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ロンドン狂瀾



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ロンドン狂瀾の評価: 4.44/5点 レビュー 9件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.44pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全9件 1~9 1/1ページ
No.9:
(5pt)

国家が、ひいては国民が生き延びるために自らの意思を通すことの大切さを教えてくれる。

第一次世界大戦の災厄を二度と起こさないために、いまできることは何か。人類史上初の大規模な軍縮、ワシントン会議に続く、ロンドン海軍軍縮会議が開催されようとしていた。若槻礼次郎を首席全権に就任させるべく奔走し、自らも1930年1月の会議に臨んだ外務省情報部長、雑賀潤。本作は、彼の目を通して米英全権とのタフな交渉、海軍軍令部との軋轢と駆け引き、そして枢密院による反民主政府的な批准審議と、何物にも屈しない浜口雄幸内閣の姿を綴る一級の長編小説であり、当時のロンドンの描写とあいまって、とても興味深く読むことができた。
ロンドンのバーの地下蔵で邂逅する謎の女性、春子の存在も、ミステリーとしての本作のおもしろさを盛り上げてくれた。
・外交官はタフでなければ務まらない。交渉相手国に対しても、国内の右翼と軍人に対しても。条約の締結並びに批准に強硬に反対し、政府に立ちはだかるは、日本海海戦の英雄にして「軍神」、東郷平八郎である。仕事とはいえ、なんとも難儀な。西洋事情を熟知する公家政治家にして最後の元老である西園寺公望が味方に付いてくれたことは幸運だったのかも。
・山本五十六(大佐→少将に昇進)が雑賀の知古であり、随員として参加しているとは知らなかった。
・「論旨明瞭にして有言実行」。こうありたいものだ。
・当時米英に対して惹起された「国力を度外視した、きわめて感情的な強硬論」に注意しなければならないのは、現在も変わらない。10年単位で滑り落ちてゆく日本の国力を想えば、対中強硬論など愚の骨頂でしかない。
・大正デモクラシーの華、立憲政党による議会政治はあえなく終焉を迎えることとなる……。それでも外交官・雑賀は、いまや日本を敵対視する米英とのタフな交渉に臨むのだ。

日米英がそれぞれの国内から強い批判を浴びながら、画期的なロンドン軍縮条約を締結・批准した政府・外交当局の華々しい成果に対し、陸軍・海軍は苦い顔で何を悟ったのだろう。ひとり関東軍は柳条湖で浅はかな謀略を実行に移し、大日本帝国中央政府の意向を無視して満州で戦線を拡大した。これを黙認した陸軍は、やがて中国本国への侵略を開始する。海軍でも条約締結に協力した者は排斥され、山本五十六ら強硬な「艦隊派」が権力を掌握し……。
軽挙妄動。日本軍部の独走さえなければアメリカ、イギリスとの関係は違ったものになっていたでろうし、大日本帝国もおそらくは存続していたであろうに。本書を読むと、ABCD包囲網、そしてみじめな敗戦と国民の悲惨は、頑なな日本の軍部の独走が引き起こしたものだとはっきりわかる。
「男子の本懐だ」。浜口雄幸の生き方には共感させられること幾たび。これだけでも本作を読み終えた収穫といえる。
ロンドン狂瀾(下) (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾(下) (光文社文庫)より
4334776159
No.8:
(5pt)

