ユートロニカのこちら側

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ユートロニカのこちら側の評価:

3.82/5点 レビュー 22件。 B ランク

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平均点3.82pt

Amazonレビュー一覧

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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全26件 21〜26 2/2ページ
No.6
(4pt)

秀作(ネタバレあり)

まず抱いた印象が文章の読みやすさ。
28歳が書いたとは思えないほど洗練された文章です。
テーマ的にはけっこう難しくて、哲学的思索が多いのですが文章の妙が読みにくさを打ち消しています。
テーマは大きく分けて3つあって
1、金銭と引き換えに個人情報を提供することの是非
2、高度な犯罪予測が可能になったとき思想犯を裁くべきか
3、人工知能による問題解決機能の外部化の帰結
どれも面白いテーマなので終始関心を持って読み進めることができました。
特に2は個人的に強い興味を持っている問題でした。
ニュースで凄惨な事件を見るたびに
「犯罪予測ができれば事件が起こる前に犯人を捕まえることができるのに」と常々思っていました。
しかし登場人物の一人であるドーフマン博士は別な視点を与えてくれます。
「アガスティアリゾートの犯罪予測は犯罪者を裁くためのものではなく
起こる必要のない事件を回避することで、被害者と加害者の未来を救うシステムなのです。」(セリフの要約)
作中の犯罪予測システムは事件そのものが起こらないようにして
被害者のみならず加害者をも救うという理念のもと運用されているのです。
これはある意味で理想的なやり方かもしれません。
ただ、作中ではこのやり方を採用したせいで事件が起きてしまうのですが、
それに対してもドーフマン博士は次のように述べています。
「このやり方を取る限り今回のようなことは起きうる。
が、これまでこのやり方は被害者と加害者となる多くの人間を救ってきた。」(セリフの要約)

犯罪予測ができたとしてそれをどう運用するかは人間の判断に依存しています。
理想郷を目指す人類の前には問題が山積していることに改めて気付かされた一冊でした。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.5
(5pt)

紛うことなき「SF」、ただしサイエンスというよりはソーシャル

『127ミリリットル。いい数字だ。127は31番目の素数で、31は11番目の素数で、11は5番目の素数で5は3番目の素数だ。3は2番目の素数で、2は最初の素数だから、127は完璧な素数になる。』(第4章、「理屈湖の畔で」、177ページより)

第3回ハヤカワSF大賞受賞作。更にこうした場では珍しいことに連作短編となっている。
そしてその出来はというと……すこぶる良い。ロケーションを米国、その一部で発達を進める情報的先進リゾート地が主たる舞台……とここだけ見ると飛浩隆「グラン・ヴァカンス」を想起させるところだ。だがその出来の方向性は、どちらかというといわゆるSF的奇想・着想よりか、人間の内面へと向かっている。

――ポケベルも、携帯電話も、スマートフォンもない昔々は、人に連絡をつけるにも前提となる知識を求められたり、電話交換手や家人を介したりと「情報が損なわれる/漏洩する」リスクを控えていた。かつてはフィクションの世界で常套手段として用いられていた「意思疎通のすれ違い」も、悲しいことに「LINE」一本で容易に使えなくなってしまっている現代だ。

この「ユートロニカのこちら側」で見えてくる「すれ違い」は行き過ぎた管理情報社会への抵抗や危機意識によるものを根としているだろう。これを卑近するものと比べると、第三者的目線という意味でフェイスブック、ツイッターなどのSNSが近いかもしれない。そうした現代だからこそ掘り下げうる余地の出てきた価値観や思想を、SFの科学的プロットで補強して創られた本作は、第1章から第3章まではさながら海外短編小説の名手――O・ヘンリやモーパッサン――を思わす人の情緒の味わい深さを感じさせる。ただし甘みはなく、苦味と哀切、そしてノスタルジィが主となるが。

そして前半で豊かに人々を描き、作品世界の持つ側面を多角的に描いたのち、ステージは後半へ。第4章からはその構造自体に疑問を投げかける人々へと移る。その静かな反抗活動がどのような幕引きを迎えるかは、是非とも読んで確かめてほしい。

