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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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北海道警大通署シリーズの11作目か(サイトによって数が違う 笑)、第一シーズンの完結作のようである。
相変わらず閑職に追いやられながらも実績を挙げ、ついに上層部が引き上げを考え始めた佐伯警部補、少年係ながら刑事事件につながる兆しを見逃さない小島巡査部長、現場復帰を果たし、機動捜査隊で充実した日々を送る津久井巡査部長。三人がそれぞれの職務に専心していたある日、闇バイト四人組が牧場に強盗に押し入り、弾みで牧場主を殺害する事件が発生。強盗の一人は奪った散弾銃で仲間を殺害し、さらに指示役の男から金を奪い返すために札幌に潜入してきたようだった。絶対に次の殺人を防ぎたい道警本部が札幌市内を隈なく捜索するも、犯人の所在さえ掴めないでいたのだが、佐伯が追いかけた置き引き事件、小島が担当した女子高生のスマホ強奪事案が、津久井たち機動捜査隊の強盗犯人追跡と関連することが判明し、捜査の網は絞り込まれていった。そして最後、追い詰められた犯人は人質立てこもり事件を起こす…。 いつも通りと言えば、その通り。安心して読める警察ミステリーである。本作は「シリーズ第一シーズン完!」という宣伝文句もあり、どういう結末をつけるのか注目したのだが、どうやら佐伯も津久井も警察を辞めるようで、佐伯の部下の新宮は新たな部署に引き上げられ、小島も人生の決断を迫られる。さらに警官の酒場「ブラックバード」も代替わりする模様。次作からどんな展開になるのか、首を長くして待ちたい。 |
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「56日間」で注目されたアイルランドの女性作家の邦訳第4作。妹が行方不明になったのは連続女性失踪事件の被害者だからと確信した姉が、自らを囮にして犯人に接近しようとするミステリー・サスペンスである。
一年ほど前、ルーシーの妹・ニッキが消息を絶ったのはアイルランドで相次ぐ若い女性の失踪事件に関係があるのではと疑ったルーシーだが、警察の捜査は停滞し、妹の情報もほとんど入ってこなかった。ニッキが複数の被害者のひとりに数えられ、世間の注目が薄れていると焦ったルーシーは自分だけでも妹を忘れないと、独自に情報発信し、さらには犯人に接触しようとする…。 失踪した妹を姉が探すシンプルな物語のようだが、途中に犯人の独白の章が挟まれることで様相が変化し、ストーリー構成が複雑で読み解きにくくなる。それが作者の狙いだろうが、その仕掛けは思うほどの効果を挙げていない。クライマックスのひとひねりは面白いんだけど。 技巧的な仕掛けがお好きな方にオススメする。 |
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2021年〜22年に新聞連載された長編小説。シングルマザーに置き去りにされた中学生の少女が母のホステス友だちに救われて同居し、スナックを共同経営し、カード詐欺に手を染め、ほとんど人格崩壊の憂き目に遭うノワールである。
出てくる登場人物が人格破綻や社会からドロップアウトした人間ばかりで、その中を必死で生き延びて行く少女の逞しさと脆さが、読者を不安に陥れる。悪いのは貧しさか欲望か、脱落者を生み出す社会構造か。階層分化が進む社会の一部分をリアルに描き出している。 ミステリー要素は期待せず、女性、特に若い女性の生きづらさが描かれたノワールとして読むことをオススメする。 |
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アメリカを代表する大家(日本ではそれほどの評価ではないが)の2024年度エドガー賞最優秀長編賞受賞作。1863年、南北戦争下のルイジアナ州を舞台にさまざまな立場で戦争に巻き込まれた人々の愛憎と倫理、信念を描いた一大戦争ヒューマン・ドラマである。
