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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 441~460 23/31ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.177:
(7pt)

カンガルー?、いやいやタスマニアデビルだ

これは珍しいオーストラリアのミステリー。作者のデビュー作であると同時にシドニーを舞台にした警察小説シリーズの第一作である。
シドニー州都警察殺人捜査課に異動してきたフランク刑事は、管内きっての敏腕と言われる女性刑事エデンとペアを組む。謎めいたエデンに興味を深めるフランクだったが、同じ捜査課に所属するエデンの兄エリックから「必要以上にエデンに近づくな」と警告を受ける。コンビを組んで早々、シドニーのマリーナの海底で死体が入ったスチール製のボックスが20個も見つかった。しかも、死体はいずれも臓器を抜き取られていた。まれに見る凶悪な大量死体遺棄事件を追い始めたフランクとエデンのコンビは、事件の裏に隠された罪深い事情に愕然とすることになる・・・。
オーストラリアだから「カンガルー」ミステリーかと想像していたのだが、予想を裏切る暗くて暴力的な内容は「タスマニアデビル」ミステリーと呼ぶ方がふさわしい。事件の凄惨さ、主人公が抱える闇の深さ、救いの無い結末など、かなりヘビーな読後感が残るため、警察の活躍で悪が滅ぶという単純明快な警察小説を期待する読者にはオススメできない。サイコもの、ノワールもの好きの方にオススメだ。
作者は、本作でオーストラリア推理作家協会の最優秀デビュー長編賞を、翌年にはシリーズ第二作で最優秀長編賞を、2年連続で受賞したという。現在、第三作まで発表されていて、順次邦訳の予定とのことなので楽しみに待ちたい。
邂逅 (シドニー州都警察殺人課) (創元推理文庫)
No.176:
(7pt)

タイムリミット・ミステリーの古典

「幻の女」と並び称される、1944年発表のウィリアム・アイリッシュの代表作。1940年代の青春のドラマをわずか5時間25分の間に凝縮した、タイムリミットものの傑作である。
NYでの成功を夢見ながら孤独な生活を送るブリッキーは、ある夜、務めていたダンスホールで客のクィンと出会う。挙動不審なクィンをグリッキーが問いつめると、彼は失業して自暴自棄になり、泥棒を働いてきたと告白した。さらに、クィンが同じ街の出身であることを聞いたブリッキーは、再出発のために、盗んだ金を返して二人で故郷に帰ることを提案する。バスが出発する朝までに間に合うように、すぐに窃盗の現場に戻った二人だが、そこには男の死体が転がっていた。クィンの潔白を証明するために、二人は残された時間で犯人探しをすることになった・・・。
とにかく、わずか5時間ほどの間に二人の出会いから犯罪の解明までが一気に進行するスピードが効果をあげている。まさにタイムリミット・ミステリーのお手本である。また、本物の犯人にたどり着くまでのプロセスに、内容のあるサブストーリーが挿入されていて、話が広がっているのも読み応えがある。さらに、都会で挫折した若い男女の再出発ストーリーが、犯人探しと同等の重みを持っているのも、古典的な魅力と言える。
タイムリミットものには不可欠なサスペンスが不足しているものの、読みやすくて分かりやすいミステリーとして多くの人にオススメできる名作である。
暁の死線【新版】 (創元推理文庫)
ウィリアム・アイリッシュ暁の死線 についてのレビュー
No.175:
(7pt)

