虎よ、虎よ!
評判
虎よ、虎よ!の評価:
4.04/5点 レビュー 69件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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舞台である25世紀の世界では交通手段が革新されています。「ジョウント」と呼ばれる精神感応移動(テレポーテイション)で誰もが瞬間移動出来るようになっています。そのおかげで犯罪の多発しています。さらに宇宙圏に進出している人類は内部惑星連合(金星、地球、火星の3つと月)と外部衛星同盟(木星のイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト、土星のリア、タイタン、海王星のトリトンの7つ)で対立し、終わりの見えない戦争が続いています。この魅力的な設定だけでも十分楽しいSF小説が書けるはずなのですがベスターは一人の特殊能力人「ガリヴァー・フォイル」を復讐の鬼として登場させ、さらには世界を一瞬で破滅できる最終兵器「パイア」の争奪戦へと物語を加速させます。
主人公・ガリヴァー・フォイルは、貧民街育ちで、この世界では下流な階層の粗野な人物、最初は爆破されて遭難した宇宙輸送船「ノーマッド」を操縦する最後の生き残りとして登場します。彼は半年間一人で宇宙を漂流したあと、ついに「ヴォーガ」という同じ会社の宇宙船が通りかかったので狂喜します。ところが「ヴォーガ」は「ノーマッド」を認識しながら何故か無視し見捨てます。その深い絶望とヴォーガへの復讐心が、凡庸な三等航海士に過ぎなかったフォイルを、強固な意志を持つ男へと変え、この後世界を揺るがす厄介者とさせるのです。
ここまでが導入部ですが、「ヴォーガ」を恨むのも筋違いで、そもそも「ノーマッド」が遭難するに至る原因である、攻撃してきた敵の戦艦を恨むのが本筋じゃないかと思うのですが・・・・こんな風にストーリー中にちょいちょい不自然で無理やりな展開があるのですが、これには目を瞑って話を続けましょう。
このあとサーガッソ小惑星群に住む旧科学人により救助されるフォイル(なんだ結局助かるなじゃないか)ですが、旧科学人たちの奇怪な風習により、顔に虎のような模様を刺青されます。(これが結局題名「虎よ虎よ」の謂れになるのですが、この風貌と彼の活躍、ストーリー展開にはなんら影響を与えない不思議で不要なエピソードです)。
彼らの元を脱出したフォイルは、ヴォーガとそれを所有するクリスタイン財団への復讐のために動き始めるのですが、実はフォイルには彼自身もまだ気付いていない特殊な能力があって世界中から追われる存在となっていきます。フォイルの真の敵は誰でその復讐は果たされるのか?フォイルの謎の能力と最終兵器「パイア」の発動はどうなるのか・・・。といった興味がてんこ盛りのSFサスペンスとなっております。
さてラストでは彼の隠れた能力が卍解(ばんかい)しますがその表現に添付写真のような「タイポグラフィ」が使われます。筒井康隆先生が実験的に使った手法(七瀬シリーズ)のオリジナルかもしれません。文章では
遠方でカチャカチャという足音が縦になった北極光の柔らかいパターンになって眼に入ってきた。
というような表現になっています。フォイルが「共感覚」という特殊な知覚現象を体験している様子を描写しているのです。
小説中に出てくるジョウントや加速装置(サイボーグ009、島村ジョーの必殺技)などのアイディアは本当に素晴らしいだけに、この25世紀のベスター世界を詳しく著す長編にしたほうが面白いと思えました。アイディア200点、テンポ100点、翻訳100点ですが、プロット50点、文章力50点で残念です。アイデアだけは飛びぬけて素晴らしいのでもっと尺の長い小説として読んでみたいと残念です。