2008年の「ハーモニー」においてディストピアの社会は激しく、そして末期は静かな雨のように描写された。
それが2015年にはまた別の「S」……社会的な形で、情緒的に描かれたということが偶然の一致か伊藤計劃の影響がなせる業か、個人的には非常に面白く、また興味深く感じた。次作にも期待!
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.4
(5pt)

紛うことなき「SF」、ただしサイエンスというよりはソーシャル

『127ミリリットル。いい数字だ。127は31番目の素数で、31は11番目の素数で、11は5番目の素数で5は3番目の素数だ。3は2番目の素数で、2は最初の素数だから、127は完璧な素数になる。』(第4章、「理屈湖の畔で」、177ページより)

第3回ハヤカワSF大賞受賞作。更にこうした場では珍しいことに連作短編となっている。
そしてその出来はというと……すこぶる良い。ロケーションを米国、その一部で発達を進める情報的先進リゾート地が主たる舞台……とここだけ見ると飛浩隆「グラン・ヴァカンス」を想起させるところだ。だがその出来の方向性は、どちらかというといわゆるSF的奇想・着想よりか、人間の内面へと向かっている。

――ポケベルも、携帯電話も、スマートフォンもない昔々は、人に連絡をつけるにも前提となる知識を求められたり、電話交換手や家人を介したりと「情報が損なわれる/漏洩する」リスクを控えていた。かつてはフィクションの世界で常套手段として用いられていた「意思疎通のすれ違い」も、悲しいことに「LINE」一本で容易に使えなくなってしまっている現代だ。

この「ユートロニカのこちら側」で見えてくる「すれ違い」は行き過ぎた管理情報社会への抵抗や危機意識によるものを根としているだろう。これを卑近するものと比べると、第三者的目線という意味でフェイスブック、ツイッターなどのSNSが近いかもしれない。そうした現代だからこそ掘り下げうる余地の出てきた価値観や思想を、SFの科学的プロットで補強して創られた本作は、第1章から第3章まではさながら海外短編小説の名手――O・ヘンリやモーパッサン――を思わす人の情緒の味わい深さを感じさせる。ただし甘みはなく、苦味と哀切、そしてノスタルジィが主となるが。

そして前半で豊かに人々を描き、作品世界の持つ側面を多角的に描いたのち、ステージは後半へ。第4章からはその構造自体に疑問を投げかける人々へと移る。その静かな反抗活動がどのような幕引きを迎えるかは、是非とも読んで確かめてほしい。

2008年の「ハーモニー」においてディストピアの社会は激しく、そして末期は静かな雨のように描写された。
それが2015年にはまた別の「S」……社会的な形で、情緒的に描かれたということが偶然の一致か伊藤計劃の影響がなせる業か、個人的には非常に面白く、また興味深く感じた。次作にも期待!
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.3
(5pt)

紛うことなき「SF」、ただしサイエンスというよりはソーシャル

『127ミリリットル。いい数字だ。127は31番目の素数で、31は11番目の素数で、11は5番目の素数で5は3番目の素数だ。3は2番目の素数で、2は最初の素数だから、127は完璧な素数になる。』(第4章、「理屈湖の畔で」、177ページより)

第3回ハヤカワSF大賞受賞作。更にこうした場では珍しいことに連作短編となっている。
そしてその出来はというとすこぶる良い。ロケーションを米国、その一部で発達を進める情報的先進リゾート地が主たる舞台とここだけ見ると飛浩隆「グラン・ヴァカンス」を想起させるところだ。だがその出来の方向性は、どちらかというといわゆるSF的奇想・着想よりか、人間の内面へと向かっている。

――ポケベルも、携帯電話も、スマートフォンもない昔々は、人に連絡をつけるにも前提となる知識を求められたり、電話交換手や家人を介したりと「情報が損なわれる/漏洩する」リスクを控えていた。かつてはフィクションの世界で常套手段として用いられていた「意思疎通のすれ違い」も、悲しいことに「LINE」一本で容易に使えなくなってしまっている現代だ。

