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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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2005年の山本周五郎賞受賞作。リストラ請負会社の若い社員を主人公にした、5本の連作短編集である。
サラリーマンの人生の分岐点・リストラ(首切り)を仕事とする割には、情に厚く、だが決してウエットではない主人公が、リストラ対象となる人々と繰り広げる人生ドラマ。大時代ではなく、ベトベトしていないところが読みやすさにつながっている。 池井戸潤系のサラリーマンしょうせつのファンには安心してオススメできる。 |
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「退職刑事ビル・ホッジス」シリーズ三部作の完結編。私立探偵対サイコキラーの命を賭けた戦いにオカルトテイストを加えた、サスペンス作品である。
ホッジスの相棒ホリーによって頭蓋骨を砕かれ、体は動かず、周囲との意思疎通もできない植物状態で入院中のメルセデス・キラーことブレイディだったが、その周辺では様々な奇怪な出来事が起こっていた。ブレイディの詐病を疑うホッジスは、メルセデス事件の被害者が無理心中させられた事件現場で奇妙なものを発見し、単なる心中事件ではないのではないかと疑問を持った。病院に閉じ込められているブレイディが関与できる訳は無いと思いつつも、ホッジスとホリーが自分たちの直感を信じて調査を進めていると、二人の身近な人々に危険が迫ってきた。人智を超えたブレイディの悪意は、メルセデス事件で阻止された企みの実現をめざすとともに、ついにホッジスとホリーの命を狙って解き放されたのだった・・・。 サイコサスペンスは悪のスケールが大きいほど面白いというセオリー通り、ホッジスとブレイディの死闘は非常に読み応えがある。ただ、悪を発動させる手段が念動力(テレキネシス)というところで、ミステリーというよりオカルトに流れてしまうのが残念。念動力にすんなりなじめる読者には何の問題も無いのだろうけど。 三部作の完結編で、当然ながら前作までの流れを受けた描写が多いので、本作だけ単独で読むと満足度が半減してしまう。最低でも「ミスター・メルセデス」を読んでから手に取るよう、強くオススメしたい。 |
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ピーター・ダイヤモンド警視シリーズの第5作。風光明媚なバースを舞台に、頑迷ながらどこか憎めないダイヤモンド警視の魅力が満開の警察ミステリーである。
記憶喪失のまま病院で目覚め、社会福祉施設に助けられた若い女性ローズ(仮の名前)は、同部屋になったホームレスの女・エイダに協力してもらい自分の過去を探し始めたのだが、怪しい人物たちにさらわれそうになる。そのころ、事件が無くて手持ち無沙汰のダイヤモンド警視は、農夫のショットガンによる自殺と若い女性のアパートからの転落死という、管轄外の自殺事件の担当を命じられた。気乗りしないまま捜査を始めたダイヤモンドだったが、どちらの事件でも自殺を疑わせる事実に気が付き、殺人事件ではないかと考えて本格的に捜査を進めると、3つの出来事がつながっているのを発見した。 ダイヤモンドの推理によって3つの事件が最後には一本の糸で結ばれていく、警察小説ではよくあるパターンの物語である。が、それぞれの事件が独立して物語性を持っているのでストーリーが生き生きしているし、シリーズ物ならではの人物像の描き方も冴えており、読んでいてワクワクさせる力がある。しかしながら、最後に明かされる犯行動機、犯人の人物像が、それまでの物語に比べて薄っぺらな印象が免れないのが残念。 シリーズ読者には安心してオススメでき、シリーズ未読の人でも十分に楽しめるレベルの作品である。 |
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2014年から16年にかけて雑誌掲載された杉村三郎シリーズの中短編4作を収めた作品集。犯人探しや謎解きが含まれているものの、スリルやサスペンスとは無縁の人情ミステリーである。
