パールストリートのクレイジー女たち



※タグの編集はログイン後行えます

【この小説が収録されている参考書籍】
オスダメ平均点

3.00pt (10max) / 1件

3.00pt (10max) / 1件

Amazon平均点

4.33pt ( 5max) / 6件

みんなの オススメpt
  自由に投票してください!!
0pt
サイト内ランク []D
ミステリ成分 []
  この作品はミステリ?
  自由に投票してください!!

80.00pt

0.00pt

39.00pt

0.00pt

←非ミステリ

ミステリ→

↑現実的

↓幻想的

初公開日(参考)2015年04月
分類

長編小説

閲覧回数1,478回
お気に入りにされた回数0
読書済みに登録された回数1

■このページのURL

■報告関係
※気になる点がありましたらお知らせください。

パールストリートのクレイジー女たち

2015年04月03日 パールストリートのクレイジー女たち

1936年、六歳のぼくは、母と妹のアン・マリーと、オールバニーのパールストリートに越してきた。長く不在だった父と暮らすために。 しかし約束の日、父は現れなかった。そしてその日から、見知らぬスラム、パールストリートでの三人の生活がはじまる。 六歳にして、病弱でエキセントリックな母の片腕となった「ぼく」の目を通して、スラムの人々の暮らしや、当時のラジオ、 音楽、遊びなどのアメリカ文化、また市民が体験した第二次世界大戦を色濃く言葉に映した、ベストセラー作家の最後の長編小説。(「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt

パールストリートのクレイジー女たちの総合評価:7.86/10点レビュー 7件。Dランク


■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

覆面作家が最期に作品にしたのは…

2005年に亡くなった覆面作家トレヴェニアン。これは彼の遺作となる、2005年に発表された小説。
ニューヨーク州オールバニーの、貧民層が暮すパールストリート238番地を舞台とした、主人公の少年ジャン=リュック・ラポアントの一人称で語られる、彼の少年時代の回想記。
しかしその内容からジャン=トレヴェニアン本人と推察される。つまりこれは彼自身の回想記とも云える自伝的小説だ。

私がまず驚いたのは主人公の少年のラストネームがラポアントだということだ。そう、私がトレヴェニアンの中でも傑作と思っている『夢果つる街』の主人公の警官クロード・ラポアントと同じ苗字なのである(厳密に云えば『夢果つる街』の主人公は「ラポワント」だが、原書の綴りは一緒であろう)。
珍しい名前なので私はてっきり『夢果つる街』が関係しているかと思ったが、単に苗字が同じだけのようだ。寧ろ最後にこの苗字を作者が自伝的小説の主人公のラストネームとして選んだのは、やはり『夢果つる街』が作者にとっても特別な作品だったのかもしれない。

恐らく作者自身が死期を悟り、最期に残す作品として自身の生い立ちを綴りたかったのではないかと思われる。

ただ、その内容は思いつくままに語られ、小説としてのいわゆるストーリーがなく、ジャンが人生で出くわした出来事や人々たちの思い出をその時に思い出したかのように語っている形式となっている。従って本書の内容について概要をまとめると非常に取り留めのないものになり、いや正直に云えば、概要をまとめることができないほど、その内容は縦横無尽だ。

まず題名となっているパールストリートのクレイジー女たちとは主人公ジャンの母親ルビー・ルシルも含めたとりわけ個性的な女性たちのことだ。

パールストリートというスラム街に住みながら、まるで掃きだめの中の鶴のように、他の母親たちとは一線を画す美しさと活発さ、そしてフランス人とインディアンの混血という特殊な血筋の荒々しさで街でも目を惹いた母親ルビー・ルシル。しかしその荒々しく、頑なな性格は周囲の人々との軋轢を繰り返し生み、ジャンと妹のアン=マリーはそれに苦労させられる。

近所に住むミーハン家のミセス・ミーハンはミーハン一族の中で唯一血の繋がりのない女性で知的障害者の施設から連れられて、そのまま一族たちの家事をすることになった女性。彼女は時々物から手が離せなくなるという奇妙な問題が発生する。

戦地に行った夫を待つミセス・マクギヴニィ。彼女は街の雑貨屋ケーンの店に行く以外、ほとんど外出せず窓から街を眺めて一日を過ごす。その彼女とジャンはひと時交流を持つ。クッキーとココアを用意してジャンと取り留めのない話をするのが彼女の人生に少しばかりの彩りを与えることになるが、幼いジャンはそれが次第に憂鬱に感じ、ある日彼女の呼びかけを完全無視してしまう。それが彼女との交流の幕切れだった。

そんな“普通じゃない”パールストリートでジャンを中心に物語は進む。
チビなジャンがスラムに生き抜くために知恵を絞り、一目置かれるようになったこと、女性への目覚めやラポアント家の生い立ちのこと―インディアンとの混血であることから差別意識が激しかった当時、彼の祖母がそんな祖父と結婚したことで街の人々から避けられていたことやそれを解決するために祖父が行った殴り込みのエピソードは心に残る―、アパートの最上階に住み着いた流れ者のベンと母との馴れ初め―性格はいいのに、酒を飲むと暴力的になることで数々の失敗をやらかすベンは物語後半の主要人物だ―、やがて訪れる第2次大戦とベンの出兵、そして彼の帰還と母との結婚を機に生まれ育ったパールストリートを離れ、新天地カリフォルニアでの新生活の幕開け、そして挫折と新たな旅立ち。

