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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数653件
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スペインでベストセラーを記録した匿名女性作家のデビュー作。猟奇殺人事件の驚天動地の真相を描いた警察サスペンス・ミステリーである。
マドリードの公園で頭に穴をあけ、蛆虫を埋め込むことで若い女性を殺害するという猟奇的な事件が発生した。被害者は結婚を目前にした花嫁であるばかりでなく、姉も7年前に同じ手口で殺害されていたのだった。しかも、姉の事件の犯人は現在服役中だという。ということは、服役中の犯人は冤罪で他に真犯人がいるのか、それとも模倣犯なのか? この難事件を担当するのはスペイン警察捜査本部長直属の精鋭「特殊分析班」で、リーダーのエレナ・ブランコ警部をはじめとする個性的なメンバーが各々の特技を駆使し、二つの事件をつなぐ深い闇を暴いていく…。 まず第一に事件の様相が、これまでのサイコ・サスペンス作品と比べても際立って印象的なほどおぞましく、強烈なインパクトを残す。さらに、事件の真相が明らかになったとき、そこからさらに深い谷に突き落とされるような怖さが襲ってくる。読み終えても爽快な読後感は皆無だが次作を待ち望んでしまう、第一級のサイコ・サスペンスである。また、ブランコ警部をはじめとするメンバーのキャラクター、警察組織内部の軋轢、スペイン社会におけるロマ(いわゆるジプシー)族の立ち位置などのサブストーリーも魅力的。スペインでは大ヒットし、すでに3作目まで刊行されているというのも納得できる。 サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにオススメする。 |
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アメリカの女性作家の初ミステリー長編で2018年のMWA最優秀長編賞ノミネート作品。ダラス市警麻薬捜査課の女性刑事が体を張って難事件に取り組んでいく、警察ハードボイルドである。
NY市警からダラス市警に転職したベティはテキサスでは数少ない女性刑事として、保守的な社会や男性警官と衝突を繰り返しながらも実績を上げてきた。ある日、チームリーダーとして臨んだ捜査が思わぬハプニングで失敗し、逮捕をもくろんでいた麻薬カルテルの大物ディーラーが逃亡、さらに殺害されるという事態に陥った。カルテルの口封じなのか、縄張り争いなのか、執念の捜査を続けるベティのもとにディーラーの頭部が届けられという脅迫を受けた…。 180㎝を超える長身、男性警官をしのぐ身体能力、男性社会の圧力にへこたれないタフな精神の持ち主であるヒロインは、さらに女性医師と同棲するレズビアンであり、燃えるような赤毛という目立ちすぎる存在でもある。それだけに周囲のすべてと戦うことになり、並のハードボイルド・ヒーローには思いもつかないハードなストーリーが展開される。その破壊力はランボーかアマゾネスかと思うほど。 アクション・サスペンスがメインのハードボイルドのファンにオススメする。 |
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「闇という名の娘」、「喪われた少女」に続くアイスランドの女性刑事・フルダシリーズ三部作の完結編。猛吹雪に襲われたクリスマス直前の時期にアイランド高原地帯の孤立した農場で起きた悲劇の事件を巡る、謎解きミステリーである。
1987年のクリスマスを目前にした猛吹雪の日に、集落から遠く離れた農場で暮らすエイーナルとエルラ夫婦の家に一人の男が現れた。こんな天候の日に人が訪れることなどありえないと思ったのだが、狩猟中に迷ったという男の言い分を信じて招き入れ、泊まらせることにした。すると、男の話はあいまいで、夜中に家の中を探っているようだった。不安を感じた夫妻は男を問い詰めようとして、逆に殺されてしまう。同じころ、フルダは若い女性の失踪事件を追っていたのだが成果を上げられず、しかも反抗的な娘・ディンマのために家庭内でも深刻な悩みを抱えていた。ここまでが、第一部。第二部は、その二か月後、エイーナルとエルラの死体が発見され、捜査のためにフルダが派遣される。そこでフルダが見つけた事件の真相は…。 第一部で思い込まされていた事件の構図が第二部で大逆転されるのが、本作の成功の要因。ワイダニットのだいご味が味わえる。本シリーズは第一作から三作へ年代をさかのぼっていくという特異な構成の三部作であり、読む前から本作で悲劇が起こることは分かっているのだが、それでもサスペンスを感じながら読み進められる。 逆年代記のシリーズなので、第三作の本書から読み始めても問題ないが、やはり第一作から読む方が断然面白い。北欧ミステリーのファンなら絶対に大満足できるだろう。 |
