
「負け組」といわれる都市銀行の副支店長・蓮沼は、担当する中小企業の苦境を理解し、サポートしようとするが、不良債権処理を一方的に押し付けてくる銀行本部や支店長との板挟みで、毎日が綱渡りの苦しい日々を送っていた。一方、頭取時代にバブル時の放漫経営で「負け組」となる原因を作った現会長・久遠は、何の責任も取らず、下には「信賞必罰」を押し付けて平然としていた。蓮沼の部下で問題社員だった男がリストラされ、銀行への報復として久遠に罠を仕掛けようとしているのを察知した蓮沼だったが、その罠を調査して行くうちに、久遠には巨額の裏金疑惑があることに気がついた。折から、蓮沼は銀行内部の陰湿な体質によって、取引先倒産の詰め腹をきらされそうになり、ついに堪忍袋を緒を切ることになる。
いわゆる金融犯罪をテーマにしているのではなく、巨大システムが庶民を圧迫していることの犯罪性をテーマとした社会派ミステリーである。日本型金融システムの崩壊が招いた悲劇をリアルに描いて読ませるとともに、日本の中間管理職の生きづらさと、それでも立ち上がる者へのエールが多くの読者の共感を呼ぶだろう。
最終退行 (小学館文庫)
池井戸潤最終退行 についてのレビュー
No.114: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

マスカレード・ホテルの前日譚だけど

ヒット作「マスカレード・ホテル」の第二弾ではあるが、物語のその後ではなく、タイトルが連想させる通り、主人公二人の過去を描いた短編集である。ホテルウーマン・山岸を主人公にした2作品、刑事・新田を主人公にした2作品で構成され、それぞれの新人時代の活躍が中心で、ここでは山岸と新田が直接出会うことはなく、あくまでも「マスカレード・ホテル」へのプロローグという位置づけだ。4作品とも軽く読めて、格別の技巧や熱意は感じられないが、東野圭吾ファンなら安心できるレベルの仕上がりとは言える。
普通、シリーズ物は時系列に従って読む方が違和感が無く、理解が深まって楽しめるのだが、本作は時系列を逆転して、言わばシリーズファンへのサービスとして、主人公たちの前日譚が書かれているので、どちらから読み始めても変わりはないと思う。
マスカレード・イブ (集英社文庫)
東野圭吾マスカレード・イブ についてのレビュー
No.113:
(7pt)

誰もが身につまされるのではないか?

表4の紹介文に「終末期医療の現状と問題点を鮮やかに描くミステリー」とある通り、痴呆老人の治療と安楽死をテーマにした作品。読む人それぞれの立場に応じて様々な問題を突きつけられるであろう作品だ。
ミステリーとしては、痴呆病棟に勤務する若い看護師が患者の死因に疑問を持ち、治療以外の目的の医療が行われているのではないかと推理するというストーリーで、さほどの衝撃は無い。むしろ、老人たちが入院に至るまでの本人と家族の人生模様が語られる前半、新人看護師の目を通して痴呆老人看護の実態を生々しく描いた中・後半部分が、ノンフィクション・ルポルタージュ並みの迫力を持っていて読ませる。
ミステリーファンにというより、介護や高齢化社会に興味を持つ人にオススメ。
安楽病棟 (新潮文庫)
帚木蓬生安楽病棟 についてのレビュー
No.112:
(7pt)

現代人の肥大した自意識を嗤う(非ミステリー)

高村薫が初めて挑戦した社会風刺小説。当サイトにはなじまない作品なのでオススメ投票はしないが、傑作であることは間違いない。
儲け話に敏感でヒマを持て余している過疎の村の四人の年寄りが、村人や都会からの客や、はたまた山に住む動物たち、畑のキャベツやケール、さらには閻魔大王までを巻き込んで引き起こす大騒動は、高村薫ならではの毒を含んだ批評眼にさらされ、現代人の肥大化した自意識をあらわにする。
高村薫には、昔のような緊迫感に満ちたサスペンスを書いてもらいたいのだが、これはこれで面白かった。
四人組がいた。
高村薫四人組がいた。 についてのレビュー
No.111:
(7pt)
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サラリーマン応援小説(非ミステリー)

ミステリーではないので「オススメ」しないが、半沢直樹的な勧善懲悪のサラリーマン応援小説としては、非常に良く出来ている。
大企業の横暴、中小企業に働く男の意地、仲間と力を合わせて戦う快感、サラリーマン社会に付きものの権謀術策など、エンターテインメント要素が盛り沢山。イントロからエピローグまでの話の運びも一級品で、最後に愚直な技術屋のプライドが勝利する場面は感動的である。
下町ロケット (小学館文庫)
池井戸潤下町ロケット についてのレビュー
No.110: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

