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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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各作品の周辺登場人物が別の作品の主人公になっていくという構成の短編集。全作品すべて下ねたで笑わせる、古い言葉で言えば艶笑作品ばかりである。
登場人物がみんな下流というか、しょぼくれた人物ばかりで、そこに面白みを感じれば楽しめる作品である。 個人的には面白かったが、オススメ作品かと言われれば躊躇せざるを得ない。 |
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キャシー・マロリーシリーズの第9作。子供が被害者になるという、いつもの犯罪捜査パターンだが、舞台をルート66に設定してアメリカ大陸を横断し、マロリー自身のルーツを辿る物語でもある。
マロリーの自宅で女の死体が発見され、しかもマロリーの行方が知れない。女性は自殺したのか、マロリーが殺害したのか? 居ても立っても居られないライカーはクレジットカードの利用歴から、チャールズと一緒にマロリーの後を追いかけることにした。改造したフォルクスワーゲン・ビートルでルート66を走るマロリーの目的は、顔も知らない父親が書き残した手紙を元に父の旅路を辿ることだったのだが、ルート66上で子供たちの遺骨が発見された事件に遭遇したことから、その捜査に巻き込まれて行った。捜査現場では、無能なFBI捜査官と地元警察との軋轢があり、さらに行方不明の子供たちを探したい親たちのキャラバンは無秩序に膨張し、次第に状況は混沌として来るのだったが、氷の女・マロリーはそんな周囲とは関係なく犯人を追い詰めていく。 アメリカのマザー・ロードと言われるルート66を舞台に、新旧さまざまな家族の物語が展開されるのだが、基本はスーパー刑事・マロリーの超人的な活躍という、いつものパターンである。今回は、それに「父親探し」という、ややウェットな部分が加えられ、マロリーの人間性に多少の変化が見られるところが新しい。 マロリーのルーツを巡る物語だけに、これまでのシリーズを読んでいないとストーリーが理解しにくいし、登場人物のキャラクターも前作までの背景を前提にして描かれているので、シリーズ読者以外にはオススメできない作品である。逆に言えば、シリーズ読者には必読の作品と言える。 |
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本国はもちろん、ヨーロッパ、日本でも人気が高まっている「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第6作。少女殺害遺棄事件をきっかけに、テレビや警察をも巻き込んだ凶悪犯罪を暴いていく社会派警察小説である。
フランクフルトの街中を流れる川で長期間にわたって虐待されていたと思われる少女の死体が発見された。オリヴァーのチームの懸命の捜査にも関わらず身元不明のままで二週間が過ぎた頃、テレビの女性人気キャスターが何者かに激しく暴行され、瀕死の重傷を負うという事件が発生。キャスターは独善的で敵の多いキャラクターだっただけに、犯人探しは混迷する。さらに、今度は人気キャスターの相談相手になっていた心理療法士が襲撃された。一連の事件は、同一犯によるものなのか? ピアを中心とするメンバーたちが捜査の結果行き着いたのは、想像を絶する巨悪の存在だった。 少女殺害事件の捜査から始まったストーリーは、あちらこちらに飛び火し、最後に無理やりまとめられたような落ち着かなさがある。前半でいろいろ張られていた伏線が、いつの間にやら回収されてしまっていた。全体に話を広げ過ぎた感じで、警察ミステリーとしては落ち着きが悪い作品である。 ただ、主要登場人物たちの人間関係の変化という意味では見逃せない一作であり、シリーズ読者には絶対のオススメ。北欧系の警察小説ファンにも、安心してオススメできる。 |
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ジャン・レノ主演で日本でもヒットしたフランス映画の原作。派手な事件と個性的な登場人物でどんどん突っ走っていく、サスペンス作品である
