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蝦夷地別件



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蝦夷地別件の評価: 4.20/5点 レビュー 25件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.20pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全25件 1~20 1/2ページ
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No.25:
(5pt)

人間がもっとも恥ずべき差別心が覆い被さる。

圧倒的に筆致に物語の持つ力、ダイナミックさ、その魅力を存分に感じる作品であった。
船戸作品は初めて。かの有名な満洲…を読もうと全巻買って本棚の肥やしに。そんな折に、ふと北海道旅行に行くことが決定。以前から、アイヌの人々が日本人(和人)から受けてきた略奪、陵辱、差別のことはちらっと、教科書に出てくるシャクシャインくらいしか知らなかった。
苛烈を極める差別。それが物語となり、セリフとして人から人から投げつけられる。目を背けたくなる。
1人の人間として一度は読まなくてならないと思う。
また、丁寧に人物の心の動きを追ってるので、コミュ力を付けるのに多少いいのかなとも感じた。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.24:
(4pt)

侵されざるものの物語

本作と小説のジャンルは違うけど、あまりに頭でっかちなSF(SFが頭でっかちではありません)を読んだおかげで疲れてしまったので、ダイナミックな物語を読みたいと考えたら船戸与一を思い出した。
古くは「猛き箱舟」(これは会社のトイレにも持ち込んでむさぼり読んだ)最近では「満州国演義」を読んで、相変わらずの物語の大きさに圧倒されていたが、大海の様な物語世界に自分を浮かべるには、この人の作品だろうと思い、未読だった本書を購入。
物語のテーマは、18世紀の蝦夷で起こった「国後・目梨の乱」の顛末なのですが、史実をベースに様々な人間が織りなす群像劇といったらいいのかな(かなり乱暴ですが)。
で、この物語に浮かべたジジイの船は、海中深く巨大な潜流を抱える船戸大海のうえで、時には凪いで時には波浪浪で、また遠くに暴風の雷鳴を覗き見つつ、そのなかに放り込まれたりしながら最後の沖まで一気に連れ去られてしまいましたわ(おかげで先の読後に抱え込んでいた閉塞感からも見事に解放された)・・。

しかしこういった史実はなかなか教科書からは学べないが、日本という国家のなかで蝦夷という民族の征服や文化の殲滅、例えば士農工商といった社会制度ではない支配されるものと虐げられるものの過去があったというのは、(自分の浅学を知りつつ)あらためて衝撃でした。アメリカ大陸に渡ってインディアンを駆逐したヨーロッパ移民やメキシコを侵略したスペイン人、あるいはナチスドイツといった海外の虐殺や差別といった歴史と行為には人並みに憤っていたけれど、自分の国でも同様の行為が行われていたということは、自国の民族が持っているであろう倫理観とか社会への忠誠心を揺さぶるものがありますね・・

船戸作品には歴史的・民族的に虐げられた人間に寄り添うものが多いけど、その描き方は苛烈です。本作も史実とフィクションを編み合わせながら、人間の静謐と汚濁を描いてます。「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」は作者:船戸与一のことばだけど、本作もまさにその気概を圧倒的な質量で伝えてくれてます。ただ惜しむらくは、後半の復讐譚にフィクションとしてのリアリティがなかったことかな。
なので星よっつになりました。
作者が自分の愛読者は目方で本を買う(だったかな?)というくらい、本作も分厚い物語ですが、この熱量とダイナミズムを厭わない人なら、絶対に満足する圧倒的な物語です。乞読!
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.23:
(4pt)

ブローデル的歴史観を導入して、あったかもしれない日本史・蝦夷史を構想した意欲作

陸続きの欧州の歴史観は特にフェルナン・ブローデルの『地中海』以降、グローバルな人とモノと情報の流れを捉えることが当たり前である。
だからこそ、EUや中近東やアフリカからの人の流れも受け入れられる。
一方で、島国日本人は「日本固有の歴史」みたいな幻想に囚われやすい。
だから、いまだに「単一民族神話」が支配的で、移民へにも不寛容なところがある。
この作品は、史実ではなくても、本当の歴史と言える。
「単一民族政策」なだけで「単一民族」なわけではない歴史。
鎖国してるから、海だから、外国の人も物も情報も入らない?普通に考えたらそんなわけないだろという歴史。
という意味では。

