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(短編集)

久生十蘭短篇選



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【この小説が収録されている参考書籍】
久生十蘭短篇選 (岩波文庫)

久生十蘭短篇選の評価: 4.50/5点 レビュー 18件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.50pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(3pt)

読み応えあり

読みごたえのある充実の内容。十蘭の短編からの選択はまあ秀逸。私としては「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」「平賀源内シリーズ」などの好きな作品の収録がないのがおおいに不満ですが。
久生十蘭短篇選 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:久生十蘭短篇選 (岩波文庫)より
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No.2:
(3pt)

選ぶべき名短篇は他にあり

久生十蘭が岩波文庫に入る?岩波文庫だと身構えて読むせいか、創元推理文庫で読んだ鮮やかな印象が蘇らない。江戸川乱歩短篇集も同様に感じたが、この違和感は何だろう?文庫のブランド・イメージか?

久生十蘭は一口でこんな作家と言える人ではないし、この短篇選が十蘭の代表作を巧く選んである訳でもないと思う。十蘭ファンには叱られるかもしれないが、この文庫本は中途半端という感想を持った。
久生十蘭短篇選 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:久生十蘭短篇選 (岩波文庫)より
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No.1:
(3pt)

『久生十蘭短篇選』の編者の意図は何なのか?

久生十蘭の傑作短編を読むのであれば、三一書房版『久生十蘭全集』第1巻・第2巻に如(し)くはない、というのが私の勝手な思い込みである。この2冊には、凝りに凝った華麗なストーリーと文体を併せ持つ十蘭の傑作短編が出揃っている。

傑作短編の一例を挙げてみる。「黄泉から」は、本書『久生十蘭短篇選』にも収録されているが、第二次世界大戦中、日本軍の婦人軍属としてニューギニアへ行き、病に倒れ、死んでいった少女・おけいの果かない恋物語である。おけいの死後、主人公の光太郎は、自分への彼女の恋心を初めて知り、新盆の夜、暗闇のなかに少女の霊魂の気配を、つまり、彼女が愛読していた謡曲『松虫』の後シテの亡霊のような気配を感じ取るのである。この短編の幕切れの、「光太郎は提灯をさげてぶらぶらルダンさんの家のほうへ歩いて行ったが、道普請の壊(く)えのあるところへくると、われともなく、/「おい、ここは穴ぼこだ。手をひいてやろう」/といって闇の中へ手をのべた。」というシーンは、何度読んでも感銘を覚える。光太郎のつっけんどんな、しかし、含羞を湛えた言葉のなかに、生前のおけいに優しくしてやれなかった自分への悔恨の念が籠められている。

ところで、私は、最初、本書『久生十蘭短篇選』を手に取り、「十蘭もついに岩波文庫に入る古典となったのか」と、わが事のように嬉しくてならなかったが、読んでみて、その編集方針には少なからず疑問を抱かざるをえなかった。本書には、「予言」「無月物語」「黒い手帳」「母子像」などの傑作短編が収録されているが、「海豹島」「ハムレット」「湖畔」、そして直木賞受賞作の「鈴木主水」も入っていないし、私が密かに偏愛する「新西遊記」も入っておらず、さらには、収録作の選定には、予想外の事実が含まれていたのである。

十蘭の短編には、たいてい、苛烈な運命に遭遇しながら、従容として死に臨む者の美学が貫かれている。たとえば、「黒い手帳」の場合は、死を望む男の願いを聞きいれ、語り手の「自分」がアパートの窓から男を突き落として物語の幕が下りるのであるが、全集版では、「彼は勾配の強いスレートの屋根の斜面を辷り、蛇腹の出ッ張りにぶちあたってもんどりをうち、足を空へむけたみょうな格好で垂直に闇の中へ落ちて行った。」という、一読忘れがたい印象的な最期を遂げている。ところが、本書の「黒い手帳」では、「彼は瞬間屋根の斜面を辷り、真っ暗な闇の中へ落ちて行った……。」という、なんともそっけない描写に変わっていて、いささか拍子抜けをしてしまう。このラストばかりでなく、冒頭の数ページにも違和感が感じられたので、全集版の「黒い手帳」と比較してみると、やはり本書の「黒い手帳」のほうが、文章の凝縮度に不足が目立つ。同じく、本書の「鶴鍋」は、淡々とした物語が、ラストの数行で鮮やかに急転する作品であるが、全集版では「西林図」と改題されていて、「黒い手帳」ほどの相違はないにしろ、「西林図」のラストのほうが文章に磨きがかかっている。

このように、本書の収録短編は、全集版と比べると、どうも物足りない印象が否めない。実は、種明かしは簡単で、本書は初出紙誌を底本とし、全集版は改作後の作品を収録しているのである。十蘭は、美しい文章への執念の炎を燃やし、一度発表した作品を徹底的に改作することで知られる作家である。さきほど引用した「黒い手帳」のラストの改作も、十蘭の苦心の跡がしのばれようというものである。本という本が、出版後あわただしく絶版になっていく昨今、「岩波文庫」といえば、スタンダードとなる名作を廉価で末永く読者に提供するのが一番重要な使命であろう。それなのに、十蘭の苦心に反し、スタンダードとなるべき最終形でなく、初出紙誌で編者が編集した意図は何なのか? この『久生十蘭短篇選』の編集ぶりを知ると、泉下の十蘭が可哀そうだと率直に思う。
久生十蘭短篇選 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:久生十蘭短篇選 (岩波文庫)より
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