リトル・シスター
評判
リトル・シスターの評価:
3.80/5点 レビュー 30件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全58件 21〜40 2/3ページ
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
シリーズ第1作『大いなる眠り』以降、長編を1、2年ごとに執筆してきたチャンドラーが、ハリウッドで脚本家として働いていたこともあり、第4作『湖中の女』から6年という長めのブランクをへて世に送り出した作品です。
プロットに不備が多いチャンドラー作品のなかでも、本作は屈指の難解さを誇る作品でしょう。きれいに伏線がはられた小説はふつう読み返せば、登場人物たちのひとつひとつの言動のつながりがよく理解できるようになるものですが、本作はむしろ読み返すほど、つながりを見失い混乱していくような気さえします。
終盤マーロウが犯人に事件の真相を滔々と語る場面で、犯人がマーロウに向かって「あなたの言っていることにうまくついていけない(I am afraid I am not following you too well)」と答えますが、まるで読者の気持ちを代弁しているかのよう。
じっさい、訳者あとがきによるとチャンドラー本人も本作を失敗作と位置づけていたといいます。作中では映画産業に対する呪詛が書き連ねられてもおり、ハリウッドで働いていたころの恨みつらみや疲れがたまっていたのかもしれません。そのためなのか、シリーズのなかでマーロウがもっともペシミスティックでニヒリスティックに感じられます。
そのぶん反対に、マーロウの人間くささがよく表れている作品だとも思います。三人の女たちにいいように翻弄され、愚痴や弱音をはき続け、ヒロイックな使命感にも諦観の影が差しています。
物語後半マーロウは依頼人に裏切られ、警官にこづき回されたあげく、自分が無意味な存在だという想いを抱き、孤独に苛まれ、悲痛な心情を吐露します。
「どうか電話のベルを鳴らしておくれ。誰か私に電話をかけてくれる人間を創り出し、プラグを接続して私をもう一度人類の一員にしてくれ。警官でもいい…私を好いてくれる必要もない。この凍りついた星から下ろしてくれるだけでいいんだ」(p.312)
この場面を読むたび、ヒーローでもなければ、アウトサイダーとして生きることにも疲れた、等身大で無防備なマーロウの痛切な叫びに思わず涙してしまいます。
清水俊二さんの手による翻訳『かわいい女』(東京創元社、1957年)はだいぶ前に読んだきりで、手元にもないので村上訳との比較はできませんが、本書の訳はいつもどおり村上さんの個性がでていた印象。地の文だけでなく会話文まであえて翻訳調の硬めの日本語を使っていたり、慣用表現をあえて直訳っぽく訳出し独特のテイストを演出しています。
たとえば、上記のマーロウの独白の原文。
“Let the telephone ring, please. Let there be somebody to call up and plug me into the human race again. Even a cop…Nobody has to like me. I just want to get off this frozen star”
“Let there be somebody to call up and plug me into the human race again” は、「誰か電話をかけて、私をもう一度人類の仲間に引き入れてくれ」くらいの文章でも良さそうです。ですが、“Let there be somebody” の「人をあらしめよ」というニュアンスや、 「電話」という機械だから “plug” の「プラグ」という語感を残して訳すあたりに、村上節がうかがえます。
ただ、もともとプロットが煩雑なうえ訳文も生硬なため、チャンドラー作品や村上さんの翻訳になじみのない方にはきわめてハードルが高いと思われます。その点は留意したほうがいいかもしれません。