(短編集)
殺意の接点
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Kindleの電子書籍のお陰で、手軽に購入させて頂いている。 最近は立て続けに、森村誠一氏の著書を読んでいるが、これほど時代を超えた作風だとは思わなかった。 重厚さもありながら、軽妙な側面もあり、飽きさせない。トリックも現代に通用する内容だと思った。 | ||||
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本書は1971年5月に講談社から初出版されました。殺意の盲点に次ぐ“殺意の~”シリーズ二作目です。6編のうち3編が山岳物です。 「殺意の接点」 上野発、仙台行の寝台列車“新星”の車掌、砂村儀助は、午前五時の車内パトロールの時、異常に気が付いた。通路の左端に、赤黒い粘着状の物を捉えたからである。死亡していたのは、日本最大芸能プロダクション“キクプロ”のコミックバンド「バースターズ」リーダー葉村実だった。地方出の佐竹浅次は、東洋映画の新人募集に合格し、俳優の名が付いたが、陽の目を見ることは無かった。大部屋のメシを食いながら、馬から落ちたり、崖の上から落ちたり、そんなシーンの代役を務めていた。佐竹を唯一励ましたくれたのは、同郷で妹の様な朝日奈リカだった。誰しも幼少の頃は、たった数才年上なだけで、その人に憧れてしまうことがある。リカも正に、そうだった。「大人になったら浅次さんのお嫁になる」と言って周りの大人たちを微笑ませた。リカは女学校を終えると、浅次を頼って上京する。内面の優しさと知性を備えていたリカは、(浅次は、あまり気乗りしなかったが)彼の口利きでファッションモデルクラブ“ビューティー企画”へ入った。入会すると、たちまちリカの知的な美貌と、日本人離れした均整のとれた肢体で、同クラブ若手随一のホープになったのである。更に、大手化粧品メーカーのCMに起用され、それが好評で国民的スターとなった。浅次は、リカが遠い処へ行ってしまったのを感じずにはいられない。そんなリカに食指を伸ばしたのが、人気絶頂のコミックバンド、バースターズのリーダー葉村だ。葉村にとって、右も左も分からないリカを、手玉に取ることなど、赤子の手をひねるよりも簡単だった。二人は、隠れて交際した。ところが、葉村は、リカを同乗させた車で大事故を起こしてしまう。リカは、タレント生命を失うほどの重症を負った。浅次は、テレビでそのニュースを知り、もう我慢できなかった。佐竹に激しい殺意を抱く。上野発、仙台行の列車と群馬県沼田行の列車は、ホームも別々で、3分差で出発するが、浅次は、二つの車両が大宮で別れる直前、貨物線上で並行して走るという接点を知っていた。また自分は、スタントのプロでもある。その時に、このトリックを考えたのだ。 「科学的管理法殺人事件」 科学的管理法とは、アメリカの経営者テイラーが提唱したもので、能率を高めるため、作業から一切の不必要な動作を取り除くシステムである。作業を細分化し、動作を簡略化する。それをストップウォッチで測定し、徹底的に一秒単位で無駄を削っていくのだ。そこには、人間としての要素は、全く必要ない。山本芳男は、小学生の頃から酷薄な性格を持っていた。 トンボや蝶の羽を毟り、胴体だけを並べて踏み躙っては喜んだ。そんな山本は、殺人犯を無罪にしてしまうような弁護士になりたくて、名門大学の法科へ進む。無実に泣く者を救う為ではなく、明らかに罪を犯した者を無罪とすることに、幼少のサディスティックな興奮を覚えたからだ。司法試験に挑戦する。そもそも落とすために作られた試験問題に格闘するが、五六度受けた試験はすべて失敗した。いつまでもブラブラしている訳にもいかないので、腰掛のつもりで東洋最大と言われる“東洋ホテル”へ入社する。フロント受付係を任された山本が受けた教育が、科学的管理法だった。そもそも、自分の頭脳と弁論によって弁護士を目指したほどだから、この、単一な働き方には全く馴染めない。吉山晴男は末松社長に心酔しているモーレツ課長で、科学的管理法を徹底的に遂行した。山本は自分の頭脳と弁論を封じ込められた、吉村に対し殺意を抱く。だが、山本は、自ら手を下す事は考えない。同僚二人を言葉巧みに囃し立て、吉村に殺意を抱かせ、実行させてしまうのだ。