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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 481~500 25/31ページ

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No.137:
(7pt)

どんでん返しに驚くけど

イギリスの新進女性作家サマンサ・ヘイズの本邦初登場作品。その作風が「リアル・ライフ・フィクション」と呼ばれているように、何気ない日常から生まれる悲劇をサスペンスフルに描いた、じわじわと恐くなるサイコミステリーである。
裕福な海軍士官の夫と双子の義理の男の子と暮らすクローディアは、もうすぐ生まれる予定の女の子の誕生を前にベビーシッターを募集した。応募してきた33歳のゾーイは、たちまち双子を手なずけ、夫も気にいったこともあり、すぐに雇うことにした。万事に有能で信頼できそうなゾーイだったが、クローディアは彼女は何かを隠しているという気がしてならなかった。果たして、この不安は出産を間近に控えて神経質になっているからなのか? その頃、妊婦が惨殺され、お腹の胎児が取り出されるという残忍な事件が発生し、警部補のロレインは夫であるアダム警部補と共に捜査を担当することになった。
物語は、クローディア、ゾーイ、ロレインの3人の視点から展開され、それぞれが抱える生きづらさがストーリーにさまざまな影を落とし、複雑に絡み合って行く。妊婦殺害事件も恐ろしいのだが、それ以上に恐いのが同じ屋根の下に信頼できない人物がいることで、話が進むほどに心理的サスペンスが高まり、最後のどんでん返しで恐さはピークに達する。
ストーリーを詳しく説明するわけにはいかないのだが、サスペンスの盛り上げ方は一級品。どんでん返しに納得できない点もあるのだが、読み応えはある。サイコ・ミステリーファンにはオススメだ。
ユー・アー・マイン (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サマンサ・ヘイズユー・アー・マイン についてのレビュー
No.136:
(7pt)

元気なジジイとひ弱な中年男

村上龍の新作長編小説は、ぶち壊したいんだけど壊せない社会への苛立ちをぶちまけた、戦闘的パラノイア小説である。
50代の落ちぶれた元雑誌記者セキグチは、よく分からない理由からテロの現場に立ち会わされ、記事を書くことになった。なぜ自分がテロ現場に立ち会わされるのかを探り出そうとしたセキグチは、70代、80代の老人ばかりの謎のテロリスト集団と関わり、恐るべき彼らの目的を知る。日本に壊滅的な打撃を与えるテロの企てを知ったいま、自分はどう行動すれば良いのか、元々精神的に弱っていたセキグチは、果てしない苦悩のスパイラルを落下して行く・・・。
今の社会に不満を抱き、日本をもう一度廃墟にしようという老人たちにシンパシーを感じながらも、自分が存在している社会を破壊する行為には加担できないと悩むセキグチ。正直者ではあるが、小説のヒーローとしては物足りない。読後感に消化不良が残る小説だが、ストーリー展開は面白い。
オールド・テロリスト
村上龍オールド・テロリスト についてのレビュー
No.135:
(7pt)
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泥沼を歩かされるような・・・

「法人類学者デイヴィッド・ハンター」シリーズ(どれも未読なのだが)で人気のイギリス人作家サイモン・ベケットのノン・シリーズ作品。死体の状態から犯罪の実装を解明する科学ミステリーとは真逆の、登場人物の疑心暗鬼が中心になる心理サスペンスである。
フランスの片田舎でヒッチハイクをしていた英国人ショーンは、パトカーを避けるために入り込んだ農場で動物用の罠にかかって気を失ってしまう。気がついたときには農場の納屋の屋根裏に寝かされ、農場の娘マティルドに看病されていた。傷が癒えるまで世話になるつもりだったショーンだが、農場の手伝いを頼み込まれ、自身に行く当てもなかったため、この農場で働くことになる。頑固者の農場主アルノー、父無し子を抱えるマティルド、その妹グレートヒェンの4人が暮らす農場は地域社会とは絶縁し、対立していた。ショーンにはアルノー、マティルド、グレートヒェンのそれぞれに秘密があり、何かが隠されている気がして仕方がなかった。しかも、ショーン自身があることから逃げるためにフランスに来た逃亡者だった。
農場で秘密を探る本筋と、ショーンの事件の回顧の話とが交互に展開されるのだが、どちらもなかなか真相が明らかにされず、読んでいる間は泥沼を歩かされているような重苦しさがある。そのもどかしさを楽しめるかどうかで、本作の評価は異なってくるだろう。
出口のない農場
サイモン・ベケット出口のない農場 についてのレビュー
No.134:
(7pt)

