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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数572件
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1950年代後半、冷戦下でCIAが実行した秘密作戦をベースに、文化スパイ活動と女性の生き方を華やかに描いた傑作エンターテイメント。デビュー作ながら出版権が200万ドルで落札され、エドガー賞新人賞候補にもなったというのも納得である。
1956年、ロシア移民の娘・イリーナはCIAのタイピスト募集に応募し採用されたのだが、採用された理由はタイピング能力ではなく、スパイの素質を見込まれたためだった。タイピストを隠れ蓑に訓練を受けたイリーナが抜擢されたのは、ソ連では反体制的として出版が禁止されたパステルナークの小説「ドクトル・ジバゴ」を出版し、ソ連の国民に渡してソ連の言論統制の実態を知らせようという作戦だった。 本作のベースとなったのは実際にCIAが実行した作戦で、著者は機密解除された当時の資料を基に物語を膨らませていったという。史実に基づくスパイ物語だけに、様々なエピソードにリアリティがあり、ノンフィクションかと思うほど臨場感がある。さらに、文学の力が体制を変えるという夢を信じた人々の物語として、また作者の愛人となる女性やスパイ活動を担った女性たちの物語としても読みごたえがある。 スパイものだけには終わらない魅力的な現代史エンターテイメントとして、ミステリーファン以外の方にもおススメしたい。 |
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アメリカ警察小説の巨匠がドキュメント・タッチのインタビュー形式での謎解きという新手法に挑んだ警察ミステリー。事件関係者の供述を時系列で並べて臨場感を出すことに成功した、斬新な(1990年発売)エンターテイメント作品である。
米国東部のどこにでもあるような平凡な町・ロックフォードで、一人の女子高校生が殺された。きちんとした家庭のお嬢さんだった少女は、ベビーシッター中にレイプされ殺害されたのだった。当初は、事件当時町に現れた不審な流れ者が容疑者と目されたのだがアリバイが確認された。事件は、この町の誰かが起こしたのではないか? 町は平穏な様相を一変させ、警察への批判、犯罪への恐怖、隣人に対する疑心暗鬼が沸き上がり混迷を深めていく…。 警察が殺人事件の謎を解くというオーソドックスなミステリーだが、事件の経過、捜査の過程を関係者の証言や会議の議事録で再現していくという、実録ものを読むような手法が成功している。事件の背景、犯行動機などは平凡だが、捜査の進展を同時進行で追いかけているようなリアリティがあり、最後までサスペンスが維持される。 警察ミステリーのファンなら読んで損はないとオススメする。 |
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カジノコンサルタント(いかさま暴きの専門家)トニー・ヴァレンタイン・シリーズの第2弾。カジノをだまそうとする奴らとカジノ側の丁々発止を描いた犯罪アクション・ミステリーである。
アトランティックシティのカジノに依頼されて高額のいかさまを調査していた、警官時代の相棒で同業でもある親友のドイルが爆殺された。葬儀に駆け付けたトニーは未亡人からドイルのノートを渡され、さらにカジノ・オーナーから依頼されたこともあり、ドイルの調査を引き継ぐことになった。ブラックジャックで連勝を続ける怪しいヨーロッパ人たちに目を付けて調べ始めたトニーは、ドイルを殺害した犯人たちに命を狙われることになり、手を引くように脅された。しかし、始めたことは終わらせないと気が済まないトニーは62歳の老骨に鞭打って、命の危険を顧みず突進し、カジノの裏側に隠された闇を暴いていくのだった。 カジノ側が絶対有利なことは分かっていながら勝ちに行くギャンブラーの執念が生み出す様々ないかさまの手口の解説が面白い。さらに、カジノ内部での不正行為はどうやって実行されるのか、それをどうやって防止するか、というコンゲームという側面もあり、だましだまされの応酬にワクワクする。62歳という主人公の年齢がユーモアを生み、また、シリーズ作品らしくトニーをめぐる人間関係の変化も興味を掻き立てる。 年配者が主役の私立探偵作品のファン、カジノ小説のファン、ユーモラスなアクション・ミステリーのファンにおススメする。 |
