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チェイシング・リリー



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チェイシング・リリーの評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.50pt

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全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

コナリー版『幻の女』

コナリーのノンシリーズである本書はIT業界の若き社長ヘンリー・ピアスを主人公にした、消えたエスコート嬢の行方を追うミステリだ。

まず本書の題名はそのままピアスに間違い電話が掛かってくる原因となったエスコート嬢に電話番号を変えてもらうために探す内容そのままだが、原題は“Chasing The Dime”。直訳すれば「十セント硬貨を追って」となるが、これは将来高性能コンピュータが十セント硬貨ぐらいの大きさになることが予想されており、それを実現させたものが次世代のコンピュータ産業を制することになることから、コンピュータ技術者たちが鎬を削っていることを示している。それがIT産業でナノコンピュータの分野である分子コンピュータ開発で一足先に抜きんでいるピアスを取り巻く現状を表している。

まず驚くのがコナリー作品とは思えぬほど、全体的に軽みがあることだ。それは本書の主人公ヘンリー・ピアスはこれまでのコナリー作品では考えられないほど、浅薄で未成熟な人物として映ることに起因していると思われる。

34歳の新進のIT企業の若き代表は会社の部下の1人だったニコールという女性と別れ、未練たらたらな状況を変えようと彼女と住んでいた家を出て新しいアパートメントに移るが、新しい電話番号にはひっきりなしにエスコート嬢のことを尋ねる電話が掛かってくる。気になって調べたところ、これが飛び切りの美人で、自分と同じ電話番号をサイトから削除してもらうよう頼むためと口実にして消えた彼女の行方を追う。
若くしてIT業界の寵児となったために女性経験が浅い男の、実に青く身勝手な捜査なのだ。そしてその我儘な捜査に周囲の人間も巻き込まれて辟易する。

つまり他者との距離感に対して非常に鈍感で、自分の目的達成のためにどんどん他人のプライヴェートな部分にも踏み込んでいく。特にリリーの行方を追うために情報提供と協力をお願いするロビンは彼の行動が原因で自分も手ひどい目に遭う。それに責任を感じるピアスは何もできやしないのに助けると親切の押し売りのように何度も連絡を取り、終いには相手の怒りを買ってしまう。

更には過去に犯した悪戯半分の犯罪歴によって逆に刑事に失踪者捜しを装った失踪者殺人の容疑者として目を付けられ、窮地に陥ることになる。

更にはロビンとリリーがエロサイトに掲載したSMシーンを会社のPCで食い入るように見ているところを秘書に見られて、秘書の解任を求められるなど、いわゆる社会人としての常識に欠けた所が多々見られる。

このように技術オタクの若造が社会不適合者ぶりを発揮して自己中心的に振る舞い、周囲の目に気付かずに狼狽する様子がアクセントとして織り込まれ、ユーモアを醸し出しているため、私はてっきり彼が追っているリリーも元締めによってどこかで消されたと思わせつつ、物語の最終で元気な姿で登場し、そしてこのサエナイ君と最後は恋人となる予感をはらませてハッピーエンドを迎えると云うお気楽ミステリのように考えていたが、やはりコナリー、そんな非現実的なロマンティック・コメディを一蹴する。

リリーは結局遺体となって発見される。しかも何者かによってピアス名義で借りていたトランクルームの中に置かれた冷蔵庫の中に保存されるような形で。しかもそのトランクルームは6週間も前に借りられていた。
つまり一連の電話番号がエスコート嬢のそれと同じであることから始まる騒動はピアスを陥れるために仕組まれた罠だったことが判明するのだ。

窮地に陥ったピアスはこれが姉の死を模したものだと察し、その死について知る者こそが今回の一連の工作を実行した者だと推理する。

さてコナリー作品にはハリー・ボッシュシリーズを軸にしたいわゆるボッシュ・サーガが繰り広げられるが、ノンシリーズである本書も例外でなく、まずリリー殺害の容疑を掛けられた主人公のヘンリー・ピアスが紹介される弁護士はジャニス・ラングワイザーである。
彼女は『エンジェル・フライト』でボッシュと組んだ後、『夜より深き闇』でボッシュが手掛けた事件の次席検事補として登場し、華々しい活躍を見せ、読者に強い印象を残した人物。その後彼女は検事を辞め、刑事弁護士に転職したことが判明。そして彼女からは前作『シティ・オブ・ボーンズ』でのボッシュの―具体的に名前は出ないにせよ―退職も明かされる。

しかしシリーズのリンクはそれだけでなく、もっと驚くのピアスがなんとドールメイカー事件と関わりがあったことが判明することだ。

このことから本書はその他大勢として片付けられる人物にも一つの人生があり、そしてその人の死によって人生を変えられた人がいることを1つの作品として描いていることが判る。
やはりこれは9・11の同時多発テロで多くの尊い命が奪われたことに対する、コナリーなりの追悼の書と云えるだろう。大量死の中に埋もれた人々に名を与え、そしてその人の人生と遺族の人生を語ることを強く意識していると思われる。

インターネットが普及した時代でも幻の女を探すのは非常に困難であることが解る。しかし昨今のウェブ事情、町全体に仕掛けられた監視カメラやGPSなどの位置情報システムを駆使すればもっとたやすくなっており、ドラマ『CSI』を観ると実に鮮やかにミスター/ミスXの身元は明かされていく。
本書はインターネットが普及し始めた頃だからこその『幻の女』だった。
美しさを武器に大金を稼ぎ、母親に仕送りをしていた娘の結末にコナリーはあくまでも現代アメリカの残酷な現実を突きつける。

チャンドラーを敬愛し、その影響を包み隠さず自作に反映し、そしてロス・マクドナルドばりのアクロバティックなサプライズを物語に取り込む、まさに現代ハードボイルド小説の雄コナリーがノンシリーズで挑んだのはアイリッシュの変奏曲。
しかもそれを現代風にアレンジし、いささか軽めのテイストで信仰させながらも、やはり最後はコナリー独特の苦みを残す。

本書を最後にノンシリーズは書かれていない。いわばボッシュシリーズを幕を下ろそうとして新たな作風を模索していた頃の作品だ。
この後リンカーン弁護士シリーズという新たな地平を見出し、ボッシュシリーズと並行して書いていく。
本書はコナリーがそこに至るまで暗中模索、試行錯誤しながら著した非常に珍しい作品だ。現代ハードボイルド小説の第一人者として名高いコナリーもそんな時期があったことを示す貴重な作品としてファンなら読むべきであろう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(4pt)

マイクルコナリーの小説は殆ど読んでいますが

この小説は全く頂けませんでした。
どうしてこんな野暮な?ミステリーを書いたのでしょう??そちらの方がミステリーでした。

ももか
3UKDKR1P

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