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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数62

全62件 41~60 3/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.22: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

下町ロケットの感想

ミステリではないので、ここでレビューを書くのはどうかと思いますが皆さんが書かれていますので私も書かせて貰います。
経済小説のようなストーリーに勧善懲悪のスタイルとサクセスストーリーの彩りを添えた物語です。読者のツボを得た書き方で
いろいろなアクシデントを乗り越えていく主人公とその会社の仲間たちの様子がテンポよく書かれていて気を抜くところがありません。そのため読み始めてからページをめくる手が止まらず一気に最後まで読んでしまいました。評判のわけが解ります。ただ、ひとつ残念なのは人物の描写が浅いことです。主人公の佃にしても、背が高いのか低いのか、太っているのか痩せているのか、眼鏡をかけているのかそうでないのか、髪は長いのか短いのか、そんなところがひとつも書かれていません。そのためいまひとつイメージが湧かなくてモヤっとした感じです。でも久しぶりに一気に本を読み終えるという楽しい時間を与えてくれました。
素晴らしい本であることは間違いありません。小が大を喰う痛快さは云ってみれば王道で誰の胸にも響く物語ですが著者は淡々と描いていてそこが良いところだと思います。最後のページでは涙がポロリとなりました。

下町ロケット (小学館文庫)
池井戸潤下町ロケット についてのレビュー

No.21:

冷血(上)

冷血

高村薫

No.21: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

冷血の感想

始めに、まだ上巻しか読んでいません。でもこの上巻もほぼ一日で読み終えました。久しぶりに興奮しながら本を読み進むという時間を堪能しました。文章が凄いなぁというのが素直な感想です。言葉がひとつひとつうごめき波となってこちらの意識の中に入ってきます。形容する言葉、表わす言葉、表現することを生業とする人が持つ資質が炸裂している文です。云っちゃあ悪いですが凡庸なミステリしか書けない作家には逆立ちしたって書けない文章でしよう。
高梨あゆみの目を通して描かれる高梨家の日常と家族の様子とその小宇宙。そしてケータイの求人サイトで繋がったトダヨシオとイノウエカツミ。ふたりの行き当たりばったりの行動。16号線を行きつ戻りつ郵便局のATMを襲い、コンビニを襲い
6、7万の金を奪ってクルマを代え16号線を流れて北区赤羽にやってくる。マンモス団地の先に一戸建ての並ぶなかにある歯医者の家に目をつける二人。ここまでの第一章だけでも読み応えがありページを捲る手が止まらなかった。
そして、第二章は一転して警察側からの描写になる。事件の発見から警察組織の人的内容とその動きが綿密に描かれている。縦社会の人事的な動き、実際の捜査のあり方の様子が緻密に書き込まれているかのようにリアルで目を見張る描写です。どれほどの資料を用意したのかと思うほど警察内部の動きがとてもリアルに描かれていて驚嘆します。カポーティの冷血と同じタイトルをもってきた作者の意気込みとかエネルギーとかがストレートに読んでいるこちらに伝わります。
ノンフィクション的な小説と云うのでしょうか。早く下巻も読まなければ、と思うのが正直な感想です。
冷血(上)
高村薫冷血 についてのレビュー
No.20: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

