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雷の波涛 満州国演義 七



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雷の波涛 満州国演義 七の評価: 4.41/5点 レビュー 17件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.41pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全17件 1~17 1/1ページ
No.17:
(2pt)

どうも人物の活動がとって付けた様で、歴史資料の説明になっているとしか思えません。

資料をよく読み込み、なんとか物語の中に組み込もうとしている執筆姿勢は理解出来ます。おかげで、満州事変から満州国成立の謀略の過程が、下手な歴史書以上によくわかりました。実在した様々な人物を登場させているのも新しい発見で参考になります。
 ところが、第6巻は資料を基に物語が展開されておらず、説明臭くなってしまっていました。それと同様にこの第7巻も資料の説明が主体となり、その間に登場人物と事件が、しかも、今までと同じ様な展開で取って付けた様に繰り返されています。言い換えれば資料を説明するため、資料をなぞったぬり絵の様な作品展開となっていると感じるのは自分だけでしょうか?大河小説として五味川純平氏の「戦争と人間」以来の大作と期待していますが、五味川氏の作品が陥ったのと同じ傾向が伺えます。(特に五味川氏の作は2・26事件の巻はひどかったと記憶しています。)そうなると誠につまらない。この巻はいよいよ仏印進駐・真珠湾攻撃から日米開戦に到りますが、シンガポール陥落までの展開が誠に退屈です。歴史資料をなぞっているだけで説明としか思えません。知ったことを総て書かずにはいられない、というノンフイクション作家が陥っていると同様の罠に嵌まっている様で、そうなっては小説としては失敗ではないでしょうか?次郎と三郎を中心にもう少し登場人物を動かすことは出来なかったのか?としか感じられません。
 加えて男は誰もが、やたらと煙草を取り出し燐寸で火をつけ灰皿でもみ消すシーンと、酒を「舐める」シーンは相変わらずで、やたらと会食し飯を注文するシーンが目立ちます。その種類をいちいち書くのはどうしたなのか?週刊誌連載ですから、場をつなぐためでしょうか?ちょっと芸がないのではと感じてしまいます。
 「~ではない・~ではなかった」と書く代わりに「~じゃない・じゃなかった」というくだけた口調の文章は、ここまで続くと、どうもこの作者の性格からくるものらしい様で、依然としてそれだけが違和感を感じます。加えて登場人物が最初はフルネームで紹介されるのですが、主人公の太郎・二郎・三郎・四郎は兎も角、他の人物もすぐに下の名前だけで描かれるのは、誰だったっけ?と前の見返すことがしばしばなのは、自分だけでしょうか?どうしてそういう風に描くのかもはっきりとわかりません。どうもこれらの文体は作者独特のものらしく、それが個性ある文体なのか、ある種の悪文なのか、最終巻を読むまでは判断が出来ませんが、兎も角、ある意味で歴史書として、最近には珍しい大河小説として、最後まで付きあうつもりです。あと残り2巻ですが、次巻以後はもっと面白くなりますように!
雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)より
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No.16:
(3pt)

本の形態違い

単行本とうたってあるので注文しましたが、実際はハードブックでした。取り換え依頼しましたが売れ切れとの
ことでした。
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No.15:
(4pt)

読後感

読みづらい本だったが、最後まで読み通したので、結局は面白かったと思う。
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No.14:
(5pt)

すごくきれいな状態

船戸先輩の遺稿ということで気合を入れて読めました。
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No.13:
(5pt)

望むべくもないが、この大河を映像で味わいたい、

と思うのは私だけではないはず。その反面、極私完結の脳内映像に勝るものを形に成し得る猛者は現れまい、とほくそ笑む片田舎の61歳。
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No.12:
(5pt)

面白かった。

船戸与一さんのこのシリーズが文庫ででたので早速買いました。残念ながらこれで絶筆となってしまいました。もう少し書いて欲しかった。
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No.11:
(5pt)

満州事変に成功すると歴史がおかしな方向に回り始めた

「満州事変に成功すると歴史がおかしな方向に回り始めた。陸軍も海軍も自らの組織を増殖させるために米英との戦争を選ぶしかなくなった。ナチスドイツの怒濤の動きを見れば、政治家や外務官僚も冷静になれるはずもなかった」。近衛首相発信の大政翼賛会は軍部主導に。運命づけられていた独ソ戦を読めず、松岡洋右の日ソ独伊四カ国同盟構想が瓦解。南部仏印進駐がアメリカを刺激して対日石油禁輸、石油の確保を巡り海軍と陸軍がそろって米英戦に傾く。
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No.10:
(4pt)

