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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 541~560 28/31ページ

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No.77:
(7pt)

老いてますます頑固に

ご存知、リーバス警部シリーズの第16作。2005年、G8サミットが開催されたエジンバラでの出来事を濃密に描いた、大型警察小説である。
G8に反対する大規模なデモで騒然とするエジンバラで、連続殺人と思われる事件が発生した。ひたすらG8の成功を願う警察上層部は、事件が大きな話題になるのを避けようとするが、老刑事・リーバスには、それが我慢できなかった。同僚・シボーンの協力を得て、上司に盾突きながら捜査を押し進めていくリーバスの前には、宿敵のギャング・カファティ、ロンドンの公安の責任者、防衛産業の大物などが立ちふさがる。
本作の読みどころは、定年まであと一年になったリーバスの磨きがかかった頑固さだろうか。政治的、社会的な権力からの圧力に屈することなく、ありとあらゆる知恵を使って捜査妨害をはねのけていく。それは、「犯人を逃がさない」という刑事としての使命感であり、そのために家族や自分の生活を犠牲にしてきた歴史を無価値にしないためでもある。
事件の真相を明らかにしてからのリーバスの孤独と執念深さに、一匹狼の美学とペーソスがよく表れていた。また、シボーンの両親が登場し、彼女の家族関係や家族観が明らかになるのも、新しい面白さだった。
シリーズ愛読者にはもちろん、警察小説ファンにもオススメ。
死者の名を読み上げよ〔ハヤカワ・ミステリ1834〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
イアン・ランキン死者の名を読み上げよ についてのレビュー
No.76:
(7pt)

やや重たいサイコミステリー

「夏を殺す少女」で日本デビューしたアンドレアス・グルーバーが、「夏を〜」以前に書いていた保険調査専門探偵ホガート・シリーズの第一作。シリーズはすでに第2作が発表されており、全3部作で計画されているという。
ウイーンの探偵ホガートが依頼されたのは、プラハの美術館に貸出した絵画が焼失した事件と、それを調査するためにプラハに派遣され、「焼失した絵画は偽物だ」という連絡をよこした後に行方不明になった保険会社調査員を探し出すこと。プラハでの調査を開始したホガートは、行方不明の調査員の足取りを追う中で、地元の女性探偵イヴォナと出会い、彼女が調査している猟奇連続殺人事件に関わることになる。
物語は途中から、保険会社からの依頼はそっちのけで連続殺人の捜査が中心になり、「あれ?」と思っているうちに意外な形で両者がつながり、一応の辻褄はあってくるのだが、やや強引な感じがするのは否めない。この点を始め、全体的に粗削りな印象を与えるが、古いモノクロ映画を偏愛する主人公のキャラクター設定が成功して、読み応えは十分。猟奇殺人のサイコパスが主題になっていることに加えて、「(プラハの中心を流れる)ヴルタヴァ川の霧の中では夢と現実の境界はあいまいになる」といわれるプラハの街も重要な役割を果たしている、やや重い印象のホラー風味サイコミステリーである。
黒のクイーン (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー黒のクイーン についてのレビュー
No.75:
(7pt)

南国の甘さをまとったハードボイルド

佐々木譲が1986年に発表した初期のハードボイルド作品。円熟期を迎える前の甘さが感じられるといえば大作家には失礼かもしれないが、ロマンチックな要素が強いハードボイルドである。
台風が接近する那覇に到着した主人公・泰三は、執拗な追手から逃れるために小さくて目立たないホテルに投宿し、那覇からの脱出の手段を模索する。ところが、ホテルの専務・順子は10年前、泰三が真剣に惚れながら挨拶もなしに別れざるを得なかった相手だった。嵐の那覇で再会した二人は、それぞれの10年の歴史を背負いながら交差し、海外脱出への道を突っ走る。
非合法組織から逃げる泰三を主人公にしたマンハントが本筋のサスペンスという作品の位置付けだが、私には、順子を愛しながら捨てざるを得なかった泰三の自分を締め上げるような生き方を中心に据えたハードボイルド作品と読めた。泰三を追う組織、泰三が追われる理由などがはっきり書かれていないことも、作者がサスペンスを重視していないことの現れだと思う。
台風に直撃された那覇の二日間に凝縮された、二人の人生。南国の花の甘さが香るハードボイルドである。
夜を急ぐ者よ (ポプラ文庫)
佐々木譲夜を急ぐ者よ についてのレビュー
No.74:
(7pt)