愚者のエンドロールの感想

始めに、9ポイントとしたのは純粋に私の好み故の評価です。他の作品を読んでいるかどうか、と云った部分を抜きにしても面白いと思います。あとがきにもあるように、バークリーの「毒入りチョコレート事件」の本歌取りとして書かれたところもあるようですが、これはこれで成功しているように思います。入須先輩とホータローとの静かな対決といったシーンなどは面白く感じました。ホータローの覚醒か、内なる自分の解放といったニュアンスで自己に目覚める様子が名探偵誕生のシーンに見えました。結果ひとつの答えを出すわけですが、それにはホロ苦さが付いており一時気を落とす場面もあります。しかし、ホータローです。少しのきっかけで真相に気付きました。十人十色の見方で推理が生まれ、たった一つの真実に到達できるのは、やはり技術=能力ということなんでしよう。こういった芯の部分を抜きにしても登場人物の多様さ面白さは群を抜いており、初野晴のハルチカシリーズとこの二つがこういった青春ミステリのジャンルでは依り高いところに位置する作品と思います。読んでいると高校一年にしては老成した言葉や思考だなと苦笑します。他の登場人物にしても熟成した大人のようなもの言いと態度をみせますがまぁ良いでしょう。里志、ホータロー、伊原摩耶花、千反田える。この四人がこのままの関係で何年かが過ぎ、大人になったホータローが不思議な事件に「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」と解決に手を染める、そんな物語を読んで見たいと思うのは私だけでしょうか。
愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)
米澤穂信愚者のエンドロール についてのレビュー
No.19: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

プレーグ・コートの殺人(黒死荘の殺人)の感想

先に読んだ「火刑法廷」は多分にオカルト趣味的なホラー要素のあるストーリーで、あまり面白さは感じなかったが、この「黒死荘の殺人」は純粋な謎解きを楽しむミステリとして面白く読み終えた。H・Mの登場する第一作であるが、勝手気ままな性格でマイクロフトとあだ名で呼ばれるのを大いに憤慨していた、とある。マイクロフトとは例のシャーロック・ホームズの兄の名前からとられたもので、そんなエピソードがあるがこのヘンリ・メリヴェール卿の推理力は並ではない。
事件解決の後の推理を披露するところは読み応えがある。この犯人の隠し方は良く出来ていてなかなか見破るのは難しいと思う。トリック、意外な犯人、その隠し方、これはカーター・ディクスン名義のなかでも上位に選ばれる作品と納得する。カーの密室ものとしても楽しむことができる一冊で、ミステリ小説の面白さを満喫できた。
黒死荘の殺人 (創元推理文庫)
No.18: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

密室殺人ゲーム王手飛車取りの感想

ミステリーとは?に作者が示した答えがこの本であると思います。これはミステリ作家とミステリ愛読者との「楽しい遊びの場」であると言えます。究極の世界を設定しその世界でミステリのアイテム、ミステリのスタイル、トリックのパターンを惜しげもなく使用した「高等問題」を読者に示し、回答を読者がどの様にして導き出すか作者はニヤニヤと見ています。そう、あの綾辻行人の「どんどん橋、落ちた」とは究極の対比として見られます。もちろんその世界の住人が大前提でしよう。
仮に「ハーレクイン・ロマンス」の愛読者がこの本を手にしたとしたら、ありえない設定。非常識。キモい。バカバカしい。非人道的。などの意見が多く寄せられるでしょう。それがつまり他の世界の住人である証です。非常に高度な「問い=答え」あなたはいくつ答えを出すことが出来ましたか?ハンドル・ネームひとつにしても凝っています。作者の徹底した遊び心とミステリを愛するハートに触れてこの本を楽しむべきであると言えます。言わずもがなですが物語の最後にはキチンと登場人物にはケジメをつけたフィナーレが用意してあります。それが世に言う良識というもので、作者はキチンと配慮しています。凝りに凝ったスタイルのこの本。作者に拍手で応えるべきでしょう。
密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)
歌野晶午密室殺人ゲーム王手飛車取り についてのレビュー
No.17: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

