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(短編集)

二度はゆけぬ町の地図



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【この小説が収録されている参考書籍】
二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)

二度はゆけぬ町の地図の評価: 4.50/5点 レビュー 42件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.50pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全42件 21~40 2/3ページ
No.22:
(5pt)

「春は青いバスに乗って」を高校の教科書に!!

面白い。西村作品を全部読んでいるわけではないが、この作品集は気に入った。
 まず、タイトルがいい。解説の豊崎氏もタイトルを賞賛しているが、私は「春は青いバスに乗って」が一番好きだ(「二度はゆけぬ町の地図」の表題も渋いが)。どこかで似たようなタイトルを聞いたような気もする、このメルヘンチックな題名を持つ作品を読み進めると、「青いバス」とは、ときたま通りで見かける、窓に網のかかったあの青いバスであった。「春」と「青」の組み合わせのもたらす華やかさが、内容の特殊さとのミスマッチの可笑しさとあいまって何ともいえない余韻を生み出している。
 また、脇役がいい。主人公の生きる世界は、いわば、この社会の底辺に近いところにあるのであるが、そういう世界の住人たちが貫多の眼を通して淡々と語られて、一種のおとぎ話を紡ぎだしている。
 この作者の作品の魅力は内容の奇抜さだけでない。意識しての古風かつローカルな表現であるものの、表現力も卓越していると思う。
 「腋臭風呂」で主人公が、腋臭に「いわゆるマン臭」を併せ持つ風俗嬢に一時同情して「ふと目頭まで熱く」させながら、風俗嬢に「…とんこつラーメン食べたでしょ。尿道の奥からとんこつスープの匂いがした…」と言われて「ふやけた愚昧な感傷」を吹き飛ばしたところで最も笑った。
 少し長いけど「春は青いバスに乗って」は是非とも高校の教科書に採用して欲しい。その後にあの「青いバス」に乗る人にも乗らない人にも是非味わってもらいたい。
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No.21:
(5pt)

苦役列車の明日無き青春編に近い

主人公:北町寛多は、著者:西村賢太の単純変換だそうです。ということで 、著者の私事をデフォルメ脚色したまさしく私小説。本書は、著者一連の寛多シリーズ?で、寛多20台前、苦役列車の前で、苦役列車から寛多ワールドに入られた方は、同じ青春編と言うことで、入りやすいかもしれない。行く先合う人全員暴言暴行ちゃぶ台返しの明日無き青春遍4編、いつもの哀愁の秋恵編なし。
 たぶんバブルピーク時崩壊直前のころと思われる。デズニーランドがオープンし、ディスコブーム、ポパイが売れ、大学はレジャーランドと化し、大方の若者は新人類とちやほやされ、合コンサークルとはしゃいで浮かれていた時代。その片隅にこんなやつがいたのかよっ。
 どれも主人公寛多がうれしい喜んだ頭にきたむかついたしょぼん殴る蹴る暴言土下座ってあくまで自己中心の心情がネチネチネチネチ昭和初期風文体で描かれる。本作は秋恵がいないぶん、トラブルの相手方の自己中心、いじわるぶりも惨く、寛多に同情できる。この世に自己中心でいじわるでない人間はいないかのよう。でも、世間ってこんなものかもしれない。あいかわらず著者のすさまじい描写力に脱帽。
 相変わらずストーリーではなく、著者独自の世界観を堪能するというか、これマジっすか?サイテーっスッゲーなどといいつつ、夢を求めましょうなどと言う文部省推薦の薄っぺらさでない、生きてる人間の生臭ささに圧倒される。驚愕と苦笑という複雑な感情を惹起させる作品なので、この本だけでは、はあ?でよくわからないかもしれない。他の著作も併せて読む必要あり。
 一連の作品のどの辺がフィクションかは著者のみぞ知るですが、著者曰く相当ノンとのこと。現実著者は性犯罪者の親、自身も暴力沙汰で前科持ち、学歴中卒、容貌醜悪、風呂も入らず衛生観念なし、女性は単に性のはけ口で、風俗通いは日常の重要関心事、肝心の人間性もネガティブかつ、自意識過剰という、社会的にも人間的にも破綻者。最近TVでよく見るが、暴言の数々は伝説的ともいえ、芥川賞授賞式における風俗発言を始まりとし、中でも「笑っていいとも」で、お昼時間にもかかわらず、風俗通いや女性蔑視の言行は、放送事故スレスレ、現場の女性客、日本中の良識ある人々を激怒させ、良識のない人々、下品な中高年男性を驚喜させた。著者によると、やっと得た異性のパートナーに些細なことでDVのあげく逃げられた。酒ぐせも悪く、暴言暴行も茶飯事だが、たいていは自分で起こしたトラブルの返り討ちにあうという情けない結末。また、関係した人々に小金を土下座で借金し、それを風俗で使い踏み倒す。風俗通いで、たまに相手に惚れたりすると、金をだまし取られたりする。著者は、まさしく社会的破綻者で、そのうちカッとして殺人などおこして、殺意はなかったんですなどと主張しつつ刑務所に入る確率120%であろう人物だななどと周りから思われ、常識ある人々から関わらんとこなどと見られていたのだろうと想像する。
 しかし、そうはならず、この破綻者の著作が数々の賞をとり、現実受けて判を重ねているのは、自業自得のくだらぬトラブルと同列に、幸運の出会いや運も相当にあるという奇跡。さらにの注目は、人を楽しませるのが好きであったという、かの太宰治と同質のサービス精神が根底にある点。自身のだめ人間ぶりが、実は他人を喜ばせ楽しませるネタとしての価値に気づき、それを提供したいというサービス精神。そこにそれをうまく提供できる文才に恵まれるという希有なコラボ。そこにそんなものが世に出るなどけしからんと、常識ある人々が押さえつけたが、それがまさしくたまったマグマの大爆発ということになった奇跡。我々は、新たなる何者かの登場を見ているのかもしれません。ただ著者の成功を複雑な思いで見ているであろう、関わってひどい目にあった被害者?の方々、特に逃げた同棲相手の心情を思うと、今後、猛獣注意の看板、檻に入れての厳重管理は必要(笑。
 著者にぞっこんで別作品で解説もしている石原慎太郎は、今後の活躍を期待しつつ、金も名誉も得た彼を逆に心配もしている。それを知ってか知らずか、著者は、私小説しか書けないので、今後は題だけ変えたようなモノを書くなどと、ファンをも愚弄するかの、さらなる暴言を重ねている(笑。きおつけろっ!
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No.20:
(3pt)

