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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数608

全608件 441~460 23/31ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.168:
(7pt)

初々しくて、エロチックで(非ミステリー)

著者の初めての短編集。軽くて読みやすい恋愛小説10編が収められている。
どれも一工夫があり、読後感は悪くない。電車や飛行機の待ち時間、移動中などに読むのに最適だ。
スローグッドバイ (集英社文庫)
石田衣良スローグッドバイ についてのレビュー
No.167:
(7pt)

ついに完結

逢坂剛のライフワークであるイベリアシリーズの完結編。ほぼ16年の歳月をかけて書き継いで来た、7作品、約4000ページもの大河ドラマのクライマックスである。
本作の舞台はドイツの敗戦後から北都昭平の日本への帰還まで、1945年7月から46年4月までである。日本の敗戦がほぼ確実となり、スペインが日本と断交したこともあってやることがなくなり、精神的にも挫折した北都だったが、愛するヴァジニアが英国情報部から裏切りを疑われ、しかも英国内で行方不明になったことで気力を取り戻し、ヴァジニアを救出するために単身、英国に潜入することにした。
拉致されていたヴァジニアを発見し、二人で国外脱出をはかるのだが、最後の土壇場でヴァジニアは英国にとどまって情報部の疑惑を解くことになり、北都はアメリカ情報部によってスペインに送られ、日本に強制帰還させられることになる。
前6作品のような情報戦の面白さは無く、敗戦国のスパイの心情のドラマに力点が置かれている。その点で、歴史ミステリーという本シリーズの魅力が十分に発揮されているとは言えないのが残念。しかし、大河ドラマの完結編としてのパワーは十分に持っている。
シリーズ読者は必読。シリーズ未読の方は1作目から読むことをオススメしたい。
さらばスペインの日日
逢坂剛さらばスペインの日日 についてのレビュー
No.166:
(7pt)

軽めの人情ものとミステリー

1993年から95年にかけて発表された7作品を収めた短編集。軽く読める作品ばかりだが、それぞれのテーマや構成に創意工夫があり読者を飽きさせない佳作ぞろいである。
7作品中、3作品でいじめがテーマになっているのは、時代性を象徴しているが、他の作品も現代の都会では誰でも遭遇する可能性があるような出来事で、そこから問題点を発見し、物語を紡いでいく作者の上手さにはいつもながら感心するしか無い。
宮部みゆきファンはもちろん、軽めのミステリー、人情ものファンに安心してオススメできる。
人質カノン (文春文庫)
宮部みゆき人質カノン についてのレビュー
No.165: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

アニメ風というか

東野圭吾がデビュー30周年を迎えて「新しい小説に挑戦した」というふれこみだが、ちょっと期待外れ。
温泉地で硫化水素による死者が出たことから調査を依頼された青江教授は、疑問を抱きながらも事故死だろうと結論づけた。しかし、さほどの時間を置かず、別の温泉地でも同様の事故が起き、調査に赴いた青江は、前の事故現場でも見かけた謎の少女に遭遇する。羽原円華と名乗るその少女は、何かを探しているようだった。
一方、最初の事故の被害者の母親から「息子は嫁に殺された」という告発を受けた中岡刑事は、調査を始めて事件の匂いを感じるようになり、ヒントを求めて青江に接触した。
二つの事故が事件としてつながったとき、その背景には想像を絶する悲劇が隠されていた。
本格ミステリーを期待して読むと裏切られるけど、物語の構成やストーリー展開はよくできていて、それなりに楽しめる。
ラプラスの魔女 (角川文庫)
東野圭吾ラプラスの魔女 についてのレビュー
No.164: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

東野圭吾の意外な一面(非ミステリー)

ブラックユーモア・シリーズの第3弾。お得意の文壇ものから童話のアレンジまで、バラエティに富んだ13作品を収録した短編集である。
なかでは、売れない作家と編集者の文学賞を巡るせめぎ合いがテーマの前半の4作品が面白い。デビューをしたものの長く不遇の時代を過ごした売れっ子作家ならではの冷静な目と乾いたユーモアが秀逸。
売れないお笑い芸人とホテルマンの一夜の攻防を描いた「笑わない男」も、オチが効いていて面白い。
黒笑小説 (集英社文庫)
東野圭吾黒笑小説 についてのレビュー
No.163:
(7pt)