それぞれの作品ごとにミステリーとしての仕掛けは施されているのだが、ストーリーの重点は登場人物たちの情と主人公・杉村三郎の人間くささに置かれており、ミステリーを読んでいるという緊張感が無い。ただ、さすがに宮部みゆきというべきで、どの作品も話の面白さに引き込まれていく。 シリーズ作品ではあるが、杉村三郎の背景なども適宜説明されているので、前作を読んでいなくても本書だけで十分に楽しめる。 |
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「刑事ハリー・ホーレ」シリーズで世界的な人気を持つジョー・ネスボのシリーズ外作品。「その雪と血を」に続く作品で、同じようなテイストの叙情的ノワール小説である。
北方少数民族サーミ族が住むノルウェー最北の田舎に、ウルフと名乗る男がやってきた。ウルフはオスロから逃げてきた犯罪組織の始末屋で、親分である麻薬業者から命を狙われている身だった。素性を隠したまま地元の狩猟小屋に住みつき、サーミ族の教会の堂守りであるレアとクヌートの母子と交わるようになったのだが、犯罪組織が差し向けた殺し屋の手は徐々に迫って来るのだった。極北の白夜の地でウルフは、自らの命を守り、レアとクヌートを守るために決死の戦いを決意する・・・。 ウルフが親分から追われるようになった理由、孤独な犯罪者の割には稚拙なサバイバル技能などにより、単純なスーパーヒーローの物語ではなく、人生と愛の物語になっている。犯罪者の悩める心情を丁寧に描写して行くところは「その雪と血を」と同様で、今回は夏には太陽が沈まないという地の果ての風景と独特の文化を持つサーミ族の暮らしとが、物語の陰影を深めている。 「その雪と血を」と同じ登場人物が出て来るが物語としては独立しており、前作を読んでいなくても不都合は無い。ノワール小説ファンに限らず、人間ドラマが中心のミステリーがお好きな方にオススメしたい。 |
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2017年のカンヌ映画祭で高評価を得た同名映画の原作。文庫本110ページのすべてに緊迫感がある、中身の濃いノワール小説である。
元海兵隊員、FBI捜査官で、現在は売春を強要されている少女たちの救出を生業としているジョーのもとに、誘拐された13歳の上院議員の娘を助け出すという依頼があった。救出を妨害するものは躊躇無く金槌をふるって排除する凄腕のジョーは無事に少女を取り戻し、上院議員の待つホテルへ連れて行ったのだが、なぜかそこに上院議員はおらず、待ち構えていた悪徳警官たちに襲撃された。自らは傷を負わされ、助けた少女を再びさらわれてしまったジョーは、猛烈な反撃を開始した・・・。 あっという間に読みきれる中編小説だが、最初から最後まで、いかにも映画の原作らしい映像的で徹底的にハードボイルドな作品である。あらゆる周辺エピソードを削った、まさにノワールの極致のすごみがある。普通にエンターテイメント作品として楽しむには短か過ぎるし、息苦しさを覚えるだろうが、独特の味わいを持った作品である。 アンドリュー・ヴァクスのファンならオススメだ。 |
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ちょっと幻想的な7本のお話を集めた短編集。
それぞれに特徴的な仕掛けがある話ばかりで、どれも長編になればきちんとしたホラー、ファンタジー、サスペンス作品になるのだろうが、短編のため、そこまでの完成度は無い。表4の解説にある「ストーリーテリングの才に酔う」というのが、この本の楽しみ方である。宮部みゆきのミステリーを期待すると、肩透かしされた気分になるだろう。 |
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ピーター・ラヴゼイの代表作である「ダイヤモンド警視」シリーズの第4作。密室ミステリーの面白さをテーマにした、軽めの警察ミステリーである。
