朝が来る
評判
朝が来るの評価:
3.88/5点 レビュー 163件。 C ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全177件 161〜177 9/9ページ
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朝が来るの評価:
3.88/5点 レビュー 163件。 C ランク
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
わたしは40代の事務系労働者で、妻と二人の子がいます(法律婚、子どもは二人とも実子)。
「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年 (文春文庫)」を読んで以来、「血は水より濃い」という俗諺に対し少なからず反発を感じるようになりました。
「血のつながり」を軽視する訳ではないですが、親子間の情愛にとっては、生物学的に親子であることよりも、親子で濃厚な時間を共有し、交流の実績を積み上げることのほうが大事なのではないか、と思えてならないのです。
これから日本の子どもの出生数が少なくなってきたときに、そして経済的に困窮している家庭(シングル母子含む)の子どもと一般家庭の子どもも、共に分け隔てなく、国を挙げて貴重な社会資源として護り、育成していく必要が出てきたときに、「血は水より濃い」という俗諺や嫡出子への大きなこだわりは、こうした動きに抗う大きな抵抗ベクトルとなってくるのではないかと、考えるようになりました。
前置きが長くなりましたが、こういう問題意識を持ちながら、「特別養子縁組」を巡る人間ドラマをテーマとする本書を手に取りました。
辻村深月先生の作品を読むのは、この「朝が来る」が初めてです。
通読レビューはわたしのレビューより先行して25件もの蓄積があるので、文中のキーワードを軸に、雑感を記していくことにしました。
まず、「不妊治療」
実は第1子が生まれる前に妻が早期流産をしたことがあり、自然に懐胎することが出来るかどうか、病院に相談したことがあります。
そのときに、「知識として」と前置きしながら、不妊治療のあらましをドクターから説明をしてもらいました。
わたしは戸惑うばかり、いっぽう妻は泣きながらも、ドクターの話を聞き、しきりにメモを取っていました。
そういう経緯もあって、不妊治療は他人事ではなく、「不妊治療中は、出口のないトンネルに入り込んだような」という記述には大いに共感できました。
「特別養子縁組」
特別養子制度は、わたしが法学部生のときに施行されました。当時わたしは民法の親族法・相続法分野の勉強をするサークルに所属しており、わたしの1年先輩の学生たちが卒業記念研究として特別養子制度の制度概要をレポートしてくれました。
その頃のわたしは、一言でいうと「頭でっかち」。
法制度の知識だけで世の中を渡っていけると信じていた、世間知らずの馬鹿な学生でした。
特別養子制度も「六法全書の改訂要因」「民法教科書の補遺」という程度の浅い認識しかなく、先輩たちの取り組みを冷淡に傍観していました。
25年以上経ったいまは、自分で家族を持ち、また自分の周辺で生じている様々な家庭事情・親子事情も認識してきたこともあり、特別養子制度の必要性はもちろん、どのような立場の人々がこの制度の恩恵を得ているのか、理解が進んでいるつもりです。
本書を読んで、わたしの理解のしかたが、さほど的外れではなかったということを確かめることが出来ました。
「特別養子となる子の実親」
法制度上、特別養子となる子の実親は、子どもが養親家庭に引き取られ、法的に特別養子縁組が成立すると、完全に親子関係から退場してしまいます。このことは制度上の要請から仕方のないことだけれど、実親、とくに実母にとっては極めて重大なことだと思います。
自分のおなかのなかで1年近く、文字通り養い、慈しんできた「我が子」を、合意の上とはいえ、出生後まもなく手放し、そして自分は二度と「我が子」の前に登場することは出来ないのですから。
懐胎し出生するまでの間、母体と胎児の間柄であっても、濃厚な「親子の時間」を過ごした訳ですから、「血は水より濃い」という俗諺よりも、もっと実質的な関係性が、実母と子の間に生じても何ら不思議なことはありません。
本書でも、臨月の実母は胎児と「ふたり」で、美しい瀬戸内・広島の夕日を眺めます。ふたりの間を邪魔する者は何もない、実母にとっては、終生忘れ得ないともいえる光景となりました(本書p.226-228)。
また、実母の希望により、出生した子を迎えにきた養親夫妻と会い、挨拶をする場面も印象的です。ただ子を産んで養親に手渡すというだけではない、我が子を養親に「託する」という実母の思いが溢れる名場面だと思います(本書p.134-142)。
「子を手放した後の実母」
これは、小説ならではのテーマ。小説家辻村深月先生の独壇場とも、いえましょう。
特別養子縁組制度を、民法教科書や新聞用語集に掲載されている単なる文字情報としてしか理解していない人には想像も及ばない、法制度の「影」に相当する問題であると思います。法律上は、前述のとおり、実母は「退場」するだけですから。
でも冷静に考えると、本書で「子を手放した後の実母」が遭遇する困難や経済的な苦境は、若くして子どもを産んだこととは、直接的な因果関係は無いのではないかとも思い、はたと読書を中断して考え込みました。
本書のストーリーを振り返ると、実母の行動には幾つかの問題点があります。
・家族との信頼関係が希薄で、出産後帰省したものの再度家出をしてしまった
・自分と同じような境遇の女性に対して過度に信頼を寄せてしまった
・自分の身に覚えがない金銭消費貸借の連帯保証書を突きつけられたとき「恐怖」から取立屋に弁済の意思を示してしまった
・住み込み勤務先を出奔したあと、元雇い主宛に書かずともよい詫び状を送った(取立屋は、郵便消印から逃亡先を探知した)
・取立屋に追い詰められた末に勤務先の金庫のカネを横領して、保証債務の弁済に充てた
・不法に入手した養親の個人情報を基に「我が子」の居所を探し当て、養親に対して脅迫まがいの言動をとった
いずれも「若さゆえのあやまち、脇の甘さ、法律知識の無知」に起因するものであって、「若くして子を産んだこと」とはあまり関係ないのではないか、という印象を受けました。
でもひよっとすると、著者の取材対象となった「子を手放した後の実母」たちには、過度に一般化してはいけないのだけれど、「若さゆえのあやまち、脇の甘さ、法律知識の無知」がきっかけとなって、社会の深い淵に足を絡みとられる傾向にあるのかもしれない...
これは、辻村先生に直接おうかがいしないとわからないことですけど、「子を手放した後の実母」の社会復帰、あるいは生活手段確保の困難さというものも、本書の訴えるところの射程に入っているのかもしれない、とあらためて考え直したりしました。
総括 「朝は来たか?」
本書では、いろいろな問題提起があり、読者の問題意識のあり方によって、読後の印象は異なってくると思います。
これが正解、これが正しい読み方だよ、というものはないのだとも、思います。
本書の主人公たちに「朝は来た」のだろうか、と考えることで本稿を終わります。
わたしは、はじめ、養親に特別養子がやって来たとき、養親夫婦にとり「朝は来た」のだと思いました(p.133)。
でもそれは、実母にとっては、法制度の影に隠蔽されてしまう「夕闇」の始まりでしかなかったのです。
彼女に「朝は来た」と感じられるようになったのは、本書の終末ではないかと思います。
養親に抱きしめられ、健康に育った「我が子」と再会できたとき、彼女は若くして懐胎・出産したという自分の人生に対して、自己肯定感の端緒を掴むことが出来たのではないか、とわたしは思いました。
本書を通読して、とても深い感銘を得ました。
この本を多くの皆さんにも読んでいただき、共感を分かち合いたいと思います。