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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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本書の紹介文は「祭太鼓が轟くなかで、一人の模範囚が忽然と消え失せた。(中略)異変に気づいていたのは若手刑務官のみ。「白い夢」にアクセス出来る彼女だけが、逃亡先を知っていた……。仰天の仕掛け、感泣のラスト。内部を知悉する作家だけが成し得るサスペンス長篇。」というものだが、はっきり言って脱獄サスペンスを期待しない方がよい。
本作の一番の魅力は、元刑務官の作者が体験してきた女子刑務所での刑務官や受刑者の日常から丁寧に拾い上げて構築した心理ドラマだと思う。受刑者それぞれが背負う過去の重さ、受刑者間や刑務官との間の葛藤、刑務所という官僚組織内部の軋轢などが、しっかりした構成と巧みな描写で物語られ、女子刑務所という未知の世界がリアルに立ち現れてくる。 作者は本作が長編では二作目というので、これからどう変化して行くのか? 構成力、文章力は一流なだけに、サスペンスのアイデアの飛躍を期待したい。 |
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ガリレオ・シリーズの第二短編集。
全5作とも、単純に見える事件に現れた超常現象に悩む草薙刑事が、天才物理学者・湯川に謎解きを依頼し・・・という、お約束の展開で進められる。その超常現象は、タイトルの予知夢であったり、幽体離脱であったり、はてはポルターガイスト現象まで、まあ常識外れのオカルトとも呼びたいものだが、湯川はそれを論理的に解明して行く。しかも、解明のためのヒントになるのは犯人やその周辺の人物の言動である。 オカルト話をミステリーの枠内できちんと解説して見せるガリレオ・湯川(すなわち、東野圭吾)の手腕は、お見事!の一言。全編、ストーリーに破綻が無い、上質な短編に仕上がっており、ミステリーファンを満足させる出来だといえる。 |
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最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。 しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。 |
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「悪人」「平成猿蟹合戦」の吉田修一がスパイ・アクションに挑戦!って思って読むと、ちょっと物足りないかもしれない。
テーマが東アジアを舞台にした太陽光発電をめぐる謀略戦ということで、時代性もあり、興味深いのだが、情報戦の面白さよりアクション場面に重点があるようで、やや深みにかける仕上がりになっている。裏情報を売ることを商売にしている非情の情報部員、そのライバル、謎の日本人美女、香港の財閥のオーナー、ウイグル族の反政府過激派、中国の闇社会の実力者、日本の代議士など、スパイ・アクションに欠かせない登場人物は揃っており、それぞれのキャラクターもそれなりに描かれているのだが、総花的な印象が免れない。むしろ、主要人物に絞って深く書き込んだ方がドラマ性が高まったのではないかと思う。 派手なアクションシーンが多く、映画化すれば面白いと思うが、シリーズ化されたときに、次作を手に取るか? ちょっと判断に迷うところだ。 |
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クリスマスを間近にしたニューヨーク州の片田舎で、10歳の少女二人が誘拐された。同じ学校に通う仲良しのグウェンとサディーを探すために、地元警察はもとより州警察、FBIからなる捜査陣が構成される。その中に、15年前に双子の妹が同じような少女2人誘拐事件に巻き込まれて殺された地元警察の刑事・ルージュが加えられ捜査に当たることにある。