愚かで悲しい愛ばかり・・

心理ミステリーの巨匠マーガレット・ミラーが1952年に発表した長編第10作。とはいえ、ミステリーやサスペンスというよりロマンティックな要素が勝った作品である。
泥酔したあげく嫉妬から愛人を刺殺したとして逮捕された娘ヴァージニアを救うために、ミセス・ハミルトンはデトロイト近郊の町にやってきた。ヴァージニアの夫に依頼された弁護士ミーチャムが、ヴァージニアの釈放を求めて活動していたがなかなか容疑が晴れず、ヴァージニアは拘置されたままだった。そんなとき、ロフタスという青年がミーチャムに近づき、「自分がやった」と告げた。さらに、ロフタスは告白書を持って警察に出頭し、ヴァージニアは釈放されることになった。これで一件落着と見えたが、ロフタスと被害者の関係がよく分からず、ミーチャムは納得できないでいた。
ヴァージニアは事件当時の記憶がなく、不利な状況証拠ばかり。一方のロフタスは犯行を認めているものの犯行動機に説得力がない。果たして、どちらが犯人なのか? あるいは第三者の真犯人がいるのか? ミーチャムを主人公にフーダニット、ワイダニットの物語が展開され、最後は意外な結末を迎えることになる。
本作の魅力は、捜査プロセスのサスペンスやスリルではなく、優しくて愚かな登場人物たちの悲喜こもごものドラマにある。1950年代のメロドラマを見ているような、やるせなさ、切なさが強い印象を残す。まさに「心理ミステリー」である。
雪の墓標 (論創海外ミステリ 155)
マーガレット・ミラー雪の墓標 についてのレビュー
No.174:
(7pt)

史上最長のスパイ小説の解決篇

1983年の「ベルリン・ゲーム」から始まった超大河スパイ・ミステリーの完結編。全7冊(「ヴィンター家の兄弟」を含む)、日本語訳400字詰めで約8100枚という「史上最長のスパイ小説」のさまざまな謎が解き明かされている。
本書は、主人公バーナード・サムソンの一人称で語られてきた「ゲーム」「セット」「マッチ」「フック」「ライン」の5作品とは異なり、第三者視点から壮大なスパイ・ストーリーの全貌を明かしているのが最大の特徴。前5作品で展開された作戦の裏側、誰が何を目的に、どう仕掛けていったのか、その過程でどんなドラマが生まれたのかを教えてくれる。
従って、前5作を読んでいないと面白さは半減してしまうが、逆に言うと、前5作を読んでさまざまな疑問を抱えてきた読者は明快な答えが得られて、すっきりするだろう。
スパイ・シンカー (光文社文庫)
レン・デイトンスパイ・シンカー についてのレビュー
No.173:
(7pt)

ハメット・ファンに

ダシール・ハメットの遺作でありながら未完成のため単行本未収録だった「チューリップ」を始めとする、11篇の中短編作品が収められている。
作品の出来にはばらつきがあり、さほど評価できないものもあるが、各作品の解説、作品リストを含めて資料価値は高い。
チューリップ ダシール・ハメット中短篇集
ダシール・ハメットチューリップ についてのレビュー
No.172:
(7pt)

人は混沌を抱えて生きている(非ミステリー)

中村文則の6冊目の作品。刑務官が主人公だが、ミステリーではない。
刑務官である「僕」が担当している中に、18歳を過ぎたばかりで夫婦を殺害し死刑判決を受けた男「山井」がいた。控訴期限が迫っているにも関わらず何もしない山井は、何を考えているのか。何を隠そうとしているのか? 山井に接するうちに僕はいやおうなく、児童養護施設で育った自分や施設仲間で自殺した友人が抱えてきた混沌に直面させられることになった。自分とは何か、命とはなにか、生きて行くことの意味は何か・・・。
本作も、文庫版で200ページ弱の短い作品ながら軽く読み飛ばすことは出来ない、ずっしりと重い読後感を残す作品である。
何もかも憂鬱な夜に
中村文則何もかも憂鬱な夜に についてのレビュー
No.171: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ハードボイルドか、ノワールか、警察小説か?

