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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1137件
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3本の短編と1本の中編を収めた、ガリレオ・シリーズの8作目。期待通りに安心して楽しめる作品ぞろいである。
人気のシリーズも8冊目となると、以前、どこかで読んだことがあるような話も出てくるのだが、それぞれに新しい魅力が加えられていて飽きさせない。 例えば、旅行中などに乗り物内で読むには最適な一冊として、どなたにもオススメできる。 |
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英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズの新展開三部作「フック、ライン、シンカー」の第二作である。
自らが所属するイギリス秘密情報局に追われる身となり、幼なじみのベルナーを頼ってベルリンに潜伏していたサムソンだったが、ロンドンに呼び戻され、新たな任務を命じられる。作戦の詳細を知らされないままドイツ、オーストリアに赴くと、なんとそこでは、サムソンとイギリスを裏切った元妻のフィオーナが待っていた。果たして、フィオーナは何を考えているのか? フィオーナは実は東に潜伏するスパイなのか? シリーズの全体を左右する、大きな転回点となるストーリーにあぜんとさせられる。もちろん、レン・デイトン作品なので派手なドンパチは無いが、秘密情報部という組織の恐さ、特にイギリスの同組織の冷淡非情さにぞくぞくさせられる、スリルとサスペンスに満ちた作品。本格スパイ小説ファンにはオススメだ。 |
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20年前、家族に何も告げないまま学生時代を過ごした街に行き、泥酔して運河に落ちて死んでしまった父親の謎を解くため、成長した息子は、その街を訪れる。息子が大人として生きて行くためには「自分たち家族は、父に捨てられたのか?」、「父には、家族には言えないどんな深い秘密があったのか?」という疑問を解き、心の決着をつけることが必要だったのだ。
死亡時の父の足跡をたどり、大学時代の資料に当たり、さらに学生時代の知人を訪ねていくうちに、息子は40年前にさかのぼる「ある事件」の闇を暴くことになった。 物語の主眼は、捜査のプロセスの描写や事件の真相を暴いていくことより、父親の心の闇に分け入っていくことの方に置かれている。従って、これまでの佐々木譲作品のミステリー、サスペンスを期待していると、やや期待外れだろう。 父親の青年時代の苦悩を知り、ようやく父親が理解できるようになるという展開は、少年が大人になる過程を描く成長小説とは逆のパターンの成長小説とでも言うべきか。 |
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「英雄の書」の世界を受け継ぎ、2015年に発行されたファンタジー色が強いミステリーである。
サイバーパトロールのアルバイトをしている大学生・孝太郎は世間を騒がせている連続殺人事件の調査に巻き込まれ、引退した刑事・都築と一緒に素人探偵として犯人を捜し始めることになる。さらに、近所の女子中学生・美香を巡るネットいじめの解決にも力を貸すことになる。 物語は、連続殺人事件とネットいじめの2つのストーリーを中心に展開され、そのどちらもミステリーとして及第点なのだが、いかんせん、孝太郎が妖怪から授けられた「言葉を読む超能力」で謎を解いて行くというところで、ミステリーファンとしては「う〜ん、残念」となってしまう。 ファンタジー小説好きの方にはオススメだが、ミステリー好きとしては「ミステリーに徹していてくれれば・・・」と思わざるを得ない。 |
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1988年に発表された、英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズのひとつ。先行した「ベルリン・ゲーム」、「メキシコ・セット」、「ロンドン・マッチ」の三部作に続く「フック、ライン、シンカー」の新展開三部作の第一作である。
基本的には前三部作を踏襲し、妻・フィオーナの裏切り、亡命後のサムソンのやりづらさをベースに、イギリス秘密情報局の陰湿なパワーポリティクスを描いている。 ただ、現実の時代に合わせて話が進行していたシリーズだけに、「ペレストロイカ」、「ベルリンの壁崩壊」などの冷戦構造の終わりという影響を受けてストーリーがどう変化して行くのか。「スパイ小説の危機」ともいわれる時代の新しいスパイ小説のモデルとなり得るのか。そうした視点から三部作全体を注目してみたい。 |