戦場で負傷し農園主である伯父の庇護下にあるウェイド、伯父が所有する奴隷ながら自立心堅固なハンナ、別の農園主殺害容疑でハンナを逮捕しようとするピエール巡査の三人の主要登場人物にピエールが心を寄せる解放奴隷のダーラ、北部から来た奴隷解放論者のフローレンス、ルイジアナに進駐してきた北軍のエンディコット大尉、脱走兵を組織して率いるヘイズ大佐などが絡んでくるストーリーは波乱万丈。単なる戦争の勝ち負けではなく、それぞれの信仰、愛、倫理、暴力がぶつかり合い、残酷であると同時に感動を呼ぶ。それにしてもつくづく、アメリカは暴力と信仰でスタートし、今もなお変わらない国なのだと痛感させられた。 ミステリー要素は今ひとつだが歴史、戦争、人間ドラマとしては傑作。オススメです。 |
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「道警シリーズ」の第3作。洞爺湖サミットを前に緊張の度を高める北海道警で制服警官が失踪した事件をメインに大臣警備、2年前の覚醒剤密輸おとり捜査を絡め、警察組織の悪弊と戦う警官たちの矜持を描いた警察冒険小説である。
1週間後にサミット警備体制の結団式を控えた日に一人の制服警官が拳銃を所持したまま失踪した。万が一を危惧する道警上層部は「何がなんでも探し出せ」と号令し、津久井刑事は捜索の専任を命じられた。ストーカーを撃って逮捕した小島百合巡査はその手柄を評価され、結団式に出席する女性大臣のSPに抜擢される。道警全体の信頼を失い、閑職に追いやられた佐伯警部補は消化不良のまま終わらせられた密輸入おとり捜査に疑念を持ち、一人で再捜査を始めた。使命感と任務に導かれた三人の捜査はやがてサミット警備でギリギリまで高まった道警の緊張を一気に爆発させる事態へと突き進んで行く…。 シリーズ3作目とあって主要な登場人物のキャラクターがより鮮明になり、役割分担も滑らかで、シリーズものならではの円熟味が出来上がってきた。プロローグから結末までの展開も無理なく、説得力がある。 日本の警察小説では、現在ナンバーワンのシリーズとして強くオススメする。 |
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ゴンクール賞をはじめ、いくつかの文学賞にノミネートされたというフランス人法廷ジャーナリストの長編小説。嘘をついて他人を犯罪者と名指しした若い女性を救うために奮闘する女性弁護士の活躍を描いた法廷エンタメ作品である。
15歳の時に強姦事件の被害を訴え、加害者を拘束させたリザ。5年後に開かれた裁判で加害者マルコに10年の刑が言い渡されたのだがマルコが控訴した。このため、リザは控訴審では女性の弁護士に依頼したいと弁護士アリスのもとを訪れた。誰もが心を許す若くかよわい少女・リザと複数の前科持ちの32歳の塗装工・マルコ、簡単に結論が出ると思われたのだが、リザが「自分はレイプされてない。嘘を吐いた」と告白し、アリスは驚愕する。リザはなぜ嘘を吐いたのか、拘束されていたマルコを釈放させることはもちろん、さらにリザの立場を守るために、アリスは事件だけに囚われない、社会を告発する弁論を組み立てた…。 刑事裁判を中心にした法廷ミステリーであるが、メインは弁護側と検察側の丁々発止の論戦ではなく、アリスの弁論の組み立てにある。男性中心の性差別意識やレイプカルチャーに対するアンチテーゼが力強い。さらに文末の弁護士による解説もわかりやすくて説得力がある。 今の社会が直面する課題を真剣に捉えた法廷エンタメ作品であり、ミステリーファン以外にもオススメしたい。 |
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中国系移民として育った女性作家の処女小説。1944年のカリフォルニア州バークレーを舞台に大統領候補の政治家殺害事件にまつわる地元名家の悲劇を暴くことになる、メキシコ系刑事の苦悩を描いた謎解きサスペンスである。
バークレーの高級ホテルで大統領候補のウォルターが殺害された。刑事サリヴァンは容疑者として地元有数の名家・ベインブリッジ家の三人の孫娘を取り調べようとするのだが、証拠が曖昧だと上司から圧力をかけられる。有無を言わさぬ証拠固めに奔走するサリヴァンは、14年前に同じホテルで起きたベインブリッジ家の孫娘の不審死が鍵になると気付いた。だが、ベインブリッジ家の家長・ジェネヴィーヴをはじめ、一家の女性たちはしたたかで、サリヴァンは翻弄されるばかりだった…。 政治家殺害の犯人・動機探し、名家の美しい少女たちにまつわる因縁話を本筋に、日系アメリカ人の強制収容、メキシコ系に対する差別、中国とアメリカの関係などの社会情勢が絡んでくるストーリーは躍動感があり、変化に富んでいて飽きさせない。外見的に白人としか見えないサリヴァンがルーツとアイデンティティに引き裂かれ苦悩する内面の描写もインパクトあり。 犯人探しに加えて人種や貧富による軋轢もリアルで、ミステリー・ファンはもちろん近現代史に興味がある方にもオススメしたい。 |