韜晦、疑心暗鬼、思考停止 そしてさらなる南進

タイ、インド、インドシナ、ビルマ、マレー半島、そしてシンガポールまで連戦連勝の日本軍。満州や中国、対ソ連を固めながらの「北守南進論」の熱狂は国全体を覆いつくす。敷島四兄弟も満州国出向中の外務官僚である長男以外はまるで磁石に引き寄せられるように南進中。

もちろんハードボイルドな船戸節も要所要所で煌く。「「威張りたがるのは単純な民族的優越感のせいだが、同情心は陰湿な優越感に基づいている。」「「社会主義と国家社会主義は同根だ、違腹の子でしかない。」「社会主義者や共産主義者、無政府主義者を徹底して痛めつけてきた日本という国家が社会主義国家の盟主であるソ連と条約を結んだのだ。この矛盾をどう考えればいい?」「状況が煮詰まってくると、誰もが疑心暗鬼になる。個人が個人を、組織が組織をまず疑ってかかるようになる。」「(もっと危険なものは)思考の停止だよ。」「(どんなに残虐な行為も)いったん活字となって新聞に掲載されると、一切が何らかの競技のように思えてしまう。」等々。

この作者のいままでのエンディングからすると、主な登場人物が「全員死亡」が常道なので、ますます目が離せなくなっているが、ほんとうに残りはたった2冊だけになってしまった。
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No.9:
(5pt)

日本近代史とハードボイルド・ロマンと大河小説の見事な融合

物語はいよいよ終盤の端緒へ。大日本帝国の快進撃と傲慢な軍部にも悲壮感が漂い始めるなか、歴史と運命の波に翻弄される敷島四兄弟。残すはあと二巻のみとなってしまいました。

「近衛新体制の大政翼賛会は軍部への対抗組織として結成される。・・・ かならず軍部に簒奪され、絶好の戦時体制として機能していくことになると思う」(38~9頁、同旨100頁・210~1頁・507頁)
「硝煙の臭いだけが絶望を希望に変えられる。死を目指すことによってのみ生きてる意味が与えられるんです」(53~4頁)
「ルーズベルトは戦争を欲してるんだ。ニューディール政策とやらは看板どおり機能してない。アメリカ経済を大恐慌まえの段階に戻すには圧倒的な需要を生じさせなきゃならない」(172頁、同旨592~3頁)。
「国務省顧問スタンリー・ホーンベックは支那の大学で教鞭を取ったこともある支那通で、国務省きっての日本嫌いという情報が国務院外務局にもはいって来ている。アメリカ対日強硬策にはいつもハル国務長官以上にホーンベックが関与しているとも」(214頁)。
「若い阿媽を別宅に囲い、日系官吏の高額俸給からその手当を払って肉を愉しむ。そういう真似ができるのも、皇国が健在だからこそだ。その皇国の保全のためには綺麗ごとは言わせない」(254~5頁)
「太郎は苦笑いしながら路看の裸身を胸のうえに乗せた。この若い肉を貪ったのは久しぶりだった。・・・ 太郎は路看の弾む乳房を揉みしだきつづけた。ふたたび股間に力が蘇りはじめた。・・・ 太郎は勃起したそこに路看を跨がらせた。肉づきのいいその腰がゆっくりと浮き沈みしはじめた」(340~1頁)。
「バルバロッサ作戦でヨーロッパ戦線は苦戦つづきなのに、極東ソ連軍は西へ移動しようともしない。なぜだかわかるかね? 帝国陸軍が熟柿主義に落ち着いたことを知ってるからだよ。兵力を動かさなければ、ふたたび南進論に立ち戻らなきゃならなくなる。それは日米開戦を意味することになるだろう。スターリンはそう考えた。要するに、熟柿論定着という情報をコミンテルンに流したやつがいると考えなきゃならない」(410頁、同旨501頁)。
「海軍省や軍令部は備蓄した石油権益を守るためには海軍も開戦に備えてその準備をしてると言わざるをえん」(478頁、同旨544頁・594頁)。
「状況が煮詰まって来ると、だれもが疑心暗鬼になる。個人が個人を、組織が組織をまず疑って掛かるようになる。・・・ そして、その緊張に耐えきれない時期が来て、状況が破裂を起こす。そのとき、全体を支配する心理は疑心暗鬼じゃない。もっと危険なものだと思う ・・・ 思考の停止だよ。何も考えずにだれもがひたすら突っ走りたがるようになる」(482頁)
「丁路看との二度の営みを終えて、敷島太郎は南湖のそばの別宅を出た」(546頁)。
(財務省特別補佐官ハリー・)「ホワイトは実は共産党の秘密工作員で、日米開戦によってアメリカがドイツとも戦端を開くことを望んだという噂もある」(551頁、同旨520頁)
「イギリス人将校はインド兵が怯えて戦場から逃げ出さないようにこうやって鎖で結びつけておいたんだ。他のトーチカのなかも似たようなことが起こってる」(561頁)
「しかし、いったん活字となって新聞に掲載されると、戦争で飛び散る肉片や夥しい量の血液の臭いが掻き消え、一切が何らかの競技のように思えてしまう。そのことが妙に日本人の血を意識させ、名状しがたい高揚感へ繋がっていく」(609頁)。
「舞台をどこに定めても大枠の「現実」を勝手にいじらない。・・・ 反面、実在の人間は直接書かない。・・・ 内面どころか見た目の描写さえない。おそらく、見た目を描写すると内面も透けて見えてしまうからだろう」(684頁、高野秀行解説より)。
「船戸作品の登場人物が最後にはほとんどが死んでしまうのも、彼独特のニヒリズムだけが理由ではなかろう。「自分が創ったものは自分で始末しなければいけない」-それもまた船戸さんの流儀の一部なのだと思う。芝居が終わったあと、舞台は前の状態に戻さねばならないということだ」(同頁)。
「「現場に行かねえと小説を書きたくなる。現場へ行くと、『あー、こういう山だったのか』とかわかって発散できるんだが、行かねえと発散できねえから、書きたくなるんだ」死を目前にした人間の言うセリフではない」(688頁)。