信じること、支えることの難しさ(非ミステリー)

「重要登場人物の正体は誰か?」という疑問を追い掛ける物語だが、小説のテーマは謎解きより心の揺れに置かれているため、ミステリーとは言い難い作品である。
8年前に夫を亡くしてから二匹の猫と一人暮らしを続けている鏡子は、軽井沢の隣町の個人文学記念館を一人で切り盛りし、判で押したような平凡な日々を送っていたが、精神的な不調が悪化し、近くのクリニックの精神科を受診した。担当した非常勤医の高橋医師の穏やかで丁寧な対応に心を癒され、回復した鏡子は、徐々に高橋医師との関係を深め、毎週水曜と土曜の夜は一緒に過ごすのが習慣になっていた。ところが、半年ほど経った水曜日、高橋医師が訪れることは無く、連絡も取れなくなってしまった。焦燥感にかられた鏡子は、高橋医師が勤務している横浜の病院を訪ねるのだが・・・。
59歳の女性が心を寄せた55歳の男は、実は高橋医師ではなかった? 信じていた男に裏切られた鏡子は激怒しながらその正体を暴こうとするのだが、そこで知った真実はあまりにも切なくてほろ苦かった。「ニセ医者」が本当の医者より親身になって患者を救うというのは、ままありがちな話だが、本作は精神科医という設定によって、非常に奥行きのある心理劇に仕上がっている。ミステリー風味を効かせたロマンス小説としてオススメだ。
モンローが死んだ日 (新潮文庫)
小池真理子モンローが死んだ日 についてのレビュー
No.133:
(7pt)

妬みと恨みと欲望と

「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第一作。今やドイツミステリーの女王と称されるノイハウスが自費出版し、評判を聞きつけた老舗出版社が版権を取得したというエピソード付き、ノイハウスの実質的なデビュー作である。
フランクフルト郊外の農村で、鬼検事と呼ばれる上級検事が猟銃自殺した。同じ日、飛び降り自殺に偽装された女性の遺体が発見された。女性は獣医師の妻で、乗馬クラブで働いており、死因は動物の安楽死用の薬物注射だった。オリヴァー率いる捜査班が女性の周辺の聞き込み捜査を始めると、出てくるのは彼女の悪評ばかりだった。彼女の死を望んでいた容疑者の多さに戸惑い、捜査方針を絞り込めなかった捜査陣だったが、地道な聞き込みにより、事件と検事の自殺とのつながりを見つけ、地元の有力企業を巻き込んだスキャンダルを暴くことになる。
デビュー作だけに、すでに邦訳されたシリーズの3、4作「深い疵」、「白雪姫には死んでもらう」に比べると若干、未完成な部分を感じるが、それでも十分に読み応えがある。ドイツ、北欧系ミステリーのファンには、自信を持ってオススメできる。
悪女は自殺しない (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス悪女は自殺しない についてのレビュー
No.132: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

猫のスプラッターコメディ

ドイツ・ミステリ大賞を受賞したという、トルコ系ドイツ人作家による「猫ミステリー」。猫が探偵役を務めるミステリーだが、扱うのが人間の犯罪ではなく、猫の連続殺人(殺猫)という異色作。ドイツを始め各国で大ヒットし、続編もベストセラーになったという。
ミステリー愛好家であることはもちろん猫好きでもあるので「これは必読」と読み始めたのだが、最初から猫殺しシーンの続出で、しかも描写がどぎついので、ちょっと辟易した。我慢して読み進めると、独特のユーモアがあるし、鋭い社会批評もあり、最後はかなり考えさせられる作品だった。
猫の愛らしさを溺愛する人には残酷過ぎてオススメできないが、そこさえ我慢できる人には、良質なミステリーとしてオススメできる。
猫たちの聖夜 (ハヤカワ文庫NV)
アキフ・ピリンチ猫たちの聖夜 についてのレビュー
No.131:
(7pt)