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1991年に刊行された、著者の初期作品といえる長編ミステリー。おなじみの大阪府警のメンバーが登場するのだが、警察捜査より誘拐犯のほうに力点がある、大阪府警シリーズのスピンオフ作品である。
チケット屋を経営する資産家・倉石達明の父・泰三が誘拐され、犯人は身代金として金塊2トンを要求してきた。2トンもの金塊を一体どうやって受け取るのか? 大阪府警は疑問を抱きながらも金塊を用意し、犯人の要求通りに小型漁船に積み込み捜査員を張り込ませていたのだが、犯人に裏をかかれ漁船は無人のまま自動操縦で淡路島へ向かってしまった。犯行が成功するかと思われた寸前、漁船は通りかかったタンカーに衝突し爆発してしまった。誰もが計画は失敗したと思ったのだが、犯人はあっと驚く手段で金塊を手に入れていたのだった。ところが・・・ 誘拐事件を捜査側と犯人側から交互に描いてストーリーが展開され、途中途中に犯人と被害者である泰三とのやり取りが挿入される。全体に渡って大阪府警シリーズの特徴であるユーモラスな会話がちりばめられ、犯人も憎めないやつなので誘拐もののサスペンスより犯行手口のアイデアと人間ドラマを楽しむ作品といえる。 大阪府警シリーズのファンはもちろん、ユーモア・ミステリーのファンにはぜひおススメしたい。 |
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「クリムゾン・リバー」で知られるグランジェの2018年の作品。猟奇的な連続殺人事件の謎を追ってパリ警視庁の刑事が東奔西走する、警察サスペンス・ミステリーである。
パリ警視庁のコルソ警視のチームに回ってきたストリッパー殺害事件。被害者は両頬を切り裂かれ、のどに石を詰められていた。さらに、捜査がほとんど進展しないうちに発生した第二の事件でも同様の残忍な犯行が行われていた。二人の被害者は同じ劇場に勤めていた同僚で、どちらも自分の下着を使いある特殊な結び方で手足と首を拘束されていた。独特の犯行手口に注目したコルソたちは、その結び方がSM愛好家に知られていることをつかみ、その線から被害者がSMポルノに関係していたことを知り、さらに被害者二人が元殺人事件の服役囚で現在は画家として成功しているソビエスキと交際していたことを突き止めた。ソビエスキを最重要参考人と考えたコルソは合法違法を問わず、あらゆる手段を使ってソビエスキを追い詰め、ついに逮捕にこぎつけた。しかし、その裁判にはクローディアという凄腕の人権派弁護士が立ちはだかっていた・・・。 真犯人はだれか、犯行動機は何かを追求する謎解きミステリーが本筋で、そこにサイコ・シリアルキラー、リーガル・サスペンス、主要登場人物の複雑な背景、警察内部でのバディもの的展開など様々な要素が重ねられ、2段組み760ページという重厚長大な作品となっている。主人公のコルソ警視は警察のルールからはみ出す捜査も躊躇しない直情型かつ激情型で、なかなか共感しにくいキャラなのだが、真相解明にかける一途な思いがストーリーをダイナミックなものにしている。さらに敵役のソビエスキの特異さ、クローディア弁護士の怜悧さ、コルソの部下であるバルバラの柔軟さが、物語にカラフルな展開と何層もの深みをもたらしており、700ページの大作も中だるみなく読み進められる。 グランジェのファンはもちろん、警察ミステリー、サイコ・サスペンスのファンには絶対のおススメである。 |
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アイスランドの人気ミステリー「フルダ・シリーズ」三部作の第二弾。10年の歳月を経て発生した2件の殺人の謎を解く、本格警察ミステリーである。
