ヒューマン・ファクター

【この小説が収録されている参考書籍】

評判

ヒューマン・ファクターの評価:

4.14/5点 レビュー 42件。 C ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.14pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全52件 21〜40 2/3ページ
No.32
(5pt)

良いものは良い

イギリス情報部の極秘事項がソ連に漏洩した
スキャンダルを恐れた上層部は、秘密裏に二重スパイの特定を進める
古株の部員・カッスルはかろうじて嫌疑を免れたが、同僚のデイヴィスは疑惑の中心に
上層部はデイヴィスを漏洩の事実ともども闇に葬り去ろうと暗躍する
追う者と追われる者の心理を鋭く抉るスパイ小説の金字塔

スパイ小説によくある派手なアクションや撃ち合いはありません
愛する女性と子供を守るため、主人公・カッスルの祖国を裏切らざるをえない心の内面を捉えた優れた人間ドラマといえると思います
でも、ドキドキワクワク感は十分にあります
特に終盤、カッスルがモスクワへ逃亡するあたり
味方はいるのか?
誰が味方なのか?
どうやってイギリスから脱出するのか?
カッスルの妻と子供は無事なのか?

最初に翻訳が出たのは1979年のこと
本書が描かれたころ
ソヴィエト連邦という国家が存在し東西冷戦が続いていました
それが過去の歴史となり今日のような世界がやってくるとは、想像もしませんでした
グリーンの力によるところもありますが、現代や近未来を描いたものより余程面白い作品だと思います

小林信彦さんや結城昌治さんも絶賛されているようです
久々★x5の作品に出会えました^^
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.31
(4pt)

後世に残るべき小説

前訳と今回の新訳と二回読みました。読後も長く心に残る重厚な小説だと思います。傑作がいつもそうであるように、シンプルな主題を重層的に語りこんで、あり得る世界を強く響かせて読者それぞれの思考のスイッチを入れてくれます。冷戦時代という特異的背景を利用しながら、普遍的なテーマを提示するのは、この作者の特徴でしょう。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.30
(5pt)

真の人間性とは何かを問う傑作スパイ小説

機密情報が流出したイギリスで二重スパイの追及が始まり・・・というお話。
派手なアクションや巧緻な謀略の一切ないスパイ小説。ただひたすら二重スパイに疑われた主人公の日常が淡々と進行していく物語。そんな小説が面白いはずないじゃねぇかと思われるかもしれませんが、やたら面白い。ことに、アフリカ系の妻と血の繋がっていない息子との交情シーン等は忘れがたい心象を残します。それと平行して描かれる、主人公の苦悩もリアリティがあり、国や時代が違っても納得できる心情が描かれている所にこの著者の非凡さを感じます。一応、分類上はスパイ小説ですがそのスパイの祖国を裏切る葛藤を描いている所から察するに心理小説の趣を感じました。

ここから下はネタに触れます。

嘗て「コンプリート・ディーン・クーンツ」の中で宮脇孝雄氏がクーンツをカトリックでその信仰が強固な基盤になって小説を執筆しているのではないかと述べられていましたが、このグリーンもカトリックだそうでこの人の場合もそこら辺りにこのような傑作を書けた秘密があるのではないかと思われますがどうでしょうか。「キリストが人間の原罪を背負って死んでいってくれたおかげで、われわれの内面jは悪から解放された」というのがカトリックの考え方だそうですが、この小説の場合、悪の在処がイギリス或は国家でそこからの解放の為に主人公が一人の人間として国より家族を大事に思うあまり二重スパイになったというのが私のこの作品を読んでの感想ですが、的外れかもしれないし当たっているかもしれません。まぁこの辺は読んだ人によって解釈が多重になると思うのでご寛容にと思います。また、昔日本の有能なれど潔癖で敵の多い官僚が事務次官になりそうだったのに政治に阻止され、去り際にその官僚の奥さんが我らの道は神の道にある、という感じのことを述べたという話を思い出しました。
スパイという卑しい職業を通じて真の人間性とは何かを問いかける傑作小説。是非ご一読を。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.29
(4pt)