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オレオレ詐欺に題材をとり、出てくるのは犯罪者とチンピラと警察ばかりという、黒川博行ワールド全開のノワールエンターテイメントである。
オレオレ詐欺の名簿屋・高城に使い走り兼受け子の手配師として顎で使われていた橋岡は、チンピラの矢代に誘われて賭場に参加し、二人でヤクザに借金をするハメに落ち入った。返済のための借金を高城に申し込んだ二人だったが、話がこじれたことから高城を殺害し、少しの現金と億単位の預金通帳や証券会社の通帳を奪った。しかし、銀行や証券会社のセキュリティの壁に阻まれて簡単には現金を手に入れることができず、また、高城の不在を不審に思ったヤクザからの追求に四苦八苦することになる。 一方、大阪府警特殊詐欺班の刑事たちはふとしたことから橋岡と高城に目を付け、高城のグループを一網打尽にするべくじりじりと捜査網に追い込み始めていた。警察と詐欺師の根比べが続く中、チンピラ・矢代の暴発から事態は一気にクライマックスを迎えることになった。 疫病神シリーズと似た展開だが、切れ味が今ひとつ。また「後妻業」と同じような社会病理を背景にしているものの、「後妻業」ほどのインパクトは無い。それでも、十分に楽しめるのは大阪弁の会話の面白さとストーリー展開のスピードがあるからだろう。 黒川博行ファンにはちょっと物足りないかもしれないが、犯罪小説ファン、ヤクザ小説ファンにはオススメだ。 |
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逢坂剛のデビュー直後の作品。のちの傑作シリーズ「百舌」につながっていく作品だが、百舌シリーズのような公安警察のあり方を追求したものではなく、犯人逃亡のトリックの謎解きに主眼が置かれた「ハウダニット」「ワイダニット」ミステリーである。
警視庁公安部所属の二人の刑事が主役で、貿易会社ビル占拠の人質事件と右翼の大物の暗殺事件の二つの事件の謎を解いていく。中でも、ビルを占拠した犯人が9階からエレベーターで降りてくる途中で姿を消したトリックが最大のハイライトで、このトリックはなかなか良く考えられていて面白い。もう30年以上前の作品だけに、現在の科学捜査技術からすると間抜けに見える部分があるのだが、それは仕方が無い。暗殺事件の方は背景として政界スキャンダルがあり、後の百舌シリーズにつながるテイストが見られる。 百舌シリーズの完成度に比べると数段落ちるのだが、前史として、シリーズ読者は読んでおくことをオススメする。 |
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まあ、一度は読んでおいて損は無い密室ものの古典的名作。ガストン・ルルーはこの一作だけの作家と目されているが、さもありなん。
密室破りのテクニックに賛否両論があるだろうが、ミステリーに新風を巻き起こそうとする意欲は感じる。ただ、あまりにも冗長な描写と古典的なロマンチックさに、途中で放り出したくなるかもしれない。 |
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東京下町で女性のバラバラ死体が3箇所で発見された。検査の結果、被害者は2人で、しかも一度埋められていた死体がバラバラにされてから放置されたことが判明する。さらに、犯人から警察を嘲笑する挑戦状が送られてきた。
これはもう典型的な猟奇殺人事件の幕開けで、これからどんな残酷な事件、異常な犯行が展開され、どんなサイコパスが登場するのかと思っていると、事件としてはそこまでで、あとは捜査活動と動機の解明に終始することになる。しかも、捜査する側の主役の一人が13歳の少年(父親は刑事なのだが)なので、実にゆったりとした、緊張感の無いストーリーが展開される。 判明した犯人と動機は非常に深い社会的問題に根ざしているのだが、何となく「薄い」という印象を免れず、本格ミステリーとしては物足りない。ただ、人物設定や語りの上手さはやはり一級品で、読んで損することは無い。 宮部みゆきファン、軽めのミステリーが好きな方にオススメだ。 |
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乃南アサの1992年の作品。比較的初期の作品だけあって、乃南アサらしさの片鱗は見られるものの構成が荒削りであることは否めない。