1987年、人里離れたフィヨルドのコテージで若い女性の死体が発見され、警察は被害者の父親を逮捕する。10年後、被害者を追悼するために絶海の孤島に集まった4人の男女の一人の女性が崖から転落死した。この事件の担当を買って出たフルダ警部は、当初は事故ではないかと想定していたのだが、残された三人の若者から事情聴取すると彼らが何かを隠していると直感する。物証となるものはなく、三人の証言だけを頼りに捜査を進めたフルダは、二つの事件のつながりと隠された闇を見ることになる・・・。 現在から過去にさかのぼっていくという珍しい構成の三部作で、本作は第一作の15年前が主舞台となり、事件解明と並行して50歳で天涯孤独となったフルダ警部の生き様が描かれており、第一作で定年間近のフルダが、なぜ孤独な生活を送っていたのか、その理由が明かされている。北極海の孤島の小国・アイスランドでの警察という男社会で奮闘するフルダの人間ドラマも、本作の重要なテーマである。とはいえ、本格的謎解きミステリーとして傑作であることは間違いない。 シリーズ・ファンには必読。さらに本作から読み始めても十分に楽しめるので、警察ミステリー・ファンにもおススメしたい。 |
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2010年に刊行された「さよなら的レボリューション 再見阿良」の加筆・改題作品。元引きこもりの19歳の男がだらしなく流されてたどり着いた中国で新しい自分を見つけ出す、青春ロードノベルである。
19歳の高良伸晃は引きこもりから脱出したものの通っているのは閉校がうわさされる三流大学で、将来に何の展望もなく、ずるずるとバイトに明け暮れていたのだが、同級生の中国人の女子に恋したことから中国の語学学校に短期留学することになる。そこでも状況に流されて過ごし、何の成果もなく帰国したのだが、再び訪れた上海で、かつてのバイト先の先輩に出会い、成り行きで盗難車を移送するために西安のさらに西へ、シルクロードを突っ走ることになった。ほとんど砂漠ともいえる黄土高原の果ての集落で高良が出会ったのは、中国の奥深い歴史の闇の中で生きる人々の現実で、高良は改めて自分を見つめなおすことになった。 19歳の小心者で俗物の若者と壮大な中国の歴史と自然との対比から生まれるハレーションが、全編をキラキラ輝かせている。主人公・高良のだらしなさや格好悪さ、傷付きやすさにもかかわらず、いや、それゆえにか、いつしか高良を許し、肩入れしたくなる。いわば、自分自身の青春をやり直しているような甘酸っぱさがこみあげてくる。まさに青春ロードノベルである。 東山彰良ファンには必読。ロードノベル・ファンにもおススメする。 |
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2017年に発表された、ノンシリーズ作品。父親のせいで凄惨な事件の被害者となり、ばらばらになった姉妹が、28年後に起きた銃乱射事件と父親の死をきっかけに新たな生き方を見つけていく、ミステリーであり家族の物語である。
ジョージア州の田舎町で暮らす反骨の弁護士・ラスティとその妻ガンマ、サムとチャーリー姉妹のクイン一家。白人女性を殺害したとして逮捕された黒人青年をラスティが無罪放免にさせたとして自宅に放火され引っ越したのだが、その数日後、ラスティが不在の家に二人組の男が侵入し、ガンマは殺害され、姉のサムは生き埋めにされ、妹のチャーリーは命からがら隣家に助けを求め生き延びるという事件に遭遇した。奇跡的に生き残ったもののサムは重い後遺症に悩まされ、事件の原因となった父親を許すことができずに家を出て家族との関係を断ち、成功した民事弁護士としてニューヨークで暮らしていた。一方のチャーリーは母と姉に対する罪悪感を抱えたまま成長し、父と同じ刑事弁護士として地元で暮らしていた。 事件から28年後、たまたま地元の中学校にいたチャーリーは17歳の少女が校長と8歳の少女を射殺するという事件に遭遇した。町中の反感を招いた少女を弁護するのはラスティしかおらず、当然のごとく弁護を引き受けたラスティだったが、何者かに襲われ瀕死の重傷を負った。父の危篤を知らされ、いやいや故郷に戻ったサムだったが、父・ラスティから自分の代理として弁護することを頼まれ、事件にかかわることになった。また、現場にいたチャーリーは警察が説明する事件の構図に違和感を覚え、サムと二人で真相を解明することになる。