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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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「点と線」のコンビ、三原警部補と鳥飼刑事が再登場する「アリバイ崩し」ミステリー。
最初から最後まで、犯人と捜査陣の知恵比べといえる。九州の古い神事や俳句の世界が舞台になっているが、あくまでも背景に過ぎず、松本清張らしい社会性も、さほど重点を置かれていない。 警察が容疑者を絞り込む理由が「一番犯人らしくなく、アリバイが完ぺき」という理由なのが納得しづらいが、アリバイの構成とアリバイ崩しのプロセスは読み応えがある。 |
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ミステリーとしては物足りないが、人肌の温もりがじわじわと伝わってくる、そう、まるでラジオドラマのような物語だ。
新興住宅地が増えてきた地方都市のコミュニティFM局を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマが、丁寧な描写と巧みな会話で展開され、読み進める内に読者はきっと登場人物の誰かに肩入れしたくなるだろう。 各章の扉には、その章の内容を暗示するポピュラー曲のタイトルがリストアップされており、曲と内容のつながりを推測するのも面白い。 |
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性同一性障害と友情をテーマにした「ミステリー展開」の問題提起小説。男である、女であるというのは、どこで判断するのか? 人間には男と女以外は存在しないのか? などなど、人間存在の根源を問い掛けるテーマを読みやすいミステリー仕立にして完成させたところは、さすがに東野圭吾だと思った。
ただ、殺人犯をかくまって警察の裏をかこうとする「捜査ものミステリー」として読むと、かなり物足りなさを感じたのも事実である。 |
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2011年のMWA賞とCWA賞をあの「解錠師」と分け合ったという、トム・フランクリンの出世作。静かで深い、叙情派ミステリーである。
ミシシッピーの片田舎で育った白人のラリーと黒人のサイラスはローティーンの頃、奇妙な縁に導かれて友達となるが、互いの性格や生来の性質の違いから疎遠になっていく。さらに16歳のとき、ラリーは隣の家の少女が行方不明になった事件の犯人と疑われ、25年後の現在も、町の人々はラリーを犯人視していた。一方のサイラスは有望視されていた野球選手としては挫折し、町の治安官となって戻ってきたが、ラリーとの付き合いは途絶えたままだった。ある日、町の有力者の19歳の娘が行方不明になり、住民は再びラリーに疑いの目を向ける。捜査にかかわっていたサイラスは、ラリーからの留守電への伝言を無視していたが、ラリーが何者かに銃撃される事態になってしまった。物語は現時点での捜査と並行して、ラリーとサイラス、それぞれの少年時代の回顧をはさみながら進行し、やがて25年の時間を超えた全体像が明らかになる。 一見、連続殺人、猟奇殺人ミステリーに見えるがスリルやサスペンスとは無縁で、謎解きの面白さも大したレベルではない。しかし、主役の二人はもちろん、周りの人物も陰影が深い背景を持っており、良心や罪と罰についてしみじみと考えさせられる良作である。 文庫の解説にある通り、「解錠師」にはまった人にはオススメだし、ジョン・ハート、トマス・H・クックなどの愛読者ならきっと気に入るだろう。 |
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スウェーデンの女性弁護士・レベッカシリーズの第3作。前2作で心身に深い傷を負ったレベッカは弁護士を辞めてしまい、故郷キールナで特別検事に任命されるのだが、本作でも弁護士としての知識を活用して活躍するので、弁護士・レベッカシリーズの一冊ではある。