悪霊より恐いのは、ひと

宮部みゆきの時代物を初めて読んだ。歴史や時代考証を巧みに生かしながらミステリー要素もきちんと押さえていて、宮部みゆきの構成力、筆力に改めて感心させられた。
金比羅山への入口にある小藩・丸海藩に、妻子と側近を惨殺した悪霊と恐れられている加賀様が流罪となって預けられることになった。それを機に、穏やかな丸海の暮らしに暗雲が立ちこめ、不吉な出来事が次々に起きてきた。「加賀様の祟り」が重くのしかかった丸海藩では、武士同士の権力争い、領民間の不信による軋轢が頂点に達し、ついに爆発することになる・・・。
物語の本筋は、「加賀様」という「悪霊のシンボル」を軸に様々な争いを起こしていく人間の業の深さを、「ほう」という9歳の無垢な少女と「宇佐」という勝ち気で純情な若い女性の二人の視点を通して描いたもの。この二人を始め、善人悪人を問わず登場人物が非常に生き生きと描かれていて、読み進むうちに感情移入しないではいられなくなり、読後には深い感動が残されることになる。
時代ミステリーというより、人間の善と悪を追求した人情傑作としてオススメだ。
孤宿の人〈下〉 (新潮文庫)
宮部みゆき孤宿の人 についてのレビュー
No.109:
(7pt)

地味だが飽きさせない

名無しのオプシリーズの第二作。今回は、挙式直前に行方不明になった婚約者を探してもらいたいという女性からの依頼で、名無しのオプはカリフォルニア州やドイツを駆け巡る。相変わらず、地味な私立探偵がじわじわと真相に迫って行く、奥が深いサスペンス小説である。
依頼人・エレインの婚約者・ロイはドイツ駐在の米軍兵士で、除隊後すぐに挙式の予定だったが、米国に帰国後、同僚兵士に「北の方で、片付けておく用事がある」と語ったきり、行方が分からなくなった。手がかりは、失踪後に同僚に届けられた電報とロイの似顔絵だけだという。しかも、オプが調査に乗り出したとたんに大事な似顔絵が盗まれてしまった。私立探偵の重要な調査手段である聞き込みも、似顔絵なしでは思うような結果が得られず、オプは必死に推理を働かせることになる。
失踪人探しは私立探偵物の王道とも言うべきテーマで、プロットの巧さが作者の腕の見せ所だが、さすがにプロンジーニ、派手さは無いが緊密なプロットで読む者を引きつけ、最後まで飽きさせない。人間に主眼を置いたPIものファンにはオススメだ。
失踪 (新潮文庫 フ 12-2 名無しの探偵シリーズ)
ビル・プロンジーニ失踪 についてのレビュー
No.108: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

どんだけ「どんでん」したら、気が済むねん!

リンカーン・ライム・シリーズの10作目。今回も期待に違わず、最後までどんでん返しの連続だ(正直、ちょっとあざとさを感じるのだが・・・)。
アメリカ政府批判を繰り返していた活動家が、バハマで射殺された。スナイパーが潜んでいたと思われる場所から現場までは2000mの距離があり、犯人は超一流で、彼を雇ったのは米国の秘密諜報機関ではないかという疑いがもたれた。「法の正義」を信奉する地方検事補ローレルが、秘密諜報機関の長を起訴するための証拠集めをライムのチームに依頼する。現場はカリブ海、しかも遠距離からの射撃のため得意の微細証拠が集められず捜査が難航しているうちに、証拠隠しと思われる残酷な犯行が次々に発生した。
本作品のメインテーマは、「まだ罪を犯していない者に、権力は力を行使できるのか?」という難問。諜報機関が「テロリストの疑い」だけで暗殺することと、パトロール警官が「武器を所持している」と判断した人を射殺することとの間に、どれだけの違いがあるのか? 最近のアメリカでの白人警官による黒人射殺事件の数々を想起させる、重いテーマである。
今回は、微細証拠から科学的に犯人を追い詰めるという側面と、動機の面から犯人像を描いていくという側面が同じような比重を占めているところが、これまでのシリーズ作品とは異なる印象だ。また、極めて重要な証拠をライムが見逃し、サックスに指摘されたり、どんでん返しにつながったりするところも、これまでには無かったような気がする。
とまあ、全体的にピリピリしたところが減って、シリーズ物の安定感が増してきたというところか。それでももちろん、ジェットコースター並みのスリルとサスペンスが楽しめるのは、今回も保証付きだ。
ゴースト・スナイパー 上 (文春文庫 テ)
No.107: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

