わたしを離さないで

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わたしを離さないでの評価:

4.11/5点 レビュー 714件。 B ランク

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平均点4.11pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1,450件 1,141〜1,160 58/73ページ
No.310
(5pt)

精緻な文章、重いテーマ

KAZUO ISHIGUROの名前を知ったのは数年前のことだが、数冊の本を出していて、それぞれの本がせいぜい200〜300ページくらいの厚さしかないと言うことにちょっと感心しただけだった。今回この本を手に取ったのは映画化されたのがきっかけだったが、彼の作品の短さだけでなく寡作であることにも驚かされた。デビュー作の「A PALE VIEW OF HILLS」が出版されたのが1982年で、最新作で七作目の短編集「NOCTURNES」が2009年に出されているから、およそ4年に1作と言うところだろうか。4年と言えば、STEPHEN KING氏だったら数百ページの長編を毎年出すことができるだろうし、村上春樹でももっと短い間隔で作品を発表できるだろう。それなのにISHIGUROはその道を辿らなかった。

この本を読み始めて感じたのが、恐ろしく愛想の無い小説だと言うことだった。なかなか心の中に染み通ってこない。英語も、単語はそれほど難しいものは使われていないのだが、構文は平易でないし、近づきがたいものがある。しかし読み進むうちに漸く分かった。わざとこんな書き方をしているのだ。一つ一つの作品が短いと言うことは、各作品が決して雑に仕上げられたと言うことではないのはすぐに理解できる。それどころか彼の場合、一つ一つの文章に掛ける時間が恐らく長いのだろう。ありきたりの言い方だが、彫琢の限りを尽くして創造したと言って良いかもしれない。

主人公であり語り手でもあるKATHYが、友だちと幼少年期過ごしたHAILSHAMと言う学園は最初のうちはなんでもない雰囲気で、物語の展開も単なる学園小説だと勘違いしてしまうほどだ。ところがある雨の日、Miss LUCYと言う女性が生徒たちに語った言葉でやっとこの小説の重さが理解できた。ある目的で作り上げられた生命と言うのは、何かしら家畜や農作物を想像させてしまう。こう言ったテーマの小説は、他の作家も書けるかもしれない。星新一だったらきっと、さらっとショート・ショートを仕上げててしまうだろう。筒井康隆だったら、批判されそうな小説を書き上げてしまうかもしれない。もちろん二人とも奥底に持っている考えは深いことは言うまでもないだろうが……。

この小説は長編小説だが、ペーパーバックで300ページくらいの手ごろな小説だ。長編に慣れている読者だったら、面白いかどうか分からないうちに読み終えることができるだろう。ぜひMiss LUCYが生徒に向かって発言するところまで読み進んでほしい。そうすれば、この小説の重みが理解できるのではないだろうか。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.309
(5pt)

精緻な文章、重いテーマ

KAZUO ISHIGUROの名前を知ったのは数年前のことだが、数冊の本を出していて、それぞれの本がせいぜい200〜300ページくらいの厚さしかないと言うことにちょっと感心しただけだった。今回この本を手に取ったのは映画化されたのがきっかけだったが、彼の作品の短さだけでなく寡作であることにも驚かされた。デビュー作の「A PALE VIEW OF HILLS」が出版されたのが1982年で、最新作で七作目の短編集「NOCTURNES」が2009年に出されているから、およそ4年に1作と言うところだろうか。4年と言えば、STEPHEN KING氏だったら数百ページの長編を毎年出すことができるだろうし、村上春樹でももっと短い間隔で作品を発表できるだろう。それなのにISHIGUROはその道を辿らなかった。

この本を読み始めて感じたのが、恐ろしく愛想の無い小説だと言うことだった。なかなか心の中に染み通ってこない。英語も、単語はそれほど難しいものは使われていないのだが、構文は平易でないし、近づきがたいものがある。しかし読み進むうちに漸く分かった。わざとこんな書き方をしているのだ。一つ一つの作品が短いと言うことは、各作品が決して雑に仕上げられたと言うことではないのはすぐに理解できる。それどころか彼の場合、一つ一つの文章に掛ける時間が恐らく長いのだろう。ありきたりの言い方だが、彫琢の限りを尽くして創造したと言って良いかもしれない。