精神科病棟での長い闘病を終え再出発を果たしたとはいえ、まだ自分に自信をもてないでいるレベッカだが、キールナの凍った湖で起きた、地元の国際的大企業の女性広報部長殺害事件の捜査に検察局の一員としてかかわることになる。前2作でもお馴染の地元警察のアンナ=マリア、スヴェン=エリックの両警部が証拠集めや聞き込みを進め、レベッカは専門の金融知識を駆使して企業の実態や関連する人物の経済状態を調べ上げていく。すると、大成功を納めているはずの大企業には隠しておきたいことがあった・・・。 事件が起きたのはスウェーデンでも片田舎のキールナだが、殺害の背景にはグローバル企業による熾烈な経済戦争、アフリカの政治的混乱とそれに伴う資源争奪戦があり、話の舞台装置は前2作とは異なり、国際謀略小説の趣を示す。しかし、ストーリーの骨格を成すのは企業経営陣の古くからの人間関係であり、レベッカの精神の病からの復活の苦闘である。その意味では、前2作と変わるところはない。 本作は、ヒロイン・レベッカを始め、地元警察官、隣人、上司などのシリーズキャラクターがますます味わいを増し、安定してきたのは評価できるが、事件関係者の過去の物語、レベッカの狂気の世界などの書き方にやや違和感を感じた。特に、国際謀略小説的な舞台の派手さと登場人物の重過ぎる内省的態度がアンバランスな印象で、前作ほどには物語に入り込むことが出来なかった。 |
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1950~70年代に活躍した英国本格ミステリー作家の1966年の作品。犯人と動機は最初に提示され、読者は捜査官と一緒に犯行の態様を解明していくという、典型的な倒叙型のミステリー作品だ。
ノルウェーでの休暇を楽しんでいたプレイボーイのアラン・ハントは、ホテルで出会った20歳のグウェンダをたぶらかし関係を持った翌日に、デタラメの住所を教えてイギリスに帰国する。イギリスで交際中の金持ちの娘スーザンとの結婚の準備を進めていたアランの前に、住まいを探し出したグウェンダが現れ、妊娠していることを告げる。スーザンとの破談の可能性にあわてたアランは、グウェンダを丸め込むとともに、彼女を排除する邪悪な計画を進めようとする。そして、アランが犯罪に関与していることを示唆する匿名の手紙を受け取った地元警察は、グウェンダの行方を追うとともに、アランの身辺の捜査に乗り出すことになる。 アランに対する容疑を深めながらも決定的な証拠をつかみきれない捜査陣と一緒に、犯行の動機が分かっている読者も、作品の前半に埋め込まれた伏線を頼りに犯行の実態を探るミステリーツアーに導かれることになる。狡猾な犯人は、いかにして犯行を隠し通すのか? 半世紀近く前の作品だけに、「道徳心や良心といったものが完全に欠落していた」という犯人も、想像を絶するような犯罪者に出会ってきた現代の読者には「凶悪」なイメージは無く、どこか牧歌的な印象を受けることだろう。犯罪者のキャラクターや捜査陣の人間模様より、純粋な謎解きの面白さが本作の最大のポイントであり、英国本格ミステリーが好きな読者にはおススメだ。 |
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企業広報誌編集者・杉村三郎シリーズの第2作。前作があまり面白くなかったので期待していなかったが、いい意味で期待が裏切られた。
今回、杉村が巻き込まれるのは、自分の編集部のアルバイト女性の常軌を逸した嫌がらせと、通り魔的な連続毒殺事件。経歴詐称の疑いがあり、仕事が出来ず、協調性がないために辞めさせた女性からの執拗な会社に対する嫌がらせの対処を任された杉村は、対処方法を模索している内に、毒殺事件の被害者親族と知り合い、持ち前の人の好さから犯人探しの「探偵ごっこ」を請け合うことになる。もとより警官でもなく、何の捜査権もない杉村だけに犯人探しはもたもたするが、それでも警察とは違った視点から犯人に到達する。一方、バイト女性の嫌がらせはエスカレートする一方で、警察に指名手配される身になりながらも杉村個人に対する攻撃を止めようとしない。人が好いだけが取り柄の杉村は、狂気の刃から愛する家族を守ることができるのだろうか? どちらの事件も、その背景には常識では解釈できない、「人間の毒」とでも言うしかない邪悪さが隠されていた。そうした邪悪に、人は、社会は対抗できるのだろうか? 解決のためのヒントとして、杉村は「毒に名前を与えること」によって実体化し、抑制できるのではないかと語っている。 ミステリーとしては「甘い」部分が多く、スリルやサスペンスとは無縁だが、誰もがどこかで巻き込まれてしまうかも知れない「人間の毒」の不気味さを描いており、優れた社会派作品としてオススメしたい。 |
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中学受験を控えた子供たちの夏合宿のために湖畔の別荘に集まった、並木俊介・美奈子夫妻を含む4組の家族と塾講師のもとに、若い女性が訪ねてきた。ところが、彼女は並木俊介の部下で愛人だった。その晩、彼女と会うための時間を無理矢理捻出した俊介だったが、結局会うことが出来ず別荘に戻ってみると、自分たち夫婦の部屋には殴殺された愛人の姿があった。驚愕する俊介に、美奈子は「あたしが殺したのよ」と呟いた。警察に連絡しようとした俊介だったが、子供や家庭への悪影響を心配する他の2組の夫婦に説得される形で犯行を隠蔽することになる。果たして、彼らは殺人事件を無かったことにすることが出きるのだろうか?