10年以上前に読んで、正直、細かいことは忘れてしまっているけど、一番印象的だったのは、日本史もブローデル的なグローバルな視野から再検証が必要なんだなと思わされたところ。
船戸はこの作品を書く上でブローデル(あるいはそれ以降の歴史観)は意識していたはず。
ルポの『国家と犯罪』では、世界システム論のイマニュエル・ウォーラーステインにも言及してた気がするし(うろ覚えだけど。なお、ウォーラーステインの前提のひとつはブローデル)。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.22:
(5pt)

悲しい話

深い、実に深い。そして本当に悲しい話。
人間の権限、善意。それらの殆ど全てが強力な力に踏みにじられる。
登場人物全員が救われない悲しい物語だけど、ただ一つだけ、最後の最澄から洗元への手紙だけが救われる。
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.21:
(5pt)

蝦夷地はいつから日本なのか

蝦夷地別件は20年ほど前に読んだ作品である。
当時札幌に住んでいたこともあり、自分の知らなかった歴史が描かれた面白い作品だと思った。
個人的には「砂のクロニクル」に次ぐ船戸与一の傑作である。

時を経て満洲国演義、新雨月を読んだ後で蝦夷地別件を再読をしてみると、当時とは違った
船戸与一の問題意識がはっきりと見えてくるようになった。
船戸与一は常にこう問い続けていたのだ。
「日本とは何か?日本人(日本民族主義)とは何か?」

他の作品を読んでみると改めてその問題意識の片鱗があちこちに散りばめられているのが読み取れる。
・「山猫の夏」の弓削一徳は父が帝国陸軍大尉であり、皇道派とされパージされブラジルに渡った。
・「夢は荒れ地を」の丹波明和の母は関東軍相手に慰安婦をしていた。
・「降臨の群れ」のアンボンは戦時に日本軍が占領していた。
・「虹の谷の五月」のトシオの祖父は抗日組織に属していた。
読み直した本は現時点で限られているので他はどうかわからないが、いずれの作品にも
日本のかつての戦争の影がちらついているのである。
昔は単に辺境で日本人が活躍・暗躍する独特で素晴らしい冒険譚を書いていると思っていたが、それだけではなかったのだ。

つまり、船戸与一は数多の作品を通して「あの戦争は何だったのか?」を中心に
日本とは、日本人とは、をずっと問い続けていたのである。

そして、船戸与一が初めて書いた歴史小説「蝦夷地別件」では現在の日本の形をほぼ完成させる
蝦夷地の日本化の決定的な契機となる、国後目梨の戦いをテーマにしている。

当時はなぜ船戸与一が辺境の冒険譚ではなく歴史小説なのか、と不思議に思ったものだが、今となってはその必然が分かる。
蝦夷地は日本ではなかった。それが、いつからどのように日本になったのか。その秘密を解き明かしたかったのだ。
しかも、その視点は日本にとどまらずヨーロッパの動乱と関連付けているのだから恐れ入る。

そして、船戸与一は関心の核心である「天皇とは何か」着手するはずだったのだが、
構想だけで作品を完成させることなく倒れてしまった。つくづく惜しい人を亡くしたものだ。
いずれにせよこの作品は満洲国演義の関連作品として理解することで、大きな意義が理解できるようになる。

そして、船戸与一は同時に民族とは何か、国とは何か、人が生きるとはどういうことかを常に問い続けていた。

蝦夷地で何があったのか、日本とは何か、本書でしかと確かめてほしい。
踏みにじられるアイヌ、憤怒の咆哮の彼方に現在の日本があることを。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.20:
(5pt)

本件でなく「別件」。正史による非情。

本件でなく「別件」。
タイトルの非情さは作者が読み手に突きつける
刃の切っ先のようではないか。
正史が圧殺した草民たちの咆哮と慟哭は
あくまでも本件ではなく別件に過ぎない、
という非情さだ。
それぞれの憂国と、それぞれの救国は
血溜まりの中でもつれ合う。

物語全編は3人称1視点で描かれてはいるが、
視点は章ごとに異なる。
ひとつの章は、ひとりの登場人物の視点に限定されており、
神の視点で俯瞰される記述はない。
これは他の船戸長編にも採用されている手法だ。
章ごとに一寸の虫、つまり、ひとりの登場人物の五分の魂を
生々しく描き出す効果を、この手法はもたらしている。
だから描写は叙事に徹しておらず、
それ故に、この小説はハードボイルドではない、
と思うのだ。

物語の背骨は
18世紀のユーラシア大陸を串刺しにするダイナミックな歴史観だ。
東欧と極東を貫く、この壮大な視点は
多くの読み手を陶然とさせるが、
この切り口は実際の歴史研究の場でも
指摘されたり議論されていることなのだろうか。
作者による完全なフィクションなのだろうか。
ぜひ専門家の見解をうかがいたいものだ。