マッカーシーファンにオススメ

現代アメリカ文学の巨匠・マッカーシーが書き下ろした映画脚本。リドリー・スコット監督、主演がマイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルスという豪華な陣容で映画化された(日本でも公開済み。未見)が、評判はいまいちだったようだ。
濡れ手に粟の金もうけのためたった一度のつもりで麻薬密輸に関わった弁護士が、ある手違いが生じたために麻薬マフィアの報復を受けるハメになり、凄絶な暴力の世界に巻き込まれてしまう・・・。物語の始まりこそ穏やかで美しいが、中盤からは一気に、正義や倫理など無縁の暴力が連続し、いつも通りのマッカーシーの世界が繰り広げられる。そして最後に微笑むのは・・・。
本作はあくまで脚本であって、小説ではない。つまり、セリフとト書きだけで構成されており、心理描写は省かれている。したがって、映像的なイメージはありありと思い浮かべられるが、行間を読み込む楽しみは欠けている。この点が、小説好きには物足りないだろう。
悪の法則
コーマック・マッカーシー悪の法則 についてのレビュー
No.73:
(7pt)

尻すぼみの“罪と罰”

冷酷な父親に「この世界を不幸にする存在」、「邪」の家系を継ぐ者として育てられた少年は、愛する者を守るために父親の殺害を決意する・・・。数年後、大人になった少年は再び、愛する人のために、自分を捨てて行動を開始する。「愛する人のために殺人を犯すことは罪なのか?」という大きなテーマの意欲作である。
13歳の少年による父親殺害計画、大人になってからの整形手術による変身と愛する人を守るための連続殺人など、物語の基本構成とストーリー展開は非常に面白いのだが、終盤になってから尻すぼみの感があった。思うに、主人公の「邪」のスケールが小さいことと、本筋に絡んでくるテロ組織に現実感も恐怖感も感じないことが、尻すぼみの原因だろう。主人公の前に立ちふさがる老刑事、主人公をサポートする探偵など、魅力的なキャラクターが登場しているだけに、主人公の心理の振れ幅のスケールアップにもうひと踏ん張りして欲しかった。
悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)
中村文則悪と仮面のルール についてのレビュー
No.72:
(7pt)

良くも悪くも、桐野ワールド

「OUT」、「柔らかな頬」以降、2005年までに書かれた短編集。どれも、一筋縄ではいかない女性たちが登場し、黒々とした毒が充満した、その後の桐野ワールドを想像させる。
好き嫌いがはっきり別れそうな作品集である。
アンボス・ムンドス―ふたつの世界 (文春文庫)
桐野夏生アンボス・ムンドス についてのレビュー
No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

もうちょっと読ませて欲しい

アメリカでノアール小説への貢献ということで受賞した、中村文則の2作品のひとつ。中村文則という作家は知らなかったのだが、ノアール小説好きとしては見逃す訳にはいかず、手に取ってみた。読後感を一言でいえば、「え、もう終わり?」というところ。テーマ、ストーリー、キャラクター、いずれも文句無く面白いのだが、エンターテイメントとしては短か過ぎる。少なくとも倍以上のボリュウムで書き込んでもらいたかった。
掏摸(すり)のテクニックは詳細で緊迫感のある描写で読ませるが、ストーリーの肉付けが薄いのが物足りない。主人公の生い立ち、別れた女、重要な役割を担う少年との関わり、主人公が強制される犯罪の背景など、エンターテイメントとして膨らませていける要素がいっぱいあるだけに、残念な気がした。
掏摸
中村文則掏摸 についてのレビュー
No.70:
(7pt)

