(短編集)
単位の情熱
※タグの編集はログイン後行えます
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
単位の情熱の総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
本書は、1973年5月サンケイ新聞出版局から初出版されたもので、1988年12月に徳間文庫から再出版されたものです。 「単位の情熱」 脇村安佐ヱ門は、渋谷プラザホテルの創設者である。その孫娘、脇村益美が渋谷プラザホテルに宿泊していた。益美は、現社長、脇村誠太郎の三女である。益美は、このホテルを自分の家代わりにして、都内の名門私立女子大学に通っていた。大学の授業を終えホテルの部屋帰った益美は、ダイヤモンドの指輪が無い事に気付いた。それは、父から誕生日プレゼントで貰った二カラットのダイヤモンドの指輪である。百万円もする高価な物だった。フロアーキャプテンを呼び、この日、部屋を整理した田無時子に事情を聞くことにした。田無は、部屋にはダイヤの指輪は無かったと言った。だが、益美は、田無が盗んだものと決めつけてしまった。時子が創業者一族である益美に、何を言っても信じてもらえなかった。田無時子が、自室のアパートで首を吊って自殺したのは、それから一週間後の事だった。しかし、数日後、洗面台の排水口を修理しに来た水道係が、パイプに詰まっていた益美の指輪を発見したのだ。益美の不注意で指輪を洗面台に落したのだろう。だが、これが公になっては拙い。脇村一族によって、関係者には、口外しないよう命令された。しかし、そういった話は、必ず漏れるものだ。社員をひとつの歯車(単位)としてしかみていない、冷酷な経営者は、この事実を隠蔽しきれなかった。生前、時子には、結婚を約束した男がいた。その男も、渋谷プラザホテルで一つの単位として働いていた。その小さな一つの単位が、創業者一族に復讐するのだ。 「鳩の目」 信州野沢温泉に鳩車という民芸品がある。アケビの弦で細工したもので、民芸品マニアには人気の工芸品である。地元で鳩爺と呼ばれる高野平作でも、一日に二個くらいしか作れない。そのため、注文を受けてからお客の所へ届くまで三~四ヶ月もかかっていた。平作は、ある時、ミスに気が付いた。最近作った一つに、鳩の目を付け忘れた物があったのだ。慌てた平作は、十日ほど遡り、お客に盲鳩だったら、作り直すからと手紙を書いた。すると、すぐに津上富枝というお客から盲鳩が送られてきた。二個買ったうちの一つだと言う。平作は、それに目を付け、お土産を添えて送り返した。とこが、また数日して二個目の盲鳩が送られてきたのだ。目の数は、鳩車の数しか用意していない。おかしいと思ったが、それも修理して送った。一週間ほどして、テレビを見ていた平作は、驚いた。初めの盲鳩を送った、津上富枝の死体が山林で発見されたのだ。犯人は、富枝が盲鳩を送ったことを知らなかった。犯人は、富枝の平作からの手紙を読んだのだ。そして、もう一つの鳩車の目を、取り去って送ったのだ。二個目の盲鳩の送り先が、犯人がいる場所の証明になるとも知らないで。 「企業人非人」 人非人は、辞書で調べると、人であって人でない者と書いてある。貴浦製作所は、電気機器の総合メーカー、三栄電気の子会社である。今回、本社の視察団が来るのに伴い、その接待を考えなければならなかった。貴浦地区には、濃厚なサービスをする“こたつ芸者”がいる。例年、視察とは名ばかりで、本社から来る者も、この“こたつ芸者”と飲食し布団を一緒にすることを楽しみにしていた。この接待さえ上手く手配できれば、本社へ帰っても貴浦製作所にとって不都合なことが報告されることは無かった。ところが、今年の本社の視察団が来る日というのが、貴浦の“こたつ芸者”たちの芸妓組合による慰安旅行のため、芸者が一人もいなかったのだ。