という事を考えたのは、
この物語で描かれるユーラシア大陸の東西のパワーバランスで
1939年のノモンハン事件を連想したからだ。
ソ連軍の主要軍力が欧州に集中する状況で
モンゴルで発生したソ連と日本の武力衝突は
その後のドイツとソ連によるポーランド侵攻に結びつき
第二次世界大戦へとなだれ込む。

スターリンがナチスドイツの動向を懸念している隙に
東を攻めようとする関東軍(ノモンハン事件)。
エカテリーナ2世の南下政策を妨害しようと奔走する
救国ポーランド貴族(蝦夷地別件)。

作者が到達する最終地点が満州国演義であったことと
無関係ではないのではないかと、
いや、まあ、これは想像するしかないのだけれど。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.19:
(4pt)

戦いのあとの虚無

最終章ではハイフリナの変貌に息を呑みます。
現代でも無惨な戦争のあと、テロリストと化す人々は存在します。作者はそのリアルを描かねば納得できなかったのでしょう。
ツキノエのもとに謝罪にあらわれるマホウスキ。
ロシア、ポーランド、日本とのかかわりで、アイヌの古風はずたずたになってしまう……。
アイヌの復讐者として葛西政信と対決し、物語は終わります。

唯一、隣人(シサム)であった破戒僧の洗元は失明し、盗みの罪をかぶって八丈島へ遠島。だれ一人として幸せになる人はいません。
生き残ったキララ(小霧)は赤ん坊をかかえて、このあとどう生きるのでしょう?
ゴスカルリは憎しみの心をすてて、キララとその子に手をさしのべるのだろうか? それとも? 
作者はそこまで示唆せず、清澄の手紙でしめくくります。

登場人物の多さに幻惑されることのない構成力はみごと。日本人が目をそらしがちな、弾圧と異民族蔑視の歴史をエンターテイメントとして描ききる腕力には脱帽です。
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.18:
(2pt)

読後感の悪さ

長大さを感じさせずに読み進められる、とても面白いストーリーです。しかし後半になると、とにかく殺人ばかり、意味の無いような殺人までもあり、いかに物語とはいえ、気分が悪くなる。前半が良かっただけに、このぶっ壊れ方は、何とももったいない。
意味を持たない殺人が、ハードボイルドなのだろうか。
前半のストーリーがずば抜けて面白かっただけに、この読後感は、何とももったいない。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.17:
(5pt)

「アイヌがそこまで愚かだと思ってるのかね?」

「いったん動き出した戦いへの気分はもう抑えられるものじゃなかった。脇大人だったわしの言葉ももう何の力もなくなっていた。」
 鉄砲もない状態で国後のアイヌ達は戦いをはじめたが、目梨全体のアイヌの蜂起はかなわず、扇動者たちは松前藩に騙され、大量虐殺される……。
 目の前で行われた惨状にセツハヤフは気を失ってしまう。
 この蜂起を最後に、急激に変化していくアイヌ達の暮らしと、その後目覚めたセツハヤフの行動が描かれていきます。
 謎は解き明かされ、物語は悲劇的な終息へと導かれていき、その様子に読んでいて息が詰まるようでした。
 長編であるにもかかわらず、読みやすい文章で悲劇にかかわらずすらすらと読み進むことができます。
 読みごたえがある本でした。
 
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.16:
(3pt)

舞台でやっているのでその前にと原作を読んでみようと…。

登場人物が多いため分かりにくいお話だ、と思いきや、内容は濃いです。当時のアイヌと和人との関係性がよく分かります。
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.15:
(5pt)

この作品の上巻と中巻を

偶然手に入れた船戸与一氏の作品を初めて読み
その資料の駆使の仕方や
フィクションの構成力などに圧倒され
どうしても、下巻まで手に入れて読了したくて購入。

本ばかりが増えて居場所がなくなる部屋なので
手に入れた上中とも文庫本だったので
同じく文庫本で揃えた次第です。
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.14:
(4pt)

やっと中巻終了^^;

KindleアプリでiPad mini で読んでいます。上巻を終えてから次が下巻ではないと知った時は全体の長さに愕然としましたが、次は本当に下巻です。蝦夷パートはアイヌ語を頭に入れて消化するのに多少難儀しますね。それでも、1780年代 (黒船までまだ60年以上) の北海道と、同時代のロシアなどに興味のある方にはオススメできます。
蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)より
4101343144
No.13:
(5pt)