水族館の殺人の感想

前作の「体育館の殺人」に続く裏染天馬が推理の冴えを見せるシリーズ二作目。読んでいて思ったのがこの作品の世界は完全に出来上がっていること。登場人物たちのそれぞれの役割とかキャラクター設定が出来上がっているので、彼らが物語を動かしていくのにうまく機能している。刑事が高校生に捜査に詰まったからといって協力を仰ぐなんてそんなバカな、なんてつまらない野暮な突っ込みは止めましょう。そんなところにも利害関係をちゃんと用意して天馬の隠された素性が少しずつ明かされていく計算を作者はしています。平成のエラリー・クイーンと評する裏表紙のとうり、論理の積み重ねにより表面には見えない事実を読み取っていく彼天馬の推理は圧倒的に凄く、物事の真理を突き詰めた人の心理面までをも鋭く見抜く天馬の推理力。何故それがそこにあるのか?黄色いモップと青いバケツ。事件を解決するのは結局その黄色いモップと青いバケツでした。論理的展開の圧倒的な面白さ。ミステリーの醍醐味がここにあります。この作者、只者ではない。
水族館の殺人 (創元推理文庫)
青崎有吾水族館の殺人 についてのレビュー
No.16: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

天外消失の感想

電話ボックスに入った人物が忽然と消えた。これを理路整然と解明し説明する奇術師探偵マニーリー。素直に感心し納得するだけの私。この一篇だけでも読む意義がある。その他にも今読んでも充分楽しめる作品が収められたこのアンソロジー。
珠玉の一冊として大事に残したい本である。ミステリの醍醐味が凝縮された短編ばかりが集められている。ゆっくりとした時間の時に珈琲を片手に味わってみるのも良いでしょう。
天外消失 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1819)
クレイトン・ロースン天外消失 についてのレビュー
No.15: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
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ロートレック荘事件の感想

ミステリ作家でない人の作品で楽しめたのは、この「ロートレック荘事件」と坂口安吾の「不連続殺人事件」ぐらいかな。専門家以外の人のアイデアがとても秀逸というのも皮肉なことだけれど、これは普通に騙されるよね。山荘に着く10ページまでの会話を読むと何の違和感もないし。ただ、閉鎖空間であり部外者を除外されるとなると動機さえ読めればおのずと犯人は限定される。そんな単純な事件ではあるが、そうはならないのが仕掛けと証言者の存在と記述の妙であるわけで、
今読んでもうーんと納得しながら唸ってしまう上手さがある。ひとつのネタのパイオニアとすれば古典として語り継がれる栄誉は当然であり、時を経ても読まれ続けられるのもしごく自然なことである。未読の人はぜひ読んでみるべき一冊と云えます。
ロートレック荘事件 (新潮文庫)
筒井康隆ロートレック荘事件 についてのレビュー
No.14: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

クロイドン発12時30分の感想

じっくりと彼、チャールズが犯行に至る動機や方法を模索する様子を描き、死体が発見されたあとも尚彼の視点で捜査を見守る彼の心の内の恐れや、あるいは楽観的な気分になる心情などきめ細かく描写してある。
ロンドン警視庁のフレンチ警部も登場するが、最後の最後に関係者が集まった席で彼に注目した理由や第二の事件が起きた背景、そして論理的にかれの犯行のすべてを暴き出していく過程を披露するに留まっている。
とにかく1934年の作品とは思えないきっちりとした内容で、法廷のシーンなども検事側と弁護側の論理的な傍証の検証を繰り広げる様は読み応えがある。思わず無罪を勝ち取り真犯人は別に居るのか?などと思ってしまった。犯人にとって捜査圏外に居ようとする思惑、行動が捜査側から見れば逆に注目する理由になるという皮肉な現象も確かにそのとうりで、このあたりもキッチリと書き込んでいるクロフツの筆の確かさに感動すら覚える。倒叙小説の古典的名作は今読んでも本当に読み応えのある一冊であった。
クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫)
F.W.クロフツクロイドン発12時30分 についてのレビュー
No.13: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