主人公であり語り手でもあるKATHYが、友だちと幼少年期過ごしたHAILSHAMと言う学園は最初のうちはなんでもない雰囲気で、物語の展開も単なる学園小説だと勘違いしてしまうほどだ。ところがある雨の日、Miss LUCYと言う女性が生徒たちに語った言葉でやっとこの小説の重さが理解できた。ある目的で作り上げられた生命と言うのは、何かしら家畜や農作物を想像させてしまう。こう言ったテーマの小説は、他の作家も書けるかもしれない。星新一だったらきっと、さらっとショート・ショートを仕上げててしまうだろう。筒井康隆だったら、批判されそうな小説を書き上げてしまうかもしれない。もちろん二人とも奥底に持っている考えは深いことは言うまでもないだろうが……。

この小説は長編小説だが、ペーパーバックで300ページくらいの手ごろな小説だ。長編に慣れている読者だったら、面白いかどうか分からないうちに読み終えることができるだろう。ぜひMiss LUCYが生徒に向かって発言するところまで読み進んでほしい。そうすれば、この小説の重みが理解できるのではないだろうか。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.308
(4pt)

何気なく過ごす日常が実は大切

若い女性が語る形式で物語りはすすみ、最初のページで施設育ちの介護士の話かと思ったが、すぐに提供者、保護官などの言葉が出てくるのでこれは違うのだと思うようになった。一部、二部、三部とだいたい時間に合わせて物語はすすむし、日本語にも違和感はなくとても読みやすい。性格表現もすばらしく、語り手の友人トミーとルースには読み進むうちに実在の人物のように思えるようになるから不思議である。登場人物がいかにも語り手のように行動しそうに思うようになる。語り手の疑問も、最後には登場人物により語られる。が、読者には正直、疑問な点もあるだろう。だから、星5と言いたいが、読者の疑問、たとえば作品の科学的背景や社会的背景が少し現実離れしている気がするので、星4。余談だが、解説者が遺伝子工学云々されるが、逆に関係ないとした方がいいと思う。つまり、チェスの駒の動きの規則に疑問を挟んでもしょうがない、ナイトは何でこんな動きなの?、これに答えろと言われても。ところで、あのジュール・ベルヌも大砲で月旅行に行き、宇宙空間で窓を開けて物を捨てて閉める物語をまことしやかに書いて、読者、つまり小学生は信じた。いまはなぜできないかわかるが、このことが進歩とは思えないし、ベルヌはいまだに好きだ。カズオ・イシグロのファンも同じと思う。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.307
(4pt)

何気なく過ごす日常が実は大切

若い女性が語る形式で物語りはすすみ、最初のページで施設育ちの介護士の話かと思ったが、すぐに提供者、保護官などの言葉が出てくるのでこれは違うのだと思うようになった。一部、二部、三部とだいたい時間に合わせて物語はすすむし、日本語にも違和感はなくとても読みやすい。性格表現もすばらしく、語り手の友人トミーとルースには読み進むうちに実在の人物のように思えるようになるから不思議である。登場人物がいかにも語り手のように行動しそうに思うようになる。語り手の疑問も、最後には登場人物により語られる。が、読者には正直、疑問な点もあるだろう。だから、星5と言いたいが、読者の疑問、たとえば作品の科学的背景や社会的背景が少し現実離れしている気がするので、星4。余談だが、解説者が遺伝子工学云々されるが、逆に関係ないとした方がいいと思う。つまり、チェスの駒の動きの規則に疑問を挟んでもしょうがない、ナイトは何でこんな動きなの?、これに答えろと言われても。ところで、あのジュール・ベルヌも大砲で月旅行に行き、宇宙空間で窓を開けて物を捨てて閉める物語をまことしやかに書いて、読者、つまり小学生は信じた。いまはなぜできないかわかるが、このことが進歩とは思えないし、ベルヌはいまだに好きだ。カズオ・イシグロのファンも同じと思う。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.306
(4pt)

あきれるほど幸せな人生

幼い頃から手厚く「保護」され、
親のエゴの被害も受けず、純粋培養される提供者たち。
彼らは自分たちの使命を、幼い頃からたたき込まれる。
提供に相応しい身体を作るために若年同士の「セックス」も奨励される。

自分自身の「完了」に対する恐怖は、ない。

一定の年齢になると「提供」が始まり
介護人としての道も選べる。
芸術作品の創造により、提供を猶予されるかもしれないという希望が打ち砕かれても、
一瞬の絶望の後、穏やかにそれを受け入れる。
戦慄のストーリー?それは違う。

私たちは、むしろへールシャムの生徒たちに羨望を覚えるだろう。
彼らの,意義ある短い人生の何と輝いていることか。
目標もなく,寿命が終わるまで漂い続ける「普通の人生」のなんと残酷なことか。

