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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数620件
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週刊紙の連載をベースに加筆修正したという、ボッシュ・シリーズの第13作。シリーズの中では短めで、展開にスピード感があるサスペンス作品である。
ロス市内を見渡す展望台で、後頭部に2発の弾丸を撃ち込まれた男性の死体が発見された。犯行の様相からギャングがらみの処刑かと思われ殺人事件特捜班の出番となったのだが、調べて行くとテロリストが関与している疑いが浮上し、FBIが乗り出してきた。前作「エコー・パーク」で因縁があったレイチェル捜査官をはじめとするFBIと鋭く対立しながらの捜査となったボッシュだが、独自の鋭い推理で犯罪の裏に隠された真相を見つけ、複雑な事件をスピーディーに解明して行った。 事件発生から解決までが半日ほどなのでストーリー展開がテンポよく、すいすいと読みすすめられる。にも関わらず、事件の構造は複雑でサスペンスがある。いつもは力業で事件をねじ伏せて行くイメージのボッシュだが、今回はわずかな証拠から鋭い推理を発揮する知性派の一面を見せてくれる。そういう意味ではシリーズ読者には必読の一冊であるが、シリーズ読者以外でも楽しめる警察ミステリーである。 |
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2006年〜09年の雑誌連載を大幅に加筆修正した、文庫オリジナル作品。文庫700ページを越える長編ながら構成がシンプルで読みやすい、青春小説である。
社長の息子という立場は同じながら、実態は全く違う二人の「あきら」。伊豆の片田舎の零細工場の長男・山崎瑛は、小学5年生のときに父の工場が倒産し、辛酸をなめながらも持ち前の向上心で東大を卒業し、大手都市銀行に就職する。一方、海運業の大手企業の御曹司として育った階堂彬は、同じく東大を卒業すると、家業の後継者となることを嫌って、山崎瑛と同じ銀行に就職した。新入社員当時からお互いの才能を認め合っていた二人は、階堂彬の実家の事業がバブル崩壊から苦境に陥ったことを受け、立場は異なりながらも協力してその難問に立ち向かって行く。その二人を支えたのは、幼い頃の経験から培われた「何のために生きるのか」という信念だった。 池井戸潤のホームグラウンドである銀行業界を舞台に繰り広げられる若者たちの成長物語。池井戸ファンには読み慣れた物語で、700ページを少しも長いと感じさせない。主人公二人はもちろん、周辺人物のキャラクターも丁寧に造形されており、ストーリー展開に深みを与えている。ただ全体に流れが淡白で、ドキドキ感が無いのが惜しい。 池井戸ファンにはもちろん、明るめの社会派小説のファンにはオススメしたい。 |
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ストックホルム警察の腕利き刑事を主人公にした新シリーズの登場作。北欧の警察小説にしては派手なアクション系ミステリーである。
27歳にして特捜班に抜擢された刑事ザック。彼には5歳の頃、刑事だった母が殺害され、事件が迷宮入りになったことで深い心の傷を負い、いつか犯人を捜し出すという強迫観念から警察入りしたという過去があった。ある日、タイ人のマッサージ嬢4人が惨殺される事件が発生し、ザックたち特捜班が担当することになった。タイ人を狙った人種差別事件と思われた事件だったが、捜査を進めるとマッサージ(つまり売春)利権を巡る犯罪組織の抗争の様相が見えたり、サイコパスによる単独犯行のようにも見えてきた。さらにタイ人売春婦が狙われる事件が発生し、ザックたちは寝る時間も無いほど追い詰められて行った・・・。 型破りの敏腕刑事が暴走気味に突っ走って、最終的には犯人を挙げるというのは珍しいことではないのだが、本作の主人公ザックの暴走というか、壊れ具合いは半端ではない。薬はやるは、容疑者に暴力を振るうは、不法侵入をするは、やりたい放題である。それでも読者が納得できるのは、犯人の残酷さが尋常ではないから。犯人追跡ミステリーは、犯人のあくどさが際立つほど面白くなるという法則通りの作品である。社会派ミステリーではあるが、これまで好評を博してきた北欧警察小説とは若干異なる毛色の作品であり、どちらかと言えばアメリカの刑事物に近い。 アクション系ミステリー、スーパーヒーロー系の警察小説ファンにオススメだ。 |