世界最古と言われる切手「ペニー・ブラック」が、バースの郵便博物館から盗まれた。数日後、ミステリー愛好者の集まり「猟犬クラブ」の会合で会員のマイロが読み上げようとしたディクスン・カー「三つの棺」の中に、「ペニー・ブラック」がはさまれていた。さらに、運河に浮かぶボートで暮らしているマイロが帰宅してみると、船内では猟犬クラブの会員であるシドの死体が横たわっていた。死体があった船室は施錠されており、1本しかない鍵はマイロが所持しており、しかもマイロには完璧なアリバイがあった。どうやって密室での犯行が可能だったのか? ダイヤモンド警視たちと猟犬クラブ会員たちは、知識と推理を総動員して密室トリックの解明に挑戦し、犯人との知恵比べに乗り出した・・・。 犯行の動機や背景は二次的で、もっぱらミステリーの歴史と密室トリックにまつわるあれこれを楽しむ物語である。今どきはそれほど人気があるとは言えない密室ものだが、ミステリーファンならだれもが通過儀礼として一度ははまる面白さを持っていることが再確認できた。さらに、バースという街の情景、登場人物たちの個性が見事に描かれており、シンプルな物語ながら読み応えがある。 シリーズ読者であるか否かを問わず、多くのミステリーファンにオススメできる傑作エンターテイメント作品である。 |
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ドイツでは警察ミステリーのシリーズで人気が高い作家の日本初登場。凄腕の女性刑事弁護士が主役という、これまでにない設定のエンターテイメント・ミステリーである。
20人の職員を抱える弁護士事務所の代表で刑事事件が専門のラヘル・アイゼンベルクのもとを、ホームレスの少女が助けを求めて訪れた。ホームレス仲間の男が若い女性を殺害した容疑で逮捕されたので弁護して欲しいという。金にはならないだろうがマスコミの注目を集めるのではないかという思惑で弁護を引受けたラヘルが拘置所で出会った容疑者は、彼女の元恋人で優秀な物理学教授だった。彼は何故ホームレスになり、容疑者になったのか? 検察側が持ち出した証拠は万全に見え、これを覆すのは至難のわざと思えたのだが、ラヘルは違法スレスレの調査も辞さず、あらゆる手段で元恋人を救い出そうとする・・・。 元恋人を救出する裁判劇がメインストーリーで、それに絡んで来るのがコソボから脱出しドイツに避難しようとした女性が襲撃された事件。二つの事件は、意外なカタチでつながり、二転三転しながら衝撃的なクライマックスを迎えることになる。どんでん返しというより、一筋縄では行かない話のねじれが面白いのだが、逆転を重視するあまり逆転の背景や理由がややおろそかになっている。ヒロインのラヘルを始め、主要登場人物のキャラクターは上手く造形されているのだが、その言動に深みが無いのが惜しい。 これまでのドイツ・ミステリーにはないスピーディーで波乱に富んだストーリー展開で読ませる作品であり、英米系の弁護士もののファンにも十分に楽しめるエンターテイメント作である。法廷ものファンというより、サイコ・ミステリーファンにオススメだ。 |
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各作品の周辺登場人物が別の作品の主人公になっていくという構成の短編集。全作品すべて下ねたで笑わせる、古い言葉で言えば艶笑作品ばかりである。
登場人物がみんな下流というか、しょぼくれた人物ばかりで、そこに面白みを感じれば楽しめる作品である。 個人的には面白かったが、オススメ作品かと言われれば躊躇せざるを得ない。 |
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キャシー・マロリーシリーズの第9作。子供が被害者になるという、いつもの犯罪捜査パターンだが、舞台をルート66に設定してアメリカ大陸を横断し、マロリー自身のルーツを辿る物語でもある。
マロリーの自宅で女の死体が発見され、しかもマロリーの行方が知れない。女性は自殺したのか、マロリーが殺害したのか? 居ても立っても居られないライカーはクレジットカードの利用歴から、チャールズと一緒にマロリーの後を追いかけることにした。改造したフォルクスワーゲン・ビートルでルート66を走るマロリーの目的は、顔も知らない父親が書き残した手紙を元に父の旅路を辿ることだったのだが、ルート66上で子供たちの遺骨が発見された事件に遭遇したことから、その捜査に巻き込まれて行った。捜査現場では、無能なFBI捜査官と地元警察との軋轢があり、さらに行方不明の子供たちを探したい親たちのキャラバンは無秩序に膨張し、次第に状況は混沌として来るのだったが、氷の女・マロリーはそんな周囲とは関係なく犯人を追い詰めていく。 アメリカのマザー・ロードと言われるルート66を舞台に、新旧さまざまな家族の物語が展開されるのだが、基本はスーパー刑事・マロリーの超人的な活躍という、いつものパターンである。今回は、それに「父親探し」という、ややウェットな部分が加えられ、マロリーの人間性に多少の変化が見られるところが新しい。 マロリーのルーツを巡る物語だけに、これまでのシリーズを読んでいないとストーリーが理解しにくいし、登場人物のキャラクターも前作までの背景を前提にして描かれているので、シリーズ読者以外にはオススメできない作品である。逆に言えば、シリーズ読者には必読の作品と言える。 |