フィンランド発の人気ミステリー「カリ・ヴァーラ警部」シリーズの第3弾。前2作とは全く異なるテイストが衝撃的な、シリーズの分岐点となりそうな作品である。
国家警察長官からの秘密指令を受けて非合法活動も辞さない特殊部隊を設立・指揮するようになったカリは、国内の麻薬組織を襲撃して金も麻薬も奪い取るという、荒っぽい活動に携わっていた。そんなある日、移民擁護派の政治家が殺害され、その頭部が移民支援組織に送りつけられるという事件が発生、それに対する報復と見られる事件が続発し、フィンランド国内は人種差別を巡る緊張状態に陥っていた。事態を憂慮した内務大臣は、警察のエースであるカリに捜査を命じた。IQ170の天才でITと武器おたくのミロ、超人的な肉体派のスロという2人の部下とともにカリは、ネオナチを始めとする移民排斥組織に力勝負を挑んで行く・・・。
本作は、これまでのシリーズとは全く異なっていることに驚かされる。まず、主人公のカリは脳腫瘍の手術の後遺症で感情を失ってしまい、妻やまだ赤ん坊の娘にさえ「義務的な」愛情を見せることしか出来なくなっている。さらに、非合法活動に従事することで「正義感」が独善的になり、犯罪者は容赦なく征伐するという警察官というより冷血な悪のヒーローのような行動を見せる。
殺人事件の謎を解くという基本線は押さえているので、警察ミステリーのジャンルに治まることは治まっているのだが、全編に暴力の匂いが色濃く、北欧警察小説というよりアメリカン・ノワールという印象だ。
これからシリーズは、どう展開して行くのか。興味が尽きないところだが、2014年8月に著者が急逝したため、残されているのはあと1作品だというのは、実に残念だ。
白の迷路 (集英社文庫)
ジェイムズ・トンプソン白の迷路 についてのレビュー
No.170:
(7pt)

技巧を尽くしたサイコミステリー

カーソン・ライダーシリーズの第3作。前2作に比べるとやや劣るものの、緊迫感があるサイコミステリーである。
カーソンとハリーのコンビが遭遇したのは、地元ラジオ局のレポーター女性の惨殺死体。被害者はカーソンの恋人・ダニーの知り合いで、ある精神科医師がガラの悪い地域の酒場で殺害された事件を調査していたらしいことを知り、カーソンとハリーは事件を再捜査する。すると、刑務所に面会に行ったハリーの目の前で、医師殺害犯が毒殺された。一連の事件の裏には、何が隠されているのか?
本作の前2作品との一番の違いは、強烈な存在感を放つ兄・ジェレミーが登場しないこと。その分、事件の謎解きに力が入れられていて、真相解明までのプロセスの複雑さは本格ミステリーのレベルに達している。ただ、動機の部分が常識はずれというか、荒唐無稽な印象で、読者の評価が分かれるところだろう。
シリーズ物なので第1作から読むことをオススメするが、本作だけでも十分楽しめることは間違いない。
毒蛇の園 (文春文庫)
ジャック・カーリイ毒蛇の園 についてのレビュー
No.169:
(7pt)

戦時下の捜査の難しさ

ドイツの新人作家のデビュー作。第二次世界大戦末期のベルリンを舞台にした、異色のミステリーである。
1944年5月のベルリン。ユダヤ人であるが故に職を追われた元警部のオッペンハイマーは、ある夜、居住するユダヤ人アパートに侵入してきたナチス親衛隊に連行された。収容所送りを覚悟したオッペンハイマーだったが、意外にも、親衛隊大尉のフォーグラーから猟奇殺人事件捜査を担当するように命じられた。もう警察とは無縁のはずなのに、なぜ自分が選ばれたのか? 疑問を抱きながらも拒否するという選択肢は考えられず、捜査に取りかかったオッペンハイマーは、複雑に入り組んだナチスの官僚機構に苦戦しながらも、ついに犯人にたどり着いたのだが・・・。
空襲で荒廃したベルリン、圧倒的なナチスの恐怖、ユダヤ人としての苦悩など、通常のミステリーに加えられた特殊な状況が重苦しいサスペンスとなってストーリーを盛り上げる。猟奇殺人の謎解きだけに終わらない、重厚な作品である。
社会派ミステリーファンをはじめ、北欧系ミステリーファンや戦争ミステリーファンにもオススメだ。
ゲルマニア (集英社文庫)
ハラルト・ギルバースゲルマニア についてのレビュー
No.168:
(7pt)