自分は、何の罪にならない方法を考え出す。法律用語がたくさん出てきます。 「公害殺人事件」 群馬県安西市は、養殖鯉や梅を特産とした豊かな地域だったが、大きな社会問題が起こり、全国的にクローズアップされた。それは、その地域の住民の指が曲がり、神経痛を訴える者が続出したことだ。調べると、一種の金属による汚染であることが分かった。さらに、彼らの尿中から多量のカドミウムが検出された。その原因と考えられたのが“東洋亜鉛”安西精練所である。その東洋亜鉛安西精練所工場長の岩井順吉が、桑畑の中で死体となって発見された。その事件の数週間前、この地区で三反ほどの農業をしている大山伊三次の老母が神経痛を訴えたので、市の保健所が診断したところ、イタイイタイ病である事が分かった。そればかりか伊三次の農地も、カドミウムで汚染されているというのだ。厚生省(当時の名)も、この問題を重視し解決策を考えた。何を根拠としたか不明だが、1ppm以上のカドミウムが検出されたら、東洋亜鉛が賠償金を支払うと決めた。ところが、伊三次の畑から検出されたカドミウムは0.995ppmだった。従って、伊三次は、賠償金を得る交渉に参加する権利は無い。線を一本引かれただけで、賠償を受けられない。伊三次は、1ppmを超えた農家のみ参加出来る説明会に乗り込み、会場で「岩井を殺してやる」と叫んでいたのだ。その事を知った警察は、伊三次を容疑者として取り調べた。しかし、この背景には、次々と作られる汚染工場増設を収賄によって認可していた役人がいて岩井と組んでいた。その役人の狡賢さを書いた社会派問題作。 「裂けた風雪」 長野県O市の菱井銀行O支店に勤める緒方正弘は、初めに入社した時、東京都心の支店に配属されたが、彼の性格が災いして、この地方に飛ばされた。緒方は、人からものを頼まれると断れない性質を持っていた。都心の支店の時、支店長が顧客から受け取った手形が不渡りになった。支店長が、裁量貸出しと言われる、自分の貸金の枠から貸し付けたものだ。支店長は、不渡りの通知を受けると緒方呼び「これは君が、騙されたことにしてくれ」と因果を含めた。その結果、緒方は、O市へ飛ばされたのだ。ところが、緒方は、学生時代からやっていた登山が、やり易くなったと喜ぶほどの、おめでたさだった。その支店に、二宮豪造から緒方宛に集金の依頼が来た。O市は、後立山連峰の登山口として知られている。二宮は、北アルプスG岳に樽ヶ岩山荘を経営していた。登山ブームによる登山人口の増加で山小屋は、大きく増収していた。山小屋は、宿泊を求められたら断れない。宿泊を断ったら、人命事故にもなりかねないからだ。横になるどころか、座れれば良いほうで、立って寝ている者もいるほど満杯になった。その高峰にある山小屋の大金を、回収に行くのが緒方の仕事だったのである。元々、緒方は、登山の経験があり、仕事半分趣味半分の気さくな対応から、二宮から信頼されていた。支店長も、そういう事情から緒方に許可を出した。ところが、通常なら一泊二日の日程で集金に行くのだが、この日は、「午後二時までに来てくれ」と二宮は言う。いつもよりも少し集金日が早いな、と思いながら、二宮から集金した売上金を持って帰社した。そして翌日知ったのは、その日、O市駅前で旅館を経営している有力実業家堀田英作がG岳に通じる砂防ダムから落ちて死んだでいたと言う事を。堀田は、山荘経営にも食指を伸ばし、厚生省の許可を得て、いよいよ来年にも建設が始まる予定だった。新しい山荘が出来たら二宮も困るだろうなと思っていた緒方は、まさかと思った。警察も山荘建築を妨害する動機を持つ二宮に事情を聞く。だが、二宮は、その時間に緒方と会っていてアリバイがある。断れない性格が、アリバイ作りの証人まで引き受けてしまった。 「虚偽の雪渓」 S岳は、北アルプス南部の主脈に聳える3000メートル級の雄峰であり、槍、穂高に次ぐ人気の山岳。東京A大山岳部の堀越正人と吉松幹男は、S岳の頂上から隣峰K岳との鞍部に狭い尾根を切り開いて設けられた“S岳肩の小屋”へ降りてきた。二人は、3000メートルの稜線に激しい緊張と激労作を要求され、身体は、エネルギーの全てを奪い尽くされ、疲れきっていた。ようやく辿り着いたS岳肩の小屋は、彼らにとって、極寒の地から逃避できる楽園の様に見える。