花嫁衣装あわせに来た女性がお店から姿を消したのがプロローグ。そこから、執拗に追い掛けてくる男から逃げる夏季という女性の逃避行と、もう一つ、連続女性殺人事件の捜査という二つの物語が並行して展開される。 主要な登場人物は夏季、殺人犯、捜査本部長のキャリア警察官・小田垣、小田垣のひいきの店のホステス・舞衣子の4人で、4人とも正体不明なところがあり、誰が善人で誰が悪人か、最期の方まで分からないところにサスペンスがあり、読者はぐいぐい引き込まれていく。殺人犯の正体も最期まで判明せず、フーダニットとして良くできている。 ただ、クライマックスが拍子抜けするほど「ご都合主義」で大幅減点にした。 |
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警察小説の第一人者・横山秀夫がいつもとは逆の世界に挑戦した、犯罪者視点の連作短編集である。
主人公は「ノビカベ」の異名を持つ侵入盗のプロ・真壁修一。周りからは司法試験を受けると思われていた秀才だったが、双子の弟・啓二が窃盗を働いたことに悲嘆し、無理心中をはかって自宅に放火した母親の巻き添えになって焼死し、二人を助けようとした父親も犠牲になったたことから、世の中に絶望し窃盗犯の道を歩むことになった。これだけでも相当ユニークというか、無理筋の設定だが、さらに死んだ弟が修一の頭の中に住み着いていて、要所要所で会話を交わすというだから、かなり特異な世界で物語が展開されることになる。 全7作品それぞれにテーマが設定され、構成の工夫があり、バラエティに富んだ作品集だが、いかんせん大前提がリアリティに欠けるため、いつもの横山秀夫の世界には到達していない。読む前の期待値が高過ぎたのかもしれないが、やや物足りなさが残った。 |
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英国の新人作家のデビュー作。いきなりMWA賞候補になっただけあって、骨太で味わい深い法廷ミステリーである。
ロンドンの公園で8歳の男児が殺され、犯人として11歳の少年・セバスチャンが逮捕・起訴された。弁護を依頼されたダニエルはセバスチャンに11歳の頃の自分を重ね合わせ、心の底から少年を弁護したいと思う。同じ頃、ジャンキーの母親から施設に保護されていた11歳のダニエルを引き取り、後には養子にしてくれた里親のミニーが死亡したと知らされる。育ての親として感謝しながらも、ある出来事からミニーを恨み、連絡すら拒んでいたダニエルだったが、ミニーの死により否応無く過去を振り返ることになる。 孤独と絶望にとらわれた惨めな少年だった自分と、裕福ながらも問題の多い家庭で育てられた、脆くて壊れそうなセバスチャンとを二重写しにして、ダニエルは環境に左右される少年の心の闇を解き明かそうとする。少年が「悪いことをする」「罪を犯す」とき、その責任を負うべきは少年だけなのか? 法の正義が貫かれることと、社旗正義が実現されることは完全にイコールなのか? セバスチャンの裁判の進行とダニエルの回顧が交互に繰り返されながら進むストーリー展開が、非常に緊張感があってスリリング、新人とは思えない技巧が秀逸。静かだが力強い、読み応え十分の法廷ミステリーとして、多くの人にオススメできる。 |
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トマス・H・クックの2013年の作品。法廷ミステリーの形式をとりながら、人が人生で成し遂げるべきは何かを問いかける重いテーマだが、前作「ジュリアン〜」より更にミステリー要素が濃くなって、最近の作品としてはかなり読みやすかった。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)に悩んでいた大学教授・サンドリーヌが強力な鎮痛剤の過剰摂取で死亡したのは、自殺なのか、夫のサムによる殺人なのか? 無実を訴えるサムを被告とする裁判が始まると、明らかにされていくのはサムには不利な状況証拠ばかりだった。裁判の過程でサムは結婚生活を振り返り、サンドリーヌの隠された真意を探ろうとするのだが、確たるものは掴めなかった。そして、陪審団の評決は・・・。 主人公・サムの偉大な小説を書くという夢を果たせず、田舎の大学の英文学教授としての安定した生活に埋もれながら周りの人々の無知を軽蔑する、相当イヤミなインテリというキャラクター設定が秀逸。読者は、サムに感情移入したり反発したりしながら人生とは、結婚生活とは、家族とはを深く考えるようになるだろう。 裁判の開始から評決までを丁寧に追いながら、随所に回想を挟んで真相を解明していくという展開がなかなかスリリングで、最近のトマス・H・クック作品としてはエンターテイメント性を高く評価できる。 |
