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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 581~600 30/31ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.37:
(7pt)

異色のヒロイン、異色のストーリー

引退した捜査官が断りきれない事情から再度、捜査現場に戻って活躍するというのはよくあるパターンだが、主人公が60歳近い女性と言うのは初めて読んだ気がする(すでにあるのかもしれないが)。しかも、本筋はサイコパスを追いかける異常心理ものなのに、犯人の心理や行動の描写は少なく、ヒロインの心理描写の部分が多いのも異色だ。
女性対象の性犯罪者を捕らえるための囮捜査のプロとして活躍していたFBI捜査官ブリジッドが、若い女性の囮の役目を果たせなくなり、後継者として育てたFBI捜査官が殺された「ルート66連続殺人事件」は、犯人を逮捕できないまま7年が経ち、ブリジッドは引退して新婚生活を送っていた。そこに、犯人逮捕の報が届くが、担当の女性捜査官コールマンは犯人の自白に疑問を持ち、真犯人かどうかの確認のためにブリジッドに協力を要請する・・・。
捜査権限がない立場での厳しい捜査に、果敢に立ち向かう中年女性。体力、気力とも現役に負けないのだが、いかんせん警察力を駆使できない弱みがあり、非常に苦しい戦いとなり、自分自身はもちろん、最愛の夫までも苦しめる展開になってゆく。
若い女性の役ができなくなった中年女性が、老嬢専門の連続殺人鬼に遭遇するところからスタートするストーリーは、異色と言えば相当に異色で、問題解決までの道のりにややご都合主義的なところもあるが、最後まで犯人が分からず面白く読めた。
主人公のキャラが独特過ぎて、シリーズにするのはちょっと難しいかなと思うが、次回作はあるかどうか? その点も興味深い。
消えゆくものへの怒り〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
No.36:
(7pt)

ル・カレは枯れず!

1931年生まれのジョン・ル・カレが2010年に発表した最新作。御年79歳での作品とは思えない、みずみずしい作品だ。
ロシアの新興マフィアのマネーロンダリングの第一人者が、犯罪組織を裏切って英国への亡命を希望し、イギリス人の若いカップルに英国情報部との架け橋を依頼したことから物語がスタート。果たして亡命は成功するのか? 最後まで先が読めないスリリングなストーリーが展開される。
本作品の最大の特徴は、登場人物がきわめて緻密に描かれていて、まさに生きて動いていることだろう。大学講師と弁護士のカップル、亡命しようとするマフィアとその家族、情報部のスタッフなど、主要な人物はすべて個性的で、その心理や行動に読者はリアルな共感や反発を覚えずにはいられない。ル・カレのスパイ小説には欠かせない神経をすり減らす情報戦の要素はやや薄いといえるが、それを補って余りある人間ドラマとしての面白さが光る。
ル・カレの本領ともいえる冷戦時のスパイ小説とはやや趣が異なるものの、人間観察の鋭さと人物造形の上手さで、スパイ小説ファン以外の読者にとっても読みごたえがある作品と言えるだろう。
われらが背きし者
ジョン・ル・カレわれらが背きし者 についてのレビュー
No.35: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

栴檀は双葉より

宮部みゆきの長編デビュー作。プロローグでの伏線の張り方から主人公の設定、周辺のキャラクター、事件の背景まで、実に巧みな設定で、さすがに宮部みゆき、栴檀は双葉より芳ばしである。ただ、最後の詰めが後々の長編作に比べると多少甘く、評価を減点せざるを得なかった。
まず、主人公が元警察犬・マサで、犬の視点からの一人称語りというのが、なんとも人を食っていて面白い。また、マサの飼い主である探偵事務所のスタッフや、一緒に真相究明に当たる被害者の弟などのキャラクターが青春小説っぽいところも、殺人の様相や事件の背景が凄惨であるにもかかわらず読後の印象がどろどろしない要因となっている。
ミステリーとしては物足りない部分も多いが、宮部みゆきの才能の芽が随所に感じられる佳作といえる。
パーフェクト・ブルー【新装版】 (創元推理文庫)
宮部みゆきパーフェクト・ブルー についてのレビュー
No.34:
(7pt)