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1891年から1936年までにアメリカ、イギリスで起きた若い女性が被害者となった殺人事件をテーマに、1949年に刊行された犯罪実話集。事実に基づいて、警察の捜査をベースに事件の詳細を冷静に淡々と綴っていく、犯罪ノンフィクションの一スタイルを確立した記念碑的な一冊である。
取り上げられた事件の様相はそれぞれだが、すべて事件の発覚から裁判までをシンプルに追いかけており、被害者・加害者・捜査官などの心理描写は徹底的に排除されている。それが逆に犯罪の卑劣さと被害者の無念を表わしていると言える。一世紀以上昔の話ではあるが、実話ならではの強さがあり、犯罪に使用される道具や社会背景は違っても犯罪のパターンはさほど変化するものではないと思わせる。 犯罪実話、ノワール小説がお好きな方にはオススメだ。 |
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ロス・マクを代表する「リュー・アーチャー」シリーズの第一作。1949年の作品だが、田口俊樹氏の新訳が少しも古さを感じさせない正統派のハードボイルド作品である。
石油業界の富豪夫人から「消えた夫を捜して欲しい」と依頼されたリュー・アーチャー。大邸宅に行くと、事故で車椅子生活になった若妻、気性が激しい娘、戦争の英雄で富豪のお抱えのパイロット、元検事で娘に恋している弁護士などが複雑な家庭環境を作り出していた。そこに「商売上必要だから10万ドルを用意しろ」という、富豪の自筆の手紙が届いたが、家族はあり得ない話だと断言した。果たして、富豪は誘拐されたのか? 調査を進めるアーチャーの前に現われるのは、往年の映画女優、怪しげな宗教家、バーの経営者など、謎の多い人物ばかり。さらに、身代金10万ドルを要求する脅迫状が届き、その受け渡しをきっかけに殺人事件が相次ぐのだった・・・。 初登場のリュー・アーチャーは35歳という設定で、シリーズの後半の作品とは異なりアクション派の私立探偵である。何人もの死者が出るストーリー展開も派手で、全体的に若々しくてスピーディーな作品と言える。 後年の大傑作と比べるとやや軽くて荒削りではあるが、記念碑的作品として、シリーズ読者には必読。正統派ハードボイルドファンなら、どなたにもオススメできる。 |
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産業スパイ「AN通信」の鷹野一彦シリーズ、三部作の第3作。日本とアジアを舞台にした水戦争を描いた国際謀略アクション作品である。
35歳で退職年齢を迎えようとしている主人公・鷹野一彦と部下の田岡たちが挑むのは、日本のみならず、中央アジアの水道事業の民営化を巡る巨大な利権争いである。登場する人物すべてが欲望を隠さず、誰が悪人で誰が正義の味方なのかは判別不能。非情な策謀と陰謀にまみれたコンゲームとアクションが繰り返される。そんな中に、世の中から取り残された子供たちのサバイバルや友情、情愛などが効果的にちりばめられている。 政治的なメッセージを持つ社会派小説とも読めるのだが、それ以前に娯楽アクション小説として楽しめる作品である。日本人作家のこのジャンルの作品としては、かなり上質。幅広いアクション小説ファンにオススメできる。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。行方不明の少女への成り済ましが成功するのか否か、スリリングな心理劇が展開される静かなサスペンスドラマである。
家出して切羽詰まった末の窃盗で捕まった窮地から、11年間も行方不明になっていた少女レベッカに成り済まして逃げようとした「私」。レベッカの両親は喜んで迎え入れてくれたのだが、行方不明事件を担当した刑事からは疑惑の目を向けられ、事件当時の記憶を思い出すように執拗に迫られる。さらに、双子の弟たちや再会した無二の親友にもバレないように、神経をすり減らして暮らしながら「私」は、レベッカになりきるために失踪の秘密を探り出そうとする。そこで見えてきたのは、青春を謳歌していたはずのレベッカにまとわりついていた暗い悪意の影だった・・・。 16歳のレベッカの章と成り済ました「私」の章が交互に展開され、レベッカ失踪の謎がじわじわと明らかにされていく過程は、事件自体に凄惨さが無いので「サイコスリラー」とは言えないが、スリリングではある。欲を言えば、事件全体の構図にもうひとひねり欲しいのだが、最後まで読ませる力は持っている作品である。 サイコミステリーファンより、人間関係ミステリー好きの方にオススメする。 |