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ラーソン亡き後も書き継がれてきたミレニアム・シリーズ。ラーゲルクランツの三部作が終了し、本作から作家がカーリン・スミルノフに変更になった新三部作である。
これまでのシリーズの骨格は受け継ぎながらも、ストーリー、キャラクターはかなり変化した。特に主役の二人、リスベットとミカエルに人間味が出てきたのが目を引く。この辺りは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には好ましく感じた。全体的にアドヴェンチャー・ゲームのテイストで、現実感は乏しい。 突然登場したリスベットの姪・スヴァラはまるでリスベットの縮小コピー。言動も頭の働きも大人を凌駕する勢いで先行きが楽しみ。次作からは主人公になるのかな? これまでの6作品とは異なるエンタメ性の強い新ミレニアムとして楽しむことをオススメする。 |
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2021〜22年オンラインメディアに連載され、23年に日本推理作家協会賞を受賞、25年秋には連続ドラマになるという、傑作サスペンス。殺人犯が逃亡したのは何故か、犯人を匿った女は何を望んでいたのか、父親に虐待されている少年は救われるのか。それら全ての裏にある、時代と社会が作り出した闇の深さに逃げ道はあるのか。どれも心を重くするテーマばかりだが、見事なストーリー展開で読み応えあるエンタメに昇華されている。
1996年、横浜で塾経営者・戸川が殺害された事件は重要容疑者である元教え子・阿久津が姿を消して二年、捜査の行き詰まりから陣容が縮小され今では窓際族の刑事・平良が担当していた。生徒や親からも信頼が厚かった戸川には殺されるような背景は見つからなかったが、平良は上司から嫌味を言われながら地道に再捜査を進めていた。実は二年間、阿久津は中学の同級生だった長尾豊子宅の地下室に匿われていたのだった。天窓で外に繋がる地下室にいる阿久津を偶然見つけたのが中学生の波瑠で、父親のネグレクトで飢餓状態になっていた波瑠は阿久津が野良猫のために用意した食べ物を食べてしまったのだった。以来、阿久津が食べ物を用意し、波瑠が貰いに来るという奇妙な関係が出来上がった。長身でバスケットボールが得意な波瑠だったが働かない父親に当たり屋をやらされていた。殺人犯、匿う女、追う刑事、孤独な少年がそれぞれ歩む道が交差した時、言葉にならない悲劇が判明したのだった。 途中、やや中弛み、余計なエピソードもあるのだが、全体を通して盛り上がるサスペンスは読み応えがある。ミステリーファンに限らず、現代社会の問題を提起する作品のファンにオススメする。 |
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道警シリーズの第4作。前作「警官の紋章」で小島百合巡査に犯行を阻止されたストーカーが一年後に現れ、再度被害者を脅迫し始めた。よさこいソーラン祭りという札幌最大のイベントに紛れ込んだ犯人をいかにして追い詰めるか。さらにバイクによる連続ひったくり、謎の白骨死体などが加わり…。
よさこいソーラン祭りの警備だけでも手一杯なのに、数々の難事件が続出し札幌の警官は不眠不休の奮闘を求められる。普段の所属や担当の垣根を越え、ひたすら警官の使命を果たそうとする正義の警官たち。地道な聞き込み、地取り捜査の積み重ねでじわじわと犯人を追い詰める捜査プロセス。事件相互の意外な関係が明らかにされる巧みな伏線が光るプロット。まさにモジュラー型警察小説の完成形を見るようだ。 安心して楽しめる傑作として、どなたにもオススメしたい。 |
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最初に。本書は2003年に発売され、2008年に光文社文庫「サラマンダーは炎のなかに」として刊行された作品を早川が改題した作品である。元の光文社版と全く同じもの(訳者も解説者も同じ)をまるで新作のように売り出すのは、いかがなものか。騙された方が悪い(自分は「サラマンダー」は未読だったので良かったが)のかも知れないが。