お江戸の物の怪ファンタジー

2001年度の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した、畠中恵の出世作。ごぞんじ「しゃばけ」シリーズの第一作である。
江戸の大店の一人息子だが身体が弱くて、17歳になっても過保護に育てられている一太郎は、思い切って一人で外出した先で殺人事件に遭遇する。周りの妖怪たちに助けられて逃げ帰った一太郎だったが、周辺で奇怪な殺人事件が連続し、否応無く事件解決に乗り出すことになった。病弱で満足に外出も出来ない一太郎を助けるのは、二人の手代(実は妖怪)を始めとする家族同然の妖怪と幼なじみの友だちだった。
八百万の神、森羅万象に神が宿るという江戸の庶民のファンタジーを謎解きミステリーで味付けした、優しくてのんびりしたテイストに癒される。スリルやサスペンスとは無縁の大江戸推理小説である。
人情もの、恐くない奇譚もの好きの方にはオススメだ。
しゃばけ読本 (新潮文庫)
畠中恵しゃばけ についてのレビュー
No.162:
(7pt)

大胆不敵な偽装は成功するのか?

イベリア・シリーズの第4弾。連合軍の北アフリカ上陸作戦の成功からシシリー島上陸までの時代が舞台である。
対ソ連軍との戦いでも劣勢に立ち、追い詰められ始めたドイツ。最後の望みは地中海での上陸作戦を敢行する連合国軍を返り討ちにすること。そのためには、上陸地点がどこになるのかを探り出すことが最重要課題であり、イギリスに送り込んだスパイを使って連合国軍の作戦情報を必死に収集しようとする。一方、イギリス側ではドイツに真意を悟られないように、死体を使った大胆不敵な偽装情報作戦が立案された。ナチスドイツは、この偽情報を見破れるのか?
スペインでの情報戦の焦点がヨーロッパでの戦争に移ったため、本作では北都昭平よりヴァジニアが主役となっている。祖国への忠誠と恋人への思いで揺れるヴァジニアの苦悩が延々と続くのがちょっと食傷気味になってくる。また、同僚、同盟国はもちろん敵対国の情報機関関係者までヴァジニアに理解を示し、協力的なのが、ご都合主義な気がしてストーリーに集中できないのが残念。スパイ小説より恋愛小説になってきたようで、シリーズの初めのようなサスペンスは期待できない。
暗い国境線 上 (講談社文庫)
逢坂剛暗い国境線 についてのレビュー
No.161:
(7pt)

恋敵が現われて

イベリア・シリーズの第3弾。真珠湾攻撃から連合国軍の北アフリカ上陸までの時代を描いている。
相変わらず日和見を決め込むフランコ・スペインを味方に付けるため、英独の情報戦が繰り広げられているスペインを舞台に日系ペルー人で日本のために諜報活動を行っている北都昭平と、英国情報部員ヴァジニアの抜き差しならぬ関係に強烈な波風を立てる日系アメリカ人女性が登場。二人の女性が繰り広げる恋のバトルが加わって、登場人物全員が誰を信用していいのか疑心暗鬼が募るばかりの混乱状態になるのだが、それでも世界情勢は刻々と変化し、連合国側の反攻が始まり、スペインは枢軸国側から連合国側に軸足を移すことになる。
本作では、情報収集より、カウンターエスピオナージというか、情報かく乱戦が中心となり、その分だけ手に汗を握るようなサスペンス要素は薄くなっている。また、敵側の人間に恋してしまったヴァジニアの苦悩が前面に出てきて、何となく2時間ドラマ的な居心地の悪さを感じてしまった。
これが、シリーズ物では避けられない中だるみで、次作から元の緊張感あふれるスパイ小説に戻ることを期待したい。
燃える蜃気楼(上) (講談社文庫)
逢坂剛燃える蜃気楼 についてのレビュー
No.160:
(7pt)

「百舌」は不死鳥のごとく

「百舌」シリーズの第7作。もう終わったかと思っていたシリーズだが、不死鳥のごとく百舌を蘇らせて新展開が始まった。
新聞記者・残間は、右翼系オピニオン誌の編集長をしている先輩から「百舌」についての記事を依頼された。しかし、その先輩は在職中に「百舌」に関連する残間の記事を握りつぶした人物であり、胡散臭さを感じていた。同じ頃、残間は武器の不法輸出を巡る内部告発のネタを掴み、大杉に内部告発者の身辺調査を依頼する。調査を始めた大杉が倉木美希警視に接触した直後、倉木が何者かに襲われ、コートの襟に百舌の羽根が残されていた。また、残間に記事を依頼した先輩が殺害され、その歯には百舌の羽根がかまされていた。
不法な武器輸出と封印された「百舌」スキャンダル、二つの異なるエピソードはやがてひとつの醜悪なスキャンダルに発展し、死んだはずの殺し屋「百舌」が再登場することになる。
「百舌」の復活が話の重要なキーになるので、これまでのシリーズを読んでいないと面白さが半減する。また、これまでの「百舌」の神出鬼没、必殺技の凄さを堪能して来た読者は、復活した「百舌」にかなりの物足りなさを覚えるだろう。ということで、残念ながらシリーズの中では一番出来が良くない作品である。
エピローグでは、復活した「百舌」の次の仕事が強く示唆されているので、次回作での再度のパワーアップを期待したい。
墓標なき街 (集英社文庫)
逢坂剛墓標なき街 についてのレビュー
No.159:
(7pt)