私は断言する。
ヘールシャムの彼らは、この上なく「幸福」なのだと。
この世の誰もが決してたどり着けない
「生の意義」を達成して逝けるのだから。

読後感は、萩尾望都氏の「トーマの心臓」を読んだときに似ている。
出来れば萩尾氏に漫画化してほしいけれど、映画にもなっているし無理な話か。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.305
(4pt)

あきれるほど幸せな人生

幼い頃から手厚く「保護」され、
親のエゴの被害も受けず、純粋培養される提供者たち。
彼らは自分たちの使命を、幼い頃からたたき込まれる。
提供に相応しい身体を作るために若年同士の「セックス」も奨励される。

自分自身の「完了」に対する恐怖は、ない。

一定の年齢になると「提供」が始まり
介護人としての道も選べる。
芸術作品の創造により、提供を猶予されるかもしれないという希望が打ち砕かれても、
一瞬の絶望の後、穏やかにそれを受け入れる。
戦慄のストーリー?それは違う。

私たちは、むしろへールシャムの生徒たちに羨望を覚えるだろう。
彼らの,意義ある短い人生の何と輝いていることか。
目標もなく,寿命が終わるまで漂い続ける「普通の人生」のなんと残酷なことか。

私は断言する。
ヘールシャムの彼らは、この上なく「幸福」なのだと。
この世の誰もが決してたどり着けない
「生の意義」を達成して逝けるのだから。

読後感は、萩尾望都氏の「トーマの心臓」を読んだときに似ている。
出来れば萩尾氏に漫画化してほしいけれど、映画にもなっているし無理な話か。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.304
(5pt)

こころがプルプル

飛ばし読みしたけど、ラストらへんで心がプルプルふるえました。けど涙は出ない。ふしぎな読後感でした。 個人的に、トミーが「キャス、おれは介護人を替えようと思う」と言い出したところがシビレました。これぞデリカシーじゃないかと。 あと、トミーが「(フランクな)ルーシー先生が正しいと思う。(厳格な)エミリ先生じゃない」というとこは、非常に悩ましかった。そんな単純じゃないだろうというか。 ちなみに映画版は超駄作でした。製作費50億円で、興行収入が2億円というのが超納得。観客の女の子たちからはすすり泣きがきこえてきましたが、泣いてる意味がわかりませんでした。これは、僕の心がこわれてるせいかもしれません。というか途中で居眠りしたせいかもしれません。 主人公たちが生体移植用のクローンという設定は、すべてが経済原理で格付けされてしまう民衆のメタファーになっているようで、魂の自由の問題をあつかっているのかもな〜。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.303
(5pt)

切ない

読了した後、”切ない”という感情が胸にあふれてくるような小説。
最近”泣ける”というキャッチコピーが大流行りだが、泣くという単純で直接的で幼稚な感情に
うったえる安易な小説に辟易している人にこそおすすめ。
切ないという感情は泣けるよりもずっとはかなくて、もっと優しくて、より深く心にしみいるものだと思う。
こんな小説はめったに出会えるものではない。

いくつかのレビューを読むと、この小説の特異な世界設定や、物語における謎にとらわれている人が多いようだが、
この小説は決してSFでもミステリーでもなく、純粋な青春小説である。
SF的な要素やミステリー的な要素があったとしても、それは子どもから大人になるという青春時代にだれもが感じる切なさを
表現するために必要な設定にすぎない。
フィクションとしての設定を最大限に活用することにより、現実よりもリアルな感情を読者の心に
生み出すことに成功しているこの小説こそ、まさに本当の小説というものだろう。






わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.302
(5pt)

こころがプルプル

飛ばし読みしたけど、ラストらへんで心がプルプルふるえました。けど涙は出ない。ふしぎな読後感でした。 個人的に、トミーが「キャス、おれは介護人を替えようと思う」と言い出したところがシビレました。これぞデリカシーじゃないかと。 あと、トミーが「(フランクな)ルーシー先生が正しいと思う。(厳格な)エミリ先生じゃない」というとこは、非常に悩ましかった。そんな単純じゃないだろうというか。 ちなみに映画版は超駄作でした。製作費50億円で、興行収入が2億円というのが超納得。観客の女の子たちからはすすり泣きがきこえてきましたが、泣いてる意味がわかりませんでした。これは、僕の心がこわれてるせいかもしれません。というか途中で居眠りしたせいかもしれません。 主人公たちが生体移植用のクローンという設定は、すべてが経済原理で格付けされてしまう民衆のメタファーになっているようで、魂の自由の問題をあつかっているのかもな〜。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.301
(5pt)

