蜂の巣にキス
評判
蜂の巣にキスの評価:
4.09/5点 レビュー 11件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全8件 1〜8 1/1ページ
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蜂の巣にキスの評価:
4.09/5点 レビュー 11件。 B ランク
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けれども、「蜂の巣にキス」は怖くない。解説で豊崎由美が書くように「これって普通のミステリーじゃん」なのだ。スランプの作家、サミュエル・ベイヤーがかつて子供のころ、若い女性の死体を発見した話をめぐって、調査を開始する。そこで意外なことがわかったり、まきこまれたり、親友に再会したり、とまあそういう話なわけで、おもしろいけど、普通のミステリー。愛読者だと言って主人公に近づいてくるすごく変な女性も出てくるけれど、それほど怖いわけじゃない。蜂の巣というのは、主人公が子供の頃に発見した死体の女性のあだ名なのだけれど、これだってとても不思議な女性として生きていた。でも怖いわけじゃない。スティーヴン・キングがキャロルの作品が好きだっていう話だけれど、そのことに対するキャロルの返事ということもあるのかもしれない。だって、話は「スタンド・バイ・ミー」みたいでしょ。
怖くはないけれども、蜂の巣の死の謎を追いながら、それによってまわりの人間が狙われたり殺されたりと、そんな展開なので、ページをめくる手は止まらない。止まらないけれども、それは本当に、キャロルのエンターテイメントの技術を徹底的に披露してくれている、そういうことかもしれない。主人公はやはり、エンターテイメントの作家であり、メインストリームの文学に対し、コンプレックスを持っているのだから。まあでも、それはキングへのオマージュということと重なりますね。
多分、この小説でグっとくるのは、キャロルが繰り返し描いてきた、親子の愛なんだと思う。この小説には、重要な女性が何人か出てくる。蜂の巣をはじめ、愛読者で謎の女性ヴェロニカなど。でも主人公にとって最も大切なのは、娘のキャサンドラ。別れた三人目の妻とは冷たい関係であるにもかかわらず、娘との絆は強い。自分の仕事や恋愛よりも大切なのだから。でも、その関係がとても強いものであると同時に、変化していくものでもある、そうした移ろいの中に、人間のある種の限界を見て取ろうとする。それが時にひっくり返ってしまうこともある。そもそも、信じていた人間関係が破綻してしまうことこそが、最大の恐怖なのかもしれない。そして、いつもそんな予感がする、それがキャロルの小説の怖さを支えていたのかもしれない。そんなことを思っている。「月の骨」がまさに、生まれてこなかった子供との愛情の物語だった。そして「沈黙のあと」が、どうしようもなく親子関係が破綻してしまう物語だった。だとすれば、主人公のサミュエルと娘のキャサンドラが、むしろ強い絆と、同時にキャサンドラ自身がボーイフレンドをつくり、父親から離れていく、健全な成長にともなった関係の変化が描かれる。親子の愛情は、親にとっては永遠に等しいけれども、子供にとってはそうではない、そうした不対称があるけれども、主人公はそれを受け入れていく。そこには、関係の破綻による恐怖が描かれる余地はなかったのかもしれない、とも思う。その一方で、不幸な親子関係も描かれているし、それもまた、本書のキーポイントにはなっている。
ダークファンタジーを期待すると裏切られるかもしれない(それでも、ヴェロニカ・レイクはそれなりにホラーな存在だけれでも)。けれども、人間関係のある種の不安を描くことにおいては、キャロルらしい作品なのだと思う。ぼくとしては、「月の骨」と並んで、好きな作品、ということになるな。キャロル入門として適切だとはおもわないけれども。