パキスタン生まれの英国人で主にドイツでスパイ活動を続けていたマンディと、ドイツ人で60年代終わりごろに反戦・平和活動でマンディと結び付いたサーシャの二人。それぞれが主義主張を持つまでの経緯、人生の拠り所となっていた冷戦構造崩壊後の日々が丁寧に解析され、時代を反映した人々の意識の変化が順を追って解説される。そして21世紀に入り、マンディとサーシャが再会した時、二人の変わらない友情と運命は…。 3.11後の米国・英国とグローバル資本による民主主義の破壊への怒りを迸らせる老大家の筆致は熱い。古き良き欧州の知性の覇気は極めて強いインパクトがある。 スパイ小説としてはやや物足りないが、現代政治を巡るサスペンスとして読み応えあり。オススメです。 |
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2014年〜15年に文芸誌に連載された長編小説。生まれたばかりの子を養子として里親に紹介する特別養子縁組で繋がった二組の家族、それぞれの葛藤を描いたヒューマン・サスペンスである。
武蔵小杉のタワマンで暮らす栗原家に突然かかってきた電話は「子供を返して欲しいんです」という。返せないなら金を払えと脅迫してきた。電話してきた女が名乗った「片倉ひかり」は確かに栗原家の6歳の息子・朝斗の生みの親の名前だった。 子供が欲しくてもできなくて養子斡旋団体を頼った40代の夫婦、欲しくはなかった子供ができてしまった中学生。広島の養子斡旋団体の施設で二つの家族が出会うまでの背景が物語の中心で、誰がいいとも悪いとも、誰の罪とも言い難いシリアスなエピソードが延々と続き、かなり重い読書感である。誰も悪い人はいないようなお話になっているが、やはり一番は子供を養子に出す決断を下した片倉ひかりがあまりにも常識にかけ、脆いこと。これ、育てた親の責任なのか? 物語としては面白いが、オススメ作品というには躊躇ってしまう。 |
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雑誌掲載の3作品に書き下ろし3作を加えた、ブラック・ショーマン・シリーズの第二作。どの作品も一捻りがあり、それなりに楽しめる。
ただ、東野圭吾作品としてはどれも小粒で物足りない。 |
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アメリカ生まれ中国系移民二世の女性作家の長編第二作。オハイオ州の裕福な街に紛れ込んだボヘミアンな親娘が特権階級の家族に馴染み、親密になるのだが、あまりにも親密過ぎて破綻に至る文芸ミステリーである。
クリーブランド郊外の計画都市・シェイカー・ハイツに住むリチャードソン家の貸家に芸術家を名乗るミアと15歳の娘のパールが移ってきた。パールはリチャードソン家の4人の子供と親しくなり、豪勢な暮らしに魅了されリチャードソン家に入り浸るようになる。郊外特権階級の倫理とプライドを体現する母親・エレナの采配で絵に描いたような家族を作っているリチャードソン家の異端児・末っ子のイジーは逆に自由奔放なミアに惹きつけられ、ミアの芸術活動を手伝うようになる。お互いに良い関係を築いた二家族だったが、子供たちの関係が恋愛感情でギクシャクし始めるとともに、誤解が誤解を招き、とうとうイジーが寝室6つの全てにガソリンを撒いて放火し、自分は家出してしまった。悲惨な結末に至るまでの道筋は…。 一見、豊かにあるいは自由奔放に暮らしている人々が抱える苦悩や苦い歴史、揺れる道徳感を丁寧に、情感豊かに描写し、多種多様な読み方ができる文芸作である。さらに親子、異人種間の避けられないズレをリアルに落ち着いて表現しているのも好感度が高い。 倒叙形ミステリーとしてはもちろん、現代アメリカ社会の病巣を見つめた社会派作品としてもオススメだ。 |
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「われら闇より天を見る」で話題を呼んだ著者の邦訳第二弾、作品としては前作の前の第2作。信仰厚い閉鎖的な田舎町で起きた15歳の少女失踪事件をメインにアメリカの宗教、倫理、抑圧、暴力の絡み合いを描き出す社会派ミステリーである。