ミステリーというより、逆・成長小説?

20年前、家族に何も告げないまま学生時代を過ごした街に行き、泥酔して運河に落ちて死んでしまった父親の謎を解くため、成長した息子は、その街を訪れる。息子が大人として生きて行くためには「自分たち家族は、父に捨てられたのか?」、「父には、家族には言えないどんな深い秘密があったのか?」という疑問を解き、心の決着をつけることが必要だったのだ。
死亡時の父の足跡をたどり、大学時代の資料に当たり、さらに学生時代の知人を訪ねていくうちに、息子は40年前にさかのぼる「ある事件」の闇を暴くことになった。
物語の主眼は、捜査のプロセスの描写や事件の真相を暴いていくことより、父親の心の闇に分け入っていくことの方に置かれている。従って、これまでの佐々木譲作品のミステリー、サスペンスを期待していると、やや期待外れだろう。
父親の青年時代の苦悩を知り、ようやく父親が理解できるようになるという展開は、少年が大人になる過程を描く成長小説とは逆のパターンの成長小説とでも言うべきか。
砂の街路図 (小学館文庫)
佐々木譲砂の街路図 についてのレビュー
No.158:
(7pt)

とても上手なファンタジーミステリーだけど

「英雄の書」の世界を受け継ぎ、2015年に発行されたファンタジー色が強いミステリーである。
サイバーパトロールのアルバイトをしている大学生・孝太郎は世間を騒がせている連続殺人事件の調査に巻き込まれ、引退した刑事・都築と一緒に素人探偵として犯人を捜し始めることになる。さらに、近所の女子中学生・美香を巡るネットいじめの解決にも力を貸すことになる。
物語は、連続殺人事件とネットいじめの2つのストーリーを中心に展開され、そのどちらもミステリーとして及第点なのだが、いかんせん、孝太郎が妖怪から授けられた「言葉を読む超能力」で謎を解いて行くというところで、ミステリーファンとしては「う〜ん、残念」となってしまう。
ファンタジー小説好きの方にはオススメだが、ミステリー好きとしては「ミステリーに徹していてくれれば・・・」と思わざるを得ない。
悲嘆の門(上)
宮部みゆき悲嘆の門 についてのレビュー
No.157:
(7pt)

冷戦終結後のスパイ小説の模索

1988年に発表された、英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズのひとつ。先行した「ベルリン・ゲーム」、「メキシコ・セット」、「ロンドン・マッチ」の三部作に続く「フック、ライン、シンカー」の新展開三部作の第一作である。
基本的には前三部作を踏襲し、妻・フィオーナの裏切り、亡命後のサムソンのやりづらさをベースに、イギリス秘密情報局の陰湿なパワーポリティクスを描いている。
ただ、現実の時代に合わせて話が進行していたシリーズだけに、「ペレストロイカ」、「ベルリンの壁崩壊」などの冷戦構造の終わりという影響を受けてストーリーがどう変化して行くのか。「スパイ小説の危機」ともいわれる時代の新しいスパイ小説のモデルとなり得るのか。そうした視点から三部作全体を注目してみたい。
スパイ・フック (光文社文庫)
レン・デイトンスパイ・フック についてのレビュー
No.156:
(7pt)