人間の条件を問うたシリアスな作品

ソ連に情報を漏洩していた英国人スパイ、カッスル。彼はアフリカ駐在時代に黒人女性と結婚し、まさに正義感からアフリカを
救うために、ソ連に情報を流していた。人間として最低限のことをしたと信じている彼にとって、スパイとは、祖国とは。
スパイ小説というよりまさにその題名どおり、人間の条件を問うたシリアスな作品だ。やはり、時代を代表する作品である
ことは間違いない。だが、同じ題材を扱ったルカレのジョージ・スマイリー3部作と比べて、娯楽性はもとより、作品自身の深さも
劣るように思う。ルカレの日本での評価は余りにも低すぎると逆に思わざるを得ない、そのことを気付かせてくれた作品
である。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.28
(3pt)

敵を欺く仕掛けもの、面白いけど飽きも来る

仕掛けものといってよいスパイものであるが、全編に腹の探りあい的な風潮の独特の雰囲気があり、面白いけど腹いっぱいになりやがて飽きてきます。
ヒューマン・ファクター (1983年) (ハヤカワ文庫―NV) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (1983年) (ハヤカワ文庫―NV)より
B000J793S4
No.27
(3pt)

敵を欺く仕掛けもの、面白いけど飽きも来る

仕掛けものといってよいスパイものであるが、全編に腹の探りあい的な風潮の独特の雰囲気があり、面白いけど腹いっぱいになりやがて飽きてきます。
ヒューマン・ファクター (1979年) (Hayakawa novels) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (1979年) (Hayakawa novels)より
B000J8FL7A
No.26
(3pt)

敵を欺く仕掛けもの、面白いけど飽きも来る

仕掛けものといってよいスパイものであるが、全編に腹の探りあい的な風潮の独特の雰囲気があり、面白いけど腹いっぱいになりやがて飽きてきます。
ヒューマン・ファクター (ハヤカワ文庫 NV 342) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (ハヤカワ文庫 NV 342)より
4150403422
No.25
(5pt)

新鮮

スパイ小説というのはこういうものもあるのか、と感心した。グリーンの小説はこれがはじめてだが、他もぜひ読んでみたい。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.24
(4pt)

本格的スパイ小説.一読の価値あり.でも池上冬樹氏の「解説」が無いのは何故?

グレアム・グリーンの小説「ヒューマン・ファクター」を読了.本格的スパイ小説.モーリス・カッスルは英国MI6の情報部員.アフリカの情報を受け分析しまた返事を送る穏やかな日々.しかし,彼は南アフリカ駐在時,工作員として使っていた黒人女性セーラと恋に落ちた.アパルトヘイト下の南アフリカでは重罪である.モーリスは南アフリカ情報部の裏をかいてセーラを脱出させ,自らも帰国してセーラと結婚した.今は息子サムと3人で暮らす.ところが彼の部署で情報の漏洩が発覚した.二重スパイは誰か,監査部の調査が始まる….監査部員とのとりとめも無いしかし緊張感に満ちた長く続く会話等,語り口のうまさは言うまでも無い.小説の初めではデスクワーカーに過ぎないと思われたカッスルの意外な過去,そして現在のカッスルの状況が次第に明らかになっていく.しかしスパイとは何と悲哀に満ちた職業だろうか.日々緊張感に耐えられず酒を飲み,次第に蝕まれていく心.セーラを心から愛しつつ,しかし自分の葛藤を彼女に漏らすことすら出来ないカッスルの苦悩が,胸に迫る.小説の最後の,舞台劇で言えば暗転の様な唐突な幕切れも,印象的だ.一読の価値あり.Kindle版で読んだのだが,レビューでは評判の良かった池上冬樹氏の解説がKindle版には無いことに気がつく.そういえばKindle本では基本的に解説が削除されている様だ.これは何故か?
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.23
(5pt)