夏服パースペクティヴの感想

前作に続いての樋口真由が探偵となり推理の冴えを見せるストーリー。本を手にとってちょっと驚いた。思いのほか厚い。二作目だから、それ程こねくり回したストーリーの物ではなくて、軽めの謎を用意した中篇を何となく想像していた。しかし、思っていた物とはまるで違っていた。けっこう本格で作者のリキが入っているのがヒシヒシと伝わる。映像製作について詳しい様子だけれど、そういったスキルが有る人なのか。好ましいのは「セリフ」のやり取り。こういったセンスは好きだ。波長が合うと云うか読んでいて楽しい。結局、寸断された場所を舞台にした犯人さがしとなるストーリーで、真由と渉と秋帆との関係も可笑しくて気を揉ませて、この後どうなっていくのだろうと期待させる。次があるならぜひ読みたい、そう思う内容で楽しめました。結局、樋口真由。このキャラクターがすべて。

夏服パースペクティヴ (角川文庫)
長沢樹夏服パースペクティヴ についてのレビュー
No.12: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

肖像画(ポートレイト)の感想

物語が始まって262ページに読者への挑戦状がある。そして、謎解き篇が終わるのが344ページ。つまり82ページを費やして謎解きをする複雑怪奇な事件と云える。とてもじゃないが見抜けなかった。緻密なプロットと伏線のさりげなさで真相に目が向かず迷いに迷った。依井貴弘 いい・きゅう とも読ませたいらしい。E・Qつまりエラリー・クイーンに通じるしゃれのようである。本格ファンにはおススメの一冊です。ぜひ貴方も挑戦してみてください。本の中の名探偵に勝てるかどうか・・・。
肖像画(ポートレイト) (創元クライム・クラブ)
依井貴裕肖像画(ポートレイト) についてのレビュー
No.11: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

夜想曲(ノクターン)の感想

初めて読む作家。とあるところでこの本の存在を知った。面白そうな予感がした。その感は確かだった。
純粋な謎解き小説だ。読み終えた今、これに類似したトリックのものを過去に読んだことがあるかどうか考えたが思い至らない。論証で犯人を指摘する、その論証で偽の犯人も真犯人も指摘できるとは驚いた。ただ、個人的には最後の最後でアノことが出てきたのには少し残念に思う。だけどそれも伏線はちゃんとあり納得させられる。それがこの作品を低くみせるとかそんなことは一切無い。パズルが好き。本格が好きと云う人はぜひ読んでみて欲しい。山荘で起きる連続殺人。手垢のついたシチュエーションもこんなやり方があったとは。
作者に拍手と脱帽です。そう、「星降り山荘の殺人」以来の感動です。
追記 私の好きな作家である泡坂 妻夫の弟子とか、これだけでも嬉しい。
夜想曲(ノクターン) (角川文庫)
依井貴裕夜想曲(ノクターン) についてのレビュー
No.10: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

シンプル・プランの感想

ホンのちょっとした心の歪み、わずかな隙間に浮かんだ邪な思い。そのために平凡な人間が、平凡な日常が少しずつ狂いだしていく。誰でも考えるであろう自己弁護的な都合の良い安直な考え。まるでそれがもっとも自然であるかのような錯覚。大丈夫うまくいくさと自分自身を納得させる根拠のない自信。こうしてハンク・ミッチェルは後戻りの出来ない深みにはまり込んでいく。静かで怖いストーリー。海外小説と意識しない訳の良さもあってスタートから物語の世界にスッポリと入り込んでいく。いったい誰がこの件の主役なのか?サラか?ジェイコブなのか?ルーなのか?ズルズルと事態が悪くなっていくのはいったい誰の所為なのか。人間の欲望が本性が周囲の関係を壊していく。誰も知らない440万ドル。悪人になろうと思って悪事を働くものはいない・・・。そう、ハンク・ミッチェルは善良で平凡な男だったのだ・・・その日まで。
シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)
スコット・スミスシンプル・プラン についてのレビュー
No.9: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

