■スポンサードリンク
五声のリチェルカーレ
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
五声のリチェルカーレの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.80pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全5件 1~5 1/1ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
深水氏の文庫オリジナル作品で、中編の表題作と短編を2編収録している。 双方とも中学生や小学生を主人公にした綿密な構成による作品となっている。 本格ミステリーではないが、主人公の心理面に重点を置いた読み応えのある異色の作品集となっている。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
2000年代に入ってからデビューしたミステリ作家の中でも、本作品の著者はちょっと別格で、読むごとにその緻密な構成に驚かされています。 本作品は、2010年発刊と、その後に発表された作品を既に読んでいた自分としては、読み飛ばしていた作品として、読んでみたものですが。 本書には、表題作とともに、ひとつの短編が収められていますが、ここでは表題作の長編の方の感想を述べます。 舞台は、鑑別所の中。 昆虫好きの少年が、家裁調査官から尋問を受けるシーンで幕を開ける。 物語は、この尋問のシーンと、少年が殺人を犯すまでの過去のシーンがほとんど交互に描かれます。 掲げられた謎は、少年が「誰を」「何故」殺したのかということ。 つまり、フーダニットと、ホワイダニットの二重奏ということになります。 この殺人事件の鍵を握るのが、昆虫が得意とする「擬態」と、題名にもなっている音楽用語「リチェルカーレ」で、そのふたつが巧妙に絡み合いながら、物語は展開していきます。 そして、ラストなのですが、何故、誰を殺したのか?という真相は、それほど意外性はないと思います。 私は、このラストを読んで、この著者にしては、凡作なのでは?と思ったくらいです。 ところが、本書をネタバレしているサイト(名前は明かしませんが、本書の題名と、ネタバレで検索するとすぐにヒットするでしょう)を読んで、驚きました。 さらにもうひとつの真相が示されていたのです。 ただ、その真相そのものは、それほど意外ではありません。 問題は、その真相を聞かされると、これまでの物語展開の「辻褄が合わない」と思ってしまうことです。 でも、よくよく読み返してみると、それは著者の罠で、しっかりと辻褄が合うように仕組まれていました。 本書の面白さは、ラストで真相が明かされた瞬間、新たな謎(どうしてこの隠されていた真相が成立するのか)が浮かび上がってくることで、著者の緻密な構成にまたもや唸らされてしまいました。 自分にとって、「問題作」となった本作品、あなたはこの作品の本当の狙いを見破ることができますか? そんな挑戦状めいた文言で、このレビューを締めくくりたいと思います。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
いじめられ歴が長かった少年が転校先で殺人を。 家裁調査官の聴取に対しても、謎のような答えを返すだけです。物語は前の学校での執拗ないじめと、今度の学校での見せかけの適応を交互に語り、そこに少年の好きな昆虫の変体や擬態の話題を織り込み、別の少年との会話の中から、適者生存やレトロ遺伝子といった、壮大な生物の進化の歴史のパースペクティブを重ねてゆきます。 だれがいつ殺人者になるかわからないのだ、というのが、ミステリとしての本作の主張でしょうか。 人間社会の表面的な善悪や仕返しという観念では片づけられない、人間というものの深部を「擬態」という角度から照らしだしてくれています。 被害者であった少年が、別の環境ではそれゆえに、ボスに追随し、擬態してゆこうとする。それを本人が痛々しいまでに自覚している繊細さに説得力があります。 そして彼が築いてきた世界観、これだけ苦しめられた世界観が一瞬亀裂を見せた瞬間に、突発的な行動がほとばしる・・・ これはむしろ純文学なのではないかと思います。 合わせておさめられている「シンリガクの実験」も、人々の顔色を読むことにたけ、心理の機微を見通した、まるで少年時代の三島由紀夫のような主人公が、クラス仲間や教師を操作して君臨してゆくのですが、そこに転校してきた少女が波紋を投げこみ・・・ラストもまるで三島由紀夫の短編のようです。 こちらの読後感の明るさが、タイトル作品の重たさを救っています。 しかし明るい暗い、というのを超えたずっしりした充実感があるものを純文学というなら、この本はまさに、多声音楽の「五声」めが何かの問いを含めて、それだと思います。音楽に関する深い洞察もありますし、この作者の教養は生半可ではないのですが、それが「もったい」や「意味ありげな投げ出し」「思わせぶり」とは無縁の切れのよさを発揮し、きちんとけりをつけているところに、今回も深く感心しました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
長編「五声のリチェルカーレ」と短編「シンリガクの実験」が収められている。文庫オリジナル。 2本とも少年犯罪をテーマとしている。まあ、あまり読んでいて気持ちの良いストーリーではない。また、どちらも読後にすっきりしない感じが残る。 「五声のリチェルカーレ」というタイトルはバッハの曲名のもじり。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
■「五声のリチェルカーレ」 昆虫好きのおとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは 語らなかった。家裁調査官の森本が聞き出せたのも「生きていたから殺 した」という謎めいた言葉だけ。 少年は何故、そして誰を殺したのか……? 本作では、事件が起きるまでのいきさつを昆虫好きの少年の視点で描いた“過去” パートと、家裁調査官の森本が少年の犯行動機に迫ろうとする“現在”パートとが、 ほぼ交互に展開されるという、カット・バックの形式が採られています。 読者には、少年の動機だけでなく、被害者が誰かも明示されないのですが、 ××を警戒する読者からすれば、より重要なデータが伏せられていることに すぐ気づくと思います。 なので、勘のいい読者なら、真相は想定の範囲内かもしれません。 しかし、本作の主眼は、仕掛けによるサプライズそのものではなく、フェアな 伏線と巧緻な「騙り」の技巧が織り成す構成美にあると個人的には思います。 そういった観点で本作を読み解く際、キーワード となるのが〈擬態〉、そして〈リチェルカーレ〉です。 擬態は、昆虫が天敵から己の身を守る上で、きわめて有効な手段では あるのですが、見破られたら最後、死を受け容れざるを得なくなります。 本作の作中人物たちも、昆虫同様、様々な“擬態”をしており、 誰がどんな“擬態”をしているのかが重要なポイントとなります。 そして、リチェルカーレという音楽の形式が暗示する本作全体の構図。 探偵役である森本は、最後まで、事件という曲の中に、隠された声部が 存在していたことを見抜けず、ただ読者だけが、“五声”のリチェルカーレ として事件を認識できるという構成には唸らされました。 ■「シンリガクの実験」 人心掌握と情報操作の術に長け、大人をも手玉に取っていた小学生 の“僕”。ある日、東京から、優等生の美少女が転校してきて……。 黒幕を気取り、〈シンリガクの実験〉をしているこましゃくれた “僕”が、逆に心を動かされてしまうという結末が面白いです。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!