時事ネタも盛り込んで(非ミステリー)

息長く続いているIWGPシリーズの第11弾。20代後半になっても相変わらず地元愛一筋のマコトとタカシとGボーイズたちの、ちょっぴりくたびれだした青春ストーリーだが、さすがに石田衣良の看板作品だけあった退屈はさせない。
収録の4作品は、脱法ドラッグ、パチンコ中毒、胡散臭いネットビジネス、ヘイトデモと、いずれも時代を象徴するようなテーマばかり。どこか上っ面で偏狭で不寛容な世の中に対し、愚直な生活人の視点を失わず、しかし時代の流れに上手に乗っかって世直しに励む「街の不良たち」の物語である。
テレビドラマを見るのと同じ感覚で楽しい時間が過ごせること請け合い。深刻な社会派はちょっと勘弁、という人にオススメだ。
憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI (文春文庫)
No.130:
(7pt)

ボストンの小悪党たちの欲望と哀しみ

ぐっと読み応えがある長編が多いルヘインには珍しく、ポケミスで188ページの軽めの作品である。「訳者あとがき」によると、当初は短編集の一作として発表されたものが映画化されることになり、ルヘイン自身が脚本を担当、さらに長編小説として書き直されたという。映画のノベライズであると同時にオリジナル作品でもあるという、珍しいケースと言える。
舞台は、ルヘインお得意のボストンの下町。労働者が集まる小さなバー「カズン・マーブ」はマーブとマーブの従兄弟でバーテンダーのボブが切り盛りしているのだが、実際はチェチェン・マフィアに乗っ取られた店で、マフィアの裏金の中継所としても使われていた。ある日ボブは、仕事帰りにゴミ箱に捨てられていた子犬を拾った。そこに居合わせたナディアが動物愛護団体で働いていた経験があったことから、口をきくようになり、ボブが子犬を飼うことになった。内気で劣等感に苛まれていたボブは、ナディアと子犬の登場で新しい日々が始まる予感を感じたのだったが。
猥雑な街を肩をすぼめて歩くボブの周りは、一筋縄ではいかない小悪党ばかり。あまり知恵があるとは思えない強盗計画が実行に移され、そこから生じたさまざまな波紋と軋轢がボブにも降り掛かって来た。そこで見せたボブの意外な行動とその結末は・・・。
短めの作品とはいえ、ノワールの巨匠・ルヘインの魅力が十二分に発揮された傑作。オススメです。
ザ・ドロップ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
デニス・ルヘインザ・ドロップ についてのレビュー
No.129:
(7pt)

スーパーヒーロー好きにオススメ

米国では人気だという「ジャック・リーチャー」シリーズの第17作。これまで日本では6作品が翻訳されているというが、今回、初めて読んだ。
ネブラスカの夜の高速道路入口でジャック・リーチャーがヒッチハイクに成功した車には男女三人が乗っていたが、どうも様子がおかしかった。男二人は仲間同士だが話に矛盾することが多いし、後部座席にいる女は終始無言で、何かにおびえているように見えた。やがて、男二人は殺人犯で女は人質らしいことが判明する。リーチャーは女性を解放して自分も逃げようとするが失敗し、しかも殺人事件の最重要容疑者としてFBIに追われることになる。
窮地に陥ったリーチャーだが、得意の説得力でFBI女性捜査官を味方につけて、逃亡しながら捜査を続け、やがてCIAやFBIをも巻き込んだテロ組織に直面し、ランボーも顔負けの大活劇を繰り広げて問題を解決する。
FBIやCIAが登場するのだが捜査能力がお粗末で、ちょっとマンガチックな展開もあって読み応えは無い。ただストーリーは面白く、すいすい読めるので、スーパーヒーローものでスカッとしたい方にはオススメできる。
最重要容疑者(下) (講談社文庫)
リー・チャイルド最重要容疑者 についてのレビュー
No.128: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