美を巡る悲劇

愛情の無い家庭で育児放棄された状態で育ちながら、鋭敏な美意識だけは発達させてきた美青年と、子供の時に母親が殺された現場に居合わせるという悲惨な経験がトラウマになっている美少女が、偶然の出会いから付き合い始め、やがては悲劇的な結末を迎える・・・。心理サスペンスの巨匠・レンデルの真骨頂ともいうべき、日常に潜む怖さと不気味さを感じさせる作品だ。
美を求める心が過剰であったときに生み出される悲劇は、三島由紀夫の「金閣寺」でも描かれたが、本作品では美の対象が人間であるだけにじわじわと迫ってくる恐怖感に圧倒された。
心地よい眺め (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ルース・レンデル心地よい眺め についてのレビュー
No.69:
(7pt)

ミステリーというより、物語

デンマーク人作家のデビュー作だが、舞台はアイルランド。自分が漠然と持っているアイルランドの雰囲気が生かされた、幻想的でミステリアスな物語だった。
ダブリン近郊の小さな町の郵便配達員が配達先の家で死体を発見し、さらに同じ家に2体の女性の死体があったことからストーリーが始まる。3人はその家の主の女性と姪にあたる姉妹で、現場の状況から、家の主が姉妹を監禁していて最後に殺し合った結果だと思われた。なぜ、家族同士で殺し合うようなことになったのか? 警察は動機を解明できなかったが、同じ郵便局に勤めるオタク青年・ナイルが監禁されて殺された姉・フィオナの日記を手に入れたことから、3人を襲った悲劇の全貌が明らかになっていく・・・。
全体の構成は事件の動機を解明していく“ワイダニット”だが、作品の主眼は捜査プロセスではなく、複雑怪奇な動機に置かれている。サイコスリラーとファンタジーが入り交じったとでも言えばいいのか、物語性を楽しむ作品である。
狼の王子 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
クリスチャン・モルク狼の王子 についてのレビュー
No.68: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ダンスに意外な強敵、現れる


▼以下、ネタバレ感想
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シャドウ・ストーカー
No.67:
(7pt)

アリバイ崩し極北?

「点と線」のコンビ、三原警部補と鳥飼刑事が再登場する「アリバイ崩し」ミステリー。
最初から最後まで、犯人と捜査陣の知恵比べといえる。九州の古い神事や俳句の世界が舞台になっているが、あくまでも背景に過ぎず、松本清張らしい社会性も、さほど重点を置かれていない。
警察が容疑者を絞り込む理由が「一番犯人らしくなく、アリバイが完ぺき」という理由なのが納得しづらいが、アリバイの構成とアリバイ崩しのプロセスは読み応えがある。
時間の習俗 (新潮文庫)
松本清張時間の習俗 についてのレビュー
No.66:
(7pt)

いいなぁ〜、「ラジオ愛」

ミステリーとしては物足りないが、人肌の温もりがじわじわと伝わってくる、そう、まるでラジオドラマのような物語だ。
新興住宅地が増えてきた地方都市のコミュニティFM局を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマが、丁寧な描写と巧みな会話で展開され、読み進める内に読者はきっと登場人物の誰かに肩入れしたくなるだろう。
各章の扉には、その章の内容を暗示するポピュラー曲のタイトルがリストアップされており、曲と内容のつながりを推測するのも面白い。
丘の上の赤い屋根
青井夏海丘の上の赤い屋根 についてのレビュー
No.65:
(7pt)

男と女と人間と

性同一性障害と友情をテーマにした「ミステリー展開」の問題提起小説。男である、女であるというのは、どこで判断するのか? 人間には男と女以外は存在しないのか? などなど、人間存在の根源を問い掛けるテーマを読みやすいミステリー仕立にして完成させたところは、さすがに東野圭吾だと思った。
ただ、殺人犯をかくまって警察の裏をかこうとする「捜査ものミステリー」として読むと、かなり物足りなさを感じたのも事実である。
片想い (文春文庫)
東野圭吾片想い についてのレビュー
No.64: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