さてさて、あとは下り坂を転げ落ちるかのような怒涛の二巻なのだろうか・・・・・・
雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)より
4101343268
No.8:
(5pt)

若者に読んでほしい

経済と戦争は切り離せないのです。それに群がる利権者。’戦争の世界史’マクニール著と併せて読めば日本史の副読本としてピッタリです、
雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)Amazon書評・レビュー:雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)より
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No.7:
(5pt)

南の戦雲

「わたしはな、皇国のためならどんな無慈悲な真似でもやってのけるつもりだ」

間垣徳蔵最後の謀殺が行われる。しかしそれも空しく、日米は開戦の道へ。
物語はついに終盤。大東亜戦争編に突入する。
単行本ではラスト三巻を間をおかず読んでしまった。再読とはいえ文庫本の刊行ペースがもどかしい。

解説は早大探検部の後輩にあたる高野秀行。
確かに本書は、「いつもの船戸作品とは全く違う」。
登場人物が世界を変えることがない、というより、主人公クラスの4人に世界を変えようという意志がまるで見られないのだ。
良くも悪くも主体性を持ち、個々のレベルで変革を遂行してきたのは間垣だけだ(結果として報われることがなかったが)。
再読すると、やはり彼が物語の影の主役だったと実感した。
単行本で結末は知っているが、最終巻まで心して読み直したい。
雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)より
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No.6:
(5pt)

フランスがドイツの軍門に下った1940年6月から1942年2月帝国陸軍がシンガポールを占領するまで。二年間足らずの間に激変した歴史の大奔流に抗うことも掉さすこともできないままに浮き沈みしつつ流されていく敷島四兄弟。

太郎は満州国外交部で特権的地位と恵まれた処遇をよいことに妾との肉欲に溺れ家庭は崩壊寸前、何ひとつ時代に貢献できない。次郎は満州を離れ香港・海南島を経てついにはマレー半島へ辿りつきシンガポール攻略の一翼に。三郎は憲兵隊大尉として政治・思想弾圧とは一線を画して軍規遵守に専念しようと目論むも果たしたどこまで正義を貫けるのか。四郎は満映に職を得るが映画一本さえも作れず無為徒食の生活を続ける。

史実が虚構を圧倒する。間垣徳蔵特務中佐や同盟通信の香月信彦がたびたび登場するのはその時々の政治・軍事情勢の「解説者」として、である。他にも印象的な(虚構の)人物群像が現れるが、特異な実在の名前もある。「高木正雄という朝鮮人だ。朝鮮名は朴正熙・・とにかくできがちがう」p126。他にも八路軍政治委員鄧小平p397やベトナム独立同盟のホー・チミンp638も。