文句無く楽しめるスパイ活劇

それぞれの時代性が重要なスパイもので、しかも25年以上昔の作品なのに、文句無く楽しめるスパイアクション。アメリカがロシアからアラスカを買い取った時の協定には、実は買い戻し条項があった! という、史実と虚構を大胆に組み合わせた“ホラ話”で最後までハラハラドキドキが楽しめる、アーチャーの名人芸が堪能できる良質なエンターテイメント作品だ。
ロシア革命時、皇帝ニコライ二世が条約書をイコンの裏にかくして国外に持ち出したことを確信したソ連指導部は、1966年5月19日、イコンの発見と奪還をKGBに命じ、最も優秀で非情な情報部員ロマノフが調査を開始する。定められた期限は1966年6月20日。そのころ、イコンはナチス・ドイツの高官が偽名で預けたままスイスの銀行に眠っていた。
そのイコンを受け取る正当な権利(必要な書類)は、父親の遺産としてイギリスの退役軍人、アダム・スコットに引き継がれ、スコットは中身の詳細を知らないまま、遺産を受取に行く。そこに待っていたのは・・・。
知力、体力、行動力をぶつけ合い、逆転に継ぐ逆転で突っ走るというストーリー展開はまさにスパイ小説の王道だ。さらに主人公が、アメリカでもロシア(ソ連)でもなく、第三国のイギリス人の退役軍人ということから巧みなユーモアも加味されており、アクション一本槍ではない面白さがある。

ロシア皇帝の密約 (新潮文庫)
No.33:
(7pt)

巨匠の挑戦

前作「秘密」から4年ぶり、御年91歳で発表したP.D.ジェイムズの新作は、1813年に書かれたジェーン・オースティンの「高慢と偏見」の後日譚! 名作の誉れ高い「高慢と偏見」を受けてミステリーを書く、という、ある種、無謀とも思える挑戦を果たしたP.D.ジェイムズの創作意欲に、称賛の拍手を送りたい。
物語は、18世紀初めのイギリスの田舎貴族の生活に飛び込んできた殺人事件が引き起こす、さまざまな人間模様。犯人探し、動機解明のミステリーとしても読ませるが、それ以上に封建制度下の人々の生き方、とりわけ女性の生き方にまつわる話が面白い。
本家「高慢と偏見」を読んでいるに越したことはないが、「高慢と偏見」の世界はプロローグで簡潔にまとめて紹介されているので、原作を未読の人にもオススメできる。
高慢と偏見、そして殺人〔ハヤカワ・ミステリ1865〕
No.32: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作よりは面白い

“サーファー・ときどき探偵”のブーン・シリーズの第二弾。物語の舞台、主要登場人物は前作の流れを継承し、シリーズものとして確立しつつある。前作に比べてミステリーの要素が強まり、謎解きの部分が格段に面白くなった。それでもまだ“サーフィン小説”の部分が色濃く、サーフィン好き、格闘技好きには大受けだろうが、個人的には(なんといっても、ウィンズロウだから)いまいちの印象だった。
ブーンが依頼されたのは、サーフィン仲間の富豪の妻の浮気調査。意に染まないまま調査を開始したブーンはさらに、友達以上、恋人未満のぺトラから殺人容疑で逮捕されている少年の弁護のための調査を依頼される。この殺人事件の被害者は地元で敬愛されていた“伝説のサーファー”だっただけに、殺人犯側についたブーンはサーフィン仲間を始め地元全体を敵に回すことになる。少年の容疑に疑問を持ったブーンは、いつもは手助けしてくれる仲間から見放されながらも真実を追求し、ついにはサンディエゴを揺るがす巨大なスキャンダルを掘り起こすことになる…。
あくまでもノー天気なサーファーの世界の向こうには、金と欲望にまみれた現実が隠されている。それでもというか、だからこそというか、ブーンはサーフィンに生涯をささげる決心をする。次作もありそうなエンディングだった。
紳士の黙約 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ紳士の黙約 についてのレビュー
No.31:
(7pt)