1995年のアラバマ州の小さな町で「ごめんなさい」とだけ書き残して15歳の美少女・サマーが失踪した。警察は家出事案として取り扱うのだが、サマーの双子の妹・レインは同級生で遊び仲間のノア、パーブとともに姉を探そうとする。というのも、数年前に連続少女誘拐事件があり、犯人「鳥男」が目撃されたものの逃亡し、未解決のままだったのだ。当時から捜査にあたったブラック署長はその事件を機にアルコール依存になり、町民からは必要最低限の努力しかしないと目されていた。一方、サマーとレインの父親で暴力的なジョーは弟のトミーや仲間を集めて捜索隊を指揮し、結果を得られない日々に不満を募らせていた。そんな一触触発の町の上空に巨大な嵐雲が居座り、住民は不安と恐怖に怯え切っていた…。 行方不明の姉を探すレインと仲間たち、平穏に問題解決したいブラック署長の視点でのエピソードが交互に繰り返され、そこにサマーの独白が挿入される。そこで明らかになるのはいまだに尾を引く「鳥男」であり、抑圧的な宗教の呪縛であり、陰謀論的な悪魔騒ぎで、アメリカの宗教ベルト地帯におけるキリスト教の功罪が露わにされる。物語の展開スピードが遅く、最初は人間関係やキャラの把握に時間を要するが中途からは分かりやすくなる。 前作「われら闇より天を見る」を想定すると期待外れだが、アメリカ人の宗教と人間の理解を知るミステリーとして、一読の価値あり。 |
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本作を16歳で書き始め、17歳で完成させ、19歳で刊行し、史上最年少でブッカー賞にノミネートされた天才文学少女のデビュー作。オークランドの黒人街で暮らす17歳の少女がありとあらゆる差別、暴力、理不尽に翻弄されながらも強靭な復元力で生き延びるヒューマン・ドラマで、刊行後すぐにN.Y.Times紙のベストセラーに入ったのも納得の力強い作品である。
貧しい黒人街で生きる17歳のキアラ。父は病死、母は刑務所で兄のマーカスと二人で住むアパートの家賃にも事欠く綱渡り生活だった。にも関わらず、マーカスはラッパーになって大金を稼ぐ夢に取り憑かれて働かず、キアラは一人で家計を担っていた。しかし、いきなり家賃が倍増し、同じアパートに住む無責任な母親に置き去りにされた9歳のトレバーの面倒も見ることになり、追い詰められたキアラは必死に職を探すのだが高校も卒業していない17歳の少女を雇ってくれる職場はなく、やむなく売春に手を染めた。そして警察に現場を押さえられることになったのだが、警官たちはキアラを保護するどころか性的搾取をし始めたのだった…。 著者が13歳の時に遭遇した警官による黒人少女の性的搾取事件に強烈な違和感を持ち、16歳から作品化し始めたという本作。アメリカでマイノリティの少女が日々押し付けられる人種差別、性差別に対する鋭い反発に圧倒される。周囲の大人、権力者、行政からの理不尽で醜悪な攻撃はグロテスクで、読み進めるのは気軽ではない。それでも、キアラがとる行動に微かな温もりが感じられるのが救いになる。 社会派のノワール・ヒューマンドラマとして、一読をオススメする。 |
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好評のうちに終えた「ジミー・ペレス警部」シリーズに続く警察小説「マシュー・ヴェン警部」シリーズの第2作。本作もマシューの関係者が濃厚な関わりを持つ人物が被害者・容疑者になる地元ミステリーである。
裕福なオーナーが所有する農園の一角を借りている吹きガラス職人・イヴが自分の部屋で父親・ナイジェルが殺されているのを発見した。致命傷を負わせた凶器はイヴが作ったガラス花瓶の破片だった。ナイジェルは病院と患者のトラブル解決をサポートする組織の中心人物で、事件当時は精神が不安定な息子が自殺したのは適切な処置を怠り、早期に退院させられたからだと訴える家族の依頼で動いていたという。マシュー、ジェン、ロスのチームは明確な動機や証拠が見つからず、ひたすら関係者への聞き込みで捜査を進め、やがて自殺した青年が自殺を唆すサイトにアクセスしていたことを突き止める。そんな中、第二、第三の殺人が起き、警察も地元関係者も神経をすり減らすことになる…。 事件の動機や様態がいつ明らかにされるのか、あまりにもスローペースな展開で前半はかなり退屈。最後の謎解き、真犯人の告白もなんだか生ぬるい。580ページを越えるボリュームだがミステリー部分が三分の一、マシューをコアとする人間ドラマが三分の二だろうか。シリーズ2作目とあって、登場人物たちのキャラがよりくっきりし、人間味が感じられるようになったが読みどころか。前作と変わらず同性婚のマシューとジョナサン、どちらも「夫」となっているのには違和感を感じて読みづらい。「パートナー」とでも表現してくれればいいのにと思う。 シリーズ第一作「哀惜」から読み始めることを強くオススメする。 |