そして二人の追及は28年前の悲惨な事件につながってゆき、関係者全員が忘れよう、隠そうとしてきた秘密が明らかにされる・・・。 二つの事件の真相を解明していく謎解きミステリーとしても一級品だが、それ以上に、救いがない惨事によって引き裂かれた姉妹がそれぞれの父と母に対する思いをぶつけあい、再び家族として再生していくヒューマンドラマとして読み応えがある。目をつぶりたくなるような悲惨なシーンが多いものの、最後で救われるので読後感は悪くない。 ノンシリーズ作品でもあり、スローター・ファンに限らない幅広いジャンルのミステリー・ファンにおススメしたい。 |
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アイスランドを代表するミステリー・シリーズの第5作。移民の子の殺害事件をテーマに、アイスランド社会における移民の問題に取り組んだ、社会派警察ミステリーである。
アイスランド人の父親とタイ人の母親の間に生まれ、今は離婚した母親がシングルマザーとして育てている10歳の男の子が殺害された。レイキャビク警察捜査官・エーレンデュルたちは人種差別が絡んだ犯罪ではないかと想定し、学校や家族関係から捜査を始めたのだが、そこで浮き上がってきたのは移民に対するアイスランド市民の複雑な感情であり、様々な緊張関係だった。さらに、エーレンデュルは別の女性失踪事件にも取り組んでいるのだが、こちらも有力な手掛かりが得られずにいた。そして、凶器と思われるナイフが発見されたことから解決への道筋を見つけたエーレンデュルたちがたどり着いた真相は、深い悲しみと喪失感をもたらすものだった。 地道な聞き込みで殺人事件の隠された真相を明らかにしていく、オーソドックスな警察小説である。そこに加えられるのが、主人公たちの家庭や人間関係にまつわる解決策のない重荷で、全編を通して重苦しさが立ち込めている。これはまさに、北欧警察ミステリーならではのテイストだが、アイスランドの場合は、その風土の過酷さもあって重苦しさがひときわ大きいと言えるかもしれない。 シリーズ愛読者はもちろん、北欧ミステリーのファンには自信をもっておススメする。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第19作。還暦を過ぎたとはいえ正義感にあふれ意気盛んなボッシュが自ら信じるところを貫く、安定の警察ミステリーである。
サンフェルナンド市警の予備警官として勤務するボッシュは、地元で起きた薬局の強盗殺人事件をきっかけに、ロシアマフィアが支配する麻薬組織への潜入捜査を行うことになった。一方、かつてロス市警時代に逮捕した死刑囚が「ボッシュが証拠をねつ造した」と主張して再審を請求し、ロス市警と検事局はその訴えを認めて再審を開始し、ボッシュはいわれなき罪を問われそうになる。二つの難問に直面するボッシュは、異母弟であるミッキー・ハラーの助けを借り、超人的な働きで正義を追い続けるのだった・・・。 60過ぎの予備警官なのに麻薬組織に潜入するというボッシュの元気なアクションがメインテーマで、証拠をねつ造した警官という汚名をそそぐための調査がサブテーマ。潜入捜査はアクション・ミステリー、再審請求対策はリーガル・ミステリーという、一冊で二作品分の面白さを堪能できる。 ボッシュ・シリーズのファンは必読。アメリカ警察ミステリーのファンにもオススメする。 |
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1947年刊行、48年のMWA最優秀新人賞受賞作の新訳版。シカゴの底辺で暮らす印刷工見習いの青年が父親が殺された事件の謎を追いかけ、その過程で大人へと成長していく、みずみずしいハードボイルドである。
18歳のエドの父親がシカゴの裏通りで殺された。警察は単純な強盗事件と看做したのだが、納得できないエドは伯父のアンブローズとともに犯人を突き止めようとする。移動遊園地で働く変わり者の伯父は人生経験が豊かで、警察にもつかめなかった詳細を徐々につかんでゆく。行動を共にするエドも街の裏表、人々の隠された一面に触れ、大人への扉を開けることになる。そして真相を突き止めた時、そこにはエドが知らなかった父の姿があった・・・。 18歳の心優しい青年が街の現実に気づき、一人前の大人へと変わっていくプロセスをハードボイルドの風味豊かに描いた、なかなかに読後感がいい作品である。殺人事件の謎解きとしても、犯人、動機などにひと工夫があり、ミステリーとして十分に読み応えがある。 オールドファッションで軽やかなハードボイルドがお好きな方にオススメする。 |