普通だった。

普通の私小説。

文章は、小難しく古臭い言い回しが多く、作者は小説マニアなのが伺える。

内容には、言い訳じみたことや、自己を正当化する部分がなく、好感が持てる。

でも、内容はいたって普通。

期待していたものではなかった。
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No.19:
(5pt)

読む年代によって、感じ方が変わりそう・・・

まいったなぁ、この作品。
若い頃の私だったら、「まわりのせいにせず、真剣に生きろってんだ!」と怒っただろうが、それなりに山も谷も越え、酸いも甘いもあわせて飲める年齢になった今、逆に「まわり」に対する怒りと不器用な本人に、この私がいたく感情移入しているではないか。

そういえば、学生時代、若者時代、おばさん時代(←今現在)と読後感が全く違った太宰治と相通じるものを感じてしまった。

自堕落で自分勝手なんだけど、譲れない哲学を持っていて、
小汚いんだけど、ある部分には、異常な潔癖さを持っている。
主人公・北町貫多に、私はそんな人間を見て取りました。

しっかし、まいったなあ、この作品…
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No.18:
(5pt)

活字だけなのになぜか臭う

読みながら著者は本当にしょうもない人だなぁと思いつつ、
ページをめくる手が止まりませんでした。私小説というのはこれが初めてなのですが、
独りよがりなところがまったくなく、極めて淡々と書き綴られていることに驚きました。
そのしょうもない生き様に対し言い訳も美化もせず、ずっと著者が抱えてきた孤独や、
惨めさが静かに語られていて、あっという間に読み終えてしまいました。
だいぶ下火になってきたものの、ブログブームはまだ続いていますが、そのブログで
「不幸な生い立ちのあたし(俺)」を書いている人達との差というものを、まざまざと
見せつけられた気分です。彼らが書く文章は自慰行為に等しいですが、
著者の作品はこれがプロの書く文章なんだなぁ、と。
著者の筆力のすごさを感じたのは、全編を通して感じる「臭い」です。
悪臭とか腐臭とか、そういう言葉で表現できない臭さ(笑)。
写真集なら「うわっ臭そう!」とか、「痛そう!」と感じさせる事が容易です。
画像が持つ力はすごい。だからこそ、活字だけでここまで読者の鼻をつくような臭いを表現できるなんて、西村氏は天才です!
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No.17:
(5pt)