大河ドラマの題材にしたいくらいの内容

登場人物がアイヌ人・ロシア人・松前藩士・ポーランド人・江戸の素浪人・若い坊さんなど多岐にわたっていて
2800枚の内容でも飽きさせない。裏切りや悲しみや陰謀や復讐など実に克明に描かれていて
何故もっと早く作者が直木賞や芥川賞が取れなかったのか、悔やまれる。
砂のクロニクルを読んだ後だけに別の色合いも感じさせる名作だと思う
砂のクロニクル〈上〉 (新潮文庫)砂のクロニクル〈下〉 (新潮文庫)。
蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)より
4101343144
No.12:
(4pt)

アイヌの悔しさが

北海道を舞台にしたアイヌと和人との戦いの物語。
どうしようもない力の差のもと、アイヌが苦汁をなめながらも民族を守るためにはどう行動すべきかを考えさせられる。
北海道にいると、アイヌも身近であり、先住民族としての権利を踏みにじられたくやしさが表現されており、考えさせられる。
やはり、発展するためには力で解決することが必要なのだろうか?
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)より
4101343152
No.11:
(4pt)

映像が目に浮かぶ

きっかけが無いとこの本と出合うことは難しいと思う。私自身、ひとから勧められて手にとった。読み進めるのに体力がいるかもしれない。最近では船戸与一もあまり知られた存在でないかも知れない。万人受けする作品では無いのだろうが、こんなに読み応えのある歴史小説も稀有では無いか。映像に浮かんでくるのである。その情景が。女性向けでは無いですね。この本を薦めてくれた先輩(50代後半だったかな)に感謝してます。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.10:
(4pt)

斬新な材で読ませるがすこし雑?

歴史小説ファン。全く史実に基づかないものはあまり読まない。吉村昭、司馬遼太郎、最近は山本兼一や佐々木譲を集中して読んだ。北海道出身のくせ、郷土の歴史について殆ど知らないので、タイトルに魅かれ読んでみた。登場人物も場所も多彩、頻繁に場面が変わるが、転換の巧みさ故に何とかついていける(アイヌ(蝦夷地)、和人(蝦夷地と江戸)、ヨーロッパ人(シベリア、サンクトペテルブルグ))。 江戸幕府(松平定信、国の形を作るために直轄領にしようとした?)、松前藩のアイヌ搾取状況、また国後・目梨の戦い(アイヌの蜂起、ロシアから銃器を入手の上決起する作戦だった?)の、どこまでが史実なのか、設定が却ってわからないように書かれていて(史実に関する括弧書き解説は皆無)、参考文献の少なさから、資料が限定的だったか、調査が行き届かなかったと推定するが、歴史小説ファンとしてはちと不満な点だ。 登場人物が多いに拘わらず性格づけが明確(ステレオタイプ過ぎるが)、手慣れた戦闘場面や濡れ場の描写等、この大部を数日で読ませるのだから、ストーリーテリングが巧みなことは間違いない。 幕府隠密(スーパーマン過ぎる)、2人の僧(無期限で無目的に蝦夷地をぶらぶらさせる余裕のある寺がある?)、アイヌの美女二人(一人は武士と結婚して江戸に出る、当時可能だった?)、ポーランド貴族の律儀(ほんと?)、アイヌ刺客が江戸へ出て復讐(どうやって江戸へ出た?旅費や宿舎は?)等、疑問符のつく設定も散見される。また場所、人物等を再登場させる時使われる枕ことばや状況描写に、同じ表現が何十回と繰り返している、「またか!」と毎度興醒めする(食事場面での塩鮭と菱の実、主人公の武士が持つ刀銘、ユーカラの歌詞etc多数例あり)。作劇上必須とは思えず、これらを削るだけで5%位はページ数を節約できたのではないか。また「・・・っていた。」や「・・・ている。」を「・・・てた。」「・・・てる。」と省略形を使っているのは文章の品格を落としている。 解説者は、「時代小説の革命」と手放しの褒め様、読了直後は「そうかも。」とも思ったが、冷静に思い返すと、上述の著者校閲不足起因の粗雑さも散見され、「革命」はちとオーバーと思う。豊かな表現力、展開力を粗雑さが減殺しており勿体ない。構成と細部にこだわった緻密な作品を期待したい。☆4個。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.9:
(5pt)