常識外の家族が紡ぐ、倫理の物語

2003年に発表され、2005年、文庫化に際して改稿された作品である。ミステリーと言えば言えなくはないが、本筋は家族の物語である。
兄・泉水、弟・春という仲の良い兄弟の家族の歴史には、心に深い傷を残した不幸な出来事があった。兄は遺伝子検査の会社に勤め、弟は街中の落書きを消すという仕事に就いていたある日、兄の会社が放火されるという事件が起きた。それはどうも、最近、仙台市内で発生している連続放火事件の一環らしいということが判明し、癌で入院中の父親も含めた三人で犯行動機、犯人像を推理し始めることになる。推理小説を読むような、謎解きのはずだった犯人探しは、想定外の結末を迎えることになる。
北上次郎氏の解説にある通り、本作は「放火と落書きと遺伝子の物語」だが、犯人探しのストーリー以上に、登場人物のキャラクターの特異さ、エピソードの面白さ、良質なユーモアが醸し出す「伊坂ワールド」の魅力に引き寄せられてしまう。メインテーマは「兄弟とは、家族とは」という、語り尽くされてきた古臭いものなのだが、北上氏が「古い酒でも新しい皮袋に盛れば、これだけ新鮮な物語に変貌するという見本のような作品」と書いているように、新鮮な感動を与えてくれる作品である。
重力ピエロ (新潮文庫)
伊坂幸太郎重力ピエロ についてのレビュー
No.106: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

戦争後で戦争前の時代を活写

1930年代のベルリン警視庁の警部ラートを主人公にしたシリーズの第三弾。時代背景を巧みに取り入れた、社会派警察小説である。
1931年6月、FBIからベルリン警視庁に「ニューヨークギャングの殺し屋、ゴールドスティンがベルリンに向かった」という連絡が入り、ラート警部はこの男を24時間監視するように命ぜられる。ゴールドスティンの目的が判明せず、疑心暗鬼に落ち入ったベルリン警察をあざ笑うかのように、ある日、ゴールドスティンは監視の目をかいくぐって姿をくらました。そのころベルリンでは、暗黒街で対立する二つの組織の顔役が姿を消し、組織に関係する故買屋が虐殺された。また、百貨店に盗みに入ったストリートチルドレンの少年を殺害した疑いをもたれていた警官が殺されるという事件も発生した。次々と複雑化する事件に、別々の理由から関わることになったラート警部と恋人のチャーリーは、お互いに反発しながらも協力し合い、隠されていた陰謀を徐々に暴いていくことになる。
警察の捜査活動がメインではあるが、社会民主党政権が弱体化し、共産党、ナチの対立が深刻化してきた、当時の騒然とした世相、中でも、ベルリンのユダヤ人社会が置かれた微妙な立場も大きなテーマとなっている。経済的な苦境と人種差別が影響し合って、第一次世界大戦の戦後が第二次世界大戦の戦前へと変わっていく様相は、現在の日本人にとっても決して他人事ではないと思わされる。
ラート警部シリーズにしては読みやすく、歴史的背景云々を抜きにしても楽しめる。
ゴールドスティン 上 (創元推理文庫)
No.105: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

映画向きの派手なアクションと涙

おなじみ「ハリー・ボッシュ」シリーズの最新翻訳作品。期待にたがわない、アクションミステリーである。
LAのダウンタウンで酒店を経営する中国移民の店主が銃撃で殺され、レジの売上が奪われた。単純な強盗殺人事件と思われたが、事件の背景に中国系の闇組織・三合会の存在が浮かび、ボッシュは香港に逃亡しようとした容疑者を空港で逮捕する。ところが、「捜査をあきらめろ」という脅迫電話がかかってきたのに続いて、香港に住むボッシュの娘・マデリンが監禁されている動画が送り付けられてきた。
娘を救出するために香港に飛んだボッシュは、前妻・エレノアと彼女の恋人の力を借りながら、香港の裏社会を駆け巡る・・・。
特に、香港に舞台を移してからは派手なアクションの連続で、まさに映画的な展開を見せる。また、これまでのシリーズ作品ではあまり描かれていなかったボッシュの人情的な弱点、娘とのぎこちない交流に重点が置かれているところも、シリーズ読者には新鮮味がある。マイクル・コナリー自身が本人のHPの「ナインドラゴンズを書いた理由」という文章で、「ハリーと彼の娘の物語である。(中略) そして何よりも父親としての脆弱性(よわさ)を描いた物語である」と書いているように、今後のハリーの転換点になる作品となるのかもしれない。
登場人物それぞれに、ぴったりな俳優を想像しながら読んでみるもの面白いと思う。
ナイン・ドラゴンズ(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリーナイン・ドラゴンズ についてのレビュー
No.104:
(7pt)

ジャンル分け不能の怪作!