国家が、ひいては国民が生き延びるために自らの意思を通すことの大切さを教えてくれる。

第一次世界大戦の災厄を二度と起こさないために、いまできることは何か。人類史上初の大規模な軍縮、ワシントン会議に続く、ロンドン海軍軍縮会議が開催されようとしていた。若槻礼次郎を首席全権に就任させるべく奔走し、自らも1930年1月の会議に臨んだ外務省情報部長、雑賀潤。本作は、彼の目を通して米英全権とのタフな交渉、海軍軍令部との軋轢と駆け引き、そして枢密院による反民主政府的な批准審議と、何物にも屈しない浜口雄幸内閣の姿を綴る一級の長編小説であり、当時のロンドンの描写とあいまって、とても興味深く読むことができた。
ロンドンのバーの地下蔵で邂逅する謎の女性、春子の存在も、ミステリーとしての本作のおもしろさを盛り上げてくれた。
・外交官はタフでなければ務まらない。交渉相手国に対しても、国内の右翼と軍人に対しても。条約の締結並びに批准に強硬に反対し、政府に立ちはだかるは、日本海海戦の英雄にして「軍神」、東郷平八郎である。仕事とはいえ、なんとも難儀な。西洋事情を熟知する公家政治家にして最後の元老である西園寺公望が味方に付いてくれたことは幸運だったのかも。
・山本五十六(大佐→少将に昇進)が雑賀の知古であり、随員として参加しているとは知らなかった。
・「論旨明瞭にして有言実行」(p276)。こうありたいものだ。
・当時米英に対して惹起された「国力を度外視した、きわめて感情的な強硬論」(p29)に注意しなければならないのは、現在も変わらない。10年単位で滑り落ちてゆく日本の国力を想えば、対中強硬論など愚の骨頂でしかない。
・大正デモクラシーの華、立憲政党による議会政治はあえなく終焉を迎えることとなる……。それでも外交官・雑賀は、いまや日本を敵対視する米英とのタフな交渉に臨むのだ。

日米英がそれぞれの国内から強い批判を浴びながら、画期的なロンドン軍縮条約を締結・批准した政府・外交当局の華々しい成果に対し、陸軍・海軍は苦い顔で何を悟ったのだろう。ひとり関東軍は柳条湖で浅はかな謀略を実行に移し、大日本帝国中央政府の意向を無視して満州で戦線を拡大した。これを黙認した陸軍は、やがて中国本国への侵略を開始する。海軍でも条約締結に協力した者は排斥され、山本五十六ら強硬な「艦隊派」が権力を掌握し……。
軽挙妄動。日本軍部の独走さえなければアメリカ、イギリスとの関係は違ったものになっていたでろうし、大日本帝国もおそらくは存続していたであろうに。本書を読むと、ABCD包囲網、そしてみじめな敗戦と国民の悲惨は、頑なな日本の軍部の独走が引き起こしたものだとはっきりわかる。
「男子の本懐だ」(p551)。浜口雄幸の生き方には共感させられること幾たび。これだけでも本作を読み終えた収穫といえる。
ロンドン狂瀾Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾より
4334910726
No.7:
(4pt)

歴史小説として面白い

文学作品としては人物描写等に深みが欠けるきらいもないではないが、ロンドン条約というチョイスの適切さ、「信念に基づいた文官」という一貫した分かりやすいテーマに助けられ、歴史小説としては非常に面白い。
ロンドン狂瀾(上) (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾(上) (光文社文庫)より
4334776140
No.6:
(4pt)

歴史小説として面白い

文学作品としては人物描写等に深みが欠けるきらいもないではないが、ロンドン条約というチョイスの適切さ、「信念に基づいた文官」という一貫した分かりやすいテーマに助けられ、歴史小説としては非常に面白い。
ロンドン狂瀾(下) (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾(下) (光文社文庫)より
4334776159
No.5:
(3pt)

事実は小説よりも奇なり

近現代の歴史的事実や人物が題材として描かれたものを読む場合、読者自身の予備知識あるいは先入観によって感じ方が違ってくるのかも知れません。私にとって本作は、司馬遼太郎、城山三郎、阿川弘之といった方々の作品に比べるとどうしても浅薄さを感じずにはいられませんでした。小説として決してつまらないわけではありませんが、事実は小説よりももっと奇なりなのではないか、改めてそう思いました。
ロンドン狂瀾(上) (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾(上) (光文社文庫)より
4334776140
No.4:
(5pt)

