(アンソロジー)

フィリップ・マーロウの事件



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フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2007年03月01日 フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

1939年、一人のヒーローが誕生する。作家レイモンド・チャンドラーの手によって生を受けたこの私立探偵は圧倒的な支持を受け、以後20年間にわたって活躍した。その名はフィリップ・マーロウ…ハードボイルドの枠を超え、時代を超えて支持されてきたヒーローを現代の気鋭ミステリ作家たちが甦らせる、画期的トリビュート・アンソロジー!チャンドラー自身の手になる唯一のマーロウもの短篇「マーロウ最後の事件」収録。(「BOOK」データベースより)




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フィリップ・マーロウの事件の総合評価:7.50/10点レビュー 4件。Bランク


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それぞれのフィリップ、あるいはマーロウ

フィリップ・マーロウを主役に当代気鋭のミステリ作家が物語を描いたトリビュート短編集。正に粒揃いの名品ばかりだ。長くなるが、それぞれの作品についてあらすじを述べていこう。

まず冒頭を飾る「完全犯罪」は昨年逝去したマックス・アラン・コリンズの手によるものでマーロウがハリウッド女優ボディガードを引き受ける話だ。
ベンジャミン・M・シュッツの「黒い瞳のブロンド」とジョイス・ハリントンの「グレースを探せ」は共に人探しをテーマにしており、それがそれぞれ家族を連れ戻す物語である。前者は夫が逃亡した妻と子を、後者は妻が失踪した夫と子を、正に表裏一体の設定。しかも明かされる真相もほとんど似通っていたのがちょっと残念。

マーロウがプロレスラーのザ・クラッシャーという大男からボクシングのプロモーターのトマス・ローマにお金を届けるよう否応無く頼まれる所から始まるのがジョナサン・ヴェイリンの「マリブのタッグチーム」。
似たような題名の「悲しげな眼のブロンド」はディック・ロクティによるもので、マーロウが<ラサの頭蓋骨>という宝石を埋め込んだ頭蓋骨を手に入れるよう旧知の女性から依頼されるという一風変った設定。

4Fの旗手サラ・パレツキーは「ディーラーの選択」という作品で参加。マーロウが女性の依頼で、兄の借金の形にした母親の指輪を取り戻すのに借金した相手との交渉を頼まれるというもの。
そして田舎出の娘のような歌手イーヴリン・メリルがしている指輪がマイラ・ヒートレーという未亡人が盗まれた物だというシーンで始まるのがジュリー・スミスの「レッド・ロック」。物語の展開は当然この指輪を巡って繰り広げられる。

パコ・イグナシオ・タイボ二世の手による「国境の南」はマーロウと弁護士に警護を頼まれたアレックス2人のメキシコを放浪する物語で、異色の短編だ。
ロジャー・L・サイモンは赤狩りを背景に物語を展開する掌編「街はジャングル」で参加。

この後のジョン・ラッツの「スター・ブライト」はハリウッドの女優の卵エラ・ルーを巡る物語。
次のロバート・J・ランデージという初耳の作家による「ロッカー246」はマーロウが悪友の残した荷物を受け取りにニューヨークへ行く話。

そしてスチュアート・M・カミンスキーの「苦いレモン」は同じビルに住むウォーレンの妹探しの話。
次はなんとエドワード・D・ホックである!不可能犯罪短編の雄がチャンドラーのトリビュートとして捧げた「東洋の精」は酒場の歌姫からマーロウが銀行強盗と殺人の罪に問われた弟を助けて欲しいと依頼される話。ちなみに彼の作品の特徴である不可能状況、トリックは出てこない。

ジェレマイア・ヒーリイの手になる「職務遂行中に」は保険会社から現金輸送車を襲った事件で殉職した顧客の警備員が実はこの一件を仕組んでないかと調査を依頼される話でなかなか読ませる。
「悪魔の遊び場」はある荒野に建つコーヒーショップで起こった悪人たちの篭城事件を描いたジェイムズ・グレイディという作家の作品。

そして最後は御大チャンドラーの作品「マーロウ最後の事件」。マーロウの事務所を訪れたイッキー・ロッセンという男の依頼は、自分の逃亡を助けて欲しいというものだった。ラスヴェガスのあるマフィアの組織から足を洗った彼は大金を手にして逃亡中であるが、どこに逃げても追っ手の尾行が付きまとい、しかも自分を殺しに殺し屋が今日ロスを訪れるのだという。かなり危険な依頼に難色を示したマーロウだったが、妙に女に優しいこの変ったチンピラを気に入り、依頼を受ける事に。マーロウは、友人の女性アン・リアーダンに手伝いを頼み、無事イッキーを逃がす事に成功するのだが・・・。
“The Pencil”という原題に対し、なぜこのような邦題を付けたのか、訳者の真意はわからないものの、これがチャンドラーのマーロウだ!と云わんばかりの作品だ。
マーロウは常に損をする。それは彼がこだわりを捨てずに自分を納得させるまで仕事を止めないからだ。
この作品では読者になぜそこまでするのか?と思わせながら、最後の最後においてもやはりこのマーロウという人間が十分に理解できないまま終わる(少なくとも私はそう)。しかし、これこそがマーロウなのだなと思う。