切ない

読了した後、”切ない”という感情が胸にあふれてくるような小説。
最近”泣ける”というキャッチコピーが大流行りだが、泣くという単純で直接的で幼稚な感情に
うったえる安易な小説に辟易している人にこそおすすめ。
切ないという感情は泣けるよりもずっとはかなくて、もっと優しくて、より深く心にしみいるものだと思う。
こんな小説はめったに出会えるものではない。

いくつかのレビューを読むと、この小説の特異な世界設定や、物語における謎にとらわれている人が多いようだが、
この小説は決してSFでもミステリーでもなく、純粋な青春小説である。
SF的な要素やミステリー的な要素があったとしても、それは子どもから大人になるという青春時代にだれもが感じる切なさを
表現するために必要な設定にすぎない。
フィクションとしての設定を最大限に活用することにより、現実よりもリアルな感情を読者の心に
生み出すことに成功しているこの小説こそ、まさに本当の小説というものだろう。






わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.300
(3pt)

評価に悩む作品です

抑制の利いた筆致で、静かに高まっていく感動。心の微細なひだまで描きつくす巧みさ。キャシーをはじめとする登場人物たちの、あくまで端正なたたずまい。
一方で気になるのは、非現実的な設定、主人公たちが苛酷な運命をひたすら受容する不自然さです。

しかし、ストーリーは最初の淡々とした描写から、しだいに切迫感を帯びたものに変わっていきます。避けられない宿命が、すべてを支配するかのように。
おとなたちが子どもたちを保護するために隠している秘密、ひそやかに語られるほかない儚い望み、すがりつく気持ち。哀愁さえ湛えています。
エミリ先生(元主任保護官)の大審問官的告白は、苛酷な現実世界の比喩か。この不条理は、イシグロ氏によって今後追求されるのでしょうか。
回想の中のヘールシャムに、読者は自己の10代の学校生活を投影しているのかも知れません。

でも、やはり不自然な舞台設定は、私にとっては最後まで違和感を引きずる結果になりました。




わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.299
(3pt)

評価に悩む作品です

抑制の利いた筆致で、静かに高まっていく感動。心の微細なひだまで描きつくす巧みさ。キャシーをはじめとする登場人物たちの、あくまで端正なたたずまい。
一方で気になるのは、非現実的な設定、主人公たちが苛酷な運命をひたすら受容する不自然さです。

しかし、ストーリーは最初の淡々とした描写から、しだいに切迫感を帯びたものに変わっていきます。避けられない宿命が、すべてを支配するかのように。
おとなたちが子どもたちを保護するために隠している秘密、ひそやかに語られるほかない儚い望み、すがりつく気持ち。哀愁さえ湛えています。
エミリ先生(元主任保護官)の大審問官的告白は、苛酷な現実世界の比喩か。この不条理は、イシグロ氏によって今後追求されるのでしょうか。
回想の中のヘールシャムに、読者は自己の10代の学校生活を投影しているのかも知れません。

でも、やはり不自然な舞台設定は、私にとっては最後まで違和感を引きずる結果になりました。




わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.298
(3pt)

クローンにとって死は安らぎである

奇妙な味の小説と呼ぶには思いが深い。長広舌のネタバレがあるのはミステリーっぽい。
設定に破綻要素が多すぎるのはSF小説のようでもある。男女間の真の愛もテーマのひとつ
であるのはおとぎ話とも言える。どこから突っ込まれても平均点を失わない作品である。

翻訳は昭和の香りがする。販売会みたいな訳語に最後まで違和感を感じた。ですます体がやや
ウザく感じるのは日本語の限界を思わせてしまう。否定疑問文に首を振って応えては直訳ミスだろう。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.297
(3pt)

クローンにとって死は安らぎである

奇妙な味の小説と呼ぶには思いが深い。長広舌のネタバレがあるのはミステリーっぽい。
設定に破綻要素が多すぎるのはSF小説のようでもある。男女間の真の愛もテーマのひとつ
であるのはおとぎ話とも言える。どこから突っ込まれても平均点を失わない作品である。

翻訳は昭和の香りがする。販売会みたいな訳語に最後まで違和感を感じた。ですます体がやや
ウザく感じるのは日本語の限界を思わせてしまう。否定疑問文に首を振って応えては直訳ミスだろう。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.296
(5pt)