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「疫病神」シリーズの第2作は、なんと北朝鮮を舞台にした、国際謀略小説顔負けのアクション超大作である。
それぞれの事情で同じ詐欺師を追い掛けることになった二宮と桑原は、北朝鮮に逃げ込んだ詐欺師を追って、観光ツアーにまぎれて平壌に飛んだ。しかし、徹底的に統制され監視される社会では自由に動けず、逃亡先は掴んだものの詐欺師を捕まえることはできなかった。大阪に帰った二人は、さまざまなコネを動員して、今度は中国国境から北朝鮮への密入国をはかる。厳しい寒さと想像を絶する貧しさに打ちのめされながらも詐欺師を見つけ出し、詐欺の実相を聞き出したのだが、北朝鮮からの脱出は命をかけた逃避行になった。 命からがら帰国した二人は、詐欺の落とし前をつけるべく、今度は詐欺師、ヤクザ、悪徳政治家たちと死闘を繰り広げることになる・・・。 自由奔放を絵に描いたような極道・桑原が、世界一の不自由国家・北朝鮮で大暴れする。それだけでも面白いのだが、さらに巨額詐欺事件を巡る悪者同士の駆け引きもプラスされて、最初から最後までゆるむところが無い。シリーズ最高傑作という惹句は嘘ではない。絶対のオススメ作だ。 |
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「パズル・シリーズ」で有名な(実は、一作も読んでいないのだが)パトリック・クェンティンの1948年の作品。シリーズ全8作品のうち、ただ一作だけ未訳だったものが翻訳されたとのこと。他の作品を読んでいないので解説に頼ると、本作はシリーズ中では異色作になるらしい。
メキシコを観光中の主人公ピーター・ダルースは、20歳前後の美少女デボラと出会い、一緒に観光地に向かい同じホテルに泊まるが、翌日、デボラが殺された。犯人は、当時、同じホテルに泊まっていた4人のアメリカ人の誰かではないかと疑うのだが、確たる証拠が得られなかった。さらに、ピーターは誰かに狙われている気配を感じるのだが、その動機も犯人も特定できなかった。デボラを殺したのは誰か、なぜ自分が狙われるのか? 4人の全員が怪しく見えてきて疑心暗鬼に落ち入ったピーターは、孤独な戦いを強いられることになる。 犯人も犯行の動機も、推理が二転三転して、どんどん引き込まれていく。ストーリー展開も軽快で、軽いハードボイルドを読んでいるような快感があり、とても60年以上前に書かれた作品とは思えない。 シリーズを知っているかいないかに関係なく十分に楽しめて、思いがけない拾い物をしたようなお得感があった。古臭いと先入観を持たずに手に取ってみることをオススメしたい。 |
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アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。ミステリー、サスペンスであると同時に、想像を絶する境遇に引きずり込まれた女性たちがPTSDを克服する復活の物語である。
親友のジェニファーと一緒にジャック・ダーバーの地下室に3年間監禁されてから解放されたセアラは、その10年後、誘拐・監禁の罪で服役中だったダーバーが近く仮釈放されるかもしれないと知らされる。ダーバーの釈放を阻止するには、いまだ未発見のジェニファーの遺体を見つけ、殺人罪に問うしかないと考え、同時期に監禁されていた2人の女性、トレイシーとクリスティーンに連絡を取り、ジェニファーの遺体を見つけるために、忌まわしい事件の舞台だったオレゴンを訪ねることにした。FBI捜査官の忠告を無視して犯人の過去に迫って行く3人だが、なにしろ、主役のセアラは他人に接することができず、自分の部屋から一歩も出ない生活を送っている状態なので、まともな調査活動ができる訳は無く失敗ばかり。それでも、ジェニファーの恨みを晴らしたい一心でじわじわと真相に近づいて行った3人に、驚愕のラストが待ち受けていた。 監禁事件そのものは悲惨ではあるがメインテーマではなく、物語の主題は、事件から10年経っても心理的な傷を引きずらざるを得ない被害者が自分を回復する復活の物語である。一般的な監禁もののサイコミステリーのようなスリルとサスペンスは、期待し過ぎない方がよい。 |
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マイクル・コナリーの22作目の長編で、リンカーン弁護士シリーズとしては第3作だが、悪の代理人として知られるリンカーン弁護士・ミッキー・ハラーが、今回は特別検察官として被告と弁護士をやり込めるという異色の設定。さらに、ハリー・ボッシュもダブル主役として重要な役割を果たすという豪華版である。