これまでもコメントしてきたが軍事史関連で気づいた点は
・英インド軍の制式小銃の「L42A1狙撃銃」を入手すると記されているがスナイパースコープ付きの特殊な狙撃銃ではなく1895年以来の制式「リー・エンフィールドMk.III小銃」であろうp106。
・米国ウィリス社製のジープを1941年夏にマレーで購入できたはずはない。ジープの試作は1940年9月でウィリス社の1941年の製造台数はわずかに1553台であった。ジープの量産は1942年からであるp464。
・英海軍の誇る超弩級戦艦プリンス・オブ・ウェールズの備砲は「35.6糎四連装砲二門」ではなく四連装砲二基と連装砲一基の合計10門、また巡洋戦艦レパルスの備砲は「38.2糎連装など計十門」ではなく連装砲三基計6門が正しいp574。
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4101343268
No.5:
(5pt)

怪傑ハリマオ登場

日本帝国が、世界大戦に、巻き込まれていく様が、4兄弟を軸にまざまざと、描かれている。残り2巻が、楽しみだ。
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4101343268
No.4:
(3pt)

歴史を知る参考書

ついに第7巻まで読み進んできたが、私にとっては”ようやく”という表現が相応しい。船戸作品はほとんど読んでいるが、どうにも
この大作は今までの主人公たちの血脇き肉躍る大活躍という型から逸れて 動きが堅苦しい。よって読み進むのに苦労している。 フィクションとしての四兄弟にまつわる話は普通に人間的すぎて あまり面白くない。フィクションよりもむしろ当時の日本、中国、満州、英米仏、ナチス=ドイツ、スターリン=ソ連、欧州の迫害から逃れようとするユダヤ人達、そして独立を目指したインド、ビルマなどの東南アジア諸国が複雑に入り組んだ状況を時系列的に理解できるという点では評価できる内容。この時代をかように総合的に把握できる資料は見たことがない。 満州事変から第二次大戦まで おそらく歴史部分では一切の政治的な色付けをせずに淡々とまとめ上げているのではないか。この先も苦労しそうだが、ここまで来たからには意地でも最終巻まで進むつもりではある。
雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)Amazon書評・レビュー:雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)より
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No.3:
(5pt)

雷の波濤ー満州国演義「7」

続編の8を購入予定です。船戸与一氏はこれが遺稿とのこと、楽しみにしています。
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No.2:
(5pt)

とにかく面白い

我が父も満州へ出兵、転戦、転戦でフィリピンで戦死。父の残した満州の写真を見つつ著者の筆力に引き込まれる。
雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)Amazon書評・レビュー:雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)より
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No.1:
(4pt)

戦争と人間の狂気を克明に描いた空前の侵略史、ここに頂点を迎える

昭和15年、ドイツがパリを制圧する。日本軍は北部仏印に武力進駐。大政翼賛会の発足。日独伊三国同盟。
昭和16年、日本軍は華北での治安強化を進める。ドイツのバルバロッサ作戦。日ソ中立条約。ドイツのソ連進攻。帝国国策要綱、関東軍特殊演習。南部仏印進駐。ABCD包囲網に対する戦争準備のための帝国国策遂行要領。尾崎秀美、ゾルゲ検挙。第三次近衛内閣総辞職と東条英機内閣。御前会議で開戦の決定。日本軍の英領マレー制圧の軍事行動開始と真珠湾攻撃。
昭和17年、そしてシンガポール陥落。
状況が煮詰まってくると、だれもが疑心暗鬼となる。度重なる政権交代に長引く不況。出口の見えない鬱屈が沸点に達したとき、思考停止に陥った世論は戦争へとなだれ込んでいく。
英米独ソ、そして中国の思惑。これに翻弄されるままの大日本帝国。リーダーを欠如した内閣、軍部により外交は混乱に終始し、マスコミの熱狂は国民を対米戦争へと駆り立てる。
船戸は小説家にこそ許されているはずのあざとい史実の改変や通説の新解釈を意図的に回避している。ただただ通説を丹念に追う姿勢を崩さない。整然と史実をとらえながらも、驚くべき筆圧で歴史をドラマティックに展開してみせる。

わたしらの年代なら、太平洋戦争へ向けて、秘話とか言われる通説も含めた断片的知識はある。だがそれは個々のエピソードの積み上げにしか過ぎなかった。いまさら恥ずかしいことだが、数々の断片が一貫した流れの中で浮彫りされた全体像を、わたしはこの小説で初めて把握することができたことになる。
このところいささか退屈気味の大長編だったが、活を入れられた心地がして、とにかく読み応えのある第7巻だった。間もなく終戦の日を迎える今、本書を読むには絶好のタイミングだ。
目下のわが国の末期的政治状況を重ね合わせれば、なおさらである。