そんな中、ところどころに挿入される、少年ジャンの視点でのノスタルジックな描写はどことなく心をくすぐる。

女の子のする縄跳びには暗黙の性的タブーによって男の子たちは加われないとか、ラジオは部屋を暗くしてダイヤルだけが琥珀色に光る中で聴くのが最高だとか、プチ家出を繰り返している最中に気付く、自分が将来漂流者になるであろうという悟り、一人空想ごっこに耽る日々、そしてある日目覚める幼年期からの目覚め、等々。

とにかく自分の生きている間に少しでも多くのことを語り、そして記録しようとしているのか、改行が非常に少なく、見開き2ぺージに亘って文字がぎっしりと埋め尽くされている。1ページを1分以上掛けて読む小説に出逢ったのは久々だ。

読むのにかなり手こずったことを正直に告白しよう。そして読んでいる最中はあまりに書き込まれたディテールとあちこちに飛ぶジャン=リュックの話に気疲れがしたことも。

しかし読み終わった後に振り返ると、トレヴェニアンの生い立ちと重ねることで興味深いエッセンスが散りばめられていることに気付かされる。

まず先に挙げた『夢果つる街』の舞台となる街「ザ・メイン」。これは主人公ラポワントの名前も含めてパールストリートがモデルになっているのは想像に難くない。、これは読んでいる間、ずっと思っていた。

また物語の途中で起きる第2次大戦。
最初はドイツの猛攻が語られていたが、この時はまだアメリカは参戦しておらず、対岸の火事のようだったが、日本軍が真珠湾攻撃をしたことでアメリカは参戦するため、従って本書の中で日本人は当時使われていた差別用語であるジャップ呼ばわりされ、またジャン=リュックもまた日本人を敵とみなし、軽蔑している。更にカリフォルニアへの移動の車中で新聞でヒロシマとナガサキに原爆が落とされ、多数の犠牲者が出たことを知り、居合わせた帰還兵と共に驚喜する。

そんな彼が後に日本人の禅の精神とわび・さびをテーマにした『シブミ』を著す。彼にとってこの第2次大戦における日本人への感情は決していいものではなかっただけにこの日本人独特の精神性を敬い、そして深い造詣を示すこの作品を書くようになった心境の変化はいかがなものだったのだろうか。それが語られていないだけに実に興味深い。

それらを含めてなぜこのような取り留めのない自伝的小説をトレヴェニアンは書こうとしたのか。正直云って私にとってこの内容はそれまでの彼の作品に比べても出来が良いとは云えず、散文的で纏まりを感じない。この纏まりの無さは上に書いたように、どうにか生きている間により多くの、自分の人生を語り尽くしたいという思いからだろうが、この分量は異様だ。

私はトレヴェニアンが―ほとんどその正体は知られていたとはいえ―覆面作家だったことが主要因ではないかと考える。このラストネームだけのペンネームでスパイ・冒険小説、幻想小説、詩情溢れるハードボイルド系警察小説、ウェスタン小説など、その都度思いもかけないジャンルを選択し、物語を紡いでいた彼が最後に残そうとしたのは自分の人生の証、痕跡だったことは想像に難くない。母のこと、父のこと、母の再婚相手のこと、妹のこと、そして彼の家族を取り巻く人々のことも含めて。

作品は知られているが、その実態を知られていない彼が、最期にトレヴェニアン自身を作品にしたのだ。

トレヴェニアン。本名ロドニー・ウィリアム・ウィテカー。覆面作家の厚いヴェールの下にはこんな人生が隠されていた。
正直万人に勧められるほど、物語として面白いわけでは無いが、彼の作品に親しんだ一読者としてけじめをつけるために読むべき作品だったと読み終わった今、そう思う。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

No.6:
(5pt)

特異な作家の成長過程が判る、自伝的傑作小説

第二次大戦と恐慌の頃のある少年が様々な体験をし・・・というお話。

こう書くとよくあるビルドウィングス・ロマンに思えるかもしれませんし、実際そうですが、著者がかのトレヴェニアンという事で、尚且つ自伝的な作品という事もあり、唯一無二の小説に仕上がっていると思いました。どこが唯一無二かと聞かれると、少々考えてしまいますが、特異な作品を書き続けた希代の作家の成長過程が判る、或いは全部創作で実際は違うかもしれないですが、それでもやはりトレヴェニアンが書いたという点で他の作家に書けない個性の様な物があると思います。この人の得意な冒険・活劇的な物が出てこないのでやや失望する方もいるかもしれませんが、その分この人の情緒的な部分が出ていて個人的にはそこが楽しめました。