“奇妙な後味”がクセになる

短編の名手スタンリィ・エリンの1948年のデビュー作から1955年までの間に発表された10編を収めた、最初の短編集の新装文庫版。収録作品のどれもが、60年以上の年月を感じさせない、傑作ぞろいである。
表題作の「特別料理」をはじめ、作品の多くが最後の最後、あと一歩のところで説明を終わらせているのが“奇妙な後味”になっていて、読むほどにクセになる作家だと言える。
作者エリンはこれまで、ロアルド・ダールを筆頭とする「奇妙な味」の系列で捉えられていたが、あくまでも人間の不可解で不条理な心理に基盤を置いて物語が展開されている点から、読後感は本書の「解説」で言及されているようにフェルディナント・フォン・シーラッハの作品に近い気がした。
短編好きの方、不条理ミステリー好きの方にはオススメです。
特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫 36-6)
スタンリイ・エリン特別料理 についてのレビュー
No.127: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ツイストは効いているけど

ディーヴァーが新しいヒーローを誕生させたノンシリーズ作品。ボディーガードのプロ対誘拐と拷問のプロの対決を描いた、サスペンスアクションである。
主人公コルティは連邦機関「戦略警護部」に所属する人身保護のプロ。対するのは、人間の弱みを突いてターゲットを追い詰める冷酷非情のハンターであるラヴィング。ラヴィングは、コルティの師匠を罠にかけて殺した因縁の敵でもある。この二人が、警護対象であるワシントンD.C.の刑事の一家を巡って壮絶な戦いを繰り広げることになる。
襲撃する者と守る者が、お互いに「裏の裏」を読みながら手に汗を握る追跡ゲームが展開されるのと同時に、刑事一家が狙われるのはなぜか、黒幕は誰なのかが、徐々に明らかにされるという、アクション部分とミステリー部分の両方が盛り込まれた欲張りな構成である。さらに、ディーヴァーお得意のどんでん返しが、これでもかと言わんばかりに出て来て、読み通すのに気力と体力の両方が必要だった。派手さはあるが、リンカーン・ライムシリーズほどの味わい深さを感じなかったのが残念。
主人公がボディーガードのプロだけに素材はいくらでも見つけられるので、評判が良ければシリーズ化されそうな作品だが、どうなるだろうか。
限界点
ジェフリー・ディーヴァー限界点 についてのレビュー
No.126: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

アイディアが秀逸!

第12回「このミス」大賞の受賞作。「一千兆円の身代金」という、目を引くタイトルが中味をすべて表している通り、意表をつくアイディアが光る作品である。
政治家の家系の男児を誘拐し、日本政府に一千兆円という法外な身代金を要求してきた犯人、その真の狙いはどこにあるのか? 次世代のことを考慮せず、財政赤字という当座凌ぎの借金を膨らませ続ける旧世代に対する犯人の怒りは、多くの国民の共感を得るが、誘拐は凶悪犯罪であり、警察は全力を挙げて事件解決をめざして奮闘する。人質の少年は、無事に解放されるのだろうか?
犯人側、被害者側、捜査側と視点を交替させながらのストーリー展開もスムーズで、登場人部のキャラクターも巧く設定されている。突き抜けた面白さは無いものの、デビュー作としては非常に高く評価出来る。文句なしにオススメです。

一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
八木圭一一千兆円の身代金 についてのレビュー
No.125:
(7pt)