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アイスランド発の人気シリーズ「ダーク・アイスランド」シリーズの第5作。日本語版では、前作「雪盲」に続く第2弾である。
前作同様、舞台は人口1300人足らずの地方都市(警察の人員は全部で2名!)で、主人公アリ=ソウルの上司である署長が射殺されるという大事件が勃発する。現場は町外れの空家で、ドラッグの取引に使われているという噂があった。警官殺害という大事件だけに、事件捜査には首都から昔(アリ=ソウルが新米として赴任時)の署長だったトーマスが派遣されてきて、アリ=ソウルと昔懐かしいコンビで担当することになった。閉ざされた小さな社会で容疑者は限られているはずなのに、事件の様相は一向にはっきりせず、しかも関係者に様々な不審な出来事が起きたり、誰もが正直に話しているようには見えなかったりして、捜査は難航するばかりだった。 物語の基本は、誰が署長を殺したかという古典的な謎解きミステリーである。その途中に謎の人物の告白が挿入され、全体像が見えないままストーリーが引っ張られて行く。最終的には、合理的な解決に至るし、伏線や謎解きの鍵もきちんと提示されていて、まさに正統派ミステリーと言える。ただ、事件の背景や登場人物の心理描写などがあっさりし過ぎていて、読み応えがない。 北欧の警察ミステリーとしてはちょっと物足りないが、謎解きミステリーとしてはそれなりのレベルの作品である。 |
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シカゴの女性私立探偵V.I.ウォーショースキーシリーズの第18作。今回はホームであるシカゴを離れ、カンザスの田舎町で巨大な陰謀に立ち向かう、スケールの大きな社会派ミステリーである。
「カナダの小さな火山」ことバーニーが大学の友人・アンジェラと一緒にヴィクを訪ねてきた。アンジェラのいとこの黒人青年オーガストが勤務先のジムで窃盗を働いた疑いをかけられ、行方不明になったので探して欲しいと言う。若くて無遠慮な二人に押され、しぶしぶ捜査を始めたヴィクは、オーガストの自宅と勤務先が何者かに家捜しされていたことを知り、さらにオーガストは映画監督をめざしており、黒人女優エメラルドに誘われて彼女のドキュメンタリー映画を取るためにエメラルドの故郷であるカンザス州に出かけたことをつかんだ。エメラルドの身の回りの世話をしている人物からも二人のゆくえを探すように依頼され、ヴィクは愛犬ベビーだけを連れて単身でカンザス州に乗り込んだ。エメラルドの故郷はかつて核ミサイル基地が建設され、それに対する抗議行動があった街だった。聞き込みをはじめたヴィクはすぐに地元の捜査機関や米軍から監視されるようになり、何かの陰謀が隠されていることに気づき始め、しかも、ミサイルサイロ近くの農場で女性の腐乱死体を発見したことから、さらなる混乱に巻き込まれて行った・・・。 思わぬカタチで国家的な陰謀に巻き込まれたヴィクが孤軍奮闘するという、派手な物語。事件の背景に冷戦時代の軍事機密、人種間対立、親子の葛藤など盛りだくさんの要素が含まれ、さらに30年以上前の出来事も絡んで来るので、かなり複雑な展開になっており、いつものスカッとする読後感ではない。 これまでの作品とはちょっと趣きがちがうのは、レギュラー陣がほんの少ししか登場しないこともあるのだろう。 シリーズ読者には新しいヴィクの世界が楽しめるし、本作が初めてのヴィクという読者にも十分に楽しめる作品である。 |
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同じ雑誌に不定期に掲載された6本を集めた短編作品集。主人公が重なる作品が2本あるが、その他は北海道を舞台にしている以外の共通点はない。