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ジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビ作家の代表作である「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第7作。日本でも高く評価された「三秒間の死角」のスピンオフ的な、緊迫感あふれる傑作ポリティカル・アクション・ミステリーである。
麻薬がすべてを支配する南米コロンビアの麻薬ゲリラ組織PCRで幹部のボディガードを務めるパウラは、実は米国麻薬取締局(DEA)に情報を届ける潜入捜査員として目覚ましい実績を上げ続けていた。ところが、麻薬で死んだ娘の仇討ちに全力を捧げる米国下院議長・クラウズが率いる麻薬対策チームの衛星にPCRの動きが捉えられ、クラウズ自らが麻薬組織襲撃作戦に赴き、逆に人質になってしまったことから、事態は思わぬ展開を見せ、パウラは味方であるはずの米国政府から命を狙われることになった。パウラが愛する家族とともに生き延びる道は、PCRを裏切るだけでなく、米国の攻撃をもかわしていくという、極めて厳しく細い道だけだった・・・。 麻薬問題という世界的な大問題をバックグラウンドに、ゲリラを囚われた大物の救出作戦、麻薬組織内でのスパイ活動というスリリングな展開が加わって、前作以上にスケールが大きな、読み応えがある物語である。物語の主役はスウェーデンから逃亡したパウラで、今回のグレーンス警部は重要ではあるがあくまでも脇役に徹している。では、ストックホルム市警のグレーンス警部とコロンビアで活動するスパイが、なぜ、どうやって結びつくのか? その接点に前作「三秒間の死角」が密接に絡むんでいるため、ぜひとも前作から読むことをオススメする。 「三秒間の死角」が気に入った人は必読。さらに、国際ポリティカルもの、スパイアクションもののファンにも自信を持ってオススメしたい。 |
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2019年の英国推理作家協会賞最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)受賞作。愚直なまでに正義を追及し、決して妥協しない刑事ワシントン・ポー・シリーズの第一作である。
被害者家族に機密情報を渡してしまったミスで停職処分を受け、カンブリア州の人里離れたコテージで暮らすポーのもとにかつての部下であるフリン警部が訪ねて来た。当時、カンブリア州では、ストーンサークルで老人男性が焼殺される事件が続いており、その三番目の被害者の体には「ワシントン・ポー」という名前と数字の「5」らしき文字がナイフで刻まれていたという。なぜ自分の名前が刻まれたのか、5は5番目の被害者になるという意味なのか? 事態を憂慮した上司の指示でポーは停職を解かれ、元の職場である国家犯罪対策庁重大犯罪分析課に復帰し、捜査に加わることになった。犯人の動機はもちろん被害者の共通項さえ全く見つからず、捜査が難航しているさなか、新たな死体が発見され、さらに謎が深まって来た・・・。 ポーの視点で連続殺人事件の謎を解いて行く、オーソドックスな警察小説だが、事件の特異性、主人公や同僚の分析官・ティリーの個性の強さが上手く生かされ、単なる謎解きではない面白さがある。さらに、事件の背景のおぞましさ、日本と同様の権力構造の醜さがリアルで思わずうならされる。現在すでに第3作まで出版され、6作目までの準備が進んでいるという、今後が非常に楽しみな新シリーズである。 正統派の警察小説ファン、謎解きミステリーファン、警官が主人公のハードボイルドファンにオススメする。 |