官僚の生態と枢密院の生態を知る

それにしても、もし、日本が第二次世界大戦で勝者であったならば、いったいどのような世の中になっただろうか。相変わらず軍人が力をもち、天皇は莫大な資産とともに「大権」を持ち、華族、地主の存在は肯定され、財閥が権力を奮い、枢密院がなにかと政策の邪魔をして、一般大衆はあいもかわらず、平民などといわれて、地位の循環はなく老害だらけの国になっていたに違いない。戦争に負けたことで、戦後うまれの人達は多大な幸福を享受している。大変に矛盾することだが、後世の日本人は戦争に負けたことで悪法や悪性度をアメリカを中心とした諸外国にとっぱらってもらい、戦後の復活、経済的潤沢に甘んじることができたのだ。第一次世界大戦を境に世界の戦争に対する視線は様変わりした。日本もその影響を受けてはいたが、やはり軍人の突破力はあまりにも巨大すぎた。明治維新以来、軍国主義を旨として独立国としての地位をどうにか保持してきた勢いもあって、にわかに軍需大国をやめるわけにはいかなかった。司馬遼太郎史観のように、明治はよかったが昭和は奇態だ、みたいな小説?には同意できないし、戦争に負けるまでの約90年間は他国に占領されず独立をまもってきたのだからいいのではないか、みたいな、しょうがないようね史観にもくみしないが、いずれにせよ、日本が明治憲法のまま、第二次世界大戦の勝者となり存在していたらと思うと、心底ぞっとする。この本と平行してたまたま井上準之助の経済政策を読んでいたものだから、いまでいう、不況下の緊縮財政という、まったく間違った悲惨な状況を呼び込んでしまった内閣として、実際、軍部の台頭を呼び込んでしまった印象も否めない。現在でいえば、デフレ下の消費税増税や国債の圧縮によって、長らく不況にあえいでいた、ほんの数年前までの日本の経済政策と同様だ。では当時の日本は軍縮に舵をきるべきではなかったのだろうか。その答えは誰にもわからないし、積極財政をおこなった高橋是清はそののち、軍部の際限なき予算拡大を拒否して暗殺されたわけだし、大局的にみれば日本の無謀な戦争突入はさけられなかったのかもしれないとは思う。戦争が起こる確率は歴史はすすむほど少なくなるはずだ。貿易や国際会議によって、大戦争はだいぶ減っている。しかし経済戦争はなおのこと活発になっており、企業対国家、金持ち対貧民の戦いはこれからさらにひどくなる。最適解は提示できないが、いったい、軍縮会議の末路を追ったこの小説をとおして将来の国のあり方を学ぶ、格好の材料になりえる。明治維新、日清、日露戦争の勝利、敗戦国、核による大量虐殺、バブル景気、振り返れば、日本の近代史ほど波乱万丈な歴史はないはずである。ここから学ぶべきことは大きい。久々にそうした好感をもつ、しかも読みやすい歴史小説に出会えた。旧日本陸軍系の小説にも挑戦してもらいたい。
ロンドン狂瀾Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾より
4334910726
No.3:
(4pt)

小説というよりも歴史書

内容としては、ロンドン海軍軍縮会議と会議後の日本における批准をめぐる国内での紛糾を、小説というよりも歴史書というタッチで精密に描いている著。
雑賀外交官は主役というよりも、話を廻すうえで、(現代人に近い)国際的・合理的な見地からの視点を提供しているものと考えられる。むしろ、濱口首相の強い信念と決意、それと苦悩に心が打たれた。

私は日本史に詳しくないので、ロンドン海軍軍縮会議を巡る国内の紛糾(統帥権干犯問題など)について、学ぶ端緒がえられた(もちろん、多角的な考察が必要だろうと思う)。

本書とは関係がないものの、時代の「雰囲気」に流されてしまう危険性や決定権者の不在などが非常に歯がゆく感じられた。

上記のとおり非常に考えさせられる点で面白かったし、力作。もっとも、小説という方式からすれば(登場人物が多すぎるため仕方ないと思う割れるが)、どの登場人物にもあまり感情移入できなかったため-1。
ロンドン狂瀾Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾より
4334910726
No.2:
(5pt)

1930年という分岐点を現代に投射する意欲的な力作

600ページ弱の大部である本書を、私はタイトルだけで購入した。
パラパラと立ち読みしたときには、「ロンドン条約締結だけでこの長編は書けやしない、荒唐無稽な007か杉下右京もどきのお話じゃないか」とさえ勝手に思っていた。誠に浅学を恥じる次第。