捜査が進む中、同様の犯罪が繰り返されており、今回の誘拐も同じパターンの犯罪ではないかという説が有力になる。しかし、ルージュの妹を殺した犯人は現在服役中で、絶対に彼の犯行ではありえない。とすると、服役している犯人は無罪なのか? それとも、同じような犯行を犯す人物が他にもいたのか? 過去の例から、誘拐された少女はクリスマスの朝には死体となって発見される可能性が高く、捜査は時間との闘いの様相を深め、捜査陣や被害者家族の緊張感が高まっていく・・・。 物語は、捜査の進行と誘拐された少女たちの脱出への苦闘が並行して描かれ、タイムリミットも加味されて刻一刻とサスペンスが高まっていく。そして、捜査陣と犯人と少女が一堂に会するクライマックスへ・・・。 意外な犯人、意表を突く謎解き、最後まで隠されていた物語など、衝撃のクライマックスをどう見るかで、この作品の評価は大きく分かれるだろう(ゆえに、ネタばらしは厳禁)。深く感動する人もいるだろうし、肩透かしというか、騙されたような感想を持つ人もいるだろう。個人的には、最後の怪奇ファンタジーっぽい落ちに不満が残り、後者の感想を持った。 しかし、ストーリー展開の巧妙さ、キャラクター設定のうまさから、ミステリーファンにも十分に楽しめる作品だと思う。 |
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人気のV.I.ウォーショースキーものを含む短編集。小説としては、やはり長編の方が圧倒的に面白い作家だと思うが、これはこれでウォーショースキーのキャラクターを理解するのに役に立った。
不公平や差別を憎み、権威を振りかざす人間を軽蔑するヴィクの基本姿勢がどこから生まれたのか、どう育まれたのか。その背景がわかってくる作品群だ。9.11後のアメリカ社会の不寛容さ、生きにくさを告発しているパレツキーをよく理解することができる。 |
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「悪人」より「横道世之介」に近いテイストの作品で、ミステリーではないが、作者の腕の確かさを感じる上質なエンターテイメント作である。
「猿蟹合戦」といえば、親を殺された子供の復讐を周りが助けるお話だが、それを平成の世にもってくるとどうなるか? まず、登場人物が歌舞伎町のバーテン、ホスト、ホステス、ママ、パトロン、ヤクザ・・・と怪しげなキャラクターになる。合戦の舞台はひき逃げ事故に絡む脅迫から衆議院議員選挙へと、微妙に変化していく。もちろん、蟹の親は殺されなければいけないので、殺人や犯罪、犯罪すれすれの悪事、悪事を平気で働く悪人も登場する。だからといって、人間の悪意が渦巻く重苦しい展開になるかといえば、そうでもない。キャラクターが非常に軽く、さわやかに設定されているので、ストーリーも軽やかに展開していく。元のお話が勧善懲悪であることからも分かるように、最後は読者をほっとさせる予定調和のエンディングに収められている。したがって、読後感が悪くないのが、この作品のよさだろう。 「悪人」の吉田修一を期待する人にはオススメしないが、「世之介」が面白く読めた人にはオススメしたい。 |
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百舌が登場しない百舌シリーズ作品。その意味では、公安警察シリーズとでも呼ぶべきだろうが、やはり百舌の印象が強烈なため「百舌シリーズ」になる。事実、本作のあとには「よみがえる百舌」が書かれている。本作も、シリーズの前2作を読んでから読むことを強くオススメする。
第3作の今回は、結婚した倉木警視と美希夫妻にとんでもない災難が降りかかることから、私怨をはらす壮絶な戦いが展開されるのだが、それが警察組織を揺るがす大陰謀と密接に絡んでいることで、スケールの大きな物語となっている。シリーズの前作品に比べると、アクション、ミステリーの要素が濃くなり、よりエンターテイメント性が高い作品といえる。作品の主人公は、シリーズキャラクターである倉木、美希、大杉の3人で同じだが、主役の座が倉木から美希へと移っている。ある意味、冷静沈着・ハードボイルドの倉木から激情型の美希に視点が移ったわけで、その分、ハードボイルドよりアクション味が強くなった印象だ。 シリーズ物としては、あっと驚くエンディングだが、そのハンディを乗り越えて、話を展開していけるという、作者の自信の表れだろう。実際、次の「よみがえる百舌」では、舌を巻くストーリーで読者を脱帽させてくれた。 |
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傑作「百舌の叫ぶ夜」の続編、というか、そのままの流れで話が展開されるので、絶対に「百舌の叫ぶ夜」を読んでから本作を読むことを強くオススメする。
死んだはずの百舌がよみがえった? というのも大きなテーマだが、それよりも倉木警部を中心とする警察側が前作での悪の黒幕・森原大臣側を抹殺しようとする、一種の政治闘争がメインテーマである。したがって、推理や捜査活動より心理戦、読み合いが中心でストーリーが展開される。もちろん、アクションやサスペンスもたっぷりだが、文庫の解説にもあるように主人公たちのハードボイルドな生き方が読みどころになる。 物語の終盤に来て、「これは、ちょっと無いよな~~」という思いもあったが、よくできた物語といえる。 |