吹き付ける寒風を防いでくれ、ストーブがあった。もちろん二人が点火しなければならないが、疲労困憊している二人にとって、楽しみと思えた。火がついたら、お湯を沸かし、温かいコーヒーで乾杯しようぜ、と言いながら、二人は、小屋の中から燃料を探した。それは山小屋の主人が、登山者のために置いてくれた物で、それを使用した登山者は、相応の代金を置いていくのが慣習である。山小屋の主人も、その事で登山者から裏切られたことは無かった。二人は、焚き木を探して、薄暗い小屋の中を手探りで歩いていると、大きな物体に躓いて転倒した。二人は、不審に思い、何だろうかと良くみると、人が寝ていた。しかし、よく見ると生きている気配がない。さらに、頭部に、赤褐色の粘着物が付いている。堀越と吉松は、直ぐに殺害された人だと理解した。それと同時に、その人は、東京岩峰登高会所属の栗原啓介だと分かる。栗原は、登山者の間では、名の知れたクライマーだったので、顔を知っていたのだ。山麓の所轄警察O署では、直ちに捜査本部が設置された。調べると、当時、S岳に登山していた三人の人物が分かった。証券会社に勤める宮本と、山岳関係の雑誌社編集員の小島、それと貿易会社に勤める西田であった。この三人の一人が犯人なのだ。山全体を密室とした、犯人探しとトリック崩しの話。 「高燥の墳墓」 東京岩峰登高会の先鋭クライマー尾崎達彦と三沢良次郎は、北アルプスS岳東壁の積雪期登攀を狙って、第一岩峰を突破した。第二岩峰を突破したところで、天候の変化を感じた。気温が急降下し風が出た。雪も濃密になり、登ったばかりの第一岩峰も、濃いガスで包まれている。トップの尾崎は、続行するか三沢と相談するが、三沢は強気だった。今更、下降するには、少し登りすぎた感もあるが、三沢は、トップを変わると言い、尾崎と交代した。その間、吹雪は容赦なく二人を襲い、下の尾崎は、前方の三沢の姿も失いかけた。次の瞬間である。三沢が堕ちた。尾崎はジッヘル(確保)の姿勢に入る間もなく、数珠つなぎの状態で雪の壁を堕ちていった。60メートルほど下の雪田で二人は止まった。尾崎は、すぐに立ち上がったが、三沢は起きない。三沢は、左足首を複雑骨折したほかに、右の腿をピッケルの先端で突いていた。尾崎は、40メートル程離れた所に、岩の窪みを発見しビバークサイト(露営地)とした。天候は、翌日になっても回復しない。二人は、風雪の中に閉じ込められながら、直面している悪天が悪名高い“二つ玉低気圧”である事を知る。と言う事は、救助隊さえ近付けないのだ。尾崎は、三沢と一緒に、ここに留まったら二人とも餓死か凍死してしまうと思い始める。元はと言えば、続行を決めたのは三沢だ。三沢は、自業自得だと都合良い事を考える。そして、残ってくれ、と懇願する三沢を置き去りにして、尾崎は下山してしまうのだ。H岳肩の山荘の経営者、三沢良太郎は、弟の三沢良次郎の遭難死に疑問を持った。それは、いつも持っているはずの山日記が発見されなかったことで、そこには、登山中の様子を書き留めておくのだ。次は、尾崎達彦は、食料を残したと言っているが、遺体の近くから、それらの包装紙らしき物が、一切、発見されなかった事。三番目は、尾崎が救助隊に示した場所が、全く方向違いの場所だった事だ。山日記は、墜落の時に失ったかもしれない。食料の包装紙は風雪で飛ばされたかもしれない。遭難した者が遭難場所を分からないのも当然と言える。しかし、兄の良太郎は、何もかも分かっていた。長い歳月をかけて、良太郎の尾崎に対する復讐が始まる。 | ||||
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森村誠一氏の初期の短編を納めた一作。お得意の鉄道時刻表を駆使したアリバイものの表題作もそこそこ楽しめるが、本書の収録作では科学的管理法殺人事件が目玉だろう。森村氏としては異色の題材のミステリーでこういうものも書けるのかと興味が沸くこと必至。他には公害病をモチーフにした作品や山岳ものが3篇収録などその後の森村氏の手がける題材のショーケース的な側面も伺え、ファンとしては是非読んでおかなければならない作品集だろう。 | ||||
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