エンターテイメントとしての読書の到達点

本書の舞台は蝦夷地、今で言う北海道です。
松前藩、場所請負商人の収奪にあえぐアイヌたち。
不当な取引、差別的待遇に募る不満・・・
しかし、松前藩の火縄銃隊には勝ち目はない・・・
国後の棟梁格・ツキノエに持ち込まれる、ヨーロッパ製の新式銃300丁の譲渡。
話を持ち込んだのはステファン・マホウスキ、
王国復活を志すポーランド貴族です。
極東で事変が起こって、ポーランド復興に何の関係があるのか?
ここがまず、本作のミソ!
アイヌの動乱とヨーロッパの情勢をリンクさせる。
すごい発想です。
しかし、アイヌの中は、慎重派、積極派、世代対立が絡んで、混乱模様。
団結を得られぬ同胞に歯がゆい思いをするハルナフリ。
暗躍を見せる怪婆、厚岸のオッケニ。
そして、なぜかアイヌに好意的な立ち回りを見せる、幕府御家人の子弟・葛西政信。
蝦夷地の情勢に翻弄されながら自分の生活を作り守ろうとする禅僧・洗元
一方の松前藩も、切れ者ながら自由奔放な藩主のもと、
門閥代表の松前監物と権力の鬼・新井田孫三郎が対立。
この孫三郎の権力への執着というか、己の容貌へのコンプレックスというか、
黒い炎を出して燃えています。
二つの陣営の内部を緻密に濃厚に描く点が二つ目のミソでしょう。
そして、本作が単なる秀作で終わらなかった三つ目のミソは、終章・風の譜。
自らの策謀の清算のため、蝦夷を訪れるマホウスキ。
一方、事件全体の清算のため、蝦夷を離れるハルナフリ。
惨たらしく救いのないエンディングですが、
物語全体に因果応報という一つの確固たるテーマを与えます。
この終章は、まさにページを捲る手をとまらせない緊迫感。
読書というエンターテイメントの一つの到達点がここにあると言うべきでしょう。
一人でも多くの人に読んでもらいたい逸作!
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.8:
(5pt)

蒼炎の如き文体…そしてあまりに救いようのない結末。これぞ船戸!!

一ページ目からページをめくる手が止まらす、寝食を忘れ一気に読んでしまった唯一の本であり、僕の船戸作品の入り口となった本です。
とにかく、面白いっ!この一言に尽きます。どんどん自分の頭と胸に入り込んでくる登場人物たちのそれぞれの思いに一瞬でも気を抜くと熱気に燃やされてしまいそうです。
アイヌに鉄砲を運び込むために暗躍するポーランド貴族マホウスキー。
アイヌの存続を第一に考え行動するアイヌの英雄ツキノエ。
蝦夷地で暗躍する侍、葛西政信。その狙いはっ?
アイヌのために養成所を開こうとする和人の僧、洗元
職務の為ならどこまでも冷酷になる男、松前藩番頭新井田孫三郎
そして、それら全てを見届けようとする僧、静澄。
様々な思惑が絡み合う蝦夷地で、
アイヌの少年ハルナフリはその結末に何をみたのか?
物語はどんどんと最低の結末へと加速していきます。
しかし、これこそが船戸の真骨頂っ!
ここまでハッピーエンドという言葉が似合わない小説家は
日本ではこの人だけでしょう。
ほかの船戸作品は主に海外を舞台にしていますが、これは江戸時代中期の日本。
勢いでぐいぐいひっぱっていく作品が多いのにこれだけはラストまで飽きさせません。蝦夷地別件、オススメですっ!
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.7:
(3pt)

前半は100点しかし最後は30点・・・

さすがに船戸与一、最初から中盤まではあまりの面白さに止まりません。
かなりの長編ですが、キャラクターメイクと構成の素晴らしには脱帽です。最高です!
しかし、どうしてこの人はいつもラストが現実離れするのでしょうか、わかりません。
もったいないの一言です。滅茶苦茶にしてます。それがこの作者の限界でしょうか。
前半の面白さががラストまでもてば、この作品は必ずなんらかの賞を受賞していたでしょうに、ホントもったいないです。
船戸ハードボイルドの最高傑作は、やはり「山猫の夏」。
これを越える作品を作るのはやはり難しい、ということでしょうか。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136
No.6:
(5pt)

おもろい

おもろい! の一言につきます。船戸与一は「猛き箱舟」が最高だと思っていたが、それ以上におもしろい。(上)のプロローグ、そして本文を読んだ後、 エピローグ(下巻に掲載)、イイ。物語の最後は作者のいつもどおりの終わり方で、それはいまひとつだが、でもおもしろい。
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)より
4101343136

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