アメリカの版元は「ジャンル・ツイスティング・ミステリ」という宣伝文句を使っているというが、まさにジャンルを越えた(というか、ジャンルを混交させた)作品だ。サイコ・スリラーの王道をゆくような導入からホラーサスペンス、SF、アクション・ミステリーへと激しく変化し、最後は文芸的なエンディングを迎えるという、まったくつかみ所が無い作品で、決して読みやすくは無いし、まったく受け入れられない読者も多いことだろう。
「騙されてもいい、面白い小説を読みたい」という読者には、オススメ。
プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
No.103: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「強い女性」の物語

表紙からして女性を意識した作品で、第二次大戦下を生き延びた女性のいき方を中心に据えた物語だが、ミステリーとしての完成度もなかなかで、男性読者にも十分読み応えがある。
16歳の時、自宅を訪ねてきた見知らぬ男を母・ドロシーが殺害するという衝撃的な場面を目撃したローレルは、50年後、死に瀕した母親を見舞うために故郷の家を訪れた。そこで、思い出の品々に触れている内に、50年前の恐ろしい記憶が甦った。あの事件はローレルの証言もあって、当時、近隣に出没していた連続強盗に遭遇した母の正当防衛として処理されたが、実は、男は「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と声を掛けていたのだった。明らかに、男と母は知り合いだったのだ。男の正体は、何者なのか? そして、母はなぜ、あの男を殺してしまったのか? ローレルは、残された写真や関係者の証言によって母の秘密を探ろうとする。
母の秘密を探るストーリーは、現在と戦時下のロンドンを行き来しながら、ゆったりと進んでいく。そこでは、ドロシーや関係する人々の生活を通して、1930年代から60年代ごろの女性の生き辛さと力強さが描かれている。派手なアクションやどんでん返しとは無縁だが、読者をぐいぐい引き込んで行くパワーが感じられる。
母の秘密が暴露された後に付け加えられた小さなエピソードがしゃれているのは、訳者あとがきによると、この作家ならではのもののようである。
秘密<上>
ケイト・モートン秘密 についてのレビュー
No.102: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

粗削りでパワフルなところが魅力的

27歳のスイス人作家のデビュー作でフランスを始め、ヨーロッパでベストセラーになったという。ストーリーもキャラクターも登場人物の会話も、ぐいぐい引き込まれて行く面白さとちょっと乱暴過ぎる部分とが混在していて、若い作家のパワー全開というところが、作品の内容とシンクロして人気を呼んだのではないだろうか。
デビュー作が大ヒットして二十代で人気作家となったマーカスだが、二作目が書けなくて行き詰まっていた。そこで、大学時代の恩師でアメリカを代表する作家でもあるハリーの家を訪ねてアドバイスを受け、再び執筆への意欲を取り戻し始めていた。ところが、ハリーの家の庭から33年前に行方不明になっていた15歳の少女・ノラの白骨死体が発見され、ハリーが容疑者として逮捕される事態になった。ハリーの無実を信じるマーカスは、ハリーを助ける為に独自に事件の真相を調べ始め、それを二作目の本にすることを決意する。マーカスのドキュメンタリー小説は空前のベストセラーになり、ハリーも起訴を取り下げられて釈放されたが、マーカスの作品に致命的な欠陥が見つかった・・・。
街中の人々に愛されていたノラを殺したのは、誰か? ミステリーとしてのポイントは犯人および動機の解明で、33年前の事件と現在の状況を行き来しながらダイナミックな展開で読者を引き付ける。特に、終盤でのどんでん返しの連続は上手い。少女殺人事件だけに絞った作品にしていたら、全体の長さは2/3ぐらいに凝縮され、評価は1.5倍になっていただろう。
しかし、著者はミステリーを書こうとした訳ではないという。「とにかく面白い話を書きたい」ということで、エンターテイメントの一要素として殺人事件を取り入れたのであり、作品の主眼はマーカスとハリーの師弟関係にあるという。こうした背景が作品の性格を複雑で曖昧にし、読者の評価が大きく分かれる要因といえるだろう。
ミステリーに絞れば冗長な印象は否めないが、エンターテイメントとしては上出来の作品である。
ハリー・クバート事件 上
No.101:
(7pt)

桐野夏生が迫る、林芙美子の激情(非ミステリー)

第二次世界大戦当時、従軍記や戦場報告記で戦意高揚に貢献した林芙美子の愛と葛藤を描いた作品。まさに桐野夏生らしい視点と表現で、林芙美子の破天荒な生き方を活写している。
ミステリーとは無関係な作品である。
ナニカアル
桐野夏生ナニカアル についてのレビュー