味わい深い

派手さはないのに続きが気になり一気に読んでしまいました。
面白いだけでなく、非常に味わい深い文体です。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.22
(1pt)

人はスパイになる必要はない。

25年くらい前に読んだ時、グリーンは偉い作家なのだと思っていたから、あまり面白くなかったが面白いのだと思い込もうとした。だがやっぱり面白くない。スパイの悲哀ってあんたそりゃスパイになれなんて誰も強要してないんだからさ、という気しかしない。人間がスパイにさせられるわけじゃないってことを、スパイ小説を読む人は忘れているが、だいたいグリーン自身がスパイだったわけで、スパイでなかった人間が共感する必要はないのだ。また長いしね。
ヒューマン・ファクター (1983年) (ハヤカワ文庫―NV) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (1983年) (ハヤカワ文庫―NV)より
B000J793S4
No.21
(1pt)

人はスパイになる必要はない。

25年くらい前に読んだ時、グリーンは偉い作家なのだと思っていたから、あまり面白くなかったが面白いのだと思い込もうとした。だがやっぱり面白くない。スパイの悲哀ってあんたそりゃスパイになれなんて誰も強要してないんだからさ、という気しかしない。人間がスパイにさせられるわけじゃないってことを、スパイ小説を読む人は忘れているが、だいたいグリーン自身がスパイだったわけで、スパイでなかった人間が共感する必要はないのだ。また長いしね。
ヒューマン・ファクター (1979年) (Hayakawa novels) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (1979年) (Hayakawa novels)より
B000J8FL7A
No.20
(1pt)

人はスパイになる必要はない。

25年くらい前に読んだ時、グリーンは偉い作家なのだと思っていたから、あまり面白くなかったが面白いのだと思い込もうとした。だがやっぱり面白くない。スパイの悲哀ってあんたそりゃスパイになれなんて誰も強要してないんだからさ、という気しかしない。人間がスパイにさせられるわけじゃないってことを、スパイ小説を読む人は忘れているが、だいたいグリーン自身がスパイだったわけで、スパイでなかった人間が共感する必要はないのだ。また長いしね。
ヒューマン・ファクター (ハヤカワ文庫 NV 342) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター (ハヤカワ文庫 NV 342)より
4150403422
No.19
(5pt)

スパイ小説の金字塔

元MI6のオフィサーであったグリーンが、元同僚でありソ連の二重スパイであったフィルビーをモデルに描いた傑作。スパイものといっても007のような安っぽい派手さはまったくなく、二重スパイが追い詰められていく様が見事に描かれている。主人公のカースルは、グリーンがモラリストと評したフィルビーそのものだ。二重スパイは自分の国家を裏切らなければならない。しかし国家とまではいかなくとも、家族や友人を裏切ったことのある人間とフィルビーはどう違うのか―グリーンの主張はこのあたりにあったのではないだろうか。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.18
(5pt)

無駄のない文章とストーリー

解説で、脚本的と評されているように、淡々とした、しかし画面に常に緊張感が溢れているような映画を見ているような感じで読ませられる小説です。淡々とした描写、大きなことが当初、特に何も起こらないストーリー、しかし一人一人の登場人物の描写が端的で、象徴的であって、一場面一場面、何か大事なものが見落とされているのではないかという不安感と緊張感が支配しています。一気に読みました。後半は動きが加わり、場面展開も早くなるのですが、ここはここで、くるくると凄いスピードで場面が変わり、息つく暇もありません。そして一気にクライマックス。秘密の組織で生きる人々とその家族の模様が描かれていて、その人間模様が悲しく、興味深いです。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.17
(5pt)

