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昼が夜に負うもの
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昼が夜に負うものの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点5.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全6件 1~6 1/1ページ
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時代は1930年代以降、作者の祖国アルジェリアを舞台とし、 主人公の生涯を幼年期から晩年まで四部構成で綴っておられます。 この3日間、主人公ユネスの人生の苦悩・せつない恋にくっついて、 濃密な読書生活をすることできました。久しぶりの秀作です。是非! アラブ人の主人公ユネスは、没落した地主の家系に生まれましたが、 (豊作が見込まれた年、農地を)収穫を眼の前に放火されてしまい、 父と母、耳口の不自由な妹とともに、 アルジェリア第二の都市・オランの貧民窟に移ります。 貧窮を極めた生活を脱することはできず ユネスの教育を案じた父は、彼を裕福な伯父夫妻の元へ里子に出し、 ユネスはフランス風のジョナスという呼び名で呼ばれるようになり 新しい生活がはじまります。 しかし、伯父にイスラムの指導者たちの革命運動を支援したという嫌疑がかけられ、 オランからブドウ畑の立ち並ぶ美しい村リオ・サラドへと逃れていきます。 彼はヨーロッパ系社会へとコミュニティを変えながら、 親友も3人できて、楽しい青春時代を送っていましたが、 エミリーとの恋愛問題をめぐって、友情は微妙に変化し、 1954年の対仏独立戦争も勃発して、民族間の対立も生まれて、 彼は元の「ユネス」に立ち戻って、 自らの出自や内面の世界に対峙していかなくてはならなくなります。 彼のエミリーに対する純粋な気持ちと裏腹な 頑ななまでのまじめな姿勢には もどかしく、胸が締め付けられるほど苦しく・・・。 なお、オランは、カミュの『ペスト (新潮文庫)』の舞台であり、 訳者あとがきによると、 作者はカミュの小説を読んで、 フランス語で執筆する小説家を目指したそうです。 | ||||
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他の方が色々書いてらっしゃることでこの作品の真価は十分判ると思うのでここでは私的な感想を述べたいと思います。 一番最初の部分で主人公とその家族の体験する貧困はどのこの時代の世界でも万国共通であったらしく、似たような話は結構多く聞きますが、やはりこのアルジェリアでも相当厳しかったらしいのが判ります。そんな状況でも苦難に立ち向かう主人公をみると、自分の今現在の境遇を顧みて生きる希望を与えてくれて元気がでます。 中盤以降の恋愛に苦悩する所もやはり万国共通の真実を描いていて国、人種、言語、性別に係わらず誰もが体験する問題としてとてもリアリティがあり、主人公の抱える苦悩も他人事じゃない切実な問題として心を揺さぶります。 そしてアルジェリアの独立戦争の所も、そもそも自分の国とは何か、自国のアイデンティティとは何か、という著者の問いかけが聴こえてきて、日本とは、日本人とは、と考えさせられ、その真摯な姿勢に粛然としてしまいます。 著者によると前に書いたものが重たいテーマだったので、少し軽めの物語をと、書いたそうですが、それでも読んだ人一人ひとりに様々な問題を提起してくる素晴らしい作品でした。タイトルは多分人間の営為が行われる朝から昼の苦悩は、夜の営みによって昇華される、なので当たり前の日常を暮らす為にも平和な世界を勝ち取らねばならない、という意味合いだと思いましたが、どうでしょうか。 小説を読む喜びを最大限に味わえる傑作。訳者の方が書いている「アルジェの戦い」という映画も凄い映画で、戦争映画としてお勧めしておきます。 | ||||
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この作品を評そうとするものは、皆戸惑いを覚えるであろう。 複雑な味わい、巧みに配された迷路のような構造、重層的に共鳴しあう文脈の 美しく魅惑的な誘い、それらを作者は気取られないように一行一行の文章の中に 作戦図のように構築するのである。 読み手は、作家の構築した陣地にいつしか誘いだされ、進出する目標を定めようとする、 が、その時に突然読者の全身を照らし出す明々とした不吉な照明弾が 打ち上げられるのである。 作者は、元軍人、元アルジェリア陸軍大佐である。 しかも情報担当将校、したたかである。 と同時に、数多くの他者の死を目の当たりにする、それを日常の生業となし、 最後には輝かしい軍歴を捨てなばならないほどに死が差し迫ってくる、そのような 体験を経た人物である。 ここで私は、ある知人のフランス人を思い出す。 彼は自分のことを自嘲するようにpied-noirと呼ぶ。 幼年時に父に手をひかれ、鞄一つでアルジェの港から船に乗った。 かすかな記憶の中で、今でも銃声と爆発音を聞くという。 彼も含めた家族の苦労を、彼は語ろうとはしない。 冬のブルターニュの海を語る時は懐かしそうな顔をする。 この作品の中で星のように明滅する登場人物、砂漠の夜の如くに美しく、淋しく、孤独であり無力でもある。 星を追いながら砂漠の迷路をひたすた歩み続けてきた人物こそは、作者である。 彼があまり語ろうとしなかった、いや語ろうにも語れなかった月、あるいは地平線に沈んだ太陽こそは この作品の中で貧困と汚辱の中で姿を消していった父であり母である。 作品をノスタルジーに絡めた愛の物語であることを拒絶するものは、この陰惨な逸話であり、これこそが作品の骨格である。 作者にとってのアルジェリアそのものなのである。 | ||||