子供が受験生仲間というだけの4組の夫婦が、子供のためとは言え、殺人事件を隠蔽するという設定が、まずはあり得ない。と思うのだが、さすがは東野圭吾、読み進める内に「そういうこともあるかも」と渋々納得させられてしまう。前半は隠蔽工作のあれこれのサスペンスが中心だが、後半では事件の真相に疑問を持った俊介が真犯人を探すというミステリーが中心となり、読者の意表を突く犯人と動機が明らかになる。 非常に緻密な構成で、全体を通してフーダニット、ワイダニットのミステリーにふさわしい緊張感がありながらとても読みやすく、幅広くオススメできる作品だ。 |
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「野蛮なやつら」の三人、が主役だが、今回は彼ら三人の家族史と南カリフォルニアのヒッピーから現代に至る反体制的気質および大麻から始まる麻薬戦争の歴史が絡む、40年の物語になっている。
ベンとチョンが運営している大麻製造販売組織が商売敵から妨害を受け、反撃に出たところ、麻薬取締機関をも巻き込んだ、組織の存亡をかけたトラブルにまで発展してしまう。ストーリーのメインはベンとチョンによる戦いだが、その背景にはベン、チョン、Oの家族の歴史が隠されていた。 ヒッピー文化に陰りが見え始めた1960年代後半からの40年、南カリフォルニアでは、反体制の象徴だった大麻はLSD、コカインへと変化し、それを扱う者もヒッピー崩れやサーファーから犯罪集団、メキシコのカルテルと組んだ国際麻薬密売組織へと変化して行く。その過程で、かつてのヒッピーやサーファーがどのような変貌をとげてベン、チョン、Oにつながって行くのかが読みどころ。ボビーZ、フランキー・マシーンなど、ウィンズロウの他の作品の登場人物が友情出演で顔を見せるのも、ウィンズロウ・ファンには楽しめるポイントだろう。 |
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某有名作家の別名フィリップ・カーターのデビュー作。その作家名は公表されていないが、ロバート・ラドラムとの共通点を指摘する声(ラドラムは2001年に死亡しているため、ありえない話だが)も多いそうだが、さもありなんという疾走感あふれるアクション小説だ。
サンフランシスコでホームレスの老女が殺害された事件。その一年半前にテキサスで、ある男が死んだこと。1937年シベリアの強制収容所からの男女の脱走。一見、何の関係もなさそうな三つの出来事が、殺害されたホームレスの孫娘・ゾーイを軸にして縒り合され、アメリカからヨーロッパを縦断してシベリアに至る壮絶な追撃戦が展開されることになる。その中心となるのが「骨の祭壇」で、ゾーイは殺された祖母からの手紙で「骨の祭壇の守り人」に指名されていた。「骨の祭壇」とは、何か? どこに存在するのか? 何も分からないまま「骨の祭壇」を探し始めたゾーイに、ロシアンマフィア、元KGB、謎の富豪などさまざまな背景を持つ殺し屋が、次々と襲ってくる。果たしてゾーイは無事に「骨の祭壇」の謎を解き、在り処を発見できるのか? ゾーイと、彼女を助ける元特殊部隊員・ライの獅子奮迅の働きによって、シベリアの少数民族が守り続けてきた秘密が明らかにされるだけでなく、現代アメリカ史の謎になっているケネディ大統領暗殺、マリリン・モンロー死亡の真相までもが明らかにされる。まあ、はっきり言って非常に出来が良いB級アクション作品で、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーとかで映画にすれば受けそうな感じがした。 気になる作家の正体だが、ダン・ブラウン、スティーブン・キングなどの超大物の名も取りざたされているという。読後の直感に従えば、ジェットコースター的な展開はジェフリー・ディーヴァーかと思うし、ヒロインの気性の起伏の激しさを考えるとデニス・ルヘインも候補に挙げておきたい気がする。 銃撃戦やカーチェイスがお好きな方におススメする。 |
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東野圭吾の初期長編。文庫の解説によれば「謎解き、犯人探しの意外性だけではない、別のタイプの意外性」を追求した作品だという。