逃げた男、逃げられなかった男

2011年のMWA賞とCWA賞をあの「解錠師」と分け合ったという、トム・フランクリンの出世作。静かで深い、叙情派ミステリーである。
ミシシッピーの片田舎で育った白人のラリーと黒人のサイラスはローティーンの頃、奇妙な縁に導かれて友達となるが、互いの性格や生来の性質の違いから疎遠になっていく。さらに16歳のとき、ラリーは隣の家の少女が行方不明になった事件の犯人と疑われ、25年後の現在も、町の人々はラリーを犯人視していた。一方のサイラスは有望視されていた野球選手としては挫折し、町の治安官となって戻ってきたが、ラリーとの付き合いは途絶えたままだった。ある日、町の有力者の19歳の娘が行方不明になり、住民は再びラリーに疑いの目を向ける。捜査にかかわっていたサイラスは、ラリーからの留守電への伝言を無視していたが、ラリーが何者かに銃撃される事態になってしまった。物語は現時点での捜査と並行して、ラリーとサイラス、それぞれの少年時代の回顧をはさみながら進行し、やがて25年の時間を超えた全体像が明らかになる。
一見、連続殺人、猟奇殺人ミステリーに見えるがスリルやサスペンスとは無縁で、謎解きの面白さも大したレベルではない。しかし、主役の二人はもちろん、周りの人物も陰影が深い背景を持っており、良心や罪と罰についてしみじみと考えさせられる良作である。
文庫の解説にある通り、「解錠師」にはまった人にはオススメだし、ジョン・ハート、トマス・H・クックなどの愛読者ならきっと気に入るだろう。
ねじれた文字、ねじれた路
No.63: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舞台装置は派手になったけど・・

スウェーデンの女性弁護士・レベッカシリーズの第3作。前2作で心身に深い傷を負ったレベッカは弁護士を辞めてしまい、故郷キールナで特別検事に任命されるのだが、本作でも弁護士としての知識を活用して活躍するので、弁護士・レベッカシリーズの一冊ではある。
精神科病棟での長い闘病を終え再出発を果たしたとはいえ、まだ自分に自信をもてないでいるレベッカだが、キールナの凍った湖で起きた、地元の国際的大企業の女性広報部長殺害事件の捜査に検察局の一員としてかかわることになる。前2作でもお馴染の地元警察のアンナ=マリア、スヴェン=エリックの両警部が証拠集めや聞き込みを進め、レベッカは専門の金融知識を駆使して企業の実態や関連する人物の経済状態を調べ上げていく。すると、大成功を納めているはずの大企業には隠しておきたいことがあった・・・。
事件が起きたのはスウェーデンでも片田舎のキールナだが、殺害の背景にはグローバル企業による熾烈な経済戦争、アフリカの政治的混乱とそれに伴う資源争奪戦があり、話の舞台装置は前2作とは異なり、国際謀略小説の趣を示す。しかし、ストーリーの骨格を成すのは企業経営陣の古くからの人間関係であり、レベッカの精神の病からの復活の苦闘である。その意味では、前2作と変わるところはない。
本作は、ヒロイン・レベッカを始め、地元警察官、隣人、上司などのシリーズキャラクターがますます味わいを増し、安定してきたのは評価できるが、事件関係者の過去の物語、レベッカの狂気の世界などの書き方にやや違和感を感じた。特に、国際謀略小説的な舞台の派手さと登場人物の重過ぎる内省的態度がアンバランスな印象で、前作ほどには物語に入り込むことが出来なかった。
黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)
オーサ・ラーソン黒い氷 についてのレビュー
No.62: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