詐欺師とチンピラの突っ張り合い

オレオレ詐欺に題材をとり、出てくるのは犯罪者とチンピラと警察ばかりという、黒川博行ワールド全開のノワールエンターテイメントである。
オレオレ詐欺の名簿屋・高城に使い走り兼受け子の手配師として顎で使われていた橋岡は、チンピラの矢代に誘われて賭場に参加し、二人でヤクザに借金をするハメに落ち入った。返済のための借金を高城に申し込んだ二人だったが、話がこじれたことから高城を殺害し、少しの現金と億単位の預金通帳や証券会社の通帳を奪った。しかし、銀行や証券会社のセキュリティの壁に阻まれて簡単には現金を手に入れることができず、また、高城の不在を不審に思ったヤクザからの追求に四苦八苦することになる。
一方、大阪府警特殊詐欺班の刑事たちはふとしたことから橋岡と高城に目を付け、高城のグループを一網打尽にするべくじりじりと捜査網に追い込み始めていた。警察と詐欺師の根比べが続く中、チンピラ・矢代の暴発から事態は一気にクライマックスを迎えることになった。
疫病神シリーズと似た展開だが、切れ味が今ひとつ。また「後妻業」と同じような社会病理を背景にしているものの、「後妻業」ほどのインパクトは無い。それでも、十分に楽しめるのは大阪弁の会話の面白さとストーリー展開のスピードがあるからだろう。
黒川博行ファンにはちょっと物足りないかもしれないが、犯罪小説ファン、ヤクザ小説ファンにはオススメだ。
勁草 (徳間文庫)
黒川博行勁草 についてのレビュー
No.155: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

百舌シリーズの前史として

逢坂剛のデビュー直後の作品。のちの傑作シリーズ「百舌」につながっていく作品だが、百舌シリーズのような公安警察のあり方を追求したものではなく、犯人逃亡のトリックの謎解きに主眼が置かれた「ハウダニット」「ワイダニット」ミステリーである。
警視庁公安部所属の二人の刑事が主役で、貿易会社ビル占拠の人質事件と右翼の大物の暗殺事件の二つの事件の謎を解いていく。中でも、ビルを占拠した犯人が9階からエレベーターで降りてくる途中で姿を消したトリックが最大のハイライトで、このトリックはなかなか良く考えられていて面白い。もう30年以上前の作品だけに、現在の科学捜査技術からすると間抜けに見える部分があるのだが、それは仕方が無い。暗殺事件の方は背景として政界スキャンダルがあり、後の百舌シリーズにつながるテイストが見られる。
百舌シリーズの完成度に比べると数段落ちるのだが、前史として、シリーズ読者は読んでおくことをオススメする。
裏切りの日日 (集英社文庫)
逢坂剛裏切りの日日 についてのレビュー
No.154: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリー史の教科書として

まあ、一度は読んでおいて損は無い密室ものの古典的名作。ガストン・ルルーはこの一作だけの作家と目されているが、さもありなん。
密室破りのテクニックに賛否両論があるだろうが、ミステリーに新風を巻き起こそうとする意欲は感じる。ただ、あまりにも冗長な描写と古典的なロマンチックさに、途中で放り出したくなるかもしれない。
黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)
ガストン・ルルー黄色い部屋の謎 についてのレビュー
No.153: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件の派手さと動機の薄さがアンバランス

東京下町で女性のバラバラ死体が3箇所で発見された。検査の結果、被害者は2人で、しかも一度埋められていた死体がバラバラにされてから放置されたことが判明する。さらに、犯人から警察を嘲笑する挑戦状が送られてきた。
これはもう典型的な猟奇殺人事件の幕開けで、これからどんな残酷な事件、異常な犯行が展開され、どんなサイコパスが登場するのかと思っていると、事件としてはそこまでで、あとは捜査活動と動機の解明に終始することになる。しかも、捜査する側の主役の一人が13歳の少年(父親は刑事なのだが)なので、実にゆったりとした、緊張感の無いストーリーが展開される。
判明した犯人と動機は非常に深い社会的問題に根ざしているのだが、何となく「薄い」という印象を免れず、本格ミステリーとしては物足りない。ただ、人物設定や語りの上手さはやはり一級品で、読んで損することは無い。
宮部みゆきファン、軽めのミステリーが好きな方にオススメだ。
東京下町殺人暮色 (光文社文庫)
宮部みゆき東京下町殺人暮色 についてのレビュー
No.152:
(7pt)

かなり弱点はあるものの

乃南アサの1992年の作品。比較的初期の作品だけあって、乃南アサらしさの片鱗は見られるものの構成が荒削りであることは否めない。
花嫁衣装あわせに来た女性がお店から姿を消したのがプロローグ。そこから、執拗に追い掛けてくる男から逃げる夏季という女性の逃避行と、もう一つ、連続女性殺人事件の捜査という二つの物語が並行して展開される。
主要な登場人物は夏季、殺人犯、捜査本部長のキャリア警察官・小田垣、小田垣のひいきの店のホステス・舞衣子の4人で、4人とも正体不明なところがあり、誰が善人で誰が悪人か、最期の方まで分からないところにサスペンスがあり、読者はぐいぐい引き込まれていく。殺人犯の正体も最期まで判明せず、フーダニットとして良くできている。
ただ、クライマックスが拍子抜けするほど「ご都合主義」で大幅減点にした。
紫蘭の花嫁 (文春文庫)
乃南アサ紫蘭の花嫁 についてのレビュー
No.151:
(7pt)