ある地方の大手電機会社の社長・瓜生直明が死亡し、後継に瓜生家とはライバル関係にある須貝家の総帥・須貝正清が就任したが、ジョギング途中に殺されるという事件が発生した。しかも、殺害に使われたのは、瓜生直明がコレクションしていたボウガンと毒矢だった。ボウガンを入手できる可能性がある人物は限られている。捜査陣の一人として関わっている和倉勇作は、前社長の長男・瓜生晃彦が犯人ではないかと疑いながら捜査を進める。実は、勇作と晃彦の少年時代には浅からぬ因縁があった。 謎解きミステリーの本筋は殺人事件の犯人探しだが、解説にもある通り、作者の狙いは勇作と晃彦の関係の意外性、秘められた謎の解明に力点が置かれている。子供の頃からお互いに意識し合ってきた二人が、刑事と容疑者として対峙したとき、そこにはどんなドラマが生まれるのか? 謎解きの面白さを追求した本格ミステリーとしても合格点の内容だが、それ以上に人間関係の妙味で読ませていく。二人に深く関係する晃彦の妻・美佐子との関係性などに若さ故の深みの無さを感じるが、ヒューマンドラマとしてもぎりぎり合格点だろう。最後の一行を読み終えてから序章を再読したとき、さまざまな伏線が周到に張り巡らされていることに気づかされ、現在大きく花開いている東野圭吾の才能のほとばしりを見た気がした。 |
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作者は、ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズを引き継いでいる実力派作家とのこと。そういわれれば、現代風のソフトなハードボイルドの雰囲気が似ているかな? しかし、本作の舞台はスペンサーが活躍するボストンやニューイングランドではなく、ディープサウスのミシシッピー州の片田舎ということで、全体にウェスタンっぽい活劇調に仕上がっている。
主人公・クウィンは、陸軍レンジャー部隊の現役で、田舎町の保安官だった伯父の葬儀のために故郷に帰った来たが、伯父は自殺だったと聞かされる。さらに、残された伯父の地所は借金の片として奪われようとしていた。この話に納得がいかないクウィンは真相を探り始めるが、世間の繁栄から取り残された南部の田舎町は狭い人間関係と欲望の網にとらわれ、善悪が入り乱れた複雑な様相を呈していた。 ミステリーというには謎解きの要素は少なく、ハードボイルドというには主人公が純粋過ぎる感じで、このあたりはスペンサー・シリーズに通じるところがある。武装してコンビニに立てこもった悪人グループに、主人公や保安官、街の住人たちが銃を取って立ち向かうクライマックスは、ウェスタンそのもの。全体を通して「帯に短かし襷に長し」な印象を拭えなかった。 |
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「クリスティと人気を競った英国本格派」で、1930〜50年代に71作もの長編を書いた人気作家とのことだが、まったく初めて目にする作家名、作品名だった。本作は、ロラックの主要作品である「マクドナルド首席警部シリーズ」の一冊で、本邦初訳とのこと。
事件は、マクドナルド警部が自分の車にメフィストフェレスの衣装をまとった男の死体が乗せられているのを発見するという、派手な幕開け。しかし、その後の捜査は、地道な聞き込みと鋭敏な推理力で複雑な人間関係の謎を解いて行く、英国本格派ミステリーの王道のような展開で、さまざまな伏線が張り巡らされた(もちろん、あとから気付くのだが)エピソードも続出して、ミステリー好きの興味をかき立てる。 冷静沈着でありながら、鋭い観察力で相手の心理を読んで行くマクドナルド首席警部は、間違いなくイギリスの警察小説の伝統を築いた一人だろう。派手なアクションより、地道な推理を楽しみたい方にオススメだ。 |
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ジェフリー・ディーヴァーの初短編集。16作品、580ページほどの分厚い文庫本だが、とにかく楽しめる作品ぞろいで一気読みしてしまった。