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「マンチェスター市警巡査エイダン・ウェイツ」シリーズの第2作。身元不明死体の捜査をベースにした警察ミステリーであり、エイダンのアイデンティティに迫ったサスペンス・ノワールである。
休業中のホテルで侵入事件が発生し、現場に急行したエイダンと同僚のサティは警備員が負傷して倒れ、さらに顔に笑みを浮かべた男の死体があるのを発見した。死体には指紋を削除した手術の痕があり、服のタグが全部切り取られていた。身元不明の上、死体に見合う捜索願も出されていない行方不明者の男は何ものなのか? なぜ閉鎖されているホテルで殺されたのか? 前の事件(前作「堕落刑事」)が原因で市警内部で疎まれているエイダンは、上層部はもちろん同僚サティの協力さえも当てに出来ない中で孤独な捜査を進めるのだった。 笑う死体の謎解きがメインストーリーなのだが、それに加えて女子学生脅迫事件、ホテルのオーナー夫妻の確執、ゴミ箱連続放火事件、ウェイツの麻薬問題など、サブストーリーも盛りだくさんで話がどんどん大きくなり、読者を混乱させる。それでも、取り留めなく広がったようなストーリーが最後にはきれいに伏線回収されていく物語構成はお見事。途中途中に挟まれる謎の少年ウォリーの告白も、収まるべきところに収まっていく。謎解きミステリーとして、はみ出し刑事の警察アクションとして、さらには人格崩壊寸前で踏みとどまる刑事・エイダンの自律への戦いの物語として、さまざまに読むことが出来る。 警察小説、ノワールのファンにオススメするが、前作「堕落刑事」から読むことが必須であると忠告したい。 |
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2015年に発売された書き下ろし長編。「平和警察」が安全を守るために市民に危険人物を密告させ、尋問(拷問)によって罪を自白させ、公開処刑によって市民の期待に応えるという、恐怖のパラレル日本を描いたディストピア小説の傑作である。
ジョージ・オーウェルの「1984年」の新言語ニュースピークの如き「平和警察」によって「安全地区」に指定された仙台では、住民の相互監視と密告が常態化し、告発された人物は必ず「危険人物」と認定され、ギロチンによる公開処刑が行われていた。そんな事態に反対する人々もいたのだが、平和警察の狡猾で強圧的な力の前にほとんど対抗できていなかった。ただ一人、全身黒づくめのコスチュームで現われる正義の味方を除いては。そして、黒づくめの男に業を煮やした平和警察とその指揮下の宮城県警は、彼をおびき出すために狡猾な手段をとるのだった・・・。 市民の弱さと従順さに付け入る、某国の秘密情報機関顔負けの平和警察のあり方がリアルで、背筋が寒くなるほど怖い。しかも、市民の相互監視というソフトな手段で効率よく管理するやり方は、SNSやテレビでの炎上、つるし上げを想起させ、まさに今の日本の社会を見ているような恐怖感を与える。さらに、登場人物が全員、正義を代表するような人物ではなく、ストーリーが展開するたびに善と悪の境目が曖昧になるところも不気味で、ニヒリスティックな世界観と言うしかない。それでも「ディストピアを望まないなら、社会はそこから出発するしか無い」という強いメッセージを感じさせる作品である。 ミステリーとしても面白く、誰が読んでも何かしら感じるものがあり、どなたにもオススメしたい作品である。 |
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イタリアのジュニア向け作品を書いて来た中堅作家のミステリー第一作。マフィアのボスたちが標的になった連続殺害予告事件をテーマに、犯罪組織で生きる男たちの怨讐を描いた傑作ノワール・エンターテイメントである。