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2011年から12年にかけて「オール読物」掲載6作品の短編集。黒川ファンにはおなじみの書画・骨董の世界を舞台にした狐とタヌキの化かし合い話である。
常識人なら絶対に近づかないであろう「だまされた方が悪い」という世界での真剣勝負の知恵比べ。魑魅魍魎同士の金とプライドを賭けた駆け引きが面白い。騙したはずが騙されていた欲望まみれの人間の愚かしさと可笑しさが極上の大阪弁と相まって、痛快なエンターテイメント作品に仕上がっている。 疫病神、大阪府警の2大シリーズとは異なる、気楽な読み物として、今後も新作を期待したいシリーズである。 |
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ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのノンシリーズ作品。コロラド州デンヴァーに暮らす平凡な男が妻と養女を守るために、西部劇の主人公のように奮闘するハードボイルド・アクションである。
デンヴァー市の観光協会に勤めるジャックは愛する妻・メリッサと8か月になる養女と幸せな日々を送っていた。しかし、養女の実父である18歳の少年・ギャレットが突然親権を主張し、養女を引き渡せと言ってきた。しかも、ギャレットの父親は地域の有力者で法曹界に影響力がある連邦判事で、三週間以内に引き渡さないと法的な実力手段を実行すると言う。法的には勝ち目がなく、何とか穏便に親権を放棄してもらいたいと願うジャックとメリッサだったが、生まれつきのワルであるギャレットは仲間を引き連れて二人に様々な嫌がらせを仕掛けてきた。ジャックとメリッサに味方する友人たちが助けてくれていたのだがギャレットの嫌がらせは止まず、ついには友人の命まで奪うに至り、ジャックは法に従うことを拒否し、銃で家族を守ろうとする…。 法と秩序より銃と情理を優先する典型的なアメリカン・ヒーロー物語である。そのために、悪はあくまでも残酷で卑劣に描かれている。自分が信じる正義のためには殺人も辞さない、まさに西部劇、日本の仁侠映画の世界である。 基本的なテイストはジョー・ピケットものと同じで、シリーズ・ファンなら安心して楽しめることを保証する。 |
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1993年~97年に雑誌掲載された7作品を収めた短編集。同じタイトルで3冊あるようだが、今回読んだのはポプラ文庫版(2016年)。
扱われているのは麻雀から手ホンビキ、ブラックジャック、バカラなど様々だが、いずれもギャンブラー心理をつかんだストーリー、心理描写で面白い。特に麻雀の読み、カジノでの必勝法などは実践的かもしれないが、ギャンブルをしない読者でも軽い読み物として十分に楽しめる。 |
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フランスの人気警察小説「マルタン・セルヴァズ警部」シリーズの第4作。セルヴァズの宿敵・ハルトマンが帰ってきて、命を賭けた戦いを繰り広げるサスペンス・ミステリーである。
ノルウェーの教会で発見された女性惨殺死体にオスロ警察の女性刑事シュステンの名前が記されたメモが残されていたため、シュステンは被害者が働いていた北海に浮かぶ石油プラットフォームに飛んだ。そこでシュステンは悪名高き殺人鬼・ハルトマンのDNAを発見し、さらに部屋に残されていた大量の隠し撮り写真を見つけた。被写体がフランスの警部・セルヴァズであることを知ったシュステンはフランスに赴き、セルヴァズとの合同捜査を申し込む。最初は反発を覚えたセルヴァズだったがシュステンの熱意に応え、捜査に力を入れ始めたのだが、丁度そのころ、セルヴァズが過剰な暴力をふるったという訴えがあり、自由に動き回ることが難しくなり始めた。それでも二人は力を合わせハルトマンを追い詰めるのだが、ハルトマンが張り巡らせた奸計が二人の前に立ちはだかった…。 文庫本で700ページ近い長編で前半部分は展開が遅く、中だるみもあり、物語の骨格となる部分にルール違反的な仕掛けがある(最後の方で判明する)のも白ける。それでも最後まで読み続けられたのは、何と言っても悪役・ハルトマンの存在感が際立っていること。レクター博士には及ばないもののなかなかのキャラクターである。シリーズ第1作~第3作は未読なのだが、十分に楽しめた。 フレンチ・ミステリー、北欧ミステリー、サイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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ボッシュ・シリーズとしては第21作、深夜担当刑事・バラードものとしては第2作、二人がタッグを組むのは初めての作品。15歳の家出少女が殺害された未解決事件を、ボッシュ、バラードが協力して解決する警察サスペンス・ミステリーである。