カズオイシグロがあぶり出す人間像

読みながら背筋が寒くなるほどの戦慄を覚えた。本書のタイトルが示す情感と、カズオイシグロの代表作『日の名残り』のレトロロマンな読後感から、同様の期待を持って読み始めたのだが、まるで違った現代版ホラーだった。SFといえば近未来を扱ったものがほとんどだが、この小説の舞台は1990年代という同時代である
 臓器移植を扱った小説や映画には、テオ・アンゲロプロス監督の『一日と永遠』や日本にも梁石日の『闇の子供達』といった秀作が存在するが、臓器提供者は他者化されており、彼等を巡る人物たちのヒューマニティーが課題だった。これらとは違って、この物語は提供者の一人称の語りで展開される。主人公のキャシー・Hの他人を思いやる優しさに感情移入すればするほど、我々の常識はひっくり返って、この世界の狂いようが剥きだしになる。
 もちろん現実にこんなことが起きているはずはない。作者の度を超した妄想と笑い飛ばすことは可能である。だが人間が人間以下の人間を作り出してきた歴史は否定しようがない。古代ギリシャでは奴隷は人間ではなく「労働する動物」(ハンナ・アレント)だったし、コロンブスが新大陸を「発見」した時、先住民のインディオたちが人間かどうかで困惑し、彼等はキリスト教徒でないから人間ではないと結論した(ツベタン・トドロフ)。近世に至ってもアメリカでは黒人が人間以下であることを「科学的」に証明しようとして躍起になっていた(S・J・グールド)。
奴隷と黒人が人間に「昇格」した後、苦役労働をロボットに肩代わりさせようとの期待が始まったが、何万もの精巧な部品を組み合わせて知能を有するアンドロイドを組み立てるより、クローンを作る方が易しいという風に技術開発の方向が変わって来ている。クローンにはこれに加えて人間に臓器を提供するという新しい役割が担わせられ得る。現在のところは人間のクローンを作ることは人道にもとるとして禁じられているが、増加する臓器需要を満たすことは緊急の課題でもあり、古典的な倫理観がどこまでこれに耐えられるかどうかは甚だ心許ないのである.こう考えると、カズオイシグロの想像力は豊かであっても荒唐無稽ではない。
 アシモフが唱えるロボットの3原則−人間に危害を加えない、人間の命令に服従する、自分の身体を守る−にクローン人間がぴったり当てはまってしまうのにも驚く。見方を変えれば、この原則はロボットのみならず人間にも当てはまり、上層階級が下層階級に望む、偏見剥きだしの勝手な理想像に過ぎない。この原則を、将来クローンは「人間でない」とする解釈に役立たせてはならないのである。
 クローン人間を人間以下とすることは、原理上古代奴隷を、アメリカ先住民を、黒人を人間以下とした発想と変わるところがない。作中のクローン人間の「細部まで抑制が利いた」(柴田元幸)悲しみからあぶり出されているのは、ヘイルシャムの「進歩的」な教育者が証明しようとしたクローン人間に魂があるかないかではなく、人間の側に魂が有るか無いかという問題なのである。2011年の現在に、これを馬鹿馬鹿しい小説だと言って顔をしかめることは出来ても、2025年に同じように顔をしかめることが出来るかどうか、筆者には全く自信がない

わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.295
(5pt)

