サリー・ダイヤモンドの数奇な人生
※タグの編集はログイン後行えます
※以下のグループに登録されています。
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
サリー・ダイヤモンドの数奇な人生の総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
凄惨な事件を背景にサリーは変わっていく。人とのかかわりの中で。ミステリー性は薄いが引き込まれていく。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
. 2017年、アイルランドの辺鄙な町クリックシーディに暮らす42歳のサリー・ダイヤモンドは社会生活にうまく適応できず、82歳の父トムと引きこもりのような生活を長年送っていた。7月のある日、その父が亡くなる。生前、「死んだらゴミといっしょに出してくれ」と笑っていた父の言葉どおり、サリーは自宅の焼却炉に父の亡骸を放り込んで火を付ける。その事実が露見すると町は大騒ぎとなり、父の遺体を焼いた事件は、サリーの数奇な生い立ちと併せて新聞で広く報道されてしまう。 そして後日、ニュージーランドから使い古されたテディベアが送られてくる。これをきっかけに、サリーの人生はさらに大きく転換していく……。 ----------------- アイルランドの作家リズ・ニュージェントが2023年に発表した犯罪小説です。 サリーは父と二人きりで長い隠遁生活を送ってきたせいもあって、家族以外の人々と世間一般が求めるような正常な人間関係がうまく結べません。父の遺体を自分で焼いたのも、父の冗談めいた生前の言葉を律儀に実行しただけ。当人には決して悪気はありません。どこか憎めないサリーの挙動は、ちょっとぶっとんだ隣人もたまにはいるよね、程度の何気なさをたたえていて、この物語がどこへ向かっていくのか知識のないまま手にしたこともあり、これはユーモア小説の類なのかと勝手に想像して読み進めました。 ところがそんな無邪気なわたしの予想に冷水を浴びせかけるかのように、サリーの人生の背後に、筆舌に尽くしがたい凄惨な事件があったことが明らかにされます。 その不気味なことこのうえない犯罪が、どうもこの10年ほど、欧米のミステリー界では“流行っている”ような気がします。同じ類の犯罪を描いた作品をここに記すのは、これからこの小説を読もうとしている読者の興を削ぐことになるので控えますが、そうした過去の類似作品は、被害者が犯罪者のもとを離れてせいぜい数年程度を描くのがもっぱらな気がします。ところが、この物語は事件後40年という長年月が過ぎようとも、犯罪がサリーに刻んだ傷の深い有り様を描いています。そう考えると他に類を見ないほど痛ましい話です。 犯罪の過程を描く描写は救いがなく、おそらく読者の中には読み進めるのがつらいと感じる人もいるかもしれません。私もげんなりしないではいられない場面が幾度かありました。 それでも文庫本で500頁を超えるこの長編小説を最後まで、そして一気呵成と形容しても良い速さのわずか4日で読み通すことができたのは、傷を負ったサリーがなんとか社会との繋がりを見出そうと葛藤する姿に、凛とした美しさを感じ、大いに魅せられたからです。 「わたしはいまの会話をうまく乗りきった。もうおとななのだから当然かもしれないが、それでも自分を誇らしく思えた。来月、ティナに会ったらこのことを話そう。わたしは共感力を発揮できた。他人の気持ちを感じとり、それを表現することができたのだ」(262頁) 「鏡に映る自分の姿には満更でもない気がした。ちがう自分を発見した気分だ」(315頁) 「自分の顔は好きだ。鏡に笑いかけると目尻にかすかな皺ができた。それも悪くないと思う。わたしは美しかった」(339頁) サリーがこんなふうに少しずつ自分を肯定していく姿が心に添うのです。この小説を手にする私自身、自分をどこまで肯定できているかと自問することしきりでした。そしてこの物語が「共感力(empathy)」に信頼を寄せる姿勢に、大いに頷いたのです。 もちろん、サリーが過去のトラウマから脱却する道筋は単純ではありません。三歩前進したかと思うと、二歩後退することも一度や二度ではありません。 そしてまた、周囲の人々が戸惑いを感じながらも、なんとかサリーの助けになろうと奔走する姿にも魅力を感じます。彼らはサリーによって傷つけられることが一再ならずあります。そのために時にはサリーと距離を取り、そして距離を取ったことを悔いて再び手を差し伸べ、そしてまた傷つく。人間臭いドラマが展開することといったらありません。 人間臭いといえば、この小説のもう一つの軸を担う男もまた、人間らしいといったらありません。身勝手で、無責任で、それでいて愛に飢えていて、そして彼もまた、凄惨な犯罪によって人生の道筋を大きく狂わされてしまった被害者であるという厳しい現実が立ち現れます。 このようにサリーの再生の難しさ、そしてこの男の人生の軌跡を精緻に追うには、やはりこれだけの紙幅が必要だったといえます。 最後にこの奇妙な犯罪小説を日本語に移し替えた能田優氏の卓越した訳業に敬意を評したいと思います。