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【笠井潔】
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テロルとゴジラの評価:
4.00/5点 レビュー 2件。 - ランク
Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです
平均点4.00pt
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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『ユートピアの現象学』への道
強引な箇所多々あれど、それがないと笠井潔では無くなってしまうからなあ・・・
第1部に表題作「テロルとゴジラー〈本土決戦〉の創造的回帰としての」をはじめとして、ゼロ年代以来、文化表象関連の論考を1つの明確なテーマのもとに集約している。『新版 テロルの現象学』の補論で言及されていた、「68年の文化的闘争の持続としてアニメやゲームを検証する作業は依然として残されている」との提起をストレートに反映した第1部の内容であるが、『シン・ゴジラ』という作品をめぐる問題を中心にしながらも、本質的には「1968」の問題がどのように現在に継続されているのかに照準を絞った感がある。
そのため、吉田満・旧大日本帝国海軍少尉の手記であり「戦記文学」とされる『戦艦大和ノ最期』と、東アジア反日武装戦線の「武装闘争」をめぐって著された、桐山襲『パルチザン伝説』に次ぐ作品として、ふたつの「ゴジラ」(初代ゴジラと「シン・ゴジラ」)が言及される点には説得力がある。
一方で、この第1部に収録されている「セカイ系と例外状態」は、これまた『新版 テロルの現象学』補論のテーマを引き継いだ論考であるが、とりわけ「コードギアス」を90年代の「新世紀エヴァンゲリオン」に匹敵する画期的作品とみなし、この作品と並んで押井守氏との対談『創造元年1968』で言及されていた「東のエデン」を詳細に論じている点が注目される。いわば、この後に来る「シン・ゴジラ」を10年代のひとつの分水嶺として、その前触れをなした「21世紀の例外状態」を表現したアニメ作品の功績と問題点を論じたのであるが、「シン・ゴジラ」に集約されるイデオロギー的問題をもって、著者が「1968年」とサブカルチャーの連関する諸問題にけりをつけたとみることもできるだろう(あとがきの末尾を参照のこと)。
第2部、第3部は『例外社会』、および『国家民営化論』をふまえて、「アラブの春」をはじめとする10年代の「世界内戦」状況にあってのデモ/蜂起論の現在形を論じているが、第1部で言明された戦前・戦後の「ニッポン・イデオロギー」との対峙の姿勢、加えてシールズに代表される、「1968年」の遺産に否定的な「市民運動」と、デモ/蜂起の原理を明確に峻別する視点が、脱政治化された現在の「批評」界にあって新鮮に映る。
気になったのは、『新版 テロルの現象学』の問題提起をストレートに発展させたことで近年の著者の社会批評としては最も詳細でかつ戦闘的な成果に到達している一方、『新版 テロルの現象学』補論には言及されていた「涼宮ハルヒの憂鬱」や「魔法少女まどか☆マギカ」にみられる、キャラクターの象徴的問題や世界の現象学的「変容」についての視点が忘れられてしまった感があるところだ(それゆえに、第1部ではハードSFの歴史の延長で「例外社会」問題を描くアニメ作品を定義しなおすという新しい視点が開かれたのであるが)。かつて奈須きのこ『空の境界』(講談社ノベルス)についての印象的な解説を記していた著者だけに、一読者としては、社会批評とは距離を置いた批評眼あってこその「現象学論」を期待してしまう。
なお、「ラディカルな自由主義」という語の定義であるが、旧形態としてのアナルコ・サンディカリズム無き後の21世紀の「アナーキー」に応答する語としては不明瞭であり、不徹底であろうと個人的には思う。本書でトマス・ミュンツアーの千年王国運動を評価し、20世紀ドイツにおける決断主義の代表として(晩年に「アナルク」=「無政府状態」を称揚した)エルンスト・ユンガーに言及しえたのだから、今後、著者が考察し開拓する世界観は「自由主義」といった20世紀的旧態の近代主義ではなく、「存在論的アナーキー」=ontological anarchy(ハキム・ベイ)となるのではないだろうかと思われる。おそらくはその呼び水となるであろう、『ユートピアの現象学』への助走として、本書はしかるべき時期に登場したのではなかったか。