フランス東北部の山間の大学町で発生した、残酷な連続殺人事件。そこから300キロほど離れた田舎町で発生した、小学校への盗難事件と墓荒し。無関係に見えた二つの事件捜査が、それぞれに個性的な二人の刑事の執念深い捜査によって交わり、忌まわしい真実が明らかにされるという、ありがちな構成のミステリーだが、二人の刑事の個性が際立ち、しかもストーリー展開が早いのでぐんぐん引き込まれていく。そのスピードとサスペンス、アクションはまさに映画向きである。 主人公の一人、ニエマンス警視正はまさにジャン・レノをイメージしながら造形したのではないかと思うぐらいぴったり。映画を見た後に読むのでも、読んだ後に見るのでも、どちらでも楽しめるだろう。ただ、派手な事件の様相の割に、犯罪の動機や背景が粗雑で、ミステリー小説としてはやや評価を下げたくなった。 ピエール・ルメートルなど、近年人気のフレンチ・ミステリーの先駆けとして一読しておいて損は無い。 |
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北海道の田舎町(夕張市をイメージした)を舞台にした連作短編集。いつまでたっても何も起きないような、寂れる一方の町でも起きる人々の交流を暖かく描いた人情話である。
田舎ゆえの生きづらさと田舎ならではの優しさが、ちょっとしたエピソードと細やかな心情描写で丁寧に描かれており、まさに流行らない理髪店で渋茶を飲みながらの井戸端会議をしているような読後感である。 宮部みゆきの人情話などがお好きな方にはオススメだ。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第13作。今回はイタリアを舞台にした犯罪捜査ミステリーである。
ニューヨークで白人ビジネスマンの誘拐事件が発生。犯人は被害者が首を吊られそうになっている動画と被害者の苦痛の声をサンプリングした音楽をサイトにアップし、コンポーザーというクレジットを付けていた。ライムたちは監禁場所を突き止めて被害者を救出したのだが、コンポーザーには逃げられてしまった。その二日後、イタリアでリビア難民の男性が誘拐される事件が発生。現場には、ニューヨークの事件と同じ犯人を示唆する証拠が残されていた。イタリアの捜査当局から資料提供を求められたライムたちは、資料を送るのではなく、本人たちがイタリアに飛んで捜査に関わろうとしたのだが、担当検事に関与を拒否されてしまった。さらに、アメリカ領事館からアメリカ人の若者がレイプ容疑で逮捕された事件への協力も依頼され、コンポーザー事件に専念できなくなったライムたちだったが、困難な状況にもめげず、犯人を追跡し、事件の真相に迫っていくのだった・・・。 舞台がイタリアに移り、いつものメンバーではアメリアとトムしか登場しないこともあって、捜査状況がこれまでの作品とはかなり異なっている。証拠の徹底した科学的分析から犯罪を解明する理屈っぽさが少なく、お得意のどんでん返しも小粒で、普通の警察小説っぽいテイストになっており、あくどいまでのリンカーン・ライム節に辟易してきた読者には読みやすいだろう。また、イタリア側の捜査陣のキャラクターが秀逸で、人間ドラマとしての完成度は、いつもの作品より高いと言える。 ライム・シリーズ読者には必読。警察小説ファンには安心してオススメできるエンターテイメント作品である。 |
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「ミスター・メルセデス」で始まった「退職刑事ビル・ホッジス三部作」の第二作。前作同様、犯人は分かっていて、次の犯行を防ぐためにホッジスたちが奮闘する私立探偵もののバリエーション作品である。
物語の発端は、隠遁している老作家の家に強盗が押し入り、作家を殺害した上に現金と未発表原稿を奪ったこと。老作家の愛読者だった強盗の主犯のモリスは、仲間割れした後、現金と原稿をトランクに詰めて隠した。30数年後、トランクを偶然に見つけたのが13歳の少年ピートだった。実は、ピートの父はメルセデス事件に巻き込まれて負傷し、働けなくなっており、生活苦から夫婦仲が悪化し、離婚の危機に直面していた。トランクで見つけた現金があれば両親が仲直りでき、元の家庭が戻るのではないかと考えたピートは、現金と原稿を家の中に隠し、現金を少しずつ父親宛に郵送することにした。それから4年、現金が尽きたため、ピートは今度は原稿を売ることを考え始めるのだが、ちょうどそのころ、服役していたモリスが仮釈放で出所し、トランクを回収しようとする。