24年前の少女殺害事件で出された有罪判決が破棄されて、服役していた男ジェサップは再審を受けることになった。被害者のワンピースに付いていた精液が、最新のDNA鑑定によってジェサップとは別人のものと判明したのが、判決破棄の理由だった。再審にさいして、検事長はなんとハラーに特別検査官になるように依頼してきた。まったく勝ち目が無いと思われる裁判だったが、正義感にかられたハラーは、元妻のマギーと異母兄弟のハリー・ボッシュをチームに加えることを条件に、依頼を引き受けた。 圧倒的に不利な条件下でも、得意の法廷技術で奮闘するハラーを、ベテラン検事であるマギーがサポートし、さらにハリー・ボッシュが調査官として走り回って助け、ついには劇的なクライマックスを迎えることになる・・・。 ハラーを主役にした法廷ミステリーとしても、ハリーが主役の刑事ものとしても一級品。マイクル・コナリーの二大人気キャラクターが共演するのだから、面白くない訳が無い。普段、リーガル・ミステリーを敬遠している方にもオススメだ。 |
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イギリスの新人女性作家のデビュー作。アメリカでもベストセラーを記録した「サイコスリラーの傑作!」というのが売り文句だが、それほどのサイコものではない。
アルコール依存で離婚、失業し、今は友だちのフラットに間借りしているレイチェルは、失業中であることを隠すために毎日、同じ通勤電車でロンドンに通っていた。いつも電車が速度を落とす場所で、電車から見える一軒の家に暮らす幸せそうな夫婦(スコットとメガン)に自分の理想を託していたが、ある朝、メガンが不倫している現場を見てしまう。その直後にメガンが行方不明になったことを知ったレイチェルは、スコットに接触してメガンの不倫を知らせようとする。ところが、スコットとメガンの家のすぐそばに、かつてレイチェルが夫のトムと暮らしていた家があり、そこでは新しい妻のアナと赤ちゃんが暮らしており、レイチェルが家に近づくのを嫌っていた。しかも、酒浸りで飲めば記憶を失ってしまうレイチェルの話は、スコットをはじめ誰にも信用されなかった・・・。 メガンはなぜ失踪したのか? レイチェルは酔っぱらっていたときに何を見たのか? 赤ちゃんもできて幸せの絶頂のはずのアナが感じる黒い影は何なのか? 物語は、三人のガール(というにはちょっと抵抗がある、アラサーたちだが)の独白で進められ、徐々に悲劇の真相が明らかにされる。 犯行の動機も、犯人も、ミステリーを読み慣れた人なら割と容易に推察できるので、売り文句にあるような「サイコスリラー」や「驚愕の結末」というサスペンスや驚きは無い。どちらかといえば、同じような年齢や境遇の人が「うんうん、これはありそう」と共感を覚えながら読むのが、本作の一番幸せな読まれ方だろう。 |
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探偵小説の古典的名作「赤毛のレドメイン家」で有名なイーデン・フィルポッツの1924年の作品。長く絶版になっていたのが、創元推理文庫の新訳で登場した。
若き医師ノートンは、保養地で出会った美人姉妹の妹ダイアナ(あだ名はコマドリ)に一目惚れし、結婚にこぎつけた。自分の秘書と結婚しろという、大金持ちの伯父の要望を裏切ることになったノートンは、伯父の遺産を受け取れなくなってしまう。それでも、愛を貫いたノートンには幸せな未来が訪れるはずだったのだが・・・。 はっきり言って、現代のミステリー愛好家からすれば致命的な欠陥があるトリックだが、1924年という時代を考えれば、かなりの高評価だったのもうなずける。古き良き時代の香りを感じさせる人物描写、風景描写、社会心理描写を楽しむ読み方なら十分に読み応えがあると言える。 |
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「コリーニ事件」と「禁忌」の長編2作の間に書かれた3作品を収めた短編集である。「訳者あとがき」を含めても全93ページという薄さだが、3作品のいずれも強烈な個性を持っている上に、挿入されているタダジュンのイラストも効果的で、非常に強い印象を残す一冊になっている。
「パン屋の主人」、「ザイボルト」、「カールの降誕祭」の3作品とも、ひょっとした瞬間から人生がひっくり返ってしまった物語で、シーラッハの言を借りれば「私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです」という人生の不条理さを突きつけられた読者は、深く大きくため息をつくことになる。 人間につきまとうブラックな側面を描いたストーリーがお好きな方には、近年最高のクリスマスプレゼントとなるだろう。 |
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