西村流平成ピカレスク・ロマン

著者青年期の、社会との軋轢を経験し始めた頃を描いた作品集。
折角見つけた酒屋のバイトも、給料の前借りをせびる等して店主の心象を害し、ついに首切りを余儀なくされるに至り(「貧婁の沼」)、バイト先の居酒屋で同僚とのイザコザ絡みで駆けつけた警察官を殴ったカドで豚箱入りとあいなったり(「春は青いバスに乗って」)、かつて家賃をさんざ滞納した挙句、請求を迫る老家主に逆切れしてバイト先までの電車賃までセビッたことを暴露した職場の同僚を殴り、折角見つけたその働き口も後にせざるを得なくなってしまったり(「潰走」)、ホテルに呼んだその手の女の強烈な腋臭に悩まされ、若き日に共同風呂で経験した赤の他人の腋臭に閉口した顛末を思い出し、恋人も居ない自らの惨めな境遇をしみじみと嘆いたりと(「腋臭風呂」)、相変わらずの見事な西村流平成ピカレスク・ロマンを展開する。
タイトルは、そんな悪名を垂れ流したため、元の町へは舞い戻れない身を、諷してのもの。
それにしても、その澱みなく流れる手練な語り口を、著者はどうやって手に入れたのだろうか?少年時代に親しんだ、横溝正史のホラー小説などの影響か?或いは、青年期に親しんだ明治から、大正、昭和へかけての私小説作家の作品の影響か?はたまた、著者がまだ詳述していない両親の言葉使いの影響か?想像するに、地の文の語り口は横溝の、漢語や古い言い回しは私小説作家の、そして女を追い詰める難詰の言葉は恐らく両親譲りのものなのではないか?
 そろそろ、この切れ味鋭い語り口を武器に、真正フィクション作家登壇の名乗りを上げるべく、本物のピカレスク小説をものしてもらいたいと思うのは、満更私一人ではあるまいと思う次第である(H23.11.3)。
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No.16:
(5pt)

いやー、いいです

私小説というのはどうしても自己憐憫とか甘えが入っているところが鼻につく(太宰治とか地主のぼんぼんでやっぱりどっか甘えてるよなーと思ってしまう)のですが、この作者は底辺を生きてきただけあって決して俺の行き方は本当は清いんだ、世間が汚いんだ、みたいな気負いがなく、驚くほど客観的に自分のやっていること、だめなところをわかっていて、なのに直せない、というところがまた切実で。
自虐的なユーモアや拘置所で助けてくれた人を思いやる気持ちなんかもあるところに救われ。「脇臭風呂」は大爆笑しました。
あいからわず文章も自分に酔っている文章ではないのでとても読みやすく、ほかの作品も注文してしまいました。でも、この自虐ネタは芥川賞を受賞して少しでも成功してしまうとネタがなくなってしまうのでは?と余計な心配をしています。
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No.15:
(5pt)

ただひたすらに面白い

西村賢太氏の小説にはまり、立て続けに作品を読んでいる。西村氏の書く小説は私小説なので、必然的に主人公は同一人物ということになり、だから、すべての作品はつながっている。一つ一つは短編から中編にかけての作品が多いのだが、実はそれらはすべて丸まる一編の超長編ともいえるだろう。
この「二度はゆけぬ町の地図」も短編が4作収録されているが、これらは初めから“連作”として書かれたかのよう趣を感じさせる。「あの話がここで繋がって、この話があそこで詳しく書かれているわけか」といったような、読んでいて、なんだかパズルを解いていくような感覚。ただ、ひたすらに面白い。
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No.14:
(4pt)

国語に自信のある方、どうかわたしにレクチャーをお願い致します。

自らの馬鹿さ、ルーズさ、幼稚さを棚に上げ
不条理に他人をこき下ろす様が
「もうここまで来るとギャグだよな」と
哀切さを笑いに変えるそのおかしさに心を奪われます。

ただ、どうしても気になるのは
『潰走』P.143、8行目の「慈悲心」の部分は
何度読み返しても自分には誤用に思えるのですが…
私の読解力のなさから来る勘違いなのでしょうか?

馬齢を加えただけの節穴の目のしか持たない老人を
殺してやる事に対する俺様の「慈悲心」と捉えるべきなのでしょうか?
三回ぶっ続けで中出しされる孫娘を持った老人を
哀れんで殺してやる。だからこその「慈悲心」でしょうか?