隠しておいた宝物を盗まれた盗人と偶然宝物を見つけた少年の手に汗握る攻防戦が始まった。当然のことながら、ホッジス、ホリー、ジェロームの三人は少年ピートの助っ人として問題解決に乗り出していく。 ストーリーの中心はピートとモリスの原稿争奪戦で、ホッジスたちの役割りはサブの扱いである。さらに、老作家の原稿の重要性、価値を強調するためのエピソード類が多いため、全体にやや緊迫感に欠ける。特に、上巻ははっきり言って退屈な部分がある。それでも、ピートとモリスが交差する辺りからはサスペンスが盛り上がり、満足できるレベルに仕上がっている。 前作を受けたエピソードが多いので、できるだけ第一作「ミスター・メルセデス」から読むことをオススメする。 |
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元CIA分析官という経歴の女性作家のデビュー作。自らの経験を生かしたという、アメリカの情報機関とロシアのスリーパーの戦いを描いた作品である。
CIAでロシアのスリーパー対策を担当しているヴィヴは、苦労の末に突き止めたロシア側ハンドラーのパソコンでスリーパーたちの画像を発見する。しかし、その中に夫であるマットの写真が含まれていたことに驚愕し、すぐに上司に報告すべきところをためらい、そのまま職場を出てしまった。10年間共に過ごし、4人の子どもと一緒に幸せな家庭を築いてきたはずの夫は、ロシアのスパイなのか? 悩みに悩んだ末に、「いつからロシアのために働いているの?」と問いかけたヴィヴにマットは「二十二年前だ」と答えた。子供たちを守るために秘密を守るのか、国家に忠誠を尽くすために夫を告発するのか。ヴィヴはマットへの不信感に葛藤しながらも、家族を維持するために苦闘するのだった。 スパイ小説ではあるが、一級のスパイ小説が持つヒリヒリした緊張感は無い。むしろ、嘘を吐いてきた相手との不信と愛情のドラマという心理サスペンスとして成功している。もうすでに映画化が決定しているようだが、確かに映画向きのストーリーである。 本格的諜報小説ファンにはやや物足りないだろうが、ホラーではない心理サスペンス好きにはオススメできる。 |
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週刊紙の連載をベースに加筆修正したという、ボッシュ・シリーズの第13作。シリーズの中では短めで、展開にスピード感があるサスペンス作品である。
ロス市内を見渡す展望台で、後頭部に2発の弾丸を撃ち込まれた男性の死体が発見された。犯行の様相からギャングがらみの処刑かと思われ殺人事件特捜班の出番となったのだが、調べて行くとテロリストが関与している疑いが浮上し、FBIが乗り出してきた。前作「エコー・パーク」で因縁があったレイチェル捜査官をはじめとするFBIと鋭く対立しながらの捜査となったボッシュだが、独自の鋭い推理で犯罪の裏に隠された真相を見つけ、複雑な事件をスピーディーに解明して行った。 事件発生から解決までが半日ほどなのでストーリー展開がテンポよく、すいすいと読みすすめられる。にも関わらず、事件の構造は複雑でサスペンスがある。いつもは力業で事件をねじ伏せて行くイメージのボッシュだが、今回はわずかな証拠から鋭い推理を発揮する知性派の一面を見せてくれる。そういう意味ではシリーズ読者には必読の一冊であるが、シリーズ読者以外でも楽しめる警察ミステリーである。 |
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2006年〜09年の雑誌連載を大幅に加筆修正した、文庫オリジナル作品。文庫700ページを越える長編ながら構成がシンプルで読みやすい、青春小説である。
社長の息子という立場は同じながら、実態は全く違う二人の「あきら」。伊豆の片田舎の零細工場の長男・山崎瑛は、小学5年生のときに父の工場が倒産し、辛酸をなめながらも持ち前の向上心で東大を卒業し、大手都市銀行に就職する。一方、海運業の大手企業の御曹司として育った階堂彬は、同じく東大を卒業すると、家業の後継者となることを嫌って、山崎瑛と同じ銀行に就職した。新入社員当時からお互いの才能を認め合っていた二人は、階堂彬の実家の事業がバブル崩壊から苦境に陥ったことを受け、立場は異なりながらも協力してその難問に立ち向かって行く。その二人を支えたのは、幼い頃の経験から培われた「何のために生きるのか」という信念だった。 池井戸潤のホームグラウンドである銀行業界を舞台に繰り広げられる若者たちの成長物語。池井戸ファンには読み慣れた物語で、700ページを少しも長いと感じさせない。主人公二人はもちろん、周辺人物のキャラクターも丁寧に造形されており、ストーリー展開に深みを与えている。ただ全体に流れが淡白で、ドキドキ感が無いのが惜しい。 池井戸ファンにはもちろん、明るめの社会派小説のファンにはオススメしたい。 |