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文学の持つ力をまた信じてみようかなという気にさせてくれる本でした。 | ||||
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日本において、アルジェリアに関しては良くも悪くもフランス側の視点から入って来る情報量が圧倒的に多い。 フランスへの”移民”としてのアルジェリア人を描くものは多いけれども、日本人の私たちは余程積極的にならないとアルジェリア人視点の考えを知る事は出来ない。 そういう意味では、この作品は、無論小説というフィルターを通してではあるが、裸のアルジェリアを知る事が出来る数少ない優れた媒体だと思う。 アルジェリアでは人種が混在しているだけに、アラブ人でありながら青い目を持った白人の様に見える主人公の様な存在も、普通に存在する。 イスラムとキリストという宗教の対立だけでなく、目に見える”人種”の壁と差別は、アメリカのそれとはまた違う意味を持ち、残酷でもある。 この作品は、凄惨なアルジェリアという国の歴史を背景にしてもいるのだけれども、硬い本では決してない。 少年から晩年にかけての1人の男性の数奇な人生譚であり、とても面白い。 長編ではあるけれども、読み始めるとその訳文の流麗さも手伝い、一気に引き込まれてしまう。 非常にアラブ的と思える、日本人には相容れない激しさもあるにはあるけれども、非常に魅惑的な作品であった。 | ||||
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ヤスミナ・カドラの邦訳3冊目にあたる本書は、メッセージ性を強く前面に押し出した前2作と趣を変え、華麗にして濃厚なロマンに仕上がっている。つくづく、奥行きの深い才能を持った作家だ。 主人公は作者の故郷でもあるアルジェリアのアラブ人の少年ユネス。頑なで誇り高いイスラムの男である少年の父が、何者かの奸計に嵌ったらしく農地を失い、故郷をあとにして都会のスラムへ流れ着く冒頭から、この煌くような表現によって織りなされていく物語世界(訳者に感謝!)にがっしり鷲づかみにされてしまう。息子の行く末を思うがゆえに、父と母は己の肉を切り裂くようにしてユネスを子のない伯父に託す。この伯父は薬剤師として成功し、アルジェリア生まれの仏人の妻を娶ってヨーロッパ風の暮らしを送っているのだ。この時点でユネスはジョナスと仏語風に呼び名を変えて、ヨーロッパ流の教育を受け、アルジェリア生まれのヨーロッパ人の親友たちと共に成長し、少年が一人前の男となっていく過程でありがちなさまざまなことを経験してゆく。なかでも物語の大きな柱となっているのが恋。これがまた大時代な恋というか、すべてが軽薄短小な昨今では考えられないような、命を吸い尽くしてしまうような恋なのだ。青春を謳歌する彼らのあずかり知らぬところで、時代は第二次世界大戦からアルジェリア独立戦争へと進み、ユネスや友人、周辺の人々はみな否応なくその波に呑まれていく。 イスラム世界と西洋世界の双方に足を置くジョナス/ユネスを主人公に据えることで、作者は植民地アルジェリアのねじれやしこりをじつに巧みに浮き上がらせる。美しい面立ちのユネスは、養父である伯父に似て心優しい教養人である。がまた同時に、これも伯父と同じく自らに流れるアラブの血や誇りも忘れてはいない。アラブ人を謗る言動に怒りを覚え、惨めな同胞の姿に心を切り刻まれる。だが、かといって銃を手に奪われたものを奪い返そうとするやり方にはついていけない。彼はいつも煮え切らない。ジョナス/ユネスはいつも軸足が二本、踏みしめたどちらの大地をも愛しているのだ。そんな彼の周囲で事態は容赦なく凄惨さを増し、知人同士が敵味方に分かれて殺しあう。逡巡ばかりのジョナス/ユネスだが、彼なりのモラルはしっかりと持っていて、守るべきものは守る。おそらくはそのために、生涯の恋を逃しもするのだが。。。。 読後、植民地というものの複雑さを改めて思った。奪った土地で三世代、四世代と暮らしてきたヨーロッパ人たちにとっても、そこはいつまでも懐かしい故郷なのだ。くびきを打ち壊して「自由」を得た人々がその後楽園を作るかというと、なかなかそうもいかない。暴力が暴力を産み、一度壊された社会はなかなか安定しない。最後の部分で、フランスを訪れた老齢のユネスが、アルジェリアから逃げ出したかつての友人たちと再会する場面は、切なく苦く、それでいて「許し」の光に明るく照らされている。流された多くの血、苦しみ、涙、暴力、無残な死、憎しみ、恨み。だがそれでも、アルジェリアは皆の懐かしい故郷なのだ。 巧みな語り、見事な表現、小説を読む喜びをたっぷり味わわせてくれるプロット、そして読み終えたあとにはずっしりと心に残るものがあり、さまざまなことを考えさせてくれる。読まないと損をする一冊です。 | ||||
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