ナポリ郊外の墓地で地元マフィアのボスが殺害されて墓穴に入れられているのが見つかった。しかも、そこには7つの墓穴とそれぞれに名前が刻まれた墓碑があった。つまり、残りの6人の殺害を予告しているのだった。同じ頃、七つ目の墓碑に名前を書かれていたミケーレが20年の刑期を終えて出所した。新進マフィアの若きリーダーとして伸し上がりながら勢力拡大の勝負に失敗し、仲間に裏切られて服役したミケーレは、その過去を清算するためにミラノの裏社会に戻って行くのだが、それは必然的にナポリのマフィア世界に激しい動揺を引き起こさずにはいなかった・・・。 20年前の裏切りの真相を暴力的に確かめようとするミケーレの行動がメインストーリーとなり、捜査側の話はサブの扱いとなっている。したがってタイトル「七つの墓碑」から想像される警察の捜査が主題のミステリーではない。むしろ、マフィアが支配する街で育ったチンピラが一人前のボスになるまでの姿を描いた成長物語であり、冷酷非常に復讐を遂げる凄絶なノワール小説である。著者が現役の刑務官ということから、イタリアの刑務所事情がリアルに描かれているのが興味深い。 タイトルから想定するようなサイコもの、連続殺人ものではなく、イタリアン・ノワールの傑作として手に取ることをオススメする。 |
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現代北欧警察ミステリーの最高峰である「刑事・ヴァランダー」シリーズの第11作で実質的な最終作。娘・リンダの義理の両親の不可解な行方不明事件を解明するために、組織とは距離を保ちながら孤軍奮闘するヴァランダーの執念の捜査を描いた、傑作捜査ミステリーである。
かねてから憧れていた田舎暮らしを始め、娘のリンダは妊娠・出産して孫娘ができたヴァランダーだったが、ときおり発生する記憶喪失に悩み、肉体的な衰えを自覚するとともに、それに対する反発心、怒りの感情を持て余していた。そんな中、娘の相手であるハンスの父親で退役海軍司令官のホーカンが突然姿を消してしまった。自分のミスで謹慎中だったヴァランダーは、娘や孫のために事件の解明に乗り出したのだが、全く成果が上がらないうちに、今度はホーカンの妻であるルイースまで行方不明になってしまった。ホーカンが姿を消す前にヴァランダーに語った「国籍不明の潜水艦」の謎が関係しているのではないかと推測したヴァランダーは、事件の背景に冷戦時代の闇を見るのだった・・・。 冷戦時代のスウェーデンのスパイ活動から派生した事件の解明が本筋だが、それ以上に力点が置かれているのが、還暦を間近にしたヴァランダーの老いの現実と、それに対する戸惑い、怒り、反発、絶望と、否応無く受け入れざるを得なくなるまでの心理的な紆余曲折である。身体的な健康だけでなく、頭脳でも不具合を感じ出したヴァランダーが、どうやって老いとの共存を受け入れるか、その「苦悩する男」の姿が心を打つ。 社会性を帯びた謎解きミステリーであるとともに、仕事ひとすじで生きてきた男がいかにして仕事を終えるかという、終活の物語でもある。 シリーズ・ファンには必読。近頃増えて来た老人が主役のミステリー、ハードボイルドのファンにもオススメする。 |
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ホラー小説から出発したという新進作家の新シリーズ第1弾。連続殺人犯とベテラン刑事のスリリングな攻防を描いた、サイコ・サスペンスの傑作である。
シカゴを震撼させている連続殺人事件の犯人・四猿とおぼしき男がバスにはねられて死亡した。当初から捜査にあたっていた刑事・ポーターは事故現場に呼び出されたのだが、そこで見つけたのは片耳が入った白い箱だった。四猿はこれまで、監禁した被害者の耳、目、舌を順に切り取って白い箱に入れ被害者の家族に送りつけてから殺害するという残忍な手段をとっていた。四猿が死んだとしても、片耳がある以上は誰かが監禁されているはずだと判断した警察は白い箱に書かれた宛名から被害者がシカゴの不動産業界の大物の私生児であることを突き止めた。さらに、四猿は事故ではなく自らバスの前に飛び出した自殺だったことが判明した。四猿が犯行の途中で自殺したのはなぜか? 被害者はどこに監禁されているのか? 四猿が残した遺品にあった日記に謎を解く手がかりが見つかるのではないか? ポーターたちは時間との戦いに焦燥しながら犯人を追いつめて行く・・・。 サイコものは犯人のキャラクター次第という定説(勝手な基準だが)通り、四猿の存在感が強烈で、それだけで合格点。しかも、話の展開がスピーディーで最後までゆるみが無い。犯罪の背景、犯行態様、場面転換のどんでん返しなどに、これまで読んだことがあるようなものが多いもののトータルとしてはヒネリが利いた、サスペンス溢れる傑作サイコ・ミステリーである。なお、ホラー作家らしい残虐な描写が続くシーンがままあるのでご注意を。 サイコ・サスペンス、ホラー系ミステリーのファンにオススメする。 |