困った挙句、考え出したのは、社員たちの妻を“こたつ芸者”の代わりとして供応しようというものだった。サラリーマンとしての身分を保持するためとはいえ余りにも酷い。まるで、人であっても人ではないと思うからできる行為である。だが、その妻の一人が、視察団長を殺害してしまうのだ。通常、森村氏は、〇県〇町と地域を表記することが多いが、本作にはそれが無い。誤解されて、地域の人に迷惑がかからないよう配慮したものだろう。今はいないが、“こたつ芸者”というのは、実際に存在していたようだ。 「電話魔」 主人公は、私で、私の言葉で物語が進んでいく。私は、大都会東京で天涯孤独な人間で、寂しくて仕方が無かった。だが、私は、その寂しさを解消する手段を見つけた。それは、夜中に当てずっぽうにダイヤルして電話を掛けることだった。その日も私は、いつもの様にダイヤルした。すると、受話器を取るなり、殺される!殺される!と相手が言うのだ。私は、慌てて電話を切った。だが、私は、翌日になっても、その事が気になった。相手は、殺される!と言うのだからただ事ではない。気になって仕方がないので、もう一度同じ番号へダイヤルした。殺される!と聞いたと言っても、冗談は、いい加減にしろと怒鳴られてしまった。やはり、何かの間違いか、テレビの音だったのか。間違いだと思うことにした。しかし、それから私は、誰かに尾けられている様な感じがした。私は、怖くなった。恐怖を紛らわせるために入ったバーで酒を飲んでいる時に、知り合ったのが中岡だった。私=富森安子の扼殺死体が立川市の山林中から発見された。中岡=神岡は、そのニュースを聞いた時、自分の下した犯罪なのに、全く他人事の様に思えた。それは、神岡と富森安子とを繋げる接点が何も無かったからだ。だから、神岡は、警視庁を名乗る刑事が二人訪れた時には、立っていられないほど驚愕した。話は、簡単なのだ。安子の部屋には、多数の電話番号の控えがあったからだ。神岡は、安子とは別のもう一つの殺人の罪のも問われることになった。 「無能の情熱」 守屋留男は、ダメな男だった。男ばかり七人兄弟の末っ子で、兄たちは、弁護士や公認会計士、一流企業の社員で優秀な家系であった。だが、留男だけは、二流の大学を出て二流の商社に入った。その留男が結婚できたのも、素封家である名門守屋家のおかげだった。会社に入った守屋は、“マンコウ”さん、と綽名された。入社以来、万年、弘報課に勤めているからである。弘報課は、広報課ではない。外部から寄せられる種々雑多な苦情処理係なのだ。何の楽しみもない。毎日、同じ時間に出社して同じ時間に帰宅する。だが、そんな守屋が、単調な生活に刺激を与える素晴らしい遊びを考えついた。それは、毎日、往復する通勤中にハッとする女に出会った時、その女を尾行して私生活を覗き、観賞することだった。令嬢かと思ったら、場末の裏長屋へ帰ってみたり、有閑マダム風の美女が魚屋の細君であったり、表向きの服装や化粧からは、窺い知れない私生活を見ることが、堪らなく楽しくなってしまった。この日も、都心の一流会社のOLの後を付けた。知的な愁いのある清楚な容姿の女だったが、いきなり連れ込みホテルへ入ってしまったのだ。余りにも咄嗟な事だったので、守屋も衝動的にホテルの玄関へ入ってしまった。お連れさまですね、と問われて、そうだと答えてしまう。守屋は、慌てて隣の部屋をもう一つとってくれと言って誤魔化した。不審に思われない様に、平然と隣の部屋に入った。その部屋で、守屋は、隣の若いカップルが行う破廉恥な痴態を想像して楽しんだ。いつもより激しく興奮して家へ帰った守屋は、次の日のニュースを見て驚いた。なんと、昨日のホテルで昨日の女が殺されたのだった。このホテルは、フロントを通さずに部屋に入ることが出来た。ホテルの従業員は、連れの男の特徴として語ったのは、正しく守屋のことだったのである。 