どれも作者が得意とする、社会的に不器用で生きづらさを抱えた女性(2本は男性が主人公だが)たちのロードノベルである。 人生に疑問を持ったとき、生きづらさを感じたときに先入観なく読むことをオススメする。 |
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2001年に刊行された連作短編集。1980年代に上京、青春を過ごした一人のコピーライターの挫折と成長を描いたユーモラスな青春小説である。
大学受験に失敗し、1浪するために上京し、大学では演劇部に所属、途中退学して飛び込んだ広告業界で駆け出しコピーライターとしてスタートし、バブルの波に乗って独立し、自分では成功したと考えている若者が、青春が終わり大人の人生が始まることを予感するまでのバカバカしく、ほろ苦い物語。80年代の社会風俗をふんだんに交えながらダイナミックに描いている。 意欲だけは人一倍ながら実態が伴わず、日々の様々な出来事に一喜一憂し、それでも都会を生き抜いてきたすべての上京青年に贈るエールのような作品集である。 50代以上の方にオススメだ。 |
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イギリスの新人作家のデビュー作。サービス精神にあふれた、娯楽ミステリーである。
ロンドン警視庁殺人課の部長刑事ウルフが電話で行くように指示された殺人現場は、ウルフの自宅の真向かいのアパートだった。そこにあった死体は、それぞれ別人から取った頭、胴体、両腕、両足が縫い合わされているというグロテスクなものだった。しかも、頭は4年前にウルフと因縁浅からぬ経緯があった服役中の連続殺人犯ハリドのものであり、右腕の指はウルフの自宅を指し示していた。さらに、ウルフの元妻でテレビレポーターのアンドレアのもとに6人の名前を記した実行日の日付入りの殺人予告リストが届けられ、その6番目にはウルフの名前が書かれていた。ウルフを中心に警察は厳重な警戒態勢を取るのだが、リストの一番目に書かれていたロンドン市長が、予告通りの日に殺害されてしまった。無様な事態に焦った警察上層部は、ウルフを外して捜査を続けようとするのだが、事件に執着するウルフは納得せず、一人で暴走してしまう・・・。 とにかく派手な仕掛けで読者の度肝を抜き、性格破綻者気味の主人公と一癖も二癖もある周辺人物とがぶつかり合い、ストーリーは波乱万丈。シリアルキラーものでは珍しく、犯人視点での部分がまったくないにも関わらずスリリングである。犯行動機、事件の背景などに若干の不満はあるものの、スピード感、キャラクターの立ち具合などが、その欠点を補っている。 連続殺人ものだが恐怖感を煽るようなところがないので、娯楽性の強い犯罪ミステリー、警察小説ファンにオススメだ。 |
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リュウ・アーチャー・シリーズの第12作で、ミステリーベスト100などの企画では必ず上位にランクされる、ロス・マクドナルドの代表作。1963年の作品ながら、今でも十分に読み応えがある傑作である。
裁判所でアーチャーに話しかけてきた青年・アレックスは新婚旅行の初日に失踪してしまった新妻ドリーを探して欲しいと言う。アレックスを気の毒に思ったアーチャーは調査を開始し、ドリーを見つけたのだが、ドリーは夫の元に戻るのを拒否した。しかもドリーがアレックスに語っていた身の上話はほとんど嘘だったことが明らかになる。さらに、アーチャーが次に目にしたのは、殺人現場に遭遇して半狂乱になったドリーの姿だった。そして、殺されていたのは、その日アーチャーがドリーが通う大学で会った女性教授だった。謎の多いドリーとその周辺の人物たちを探って行くと、どうやら事件は過去の殺人事件とつながっているようだった・・・。 現在の事件と過去の事件を行き来しながら真相が明らかになるというのは、ありがちな構成だが、謎解きがしっかりしているのでミステリーとしてもレベルが高い作品である。が、それ以上に、ハードボイルドとしての完成度がきわめて高い。なんと言っても、主人公アーチャーが自分の私生活をほとんど見せず、語らず、徹底して透明なのが素晴らしい。さらに、人間の愚かさや哀しさを見てもしたり顔で説教しないところがいい。まさに、チャンドラーとは異なる、ハードボイルドの一頂点を極めた作品と言える。 すべてのハードボイルドファンにオススメする。 |