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フランスの女性作家の本邦デビュー作。成り行きで起きた殺人を隠蔽するために被害者の生存を偽装し、罪をかぶせる犯人を捜し出すという奇抜なアイデアのノワール・サスペンスである。
フランスの片田舎で夫、二人の娘と暮らすアレックスが営むペンションを、大物作家・ベリエがお忍びで訪れた。気さくな人柄で家族と親しくなったベリエだったが、若い頃に作家志望だったアレックスに興味を持ち、ある夜、アレックスを強姦しようとする。アレックスは必死で抵抗するうちに、弾みでベリエを殺してしまった。若いときに暴行事件を起こして精神科病院に入れられたことがあるアレックスは警察に届け出るのをためらい、死体を隠してしまう。さらに、ベリエが生きていることを偽装するために、パリに出てベリエの個人秘書を装い、ベリエの周辺人物の中から罪を着せられる人物を見つけ、その人物がベリエを殺したように偽装しようとする・・・。 40歳の主婦が、殺した男が生きていると思わせるための偽装、新たな犯人を見つけ出し、その人物に罪をかぶせるための計略、しかも自分自身も身分も人格も別のものに変えて行動するという、極めてトリッキーなアイデアが抜群。何重ものリスクを負ったアレックスがさまざまな危険に出会うたびに、読者はハラハラドキドキし、最後までスリルとサスペンスを堪能することになる。女性差別、都会と田舎の格差、ネット社会の罪悪など、現代社会が抱える問題も主要なテーマになっているのだが、それを抜きにして、ノワール・サスペンスとして十分に満足できる傑作である。 ジャンルを問わず、ミステリーファンならどなたにもオススメしたい。 |
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アメリカでは人気があるベテランなのに、これまで日本では1作しか邦訳されていなかったフェスパーマンの20年ぶりの邦訳作。1979年のベルリンと2014年のアメリカを行き来しながら、冷酷非常なスパイの世界を生きた女性たちの苦悩と誇りを描いた歴史スパイ・ミステリーである。
冷戦下のベルリンでCIA支局の末端職員として隠れ家(SAFE HOUSE)の管理を担当するヘレンは、点検のために訪れた隠れ家で聞いてはいけない会話を録音してしまった。さらに、支局の現場担当官・ギリーが情報提供者の女性をレイプする現場に遭遇、憤りを覚えたヘレンは出来事を上層部へ報告したのだが支局長はまともに対応せず、あろうことか規律違反としてヘレンを解職し、アメリカ本国へ送還しようとした。それから35年後、メリーランド州の農場で主婦として生活していたヘレンが夫とともに、知的障害者である息子に射殺されるという悲惨な事件が発生した。長く故郷を離れていて葬儀のために帰郷したヘレンの娘・アンナは「両親と弟に何があったのか」、真相を探るため、実家の隣を借りている失業中の男・ヘンリーに調査を依頼する。ところが実は、ヘンリーはある組織からヘレンを見張る仕事を受けて引っ越して来ていたのだった・・・。 冷戦下でCIAがもみ消そうとした不祥事が35年後の悲劇につながって行く。スパイ組織がかかえる闇を、35年の時空を超えてじわじわと暴いて行く物語構成が絶妙。1979年ではヘレンが主役となって活躍し、2014年ではヘレンは死んでおり、その娘のアンナが活躍し、なおかつ2つの出来事がしっかりと連結されているのが面白い。歴史スパイ・ミステリーの設定ではあるが、物語の主眼は女性蔑視の取り付かれたスパイ組織に対する女性たちの反乱に置かれており、極めて現代的な社会派ミステリーである。なおかつ謎解き部分も秀逸で、最初から最後まで緊張感を持って読み進められる。 スパイ同士の諜報戦ではないので、スパイ小説ファンというよりはミステリーファンにオススメしたい。 |
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