初々しくて、エロチックで(非ミステリー)

著者の初めての短編集。軽くて読みやすい恋愛小説10編が収められている。
どれも一工夫があり、読後感は悪くない。電車や飛行機の待ち時間、移動中などに読むのに最適だ。
スローグッドバイ (集英社文庫)
石田衣良スローグッドバイ についてのレビュー
No.167:
(7pt)

ついに完結

逢坂剛のライフワークであるイベリアシリーズの完結編。ほぼ16年の歳月をかけて書き継いで来た、7作品、約4000ページもの大河ドラマのクライマックスである。
本作の舞台はドイツの敗戦後から北都昭平の日本への帰還まで、1945年7月から46年4月までである。日本の敗戦がほぼ確実となり、スペインが日本と断交したこともあってやることがなくなり、精神的にも挫折した北都だったが、愛するヴァジニアが英国情報部から裏切りを疑われ、しかも英国内で行方不明になったことで気力を取り戻し、ヴァジニアを救出するために単身、英国に潜入することにした。
拉致されていたヴァジニアを発見し、二人で国外脱出をはかるのだが、最後の土壇場でヴァジニアは英国にとどまって情報部の疑惑を解くことになり、北都はアメリカ情報部によってスペインに送られ、日本に強制帰還させられることになる。
前6作品のような情報戦の面白さは無く、敗戦国のスパイの心情のドラマに力点が置かれている。その点で、歴史ミステリーという本シリーズの魅力が十分に発揮されているとは言えないのが残念。しかし、大河ドラマの完結編としてのパワーは十分に持っている。
シリーズ読者は必読。シリーズ未読の方は1作目から読むことをオススメしたい。
さらばスペインの日日
逢坂剛さらばスペインの日日 についてのレビュー
No.166:
(7pt)

軽めの人情ものとミステリー

1993年から95年にかけて発表された7作品を収めた短編集。軽く読める作品ばかりだが、それぞれのテーマや構成に創意工夫があり読者を飽きさせない佳作ぞろいである。
7作品中、3作品でいじめがテーマになっているのは、時代性を象徴しているが、他の作品も現代の都会では誰でも遭遇する可能性があるような出来事で、そこから問題点を発見し、物語を紡いでいく作者の上手さにはいつもながら感心するしか無い。
宮部みゆきファンはもちろん、軽めのミステリー、人情ものファンに安心してオススメできる。
人質カノン (文春文庫)
宮部みゆき人質カノン についてのレビュー
No.165: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

アニメ風というか

東野圭吾がデビュー30周年を迎えて「新しい小説に挑戦した」というふれこみだが、ちょっと期待外れ。
温泉地で硫化水素による死者が出たことから調査を依頼された青江教授は、疑問を抱きながらも事故死だろうと結論づけた。しかし、さほどの時間を置かず、別の温泉地でも同様の事故が起き、調査に赴いた青江は、前の事故現場でも見かけた謎の少女に遭遇する。羽原円華と名乗るその少女は、何かを探しているようだった。
一方、最初の事故の被害者の母親から「息子は嫁に殺された」という告発を受けた中岡刑事は、調査を始めて事件の匂いを感じるようになり、ヒントを求めて青江に接触した。
二つの事故が事件としてつながったとき、その背景には想像を絶する悲劇が隠されていた。
本格ミステリーを期待して読むと裏切られるけど、物語の構成やストーリー展開はよくできていて、それなりに楽しめる。
ラプラスの魔女 (角川文庫)
東野圭吾ラプラスの魔女 についてのレビュー
No.164: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

東野圭吾の意外な一面(非ミステリー)

ブラックユーモア・シリーズの第3弾。お得意の文壇ものから童話のアレンジまで、バラエティに富んだ13作品を収録した短編集である。
なかでは、売れない作家と編集者の文学賞を巡るせめぎ合いがテーマの前半の4作品が面白い。デビューをしたものの長く不遇の時代を過ごした売れっ子作家ならではの冷静な目と乾いたユーモアが秀逸。
売れないお笑い芸人とホテルマンの一夜の攻防を描いた「笑わない男」も、オチが効いていて面白い。
黒笑小説 (集英社文庫)
東野圭吾黒笑小説 についてのレビュー
No.163:
(7pt)