引き続き、敷島四兄弟の見聞としてこの複雑な国際・国内情勢が詳細に語られる。
そして彼らが体験するのは侵攻第一線の血なまぐさい現実である。

満州国国務院の高級官僚・太郎は若い女との快楽におぼれ、妻の精神障害が重なり社会的生命は破滅寸前にある。五族協和、満州国建国の夢はとうに破綻した。ただ死に向かって身もだえする満州国そのものを象徴する人物として描かれる。太郎は弱みにつけこまれ、奉天特務中佐・間垣徳蔵よりある関東軍大尉を密殺する手引きを強要される。この大尉は対米開戦に踏み切れない近衛首相の暗殺をもくろむ人物なのだが、政治、軍部、特務機関に内在する複雑奇怪なもつれ合いがこのエピソードによく表れている。

映画会社「満映啓民」に勤務する四郎が取材した北満の地獄と呼ばれる売春・阿片窟「大観園」の描写が凄まじい。読み終えたばかりの皆川博子『双頭のバビロン』にも同様の風景描写があるが、両者の作風の違いには興味をそそられた。
満州開拓移民たちの悲惨は既刊で述べられている。ここでは「開拓女塾」という、わたしが全く知らなかった満州開拓政策の一環が紹介されている。余剰人口のはけ口として16〜24歳の東北出身の娘たち四十数人を集めた教育施設のようだ。名目は日本を代表する貞女に育て上げることにある。だが実態は、独身の開拓移民へ日本人の純血維持を目的とした強制的な花嫁・供給システムだ。醜い中年の男にまるで牛馬のようにあてがわれる娘を抱いてやりながら、四郎は「開拓民の妻として立派にお国のために尽くします」という悲痛を聞くのだ。ここでも戦争にある「真実」が語られている。

五里霧中のうちに軍部は南進へと舵をきる。英領インド、英領ビルマ、英領マレーにある反英勢力を組織化し、武器供与を供与する。仏領インドシナにおける反中国活動等、いくつもの帝国謀略機関が擬似的な独立運動支援を旗印に秘密裏の行動を展開していく。

巻頭の参考地図も中国北部から東アジア全域に拡大され、元馬賊の頭目・次郎と信望厚い武人の関東憲兵隊大尉・三郎は、日本軍の南進作戦に沿って満州から華南、香港、海南島、仏領インドシナそして英領マレーへと移動していく。彼らの軌跡上にこの侵略戦争の犠牲者となる人の群れがある。

ヨーロッパを追われ、救いをこの地に求めるユダヤ人組織。インド独立の遊撃隊として次郎が軍事訓練するインド人の婦女子たち。731部隊の人体実験用に供される白系ロシア人捕虜。ビルマ独立義勇軍作りに海南島で軍事訓練を受けるビルマ人の若者たち。長い歴史の中で漢人に支配されてきた中国周辺の少数民族。英領マレーのマレー人、インド人、中国人。ほとんどがわたしの知らない逸話なのだが、次郎、三郎の命がけの行動の中で、いくつものエピソードが戦慄のディテールで語られていく。これが迫真力をもって読者に伝わるのは、次郎・三郎が訪れる町・村・地域の情景、大国に対して歴史的に抱くそれぞれの民族感情が実にリアルに描写されているからである。船戸は膨大な資料を検証したに違いない。そして小説家としてのセンスも抜群にさえている。

太平洋戦争の開戦を語るには真珠湾攻撃が当たり前だと思うのだが、船戸はこれをしなかった。その直前のマレー上陸作戦を詳述したのだ。戦闘機対戦艦の戦いであった真珠湾攻撃とは異なり、シンガポール陥落までの道のりは敵味方血みどろの白兵戦であり、反日華僑に対する虐殺もあった。
マレー侵攻作戦をほとんど知らなかったわたしは7巻の三分の二あたりから釘づけになってしまった。なにせ「怪傑ハリマオ」という「正義の人」が実在していたなんてびっくりしてしまった。イギリス人捕虜を英雄的に描いた映画『戦場へかける橋』もこの作戦の延長にあるエピソードだった。

谷豊 日本人名大辞典より
「昭和時代前期の軍事諜報員。明治44年11月6日生まれ。虐殺された妹の復讐のためマレーで盗賊団にはいり、「ハリマオ」(マレー語で虎の意)とよばれる首領となる。太平洋戦争の初期、日本軍の諜報組織の一員としてイギリス軍に対しゲリラ活動を展開。昭和17年3月17日マラリアで死去するが、軍当局により英雄として宣伝された。32歳。福岡県出身。」

戦争と人間の狂気を直視した感性のエッセンスがダイナミックに描写された、この「雷の波濤」は全巻中白眉の出来栄えであるとして言い過ぎではない。

船戸与一氏は病気療養中と聞く。愛読者としてはただただ健康の回復を祈るばかりである。
雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫)より
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