友人フィルビーのための個人的小説

【フィルビーとグリーンの職歴について】1930年代、スペイン内戦時、英国情報部は自国の元コミュニストを大量採用した。ファシズムを共通の敵とするソ連と連絡を円滑にする為である。便利な存在だが場合によっては二重スパイになりえる場合もある。裏切りモノの処置は通常、以下となる。前回盗難情報の信頼性を落とす為、まず処刑を脅迫に三重スパイとなる事を強制される。敵が応じて四重になれば、さらに味方は五重スパイとして利用する。裏切りは借金であり、債権者は自殺は赦しても破産は赦さない。その惨めさは多重債務者のそれに似て、債務の増加は人間性を破壊し廃人に追い込む。1944年初頭、当時、上記事情で英国情報部に雇用済みのオックスフォードの元左派学生、グレアムグリーンは、直属上司ケンブリッジの元左派学生キム・フィルビーから「もっと偉くなり、上席を追い出して所属課を乗っ取ろう、僕らにはその才能がある」と誘われる。グリーンもフィルビーも互いの共産シンパの経歴は知り抜いている。だが英国情報部とは・・・英露100年戦争の元締め、ロシア革命を死産に終わらせようとしたソ連の敵の親玉である。課をのっとる事は、戦後、ソ連と戦うことであり、自身の青年時代の理想主義を完全否定することにつながる。論理的には、当時、以下(A)(B)の疑問がグリーンに生じると思う。(A)目前のフィルビーは理想を捨てた出世目当ての安い男なのか、(B)青年時代の理想の追求と、理想に敵対する英情報部内の出世が矛盾しない「共通解答」なのか。グリーンがいずれの解答を、友人の肌感覚で得たか不明だが、44年6月4日グリーンは情報部をキャリアの絶頂で突如辞職する。その19年後、フィルビーは亡命(1963)、「解答(B)英国情報部に潜入のソ連のモグラ」だとモスクワで記者会見を開く・・・。【本書について】いかに作者が否定しようと本書(1978)は、フィルビーをモデルにしていると思われる。主人公の婚歴は、1934年、逮捕寸前の女共産主義者を偽装結婚で、ウィーンの反共警察から救い出したフィルビーの義侠心を連想する。その仲間の縁故で、ロシア情報部管理官に雇用される過程もそのままに見える。なら小説のラストで、自身の正義の証であった妻子を英国に抑留人質に取られる孤独、主人公が亡命先でロシア人から示唆される「君はもっと大きなスパイゲームの駒に過ぎなかった」は、何らかの実在の歴史の反映ではないのか。例えばサタデイイブニングポストが1964年2月15日号で私見した「(彼は最後までスパイを自認しなかったが)フィルビイの正体は1951年に暴露された。以降、彼は情報部を馘首され、家族も養えぬぎりぎりの貧困のなかで英情報部の何らかの復讐的情報戦に利用された。その恐怖に耐えられず1963年にソ連に亡命した」などではないかと、評者は思う。本作で描かれるのはル・カレ風の「祖国を裏切った怪物」ではなく、青年時代の理想と侠気から危険なスパイゲームに手を出し破滅していった個人の記録である。グリーンもフィルビーも二重スパイの末路は、<実務者>としてよく知っていたはずである。ゆえに44年6月、グリーンは元共産シンパとして危険性を察知し、冷戦前夜の情報部を辞職したかと評者は想像する。作中、情報部の残酷なスパイ狩りに憤り、辞職を考察する大佐の心境がある。あるいはその描写に一部合致すると思う。さらに論理的には・・・44年初頭、グリーンは「知っていた」のではないか。上席人事部への<告戒義務>を避ける為に、罪の覚知前、共犯前、リクルート前、カソリックらしく辞職したのはないか・・・とも思うが無意味な憶測か。この小説はグリーンの友人への慰撫であり、鎮魂である。大変個人的な小説で、あるいは亡命直後の1963年中には書き上げたが、78年まで出版を見送ったとする風聞もある。本当かも知れない。86〜88年、ゴルバチョフの許可でモスクワで2人が再開し、代わらぬ友情を保てたのと、内容的には矛盾しないと思う。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.16
(4pt)