気になった文章をフリクションでチェックしたので抜き出してみると、

「十九世紀の後半三分の一から第二次大戦が終わるまでのあいだ、女性たちの個人的な犠牲があめりかの公教育をーその構造や組織体系、人材などの根本的な脆弱さにもかかわらずー有効なものにした。生涯を、都市部のスラム街や小さな町、一クラスしかない農村部の校舎で教育に捧げた、瞠目すべき、多くは孤独な、ある世代の女性たち。」
「多くの学区で、女性教師の結婚は認められていなかった」
「きみが世界を正す時代がきたら、いいかい、これだけは憶えておくんだ。医療や教育といった基本的なものが人々に供給されるとき、そこには資本主義の競争効果と社会主義の道義心や人間性の、両方ともが必要なんだ。金は資本主義者によって産みだされ、社会主義者によって使われなくてはならないんだよ」
「資本主義において、富は比較としての貧乏を必要とするのだ」
「つまり、まったくのところ、人生に関する僕の理解のすべては、我家の古いエマーソンラジオとつながっていたのだ。学校から帰ってラジオのスイッチを入れる瞬間が、一日のなかでもっとも好きな瞬間だった。真空管があたたまるまでの、五秒かそこらのハム音が収まるのを待つあの甘味な時間!」
「一九三〇年代および四〇年代に、アメリカの都市部に住んでいた人たちはほとんどみんな、すくなくとも週に一度は映画を観に出かけていた。」

となりましたがどうでしょうか。恐慌のあった頃のアメリカという事で資本主義に懐疑的になっていたのが伺えたり、あの時代のアメリカへの哀惜が伝わってきました。

翻訳の江國さんに関しては、名前は知っておりますが、作品は読んでいないし、翻訳に関する能力も寡聞にして知りませんが(すいません)、本書に関しては、読みやすく楽しめました。トレヴェニアンの名前より江國さんの名前で惹かれて本書を手にする方も多いかもしれませんが、どういう理由にしろ、この特異な作家の作品に触れる機会が増えるのはいい事だと思います。

一つだけ言っておくと切れ目なく長く続く文章が昔の小説風で読み難かったですが、敢えてそういう文体にしている様なので、しょうがないかも。もうちょっと、読者の集中力を考慮して頂きたかったですが・・・。

ジョン・ル・カレ氏も最近まで自伝的な「パーフェクト・スパイ」という作品は出ておりましたが、本格的な伝記が出るまで時間がかかってファンは随分待たされましたが、トレヴェニアンという人に関してもいつか本格的な伝記が書かれる事を期待しております。それまでは、本書が伝記の代わりになるかも。

ともあれ、少年を主人公にした成長小説、特異な作家の自伝的小説として面白い小説でした。是非ご一読を。
パールストリートのクレイジー女たちAmazon書評・レビュー:パールストリートのクレイジー女たちより
483425304X
No.5:
(5pt)

笑って泣きました。

"あのフランスにしてインデイアンの気質" 作者は自分の母をこう何度も書いています。 子供たちを深く愛しながらも その気質と度重なる悲運のために彼らを悩ませた母。 作者は少しでも彼女を理解したいという思いが強かったのでしょう。 戦争関連の本を今まで避けてきましたが これは抵抗無く読めました。 厳しい現実を 皮肉と飛び切りのユーモアをたくさん交えて 細やかに描いています。それに魅せられました。そして この本の題名も最高です。
パールストリートのクレイジー女たちAmazon書評・レビュー:パールストリートのクレイジー女たちより
483425304X
No.4:
(5pt)

大恐慌の真っ只中のアメリカにタイムトリップした気分

大恐慌、第二次世界大戦下のアメリカで暮らす貧しい人々の生活が、色濃く映し出された小説です。
早く続きが読みたくて、でも読み終わってしまうのが勿体無いような、充実した読書体験ができました。
江國香織さんの訳は素晴らしく、言葉のチョイスや表現力の豊かさは流石です。
パールストリートのクレイジー女たちAmazon書評・レビュー:パールストリートのクレイジー女たちより
483425304X
No.3:
(4pt)

ノスタルジー

久しぶりに、懐かしいアメリカ映画を観ているような小説でした。
パールストリートのクレイジー女たちAmazon書評・レビュー:パールストリートのクレイジー女たちより
483425304X
No.2:
(5pt)

本年度最高の作品。読むべし!

あのトレヴェニアンである。
邦訳されている全作品を楽しんだ読者は、この作品を読んでまたまた感嘆するに違いない。
一作ごとに作風を変えるのはこの天才作家の独壇場だが、この作品は全く驚きに値する。
少なくとも私は茫然とした。
あえて言えば「少年小説」ということになるけれど、過去のこのジャンルの傑作と比較しても抜きん出た作品であることは保証する。
一章ずつ丁寧に舐めるように読んだ。
なにしろこの作品の魅力は細部にあるのだから。
翻訳は、少年少女を描かせたらたぶん現代最高の作家である江國香織である。
この日本語の素晴らしさは特筆に値する。
トレヴェニアン+江國香織。本年度最高の贈り物だった。
なんという幸せな読書の時間!
パールストリートのクレイジー女たちAmazon書評・レビュー:パールストリートのクレイジー女たちより
483425304X



その他、Amazon書評・レビューが 6件あります。
Amazon書評・レビューを見る     


スポンサードリンク