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(短編集)

裏窓: アイリッシュ短編集3



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【この小説が収録されている参考書籍】
裏窓―アイリッシュ短編集 (3) (創元推理文庫 (120-5))

裏窓: アイリッシュ短編集3の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

有名な表題作が実は…

ヒッチコック映画であまりにも有名な「裏窓」をタイトルに冠して編まれた短編集。今回秀逸なのはやはり表題作と「いつかきた道」、「じっと見ている目」、「ただならぬ部屋」の4編を挙げる。

表題作については贅言をつくす必要はないだろう。裏窓から人間観察をすることで毎日を過ごす男がある日、病弱の妻が住む一角に妻が現れないことが気になって犯罪の発生を疑うというもの。
ヒッチコック作品をじっくり観たことはないが、何かで植えつけられた先入観のせいか、覗き見をする男ハルは貧弱で一握りの勇気しかない男だと思っていた。しかしこの作品では元刑事の不屈の男だった。覗かれている男が覗いている男に気付いて追い詰めていくというストーリーも実は全くの逆であったことも今回判った。アパートの窓の数だけ生活があるという書き方は群像劇が得意のアイリッシュらしい書き方だ。でも今のご時世ではこのハルの行為は全くの犯罪だなぁ。

「いつかきた道」は異色の作品。ある先祖を尊敬する少年がやがてその先祖そっくりに成長し、旅に出たときに初めて来る地にもかかわらず、細かなことまで判ってしまう。それはあたかも先祖が乗り移ったかのようだったというもの。
つまりは先祖が乗り移り、かつて先祖が愛した女性を迎えに行くという話なのだが、時世は現代で恋人は待ち人というのがちょっと理解できない。でも決闘シーンなどメタ歴史物とでもいう設定も手伝い、ロマン溢れる一篇になっている。

「じっと見ている目」は全身麻痺で息子夫婦の世話になりながら暮らす老女が妻の企てる殺人計画を聞き、どうにか息子に伝えようとする。しかし、犯罪は成就し、妻は愛人と再婚するがそこに現れた無一文の青年が老女の世話をしだすことで犯罪が露見し始める。
典型的なアイリッシュ作品。全身麻痺で口も聞けない老女がどうにか息子に殺人計画を伝える辺りは文章の力を強く感じた。刑事が手掛かりを掴むのが早いような気がするが、短編だから仕方ないか。

「ただならぬ部屋」はホテル探偵ストライカー物の一篇。これがシリーズ物なのかは現時点では知らないが、アイリッシュには珍しく密室殺人を扱った本格ミステリとなっている。
セント・アンセルム・ホテルでは913号室に宿泊する客が相次いで自殺するという怪事が続いていた。ホテルの保安係を務めるストライカーは警察の雑な捜査に業を煮やし、自らの身を以って真相を明かそうと宿泊客に変装して913号室で一夜を明かそうとするのだが。
他の短編と違い、飛び降り自殺に見せかけた殺人が都合4件起きるのだが、これをかなりのタイムスパンで100ページもの分量を費やして語る。これはストライカーの人と成りを示すために必要だったのだろうか?でもストライカーの執念とか物語の怪奇性とかは読ませるし、次作が愉しみな好編だ。

しかし以上の4編以外がつまらないというわけではない。「死体をかつぐ若者」は余命いくばくもない父親が浮気性の妻を殺害した事件を息子がアリバイ工作にて上手くごまかそうとするもの。アイリッシュの「遺贈」という作品では死体が車に乗っていたがために逮捕される窃盗犯の話を書いたがこれはその別パターン。

世評でよく聞く「踊り子探偵」は親友のダンサーの殺人犯人をダンサーが突き止めようとする話。アイリッシュの台詞の上手さが光る一品。世間では認知度高いが内容はさほどではなかった。

「殺しの翌朝」も最後の幕切れがアイリッシュの上手さを現している。不眠症の刑事が気付かないうちに殺人を起こしていたという話。アイリッシュ・サスペンスの、どう考えても窮地に陥った主人公の犯行としか思えない状況に追い詰めていき、アクロバットなトリックで実は・・・という常道をあえてそのままストレートに落ち着かせた。

「帽子」は帽子の取り違いから起きた殺人事件の話。殺害される男が帽子を店員に預けるのを断るのに「外は風が強く、帽子がないと風邪を引いてしまうからだめだ」というのには笑った。この辺の無理が最後までのめり込めなかった一因だった。

「だれかが電話をかけている」は 10ページにも満たないショートショートといってもいいくらいの作品。単純なストーリーであるがゆえに最後のオチが効いている。

前作が読み捨て小説の書き殴り感を強く感じたのに対し、今回は物語に起伏があり、読み応えがあった。昔の作品だという感覚は拭えないのは仕方はないにせよ、もう1つ心に残る作品があれば傑作になっていたと思う。


▼以下、ネタバレ感想

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