ロマンの部分が邪魔をして・・・

逢坂剛の大人気歴史冒険小説イベリアシリーズの第二作。
ドイツとイギリスの戦いがこう着状態に落ち入っていた1941年、スペインが枢軸側で参戦するのか、日米戦争が始まるのかが、戦況を大きく変える契機として世界中で注目されていた。日本の情報員・北都昭平は日米戦争を回避させるために情報作戦を行っていたが、前作「イベリアの雷鳴」で知り合った英国の諜報員・ヴァージニアとお互いに引かれ合うようになってきた。対ドイツ戦を勝ち抜くために、何が何でも米国を引き込みたい英国は、日米が戦争を開始せざるを得ないようにするために諜報戦を仕掛けており、昭平とヴァージニアの立場は完全に相反するものとなっていた。お互いに相手の立場、自分の任務を理解しながらも、どうしようもなく引かれ合う二人は・・・。
作品紹介に「エスピオナージ・ロマン」とある通り、主人公と英国諜報部員との「許されざる恋」が表面に押し出されて来た分だけ、スパイ小説としての魅力は前作より劣ると言わざるを得ない。それでも、オススメ出来る大型エンターテイメント作品であることは間違いない。
遠ざかる祖国〈上〉 (講談社文庫)
逢坂剛遠ざかる祖国 についてのレビュー
No.124:
(7pt)

人と人のつながりを考える(非ミステリー)

根津で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ完結編。
やりたい仕事が見つかり、将来に希望を持ち始めたいた二人は、平穏な日々を楽しんでいた。ずっとこんな日が続くと信じていたのに、あの大震災を機に二人はそれぞれの道を見つけなければいけなくなった。
過去と向き合い、新しい道を生き抜こうとするけなげな二人の決心にエールを送りたくなる、ハートウォーミングなホームドラマである。
いちばん長い夜に (新潮文庫)
乃南アサいちばん長い夜に についてのレビュー
No.123: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ただ生き抜くだけ(非ミステリー)

乃南アサのこれまでの作品とは全く違う、北海道移住の女性の一生を描いた、非ミステリー作品である。
「おしん」か、それ以上の苦難の歴史を丹念に描き、「人の一生とは何か」を問いかけてくる。主人公の母の「お国の言うことなんか信じるんじゃ無い」という言葉が胸に迫ってくる。
地のはてから(上) (講談社文庫)
乃南アサ地のはてから についてのレビュー
No.122: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人=正義の味方?

忘れられていたフランス・ミステリーの古典(1958年作)の本邦初訳。フランスでは映画化やテレビドラマ化され、人気があった作品とのこと。最初から犯人が分かっているので謎解きミステリーではない。かといって、検察と弁護側の丁々発止のやり取りがある法廷劇でもない。一言で言えば、風刺ミステリーである。
フランスの地方都市で薬局を営むグレゴワールは、ふとしたことから、街の女性たちから鼻つまみ者にされていた奔放な若い女性ローラを殺害してしまった。警察は、ローラのボーイフレンドでよそ者のアランを殺人容疑で逮捕し、街の人々が死刑を要求して沸き上がるなかで裁判が始まり、「アランが有罪になれば、正義が行われないことになる」と苦悩するグレゴワールは、アランの無罪を実現するために知恵を絞ることになる。ところが、グレゴワールが陪審員に選ばれることになってしまった。
自分の罪を告白すること無くアランの無罪を証明するという難問に挑むグレゴワールの悪戦苦闘が、ブラックなユーモアに包まれて描かれ、人間の愚かさ、おかしさ、社会共同体の頑迷さが強烈に風刺されている。不気味な同調圧力が高まる現在の日本社会を考える時、なかなか示唆に富む作品と言える。
七人目の陪審員 (論創海外ミステリ)
フランシス・ディドロ七人目の陪審員 についてのレビュー
No.121:
(7pt)

じわじわと来る面白さ(非ミステリー)

これまで名前も聞いたことが無い作家だし、ネットでの評判もあまりないのでどうかと思っていたのだが、読み進める内にじわじわと面白くなってきた。
イギリスの田舎町で起きた複数の同時爆発事故により、65人が死亡、多数の負傷者が出た。そのとき、事故に巻き込まれた人々は何をしていたのだろうか? 
事故発生の1分前から1秒刻みのカウントダウンで、犠牲者一人一人が持っていたドラマを濃密に描写して行く手法が極めてユニークかつ効果的。ミステリーではないものの、エンターテイメントとして良く出来ており、多くの人にオススメしたい。
最後の1分
エレナー・アップデール最後の1分 についてのレビュー
No.120:
(7pt)