バラードが深夜の出動からハリウッド署に戻ってみると、誰もいないはずのオフィスで古い事件ファイルを漁っている男がいた。ボッシュと名乗った男を追い出したバラードだったが、彼が見ていたファイルに興味を引かれボッシュとともに再捜査することになった。事件は、ボッシュの管轄外であるハリウッドで起きたものだったが、被害者の母親とボッシュにはある因縁があったのだ。またバラードは女性が被害者になった暴力事件を許すことができず、本来の職務以外の「趣味の捜査」として上司を説得し、日常業務外に寝る間も惜しんで捜査に取り組んだ。一方ボッシュも本来の仕事である地元のギャング絡みの事件を抱えており、その身辺には危険が迫っていた。二人それぞれの事情を抱えながらの捜査は困難を極めたが、粘り強く真相に近づいて行った…。 ボッシュ、バラードそれぞれの職務と共同で取り組む未解決事件とが入り混じり、やや散漫な印象があるもののオーソドックスな警察捜査ミステリーとして十分に楽しめる。ただ事件の派手さの割に犯人像が小粒なのが残念。 ボッシュ・シリーズ、バラード・シリーズのファンにオススメする。 |
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江戸川乱歩が高く評価したことで有名なイギリス本格派の古典的ミステリー。スコットランドの片田舎の古城に暮らす没落地主の墜死事件の真相を解く、トリッキーな謎解きミステリーである。
けた外れのケチとして地元民から疎まれていた没落地主ラナルドが、嵐(大雪と強風)の夜に自分の古城の塔から墜落死した。自殺か他殺か不明で、しかも一緒に暮らしていた姪のクリスティーンは事件の直前に恋人と駆け落ちしていた。謎に包まれた事件は、地元の関係者、雪を避けて偶然、白に身を寄せていた青年、地主の遺産相続にかかわる弁護士、捜査官らがそれぞれの視点から真相を語り、それらが合わさって複雑な物語が見えてくる。 舞台も時代も古色蒼然。ストーリー展開も極めてゆっくりで、前半部分は退屈と言える。しかし、事件を引き起こした背景、事件の様相が明らかになるとがぜん、ミステリー色が濃くなり、どんでん返しや伏線の回収も見事で読みごたえがある。1983年の作品だが、2021年の新訳(創元推理文庫)なのでとても読みやすい。 英国本格派謎解きミステリーのファンにオススメする。 |
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2000年前後に雑誌掲載された3作品を収めた短編集。3作とも「青春小説」というくくりに入るのかもしれないが、全編に行き場のない、やるせない、重苦しい雰囲気が横溢し、読後感はあまりよくない。それでも一応は読ませるのは、吉田修一ならではの独特な視点が効いているからか。
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2020年の英国推理作家協会シルバーダガー賞候補になったという、日本初紹介作家の作品。アイルランド沖の島での結婚式を舞台にした、犯人捜し、被害者探しの孤島ミステリーである。
アイルランド沖の小さな孤島で女性起業家とテレビスターという、今を時めく二人の豪華な結婚式が行われた。似合いのカップルを祝福するために家族、友人が集まったのだが、それぞれの人に隠された過去や思惑があり、パーティーが進むほどにそれが表面化し、ぶつかり合うことになる。そして宴たけなわとなった嵐の夜、ついに殺人事件が発生した…。 誰が殺したのか、なぜ殺したのかはもちろん、誰が殺されたのかもなかなか明かされないのがユニーク。主要な登場人物たちの視点から語られるエピソードの積み重ねで物語が進行するのだが、ストーリーが展開するたびに想定する犯人、被害者が入れ替わっていくのが読みどころ。英国本格派謎解きミステリーの系譜を受け継ぎながら舞台や人物が現代的なところも面白い。 古典的ミステリーのファン、軽めの謎解き物のファンにオススメする。 |
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元プロのスカッシュ選手という異色の経歴を持つ新進女性作家の初邦訳作品。ロサンゼルスに暮らす6人の女性たちの、どうにもならない悲しみをドラマチックに描いたヒューマンドラマである。