百万ドルをとり返せ!の感想

コン・ゲーム小説の傑作と評価の高い本作。それはつまり、ただ単に相手を騙して金を巻き上げる内容に終始していないからでは無いだろうか。舞台も歴史あるホテルやウィンブルドンのテニス試合、モンテ・カルロのカジノ、アスコットにある競馬場でのクイーン・エリザベス・ステークスのレース、オクスフォード大学等を背景にした彼らのプランが遂行される。騙された四人が組んで百万ドルを取り返すわけだが、一ペニーも多くなく、一ペニーも少なくなくを合言葉にそれぞれが計画を持ちより実行する。ワンダウン残りは三つ、ツーダウン、残りは二つ、スリーダウン最後は・・・。この最後がとても愉快で洒落たオチと相まってこの本が愛されている理由が解かる。サクセス・ストーリーを絡めたポーランド人の移民の子に生まれたハーヴェイ・デーヴィッド・メトカーフ。彼のプロスペクタ・オイル社の株に関して巧妙な手口で人々を騙して結果四人を破滅の危機に陥らせる。大学教授、医者、画商、貴族らが専門を生かしたプランでメトカーフを騙す訳だが、汚い引っ掛けではなく相手が喜んで満足のうちに金を出すようなプランであるところがこのストーリーのミソでもある。だから読んでいても楽しく笑いも生まれる。カラスの親指も確かに面白い。だが、これを読まずしてコン・ゲーム小説は語れない。
百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)
No.8: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ジェノサイドの感想

凄いですね。何かハリウッド映画的なストーリーと展開で、ほとんど一気読みのような感じで読み終えました。この作家はこんなものも書けるのかと云うのが素直な感想です。フィクションとこれまでの人類の歴史を上手く混ぜ合わせた独特の世界で、常に緊張を用意した傭兵と若い研究者のストーリーを交互に見せて、テンポ良く進む波乱に満ちた物語。新種の生物とは?死んだ父からの謎のメールの意味は?リアルな関係者の言動。世界のリーダーと思い上がった某大国の政治的陰謀。等など資料を駆使した圧倒的なスケールで読ませます。偏っているとも取れる内容ですが、間違ってはいません。人類はまだ完成型では無いってことです。淘汰されるのは自然の掟です。今日と云う日を最大限に生きようと思いました。
ジェノサイド
高野和明ジェノサイド についてのレビュー
No.7: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

黒百合の感想

父の親友の別荘がある六甲に遊びに来た少年のひと夏の想い出。文芸作品のような上質な文章で綴られた親友と一人の少女との交流。微笑ましく懐かしさも感じる二人の少年とひとりの少女との夏の日の物語。夏休みの中のゆっくりと過ぎていく時間を追って、父とその父の親友がまだ若く独身でいた頃の出来事やエピソードが抽入されていく。日本が戦争前の昭和10年、父とその親友がドイツにて出会った不可思議な女性。そして、日本の戦時下のころ起きたひとつの殺人事件。これらが三人の楽しく甘酸っぱい感情を育んだ夏休みが終わりを告げて、少年が六甲を去るときに全てが繫がって真相が読者に示される。ミスディレクションのさりげなさ。最後のページでの衝撃。初恋の女性を思い出しながら読むとぐっと心に沁みます。
黒百合 (創元推理文庫)
多島斗志之黒百合 についてのレビュー
No.6: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

僧正殺人事件の感想

ヴァン・ダインの本作はファイロ・ヴァンスのシリーズ四作目として1929年の春脱稿された。この本についてはいろんな賞賛があるが、どれもがそのとうりと認められる。ミステリーとして計りしえない魅力をもった作品である。歴史的な一冊であることは間違いない。マザー・グースの童謡にならった連続殺人事件。その恐ろしくまた魅力的な犯人。犯行ごとの緻密な見取り図と関係者の動きを時間割にしたリストと綿密なシチュエーション。巧妙な伏線とミスディレクション。どれをとっても素晴らしい。
ペダントリー溢れる数々の引用と言葉。ヴァン・ダインの素顔が見れるその才能。
もし、この文を見ているミステリーに目覚めた若い人は肝に銘じて欲しい。金田一耕介も御手洗潔も亜愛一郎も古書堂の栞子までもすべての主人公がこの後に生み出されていることに。
未読の方は必ず読んでみるべきです。決して後悔はしないでしょう。
僧正殺人事件 (創元推理文庫)
ヴァン・ダイン僧正殺人事件 についてのレビュー
No.5: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