M.I.クラスのド派手アクション

ハリウッドで映画化すれば絶対受けそうな、ド派手なアクションのエンタメ作品。物語の始まりから終わりまでが24時間ほどに凝縮されており、息つく暇も無いほどのスピード感が味わえる。
ニューヨーク市の地方検事ジャックがある朝、目覚めると、胸には銃創を乱暴に縫った痕があり、左腕には見たことも無い文字らしき刺青があるのを発見する。何も思い出すことが出来ず戸惑うジャックだが、さらに朝刊に自分と愛する妻が昨夜、事故で死亡したという記事を見つけて驚愕する。自分は生きているのに、どういうことだろう? やがておぼろげながらよみがえってきた記憶を辿ってみると・・・。
失われた記憶を再生しながら、行方が分からなくなった妻を捜してニューヨークを走り回るジャックのノンストップアクションが面白い。非情に徹した凄腕の悪役、自分の身を投げうって助けてくれる相棒、敵にも味方にも見える上司や権力者などなど、脇役も充実していて全く飽きさせない。事件の背景や真相がどうのこうのより、奇想天外でスピーディーなアクションの連続にハラハラしているうちにクライマックスを迎えて、「あー、面白かった」とページを閉じるのが正しい楽しみ方だろう。
夜明け前の死 (新潮文庫)
リチャード・ドイッチ夜明け前の死 についてのレビュー
No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シリーズ物を途中から読むのはつらい

ノルウェーでは大人気の女性作家アンネ・ホルトの代表作「ハンネ・ヴィルヘルムセン」シリーズの第7作。「何で、7作目から?」と思ったら、これまで90年代後半に1〜3作が翻訳・出版されており(残念ながら未読)、今回、15年ぶりに邦訳されたとのこと。つまり、シリーズ物でありながら、最初の作品紹介からはかなりの時間が経過し、しかも4〜6作目は翻訳されていないのだ。このあたりの事情もあって、登場人物のキャラクターに入り込むことが出来ず、どうにも中途半端な読後感だった。
クリスマスを控えたオスロの高級住宅街で資産家の夫婦とその長男、出版コンサルタントの4人が射殺された。資産家の一家には財産分与を巡る諍いがあり、家族間のもめ事ではないかという捜査方針で捜査が進められた。しかし、出版コンサルタントの存在が気にかかるハンネは全く違う方向から事件を解明しようとし、他の捜査陣とぶつかることになる・・・。
ストーリーは殺人事件捜査を中心に展開されるのだが、物語の重点の半分はハンネの生き方に置かれており、これまでのバックグラウンドが分かっていないので、面白さが半減してしまった印象だったのが残念。これから読まれる方には、ぜひ1〜3作を読んでおくことをオススメする。
凍える街 (創元推理文庫)
アンネ・ホルト凍える街 についてのレビュー
No.118: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

評価が二分されるのも納得

今や日本でも人気作家となったシーラッハの「コリーニ事件」に続く長編第二作。2013年に発表されたとき、ドイツでは評価が二分されたという。
没落した名家の御曹司ゼバスティアンは写真芸術家として成功し、活躍していたが、若い女性を誘拐したとして逮捕され、起訴された。弁護を頼まれた辣腕弁護士ビーグラーは、ゼバスティアンの自供は取調官の脅迫によるものだとして自供の有効性を争うことにした。果たして、ゼバスティアンは有罪か、無罪か。
ゼバスティアンの複雑な生い立ち、不可解な犯行の様態に、冷静沈着な弁護士ビーグラーも苦心惨憺。それでも、じわじわと事件の真相に迫り、最後は無罪を勝ち取るのだが、最後の最後までゼバスティアンの動機には不明な部分が残されていた。
ミステリーとしては致命的な欠陥があると感じるのだが、「真実とは何か」を問う物語としては非常に味わい深く面白かった。確かに、評価が難しい作品である。
禁忌