文学作品を読了した印象が残る

週刊文春1979年 総合6位イギリスの諜報機関に勤めるカッスルは、前任地南アフリカからつれてきた妻セイラと息子サムとともに、変化の乏しい、つつましやかな日々をおくっていた。あるとき、上層部で情報漏洩事件が見とめられ、 徐々に同僚のディヴィスが疑われることに・・・62歳の老境にさしかかったカッスルの日々の行動を中心に、ストーリーは淡々と進んでいく。派手なアクションは無縁だが、登場人物の心情が細やかに描かれていて、作品の世界に入っていきやすい。翻訳がすばらしいということなのだろうが、場面、場面を、まるで絵を見るかのように想像することができる。ジョン・ル・カレのスマイリー三部作も、一般的な職業人としてのスパイを扱っているが、本作品の方が、登場人物の悲哀を感ずるところが大きい。特にラストの唐突ともいえる終わり方は、ミステリーというより文学作品を読了したような、強い印象を残す。カッスルの”釣り合いをとる”という人生観は、個人的にも共感するところがあるんだよなぁ。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.15
(5pt)

「私は人間観察が得意です」という奴にろくな人間はいない

罪とは何か。本書を読了して考え込まずにはいられなかった。この小説のなかで、二重スパイの母親は息子のことを吐き捨てるように言う。「あの子は祖国を裏切ったんです。」対して、スパイの妻は言う。「彼は一度、わたしが彼の祖国だと言ったことがあります−息子も含めて」。この主人公はダブルバインドを負っている。しかしそれは、帯にあるような「祖国と、妻の祖国」ではない。言うならば、個人が自由に幸福を追求して生きるうえで、祖国への忠誠から逸脱せざるを得ず、その結果、最優先していたはずの「幸福」を失うことになるという複雑な二律背反を描いたものである。東西冷戦の時代の二重スパイを描いてはいるが、東西どちらの陣営をも肯定・否定はしない。モスクワの生活の厳しさが描かれるが、スパイの母が暮らす「リベラルで、礼儀を重んじるサセックス州」の冷たい描かれ方を見れば、グリーンがこのテーマをいかに慎重に扱っているかがわかる。罪はどこにあるか。何を侵せば罪人となるのか。法か、国家か、家族か、己の良心か。そのテーマを中心に、ストーリーは丁重に展開する。ラスト近くには、主人公が行った諜報活動についてのあるどんでん返しが待っている。刮目すべきは、個々の描写の巧みさだ。人物の小さな動きを記すことは、時に、千言万語をつくして心情を述べるよりも印象に残る。スパイ小説ではあるが、放縦なセックスやバイオレンス、ゴージャスなブランドネームは出てこない。作中、「イアン・フレミングは暴力的すぎる」というセリフがあるのがちょっと笑えた。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.14
(3pt)

ミステリ・ファンからすると…

「スパイ小説の金字塔」の帯は期待を裏切りません。ただし、イワン・フレミングの007シリーズのような冒険活劇では決してありません。お間違えのないように。切なく・哀しい物語です。祖国と妻の母国との間で、揺れ動く二重スパイの葛藤の物語です。主人公カッスルが忠誠を誓うべき祖国を裏切る端緒が家族への愛だったことに安堵するはず。心のひだにしみ入るようなスパイ小説ですから、心落ち着けて読んで下さい。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X
No.13
(4pt)

スパイ小説というレッテルは不適切

本書では情報機関で働く人間達が主に登場するので、本書は「スパイ小説」として位置づけられているが、これは不適切であろう。確かに本書はスパイ小説としても楽しめる。徐々にプロットが明らかになっていく様は見事で、主人公が二重スパイであることが分かったり、意外な人物がソ連との連絡役だったりするなど、最後まで読み物として楽しませてくれる。 しかし、本書は文学としての性格をより強く持っている。家族と国家への愛、信仰の問題など、本書の主題は明らかに文学的なものなのである。特に家族と国家の狭間に立たされた筆者の葛藤の描写は見事の一言に尽きる。 また、本書は訳も優れている。じつに自然で、こなれた和訳である。
ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)より
415120038X