奇面館の殺人の感想

「館」シリーズ第9作目にあたる本作品だが、この「奇面館の殺人」もどこをどうとっても「推理小説」である。ひとつの事実が真実に至る道しるべであると同時に、ミスリードの役目をも併せ持つ非常に手の込んだ内容で、「吹雪の山荘」で起きた殺人事件の犯人を指摘する鹿谷門実の推理には圧倒される。いろいろなファクターがすべて合理的に示される彼の推理。ひとつひとつの事柄が全部意味のある仕掛けであり、真実の絵を完成させるピースであるわけで全く持って感心する以外に無い。ただ一点、読後の印象は少し軽いと云う事。それはオドロオドロした連続殺人ではない所為なのだろうか。ともあれ質を落とすことなく「館」シリーズをここまで書き続けられる綾辻行人氏に拍手を送りたい。読了2013年2月17日。
奇面館の殺人(上) (講談社文庫)
綾辻行人奇面館の殺人 についてのレビュー
No.4: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ユリゴコロの感想

怖いです。あらゆる意味で怖いです。しかし、最後のページを読み終えて涙がジワッとなってこぼれ落ちそうになりました。美紗子と父の旅に出る別れのシーンにはそれまでの様々な事柄がすべて消え去るような、そんな気になる良いラストでした。まるでホラー小説のような内容と展開にページをめくる手が止まりませんでしたが、母の意外な正体というオチも相まってきわどい話しから一転して家族の愛を綴る内容に変化する魔法のような物語とは・・・。主婦、僧侶、会社経営から2004年、50代になってから作家デビューとは沼田まほかる氏とはどの様な人物なのか・・・。しかし、この「ユリゴコロ」にはやられた。まったく脱帽です。私自身はこういった作品にはガツンとくるんです。好みの問題でしょうけど・・・。
偶然見つけた謎めいた手記。その恐ろしい内容。異常な心と行ない。誰が書いたものなのか・・・。母かそれとも父か・・・。亮介の心は乱れ疑心暗鬼に陥り記憶の一部とも合致する部分があり手記を読む手が止まらなくなる・・・。未読の方にはここまでの前知識にとどめて読んでいただきたい。おススメです。
ユリゴコロ (双葉文庫)
沼田まほかるユリゴコロ についてのレビュー
No.3: 10人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ワイルド・ソウルの感想

映画で云えばクライム・アクションと云ったところか。悲惨な棄民の様子が説得力ある描写で語られる、第一章のアマゾンでの暮らしと放浪の様子はページを捲る手が止まらない。「星の流れに」と云う歌があるが、まさに国家によって人生を狂わされた男たち。捨て犬のような生活から身を起こし、勝手の移民仲間の息子たちと日本政府に復讐を企てるストーリー。しかし、あくまでも政府と外務省に過去の過ちを認めさせる言質を取る事が目的であり、誰も傷つけず殺しもしない。綿密な作戦の実行と警察、マスコミとの攻防やニュース・キャスターとの絡みなどが波乱を呼ぶ展開で面白い。それぞれのキャラクターも魅力的に描かれていて入り込みやすい。首都高の疾走シーンなど中々読み応えがある。エピローグも物語の最後を締めくくるにはとても良いと思う。力のこもった作品で初めて読んだ作家だが、このサイトのレビューが読む後押しをしてくれた。その批評は的確だったと思う。読んで損のない一冊だ。
ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)
垣根涼介ワイルド・ソウル についてのレビュー