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本国はもちろん、ヨーロッパ、日本でも人気が高まっている「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第6作。少女殺害遺棄事件をきっかけに、テレビや警察をも巻き込んだ凶悪犯罪を暴いていく社会派警察小説である。
フランクフルトの街中を流れる川で長期間にわたって虐待されていたと思われる少女の死体が発見された。オリヴァーのチームの懸命の捜査にも関わらず身元不明のままで二週間が過ぎた頃、テレビの女性人気キャスターが何者かに激しく暴行され、瀕死の重傷を負うという事件が発生。キャスターは独善的で敵の多いキャラクターだっただけに、犯人探しは混迷する。さらに、今度は人気キャスターの相談相手になっていた心理療法士が襲撃された。一連の事件は、同一犯によるものなのか? ピアを中心とするメンバーたちが捜査の結果行き着いたのは、想像を絶する巨悪の存在だった。 少女殺害事件の捜査から始まったストーリーは、あちらこちらに飛び火し、最後に無理やりまとめられたような落ち着かなさがある。前半でいろいろ張られていた伏線が、いつの間にやら回収されてしまっていた。全体に話を広げ過ぎた感じで、警察ミステリーとしては落ち着きが悪い作品である。 ただ、主要登場人物たちの人間関係の変化という意味では見逃せない一作であり、シリーズ読者には絶対のオススメ。北欧系の警察小説ファンにも、安心してオススメできる。 |
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ジャン・レノ主演で日本でもヒットしたフランス映画の原作。派手な事件と個性的な登場人物でどんどん突っ走っていく、サスペンス作品である
フランス東北部の山間の大学町で発生した、残酷な連続殺人事件。そこから300キロほど離れた田舎町で発生した、小学校への盗難事件と墓荒し。無関係に見えた二つの事件捜査が、それぞれに個性的な二人の刑事の執念深い捜査によって交わり、忌まわしい真実が明らかにされるという、ありがちな構成のミステリーだが、二人の刑事の個性が際立ち、しかもストーリー展開が早いのでぐんぐん引き込まれていく。そのスピードとサスペンス、アクションはまさに映画向きである。 主人公の一人、ニエマンス警視正はまさにジャン・レノをイメージしながら造形したのではないかと思うぐらいぴったり。映画を見た後に読むのでも、読んだ後に見るのでも、どちらでも楽しめるだろう。ただ、派手な事件の様相の割に、犯罪の動機や背景が粗雑で、ミステリー小説としてはやや評価を下げたくなった。 ピエール・ルメートルなど、近年人気のフレンチ・ミステリーの先駆けとして一読しておいて損は無い。 |
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北海道の田舎町(夕張市をイメージした)を舞台にした連作短編集。いつまでたっても何も起きないような、寂れる一方の町でも起きる人々の交流を暖かく描いた人情話である。
田舎ゆえの生きづらさと田舎ならではの優しさが、ちょっとしたエピソードと細やかな心情描写で丁寧に描かれており、まさに流行らない理髪店で渋茶を飲みながらの井戸端会議をしているような読後感である。 宮部みゆきの人情話などがお好きな方にはオススメだ。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第13作。今回はイタリアを舞台にした犯罪捜査ミステリーである。