「虚無の標的」 大手広告代理店に勤めていた河崎直二は、大手商業誌の懸賞小説に応募して次席になった。その事に気を良くして、勤めを辞め小説を書くことに専念した。生活費から全てを妻の佐枝子の働きで賄っていたが、その生活も、遂に行き詰まってしまった。小説を諦め、河崎が選んだ勤め先は、マミー家具販売会社で、そこのセールスマンとして家電製品、ミシン、ベッド、事務機器などを売り歩くことだった。何年たっても契約が取れず、退職も勧告されてしまった。ところが、ある販売方法を考え出したことが契機となり、ダメ社員から一変してトップセールスマンになってしまうのだ。(その販売方法は、控えます)。変わったのは、それだけでは無かった。仕事のこと、売ることだけしか考えない人間になってしまった。佐枝子からもセールス・マシンと揶揄された。売る機械に豹変した河崎には、人間性は無い。会社から、発火の恐れがあるから販売を中止しろと指令があった、危険なテレビまで売りに売りまくってしまう。作家になるために、夫婦で苦労していた時期の方が、どれほど幸せだったと気付いても遅すぎた。妻の佐枝子は、機械と化した夫から離れる決断をする。機械は、それを動かしてくれる人がいなければ動かない。 「病触会社」 東栄化学工業は、総合化学工業の大手メーカーである。その社長を含む、重役十三人のうち十一人が健康診断の結果、梅毒菌スピロヘータに感染している事が分かった。肥料、農薬、工業薬品、化成品などを作る東栄化学は、製品全般に不調のところへもってきて、公害企業と問題視されていた。公害防止装置に巨大な資本投下を余儀なくされて、減益、減配の見込みだった。梅毒菌に感染していることは、外部に漏らさぬようにしていたが、不思議なことで、何処かから噂が広まった。常務会のメンバーの大多数が性病に侵されたと言う噂は、スピロヘータ菌のような勢いで蔓延してしまった。ここで、問題なのは、次の株主総会である。収益も悪化し公害企業の汚名を付けられ、会社員総梅毒などとマスコミも喜び囃し立てた。そんな状況で、株主総会の日を迎えた。総会屋というのは、今は、存在しない。株主総会で総会屋と会社側の隠れ株主とが、激しく応戦する記述は、圧巻です。東栄化学が、汚染水を清流に垂れ流した事によって、下流の和紙製造会社が倒産していた。これは、その和紙製造会社の一人娘が企てた復讐なのである。 「社員廃棄院」 大都ホテルは、ホテル業界の老舗であって規模と売り上げは、常に業界のトップにランクされている。外国人観光客の増加に伴い、最近、新設のホテルが次々と建設された。この事によって、大都ホテルに思わぬ弱点が見つかった。それは、社員の人件費が新しいホテルと比べて、かなり高いという事だった。大都ホテルの社員と言えば、二十年、三十年勤続の社員はザラにいる。社員の平均年齢が問題だった。年功を重んじる給与体系であるから、彼らは、高額なサラリーを得ていた。総支配人の山野卯三郎は、その対策を考えた。山野は、大都ホテル社長、今井総一郎に絶対の信任を得ている。人事課長の高尾豊蔵を呼び出し、こう言った。会社に居ても居なくても良い者二百名のリストを作れと言ったのだ。二十年以上勤続の者で、月給十五万円以上とっていて、職場から外しても不都合でない者と付け加えた。高尾は、その人物リストを作り始めるが、人事課長であるから、そのリストに入れられた社員が、どういう運命になるのかは、良く分かっていた。社員二百人、一家族四人として、おおよそ一千名の生活が狂わされるのだ。しかし、この話は、残酷物語では無い。選ばれた二百人は、箱根の社員寮をホテルに改造した所へ送られた。また、給料も保証せず、独立採算制とした。これが、逆に彼らに好機をもたらした。今まで、大企業ホテルの歯車でしか無かった彼らが、自由に働きだした。たくさんのアイデア、サービスも生み出した。