父と子の再会物語

「神は銃弾」で鮮烈なデビューを果たし、「音もなく少女は」で再注目されたボストン・テランの新作は、これまでの暴力性に「赦し」がプラスされ、前記2作とは異なる色合いの作品だ。
舞台となるのは、1910年のメキシコ。革命前夜の不穏な空気に包まれたメキシコにアメリカから、武器密輸の囮操作のために武器を満載したトラックと一緒に送り込まれるのが、若き捜査官・ルルドと殺人犯のローボーンの二人。実は、この二人は親子だった。
ストーリーは、武器を満載したトラックをメキシコに密入国させ、密輸組織を暴き出し、さらにアメリカに逃げ帰るまでの必死の冒険譚が中心。というか、それに尽きていて、話としては単純。それを補っているのが、親子である二人の微妙な心理劇で、幼い頃に捨てられた子供・ルルドはローボーンが父親であることに瞬時に気がつくが、ローボーンはまったく気付かず、ローボーンがいつ気付くのか、気付いたあとどう変わるのかが読者を引きつける。さらに、ルルドと耳の聞こえないメキシコ人少女との淡い恋物語が、ハートウォーミングな彩りを添えている。
“暴力の詩人”といわれるボストン・テランを想像して読むと、やや肩透かしを食らうかも知れないが、新しいボストン・テランを発見できるとも言えるだろう。
訳者あとがきによれば映画化の話が進んでいるとのことだが、いかにも映画になりそうなアクションや戦闘シーンが多く、またホロリとさせる場面もあり、映画化されればヒットするだろうと思う。ただ、そのときはタイトルを変更した方がベターではないかと思った。

暴力の教義 (新潮文庫)
ボストン・テラン暴力の教義 についてのレビュー
No.30:
(7pt)

歴史好きの方にはおススメ

現在のドイツ・ミステリーの巨匠と目されているフォルカー・クッチャーの日本デビュー作。ラート警部を主人公にした全8作のシリーズの第一作である。
1929年のベルリンを舞台に、ある事情でケルンから左遷?され、意に沿わない風紀課に配属されたてきたラート警部が思いがけなく殺人事件に遭遇し、希望する殺人課への異動のチャンスとばかりに独自の捜査を開始する。
第一次世界大戦の痛手から回復し、建設ラッシュに沸くベルリンでは共産勢力と民族派、台頭し始めたナチスが勢力争いを繰り広げ、そこに亡命ロシア人が絡んで、複雑で暴力的な謀略が渦巻いていた。誰が敵で、誰が味方なのか? はぐれ刑事のラートは疑心暗鬼に陥りながら鋭い推理で事件の解明を進め、やがて巨大な悪の存在に気づき、必殺の大芝居を打つ。時代が時代だけに、捜査手法は科学的な捜査より、聞き込みと推理が中心で、オーソドックスな警察小説の展開だが、途中で禁じ手ではないかというエピソードもあり、なかなか波乱にとんだ展開で飽きさせない。
警察小説ではあるが、舞台がワイマール時代のベルリンということで、史実と虚構が入り混じった歴史小説という側面も強い。好みが分かれるところだが、私としては現在のドイツを描いたネレ・ノイハウスの方が好みと言える。
濡れた魚 上 (創元推理文庫)
フォルカー・クッチャー濡れた魚 についてのレビュー
No.29:
(7pt)

達人の話芸だなあ

東直己作品はけっこう読んでいるつもりだったのだが、探偵法間シリーズは知らなかった。
本作は雑誌の連作を集めた短編集で、さまざまに趣向を凝らしたお世辞の話芸が楽しめる。なにせ主人公は風采が上がらない、金がない、体力がない探偵で、唯一の取柄・武器がお世辞という、かなり情けないヒーローだけに、サスペンスやアクションとは全く無縁。ただひたすら口先だけで問題を解決していくのだから、これはこれで、凄い!
東直己氏のアイディアと文章力、独特の皮肉が効いた美学に、ただただ感心していれば楽しい時間が過ごせること、間違いなし。
探偵法間(のりま) ごますり事件簿
東直己探偵法間(のりま) ごますり事件簿 についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