どうしてもしっくり来ず、本の内容よりずっと
その事ばかりが気になって仕方がありません…。
モヤモヤのせいで花丸作品ですが☆4つ。

うぅん…
ここは「無慈悲」or「慈悲心の無さ」では???
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No.13:
(3pt)

怖い

怖かったです。
これが自伝的小説と知って読みました。
人間が一皮向ければみんなこんなものだと突きつけられました。

怖かったのは、すぐ自分のそばにもこんな世界が広がっていて、いつでも自分を待ち受けているような気がしたからです。

でもこれが日本の現実。
日本に兵役はないけれど、みな1度はこういう経験をしてみたほうが良いのかもしれない。
そうすれば、本当の日本とか、生きる意味とか、身を持って知ることができると思います。
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No.12:
(5pt)

腋臭風呂。。。

腋臭風呂といい、痩身の家主とのやりとりといい、ジャガイモ顔の女子高生との逢瀬と言い、
「貫多節」全開。よくぞここまで、というか。イマジネーションの産物と言うには余りにも、
の究極のリアル描写。これが西村流私小説の真髄、か。何と言うか病みつきになり、全作品
読みたくはなるのですがある程度の間隔はおきたいんですよね(笑)
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No.11:
(5pt)

感想

拒絶か,精神的な共感か,或いは,カタルシスか。
良くも悪くも読後のインパクトは強いと思います。
個人的には異世界を覗かせてくれる著者の作品は好きです。
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No.10:
(5pt)

春は青いバスに乗って

『春は青いバスに乗って』が特に面白かった。大暴れしている最中に警官を殴ってしまい、警察の取り調べで、「私は興奮してつい後ろにいた人に手が当たってしまいました。それが警官とは知りませんでした」という必死の弁解に対して、警察官が、「だっておまえポリ公って叫んでただろ」というのが漫才みたいである。人を笑わせる才能においては、太宰治を超えて三遊亭円朝に匹敵する。言葉に無駄がなくキレがある。『潰走』では、入居時に上品だったアパートの大家の老人夫妻が、家賃滞納で態度が豹変する描写もうまい。この作家は空想して書くよりも実体験のほうがずっと変化に富み重要なので、私小説作家であることに実益があるのだ。『腋臭風呂』腋臭の男と銭湯でいつも出くわしてしまう話。貧しい都会生活の中では、銭湯で気に食わない人と会いたくないのに、お互い時間の都合でいつも一緒になってしまうことが、よくあるのだ。
『二度はゆけぬ町の地図』というタイトルが秀逸。タイトルは本の顔であり、才能に比例するのだ。誰にでも二度と行きたくない、心の傷がうずく町があるのではないだろうか。
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No.9:
(3pt)

無為無策・・・

作者西村さんを思わせる語り手私の1人称で語られるどうしようもないある男の生活の一端を垣間見せる2作と、貫多(かんた)というこれまた作者を思わせる主人公を3人称で語る2作の4つの短編集です。タイトルもすごいネーミングで「貧賽の沼」とか「腋臭風呂」なんて普通タイトルには使わない単語だと思いますが、見事に中身を表しています。

粗暴な男貫多が起こす酒屋でのアルバイトの顛末と女との(というか現実との)距離を生活すべてから描いた「貧賽の沼」、留置場に入れられることになった私の騒動「春は蒼いバスに乗って」、好意を覆した結果の豹変を貫多が味わう「潰走」、事細かに描写することで匂いまで想像させる私の遭遇したある日常「腋臭風呂」(しかしホントにすごいタイトルです)です。

ただ、このキャラクターの無頼漢だけでの勝負ではなく、現実を軸とした不条理に揉まれる中卒の私なり貫多なりが味わう負の要素渦巻く(あるいは非常に分かりやすい快楽に身を埋める)感情の発露の中に、どこかリアリティを感じさせます。同じ境遇なら私も、と思わせる敷居の低さのようなものをリアルに「ハイ、どうぞ」と掌に乗せられるかのようなリアリティがあります。そして中毒性のようなものさえ漂っています、この男がどうなってしまうのか?という興味を沸かせるのです。

そして文章の中に出てくる「賽」だの「畢竟」だの、そういった単語が効果的に出てくるのでリズムがあり、直情的性格の私や貫多のなり行きにアクセントを持たせていると思います。しかし、この作品の作者が芥川賞取るなんて、多分ほとんどの人が予想してなかったんじゃないでしょうか?いや、凄くびっくりです。豊崎さんもかなりびっくりしてましたしね。この傾向で取るなら、もっと前に舞城さんあたりが取っても良かったんじゃないか?と思います。