実に読み応えがある。1930年のロンドン軍縮条約締結を巡る外交交渉と日本国内での政治議論だけを本書は描いている。勇ましい戦闘も手に汗握るサスペンスもそこにはない。リアルな議論だけで、読者の気持ちをここまで熱くする著者の力量に敬服する。とりわけ、明治の元勲から太平洋戦争の名将まで昭和史のオールスターをこれでもかと登場させる展開は、先達レビューに云う「関ヶ原」(もちろん司馬遼太郎版)もかくやのもので、歴史好きならメジャーな方からマイナーな方までそれぞれがこの分岐点に如何に立ち会ったのかを読むだけでも感涙だろう。

一方で、本書は現代政治との相似性を下敷きにして本書を描いている。巻末でも紹介される井上寿一先生をはじめ、この時代と現代の共通点を論じるものが近年多いが、本書では、とりわけ二大政党政治と外交のあり方について現代への問いかけをしている。政争と反対!コールにしか存在意義のなくなった野党のムチャクチャはどうでもいいが(現代ではデモクラシー政治家・平和政治家として評価の高い犬飼養と鳩山一郎の史実での言動を学ぶだけでも価値あり)国民・国家を想う理想を背負って「男子の本懐」を邁進する浜口総理以下の与党政治家が今の与党にどれだけいるのかという気持ちにもさせられる。近隣国や強国との関係についても、示唆の多い本書である。
なお、先達レビューが評する経済政策への言及の少なさについては、城山三郎「男子の本懐」で本書では登場場面の極めて少ない井上準之助と浜口首相を主人公にして経済政策をテーマとしていることとのダブリを避けたという一面もあるものと思う。

さて、史実と記録に依拠したセリフや展開の多い本書であるが、著者はあくまで本書は小説だと巻末で述べている。
確かに、島耕作と半沢直樹を足して2で割ったような主人公は小説というかマンガ的だが、そういう意味ではなく、本書は上記のとおり著者の歴史観や政治観を踏まえてフィクションとして再構成されている点で極めて小説的なのだろう。
ちなみに、主人公の雑賀にはモデルがいて、当時の外務省情報部長だった斎藤博がそうだろう。但し、全面的なモデルではなく、斎藤氏は英米協調外交の信奉者であったりする。一方で、体が弱い点(外相を嘱望されながら早逝)や容姿や経歴(親子2代の外務省務めで新潟出身)は斎藤氏そのものである。

本書の魅力は尽きないが、人物の多面性を描いている点も大きな評価ポイントだろう。ロンドン編では悪役そのものの加藤寛治の終盤でのオタオタ感やダメダメの財部大臣が時にみせる滑稽な男気など、著者の取材・研究の深さが感じられる。徹底的に山本五十六を頭の硬い海軍軍人で描き切る(実際当時はそうだったのだが)ところも、腹の座ったものと思った。

なかなか並大抵の知識と読書量では楽しみ切れない本書であるが、外交交渉よろしく腰を据えてインテリジェンスを高めるのには絶好の一冊だろう。
ロンドン狂瀾Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾より
4334910726
No.1:
(5pt)

会議は踊る

分量は相当あったがぐいぐい引き込まれていくうちに読了。
ロンドン海軍軍縮会議を巡る硬派な筋書きながら、よくぞここまで魅力的に描き切ったものだと感心。
司馬遼太郎の「関ヶ原」のように、ひとりひとり登場人物のキャラが立っているし、
史実にもとづいて丁寧に書き込まれているので、勉強にもなる。日本史受験の受験生にも推薦したい。
敢えて言えば(個人的好みだが)、ときどき現れる謎の女性は要らなかったのではないか。
また、当時浜口にとって金解禁は重要政策だったので、トピックから外れるにせよ、もっと説明があってもよかった。
ロンドン狂瀾Amazon書評・レビュー:ロンドン狂瀾より
4334910726

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