遠い山なみの光
評判
遠い山なみの光の評価:
3.92/5点 レビュー 119件。 D ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全20件 1〜20 1/1ページ
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3.92/5点 レビュー 119件。 D ランク
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この小説は会話のやり取りが非常に自然でなめらかである。小説らしい作り物めいた雰囲気がない。一女性の回想が過去の様々な出来事にあらためて意味を生み出している様な『今考えればこういうことであった』という想念を浮かび上がらせながら過去と現在を行ったり来たりするというストーリーである。かつては理解できなかった様々な事柄が今では自然に納得できる、というか今なら分かるという感覚なのである。
過去の記憶として、理解できなかった長崎時代の子持ちの友人女性(佐知子)とのいきさつがあるいは悦子のその後の人生のほの暗さを象徴しているともいえる。何の屈託もなかった最初の子の妊娠時代の青空が今の暗く寂しい人生の夕暮れと、それまでにかかわった人々とのやり取りが重なって今更訂正の利かない人生のエンドロールを見ている様な結末であった。
この小説を読んで川端康成の『山の音』とヴァージニア・ウルフの小説をちょっと思い出した。悦子と最初の夫二郎の父である義父の緒方さんとのやり取りは『山の音』の義父と嫁との関係、悦子の行ったり来たりの想念の流れはウルフの『灯台へ』の意識の流れ文学…でもこれらは見かけだけでおそらくイシグロは説明不要な現実の不条理な世界をそのままに描いたものなのだろう。
確実と思われていた世界が一瞬にして別のものへと変わってしまう不確実性に対して足場を失った人間の虚無感であるとか、頼りにならないものと分かっていて縋ってしまう人の弱さであるとか、守ってやれなかった保護すべき対象への後悔と懺悔とか、分かり合えるはずのない人と人の疎外感とか、この小説にはこんな材料があちこちにバラまかれているけれど、結局最後には何の救いも無いという想定外の結末である。まあそういう事だよね現実の世界は、と思うのであった。ということで、予定調和の無いそれこそ真にホラーともいうべき作品と感じたのである。
どうして二郎と別れたのだろうか?その伏線は会話の端々にはあるのだが、佐知子はその後どうしたのだろうか?佐知子の子である万里子は思わせぶりな悪夢の様に悲惨な最期を遂げたのだろうか?長女の景子はどうして家族と乖離して自死したのだろうか?など多くの疑問には作者は何の回答も用意しない。当たり前の結婚を否定して一人の女性として生きていく次女のニキが不意にロンドンに帰ってしまうというラストで、悦子の想念はそれっきりぷっつりと終わってしまうのである。
こういう小説って内容にかかわらずこれが一番不条理であると思ったりするのであった。つまり、小説の筋書きこそが最も不条理なのであろう。