カズオイシグロがあぶり出す人間像

読みながら背筋が寒くなるほどの戦慄を覚えた。本書のタイトルが示す情感と、カズオイシグロの代表作『日の名残り』のレトロロマンな読後感から、同様の期待を持って読み始めたのだが、まるで違った現代版ホラーだった。SFといえば近未来を扱ったものがほとんどだが、この小説の舞台は1990年代という同時代である
 臓器移植を扱った小説や映画には、テオ・アンゲロプロス監督の『一日と永遠』や日本にも梁石日の『闇の子供達』といった秀作が存在するが、臓器提供者は他者化されており、彼等を巡る人物たちのヒューマニティーが課題だった。これらとは違って、この物語は提供者の一人称の語りで展開される。主人公のキャシー・Hの他人を思いやる優しさに感情移入すればするほど、我々の常識はひっくり返って、この世界の狂いようが剥きだしになる。
 もちろん現実にこんなことが起きているはずはない。作者の度を超した妄想と笑い飛ばすことは可能である。だが人間が人間以下の人間を作り出してきた歴史は否定しようがない。古代ギリシャでは奴隷は人間ではなく「労働する動物」(ハンナ・アレント)だったし、コロンブスが新大陸を「発見」した時、先住民のインディオたちが人間かどうかで困惑し、彼等はキリスト教徒でないから人間ではないと結論した(ツベタン・トドロフ)。近世に至ってもアメリカでは黒人が人間以下であることを「科学的」に証明しようとして躍起になっていた(S・J・グールド)。
奴隷と黒人が人間に「昇格」した後、苦役労働をロボットに肩代わりさせようとの期待が始まったが、何万もの精巧な部品を組み合わせて知能を有するアンドロイドを組み立てるより、クローンを作る方が易しいという風に技術開発の方向が変わって来ている。クローンにはこれに加えて人間に臓器を提供するという新しい役割が担わせられ得る。現在のところは人間のクローンを作ることは人道にもとるとして禁じられているが、増加する臓器需要を満たすことは緊急の課題でもあり、古典的な倫理観がどこまでこれに耐えられるかどうかは甚だ心許ないのである.こう考えると、カズオイシグロの想像力は豊かであっても荒唐無稽ではない。
 アシモフが唱えるロボットの3原則−人間に危害を加えない、人間の命令に服従する、自分の身体を守る−にクローン人間がぴったり当てはまってしまうのにも驚く。見方を変えれば、この原則はロボットのみならず人間にも当てはまり、上層階級が下層階級に望む、偏見剥きだしの勝手な理想像に過ぎない。この原則を、将来クローンは「人間でない」とする解釈に役立たせてはならないのである。
 クローン人間を人間以下とすることは、原理上古代奴隷を、アメリカ先住民を、黒人を人間以下とした発想と変わるところがない。作中のクローン人間の「細部まで抑制が利いた」(柴田元幸)悲しみからあぶり出されているのは、ヘイルシャムの「進歩的」な教育者が証明しようとしたクローン人間に魂があるかないかではなく、人間の側に魂が有るか無いかという問題なのである。2011年の現在に、これを馬鹿馬鹿しい小説だと言って顔をしかめることは出来ても、2025年に同じように顔をしかめることが出来るかどうか、筆者には全く自信がない

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.294
(3pt)

レビューをみて購入しました

課せられた過酷な使命を、彼らは比較的自然に受け入れているように感じました。そういう教育を受けてきたからなのでしょうけど、それでも静かすぎるような気がします。普通の人間は、ぎりぎりまであがくものではないのでしょうか。自分たちの運命をもっと理不尽に思ってもいいように思います。あまりに淡々としていて、生に対する執着が希薄というか、私にはその辺りが不自然に感じられ、最後まで描かれている世界に入り込むことができませんでした。あと、学園生活での日常をそこまで描く必要があるのかなとも。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.293
(3pt)

レビューをみて購入しました

課せられた過酷な使命を、彼らは比較的自然に受け入れているように感じました。そういう教育を受けてきたからなのでしょうけど、それでも静かすぎるような気がします。普通の人間は、ぎりぎりまであがくものではないのでしょうか。自分たちの運命をもっと理不尽に思ってもいいように思います。あまりに淡々としていて、生に対する執着が希薄というか、私にはその辺りが不自然に感じられ、最後まで描かれている世界に入り込むことができませんでした。あと、学園生活での日常をそこまで描く必要があるのかなとも。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.292
(5pt)

カバーが巧い

1ページ目から抵抗なく作品の世界に入れて一気に読了。作者と翻訳者の文章にとても魅力があった。
話の設定は突飛ではなかったと思うが、最初に大きい秘密を知るところまでは読むのを急いた。途中、幾度か(漫画で)数作品を思い浮かべる。
主人公の一見冷静な語り口は感情の起伏を感じさせないようでいて、登場人物の置かれた状況に思い入れが入って読めると訴求力が強く在るだろう、不思議な雰囲気をもった大変素敵な作品でした。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.291
(5pt)

カバーが巧い

1ページ目から抵抗なく作品の世界に入れて一気に読了。作者と翻訳者の文章にとても魅力があった。
話の設定は突飛ではなかったと思うが、最初に大きい秘密を知るところまでは読むのを急いた。途中、幾度か(漫画で)数作品を思い浮かべる。
主人公の一見冷静な語り口は感情の起伏を感じさせないようでいて、登場人物の置かれた状況に思い入れが入って読めると訴求力が強く在るだろう、不思議な雰囲気をもった大変素敵な作品でした。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517