チャンドラーの作品を別格として、私の個人的なベスト5はコリンズの「完全犯罪」、カミンスキーの「苦いレモン」、ヴェイリンの「マリブのタッグチーム」、ヒーリイの「職務遂行中に」、ロクティの「悲しげな目のブロンド」か。

コリンズはチャンドラーを正統に受け継ぐかのごとく、マーロウを復活させた。彼の強さ、皮肉っぽさは無論ながら、彼の優しさ、弱さもおしなべて。特に「ぼくはいつもひとりで寝るんだ・・・・・・良心を抱いてね」の台詞には参りました。
カミンスキーは実に正統なチャンドラーの後継者たらんとしているのが解る。特に作品に漂う頽廃的な雰囲気はアメリカ西海岸の光と闇を映し出し、行間から埃の匂いを立ち昇らせるかのよう。出てくる登場人物が全て大なり小なり過去に栄光を得ながら、落ちぶれた生活を送っている。美少年コンテストで優勝したハゲの小男。戦争に行って、怪我を負い、人のために我慢することを諦めた男。警察署長まで登り詰めながら、ある事件で人生の歯車が狂ってしまった男と、その妻。彼らの間を駆けるマーロウは確かに騎士だ。最後の結末の皮肉さといい、全てがチャンドラー・テイストだった。

ヴェイリンの作品は『さらば愛しき女よ』のオマージュで、ザ・クラッシャーはまんま大鹿マロイである。1人の女に愛情を捧げたマロイに対して、本作ではタッグチーム相手のエルモとの友情に厚い人物としてザ・クラッシャーは描かれているが、彼がマロイ同様、愛情に厚いことも明かされる。
ヒーリイは実に堅実なプロットで物語を作り上げた。本作では逆に他の作家がやってきたプロットの逆を敢えて取る形で物語に決着をつけている。フィリップの捜査の流れ、それを牽引する手掛かりが容易に手に入り、淀み無いのが逆にフィリップ物語らしくない印象を与えることになっているのが皮肉だが。
ロクティは自身の作品で、自らがハードボイルドの熱心な研究者である事を証言した。まさかハメットの『マルタの鷹』をマーロウと絡めるとは思わなかった。ハメットをはじめ、フィッツジェラルドやヘミングウェイなど実在の文豪がマーロウの世界に溶け込み、ロクティがこのトリビュート作品に心の底から楽しんで取り組んでいたのが目に浮かぶようだ。

いやいや、みんなフィリップ・マーロウが好きなのだね。そしてチャンドラーの文体が。待っていましたと云わんばかりに精魂注いでそれぞれがマーロウ・ストーリーを存分に描いている。そしてその誰もがマーロウを卑しい街を行く騎士としてきちんと描いているのが嬉しいじゃないか!
そしてそれぞれの作者がチャンドラーのように物語を書きたかったという思いを隠すでもなく前面に押し出しているかのような書きっぷりだ。

例えばロクティとパレツキーの両者の作品に、虫や魚といった小動物を扱った描写が出てくるが、これもそうそう、チャンドラーはこういう描写を入れてマーロウの心中を語るのが上手かったのだと思い出した。ロクティの、事務所に迷い込んだ蝶といい、パレツキーの牧場の池の鯉といい、チャンドラー作品の特徴を上手く捉えている。
あと不思議なのは、破綻せず、きちりと割り切れる割り算のようにかっちりとした作品、またちょっと複雑なプロットの作品ほど、マーロウ物としては似つかわしいと思わされた。チャンドラーの短編で感じたように、マーロウの行動原理が十分には理解できずに終わる、何かモヤモヤした物を抱えたまま終わる物ほど、マーロウの物語として相応しいような気がした。

あと敢えてマーロウの舞台、卑しき街ロサンジェルスからマーロウを飛び出させた作品も印象に残った。タイボ二世の「国境の南」がメキシコ、ランデージの「ロッカー246」がニューヨーク、グレイディの「悪魔の遊び場」はロサンジェルスから遠く離れたサプリーという恐らく架空の街をそれぞれ舞台にしている。
特にタイボ二世は詩的ながらも南米メキシコの焦げるような暑さと、人々の汗ばんだ匂い、そして砂埃が行間から立ち昇るかの如きその文章で、どこかチャンドラーのそれとは違うと思わせながらも、チャンドラーに通ずるペシミズムが溢れている。この作品に出てくるアレックスがテリー・レノックスとだぶるのは、錯覚ではないだろう。