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ストックホルム警察の腕利き刑事を主人公にした新シリーズの登場作。北欧の警察小説にしては派手なアクション系ミステリーである。
27歳にして特捜班に抜擢された刑事ザック。彼には5歳の頃、刑事だった母が殺害され、事件が迷宮入りになったことで深い心の傷を負い、いつか犯人を捜し出すという強迫観念から警察入りしたという過去があった。ある日、タイ人のマッサージ嬢4人が惨殺される事件が発生し、ザックたち特捜班が担当することになった。タイ人を狙った人種差別事件と思われた事件だったが、捜査を進めるとマッサージ(つまり売春)利権を巡る犯罪組織の抗争の様相が見えたり、サイコパスによる単独犯行のようにも見えてきた。さらにタイ人売春婦が狙われる事件が発生し、ザックたちは寝る時間も無いほど追い詰められて行った・・・。 型破りの敏腕刑事が暴走気味に突っ走って、最終的には犯人を挙げるというのは珍しいことではないのだが、本作の主人公ザックの暴走というか、壊れ具合いは半端ではない。薬はやるは、容疑者に暴力を振るうは、不法侵入をするは、やりたい放題である。それでも読者が納得できるのは、犯人の残酷さが尋常ではないから。犯人追跡ミステリーは、犯人のあくどさが際立つほど面白くなるという法則通りの作品である。社会派ミステリーではあるが、これまで好評を博してきた北欧警察小説とは若干異なる毛色の作品であり、どちらかと言えばアメリカの刑事物に近い。 アクション系ミステリー、スーパーヒーロー系の警察小説ファンにオススメだ。 |
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1891年から1936年までにアメリカ、イギリスで起きた若い女性が被害者となった殺人事件をテーマに、1949年に刊行された犯罪実話集。事実に基づいて、警察の捜査をベースに事件の詳細を冷静に淡々と綴っていく、犯罪ノンフィクションの一スタイルを確立した記念碑的な一冊である。
取り上げられた事件の様相はそれぞれだが、すべて事件の発覚から裁判までをシンプルに追いかけており、被害者・加害者・捜査官などの心理描写は徹底的に排除されている。それが逆に犯罪の卑劣さと被害者の無念を表わしていると言える。一世紀以上昔の話ではあるが、実話ならではの強さがあり、犯罪に使用される道具や社会背景は違っても犯罪のパターンはさほど変化するものではないと思わせる。 犯罪実話、ノワール小説がお好きな方にはオススメだ。 |
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ロス・マクを代表する「リュー・アーチャー」シリーズの第一作。1949年の作品だが、田口俊樹氏の新訳が少しも古さを感じさせない正統派のハードボイルド作品である。
石油業界の富豪夫人から「消えた夫を捜して欲しい」と依頼されたリュー・アーチャー。大邸宅に行くと、事故で車椅子生活になった若妻、気性が激しい娘、戦争の英雄で富豪のお抱えのパイロット、元検事で娘に恋している弁護士などが複雑な家庭環境を作り出していた。そこに「商売上必要だから10万ドルを用意しろ」という、富豪の自筆の手紙が届いたが、家族はあり得ない話だと断言した。果たして、富豪は誘拐されたのか? 調査を進めるアーチャーの前に現われるのは、往年の映画女優、怪しげな宗教家、バーの経営者など、謎の多い人物ばかり。さらに、身代金10万ドルを要求する脅迫状が届き、その受け渡しをきっかけに殺人事件が相次ぐのだった・・・。 初登場のリュー・アーチャーは35歳という設定で、シリーズの後半の作品とは異なりアクション派の私立探偵である。何人もの死者が出るストーリー展開も派手で、全体的に若々しくてスピーディーな作品と言える。 後年の大傑作と比べるとやや軽くて荒削りではあるが、記念碑的作品として、シリーズ読者には必読。正統派ハードボイルドファンなら、どなたにもオススメできる。 |