いつもとは逆の世界

警察小説の第一人者・横山秀夫がいつもとは逆の世界に挑戦した、犯罪者視点の連作短編集である。
主人公は「ノビカベ」の異名を持つ侵入盗のプロ・真壁修一。周りからは司法試験を受けると思われていた秀才だったが、双子の弟・啓二が窃盗を働いたことに悲嘆し、無理心中をはかって自宅に放火した母親の巻き添えになって焼死し、二人を助けようとした父親も犠牲になったたことから、世の中に絶望し窃盗犯の道を歩むことになった。これだけでも相当ユニークというか、無理筋の設定だが、さらに死んだ弟が修一の頭の中に住み着いていて、要所要所で会話を交わすというだから、かなり特異な世界で物語が展開されることになる。
全7作品それぞれにテーマが設定され、構成の工夫があり、バラエティに富んだ作品集だが、いかんせん大前提がリアリティに欠けるため、いつもの横山秀夫の世界には到達していない。読む前の期待値が高過ぎたのかもしれないが、やや物足りなさが残った。
影踏み (祥伝社文庫)
横山秀夫影踏み についてのレビュー
No.150:
(7pt)

インテリは社会病質者なのか?

トマス・H・クックの2013年の作品。法廷ミステリーの形式をとりながら、人が人生で成し遂げるべきは何かを問いかける重いテーマだが、前作「ジュリアン〜」より更にミステリー要素が濃くなって、最近の作品としてはかなり読みやすかった。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)に悩んでいた大学教授・サンドリーヌが強力な鎮痛剤の過剰摂取で死亡したのは、自殺なのか、夫のサムによる殺人なのか? 無実を訴えるサムを被告とする裁判が始まると、明らかにされていくのはサムには不利な状況証拠ばかりだった。裁判の過程でサムは結婚生活を振り返り、サンドリーヌの隠された真意を探ろうとするのだが、確たるものは掴めなかった。そして、陪審団の評決は・・・。
主人公・サムの偉大な小説を書くという夢を果たせず、田舎の大学の英文学教授としての安定した生活に埋もれながら周りの人々の無知を軽蔑する、相当イヤミなインテリというキャラクター設定が秀逸。読者は、サムに感情移入したり反発したりしながら人生とは、結婚生活とは、家族とはを深く考えるようになるだろう。
裁判の開始から評決までを丁寧に追いながら、随所に回想を挟んで真相を解明していくという展開がなかなかスリリングで、最近のトマス・H・クック作品としてはエンターテイメント性を高く評価できる。
サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
トマス・H・クックサンドリーヌ裁判 についてのレビュー
No.149:
(7pt)

監禁された女性たちの復活物語

アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。ミステリー、サスペンスであると同時に、想像を絶する境遇に引きずり込まれた女性たちがPTSDを克服する復活の物語である。
親友のジェニファーと一緒にジャック・ダーバーの地下室に3年間監禁されてから解放されたセアラは、その10年後、誘拐・監禁の罪で服役中だったダーバーが近く仮釈放されるかもしれないと知らされる。ダーバーの釈放を阻止するには、いまだ未発見のジェニファーの遺体を見つけ、殺人罪に問うしかないと考え、同時期に監禁されていた2人の女性、トレイシーとクリスティーンに連絡を取り、ジェニファーの遺体を見つけるために、忌まわしい事件の舞台だったオレゴンを訪ねることにした。FBI捜査官の忠告を無視して犯人の過去に迫って行く3人だが、なにしろ、主役のセアラは他人に接することができず、自分の部屋から一歩も出ない生活を送っている状態なので、まともな調査活動ができる訳は無く失敗ばかり。それでも、ジェニファーの恨みを晴らしたい一心でじわじわと真相に近づいて行った3人に、驚愕のラストが待ち受けていた。
監禁事件そのものは悲惨ではあるがメインテーマではなく、物語の主題は、事件から10年経っても心理的な傷を引きずらざるを得ない被害者が自分を回復する復活の物語である。一般的な監禁もののサイコミステリーのようなスリルとサスペンスは、期待し過ぎない方がよい。

禁止リスト(下) (講談社文庫)
コーティ・ザン禁止リスト についてのレビュー