流砂
- 遺言 (82)
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昨年、十代の頃親友であった友の一人が亡くなった。癌との闘病生活から緩和ケアと順を追って治療に専念しながら、夫人に看取られての逝去であった。本書の著者ヘニング・マンケルは、2015年に、癌により亡くなっている。ぼくはヘニング・マンケルの良い読者ではなく、この作家の作品を初めて読んだのが彼の死後4年である。 本書は、実はこの作家を知らぬ人にも読んで頂きたい内容の、彼の遺作である。劇作家であり劇場支配人でもあった彼は、多忙で充実した人生を送ったスウェーデンを代表するミステリー作家である。刑事ヴァランダー・シリーズは何作もドラマ化されていて、本でもドラマでもその深い人間洞察のシリーズを味わうことができる。 この作家が死に向かい合う中で書いた最後の作品が、『イタリアン・シューズ』とその姉妹編『スウェーディッシュ・ブーツ』である。フィヨルドの孤島で孤独に暮らす老境の主人公にきっと作家自身の人生を重ねて人生と家族愛や友情を濃密に描いたこの二つの作品が、刑事小説とは別の味わいで胸に刺さってきたため、目の前に迫る死と闘いつつ初めて創作ではない言葉で書き綴った『流砂』を何とか入手し、この力作に向かい合うことができた。 67の精緻な文章で構成される本書。この数字は作者の生きた年と同じである。それぞれに独立したどの文章も、一分一秒を命を削り取りつつ描かれた作者渾身の気迫に溢れる文章である。優れた考察や観察に裏打ちされたどの章も、先に挙げた老年主人公二作セットの遺作と重ね合わせると、さらに味わい深い。 かく言うぼく自身、5年前に血液の癌を言い渡され、作者同様、化学療法を体験した組である。今も定期検査で予後の状態を確認する身であることから、作者の癌発覚直後より書き継がれた本書の執筆時期の内心を思うと、きりきり胸が痛む。今はこの世にいないヘニング・マンケルが生きた時間の、そのかけらと言える文章が本書には詰まっており、今もこの後もずっと、この本を読むことのできる者たちに様々なことを伝えてくれる。 さらに内容について言えば、個人の病や死をテーマに書いたものではないということが重要である。圧倒的な作者の飽くなき探求心が向いてゆくのは、人類、生命、そして地球である。それらすべての過去から未来へと及ぶ人間の果たすべき役割である。もちろん死を前にした作者が、改めて重要視して観るようになる自身の数々の不思議な体験についても興味深く語られる。劇団を率いる作家として世界中の大陸を旅して観察してきたのは、人間と、その営み。遺産。芸術。科学。人間の遺してきた文明への鋭い考察。何よりも人間の持つ個と国や民族の罪と罰。悲劇と、感動体験。宇宙や自然や永遠への畏敬。そして何よりも強く訴えるのが、氷河期を超えて十万年先にまで人類が残してしまう核のゴミへの問題意識。 人生の仕舞い方には種々あるとは思うが、この一冊は相当な気迫を感じさせられる。文章を書くことに終生を費やした人による最後の遺言集であり、未来の人間や文明への警鐘でもある。ともすれば人類への不朽の遺産にもなり得る重要な言葉の数々に圧倒され、心を揺すられる不思議な読書体験であった。 | ||||
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スムーズな対応でした | ||||
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今は、本はアンダーラインで真っ黒で完全には私の本です。大げさに言えば私のバイブルの1冊です。 83歳今では面白く楽しいのは本だけです。(現在はシーラカンス=縄文人) | ||||
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タイトルが好みで買った。読んでる途中だけど、面白い。 | ||||
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『殺人者の顔』に始まるヴァランダーシリーズから独立作品までずっとマンケルを追い続けてきた私にとって彼の死は予期していなかっただけに大きな衝撃だった。ヴァランダーの娘のリンダが警察に入って悩みながら成長していく姿を楽しみにしていたのに、それがかなわない夢になってしまった。しかもそれが「がん死」であることを知って。私自身が肺がんと乳がんのサバイバ―であるから。 そして、遺稿集「流砂」が発行されたと知り、すぐに分厚い本を手にした。読み始める前には、生涯を振り返り、折々の想い出や病気について、語っているのだろうと思っていた。だが、このずっしり重い、分厚い本に私の予想は裏切られた。帯には「闘病記」と紹介されているが、闘病記では全くない。あえて言うならば、マンケルが何を考え、いかに生きてきたかを語る「人生哲学の書」であろう。 マンケルはこの本の中で時空を自由に移動する。現存する地球で最も古い建造物について考えをめぐらすかと思えば、10万年後の地球、そこに住む人々のことについて考える。それぞれのエッセイは短いけれど、私は一つ読むたびにいろんなこと(政治、社会、宗教、芸術、家族、愛、そして原発までも)を考えさせられた。 そしてマンケルという人は完璧なヒューマニストであったのだと思った。男性作家の小説を読む時、私はそれに感動しつつも違和感を覚えることが時々ある。それは登場する女性たちやストーリーが男性視点から描かれているような気がするからだ。だが、マンケルの作品でそのような違和感を覚えたことは一度もない。逆にどうして彼はここまでフェミニストであり得るのかと思わされてきた。ヒューマニズムとはフェミニズムを内包しなければヒューマニズムとは呼べないのだということをこの本で思わされた。 もう一つ特記しておきたいことは、柳沢由実子さんの翻訳では、最初から最後まで全て「がん」と表記してあることである。自分ががんのサバイバ―であるからいつも思うのだが、「癌」という字のおどろおどろしいこと。「がん」が死と直結する怖ろしいものであって、この字を見るだけで希望を奪われてしまうような気がする。 そう言えばマンケルはこの本の中で「生きる喜びなしには、人は生き延びることができない」と書いている。訳者が「癌」という死への恐れにつながる字を使わず「がん」という生きる喜びにつながる字を使ってくれたことに感謝したい。 | ||||
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