もちろん、長編作品のようなお得意の「ジェットコースター」的な展開はないが、どの作品をとっても「捻り」が効いていて、読者を驚かせよう、喜ばせようという作者の熱意がひしひしと感じられる。読者はきっとクリスマスの朝、お菓子がいっぱいに詰まっている長靴を見つけた子供の気持ちになれるだろう。 |
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あの傑作「解錠師」のスティーヴ・ハミルトンのデビュー作。「私立探偵になりたくなかった私立探偵」シリーズとして、現在までに10冊が刊行されている(日本語訳は1~3作が既刊)らしいが、日本では2000年に出版され一度絶版になっていたものが、「解錠師」のヒットを受けて新版として再登場したといういわくつきの作品だ。
「私立探偵になりたくなかった私立探偵」アレックスは、元デトロイト市警の警官だが現在は、カナダ国境に近いミシガン湖畔の静かな町で父親が残した狩猟用貸ロッジの管理人として生計を立てている独り者。ロッジ管理人で十分に満足しているのだが、知り合いの弁護士に頼み込まれ、しぶしぶ探偵仕事を引き受けたことから、連続殺人事件に巻き込まれることになる。 アレックスには、14年前、警官時代に拳銃で襲われた時の銃弾がひとつ、摘出されないまま心臓のそばに残っているという体の傷とともに、襲撃され、相棒が殺害された現場で血の海を見たときの恐怖がトラウマとなって残っていた。そんなアレックスをあざ笑うかのように、州刑務所で服役中のはずの襲撃犯・ローズから「自分が連続殺人に関係している」という不気味な電話や手紙が届き始める。果たして、ローズは脱獄したのか? あるいは誰かがローズに成り替わっているのか? 「服役中の犯人からの脅迫」というのは、これまで何度か目にしたパターンで、スティーヴ・ハミルトンはどういうトリック(仕掛け)で驚かせてくれるのか興味津々だったが、予想を裏切る展開で最後まで謎を明かさずに引っ張ってくれた。 メインのストーリー、登場人物のキャラクター、謎解きの面白さ、情景描写の巧さなど、どれをとっても合格点で、デビュー作とは思えない上手さを感じる作品だが、ぜいたくを言えば“整いすぎている”感が否めない。多少の破たんはあっても、もっとインパクトがある方が好ましい。そこが、3作目までで翻訳がストップしている理由かなと思った。 ハードボイルド、サスペンスより抒情重視の読者におススメかな? |
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酒とギャンブルで身を持ち崩し、退職の瀬戸際に追い込まれた刑事が企んだ、起死回生の秘策とは?
ロンドンの高級住宅地で一人暮らしの大富豪の男性が行方不明になった。捜査を担当することになったベルシー刑事は、豪邸内の食料や酒をいただくばかりでなく、誰もいないのをいいことに寝泊まりし始め、さらには現金やキャッシュカードを使い、家財道具を売り払うことまでするようになった! これだけでもとんでもない悪党だが、さらに富豪に巨額の隠し財産があるらしいことを発見し、財産と身分を乗っ取って海外に逃亡しようと企てる。 いや〜、とんでもない悪徳警官がいたものだが、このベルシー刑事はなぜか自分の身の安全より事件のなぞの解明に心を奪われるようで、財産乗っ取り&海外逃亡計画と並行して、富豪の行方不明の追求にも身を入れ、とうとう自分の命まで狙われるようになる。果たして、ベルシーは富豪に生まれ変わって、大金とともに無事に海外逃亡できるのか? まずなにより、刑事でありながら犯罪者という、主人公の設定が面白いし、キャラクターの設定も上手だと思う。さらに、富豪の行方不明に絡む謎解きもしっかりした構成で、ミステリーとしての完成度も高く、これがデビュー作という作者の力量に感心した。 それでも評価を「7」にしたのは、文庫本で600ページという長さがマイナス。これが400〜450ページぐらいなら、もっと緊迫感のある作品になっていただろうと思うと、ちょっと残念。 それと、これは作者には関係ないことだが、表紙のイラストが「フロスト警部」シリーズと同じイラストレーター、同じタッチなのが、非常に残念。「早川さん、これは無いよ!!」 |