チャンドラー自身の作品も入れ、全16作収録の本書。そこに書かれたフィリップ・マーロウは時に「フィリップ」であり、「マーロウ」である。そのどれもがフィリップ・マーロウなのだが、フィリップとしか呼べないフィリップ・マーロウと、マーロウとしか呼べないフィリップ・マーロウがいるのに気付かされる。
その理由ははっきりとしないのだが、作中、走ったり、格闘を演じたりする若さや躍動感が漲っているのがフィリップ、車であちこち駆け回り、そこで出逢う人に馬鹿にされながら、そして自らを蔑みながらも最後の一線は守るストイックな騎士を行間から感じさせるのがマーロウといったところか。若きフィリップ、老成したマーロウという区別が自分の中で出来ているのかもしれない。

そして私もまたフィリップ・マーロウが読みたいのだと気付かされた。思えば社会人になりたての20代前半、それが私のチャンドラー作品との出逢いだった。あの頃、読んだときの感想は、今でも『長いお別れ』が私の生涯海外ミステリランキングの1位であることからも、かけがえの無い体験だったと思う。しかし、あの頃解らなかった“味”があるのも確か。あれから十数年経った今、マーロウの物語を再読してみると、きっとまた違った“味”を知るだろう。日本に帰ったら再び手に取ってみるのもいいかもしれない。


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No.3:
(4pt)

繊細なバランスで保たれるタフな男

レイモンド・チャンドラー、そしてフィリップ・マーロウを愛する作家たちによるアンソロジーの短編集ながら、チャンドラー本人の手になる短編「マーロウ最後の事件」も収録されている。傑作ぞろい……というにはやや物足りないが、駄作と呼ぶに値するものは一つとしてない。どれもみな熱意をもって書かれているのはよく伝わってくる。特に「完全犯罪」や「国境の南」などはキレのある素晴らしい短編だ。
 登場するマーロウ「たち」は確かにフィリップ・マーロウその人なのだが、やはりレイモンド・チャンドラーがその傑出した筆致で描き出した人物像とは少々距離がある。誰も完璧なマーロウ像を再現することはできない。似せることはできる、寄せることはできる、しかしそれで生まれるのはレイモンド・チャンドラーのマーロウではなく、各々の見たマーロウでしかない。もっとも、それこそがアンソロジーの面白さであることは間違いないのだが。
 さらに言えば、レイモンド・チャンドラー本人すら、長編作品のマーロウとはやや異なる印象のマーロウを書いている。我々の知るマーロウという人物は、どうやら長い文章と繊細なバランスという二つの要素無しには成立し得ないらしい。
 本書を読む人々のお目当てであろう「マーロウ最後の事件」には、「さよなら愛しい人」に登場したアン・リオーダンが再登場する。彼女自身と彼女に対するマーロウの言動が本編最大の魅力といえるだろう。長編作品では見えてこなかったマーロウの側面には一読の価値がある。
フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4150704562
No.2:
(4pt)

2冊、23篇+1篇を読んでの感想など

チャンドラー生誕100年を記念して23人の作家にマーロウを主役にした短編を書いてもらって最後に一篇だけチャンドラーの「マーロウ最後の事件」を収録した、ロックでいえばトリビュート・アルバムに当たるアンソロジー。
全部読んだ感想でいえばすべての作品がそれなりに楽しめました。書き手は殆どハードボイルド系の人ですが、ハリントン、E・V・ラストベイダーなど、意外な作家も書いてます。個人的にはシュッツ、グレイディ、キャンベルの作品が印象に残りました。ただ、私の場合、「短編ミステリとして良く出来ているか」という視点で読んだので、「どれだけチャンドラー/マーロウの雰囲気を再現出来ているか」という視点で読めば感想は全然異なるかもしれません。そういう意味で最後にチャンドラー自身の作品が入っているのが他の作品と比較出来て気が利いているように思えます。そして比較すれば誰もチャンドラーの模倣は出来ない孤高の高みにいるのが判ります(チャンドラーが凄いからと言って全ての作家がチャンドラーと同じになったらつまらないので同じにならないでいいですが)。
この手の企画は面白いので他の作家のキャラクターでもやってもらいたいです。個人的にはネロ・ウルフとかダルジールとかで。
最近になって文庫化されたようですが、そちらはここから更に作品を絞って収録作品が少なくなっているようです。
フィリップ・マーロウの事件〈1(1935‐1948)〉 (Hayakawa Novels)Amazon書評・レビュー:フィリップ・マーロウの事件〈1(1935‐1948)〉 (Hayakawa Novels)より
4152076771
No.1:
(3pt)

注意!

これはフィリップ・マーロウに対するトリビュートアンソロジーである。チャンドラーの作品は、既に同社から出版されている「マーロウ最後の事件」のみ。
表紙やタイトルが誤解を招きかねないと思うので、全国のチャンドラーファン達に…老婆心ながら…。
フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:フィリップ・マーロウの事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4150704562



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