脱獄サスペンスを期待すると・・

本書の紹介文は「祭太鼓が轟くなかで、一人の模範囚が忽然と消え失せた。(中略)異変に気づいていたのは若手刑務官のみ。「白い夢」にアクセス出来る彼女だけが、逃亡先を知っていた……。仰天の仕掛け、感泣のラスト。内部を知悉する作家だけが成し得るサスペンス長篇。」というものだが、はっきり言って脱獄サスペンスを期待しない方がよい。
本作の一番の魅力は、元刑務官の作者が体験してきた女子刑務所での刑務官や受刑者の日常から丁寧に拾い上げて構築した心理ドラマだと思う。受刑者それぞれが背負う過去の重さ、受刑者間や刑務官との間の葛藤、刑務所という官僚組織内部の軋轢などが、しっかりした構成と巧みな描写で物語られ、女子刑務所という未知の世界がリアルに立ち現れてくる。
作者は本作が長編では二作目というので、これからどう変化して行くのか? 構成力、文章力は一流なだけに、サスペンスのアイデアの飛躍を期待したい。

脱獄者は白い夢を見る
壇上志保脱獄者は白い夢を見る についてのレビュー
No.27: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

超常現象の陰に人間が潜む

ガリレオ・シリーズの第二短編集。
全5作とも、単純に見える事件に現れた超常現象に悩む草薙刑事が、天才物理学者・湯川に謎解きを依頼し・・・という、お約束の展開で進められる。その超常現象は、タイトルの予知夢であったり、幽体離脱であったり、はてはポルターガイスト現象まで、まあ常識外れのオカルトとも呼びたいものだが、湯川はそれを論理的に解明して行く。しかも、解明のためのヒントになるのは犯人やその周辺の人物の言動である。
オカルト話をミステリーの枠内できちんと解説して見せるガリレオ・湯川(すなわち、東野圭吾)の手腕は、お見事!の一言。全編、ストーリーに破綻が無い、上質な短編に仕上がっており、ミステリーファンを満足させる出来だといえる。
予知夢 (文春文庫)
東野圭吾予知夢 についてのレビュー
No.26: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件の動機が弱いものの

最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。
しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。
ブルータスの心臓 新装版 (光文社文庫)
No.25:
(7pt)

エンターテイメントとしては、合格

「悪人」「平成猿蟹合戦」の吉田修一がスパイ・アクションに挑戦!って思って読むと、ちょっと物足りないかもしれない。
テーマが東アジアを舞台にした太陽光発電をめぐる謀略戦ということで、時代性もあり、興味深いのだが、情報戦の面白さよりアクション場面に重点があるようで、やや深みにかける仕上がりになっている。裏情報を売ることを商売にしている非情の情報部員、そのライバル、謎の日本人美女、香港の財閥のオーナー、ウイグル族の反政府過激派、中国の闇社会の実力者、日本の代議士など、スパイ・アクションに欠かせない登場人物は揃っており、それぞれのキャラクターもそれなりに描かれているのだが、総花的な印象が免れない。むしろ、主要人物に絞って深く書き込んだ方がドラマ性が高まったのではないかと思う。
派手なアクションシーンが多く、映画化すれば面白いと思うが、シリーズ化されたときに、次作を手に取るか? ちょっと判断に迷うところだ。
太陽は動かない
吉田修一太陽は動かない についてのレビュー
No.24: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ネタばらし厳禁!

