春にして君を離れ
評判
春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全411件 301〜320 16/21ページ
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春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
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ごく普通の妻として母として主婦としての立場からは、夫が安定しステータスにも恵まれた職を投げ打って成功も覚束ない事業を始めると言い出したら当然必死で止めるでしょうし、娘が不倫に走ったり、筋の良くない友達や彼氏ばかりと付き合っていたら必死で説教するのは当然ですし、家計を割いて雇っているメイド達には極力完璧な仕事と成果を求めるでしょうし、周囲の殆どもそういう彼女に味方し同情することでしょう。そして、この彼女は夫を世間的に成功させ、子供たちも相応しい伴侶を見つけることができ、彼女自身も友人のように身を持ち崩すことも、知人の妻のように貧困と病苦に斃れることもありませんでした。それは間違いなく彼女の実力の証であり選択の成果です。
だからこそ、彼女の、彼女のような人たちの自己逃避や自己欺瞞を指摘するのは並大抵の人間や努力ではまず不可能ではないでしょうか。おのれの自制心や克己心の乏しさ故に失敗を犯し現実に背を向けてしまう人達の弱さなら簡単に批判できても、なまじ能力や魅力に恵まれている人達がまさにその能力や魅力ゆえに自身の欠陥と向き合うことがない、もしくは向き合わなくて済むように「正しさへ」「現実へ」逃避できてしまうものなのだとは思いも寄らないのではないでしょうか。それこそアガサ・クリスティのような人、およびそういう人が創りあげたこうした作品に触れた人間では無い限り…。
そして、このような逃避や欺瞞に陥りがちなのは決して(一部の、ある種の)女性だけではないということは、終盤近く、一見ストーリーとは脈絡無く唐突に登場するロシアの公爵夫人によってより明らかになります。この夫人はドイツによって引き起こされる大戦(※この作品が出版されたのは1944年)とその顛末を予言し、主人公はそれを信じず直ちに否定するのですが、どちらが正しかったのかは現在の私たちは知っています。この当時にドイツ帝国を支配したナチスは、まさに「心身共に美しく健全で、有能で、勤勉で、おのれの義務に忠実で、愛情と自負に満ちた」、まさにジョーン・スカダモアのような人々によって主に形作られ、支持されていたのですから。
こうした鋭く、恐ろしくかつ厳しいテーマをこれ以上無いほど容赦なく描ききりながらも、秀逸なサイコサスペンスでありながら一級のホームドラマ、そして哀切な恋愛小説であり、そしてやはり最上のミステリーとして仕上げてみせたクリスティの力量にはただただ敬服あるのみです。