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北欧ミステリーの巨匠ジョー・ネスボの代表作「ハリー・ホーレ」シリーズの第6作。「顔のない殺し屋」との間で緊迫感あふれる追跡劇が繰り広げられる、スリリングなサスペンスミステリーである。
クリスマスを迎えようとするオスロの繁華街で街頭コンサートを開いていた救世軍のメンバーが射殺された。大勢の目撃者がいたはずなのに犯人につながる情報が全く得られず、犯行動機も皆目、見当がつかなかった。一方、すばやく国外に脱出しようとした犯人だったが、大雪のため足止めされ、しかも、翌日の新聞で自分が殺したのが別人であることを知り、本来の目的を果たすために、再び暗殺を実行しようとする。 物語はハリーを中心にした警察の捜査、暗殺犯の孤独な戦い、被害者を巡る人間関係という、大きく三つのストーリーが並行し、絡み合いながらスピーディに展開する。犯行動機や犯人像に関わる謎解きと、警察官、暗殺者、宗教者それぞれが抱えている社会的な問題が重なり合い、単なる警察小説では終わらない深みが加わっている。さらに、最後の真相解明も衝撃的で、まさに解説者が書いている通り「マイクル・コナリーのハリー・ボッシュシリーズを思い出させる、高レベルな謎解きとハードボイルドの融合作である。 シリーズ読者にはもちろん、北欧ミステリーファン、ハードボイルドファンにオススメだ。 |
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イギリスの女性作家のデビュー作。スティーブン・キングの「スタンド・バイ・ミー」のほろ苦さを持つミステリーである。
1986年、イギリス南部の田舎町に暮らす12歳の少年エディは、4人の仲間たちと森で遊んでいて少女のバラバラ死体を発見する。被害者の少女は、夏休みに移動遊園地で事故にあったときにエディが助けた美少女だった。そのときエディと一緒に助けたのは、新任教師のハローラン先生だった。アルビノで白墨のように真っ白なハローラン先生に教わってエディたちは、白墨人形の絵を使った秘密の伝言ごっこに興じていた。 遊園地での事故から少女の殺害までの間に町では、中絶手術を行うエディの母の診療所に対する反対運動が起き、仲間のひとりの兄が川で溺死し、警官の娘の妊娠騒ぎがあり、大人の社会が反目と対立を深めるに連れて、仲が良かった5人の間にも亀裂が入り、いつしかバラバラになって少年時代が終わってしまった。 それから30年後の2016年、地元の町で教師になっていたエディの元に白墨人形の絵とチョークが送られてきたことから、エディは少女殺害事件の真相を探り始めることになった。 1986年と2016年を行き来しながら薄皮をはぐように事件の真相が明らかにされて行くのだが、シーンが変わるたびに新たな発見があり、関係者の隠したい、忘れたい過去を突きつけてくる残酷さに、読者は戦慄する。そして最後の最後、読者は思いがけない衝撃に襲われることになる。 スティーブン・キング読者にはもちろん、ホラー要素が少ないので広く一般のミステリーファンにもオススメできる、良質なエンターテイメント作品である。 |
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北海道を舞台にした6作品の連作短編集である。作品ごとに中心人物が異なるが、全体として大きな1本のストーリーとなっている。
いつも通り、訳ありの男女が様々な喜びと悲しみのドラマを綴って行くのだが、本作品は最後がハッピーエンドになっていて驚かされた。 文庫の解説で北上次郎氏が書いているように、「いい小説だ。静かで、力強い小説だ」。読者の立場によって様々に読み込むことができる、奥の深い連作小説である。 |
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スウェーデンを代表する警察小説ヴァランダー・シリーズの9作目。「殺人者の顔」でデビューする前のヴァランダーの警察生活を描いた3本の短編と2本の中編で構成された作品集である。
