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闇夜に惑う二月
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闇夜に惑う二月の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点5.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1~2 1/1ページ
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題名:闇夜に惑う二月 原題:February's Son (2019) 著者:アラン・パークス Alan Parks 訳者:吉野弘人 発行:ハヤカワ文庫HM 2023.10.25 初版 価格:¥1,600 ダーティな訳あり刑事ハリー・マッコイを主役としたシリーズの第二作早くも登場である。お次の第三作も既に出版されたばかりなので、遅れを取っているぼくは慌てて本作を手に取る。500ページを超える長尺の作品だが、スタートからぐいぐい牽引される、心地良いまでの読みやすさだった。 アナーキーな印象の刑事マッコイに、年下なのに面倒見の良いワッティー、上司にはタフでハードでおっかないのだがどうにも面倒見の良いマレーという捜査トリオがとにかく良い。前作を引き継いで読んでゆくとレギュラー出演組の個性がそのまま増幅されるほどにシリーズの魅力にどんどんはまる。幼ななじみでギャングのボスのスティーヴィー・クーパー、女性記者メアリー。いずれもマッコイとのやりとりや距離感が素晴らしい。 さて本作の事件は、前作よりさらに派手派手しい。建設現場の屋上での無残な殺害現場に幕を開ける。日付入りの場面転換は前作を踏襲。ただし今回は殺人者の目線での描写が日毎に挿入される。殺人の動機もこの殺人者の異常性もエキセントリック極まりない。全体ではこの作品のジャンルは、警察小説の形を取ったノワールだと思うが 、殺人者のシーンや、もう一つの材料ともなっているロボトミー手術を考えると、サイコ・サスペンスと言ってももいいくらい。 残虐性、荒っぽさ、そして過去の幼児虐待の記憶など、すべてが前作を引き継ぐと同時に上回って見える。とりわけ過去の孤児体験、修道院での男児性被害など暗すぎる過去を引きずる主要キャラクター二人の過去と、本作での決意と行動は全体を揺るがすほどの意外性に満ちており、警察小説としての枠組みすら破壊して見える。 1970年代のスコットランド。グラスゴーを吹き抜ける時代の風。カトリック教会の光と闇。いつもながらの残虐な死と狂気に満ちた犯罪のタペストリーが、未だ二作目だというのにクライマックス感を見せてくれる。とんでもない作家。予想を覆す展開のシリーズ。善悪の彼岸にある心の深い傷と、半世紀前という闇の時代を吹き抜ける血腥い風の冷たさ。熱い怒りの血が流れ、愛に飢えまくる主人公マッコイのアンチ・ヒーローな魅力が凄い。彼のあまりに強烈な行動とその結末まで魅せられる力作。荒っぽくもデリケートな本作の愛と痛みに震えて眠れ。 本作は、エドガー賞最優秀ペーパーバック賞の最終候補作となり、次作の『悪魔が唾棄する街』(2024年3月既刊)では見事に同賞を射止めたとのことである。楽しみな必読シリーズの登場である。 | ||||
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前作「血塗られた一月」を読んだのは、2023/6月。早いペースで次作が翻訳されました。舞台は、スコットランド、グラスゴー。時系列は、前作後、1973年2月。主人公は、グラスゴー市警察部長刑事、血塗られたハリー・マッコイ。建築中のビルの屋上。血まみれで片方の目がくり抜かれ、性器が切り落とされて口に押し込まれた男の惨殺死体が発見されます。彼の胸には”Bye Bye”と刻まれていました。彼は、(嗚呼)セルティックの若きエース、チャーリー・ジャクソンでした。ジャクソンの婚約者エレインはノースサイド地区を牛耳るギャングのボス、ジェイク・スコビーの一人娘でした。 そして、容疑者は、スコビー子飼いの殺し屋、ケヴィン・コナリー。精神が不安定なサイコパスの存在。しかし、彼は姿を消し、エレインの周りに出没しながら、ついにはジェイク・スコビーまでが殺害されてしまいます。何故? 一方、前作で傷を負ったクーパーを見舞ったハリーは一枚の新聞記事を見せられます。そこにはダンバートンシャー警察の元本部長、ケネス・バージェスが写っていました。ここでハリーのもう一つの血塗られた記憶が蘇ってきます。そして、そこには我が国にも蔓延る或る悪辣な「性的事件」が横たわっていました。一つの事件と一つの記憶がいかに交わることになるのか?物語はいかに変転していくのか?前作同様、パズラーとしての構造はかなりシンプルですが、暴力に次ぐ暴力が良心を覆い隠す硬い石板を打ち砕きながらハリーのひりつく情念を剥き出しにするかのように、まるで進行性の病気の真っ只中にいるかのようにそのストーリーをぶん回し続けます。溢れかえるタバコの煙。ドラッグ。血の匂い。まるで若い時のジェイムズ・エルロイの著作のように。 これも前作同様、ハリーの幼馴染でありながら今ではギャングのボスでもある「暴力装置」スティーヴィー・クーパーとの関係性がこれらの物語のリーダビリティを爆上げしています。かつてデニス・ルヘインの“パトリック&アンジー”にはブッバという「暴力装置」がその役割を担っていましたが、クーパーの威力はその何十倍も増幅されています。悪に彩られ知性に裏打ちされた暴力と言っていいのかどうか?いずれにしろ、常に読者は法の内側と外側を意識しながら、そこに醸し出されるサスペンスに傷口が晒されるような感覚に戸惑うことになるのかもしれません。わかっていることがあるとすれば、法の内側にいようと外側にいようといかに<共感>できるかがその鍵であり、暴力の中にも良心は存在しているのかもしれません(笑)。なんて事だ! 二月の次は三月。エイドリアン・マッキンティの翻訳が止まってしまった現在、私たちは北アイルランドからスコットランドへと眼差しを向ける必要があるのでしょう。 多くの70年代ブリティッシュ・ロックが背景を流れていきます。ストーンズの「ムーンライト・マイル」が流れる時、風が吹き、冷たい雨に晒され、雪まみれのままそのムーライト・マイルの道をハリー・マッコイは満身創痍、徒手空拳で進軍していきます。私たちにできることはその道程を見守ることだけ。もしかするとかつて「ムーンライト・マイル」を歩んだことがあるパトリック&アンジーも寄り添ってくれているかもしれません。 □「闇夜に惑う二月 “February’s Son”」(アラン・パークス 早川書房) 2023/10/22。 | ||||
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