しかし、事実なら、ホントだいぶ行けない町多い人ですね・・・。

働く、ということに、そして現実から逃れたことがある大人の方にオススメ致します。
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No.8:
(5pt)

至福の90分だった

芥川賞作家であり私小説作家の西村氏の10代の頃を振り返った短編集。
4編が収録されている。
どの内容も決して上品・高尚ではなく、ありのままの姿を描いているが非常に面白い。
特に自分のだらしなさや意志の弱さを顧みることなく、いつも他人のせいにして口汚く罵るようなシーンの主人公は、完璧な駄目人間ながら、共感できる部分もあって読みだしたら止まらなかった。
また、その駄目さ加減も中途半端ではなく、留置所体験なども詳細に描かれている。

ゆっくり読んでも90分位で読了できるが、至福の90分となることであろう。
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No.7:
(5pt)

痛快!!

とにかく「痛快!」の一言に尽きる!
主人公・貫多の身勝手さは「自分勝手」なんて生易しいモンじゃなく、
その身勝手さ故に自分がサイテーのオトコに成り下がって行ってる事に
気付いてはいるものの自分でブレーキがかけられない。
そのバカさ加減が非常に面白く、またその身勝手さが笑わせる文体で書かれているので
最高に面白い!。
昨今のお笑いタレントの芸のような“浅いくだらなさ”ではなくて、
ディープで真剣なバカさが堪らなく良い。
この濃密なバカさ加減は女性には敬遠される事間違いなし。
でもそれでいいのだ。
案外、オトコの原スタイルはこれなんじゃないか…って気がしてくるから
不思議な共感を持ってしまった。
この作家の小説は全部読む事になるでしょう。
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No.6:
(5pt)

芥川賞に感謝

正直に言います。芥川賞受賞というニュースがなかったら、この作者を知ることはありませんでした。
もちろん読んでみようとも思いませんでした。
受賞作は単行本で値が張るので、とりあえず安い文庫でお試し、と本書を買ったのですが、やられました。
この人は、一度読んだらくせになります。

私小説作家とくくられていますが、作者の自分に対するツッコミが、いわゆる私小説より格段に突き抜けています。
もう笑うしかないダメダメっぷり。自らの不幸に対して向ける怒りの矛先の矮小さ。脳内で終わってしまうリベンジの情けなさ。さらに、そこまで書くか、という描写のねちっこさ。
この小物っぷり、これ自分じゃないかって思ってしまいましたよ。

しかし作者にとってはそれこそ命懸けで書いた作品群なのですよね。
たった一日で読み終え、消費してしまったことに、罪の意識すら感じてしまいました。
贖罪の意味をこめて、他の作品も買わせていただきます。
どうかお幸せに。
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No.5:
(5pt)

爆笑!

暗渠の宿(きっかけは表紙買い)以来、すっかりハマってしまった!主人公の生き方と賢太節に心の底から爆笑しました!
電車の中で読んでても自然に笑っちゃってます。
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No.4:
(5pt)

拝啓 西村賢太さま

拝啓 西村賢太さま。
芥川賞受賞おめでとうございます。
あなたの受賞会見を見て衝撃をうけました。会見内容、容貌すべてに。
早速書店に走り、拝読させて頂きました。
私よりも7歳若いあなたですが、人生経験はあなたが先輩とかんじます。
と同時にその道程に共感と懐かしさをおぼえました。
私は地方出身者ですが、丁度あなたと同じ時分に江東区森下の四畳半一間
トイレ共同風呂無し家賃1万7千円に6年間住んだことがあり、
なにか特別な親近感を勝手に抱いてしまったのです。
さらに私はあなたに在りし日の中上健次をみました。同じようなにおいを発しているとかんじました。
幾度かのノミネートを経てついに大作家に成られたあなたは
今までのようなモテない生活と決別しなければならないかもしれません。
銀座のバーの美人ホステス達があなたをほうっておかないでしょう。
私たち読者はそうした女達との赤裸々な営みが読めるのも期待しています。
受賞後のあなたの生活の変化。すべてを私小説化してください。
期待しています。
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No.3:
(5pt)

満点

非常におもしろい。疾走感があふれている。
私小説といいながら、決して自己満足に終わっていない。読者へのサービス精神が極めて旺盛。笑わそう、喜ばそう、という強い意志が滲み出ている。そのための工夫やしかけも随所に施されている。
満点。
ただ、それはあくまでも個人的な話。読み手を選ぶであろうことも必至。「腋臭風呂」なんて、題名からして拒否反応を示す人がどれほどいるか想像に難くない。
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