お江戸の物の怪ファンタジー

2001年度の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した、畠中恵の出世作。ごぞんじ「しゃばけ」シリーズの第一作である。
江戸の大店の一人息子だが身体が弱くて、17歳になっても過保護に育てられている一太郎は、思い切って一人で外出した先で殺人事件に遭遇する。周りの妖怪たちに助けられて逃げ帰った一太郎だったが、周辺で奇怪な殺人事件が連続し、否応無く事件解決に乗り出すことになった。病弱で満足に外出も出来ない一太郎を助けるのは、二人の手代(実は妖怪)を始めとする家族同然の妖怪と幼なじみの友だちだった。
八百万の神、森羅万象に神が宿るという江戸の庶民のファンタジーを謎解きミステリーで味付けした、優しくてのんびりしたテイストに癒される。スリルやサスペンスとは無縁の大江戸推理小説である。
人情もの、恐くない奇譚もの好きの方にはオススメだ。
しゃばけ読本 (新潮文庫)
畠中恵しゃばけ についてのレビュー
No.162:
(7pt)

大胆不敵な偽装は成功するのか?

イベリア・シリーズの第4弾。連合軍の北アフリカ上陸作戦の成功からシシリー島上陸までの時代が舞台である。
対ソ連軍との戦いでも劣勢に立ち、追い詰められ始めたドイツ。最後の望みは地中海での上陸作戦を敢行する連合国軍を返り討ちにすること。そのためには、上陸地点がどこになるのかを探り出すことが最重要課題であり、イギリスに送り込んだスパイを使って連合国軍の作戦情報を必死に収集しようとする。一方、イギリス側ではドイツに真意を悟られないように、死体を使った大胆不敵な偽装情報作戦が立案された。ナチスドイツは、この偽情報を見破れるのか?
スペインでの情報戦の焦点がヨーロッパでの戦争に移ったため、本作では北都昭平よりヴァジニアが主役となっている。祖国への忠誠と恋人への思いで揺れるヴァジニアの苦悩が延々と続くのがちょっと食傷気味になってくる。また、同僚、同盟国はもちろん敵対国の情報機関関係者までヴァジニアに理解を示し、協力的なのが、ご都合主義な気がしてストーリーに集中できないのが残念。スパイ小説より恋愛小説になってきたようで、シリーズの初めのようなサスペンスは期待できない。
暗い国境線 上 (講談社文庫)
逢坂剛暗い国境線 についてのレビュー
No.161:
(7pt)

恋敵が現われて

イベリア・シリーズの第3弾。真珠湾攻撃から連合国軍の北アフリカ上陸までの時代を描いている。
相変わらず日和見を決め込むフランコ・スペインを味方に付けるため、英独の情報戦が繰り広げられているスペインを舞台に日系ペルー人で日本のために諜報活動を行っている北都昭平と、英国情報部員ヴァジニアの抜き差しならぬ関係に強烈な波風を立てる日系アメリカ人女性が登場。二人の女性が繰り広げる恋のバトルが加わって、登場人物全員が誰を信用していいのか疑心暗鬼が募るばかりの混乱状態になるのだが、それでも世界情勢は刻々と変化し、連合国側の反攻が始まり、スペインは枢軸国側から連合国側に軸足を移すことになる。
本作では、情報収集より、カウンターエスピオナージというか、情報かく乱戦が中心となり、その分だけ手に汗を握るようなサスペンス要素は薄くなっている。また、敵側の人間に恋してしまったヴァジニアの苦悩が前面に出てきて、何となく2時間ドラマ的な居心地の悪さを感じてしまった。
これが、シリーズ物では避けられない中だるみで、次作から元の緊張感あふれるスパイ小説に戻ることを期待したい。
燃える蜃気楼(上) (講談社文庫)
逢坂剛燃える蜃気楼 についてのレビュー
No.160:
(7pt)