LAのサウスウエストで起きた連続女性殺人事件は13人の犠牲者を出したところで新たな事件が起こらず、犯人が不明のまま捜査打ち切りとなった。それから15年後、同じ手口の事件が発生した。同一犯人が、また犯行を再開したのか? なぜ犯行が中断されていたのか? かつて事件に直接、あるいは間接的に関係していた6人の女性たちは再び事件に巻き込まれ、運命を狂わされていくことになった。 15年前に襲われながら生き残った女性、娘が犠牲者となった女性、新たな犠牲者、捜査に携わる女性刑事など、6人のそれぞれに異なる悲劇と生きづらさの告白が連続短編集のようなつながりで展開され、やがては事件の解明につながるという構成で、犯人捜し、謎解き、サスペンスというより、現在でも繰り返されている女性差別への怒りの方が印象に残る。 2021年のエドガー賞最優秀長編賞の最終候補となった作品だが、ミステリーとしてはいまいち。卑しい街で生きていかざるを得ない女性たちのドラマとして読むことをオススメする。 |
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映画化されて話題になった「眺めのいい部屋売ります」の作家によるミステリー風味のロマンス小説。
少女が幼い弟を焼殺したという衝撃的な事件の陪審員となった50代の女性カメラマンが同じ陪審員仲間の40代の医師に惹かれ、情事におぼれていくというのがメインストーリーで、サブとして裁判で事件の真相解明が進んで行く。少女が真犯人か否かという興味はあるものの、事件の解明は中途半端。しかし、ヒロインの女性の情事に流されていく心理描写は綿密でリアリティがある。 秘めた情事が明かされていくプロセスがミステリーと言えば言えなくもないが、ミステリーだけを期待して読むと肩透かしである。 |
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2020年に発表された北海道警・シリーズの最新作。大通警察署のおなじみの面々が、雪まつり前夜の札幌市内で外国人実習生を食い物にする犯人を追跡する警察ミステリーである。
雪まつりを翌日に控えたあわただしい札幌の街中で2台の車がカーチェイスを繰り広げ、拳銃が発射された。その数時間前、ドライバーがコンビニに寄った隙に車を盗まれるという盗難事件が発生していた。拳銃を発射した方の車が盗難にあったものだったことから二つの事案はつながり、背景に外国人支援団体の姿が見え隠れした。人道的支援団体がなぜ狙われたのか? その糸を操っているのは外国人実習生制度を悪用する暴力団だった…。 おなじみのメンバーが日本の警察らしく法規にのっとって犯人を割り出していく、王道の警察ミステリー。驚くようなことは起きないが、その分、安心して読むことができる。 シリーズ読者はもちろん、日本の警察ミステリーのファンには絶対満足できる作品である。 |
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スウェーデンを代表する人気作家の3冊目の邦訳、ベックストレーム警部シリーズの第2作。折り紙付きの無能警部がなぜか難事件を解決してしまう、ユーモア警察ミステリーである。
アル中で一人暮らしの年金生活者の男が殺された。ほかに手すきの警部がいなかったため捜査を担当することになったベックストレームたちは極めてありふれた事件だと思ったのだが、被害者の友人や同じアパートの住人は曲者ぞろいで捜査は思惑通りには進まなかった。さらに、事件の第一発見者である配達員が死体で見つかり、話は複雑怪奇になっていく…。 前作同様、クソみたいな人格欠陥者で怠け者のベックストレームがいつの間にか事件を解決し、国民的英雄になるという法螺話的な物語なのだが、前作に比べると謎解き部分がしっかりしており、ミステリーとして楽しめる部分が多く、これならシリーズとして継続していけるだろう。 ユーモア・ミステリーのファンにおススメする。 |
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2019年から21年にかけて文芸誌に連載された長編小説。ブラジル移民の間で繰り広げられた「勝ち負け抗争」をテーマにした現代史サスペンスである。
1934年、親族とともにブラジルに移民した12歳の比嘉勇は移住した殖民地で同い年の南雲トキオと出会い、意気投合し、無二の友として切磋琢磨しながら青年期を迎える。だが、日本の戦争の影響がブラジルまで及んできて、二人は別々の道を歩むことを余儀なくされた。さらに、ブラジルの日本人社会では日本が戦争に勝ったのか負けたのかを巡る「勝ち負け抗争」が起き、二人は決定的に対立することになった…。 今の時点で振り返れば考えるだに馬鹿馬鹿しい「日本は勝った」という風説が優勢だったという状況は、いかにして生まれたのか。日本の勝利を信じるしか自尊心を保つ道がなかった移民たちの悲しみがじわじわと伝わってくる。いつの時代でも「人は自分が信じたいものだけを見る」という愚かしさは、現在のネット言論の異常さを見れば明らかで、情報量の多寡とは無関係であることがよく分かる。読み取るべき教訓が極めて多い作品である。 歴史に埋もれてきた興味深いエピソードを、現代的テーマに沿って読みやすく仕上げた傑作エンターテイメントとして、多くの方にオススメしたい。 |