マルメ署の22歳の新米警察官としてパトロールやデモ警備にいそしむ「ナイフの一突き」から、イースタ署のリーダーとしておなじみのメンバーと活躍する「ピラミッド」まで、年代順にヴァランダーの成長(?)の跡をたどっている。つまり、意固地で頑迷なヴァランダー警部というキャラクターがどうやって形成されたのかに、本書の主眼が置かれている。従って、犯罪の動機、犯人探しなどの警察小説部分より、家族、特に父親や妻(恋人から元妻まで)、娘、あるいは同僚たちとの関わりの方が読みどころとなっている。 シリーズファンには必読。北欧ミステリーファンにもオススメだ。 |
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ホームドラマ風ミステリーと野球小説で独自の世界を築いている著者の野球をテーマにした書き下ろし作品。野球への愛と夢を諦めない人たちへのエールが詰まったハートウォーミングなエンターテイメント作品である。
かつて「天才少女投手」と言われたこともあった実咲だが、27歳になった今は会社が潰れて宿無しになり、転がり込んだ友だちのところからも追い出される散々な状況に陥っていた。そんな中、ふと立ち寄った女子プロ野球観戦がきっかけとなり、アラ還、アラ古希大歓迎という女子野球チーム「あかつき球団事務所」に居候させてもらうことになった。宿代代わりに練習を手伝うことになった実咲だが、ぎりぎり9人しかいないメンバーのほとんどが野球初心者というチーム事情にほとほと呆れ、出来るだけ早く辞めようと思っていた。しかし、様々事情から辞められずメンバーたちと付合ううちに、何かが刺激された気がしてきた・・・。 何かに必死で挑戦する姿を見て、自分も諦めた夢に再挑戦するという、ありがちなストーリーではあるが、50代以上の女子だけのアマチュア野球チームという舞台設定が成功して、どんどん感情移入して行き、最後には爽やかな読後感が得られる作品になっている。 野球好きの方、夢の力を信じたい方にはオススメだ。 |
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イギリスの児童文学者の本邦初訳作品。ファンタジー作品であり、少女の成長物語であり、事件の謎を解くミステリー作品でもある。
ダーウィンの進化論が衝撃を与えた19世紀後半のイギリスで、著名な博物学者であるサンダリー師は化石のねつ造スキャンダルによって本土を追われ、小さな島に一家で移住する。だが、そこでもスキャンダルは広まり苦境に陥る中、サンダリー師が死体で発見された。自殺と思われたのだが、父を敬愛する14歳の娘・フェイスは疑問を抱き、一人で真相を解明しようと決心する。父が隠していた「嘘を養分として成長し、その実を食べると真実が見える」という不思議な木を発見したフェイスは、その木の力を借りて父の死の謎を解いていく・・・。 まあ、ありえない設定が気に入るかどうかで作品の評価が決まって来るのだが、ミステリーというより、少女の成長物語として読めば、それなりの面白さがある。ファンタジー系の作品が好きな方にはオススメできる。 |
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ドイツでは人気が高いのサイコミステリー作家の2014年の作品。ミステリー評論家の評価が高く、「サイコ」を抜いたミステリーとの評価を目にしたのだが、立派にサイコなミステリーである。
ドイツ警察の囮捜査官・マルティンは、5年前に妻と息子が姿を消した(自殺したとされた)豪華客船「海のスルタン」号の乗客である老女から「息子のテディベアが見つかった」という奇妙な電話を受けた。しかも、テディベアは2か月前に船内で行方不明になっていて、突如として姿を現した少女が持っていたという。仕事を放り出して船に乗り込んだマルティンだが、テディベアの謎を解くことはできず、さらに別の事件に巻き込まれてしまった。巨大な客船には深い闇があり、マルティンは踏み込めば踏み込むほど迷路にはまってしまうのだった・・・。 客船という閉鎖空間での事件、過去の事件と現在の事件の奇妙なつながり、誰もが何かを隠しているような登場人物など、サスペンスミステリーの基本的な要素がたっぷり詰め込まれている。また、人物のキャラクター設定も明確で理解しやすい(訳者が上手だということだろう)。それでも読後感がイマイチだったのは、犯行動機、捜査手順などにリアリティが欠けているから。結末部分でのどんでん返しも、ご都合主義に過ぎる気がした。 サイコミステリーファンにはオススメできる。 |
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