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映画化されていることは知らなかったが、滝沢修と倍賞千恵子ならぴったりの配役といえる。
1960年ごろの世相を背景に、強盗殺人で起訴された兄の無実を信じて弁護を頼みに来た柳田桐子が、その依頼を断った大塚弁護士への復讐を果たす物語。大塚弁護士が依頼を断ったのは、当時多忙を極めていたことに加えて、桐子が高額な弁護料を払えないだろうということと、愛人との逢瀬に心が急いていたためだった。そのため後々、大塚弁護士は弁護を断ったことに良心の呵責を感じることとなる。 一方の桐子は、兄が一審で死刑を宣告され、控訴中に獄死したのは、大塚が弁護を断ったためだとして復讐に執念を燃やすことになる。 現在の常識からすれば(おそらく当時の常識でも)、大塚が弁護を断ったことと死刑判決を直接結びつけて大塚に復讐するのは筋違いである。しかし、桐子のサイコパスな性格は暴走する一方だし、そこに大塚の良心の呵責が絡むことで事態は壮絶な心理劇となってゆく。 物語の主眼は、法の限界や警察や裁判のありかたと個人の心情の衝突にあるのだろうが、個人的には、弁護士の正義感を妄信している桐子の素朴さと、弁護を引き受けなかったことを悩む大塚弁護士の倫理観に興味をひかれた。1960年前後には、まだまだ倫理や正義に対する確固たる信頼があったのだなと感じた。 |
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最近、ドラマにもなって注目を集めている本作、巻末の解説によると作者は「ポケミスみたいな作品を書きたかった」と語っているようだが、なるほど、猟銃が出てくるは、美女が派手な犯罪を企むは、車の追っかけっこ(ただし、派手なカーチェイスではなく、高速道路のSAで休みながらの追跡劇だ)があるは、なかなかに派手な道具立てで、しかもすべてが日曜夜から月曜午前までのワンナイトの出来事というスピード感がいい。
冒頭、猟銃を持った美女が復讐のために結婚披露宴会場に乗り込むという、派手なシーンから読者を引き付ける。しかも、これが本作の本筋ではなくサイドストーリーだというところも心憎い構成だ。 メインストーリーは、何の罪もない妻と娘を殺された男が、まったく反省の色を見せない犯人たちに自力で報復しようとする、まあ、よくあるお話。裁判制度が十分に罪を償わせることができないとき、私刑(リンチ)は許されるのか? 重いテーマではあるが、本作ではこのテーマの追求より、登場人物たちの人物像、人間関係、追跡劇のアクションの方に重点が置かれているので、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。 宮部みゆきの初期作品の中では、傑作だ。超能力やエスパーに頼った作品ではないところが、個人的には気に入った。 |
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予告された連続殺人事件を防ぐのため、次の現場と目されるシティホテルに刑事がホテルマンに化けて潜入する・・・。果たして、犯人は予告通りの事件を起こすのか? はたまた、警察・ホテルは通常の営業を続けるホテルの中で、無事に犯罪を防止することが出来るのか?
はっきり言って、ミステリーとしては犯行の動機、手段などに?マークのところがいくつかあって、さほどの傑作とは思わない。しかし、「新参者」、「麒麟の翼」の流れの作品として読むと、なかなか良くできている。人と人が出会い、かかわり合って、別れて行く「ホテル」を舞台に選んだことが、人情ドラマとしての成功のカギになったといえるだろう。 本筋の犯人、動機の追求と、ホテルを利用する人が作り出すドラマとが並行して進行し、ときには「これは、ミステリーじゃないよな〜」と思うこともあったが、最後にはちゃんと見せ場が用意されているので、ミステリーファンにもオススメできる。 作品紹介には、新ヒーロー誕生と書いてあるが、どうだろう? あまりにも加賀恭一郎と重なるところが多いので(実際、主人公が加賀であってもまったく問題ない)、シリーズ化することがよいことかどうか、難しいところだと思う。 |
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カンヌ映画祭で監督賞を受賞した映画の公開に合わせて復刊されたという、クライムノベル。恵まれない環境で育った少年がロサンゼルスに出てきて、ドライヴ(運転)の才能を頼りに映画のスタント・ドライバーになり、その腕を見込まれて強盗たちの逃走車両の運転手を努めるようになる。で、当然のように仲間の裏切りで窮地に追い込まれ、復讐のために孤独な戦いに立ち上がる・・・。
