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遥かなり神々の座



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遥かなり神々の座

遥かなり神々の座の評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
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No.1:
(7pt)
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山男には惚れるなよ

「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公滝沢育夫。定職に就かず、故郷の帰省に費やす交通費を惜しんでまで登山にのめり込む男。挙句の果てに6年待たせた恋人、君子にも愛想を尽かされ、その夜寝る場所にも困るような男だ。
もはや身体も心も快適な日本よりも過酷なネパールやインド、チベットに馴染むようになっている。登山家(クライマー)として一流の登山技術と抜群の高所順応能力を持ちながら、7回の遠征において一度も登頂者(サミッター)になれず、遠征のたびに仲間が死んでいく事から山仲間の間では「死神」という仇名を付けられる。
この人物造形は本書の扉裏に付けられた著者近影にそのままイメージが重なった。著者の谷氏自身、クライマーであるのだが、滝沢=著者という短絡的な想像はやめておいた方がいいだろう。恐らく著者の数ある登山仲間をそれぞれ寄せ集めて作られた人物に違いない。

この滝沢という男が物語で一介のクライマーから殺しを厭わない兵士へと変貌を遂げていく。元々クライマーとしての能力が高く、辺境で生き延びる術を知っている彼。
そして今までの登山で他人の死に直面してきた経験から、瞬き一つせずに殺しを行えるという設定は納得がいく。無論、それがそのまま殺しの才能に結びつくわけでないのは作者も承知の上で、その辺の説明にはぬかりは無い。

そして、この滝沢を巡る2人の女性、君子と摩耶。この2人を物語に導入したことに作者の技量を感じる。
外国への登山遠征を重ねる滝沢に愛想を尽かしながらも、ほっといては置けない母性本能を感じる君子と、ネパールでも現地に溶け込んで暮らしていける女の強さを備えた摩耶。男からの独立を望みながらも依存してしまう女と、男に自分に似た匂いを感じ、パートナーとして対等に扱う女。冒頭に現れるこの2人の女性が物語の終盤に意外な形で滝沢と再会するのだが、それぞれの結末の付け方も憎らしい。

そして忘れてならないのはニマという男。当初滝沢のチームにコックとして同行していた初老の男はしかし、サバイバル経験豊富なゲリラの一員であり、滝沢に兵士としての訓練と生き延びる術を教授するこの男。
物語の終盤で意外な正体が明かされるのだが、これはむしろ蛇足だと思った。ニマがある事実を知ったところで何も起きないことは解っていたからだ。

上に述べた女性の扱い方、そしてこのニマの扱い方から察するに、この作者は人間の間で起こる愛だの情だのといった感情が織成す化学反応に対して、非常にストイックなのだと思う。そこにハッピーエンドだの、哀しい結末だのを持ち込むわけでなく、二人が出会い、そしてまたすれ違うといった具合に敢えて結論を避けているかのようだ。
それはやはり登山の中で人の生死を左右する局面にこの作者自体が何度も直面しているからだと思う。昨日までふざけあって笑いあっていた仲間が、翌日はクレパスに墜ちて還らぬ人となったり、凍死して動かぬ肉塊となっていたりといった諸行無常観があるのではないか。だからこの作者自身、決して他人に対してのめり込むことが無く、人間関係に対して結論を求めぬ距離感を保っているのだろうと思う。
しかし、1人だけしびれるくらいカッコイイ男が居た。それは名も無い君子の結婚相手である。彼の置手紙にはグッと来ました。ベスト・サブキャラクター賞をあげたい。
唯一この作品で結論を求めているのは、登頂者(サミッター)になれるのか否かという事ではないだろうか。人との触れ合いにではなく、登山その物に結論を求めているのはやはりこの作者が登山家でもあるからだろう。

今回不幸だったのは、私がこれを海外生活を送っている今、読んでしまった事。
作中に描かれる日本では考えられない異国での珍騒動-笑顔とたどたどしい日本語で近寄る現地人、空港を降りた途端に群がるタクシーの運転手たち、相場以上の運賃を求めるタクシー、etc-は、全く驚きがない。むしろここでは当たり前の事でしかなく、そこに面白みを感じる事が無かった。ネパールの街中の描写、登山仲間達の現地での過ごし方など、興味を感じる部分もあったが、ふと自分の暮らしている境遇を見て、あまり変わらないなぁと苦笑した次第だ。

さて物語は二転三転事実が裏返る。
ちょっとくどいぐらいだ。冒険小説だから、もっとどんでん返しは少なくていいし、最後にでっかい物を1つ、用意してくれれば満足だったのだが。


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