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産業スパイ「AN通信」の鷹野一彦シリーズ、三部作の第3作。日本とアジアを舞台にした水戦争を描いた国際謀略アクション作品である。
35歳で退職年齢を迎えようとしている主人公・鷹野一彦と部下の田岡たちが挑むのは、日本のみならず、中央アジアの水道事業の民営化を巡る巨大な利権争いである。登場する人物すべてが欲望を隠さず、誰が悪人で誰が正義の味方なのかは判別不能。非情な策謀と陰謀にまみれたコンゲームとアクションが繰り返される。そんな中に、世の中から取り残された子供たちのサバイバルや友情、情愛などが効果的にちりばめられている。 政治的なメッセージを持つ社会派小説とも読めるのだが、それ以前に娯楽アクション小説として楽しめる作品である。日本人作家のこのジャンルの作品としては、かなり上質。幅広いアクション小説ファンにオススメできる。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。行方不明の少女への成り済ましが成功するのか否か、スリリングな心理劇が展開される静かなサスペンスドラマである。
家出して切羽詰まった末の窃盗で捕まった窮地から、11年間も行方不明になっていた少女レベッカに成り済まして逃げようとした「私」。レベッカの両親は喜んで迎え入れてくれたのだが、行方不明事件を担当した刑事からは疑惑の目を向けられ、事件当時の記憶を思い出すように執拗に迫られる。さらに、双子の弟たちや再会した無二の親友にもバレないように、神経をすり減らして暮らしながら「私」は、レベッカになりきるために失踪の秘密を探り出そうとする。そこで見えてきたのは、青春を謳歌していたはずのレベッカにまとわりついていた暗い悪意の影だった・・・。 16歳のレベッカの章と成り済ました「私」の章が交互に展開され、レベッカ失踪の謎がじわじわと明らかにされていく過程は、事件自体に凄惨さが無いので「サイコスリラー」とは言えないが、スリリングではある。欲を言えば、事件全体の構図にもうひとひねり欲しいのだが、最後まで読ませる力は持っている作品である。 サイコミステリーファンより、人間関係ミステリー好きの方にオススメする。 |
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アイスランド発の人気シリーズ「ダーク・アイスランド」シリーズの第5作。日本語版では、前作「雪盲」に続く第2弾である。
前作同様、舞台は人口1300人足らずの地方都市(警察の人員は全部で2名!)で、主人公アリ=ソウルの上司である署長が射殺されるという大事件が勃発する。現場は町外れの空家で、ドラッグの取引に使われているという噂があった。警官殺害という大事件だけに、事件捜査には首都から昔(アリ=ソウルが新米として赴任時)の署長だったトーマスが派遣されてきて、アリ=ソウルと昔懐かしいコンビで担当することになった。閉ざされた小さな社会で容疑者は限られているはずなのに、事件の様相は一向にはっきりせず、しかも関係者に様々な不審な出来事が起きたり、誰もが正直に話しているようには見えなかったりして、捜査は難航するばかりだった。 物語の基本は、誰が署長を殺したかという古典的な謎解きミステリーである。その途中に謎の人物の告白が挿入され、全体像が見えないままストーリーが引っ張られて行く。最終的には、合理的な解決に至るし、伏線や謎解きの鍵もきちんと提示されていて、まさに正統派ミステリーと言える。ただ、事件の背景や登場人物の心理描写などがあっさりし過ぎていて、読み応えがない。 北欧の警察ミステリーとしてはちょっと物足りないが、謎解きミステリーとしてはそれなりのレベルの作品である。 |
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シカゴの女性私立探偵V.I.ウォーショースキーシリーズの第18作。今回はホームであるシカゴを離れ、カンザスの田舎町で巨大な陰謀に立ち向かう、スケールの大きな社会派ミステリーである。