約200ページというコンパクトな作品で、しかも派手なアクションシーンやカーチェイス、容赦ない殺人シーンがテンポ良く展開されるので、バイオレンス映画ファンには大いに受けるだろう。さらに、主人公のドライバー(最後まで本名を明かさず、この名前で通してしまう)は運転や復讐にはきわめてクールで機械的ながら、数少ない心を許し合う友人や恋人とは細やかな情を見せるところもある、なかなか魅力的なキャラクターに描かれているので、単なるバイオレンス映画としてだけではなく、一種の青春ロードムービー的な人気を得るのではないだろうか。 小説としても、読後感がすっきりした傑作だと言える。 |
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およそ半世紀も前の作品だけに評価がむずかしいが、松本清張のロマンチックな一面がよく現れたロマンチックミステリーの傑作といえる。
ストーリーの中心は、第二次世界大戦末期に欧州の病院で死亡したとされる外交官が生きているのではないか、日本に帰ってきているのではないかという謎を、当の外交官の娘の恋人である新聞記者が追求して行く話。そこに、真相判明を阻止しようとする謎の人物や組織が現れて、殺人や発砲事件にまで発展して行く・・・。この謎解きミステリーだけでも十分に面白いのだが、話のテーマとしてはむしろ、親子、家族の情愛の方に力点が置かれているように思われた。作品全体を通して、しみじみとした風景描写、日常生活への優しい視点が印象的で、ごりごりの社会派という松本清張のイメージを変えさせるような読後感を持った。 テーマ、ストーリーについては、現在の日本のミステリーのレベルから見るとやや物足りなさを感じるが、これはフェアな評価とは言えない。発表当時(1960〜61年)には、かなりのインパクトを与えただろう思われる。 |
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ジェームズ・ボンドといえばショーン・コネリーを思い浮かべるオールドファンにとって、セクハラ発言を咎められたり、政治的に正しい言葉遣いに気を配る007というのは、妙におかしみがあった。殺しのライセンスを持つ凄腕スパイといえども、21世紀にあっては社会的に正しくないとつまはじきにされるということだろうか(笑)
それはともかく、あの007がジェフリー・ディーヴァーで復活するとは想像もしなかっただけに、どういう仕上がりか、非常に興味深く読んだ。結論から言えば、やはり多少の違和感が拭いきれず、絶対的なオススメ作品ではなかったという評価になった。 なにしろ、論理と科学の権化のようなリンカーン・ライムから荒唐無稽の頂点みたいなジェームズ・ボンドへの飛躍なので、読む側(小生)が付いて行けなかったということでもある。なんの先入観もなく読めば、まずまず面白い現代スパイアクションであるのは間違いない。 スマートフォンとGPSが主役になったとはいえ、相変わらずのスパイガジェットのアイデアは秀逸。さらに、ジェフリー・ディーヴァーの本領を発揮したどんでん返しの連続など、読者を飽きさせないエンターテイメントと言える。 |
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強姦・強盗目的の17歳の少年に妻と娘を殺された男と、警察官である夫のDVから逃れるために息子を連れて家出した女が、妻に逃げられた工務店のオヤジと出会い、それそれが抱える問題に悩み、葛藤しながらそれぞれの過去を清算し、生き方を変えて行こうとする話。
少年犯罪の被害者と加害者、DV、生き甲斐がすれ違ってしまった中年夫婦の悲哀など、今の社会状況を反映した奥の深い問題を背景にした3つのストーリーが重複しながら展開される構造となっている。これらの問題は、ひとつずつが何度も小説の主題に取り上げられているものばかりで、問題が三重に絡まった本作はきわめて社会性の濃い内容となっている。作者は、これを良質なエンターテイメント(サスペンス小説)にして見せてくれる。 加害者が犯行時に18歳未満の少年だったことから7年で仮出獄になったことを知った被害者が、報復のために加害者を殺害しようとするストーリーは、殺されかけた加害者が逆に被害者に報復しようとするところから、がぜん面白くなる。また、執拗に妻の行方を追いかけるDV警官の夫が徐々に狂人となって行くところもサスペンスがあって面白い。 しかし、最後の最後、関係者が集合して一気に問題解決になだれ込むクライマックスシーンが、残念ながらちょっと弱い。社会正義を貫くにはこの方法が一番妥当だろうなという方法で話が終わるし、かなりご都合主義的な話の持って行き方が、そこまで続いてきたサスペンス性を弱めてしまった気がしてちょっと物足りなかった。作者は、こういうシーンがあまり得意ではないのかも知れない。 |