懐かしいテイストの本格ミステリー

1950~70年代に活躍した英国本格ミステリー作家の1966年の作品。犯人と動機は最初に提示され、読者は捜査官と一緒に犯行の態様を解明していくという、典型的な倒叙型のミステリー作品だ。
ノルウェーでの休暇を楽しんでいたプレイボーイのアラン・ハントは、ホテルで出会った20歳のグウェンダをたぶらかし関係を持った翌日に、デタラメの住所を教えてイギリスに帰国する。イギリスで交際中の金持ちの娘スーザンとの結婚の準備を進めていたアランの前に、住まいを探し出したグウェンダが現れ、妊娠していることを告げる。スーザンとの破談の可能性にあわてたアランは、グウェンダを丸め込むとともに、彼女を排除する邪悪な計画を進めようとする。そして、アランが犯罪に関与していることを示唆する匿名の手紙を受け取った地元警察は、グウェンダの行方を追うとともに、アランの身辺の捜査に乗り出すことになる。
アランに対する容疑を深めながらも決定的な証拠をつかみきれない捜査陣と一緒に、犯行の動機が分かっている読者も、作品の前半に埋め込まれた伏線を頼りに犯行の実態を探るミステリーツアーに導かれることになる。狡猾な犯人は、いかにして犯行を隠し通すのか?
半世紀近く前の作品だけに、「道徳心や良心といったものが完全に欠落していた」という犯人も、想像を絶するような犯罪者に出会ってきた現代の読者には「凶悪」なイメージは無く、どこか牧歌的な印象を受けることだろう。犯罪者のキャラクターや捜査陣の人間模様より、純粋な謎解きの面白さが本作の最大のポイントであり、英国本格ミステリーが好きな読者にはおススメだ。
殺人者の湿地 (論創海外ミステリ)
アンドリュウ・ガーヴ殺人者の湿地 についてのレビュー
No.61: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

婿殿、人間の毒を解毒する

企業広報誌編集者・杉村三郎シリーズの第2作。前作があまり面白くなかったので期待していなかったが、いい意味で期待が裏切られた。
今回、杉村が巻き込まれるのは、自分の編集部のアルバイト女性の常軌を逸した嫌がらせと、通り魔的な連続毒殺事件。経歴詐称の疑いがあり、仕事が出来ず、協調性がないために辞めさせた女性からの執拗な会社に対する嫌がらせの対処を任された杉村は、対処方法を模索している内に、毒殺事件の被害者親族と知り合い、持ち前の人の好さから犯人探しの「探偵ごっこ」を請け合うことになる。もとより警官でもなく、何の捜査権もない杉村だけに犯人探しはもたもたするが、それでも警察とは違った視点から犯人に到達する。一方、バイト女性の嫌がらせはエスカレートする一方で、警察に指名手配される身になりながらも杉村個人に対する攻撃を止めようとしない。人が好いだけが取り柄の杉村は、狂気の刃から愛する家族を守ることができるのだろうか?
どちらの事件も、その背景には常識では解釈できない、「人間の毒」とでも言うしかない邪悪さが隠されていた。そうした邪悪に、人は、社会は対抗できるのだろうか? 解決のためのヒントとして、杉村は「毒に名前を与えること」によって実体化し、抑制できるのではないかと語っている。
ミステリーとしては「甘い」部分が多く、スリルやサスペンスとは無縁だが、誰もがどこかで巻き込まれてしまうかも知れない「人間の毒」の不気味さを描いており、優れた社会派作品としてオススメしたい。
名もなき毒 (文春文庫)
宮部みゆき名もなき毒 についてのレビュー
No.60: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ありそうで、なさそうなお話

中学受験を控えた子供たちの夏合宿のために湖畔の別荘に集まった、並木俊介・美奈子夫妻を含む4組の家族と塾講師のもとに、若い女性が訪ねてきた。ところが、彼女は並木俊介の部下で愛人だった。その晩、彼女と会うための時間を無理矢理捻出した俊介だったが、結局会うことが出来ず別荘に戻ってみると、自分たち夫婦の部屋には殴殺された愛人の姿があった。驚愕する俊介に、美奈子は「あたしが殺したのよ」と呟いた。警察に連絡しようとした俊介だったが、子供や家庭への悪影響を心配する他の2組の夫婦に説得される形で犯行を隠蔽することになる。果たして、彼らは殺人事件を無かったことにすることが出きるのだろうか?
子供が受験生仲間というだけの4組の夫婦が、子供のためとは言え、殺人事件を隠蔽するという設定が、まずはあり得ない。と思うのだが、さすがは東野圭吾、読み進める内に「そういうこともあるかも」と渋々納得させられてしまう。前半は隠蔽工作のあれこれのサスペンスが中心だが、後半では事件の真相に疑問を持った俊介が真犯人を探すというミステリーが中心となり、読者の意表を突く犯人と動機が明らかになる。
非常に緻密な構成で、全体を通してフーダニット、ワイダニットのミステリーにふさわしい緊張感がありながらとても読みやすく、幅広くオススメできる作品だ。
レイクサイド (文春文庫)
東野圭吾レイクサイド についてのレビュー
No.59: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