ニューヨークで白人ビジネスマンの誘拐事件が発生。犯人は被害者が首を吊られそうになっている動画と被害者の苦痛の声をサンプリングした音楽をサイトにアップし、コンポーザーというクレジットを付けていた。ライムたちは監禁場所を突き止めて被害者を救出したのだが、コンポーザーには逃げられてしまった。その二日後、イタリアでリビア難民の男性が誘拐される事件が発生。現場には、ニューヨークの事件と同じ犯人を示唆する証拠が残されていた。イタリアの捜査当局から資料提供を求められたライムたちは、資料を送るのではなく、本人たちがイタリアに飛んで捜査に関わろうとしたのだが、担当検事に関与を拒否されてしまった。さらに、アメリカ領事館からアメリカ人の若者がレイプ容疑で逮捕された事件への協力も依頼され、コンポーザー事件に専念できなくなったライムたちだったが、困難な状況にもめげず、犯人を追跡し、事件の真相に迫っていくのだった・・・。 舞台がイタリアに移り、いつものメンバーではアメリアとトムしか登場しないこともあって、捜査状況がこれまでの作品とはかなり異なっている。証拠の徹底した科学的分析から犯罪を解明する理屈っぽさが少なく、お得意のどんでん返しも小粒で、普通の警察小説っぽいテイストになっており、あくどいまでのリンカーン・ライム節に辟易してきた読者には読みやすいだろう。また、イタリア側の捜査陣のキャラクターが秀逸で、人間ドラマとしての完成度は、いつもの作品より高いと言える。 ライム・シリーズ読者には必読。警察小説ファンには安心してオススメできるエンターテイメント作品である。 |
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「ミスター・メルセデス」で始まった「退職刑事ビル・ホッジス三部作」の第二作。前作同様、犯人は分かっていて、次の犯行を防ぐためにホッジスたちが奮闘する私立探偵もののバリエーション作品である。
物語の発端は、隠遁している老作家の家に強盗が押し入り、作家を殺害した上に現金と未発表原稿を奪ったこと。老作家の愛読者だった強盗の主犯のモリスは、仲間割れした後、現金と原稿をトランクに詰めて隠した。30数年後、トランクを偶然に見つけたのが13歳の少年ピートだった。実は、ピートの父はメルセデス事件に巻き込まれて負傷し、働けなくなっており、生活苦から夫婦仲が悪化し、離婚の危機に直面していた。トランクで見つけた現金があれば両親が仲直りでき、元の家庭が戻るのではないかと考えたピートは、現金と原稿を家の中に隠し、現金を少しずつ父親宛に郵送することにした。それから4年、現金が尽きたため、ピートは今度は原稿を売ることを考え始めるのだが、ちょうどそのころ、服役していたモリスが仮釈放で出所し、トランクを回収しようとする。隠しておいた宝物を盗まれた盗人と偶然宝物を見つけた少年の手に汗握る攻防戦が始まった。当然のことながら、ホッジス、ホリー、ジェロームの三人は少年ピートの助っ人として問題解決に乗り出していく。 ストーリーの中心はピートとモリスの原稿争奪戦で、ホッジスたちの役割りはサブの扱いである。さらに、老作家の原稿の重要性、価値を強調するためのエピソード類が多いため、全体にやや緊迫感に欠ける。特に、上巻ははっきり言って退屈な部分がある。それでも、ピートとモリスが交差する辺りからはサスペンスが盛り上がり、満足できるレベルに仕上がっている。 前作を受けたエピソードが多いので、できるだけ第一作「ミスター・メルセデス」から読むことをオススメする。 |
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元CIA分析官という経歴の女性作家のデビュー作。自らの経験を生かしたという、アメリカの情報機関とロシアのスリーパーの戦いを描いた作品である。
CIAでロシアのスリーパー対策を担当しているヴィヴは、苦労の末に突き止めたロシア側ハンドラーのパソコンでスリーパーたちの画像を発見する。しかし、その中に夫であるマットの写真が含まれていたことに驚愕し、すぐに上司に報告すべきところをためらい、そのまま職場を出てしまった。10年間共に過ごし、4人の子どもと一緒に幸せな家庭を築いてきたはずの夫は、ロシアのスパイなのか? 悩みに悩んだ末に、「いつからロシアのために働いているの?」と問いかけたヴィヴにマットは「二十二年前だ」と答えた。子供たちを守るために秘密を守るのか、国家に忠誠を尽くすために夫を告発するのか。ヴィヴはマットへの不信感に葛藤しながらも、家族を維持するために苦闘するのだった。 スパイ小説ではあるが、一級のスパイ小説が持つヒリヒリした緊張感は無い。むしろ、嘘を吐いてきた相手との不信と愛情のドラマという心理サスペンスとして成功している。もうすでに映画化が決定しているようだが、確かに映画向きのストーリーである。 本格的諜報小説ファンにはやや物足りないだろうが、ホラーではない心理サスペンス好きにはオススメできる。 |