「カナダの小さな火山」ことバーニーが大学の友人・アンジェラと一緒にヴィクを訪ねてきた。アンジェラのいとこの黒人青年オーガストが勤務先のジムで窃盗を働いた疑いをかけられ、行方不明になったので探して欲しいと言う。若くて無遠慮な二人に押され、しぶしぶ捜査を始めたヴィクは、オーガストの自宅と勤務先が何者かに家捜しされていたことを知り、さらにオーガストは映画監督をめざしており、黒人女優エメラルドに誘われて彼女のドキュメンタリー映画を取るためにエメラルドの故郷であるカンザス州に出かけたことをつかんだ。エメラルドの身の回りの世話をしている人物からも二人のゆくえを探すように依頼され、ヴィクは愛犬ベビーだけを連れて単身でカンザス州に乗り込んだ。エメラルドの故郷はかつて核ミサイル基地が建設され、それに対する抗議行動があった街だった。聞き込みをはじめたヴィクはすぐに地元の捜査機関や米軍から監視されるようになり、何かの陰謀が隠されていることに気づき始め、しかも、ミサイルサイロ近くの農場で女性の腐乱死体を発見したことから、さらなる混乱に巻き込まれて行った・・・。 思わぬカタチで国家的な陰謀に巻き込まれたヴィクが孤軍奮闘するという、派手な物語。事件の背景に冷戦時代の軍事機密、人種間対立、親子の葛藤など盛りだくさんの要素が含まれ、さらに30年以上前の出来事も絡んで来るので、かなり複雑な展開になっており、いつものスカッとする読後感ではない。 これまでの作品とはちょっと趣きがちがうのは、レギュラー陣がほんの少ししか登場しないこともあるのだろう。 シリーズ読者には新しいヴィクの世界が楽しめるし、本作が初めてのヴィクという読者にも十分に楽しめる作品である。 |
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同じ雑誌に不定期に掲載された6本を集めた短編作品集。主人公が重なる作品が2本あるが、その他は北海道を舞台にしている以外の共通点はない。
どれも作者が得意とする、社会的に不器用で生きづらさを抱えた女性(2本は男性が主人公だが)たちのロードノベルである。 人生に疑問を持ったとき、生きづらさを感じたときに先入観なく読むことをオススメする。 |
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2001年に刊行された連作短編集。1980年代に上京、青春を過ごした一人のコピーライターの挫折と成長を描いたユーモラスな青春小説である。
大学受験に失敗し、1浪するために上京し、大学では演劇部に所属、途中退学して飛び込んだ広告業界で駆け出しコピーライターとしてスタートし、バブルの波に乗って独立し、自分では成功したと考えている若者が、青春が終わり大人の人生が始まることを予感するまでのバカバカしく、ほろ苦い物語。80年代の社会風俗をふんだんに交えながらダイナミックに描いている。 意欲だけは人一倍ながら実態が伴わず、日々の様々な出来事に一喜一憂し、それでも都会を生き抜いてきたすべての上京青年に贈るエールのような作品集である。 50代以上の方にオススメだ。 |
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イギリスの新人作家のデビュー作。サービス精神にあふれた、娯楽ミステリーである。
ロンドン警視庁殺人課の部長刑事ウルフが電話で行くように指示された殺人現場は、ウルフの自宅の真向かいのアパートだった。そこにあった死体は、それぞれ別人から取った頭、胴体、両腕、両足が縫い合わされているというグロテスクなものだった。しかも、頭は4年前にウルフと因縁浅からぬ経緯があった服役中の連続殺人犯ハリドのものであり、右腕の指はウルフの自宅を指し示していた。さらに、ウルフの元妻でテレビレポーターのアンドレアのもとに6人の名前を記した実行日の日付入りの殺人予告リストが届けられ、その6番目にはウルフの名前が書かれていた。ウルフを中心に警察は厳重な警戒態勢を取るのだが、リストの一番目に書かれていたロンドン市長が、予告通りの日に殺害されてしまった。無様な事態に焦った警察上層部は、ウルフを外して捜査を続けようとするのだが、事件に執着するウルフは納得せず、一人で暴走してしまう・・・。 とにかく派手な仕掛けで読者の度肝を抜き、性格破綻者気味の主人公と一癖も二癖もある周辺人物とがぶつかり合い、ストーリーは波乱万丈。シリアルキラーものでは珍しく、犯人視点での部分がまったくないにも関わらずスリリングである。犯行動機、事件の背景などに若干の不満はあるものの、スピード感、キャラクターの立ち具合などが、その欠点を補っている。 連続殺人ものだが恐怖感を煽るようなところがないので、娯楽性の強い犯罪ミステリー、警察小説ファンにオススメだ。 |
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