これが評判となり、お客は、押し掛けて来るようになった。箱根大都ホテルの人気は、急上昇した。そして、ついに大都ホテルより好業績を築いてしまうのだ。今まで、歯車でしかなかった彼らは、200個の大きなモーターに変身していたのだ。総支配人の山野卯三郎は、大都ホテルを馘首された。 「侵略夫人」 セールスマンが街頭に立って商品の宣伝をする、いわゆる“街宣”という手法の問題点を指摘した話。インペリアルミシン社は、セールスマンを街頭に立たせて、ミシンの宣伝をする。興味を持ったお客に、商品を説明して、購入してもらうのが、主旨だ。だが、興味はあるものの、買い物の途中などで、詳しく説明を聞いている暇が無い時などは、住所、氏名を聞き、都合の良い時間を指定すれば、セールスマンが、その時間に訪問してくれる。誠に合理的な方法なのだが、些か強引なところも有り、それが社会問題でもあった。大月都美子は、突然街頭で見知らぬ男に声を掛けられた。インペリアルミシン社のセールスマン、香川だった。つい何気なく返事をしてしまったのが、運のつきだった。相手は、ピラニアの様なセールスマンである。客の方に、少しでも反応があれば、食い付いて離れない。都美子も面倒くさくなってしまった。それに感づいたセールスマンは、都合の良い時間に訪問するから、用紙に住所、氏名を記入して欲しいと頼んだ。その時、都美子に悪い考えが閃いた。同じ団地に住む、佐倉初枝の名前を書いたのだ。都美子は、初枝が周囲に垣根を張って、常に、都美子を見下す様に接することが気に入らなかった。なんとなく嫌いだった。訪問時間も、夜の十時と意地悪した。団地の近くの公園で殺人事件が起こった。インペリアルミシン社のセールスマン香川欣二が刺殺されたのだ。刺殺された日時は、都美子が、初枝の家を訪問するように記入した、同じ日、同じ時間帯であった。捜査を担当した刑事は、香川が持っていた、訪問客リストを調べた時に違和感を持った。それは、その時間に訪問する予定だった、佐倉初江が書いたと思われる、住所、氏名の筆跡が、佐倉初江のものでは無いことだった。刑事は、団地の掲示板で、同じ筆跡を認めて、そこに書いた人物の特定を急いだ。都美子は、どうやって事件と関係が無いことを証明するのだろうか。 「殺意の造型」 中野区中野駅に近い理容店、バーバー・ニューホープで事故が起きた。理容椅子でシャンプーをした客が、髪を流すため、洗面台の方へ歩いて行く時に、足元が滑って転倒してしまった。その時、運が悪く、別の理容椅子で髭を剃っていた理容師に突き当たったのである。いきなり不自然な力を加えられた理容師は、お客の首筋を切ってしまった。その部位も最悪なことに、頸動脈を切ってしまったらしい。血飛沫で真っ赤に染まり、客は死亡してしまった。捜査にあたった所轄署の捜一係の宮下と犬塚は、単なる事故だと思った。ところが、その時レザーを握っていた理容師。深尾順造は、日本一を競う全国大会で一位になった男で、自分のカットは創作で、仕上がったヘアースタイルは、芸術だと認識していることが分かった。さらに、死亡したお客は、それを全く有り難いとも思っていなかった。そればかりか、次に来店する時には、前回、深尾が作り上げたヘアースタイルを目茶苦茶にしてやってくるのだ。深尾は、芸術家だと思っている。宮下は、芸術家が精魂こめた作品を冒涜したら、そこに殺意が生まれるのではないかと考えたのだ。しかし、その殺意をどう証明したら良いのか?そこで、宮下は、自分の首を使って、人体実験をすることにした。だが、殺意が確認できた時には、自分の首が切られた時だという矛盾に気が付かなかったのだ。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 1件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|