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「ブルース」の続編となる連作短編集。ブルースの主人公・影山博人の義理の娘・莉菜が義父の亡き後を継いで釧路の街を制御しながらも、最後には街を出てゆく、ダークヒロインの半生記を描いたハードボイルドである。
自分のミスで義父を殺害されたという贖罪意識を抱えたまま莉菜は、父に代わって釧路の裏側に君臨し、ひたすら父の子である松浦武博を一流の政治家に育てることを目指す。目的のためには冷酷非情に振る舞い、信念を貫き通した莉菜は、武博が一人前に育ったのを目撃すると自ら釧路の街から姿を消した。 「ブルース」で強烈な印象を残した6本指の男・影山博人の後継者にふさわしい莉菜のキャラクターが、前半部分の読みどころ。後半は、アウトローの道を歩んできた女が自分で自分に決着をつける孤独とプライドが泣かせるハードボイルドである。 前作「ブルース」を踏まえた物語なので、先に「ブルース」を読むことをオススメするが、本作だけでも問題なく楽しめる。 |
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ドイツでは大人気の警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」の第2作。殺人事件被害者と過去の事件が複雑に絡み合う警察ミステリーである。
クロイトナー上級巡査は偶然、殺人の現場に居合わせた。被害者は顔見知りの男で、2年前に失踪した恋人にDVを加えていた乱暴者だっただけに、容疑者の数に不足はなかった。しかし、殺される直前に「ある弁護士が、失踪した恋人の行方を知っている」と告げられていたクロイトナーは、自分が事件を解決すると張り切って独自の捜査を進めようとする。一方、ヴァルナー首席警部は被害者の身辺調査から容疑者を絞り込もうとして、2年前の出来事が複雑に関係していることに興味を持った。事件の背景には弁護士の詐欺まがいの金銭トラブルが絡んでいたのだが、警察はその真相を知らず、捜査は混迷するばかりだった…。 デビュー作「咆哮」同様に本筋は犯人捜し、動機の解明という王道の警察ミステリーだが、肝心の警察の捜査力に難点があり、ミステリーとしてはやや物足りない。代わりに、被害者を中心にした人間ドラマの側面は複雑で面白い。また、シリーズ作品らしく登場人物の関係性が変化を見せていくのも読みどころ。特に、堅物・ヴァルナー首席警部が恋に陥るエピソードは今後の展開に興味を持たせるものである。 派手ではないが読みごたえがあり、北欧ミステリーのファンにはおススメできる。 |
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「ワニ町」シリーズの第4作。おなじみの湿地チームの3人がドタバタと難問を解決する、安定のユーモア・ミステリーである。
シンフルに潜伏し始めて三週間がたち、嫌な出会い方をしたイケメン保安官助手・カーターとも仲良くなり、初デートに臨むことになったフォーチュン。アイダ・ベル、ガーティに大騒ぎの末にデート衣装を整えられ、いざ雰囲気の良いレストランへとなったところでカーターに連絡が入り、フォーチュンの唯一の同世代仲間であるアリーの家が火事になったという。急遽、デートは中止。アリーは無事だったのだが火事の原因が放火と分かり、フォーチュンは燃え上がる。カフェの店員で人柄がよく、だれからも恨まれるはずがないアリーがなぜ狙われたのか? シンフルの平和を守る老嬢コンビのアイダ・ベル、ガーティとともに、フォーチュンは事件の解明に乗り出した。猪突猛進が信条の三人組は、カーターの警告を無視し、激しいアクションを繰り広げることになる…。 移り住んでから三週間で4つ目の事件とあって、テーマも展開もまさにマンネリそのもの。変化と言えばフォーチュンとカーターの恋物語ぐらいだが、それでも十分に楽しめる、安定のエンターテイメント作品である。アメリカではすでに20作まで刊行されたというのが、シリーズの魅力を物語っている。 どんでん返しやクリフハンガーの連続に疲れた方にオススメする。 |
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2018年から19年に雑誌掲載された4作品を集めた短編集。家族、友人、職場、地域社会など逃げ切れないことが分かっているものから衝動的に逃げ出す人々を描いた人間ドラマである。
4作品とも極悪人は出てこず、ただちょっとしたすれ違い、魔が差した瞬間にとらわれた人の愚かさと弱さがドラマを生む。じっくり読めば、人間に対する著者のまなざしの温かさが心に響いてくる良作である。 |
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