この「ユートロニカのこちら側」で見えてくる「すれ違い」は行き過ぎた管理情報社会への抵抗や危機意識によるものを根としているだろう。これを卑近するものと比べると、第三者的目線という意味でフェイスブック、ツイッターなどのSNSが近いかもしれない。そうした現代だからこそ掘り下げうる余地の出てきた価値観や思想を、SFの科学的プロットで補強して創られた本作は、第1章から第3章まではさながら海外短編小説の名手――O・ヘンリやモーパッサン――を思わす人の情緒の味わい深さを感じさせる。ただし甘みはなく、苦味と哀切、そしてノスタルジィが主となるが。

そして前半で豊かに人々を描き、作品世界の持つ側面を多角的に描いたのち、ステージは後半へ。第4章からはその構造自体に疑問を投げかける人々へと移る。その静かな反抗活動がどのような幕引きを迎えるかは、是非とも読んで確かめてほしい。

2008年の「ハーモニー」においてディストピアの社会は激しく、そして末期は静かな雨のように描写された。
それが2015年にはまた別の「S」社会的な形で、情緒的に描かれたということが偶然の一致か伊藤計劃の影響がなせる業か、個人的には非常に面白く、また興味深く感じた。次作にも期待!
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.2
(5pt)

ポスト伊藤計劃だった

文章に力があり、刺激に富んだ文章が出てくる。
物語は情報が完全に管理されたプライバシ―のない都市で暮らす実験が舞台なのだが、
いや、普通に面白いですよ。
テーマは日常と非日常でしょうか。
SF好きなら最先端の管理社会ものとしてぜひ一読願いたいが、
オチが伊藤計劃の「ハーモニー」と似ていることについては論争を呼ぶだろう。
このオチをぼくがそんなに評価しないこともあるのだが。
あと、作者はフリーライダーという概念を参考に書いているようだが、
フリーライダーという概念が経済学の用語であることの解説がないのでちょっとわかりにくい。
ニーチェの「善悪の彼岸」で述べられてることかと勘ちがいしたがそうではなく、経済原理による概念のようだ。
対価を払わずに経済サーヴィスを利用する者を指す。

ちなみに、学者が好みそうなフレーズは随所に盛り込まれている。
それを読むためだけにも読んでもいいんじゃないだろうか。

ただ、ぼくは、これは歴史的記念碑ではなく、何か監視社会の一大傑作が作られる際の準備段階ではないかと思ったりする。
これは、日常と非日常をテーマとしており、日常はもちろん情報管理されているのだが、さて、非日常はとなるとより面白かった。
現在において、監視社会について最も正確に書き記した書物ではあると思う。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.1
(5pt)

ポスト伊藤計劃だった

文章に力があり、刺激に富んだ文章が出てくる。
物語は情報が完全に管理されたプライバシ―のない都市で暮らす実験が舞台なのだが、
いや、普通に面白いですよ。
テーマは日常と非日常でしょうか。
SF好きなら最先端の管理社会ものとしてぜひ一読願いたいが、
オチが伊藤計劃の「ハーモニー」と同じなことについては論争を呼ぶだろう。
このオチをぼくがそんなに評価しないこともあるのだが。
あと、作者はフリーライダーという概念を参考に書いているようだが、
フリーライダーという概念が経済学の用語であることの解説がないのでちょっとわかりにくい。
ニーチェの「善悪の彼岸」で述べられてることかと勘ちがいしたがそうではなく、経済原理による概念のようだ。
対価を払わずに経済サーヴィスを利用する者を指す。

ちなみに、学者が好みそうなフレーズは随所に盛り込まれている。
それを読むためだけにも読んでもいいんじゃないだろうか。

ただ、ぼくは、これは歴史的記念碑ではなく、何か監視社会の一大傑作が作られる際の準備段階ではないかと思ったりする。
これは、日常と非日常をテーマとしており、日常はもちろん情報管理されているのだが、さて、非日常はとなるとより面白かった。
現在において、監視社会について最も正確に書き記した書物ではあると思う。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776