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コペンハーゲンの女性刑事ルイース・リック登場。デンマークでは人気を博しているシリーズで、本作はシリーズ第2作に当たるが、日本語では初お目見えとなった(英訳されているのも、第2作、3作のみ)。
出会い系サイトで知り合った男とデートした女性が激しい暴力を受け、瀕死の状態で発見された。事件を担当することになった殺人捜査課の刑事・ルイースは、心を開こうとしない被害者、少ない物証に苦労しながら捜査を進めるが、捜査が進展しないうちに第二の事件が発生してしまう。警察は事態の拡大に苦慮しながら、サイバー空間での捜査と現実社会での捜査を重ね合わせて、地道に犯人を追いつめていく。そして判明した犯人とは・・・。 犯罪捜査だけに限れば、まあありきたりな部分が多く、さほど目新しくもないし、スリルに満ちているわけでもない。しかし、それでも読ませるのは、30代後半、独身(パートナーあり)、刑事としてはタフでクールでカッコいいが、私生活ではさまざまな悩みを抱えているルイースの私生活が丁寧に描かれているからと言える。最近の北欧ミステリー・ブームは目覚ましく、新たなヒーロー、ヒロインが続々と紹介され日本でも人気を呼んでいるが、本作のヒロインもまた人気を呼ぶことだろう。 シリーズ2作目ということで前作のエピソードにちょっと触れられたりしているが、前作を読んでいないと分からないという部分はまったく無いので、ご安心を。 |
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死神を主人公にした作品6編で構成された連作短編集。それぞれ独立した作品として成立しているが、ある作品の登場人物やエピソードが、あとの作品でストーリーのポイントになっていたりするので、最初から順番に読むことをおススメする。
主人公の死神は、ある人が死を迎えるべきか否かを判断する重要な役割でありながら、たいていの場合は死を迎えるのが「可」と結論付けるし、その判断基準もきわめてあいまいで個人的で、「生と死を分ける」にしては緩いキャラクターといえる。半面、生きることにも死ぬことにも執着しない、ある意味ピュアな性格で、その言動は巧まずして人間社会の矛盾やあいまいさ、いい加減さをあぶりだしてゆく。死神とかかわりを深めるにつれて、判定を下される側の人間の本質がだんだん露わにされ、読者は普遍的な人間性について考えさせられるようになってくる。ミステリーというよりは、明るい人情話と言った方が妥当だろう。 死神は、情報部からのデータを頼りに判断対象に接触する“調査部員”という身分だった! あるいは「ミュージック=音楽」が大好きで、CDショップに入り浸っては試聴機のヘッドホンを装着している、あるいは人間界に来るときには様々な年齢や外見に自由自在に変身できる、あるいは死神が人間に素手で触ると、たちどころに人間は意識を失い、寿命が一年縮まる、などなど。読み進めるほどに死神の謎がどんどん明かされていくのが、なんとも面白かった。 |
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トラベルミステリーの古典というか、時刻表トリックの傑作として名高い「点と線」。東京タワーも新幹線も夢のまた夢だった、半世紀以上前に書かれた作品だが、今読み返しても十分に楽しめた。
本作のポイントは、時刻表を使ったアリバイ作りと警察によるアリバイ崩しのプロセスで、鉄道のダイアグラム図上のトリックと、捜査陣の頭上の謎解きのどちらが勝つか? 事件解明のための伏線やヒントも丁寧に書かれていて読者も謎解きに参加できる楽しさがあった。ただ、時刻表トリックに力を入れ過ぎており、犯罪の実行や動機に関する部分はちょっと物足りなさを感じたのも正直なところ。これはおそらく旅行雑誌「旅」での連載であったことが大きな影響を及ぼしたのだろう。 事件の背景が中央官庁と業者の癒着というところが社会派・松本清張らしさで、事件関係者の行動心理の分析の鋭さは、まさに面目躍如と言える。 |
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