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温くて、渋くて、味わい深い。東京の下町暮らしと国文古書趣味が融合した、好きな人にはたまらないだろうテイストの連作短編集。
国文科院生の女子大生・美希喜は大叔父が急逝したため、大叔父が神保町で営んでいた古書店を手伝うことになる。大叔父の妹で店を継いだ珊瑚さん、近所の人、常連客とのほのぼのとした交流録に、神保町のちょっとした食の話をプラス。すっきりした後味も渋茶のよう。 |
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2020〜21年に雑誌連載された長編ミステリー。警察による首なし死体事件捜査と不器用な元キックボクサーの純愛を中心に新興宗教の闇を描いた、なかなかバイオレンスなエンタメ作品である。
多摩の山中で首がない男性が発見された。死体は一刀両断、まるで斬首のように斬られており、死後運ばれて来たようだった。現場に最初に駆け付けた所轄署の鵜飼警部補は捜査本部に組み込まれ地取り捜査を担当する。町で出会った老人に誘われて餡子工場で働いていた元キックボクサー、今フリーターの潤平は新入社員の美祈に一目惚れし、付きまとううちに美祈が新興宗教「サダイの家」で集団生活をしていることを知った。被害者の身元調査からスタートした鵜飼たち警察の捜査が実を結び、首なし死体が「サダイの家」信者の脱退を助けていた弁護士であることが判明。警察と教団、元キックボクサーが絡みあう激しい闘いが始まった…。 新興宗教を巡るあれこれが想起される、面倒くさそうな物語だが、警察捜査のプロセス、恋に不器用な男の言動がしっかり抑えられているので、ちゃんとエンターテイメントとして成立している。バイオレンスとミステリーのバランスが良い作品であり、どなたにもオススメできる。 |
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女性刑事「ケイト・リンヴィル」シリーズの第3作。列車内の銃撃事件とサイクリング中の女性を罠に仕掛けて負傷させた事件、2つの事件で同じ銃が使われていたことから隠されていた過去の秘密が明らかになる警察ミステリーである。
敬愛するスカボロー署のケイレブ警部の要請を受け、スコットランド・ヤードを辞めてスカボロー署に移ることにしたケイト。赴任前の旅で乗った列車内で、知らない男に銃撃された女性・クセニアを助けたのだが、犯人には逃げられてしまう。事件の2日後、サイクリング中の女性教師・ソフィアが道路に仕掛けられた針金の罠で転倒し、銃撃される事件が発生。しかも2つの事件で使われた銃が同じものであることが判明した。どちらの事件もスカボロー署が担当することになったのだが、捜査の中心となるべきケイレブ警部は別の事件で失敗し停職処分を受けていた。着任前だったケイトだが行きがかり上、捜査に加わることになり、両事件の被害者クセニアとソフィアの接点を探し始めるのだが、共通点は皆目見つからない。さらに、クセニアは何かを隠しているようで捜査が停滞していたところに、ソフィアが病院からリハビリ施設へ移送中に車ごと拉致されてしまう…。 全く接点が見つからない2つの事件を解き明かしていく犯人探し、動機探しのストーリーは重苦しく、行ったり来たりの繰り返しで遅々として進まないのだが、その裏には簡単には語れない過去が隠されていて、決して退屈ではない。さらに全ての謎が解かれた時に見える人間の弱さ、醜さ、切なさは衝撃的で読者の感情を揺さぶる。ヒロインのケイトが徐々に感情表現が豊かになり人間味を増して来たのも、シリーズ愛読者には好印象を残す。 謎解き警察ミステリーとして一級品であり、シリーズファンに限らず多くの方にオススメしたい。 |
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