南カリフォルニア40年史

「野蛮なやつら」の三人、が主役だが、今回は彼ら三人の家族史と南カリフォルニアのヒッピーから現代に至る反体制的気質および大麻から始まる麻薬戦争の歴史が絡む、40年の物語になっている。
ベンとチョンが運営している大麻製造販売組織が商売敵から妨害を受け、反撃に出たところ、麻薬取締機関をも巻き込んだ、組織の存亡をかけたトラブルにまで発展してしまう。ストーリーのメインはベンとチョンによる戦いだが、その背景にはベン、チョン、Oの家族の歴史が隠されていた。
ヒッピー文化に陰りが見え始めた1960年代後半からの40年、南カリフォルニアでは、反体制の象徴だった大麻はLSD、コカインへと変化し、それを扱う者もヒッピー崩れやサーファーから犯罪集団、メキシコのカルテルと組んだ国際麻薬密売組織へと変化して行く。その過程で、かつてのヒッピーやサーファーがどのような変貌をとげてベン、チョン、Oにつながって行くのかが読みどころ。ボビーZ、フランキー・マシーンなど、ウィンズロウの他の作品の登場人物が友情出演で顔を見せるのも、ウィンズロウ・ファンには楽しめるポイントだろう。
キング・オブ・クール (角川文庫)
No.58: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ド派手でスピーディーなサスペンス・アクション

某有名作家の別名フィリップ・カーターのデビュー作。その作家名は公表されていないが、ロバート・ラドラムとの共通点を指摘する声(ラドラムは2001年に死亡しているため、ありえない話だが)も多いそうだが、さもありなんという疾走感あふれるアクション小説だ。
サンフランシスコでホームレスの老女が殺害された事件。その一年半前にテキサスで、ある男が死んだこと。1937年シベリアの強制収容所からの男女の脱走。一見、何の関係もなさそうな三つの出来事が、殺害されたホームレスの孫娘・ゾーイを軸にして縒り合され、アメリカからヨーロッパを縦断してシベリアに至る壮絶な追撃戦が展開されることになる。その中心となるのが「骨の祭壇」で、ゾーイは殺された祖母からの手紙で「骨の祭壇の守り人」に指名されていた。「骨の祭壇」とは、何か? どこに存在するのか?
何も分からないまま「骨の祭壇」を探し始めたゾーイに、ロシアンマフィア、元KGB、謎の富豪などさまざまな背景を持つ殺し屋が、次々と襲ってくる。果たしてゾーイは無事に「骨の祭壇」の謎を解き、在り処を発見できるのか?
ゾーイと、彼女を助ける元特殊部隊員・ライの獅子奮迅の働きによって、シベリアの少数民族が守り続けてきた秘密が明らかにされるだけでなく、現代アメリカ史の謎になっているケネディ大統領暗殺、マリリン・モンロー死亡の真相までもが明らかにされる。まあ、はっきり言って非常に出来が良いB級アクション作品で、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーとかで映画にすれば受けそうな感じがした。
気になる作家の正体だが、ダン・ブラウン、スティーブン・キングなどの超大物の名も取りざたされているという。読後の直感に従えば、ジェットコースター的な展開はジェフリー・ディーヴァーかと思うし、ヒロインの気性の起伏の激しさを考えるとデニス・ルヘインも候補に挙げておきたい気がする。
銃撃戦やカーチェイスがお好きな方におススメする。
骨の祭壇(上) (新潮文庫)
フィリップ・カーター骨の祭壇 についてのレビュー