原作小説自体が、巻を措く能わず、と言わざるをえない作品であることは間違いありませんが、それを日本語でも一気に最後まで読ませる作品に仕立ててくれた能田氏の手腕には感服しました。こんな優れた翻訳者が日本にいたとは全く知りませんでした。今後も翻訳者・能田優氏の名が付された翻訳小説を探して、読書を楽しみたいと思います。 (2024年9月16日付記:YouTube上にあがっているリズ・ニュージェントのインタビューを聞いていて面白い事実を知りました。リズ・ニュージェントはイギリスのミステリー作家Lisa Jewellと懇意にしているそうで、Jewell(宝石)から連想してDiamondを思いついて、主人公の名をSally Diamondにしたのだとか。そういえばLisa Jewellには"Then She Was Gone"というよく似た小説がありました。ただし、"Then She Was Gone"はあまりに凡庸で、読んでいてまったく楽しめませんでした。この『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』のほうが数段よく出来ていると思います。) ----------------- 校正担当者が見落とした箇所がひとつありました。 *28頁:衍字 ✘「目を離しているたうちに進んでいた画面を巻き戻そうとした」 ◯「目を離しているうちに進んでいた画面を巻き戻そうとした」 ----------------- この小説で私がキーワードだと強く感じた「共感力(empathy)」について触れているノンフィクションを以下に紹介しておきます。 ◆ブレイディみかこ『 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 』と『 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2 』(ともに新潮文庫) :イギリス人の夫とともにイギリスのブライトンに暮らす著者が、自身の子育てを綴ったエッセイ本です。日本とイギリスの両方にルーツを持つ長男の学校には様々な友人たちがいます。その小さな多様性社会で著者とその家族が学び取っていくのは、エンパシーの持つ力です。類似の言葉であるシンパシーと区別するため、著者はエンパシーを「感応力」と訳しています。エンパシーは弱者への同情や自分と同じ立場の人への連帯といった、人間としてごく当たり前の<感情>とは異なります。著者の長男曰く、エンパシーとは「他人の靴を履く」<能力>。立場は違えど、相手の身になって世界を眺めてみること、これが人種や民族の多様性に満ちた英国社会では、無知を拭う礎となる力となるというわけです。目を洗われた思いが強くしました。 . | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
本当に面白くて、読み終わってしばらくはサリーのことが頭から離れなくなるくらい。 でも万人におすすめできる話ではないと思う。 人によってはかなり拒否反応が出るかも、あらすじでは明かされていない部分なのでネタバレを食らう前に読んでほしい。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
取り掛かるのが遅くなりましたが、一気に読むことになりました。ページ・ターナーとして申し分ありません。 主人公は四十二歳のサリー・ダイヤモンド。<適応障害>のように見える彼女は養父と共に引きこもりの生活を送っています。六歳の時に養子になったサリーはそれ以前の記憶が全くありません。そして養父が亡くなり、彼女のもとへ古いテディ・ベアが届けられることによって物語がダイナミックに動き出していきます。加えて養父の遺書により、サリーの出生の秘密が次第に明らかになっていきます。健やかな生活を取り戻そうと足掻くサリーの姿に並行して、もう一人のキャラクターの物語が交互にカット・バックしていきます。その”おぞましさ”。これもまたスリラーですから、詳細を書き留めることができません。 物語の背景に、新型コロナウィルスによるパンデミックが置かれていますが、大きくそのことが物語に影響を与えているようには思えません。しかし、友人たちと直接コミュニケーションを取ることができなかったあの時期、私たちは或る種の”サリー・ダイヤモンド”だったのかもしれませんね。故に彼女の振る舞いをわずかながら理解することができますが、もう一つの物語は私には只々不快でした。おそらく再読することのない不快な(そして秀れた)ページ・ターナーとして記憶されることでしょう。 ◻︎「サリー・ダイヤモンドの数奇な人生 "Strange Sally Diamond"」(リズ・ニュージェント ハーパーBOOKS) 2024/9/07。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
どんどん読み進めたくなり、 ストーリーに惹き込まれました | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 6件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|