クリスマスを間近にしたニューヨーク州の片田舎で、10歳の少女二人が誘拐された。同じ学校に通う仲良しのグウェンとサディーを探すために、地元警察はもとより州警察、FBIからなる捜査陣が構成される。その中に、15年前に双子の妹が同じような少女2人誘拐事件に巻き込まれて殺された地元警察の刑事・ルージュが加えられ捜査に当たることにある。
捜査が進む中、同様の犯罪が繰り返されており、今回の誘拐も同じパターンの犯罪ではないかという説が有力になる。しかし、ルージュの妹を殺した犯人は現在服役中で、絶対に彼の犯行ではありえない。とすると、服役している犯人は無罪なのか? それとも、同じような犯行を犯す人物が他にもいたのか?
過去の例から、誘拐された少女はクリスマスの朝には死体となって発見される可能性が高く、捜査は時間との闘いの様相を深め、捜査陣や被害者家族の緊張感が高まっていく・・・。
物語は、捜査の進行と誘拐された少女たちの脱出への苦闘が並行して描かれ、タイムリミットも加味されて刻一刻とサスペンスが高まっていく。そして、捜査陣と犯人と少女が一堂に会するクライマックスへ・・・。
意外な犯人、意表を突く謎解き、最後まで隠されていた物語など、衝撃のクライマックスをどう見るかで、この作品の評価は大きく分かれるだろう(ゆえに、ネタばらしは厳禁)。深く感動する人もいるだろうし、肩透かしというか、騙されたような感想を持つ人もいるだろう。個人的には、最後の怪奇ファンタジーっぽい落ちに不満が残り、後者の感想を持った。
しかし、ストーリー展開の巧妙さ、キャラクター設定のうまさから、ミステリーファンにも十分に楽しめる作品だと思う。
クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)
No.23:
(7pt)

ヴィクを知ることは、パレツキーを知ること

人気のV.I.ウォーショースキーものを含む短編集。小説としては、やはり長編の方が圧倒的に面白い作家だと思うが、これはこれでウォーショースキーのキャラクターを理解するのに役に立った。
不公平や差別を憎み、権威を振りかざす人間を軽蔑するヴィクの基本姿勢がどこから生まれたのか、どう育まれたのか。その背景がわかってくる作品群だ。9.11後のアメリカ社会の不寛容さ、生きにくさを告発しているパレツキーをよく理解することができる。
アンサンブル 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
サラ・パレツキーアンサンブル についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリーではないが、面白い

「悪人」より「横道世之介」に近いテイストの作品で、ミステリーではないが、作者の腕の確かさを感じる上質なエンターテイメント作である。
「猿蟹合戦」といえば、親を殺された子供の復讐を周りが助けるお話だが、それを平成の世にもってくるとどうなるか? まず、登場人物が歌舞伎町のバーテン、ホスト、ホステス、ママ、パトロン、ヤクザ・・・と怪しげなキャラクターになる。合戦の舞台はひき逃げ事故に絡む脅迫から衆議院議員選挙へと、微妙に変化していく。もちろん、蟹の親は殺されなければいけないので、殺人や犯罪、犯罪すれすれの悪事、悪事を平気で働く悪人も登場する。だからといって、人間の悪意が渦巻く重苦しい展開になるかといえば、そうでもない。キャラクターが非常に軽く、さわやかに設定されているので、ストーリーも軽やかに展開していく。元のお話が勧善懲悪であることからも分かるように、最後は読者をほっとさせる予定調和のエンディングに収められている。したがって、読後感が悪くないのが、この作品のよさだろう。
「悪人」の吉田修一を期待する人にはオススメしないが、「世之介」が面白く読めた人にはオススメしたい。
平成猿蟹合戦図
吉田修一平成猿蟹合戦図 についてのレビュー
No.21: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

倉木尚武から美希へ、主役交代

百舌が登場しない百舌シリーズ作品。その意味では、公安警察シリーズとでも呼ぶべきだろうが、やはり百舌の印象が強烈なため「百舌シリーズ」になる。事実、本作のあとには「よみがえる百舌」が書かれている。本作も、シリーズの前2作を読んでから読むことを強くオススメする。
第3作の今回は、結婚した倉木警視と美希夫妻にとんでもない災難が降りかかることから、私怨をはらす壮絶な戦いが展開されるのだが、それが警察組織を揺るがす大陰謀と密接に絡んでいることで、スケールの大きな物語となっている。シリーズの前作品に比べると、アクション、ミステリーの要素が濃くなり、よりエンターテイメント性が高い作品といえる。作品の主人公は、シリーズキャラクターである倉木、美希、大杉の3人で同じだが、主役の座が倉木から美希へと移っている。ある意味、冷静沈着・ハードボイルドの倉木から激情型の美希に視点が移ったわけで、その分、ハードボイルドよりアクション味が強くなった印象だ。
シリーズ物としては、あっと驚くエンディングだが、そのハンディを乗り越えて、話を展開していけるという、作者の自信の表れだろう。実際、次の「よみがえる百舌」では、舌を巻くストーリーで読者を脱帽させてくれた。
砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
逢坂剛砕かれた鍵 についてのレビュー
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作を読んだ方にオススメ