「百舌」は不死鳥のごとく

「百舌」シリーズの第7作。もう終わったかと思っていたシリーズだが、不死鳥のごとく百舌を蘇らせて新展開が始まった。
新聞記者・残間は、右翼系オピニオン誌の編集長をしている先輩から「百舌」についての記事を依頼された。しかし、その先輩は在職中に「百舌」に関連する残間の記事を握りつぶした人物であり、胡散臭さを感じていた。同じ頃、残間は武器の不法輸出を巡る内部告発のネタを掴み、大杉に内部告発者の身辺調査を依頼する。調査を始めた大杉が倉木美希警視に接触した直後、倉木が何者かに襲われ、コートの襟に百舌の羽根が残されていた。また、残間に記事を依頼した先輩が殺害され、その歯には百舌の羽根がかまされていた。
不法な武器輸出と封印された「百舌」スキャンダル、二つの異なるエピソードはやがてひとつの醜悪なスキャンダルに発展し、死んだはずの殺し屋「百舌」が再登場することになる。
「百舌」の復活が話の重要なキーになるので、これまでのシリーズを読んでいないと面白さが半減する。また、これまでの「百舌」の神出鬼没、必殺技の凄さを堪能して来た読者は、復活した「百舌」にかなりの物足りなさを覚えるだろう。ということで、残念ながらシリーズの中では一番出来が良くない作品である。
エピローグでは、復活した「百舌」の次の仕事が強く示唆されているので、次回作での再度のパワーアップを期待したい。
墓標なき街 (集英社文庫)
逢坂剛墓標なき街 についてのレビュー
No.159:
(7pt)

ミステリーというより、逆・成長小説?

20年前、家族に何も告げないまま学生時代を過ごした街に行き、泥酔して運河に落ちて死んでしまった父親の謎を解くため、成長した息子は、その街を訪れる。息子が大人として生きて行くためには「自分たち家族は、父に捨てられたのか?」、「父には、家族には言えないどんな深い秘密があったのか?」という疑問を解き、心の決着をつけることが必要だったのだ。
死亡時の父の足跡をたどり、大学時代の資料に当たり、さらに学生時代の知人を訪ねていくうちに、息子は40年前にさかのぼる「ある事件」の闇を暴くことになった。
物語の主眼は、捜査のプロセスの描写や事件の真相を暴いていくことより、父親の心の闇に分け入っていくことの方に置かれている。従って、これまでの佐々木譲作品のミステリー、サスペンスを期待していると、やや期待外れだろう。
父親の青年時代の苦悩を知り、ようやく父親が理解できるようになるという展開は、少年が大人になる過程を描く成長小説とは逆のパターンの成長小説とでも言うべきか。
砂の街路図 (小学館文庫)
佐々木譲砂の街路図 についてのレビュー
No.158:
(7pt)

とても上手なファンタジーミステリーだけど

「英雄の書」の世界を受け継ぎ、2015年に発行されたファンタジー色が強いミステリーである。
サイバーパトロールのアルバイトをしている大学生・孝太郎は世間を騒がせている連続殺人事件の調査に巻き込まれ、引退した刑事・都築と一緒に素人探偵として犯人を捜し始めることになる。さらに、近所の女子中学生・美香を巡るネットいじめの解決にも力を貸すことになる。
物語は、連続殺人事件とネットいじめの2つのストーリーを中心に展開され、そのどちらもミステリーとして及第点なのだが、いかんせん、孝太郎が妖怪から授けられた「言葉を読む超能力」で謎を解いて行くというところで、ミステリーファンとしては「う〜ん、残念」となってしまう。
ファンタジー小説好きの方にはオススメだが、ミステリー好きとしては「ミステリーに徹していてくれれば・・・」と思わざるを得ない。
悲嘆の門(上)
宮部みゆき悲嘆の門 についてのレビュー