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北海道東部、人口6000人ほどの農村の駐在所に移動してきた川久保巡査部長が出会う、5つの事件を描いた連作集。駐在所の警官にとって本当に果たすべき任務とは何か? 警察と閉鎖的な地域社会とのもたれ合いやあつれきの中で苦悩する制服警官の厳しさが丁寧に描かれていて、読み応えのある短編集だ。
浅学非才につき、本書を読むまで知らなかったのだが、駐在所の制服警官には捜査権は与えられていない。そのため、所轄署から出張ってきた捜査官が見当違いの捜査をしていると感じても、川久保巡査部長はそれをただすことが出来ない。そこで、悪く解釈すれば、一種、意趣返しとも言えるような屈折した方法で正義を貫こうとする(特に、第一話「逸脱」ではほとんど犯罪といえるような手段がとられる)。これは、駐在さんに対して、さまざまにプレッシャーを掛けてくる地域社会に対しても同様で、従来の警察小説とは異なる問題解決手法になっている(「制服捜査」という書名の由縁)。このあたりを、どう考えるかで、本作に対する評価が異なってくるだろうが、個人的には(小説としては)面白いと思った。 「笑う警官」や「警官の血」とは異なるが、佐々木譲の警察小説の傑作であることは間違いない。 |
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桐野作品にしては軽めの仕上がりというか、読みやすいんだけど、その分だけ物足りないというか。もっと毒々しい展開を期待していました。
仕事には熱意が無く、ファッションと嫉妬に執着している開業医がレイプ犯で、その被害者達がネットを通じて集まり、協力して復讐するというお話。ストーリーも登場人物も、今の時代を反映していて、ちょっとご都合主義なところもあるが、まあ良くできていると思う。 犯人も被害者も、周囲の人々もみんな一癖も二癖もあるところは桐野夏生の得意分野で、まずまず面白いのだが、もう一段階深く追求していればなあという欲求不満が残った。 |
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北海道警察、大通警察署のはみだし?警官、佐伯、新宮、小島、津久井など、いつもの面々が警察の正義のために奮闘する、おなじみのシリーズの最新作。本作でも、犯罪捜査の過程で警察内部が絡む疑惑が判明し・・・・。
発端は、釧路、函館、小樽での死体発見。何の関係もないように見えた3つの事件が、ある一家の失踪とともにリンクされて、警察のS(エス、スパイ)が鍵の連続殺人という疑惑が発生し、佐伯たちの捜査の中で、ある密売人の存在が浮き上がってくる。ストーリーとしては、かなり面白いものだと思うが、エピソードの積み重ね、悪役のキャラクター設定の深さなどの点で、やや物足りない。いつもの佐々木譲の“コク”がない、あっさりし過ぎという印象だった。 その点で、シリーズものとして読めば7点、単独作品として読めば6点、と評価した。 |
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事件捜査が主役ではない警察小説を確立した横山秀夫の連作短編集。今回は、県庁所在地から遠く離れ、警察署と官舎、寮が同じ敷地に建つという三ツ鐘署を舞台に、交通課、鑑識係、少年係、会計課などの7人の職員の物語が収録されている。
元来が徹底した階級社会、ムラ社会の警察組織、しかも職場と住居が一体化されているとあって、三ツ鐘署の職員の人間関係はきわめて微妙なバランスの上に成り立っており、いつ、どこで破たんするか知れない危険性をはらんで展開されることになる。そんな中で生きる職員たちの組織人としての建前と個人としての本音の葛藤が、これでもかというほど繰り返され、かなり息苦しいエピソードが続くことになり。 しかし、一度落ち込んだり壊れたりした人間性、人間関係を立て直そうという姿勢がうかがえるエンディングが多いこともあり、読後感は「真相」などに比べて明るいものが多い。 7作品の中では、警官と泥棒、それぞれの老いと技術の継承を通して人間の業を描いた「引き継ぎ」が一番面白く、印象に残った。 |
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