傑作「百舌の叫ぶ夜」の続編、というか、そのままの流れで話が展開されるので、絶対に「百舌の叫ぶ夜」を読んでから本作を読むことを強くオススメする。
死んだはずの百舌がよみがえった? というのも大きなテーマだが、それよりも倉木警部を中心とする警察側が前作での悪の黒幕・森原大臣側を抹殺しようとする、一種の政治闘争がメインテーマである。したがって、推理や捜査活動より心理戦、読み合いが中心でストーリーが展開される。もちろん、アクションやサスペンスもたっぷりだが、文庫の解説にもあるように主人公たちのハードボイルドな生き方が読みどころになる。
物語の終盤に来て、「これは、ちょっと無いよな~~」という思いもあったが、よくできた物語といえる。
幻の翼 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
逢坂剛幻の翼 についてのレビュー
No.19:
(7pt)

滝沢修と倍賞千恵子は適役

映画化されていることは知らなかったが、滝沢修と倍賞千恵子ならぴったりの配役といえる。
1960年ごろの世相を背景に、強盗殺人で起訴された兄の無実を信じて弁護を頼みに来た柳田桐子が、その依頼を断った大塚弁護士への復讐を果たす物語。大塚弁護士が依頼を断ったのは、当時多忙を極めていたことに加えて、桐子が高額な弁護料を払えないだろうということと、愛人との逢瀬に心が急いていたためだった。そのため後々、大塚弁護士は弁護を断ったことに良心の呵責を感じることとなる。
一方の桐子は、兄が一審で死刑を宣告され、控訴中に獄死したのは、大塚が弁護を断ったためだとして復讐に執念を燃やすことになる。
現在の常識からすれば(おそらく当時の常識でも)、大塚が弁護を断ったことと死刑判決を直接結びつけて大塚に復讐するのは筋違いである。しかし、桐子のサイコパスな性格は暴走する一方だし、そこに大塚の良心の呵責が絡むことで事態は壮絶な心理劇となってゆく。
物語の主眼は、法の限界や警察や裁判のありかたと個人の心情の衝突にあるのだろうが、個人的には、弁護士の正義感を妄信している桐子の素朴さと、弁護を引き受けなかったことを悩む大塚弁護士の倫理観に興味をひかれた。1960年前後には、まだまだ倫理や正義に対する確固たる信頼があったのだなと感じた。
霧の旗 (新潮文庫)
松本清張霧の旗 についてのレビュー
No.18: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

スピーディーな展開で読ませる

最近、ドラマにもなって注目を集めている本作、巻末の解説によると作者は「ポケミスみたいな作品を書きたかった」と語っているようだが、なるほど、猟銃が出てくるは、美女が派手な犯罪を企むは、車の追っかけっこ(ただし、派手なカーチェイスではなく、高速道路のSAで休みながらの追跡劇だ)があるは、なかなかに派手な道具立てで、しかもすべてが日曜夜から月曜午前までのワンナイトの出来事というスピード感がいい。
冒頭、猟銃を持った美女が復讐のために結婚披露宴会場に乗り込むという、派手なシーンから読者を引き付ける。しかも、これが本作の本筋ではなくサイドストーリーだというところも心憎い構成だ。
メインストーリーは、何の罪もない妻と娘を殺された男が、まったく反省の色を見せない犯人たちに自力で報復しようとする、まあ、よくあるお話。裁判制度が十分に罪を償わせることができないとき、私刑(リンチ)は許されるのか? 重いテーマではあるが、本作ではこのテーマの追求より、登場人物たちの人物像、人間関係、追跡劇のアクションの方に重点が置かれているので、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。
宮部みゆきの初期作品の中では、傑作だ。超能力やエスパーに頼った作品ではないところが、個人的には気に入った。
スナーク狩り (光文社文庫プレミアム)
宮部みゆきスナーク狩り についてのレビュー