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週刊紙の連載をベースに加筆修正したという、ボッシュ・シリーズの第13作。シリーズの中では短めで、展開にスピード感があるサスペンス作品である。
ロス市内を見渡す展望台で、後頭部に2発の弾丸を撃ち込まれた男性の死体が発見された。犯行の様相からギャングがらみの処刑かと思われ殺人事件特捜班の出番となったのだが、調べて行くとテロリストが関与している疑いが浮上し、FBIが乗り出してきた。前作「エコー・パーク」で因縁があったレイチェル捜査官をはじめとするFBIと鋭く対立しながらの捜査となったボッシュだが、独自の鋭い推理で犯罪の裏に隠された真相を見つけ、複雑な事件をスピーディーに解明して行った。 事件発生から解決までが半日ほどなのでストーリー展開がテンポよく、すいすいと読みすすめられる。にも関わらず、事件の構造は複雑でサスペンスがある。いつもは力業で事件をねじ伏せて行くイメージのボッシュだが、今回はわずかな証拠から鋭い推理を発揮する知性派の一面を見せてくれる。そういう意味ではシリーズ読者には必読の一冊であるが、シリーズ読者以外でも楽しめる警察ミステリーである。 |
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2006年〜09年の雑誌連載を大幅に加筆修正した、文庫オリジナル作品。文庫700ページを越える長編ながら構成がシンプルで読みやすい、青春小説である。
社長の息子という立場は同じながら、実態は全く違う二人の「あきら」。伊豆の片田舎の零細工場の長男・山崎瑛は、小学5年生のときに父の工場が倒産し、辛酸をなめながらも持ち前の向上心で東大を卒業し、大手都市銀行に就職する。一方、海運業の大手企業の御曹司として育った階堂彬は、同じく東大を卒業すると、家業の後継者となることを嫌って、山崎瑛と同じ銀行に就職した。新入社員当時からお互いの才能を認め合っていた二人は、階堂彬の実家の事業がバブル崩壊から苦境に陥ったことを受け、立場は異なりながらも協力してその難問に立ち向かって行く。その二人を支えたのは、幼い頃の経験から培われた「何のために生きるのか」という信念だった。 池井戸潤のホームグラウンドである銀行業界を舞台に繰り広げられる若者たちの成長物語。池井戸ファンには読み慣れた物語で、700ページを少しも長いと感じさせない。主人公二人はもちろん、周辺人物のキャラクターも丁寧に造形されており、ストーリー展開に深みを与えている。ただ全体に流れが淡白で、ドキドキ感が無いのが惜しい。 池井戸ファンにはもちろん、明るめの社会派小説のファンにはオススメしたい。 |
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ストックホルム警察の腕利き刑事を主人公にした新シリーズの登場作。北欧の警察小説にしては派手なアクション系ミステリーである。
27歳にして特捜班に抜擢された刑事ザック。彼には5歳の頃、刑事だった母が殺害され、事件が迷宮入りになったことで深い心の傷を負い、いつか犯人を捜し出すという強迫観念から警察入りしたという過去があった。ある日、タイ人のマッサージ嬢4人が惨殺される事件が発生し、ザックたち特捜班が担当することになった。タイ人を狙った人種差別事件と思われた事件だったが、捜査を進めるとマッサージ(つまり売春)利権を巡る犯罪組織の抗争の様相が見えたり、サイコパスによる単独犯行のようにも見えてきた。さらにタイ人売春婦が狙われる事件が発生し、ザックたちは寝る時間も無いほど追い詰められて行った・・・。 型破りの敏腕刑事が暴走気味に突っ走って、最終的には犯人を挙げるというのは珍しいことではないのだが、本作の主人公ザックの暴走というか、壊れ具合いは半端ではない。薬はやるは、容疑者に暴力を振るうは、不法侵入をするは、やりたい放題である。それでも読者が納得できるのは、犯人の残酷さが尋常ではないから。犯人追跡ミステリーは、犯人のあくどさが際立つほど面白くなるという法則通りの作品である。社会派ミステリーではあるが、これまで好評を博してきた北欧警察小説とは若干異なる毛色の作品であり、どちらかと言えばアメリカの刑事物に近い。 アクション系ミステリー、スーパーヒーロー系の警察小説ファンにオススメだ。 |
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